電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮部みゆき『龍は眠る』を読む

2014年07月10日 06時02分19秒 | 読書
新潮文庫で、宮部みゆき著『龍は眠る』を読みました。しばらくぶりの宮部みゆき作品です。奥付を見ると、平成13年の第29刷。本文529ページの長編です。

第1章:「遭遇」。台風の夜に、雑誌の記者である高坂昭吾は、どしゃ降りの雨の中で車を走らせているときに、稲村慎司という高校生を拾います。視界がほとんどきかない道路で、タイヤが開いていたマンホールのふたに乗り上げ、事件に気づきます。七歳の男の子が猫を探しに雨の中を外に出て、マンホールに落ちたらしい。慎司は赤いポルシェの二人組の男がふたを開けたと言います。事実、赤いポルシェはあり、若い男たちはその道路を通っていました。

第2章:「波紋」。稲村慎司という少年は、ほんとうにサイキックなのか?新たに登場した織田直也という青年は、全部トリックだと言って否定します。それはそれで説得力があり、高坂は心情的には信じがたいが、理性的には超能力を否定するほうに揺らぎます。

第3章:「過去」。サイキックかどうかに関わらず、過去は変えられません。高坂は織田直也を探り、稲村慎司の親と会います。並行して、高坂への不審な郵便物と脅迫電話が会社の方へ来たために、高坂自身の過去も明らかにされます。織田直也の連絡先に電話をしたところ、アパートで電話に出たのは、言葉を話すことができない、若い女性でした。

第4章:「予兆」。織田直也と親しくしていた若い女性は三村七恵といい、手話のできない高坂とは筆談でやりとりをします。姿を隠した直也の手がかりを探すため、高坂は三村七恵のアパートの前で張り込みをしますが、逆に別の男に高坂が見張られていることが判明します。会社の同僚の生駒悟郎とともに、高坂の昔の交際相手で婚約者だった小枝子と結婚している、夫の川崎明夫宅を訪ねます。応対したのは、川崎とその秘書の三宅令子でした。川崎は、小枝子の父親の勤めていた私立高校の理事長の息子で、次期理事長が約束されている立場です。小枝子は妊娠しているといいますが、生駒は川崎と秘書の三宅がただならぬ関係にあることを見抜きます。ふーむ、この時点で筋書きが読めたように思いましたが、それとサイキックの話とがどうつながるのか?

第5章:「暗転」。台風の路上でマンホールのふたを開け放して放置した二人組のうち一人が自殺します。関わった高坂と慎司には真相がわかっていますが、後味の良いものではありません。三村七恵が会社に訪ねてきて以来、高坂に熱をあげている若い佳奈子チャンは嫉妬していますし、脅迫電話は「あと一週間」と期限を切りました。そして六日目には、超能力者の協力で事件を解決したことがあるという元刑事を稲村慎司に会わせてみたいと考えますが、その慎司が怪我をして病院に運ばれたという知らせが入ります。だいぶ重傷でした。集中治療室の前に集まった関係者のところへ、織田直也がやってきます。彼には、事件の全貌が見えているようです。

第6章:「事件」。せっかくのミステリーですので、あらすじを追うのはここまでとしましょう。なるほど、サイキックの少年=他人の心の中が読めてしまう少年にとっては、世の中は生きにくいことでしょう。主人公の雑誌記者・高坂昭吾と三村七恵がめぐり合ういきさつは、サイキックの織田直也でさえも読めなかったのでしょうか(^o^)/



なかなかおもしろかった。なるほど、そうきたか!という感じでした。

昔話に「ききみみずきん」というのがありますが、こうした特殊な能力は、悪党には便利このうえないものかもしれませんが、善人には便利そうに見えて案外に不都合なものだ、という点では共通の認識でしょう。

ところで、他人の心の暗部を覗いて世の中がいやになる前に、男の子が自分の心の深奥部を覗いていやになるほうが先じゃないかと思うのですが、違うのかな? まあ、それでは私小説になってしまって、ミステリーにはならない、と言われればそれまでですが(^o^)/

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