電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

池井戸潤『オレたち花のバブル組』を読む

2015年10月03日 06時01分59秒 | 読書
文春文庫で、池井戸潤著『オレたち花のバブル組』を読みました。『オレたちバブル入行組』に続く、いわゆる「半沢直樹」シリーズ第二作です。前作が銀行内部の融資の問題だったのに対し、今回の相手は金融庁の名うての検査官、というところが違います。

第1章:「銀行入れ子構造」
東京第一銀行の融資先である伊勢島ホテルは、世界的ホテルチェーンの一つ、フォスター・グループが着目する老舗ホテルですが、羽根専務が主導した資金運用の失敗で大きな損失が発生してしまいます。東京第一銀行では、本店法人部の時枝孝弘が担当を引き継いだばかりでしたが、前担当の京橋支店・古里課長代理は、そうした情報を全く伝えていませんでした。頭取の中野渡の命令により、営業第二部の半沢直樹が伊勢島ホテルを担当することになります。予定された金融庁の検査も、伊勢島ホテルの問題が大きいみたい。

第2章:「精神のコールタールな部分」
半沢や渡真利らと同期の近藤直弼は、以前、統合失調症で一年間休職した経歴が響き、現在はタミヤ電機に出向しています。ところが、社長の田宮基紀にしろ経理担当の野田英幸課長にしろ、近藤を認めず、ないがしろにするばかり。それでいて、東京第一支店から融資話をまとめるように催促していますが、支店の古里課長代理は引き延ばすばかりで、稟議を上げようとしません。

第3章:「金融庁検査対象」
半沢は、伊勢島ホテルの社長・湯浅威に会います。実は湯浅社長は、若き日の修行時代に半沢直樹の仕事ぶりを見ていて高く評価し、担当に彼を担当に指名し依頼したのでした。半沢は、伊勢島ホテルの再建の可能性は高いことを確信します。同時に、運用失敗の責任をかぶって子会社に出た経理の戸越茂則から話を聞き、自行の京橋支店の古里に対する疑いを深め、その上司の関与を証明する書類を入手します。

第4章:「金融庁の嫌な奴」
一方、金融庁の検査の方は、黒崎駿一検査官を中心に、異例のやり方で進みます。伊勢島ホテルの評価に感して、金融庁側はシステム開発を担当するナルセンという企業が破綻する見通しであることを理由に攻め込みますが、担当する半沢次長は堂々と論陣を張って応戦します。しかし、大和田常務と業務統括部長の岸川に呼ばれた半沢は、金融庁の検査の対応を叱責されます。それだけでなく、大和田常務は伊勢島ホテルの湯浅社長の引退を条件に、ナルセンの救済買収を持ちかけます。しかし半沢らは、反社会的勢力との関わりを理由にナルセン買収が不可能であると指摘します。窮地に立つ湯浅社長に半沢が示した案は、フォスターの資本受け入れでした。

第5章:「カレンダーと柱の釘」
近藤の調査は、タミヤ電機が東京中央銀行の京橋支店から「ラファイエット」というブティックに資金を転貸している事実をつかみます。粉飾決算、資金転貸など、ラミヤ電機の不正オンパレードの背景に居たのは、思いがけないというか案の定というか、「あの人」でした(^o^)/
銀行に戻れるという出向組と違って、カレンダーを掛ける柱の釘にすぎないと嘆く野田の姿に、近藤は襟を正す気持ちで向かいます。

第6章:「モアイの見た花」、第7章:「検査官と秘密の部屋」
金融庁の黒崎検査官との対決は、シリアスに、かつ重苦しく準備されていきます。まるでハリー・ポッターの題名のような章は、スーパー銀行マン半沢直樹も持て余す妻の花子サンの出番も作らないと、という作者のサービスでしょうか。どこかユーモラスなストーリーは、本作の山場の一つで、緊張と弛緩の原則に忠実な、なかなか笑える解決でした(^o^)/

第8章:「ディープスロートの憂鬱」
金融庁の検査はなんとかクリアしたものの、組織内部のケジメの付け方が残る課題です。せっかくの結末は内緒にしておきますが、このあたり、組織のトップがまともだったから良かったけれど、そうでなかったら身も蓋もない結末になったことでしょう、とだけ記しておきましょう。



「半沢直樹」シリーズの面白さは、銀行や企業の内情に通じた作者の、リアリティにあることは間違いありませんが、また見方を変えると、戦国時代の武将ものに通じる点があるように思います。陰謀と策謀、恫喝と懐柔と志操など、いろいろアリです。宰相と重臣と君主の関係に通じる面もあり、逆に戦国武将モノが現代の企業や役所における関係を反映させた物語として作られていることを示すのかも。

近藤直弼が一年間休職した統合失調症という病気は、脳内の神経伝達物質の分泌の変調が原因であるとすれば、いわばインスリンの分泌異常を原因とする糖尿病に喩えることもできるかと思います。であれば、はたしてこれほど見事に「治る」ものだろうかという疑問も残りますが、まあそこはツッコミどころではないのでしょう。



まあ、人畜無害を標榜する当方は、こういうテンヤワンヤの大騒動の渦中に巻き込まれないように祈るばかりです(^o^)/
面白い小説を読み終え、アップルパイで熱いコーヒーを飲むひとときの落ち着いた幸せは、実にかけがえのないものです。

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