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(4点/5点満点)
本書を読むと、これからの時代のCFOには、経理・財務担当役員としての役割だけでなく、企業成長のエンジンも務めることが求められることが分かります。
・投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダーに対しては、会社を代表して深いつながりをもった対話を行う。
・社内に対しては、投資家や地域社会など、様々なステークホルダーの要望を社員にも分かるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するように組織に影響を与えて行動を促す。
日本経済や日本企業に「欠落」している最大のものは、技術でも人材でもなく、経営者のアニマルスピリッツであるという主張はたしかにと思います。
経営者の1人であるCFOが、冷徹な計算と非合理なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなること、すなわち「CFO思考」に基づいて行動することで、企業はパーパス(存在意義)の実現に近づくことができるでしょう。
【my pick-up】
◎管理会計の分析結果を「企業価値向上」につなげる
社歴が長い会社のCFOには、過去に決めた「管理会計」のルールやセグメントの分け方が現時点での会社の実情に合っているか、つまりレントゲンの解像度やピントは適切かを見直すことが求められます。管理会計を長く使ってきた会社ほど、予算策定の手順や部門別の費用分担割合などは固定化し、たとえそれが実態に合わなくなりつつあっても、変えることには相応の抵抗や軋轢が生じます。しかし、時として勇気をもってルールを改変することも必要です。
◎CFOはCEOと並ぶ共同経営者である
IRで投資家と面談する日本企業の経営者は、呼称がCFOであろうと経理・財務担当役員であろうと、自社に関する質問について「それはちょっとわからない」とか「自分の管轄外」と思っても、そう発言することは許されません。そして、社内では「自分は経理・財務担当役員にすぎないけれども、経営戦略や人的資本経営やサステナビリティ・気候変動などについて、対外的に語る義務と責任がある」と主張し、投資家から得た反論や意見を社内にフィードバックするなど、それらの議論に積極的に加わり、知見を身につける必要があります。社内と社外の結節点に立って、双方に刺激を与えることで企業価値向上に貢献するんだ、という熱量がCFOには必要です。
◎業態転換よりも市場からの退出を求める海外投資家
会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。「複数の事業を持つのは好ましくない。企業の中でポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。」業態転換に成功した富士フイルムは例外であって、多くの場合、主力事業が衰退する企業は早く見切りをつけて、経済資本(現預金)や人的資本(技術者や従業員)を市場に開放したほうがよい。日本の上場企業の半数がPBR1倍割れと株価が低迷している理由のひとつに、「コングロマリット・ディスカウント」状態にあることが挙げられます。米国のバリューアクトは、セブン&アイ・ホールディングスに対して、コンビニ事業に集中するか、コンビニ事業を独立させればその価値は倍にもあるであろうと主張しています。また、キリンホールディングスがファンケル買収などによりビール事業中心から多角化しようとする戦略に投資ファンドが異論を唱えています。こうした主張に唯一勝つ道は、それそれの事業価値が市場にきちんと反映され、事業間の相乗効果も含めて、コングロマリットならではの付加価値「コングロマリット・プレミアム」を生む状態にまで持っていくことです。これに成功したのがソニーグループです。半導体事業は好調で、ゲームや映画が大幅減益のなか、ソニーグループ全体の利益を支えています。