電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『遠霞ノ峠~居眠り磐音江戸双紙(9)』を読む

2008年12月02日 06時53分07秒 | -佐伯泰英
豊後関前藩の物産プロジェクトの行方に、NHKの「プロジェクトX」的な興味を持ち、前々作の「おこん、ついに告白!」に対応して奈緒にバランスを戻す、思わせぶりな話がくるのでは、と予想したのでしたが、第8巻ではちらりと伏線を見せただけで終わっておりました。佐伯泰英著『居眠り磐音江戸双紙』シリーズ、今回の第9巻『遠霞ノ峠』では、案の定、吉原を舞台に白鶴太夫が登場しますが、それよりも深川周辺のエピソードと関前藩物産プロジェクトの姿がようやく見えてきます。
第1章「望春亀戸天神」。うららかな春のお彼岸、江戸33観音第30番札所・普門院に、今津屋吉右衛門の代参に出向いたおこんと宮松、そして用心棒の坂崎磐音が小吉に白鶴太夫の噂話を聞きます。深川に戻り、幸吉がうなぎ宮戸川に奉公に入るのに立ち合い、関前藩の若い藩士二人に宮戸川の鰻をおごっていると、幸吉が釣銭詐欺にあってしまいます。神田三崎町の佐々木道場でも、菓子屋奉公中の娘が釣銭詐欺にあい、神田川に身を投げる騒ぎが。血気盛んな幸吉は自分で詐欺漢を見つけると奉公先を飛び出します。奉公ってぇものがわかっていない子どもなんですね。
第2章「仲ノ町道中桜」。浮世絵師・北尾重政の描く白鶴太夫の絵姿に心を動かされつつ、磐音は豊後関前藩の物産プロジェクトの成果を満載した借り上げ弁才船・正徳丸の到着を待ちますが、若狭屋の番頭から、先着の他の船が嵐に遭い、荷投げをしてようやくたどり着いたことを知らされ、若い藩士の伝之丈と秦之助とともに不安を覚えます。このあたり、はらはらさせるのも作者の腕でしょう。加えて、奈緒にこだわる磐音を、おこんがじれったく思う場面もあり、吉原の太夫の人気投票などはどうも興味感心が持てません。それより何より、船です。無事到着の中居半蔵を待ち伏せた刺客の存在など、豊後関前藩の前途はまだまだ多難なようです。
第3章「春霞秩父街道」。幸吉・おそめの件で借りのある金貸し兼やくざの権造一家の借金取りの用心棒に、品川柳次郎と一緒に青梅街道を秩父に向かいます。強面の借金取り話もあれば、なんと女衒の用心棒まであるらしい。作者は貧乏イコール身売りと判で押したように物語を進めます。いやはや!やっぱり講談調です。しかも、田舎娘たちは都会に憧れて身売りも平気というのですから、なんとものどかというか無神経と言うか。田舎暮らしで娘の父親の立場では、この想定はいささかむかっ腹が立ちます(^o^)/
第4章「星明芝門前町」。早足の仁助の情報では、江戸家老の福坂利高と横目の尾口小助なる有能だが得体の知れない男がつながっているとのこと。藩が借り上げた正徳丸は大きな利潤をあげますが、帰り船が空では商売になりません。白鶴太夫に十八大通とは、次章の登場人物の地ならしでしょう。宮戸川の鰻の白焼きを手に提げて藩下屋敷に向かうと藩主夫妻が歓待してくれる坂崎磐音さん、帰途、物産所の実権を持つ中居半蔵への再度の襲撃を防ぎきります。
第5章「八丁堀三方陣」。お初にお目にかかります、新たな登場人物です。江戸城奥医師、桂川国端という蘭方医が、十八大通の一人と判明、杉田玄白・前野良沢らとともに『解体新書』の翻訳にも関わった人物とのこと。宮戸川で鰻を食す国端、中川淳庵、磐音の三者は、さしずめビジネス界の異業種交流でしょうか。ついに謎の男・尾口小助が登場、忍びの術を心得る早足の仁助が斬られるほどの腕前は誰か。やはり案の定でした。それはともかく、磐音の妹の伊代が嫁いだ義弟の源太郎も、人柄が良さそうで、何よりです。

豊後関前藩の物産プロジェクトの動向は、なかなか面白い。奥州屋の古着を積んで帰り荷とするなど、たいへん都合良く進んでおります。仕事もこううまくいくと、苦労はないのでしょうが(^o^)/
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