厳選!ビジネス書 今年の200冊

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今年216冊目『民法改正』

2011-12-19 09:34:18 | おすすめビジネス書
民法改正: 契約のルールが百年ぶりに変わる (ちくま新書) 民法改正: 契約のルールが百年ぶりに変わる (ちくま新書)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2011-10-05

評価  (3点/5点満点)

元東大法学部教授で、現在は法務省の経済関係民刑基本整備推進本部で参与を務めている内田貴さんが、契約法を中心とした民法の改正について、どのような改正が想定されているのか、その必要性はどこにあるのかを、できるだけ法律の専門知識がなくても理解できるように、解説しています。

1896(明治29)年の制定以来100年以上が経っている日本の民法を、世界の動きに合わせ、透明性の高い現代的民法に作り替えることは、もはや避けることができません。しかし、われわれの日常生活や経済活動に密接にかかわるこの民法が変わろうとしているのに、一般の国民に必ずしも十分知られていないのは、非常に残念なことです。本書の主旨は、まさにここにあります。

「国民の生活に一番密着した法典である民法典に何が書いてあるのかわからないし、大事なことは書いていない。知りたければ弁護士や司法書士など法律専門家のところへ行きなさい、というようなことはもはや通用しないだろう。ルールがあるのになぜ法律にきちんと書いていないのかと思う国民がどんどん増えていく。そういう新しい法意識に対応できるような、国民のための民法が、いまや求められているのです。」(P.110)

具体的な改正の詳細は本書に譲りますが、民法が私たちの生活や仕事に深く関わっていることを知る意味で、一般のビジネスマンも押さえておいてほしい内容です。

【my pick-up】

◎自然災害と契約法

たとえば、次のような事例について、解決の指針を民法が用意しておく必要はないのでしょうか。

例1:建設途中の建築物が想定外の大震災で崩壊し、契約どおりの対価で工事を継続することが、請負人にあまりに過大な損失を強いることになるとき、どうすればよいか?

例2:保育園を開園する目的で建物の賃貸借契約を結んだが、直後に原子力発電所で予想もしなかった事故が発生し、当該地域が緊急時避難準備区域に指定された結果、開園が事実上困難になったとき、賃貸借契約はどうなるのか?

もちろん、日本の歴史を振り返れば、地域を壊滅させるような大震災がありうることは誰もが知らないわけではありませんし、原子力発電所が存在する以上、事故が起きうることは想像できないことではありません。しかし、たとえそのような事変が日本では稀ではないとしても、ある特定の人に降りかかる蓋然性がきわめて小さいのも事実ですから、それが起きた場合の処理についていちいち契約締結の際に合意しておくというのは、それ自体あまりにコストが高く、とうてい経済合理的な行動とはいえません。そこで、個々の当事者にとってはきわめて例外的であっても日本という一国単位で見ると決して稀とは言えない事態が、現実に起きた場合の処理の指針を、民法に定めておくことは十分理由のあることであるように思えます。

◎新成長戦略と契約法

民主党は、2010年に発表した新成長戦略の中で、「切れ目ないアジア市場の創出」をうたっています。この政策的方向は、もはや一つの党の政策を超えた普遍性を有しているというべきでしょう。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が近い将来実を結ぶかどうかを問わず、アジア、ないし東アジアに、国境を越えた市場が形成させる方向に進んでいくことは確実です。そして、市場が関税障壁、非関税障壁を除去して拡大していけば、これまでの歴史を見ても、必ず次の段階で、契約法の統一ないし内容的な共通化が求められます。

アジアの国々が、次々と21世紀型民法へと転換していく中で、19世紀末にヨーロッパの民法を継受し、以来自前で運用してきた最も長い経験を持つ日本が、「解釈で回っているから改正の必要がない」という内向き指向では、今後のあるべき契約法についての国際的なフォーラムにおいて、何らの役割も演ずることができません。

日本が改正をせず、あるいは最小限の改正にとどまるなら、いずれ、日本の外で契約法のグローバル・スタンダードが形成されるでしょう。そのときになって、日本はこういう内容にしたいと主張しても、もはや手遅れです。あとはグローバル・スタンダードを受け入れるか否かの選択しか残されていません。ちょうど、国際会計基準(IFRS)をめぐる近年の状況と似ています。

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