電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山本一力『損料屋喜八郎始末控え』を読む

2017年10月29日 06時04分48秒 | 読書
文春文庫で、山本一力著『損料屋喜八郎始末控え』を読みました。著者の作品は、現在『ジョン・マン』をシリーズで読んでいる最中で、完結が楽しみなところですが、本書はどうか? 文庫の紹介には、

上司の不始末の責めを負って同心の職を辞し、刀を捨てた喜八郎。庶民相手に鍋釜や小銭を貸す損料屋に身をやつし、与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせ、巨利を貪る札差たちと渡り合う。田沼バブルのはじけた江戸で繰り広げられる息詰まる頭脳戦。時代小説に新風を吹き込んだデビュー作。

とあります。ずいぶんしっかりしたデビュー作だなあと感じます。現代は、作家デビューの関門はだいぶ高いレベルなのでしょう。

第1話:「万両駕籠」。深川富岡八幡宮の例祭があいにくの雨降りで、江戸屋の二階座敷では札差の笠倉屋が金にまかせて無粋を通そうとすると、深川っ子の鳶の親方が筋を通して拒否、江戸屋の女将・秀弥もそれを支持します。公金である小判に私的な刻印を打つという一部札差の横暴な振舞いに怒った幕府は、棄損令を出して御家人の借金を帳消しにしますが、札差も黙ってはいません。激しい貸し渋りが発生します。なんだか以前どこかで聞いたような話ですが、札差米屋のダメな跡取り政八と、先代に頼まれて幕引きを図る損料屋の喜八郎、北町奉行所の上席与力・秋山久蔵など、主な登場人物の顔見せシーンでしょう。

第2話:「騙り御前」。棄損令で貸金を「チャラにされ」てしまった札差たちはおさまりません。実力者である伊勢屋は、役者を公家に化けさせて、秋山与力ら幕府側に一矢を報い、あわよくば失脚させようと画策します。喜八郎は、この計画を察知し、政八に言い含めて江戸屋の離れの座敷でからくりを暴露します。伊勢屋は、またしても喜八郎にしてやられます。

第3話:「いわし祝言」。こんどは江戸屋の板長・清次郎が祝言間近というのにゴロツキ連に脅されているという一件の解決にあたる喜八郎らの活躍です。どうも江戸屋の女将・秀弥さんは、喜八郎の渋さにぞっこんのようですね~(^o^)/
音楽で言えば第三楽章スケルツォ、または起承転結の「転」でしょうか。軽みを持たせた人情話という風情です。

第4話:「吹かずとも」。笠倉屋が資金繰りに困って考えたのが、大判を使った贋金詐欺です。ただし、普通のやり方では伊勢屋を騙すことはできません。小悪党が大悪党を頼ったら、それはカモにされるということでしょう。秋山与力の娘も、どうも喜八郎に少々気があるみたい。作者は、時代劇の定番、三角関係のやきもきをねらっているのでしょうか(^o^)/



「損料屋喜八郎」ものは、どうやらこの後もシリーズが続くようです。『赤絵の桜』『粗茶を一服』と文庫になっているらしい。なかなかおもしろいです。探してみましょう。
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