電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』を読む

2012年09月14日 06時02分40秒 | 読書
文藝春秋社から2009年に刊行された単行本で、小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』を読みました。リトル・アリョーヒンと呼ばれる少年の生い立ちから、チェスの広大な世界で美しい棋譜を残すプレーヤーとして成長し、不慮の事故で亡くなってしまうまでの短い人生を描く物語です。

主人公の少年は、唇がくっついたまま誕生しただけでなく、その成育の過程で、大きくなることは悲劇の始まりだという抜き難い観念を身につけてしまいます。チェスのやり方もいっぷう変わっていて、チェス盤の下にもぐりこんでゲームをするというものです。チェスの腕前は素晴らしいのに、この習性のために、からくり人形の中でチェスの対戦を行うことを常とし、ひそかな名声を得ますが、胴元はかなりいかがわしい人物のようで、せっかく仲良くなった少女を、生贄として与えてしまう結果になるのです。

これをきっかけに、少年はチェス・クラブを去り、元チェス・プレーヤーたちが老後を送る老人ホームで、夜間に限り、人形が対戦相手となる、すなわち少年リトル・アリョーヒンが人形にもぐりこみ、対戦するようになります。



『博士の愛した数式』の作者らしい、風変わりなイメージが広がる、ちょっと重苦しい雰囲気の物語です。私はチェスのルールなど皆目わかりませんし、棋譜の美しさなどと言われても想像もつきません。楽譜がいかに美しく印刷されていても、実際に音にならなければ手も足もでない素人音楽愛好家です。チェスの棋譜を読んでうーむとうなるような達人・名人の世界を想像するのはちょいと現実感がありません。現代の作家は、どうして常ならざる者に重荷を課し、物語を作ろうとするのか、むしろそのへんに疑問を感じてしまいます。





アホ猫よ、お前もそう思うだろ?
「うーん、そうよね~、猫の名前がポーンだそうだけど、なんかアタシ的には、わりと好みの名前だわね~。」

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