駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『あなたの初恋探します』

2022年04月09日 | 観劇記/タイトルあ行
 浅草九劇、2022年4月7日19時。

 何をやってもついておらず、とうとう会社をクビになり、一念発起で初恋の相手を探す「初恋探し株式会社」を立ち上げた青年(この日は佐奈宏紀)。その会社にやってきた第一号の客は、こちらもまた会社を辞め岐路に立つ女性(この日は愛加あゆ)。初恋を忘れられないという彼女だが、相手の手がかりはキム・ジョンウクという名前だけで…
 脚本・作詞/チャン・ユジョン、作曲/キム・ヘスン。演出/豊田めぐみ、上演台本・訳詞/藤倉梓、音楽監督/堀倉彰、振付/港ゆりか。2006年韓国初演、原題は『キム・ジョンウク探し』。2016年の日本初演もこのタイトルだった。17年、18年にも上演。全1幕。

 以前のバージョンとは青年の名前も女性の名前も何故か違っているんですね。でも、ふたり以外の20ほどの役すべてを演じるマルチマン(平野良)との3人芝居、というのは同じです。いかにもテハンノ・ミュージカルという感じの作品でした。
 キム・ジョンウクというのはいうなれば山田太郎みたいな、ごく一般的な男性名、というイメージのものだそうです。
 ミュージカルとしてはとにかくマルチマンの存在と3人でやるミニマムな芝居、ということに意義がある作品だと思います。ユナが何故キム・ジョンウクの身分証を持っていたのかとか、そこからどう再会の運びになったのかとか、お話としては細かいところがよくわからなかったりもしたのですが、そのあたりはスルーとされているようだったので。要するに運命的な初恋なるものにこだわっていたユナだけれど、実はビョンソンとも過去に出会っていた運命の相手だったんだよ…ってのがミソなんでしょうけれど(そしてジョンウクとビョンソンを同じ役者が演じている)、まあ韓ドラあるあるなんだけどちょっとなんだかなあ…と私は思わなくはなかったのでした。まあ深いこと考えずに楽しめよ、ってのはわかるんですけどね。あゆっちは可愛かったし。
 でもなんかリピーターが多い公演だったのか、ハナから歌に手拍子が入り、でもノリは良くともキャラの心情や状況を歌うもので歌詞が聞こえないと話がわからなくなっちゃうものだったので、単に一緒にノって盛り上げて楽しむ歌っていうのとは違うんじゃないの?と私は鼻白んでしまい、結果ノリきれなかったというのはあるかもしれません。
 あと狭いハコなのはそれなりの良さもあっていいんだけれど照明が足りていないなと感じたのと、この数の席を区切りなく一列に並べるのは無理があると思う。6、4で区切って通路を作るべきでしょう。観客に負担を強いすぎています。駅からも遠いし、三度ほど来たけどもうよほどのことがない限りこのハコなら観劇を見合わせようと考えそうだな、と思ってしまいました。
 ユナの鞄にバッグハンガーがチャームとして常についていたり、氷を入れて使う保冷枕みたいなものが日本のものでなくちゃんと韓国仕様だったのがよかったです。あゆっちは最初のお衣装が股上が深いデニムもジャケットのフォルムもなんか変で可愛くなくてしょんぼりしましたが、その後のお衣装はよかったかな。ホント痩せたよねえ、心配なくらいです。でも歌も演技もとてもしっかりしていてチャーミングで、素敵でした。




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「私が強いたのです!」~上田久美子氏のご卒業に寄せて

2022年04月08日 | 日記
 演出家の上田久美子先生が年度末の3月31日をもって宝塚歌劇団を退団したそうです。それこそ先月末からソース不明の噂が飛び交っていましたが、今日、産経新聞のウェブ記事になっていました。今後はフリーの演出家として活動、欧州留学も予定しているとのことですが、文化庁の研修生として行くようだとも小耳に挟みました。
 生徒の卒業同様、当人の意志、決断が一番なので、ファンといえどもとやかくいうことではないよな、とは思います。ただ、生徒と演出家はちょっと別でしょうし、私自身が新卒で入った会社にずっといて転職など考えたこともなく終身雇用にしがみついて定年までいる気満々でいることもあって、職場としてはまあまあいい環境だろうしよっぽどのことがない限りそうそう辞めないのではないかしらん、と「そのうち外部に行っちゃうのでは」説が流れるたびに思ってきました。すごく若い演出助手さんがいろいろつらくて辞める、というのはまた別ですが、ある程度作品の上演機会があったような作家さんはそれなりに手応えも感じているだろうし、もちろん宝塚歌劇っていろんな制約が大きいとは思うのだけれどその制約を逆手にとってそこで何をやってやるか、みたいなトライの仕方や楽しみ方もしているのではないかと勝手に期待していたのです。だからまだまだアイディアもあってどれからどの順でやろういい生徒や組が回ってくればなワクテカ、とか手ぐすね引いてる感じなんじゃないのかなー、と勝手に思っていたのです。
 でも、ここで、という当人のご決断だったのでしょう。
 劇団はさすがに引き留めたとは思いますしね。それでも当人の意志が固かったのでしょう。もっと勉強がしたい、ということなら在籍したままでも留学でもなんでもさせてやれよと思うし、というか劇団が金出して率先してお抱え作家に順に勉強させろよとも思いますが、そのあたりが折り合わなかったのでしょうか。あるいはもう本当に、ここでやれることはやりきった、これからはここではできないことをやりたい、だから今ここを辞めたい、ということなのかもしれません。それならもう、どうしようもないですよね。私は宝塚歌劇をとても愛しているので、勝手にちょっと裏切られた気分でいますが、でも仕方ないと思っています。私は可愛げがないのでジタバタできないタイプなんですよ、去る者を追えないんです。行かないで、とか泣いてすがりつくことができないの。それこそ無為なことですもの…
 私は外部のストプレもミュージカルも、あるいはバレエやオペラも歌舞伎も観るし(文楽は未経験)、舞台が好きです。あるいは漫画や小説や映画、テレビドラマでもなんでも、要するにフィクションが、お話が、物語が好きなのです。私が宝塚歌劇に出会ったのはだいぶ遅くて、もう大人になってからの出会いでしたが、それでも突き刺さりました。性差別だとか若者の搾取だとかの問題についてももちろん意識しているつもりですが、それでもここでしかできないこと、ここでしか観られないものがあると思っていて、存在意義を確信しています。150周年を、そのころバーチャルなんちゃらな技術が開発されていても、杖ついてでも劇場へ行って生で観る気満々です。個人的には今は贔屓のいない農閑期ですが、その方が冷静に観られる部分もあるのだろうし、ここ数年達成できている全演目観劇を今後も万障繰り合わせて続行する所存です。そして勝手にわあわあ言い続けるつもりです、それが自分の健康の秘訣だろうくらいに思っています(メーワク…)。
 未婚の女性が扮する男役と、娘役でしか作れない世界があると私は考えています。彼女たちが演じることに意味がある、意義があることがありえると思っています。外部の男女の俳優が演じても同じことにはならないものが、確かにある。それほどまでに今の世の中は男女が平等ではなく、非対称です。私は男役と娘役の意味、意義について一晩中でも語れる自信があります。「何ソレ、意味わからない、てか無意味では? まだそんなことやってんの?」と言われるほどに男女平等の世の中が来るまで、宝塚歌劇は存在し続けることでしょう。宝塚歌劇なんか必要とされない世の中になった方が、人類は幸せになります。でも残念ながらそんな未来は来ない、とも私は考えているのでした。
(ちなみに私が歌舞伎に全然くわしくないせいもありますが、私は男性だけが演じる歌舞伎に関して、いわゆる立ち役と女形の意味、意義についてはまったく語れません。それほど男女の非対称が今は厳然と存在すると考えています)
 今の世に宝塚歌劇は必要です。いや、存在も知らない、観たことのない人がたくさんいることは知っています。そういう人の方が多いことも。でももっと増やすべきだとも思っていて、それはこれを知った方が楽になれる人というものがいると考えてからだし、ここに未来の希望の芽があると考えているからです。だからそういう意識のある若い、新しい作家さん大歓迎なのです。もちろん今いる人にもさらにがんばっていっていただきたい。だからくーみんのご卒業は残念です。でも仕方ないです、止められません。ご多幸をただただ祈るのみです。くーみんは私らのこんな祈りなど必要としないような人なのかもしれませんが。
 こうなったら単なるOG公演なんて本当はやってもらいたくなくて、むしろ歌舞伎か文楽の脚本を書いてほしいですね。そもそもそういう指向の人だったとも聞きますし。それなら勉強に観に行きたい、そして新たな視野を広げてもらいたいです。まだまだ甘える気満々ですみません。でも意地悪な言い方をすれば、外部の作品なんて座組次第だと思うので、なんでも必ず観に行きますなんてことは私はちょっと言えないな、とか思うのでした。
 でもご多幸を、ご活躍を、幸運を祈っています。それは本当です。祈るのはタダだしな! 生徒もけっこうショックを受けているかもしれませんね。まあ中で演出とか演技指導を受けるのはそれはそれで大変だとも聞くし、一概に残念がるばかりではないのかもしれませんが…自分の贔屓にも当て書きを、できれば主演作を書いてほしかった、というファンも多かったことでしょう。タイミングの問題もありますが、確かにちょっと偏りもありましたしね。そのあたりももったいなかったです。
 みんながみんなファンだなんて思っていなくて、みんないい、いい言うけど私はピンとこないんだよな…と思っていた人も私は知っていますし、そんなの当然だとも思います。アンチというほどではないけど、「それほどでもないよ、常に諸手を挙げて絶賛ベースなんておかしいよ」というのはまっとうな感覚でもあると思います。私だって思うところはありました。盲目的、狂信的なファンではなかったつもりです。それはまあ、これまでの感想記事にも表れていますかね…
 個人的には、私は珠城さんをもちろん大好きでしたが、贔屓認定はしていないので、それでセーフ、というのもあるのかもしれません。『翼~』のころはまだ澄輝会に入る前でしたしね。それでいうと『神土地』は贔屓出演作ではあったわけですが、そして確かにおもしろいポジションのお役をいただけたかと思ってはいますが、全体としてはものすごく大きな比重があったわけではない、と思う、のでセーフ、なのです。なんか、『星逢』も『金色』も『fff』も、主演が贔屓だった人ってタイヘンだったろうなもう揺さぶられまくっちゃってさあ…とかなんとなく傍目八目的に感じていたのですよ…そういう目に遭わなくてセーフ、お話だけ観ていればすむようなところがあるのでセーフ、みたいな。それで盲目的、狂信的ファンにならなくてすんだのかもしれません。
 マイ・ベストは何かなあ…悩むなあ、決められないなあ…それぞれ本当に性癖に刺さる(笑)ところがあるし、作品としての出来とかもあるし、そもそも何を求めるかもあるし…
 よく並べて語られることの多いオギーに関しては、私が一番宝塚歌劇から遠ざかり気味だったころのショー作家さんで、私は本当に未だにショーがよくわからないという自信がある(笑)ので、当時も観ていてそこまで刺さらなかったし退団を惜しいと思ったことも戻ってきてほしいと考えたことも全然ないんですね。外部の作品もいくつか観てはいますが、すごく好きと感じるとかすごくオギーっぽいと思うとかが、私はないです。でもどなたかが「オギーには間に合わなかったけどくーみんには間に合った」とつぶやいていました。私もくーみん作品は全作観られました。その僥倖に感謝するべきなのでしょう。そしてこの先「あのときはすごかったんだから」と謎の自慢をする嫌みな老ファンになってやるんだ…!(笑)
 上田久美子先生、ご卒業おめでとうございました。サヨナラショーもフェアウェルパーティーもなくて残念です。この先劇団がくーみん作品を再演しなくなっちゃうのかと思うと本当に残念です(著作権は劇団にあるんでしょうけれどねえ、やらなさそうですよねえ…)。くれぐれもお体に気をつけて、お元気で、朗らかでいらしてください。清く正しくなくていい、美しいのは知っています。今後も何かを発信してくださるのなら、機会があれば拝見したいです。本日まで本当にありがとうございました。


 以下、これまでのこちらでの記録。わりとファンなので(笑)初日から行ってわあわあ語っていたりもするので、別記事もたくさんありますが。

●2013年月組バウホール公演『月雲の皇子』/銀河劇場再演
●2014年宙組シアター・ドラマシティ、日本青年館公演『翼ある人びと
●2015年雪組本公演『星逢一夜』/17年中日劇場再演
●2016年花組本公演『金色の砂漠
●2017年宙組本公演『神々の土地
●2018年月組本公演『BADDY
●2019年星組本公演『霧深きエルベのほとり』(潤色・演出)
●2020年宙組梅田芸術劇場、日生劇場公演『FLYING SAPA
●2021年雪組本公演『fff
●2021年月組本公演『桜嵐記

 これはちょっと別口だけれど、

●2017年月組MP『MOON SKIP

 そして担当新公で観ているものは『ジプ男』、『エド8』、『PUCK』、『神土地』、『凱旋門』でした。


 最後になりますが、今回タイトルにした「私が強いたのです!」は『月雲の皇子』の木梨軽皇子の台詞です。窮地のヒロインを救うために、代わりに自分が罪をかぶるために言う、偽りの言葉…いやぁ痺れた、初見時に衝撃で席から立ち上がりそうになったことを覚えています。いい展開でした、いい台詞でした…!
 イヤ別に、私たちファンがくーみんにくーみんたることを強いてきた、みたいなことを言う気は特にないのです。単に印象的な台詞だから、なんなら一、二を争うくらい好きな台詞だから掲げただけです。
 外部でも脚本と演出を両方やる作家さんはいますが、どちらかというと別れている方が多いですよね。そしてもちろんどちらもとても才能が要るものですが、演出ってちょっと何がどうってのが傍目にはわかりにくい部分があるから、脚本の巧拙の方がわかりやすい。その意味でもいい台詞を書ける、いい物語を作れる才能は貴重です。がんばっていただきたいです。きっとできる人は、運命が手放さないと思うのですよ。それこそ運命が書くことを強いるのだと思うのです。でもそれは歓喜に至るのだから…!
 これからのご活躍を、心からお祈りしています。







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『広島ジャンゴ2022』

2022年04月07日 | 観劇記/タイトルは行
 シアターコクーン、2022年4月6日18時半。
 広島、その中心部からは外れた海辺にある牡蠣工場。黙々と牡蠣の殻を剥き続ける新入りのパートタイマー・山本(天海祐希)は、シフト担当の木村(鈴木亮平)を筆頭に従業員たちに囲まれ、工場長・橘(仲村トオル)が開く懇親会に出席するよう説得されていた。だが「休日には予定がある」とにべもなく断る山本は、残業も断り娘のケイ(芋生悠)とともに帰宅していく。その夜、心身ともに疲弊した木村は姉のみどり(土居志央梨)と話しながら、お気に入りの西部劇を見るうちに眠り込んでしまい…
 作・演出/蓬莱竜太。蓬莱竜太のシアターコクーン初登場作。2016年に広島県出身、在住の演劇人と制作した『広島ジャンゴ』をフィクション性、エンタテインメント性を高めてブラッシュアップ。全2幕。

 ポスター・ビジュアルは実はすごく秀逸なのだけれど、でもそこにあるキャッチのようなエンタメ・ウエスタン活劇を期待して油断して行くと、ガツンとアテられちゃうんじゃいなかな、というような作品でした。私はそんなにたくさん蓬莱作品を観ているわけではないけれど、ああいかにも蓬莱作品、と感じるざらりさでした。エンタメ作品としてはちょっと生硬すぎるのではないか、とも思うくらいでしたが、これが2022年の演劇なのだ、とも言えるかな、と思いました。
 ダブル主演で、現代の広島と西部の町「ヒロシマ」がオーバーラップするような物語。その構造が効いていました。戦う女と、傍観する男の物語です。戦わざるをえない女と、ともに戦うことから逃げている、見て見ぬ振りをすることで加害者側に加担している男の物語、と言ってもいいかと思います。
 現代の広島では、木村はワンマンなボスや周りの同調圧力に振り回され虐げられ、問題を直視せず、見ない振りして趣味の西部劇の世界に逃げています。西部劇は「悪いヤツしか死ななくて、すべての弱者は救われて、そういう夢みたいな話」だから。でも実際に(?)西部の町ヒロシマに舞台が移ると、横暴な町長が搾り取る税金にみんなが苦しめられていて、腰巾着は浮かれていて、違う解決ルートを探している一家も行き詰まっていて、希望の光なんかもう全然見えない。ウエスタン世界の方があたりまえですがさらに暴力的で無法地帯なのです。
 そこでは木村はディカプリオという名の馬になっていて、ますます傍観者としてしか事態に関われない。広島でシングルマザーとして娘を守りひとり苦闘していた山本は、ここでは凄腕のガンマン・ジャンゴになっていて、やはり娘を連れて旅をしている。ユリちゃんは「強くカッコいい女性」の代表格のような女優さんですが、山本もジャンゴも本当は娘に支えてもらっているような、弱いところもある、実はごく普通の女性なのである、というところがミソです。決してスーパーウーマンなどではない。ただ守りたいものがあるから、歯を食いしばり拳を握りしめて、逃げないでいるだけなのです。でも木村もディカプリオも彼女の側に回れず、ただ傍観している。そして事態はどんどん悪くなっていく…事前にアナウンスがされていましたが、それとも暴力表現や性暴力描写は凄惨です。私はやっている俳優のメンタルケアもしてあげてよね、とか考えたくらいでした(プログラムでは仲村トオルも野村周平も悪役楽しー!みたいなテンションだったので、安心するというか、こういう役をやることで自らの男性性の暴力性とかを鑑みることはないのかとかちょっと残念に思うくらいでしたけどね…)。
 それでも、物語なので、ギリギリのところでダムは壊され水は戻り人々は潤い、悪は倒されるのでした。そうしてやっとディカプリオは学び、姉への想いを胸に、木村に戻って、橘に逆らい、山本に話しかける…
 そう、それだけでいいのです、そこからでいいのです。見て見ぬ振りをしないこと、それだけでいい気になっている加害者を鼻白ませることができる。暴力を止められる。他のみんなもおかしいことはおかしいと言い出しやすくなるのです。西部の町では人の命が軽くて、そこで死んだ者は帰らない。それはみどりも残念ながらそうなんです。でもまだそこで止められるはずなのです、止めなければいけないのです。もう令和なんだから、21世紀なんだから、人はまがりなりにも進化してきて賢く優しくなってきたはずなのですから。勇気を出さなければならない。自分の戦いでなくても戦わなくてはいけない。せめて見ない振りはやめて、連帯しなければならない。離れた作業台で、背を向け合ってでもいい、たわいないおしゃべりをして、友達になろう…静かな、良きラストでした。

 沢田夫妻、西部ではチャーリーとマリア(藤井隆、中村ゆり)のポジションがあるのが上手いし、その娘エリカ(北香那)がケイと仲良くなる展開もとてもよかったです。このくらいの歳の娘同士はすぐ仲良くなれる、という美しさ。それはかつてのアンナとドリー(宮下今日子)もそうだったのでしょう。1幕ラストは彼女たちの青春だったのか、でもあのディスコサウンド(笑)からするとむしろ山本の若いころなんでしょうか。
 幼なじみ、というのは橘と沢田、ティムとチャーリーもそうだったのかもしれません。でも男同士はすぐ上下関係を作るし、こじれる。チャーリーの折れ方、マリアの堕ち方…わかりすぎてつらかったです。手下が3人、娼婦も3人、というのも演劇的に美しい構図でした。尚美/パメラ(池津祥子)の位置もまた上手くて、もちろんこういう生き方をしてしまう女というものもいるものなのです。実によくできている芝居でした。
 役者もみんな達者で、お若い人もとても素敵でした。宮下さんて八嶋さんの奥さんなんですね…! ときめき(笑)。鈴木亮平のラップやロック歌唱(笑)もとても効果的でした。これが成立するのがやはり演劇なんだと思うなあ。
 でも馬がチャップス穿いてどーする、とはつっこんでおこう(笑)。わかっているんですよ、西部劇のイメージなんですよね。でもあれはカウボーイが、馬乗りが穿くものです(笑)。でもディカプリオがちゃんと鐙下げているのには笑いました。いいぞ!
 もともとは2016年の作品ですが、このところ西部劇というものは見直されている題材だったりもするので、その符合もおもしろく感じました。千秋楽まで、どうぞご安全に。これで新しく演劇というものに触れる人がたくさん生まれることを期待しています。






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『セールスマンの死』

2022年04月06日 | 観劇記/タイトルさ行
 PARCO劇場、2022年4月5日18時。

 アメリカ、ニューヨークのブルックリン郊外。セールスマンとして真面目に働き続け、長年会社に尽くしてきた63歳のウィリー・ローマン(段田安則)はかつてのような精彩を欠き、思うようにセールスの成績が上がらないでいた。それでも遠くニューイングランドへのセールスの旅を終え、いつものように帰宅する。妻のリンダ(鈴木保奈美)は夫のウィリーを尊敬し、献身的に支えているが、30歳を過ぎても自立できないふたりの息子ビフ(福士誠治)とハッピー(林遣都)には心を砕いている。ウィリーも息子たちへの不満と不安で胸をつぶしていて…
 作/アーサー・ミラー、翻訳/広田敦郎、演出/ショーン・ホームズ、美術・衣裳/グレイス・スマート。1949年にエリア・カザン演出でニューヨーク初演。トニー賞、ピューリッツァー賞受賞。51年、85年に映画化。54年日本初演。全2幕。

 有名な戯曲ですがタイトルしか知らず、観たことがなくていつか観ておきたいと思っていた作品でした。最近だと長塚圭史演出、風間杜夫ウィリーという上演があったそうですね。私は段田安則と浅野和之には全幅の信頼を置いているので、重そうですが楽しみに行きました。
 チャーリー役の鶴見辰吾がプログラムで正直にも「あまり好きな戯曲ではありませんでした。暗い話ですし、見ていて苦しくなりますから」と語っていますが、まったく同感です。でももちろん不朽の名作だとも思います。ただ、早くこれがファンタジーに思える、作品の意味がわからない世の中が来るといいなと思います。
 今回の演出では時代が30年ほど現代に寄せられているようですが、それでも昔も今もまだまだほとんど変わらない、要するに「男の死」の物語です。家父長制の男性の、更年期の男性の、なんなら認知症が始まってるんじゃないかというくらいの男性の、男という病の物語。段田さんは二十歳の頃にこの作品を観ていつかやりたいと思ったそうですが、「似合う年齢になったらやりたいと思っ」たと言った方が印象がいいかと盛った、とこれまた正直に語っているのもおもしろかったです。林くんはビフがやりたい、そしていずれはウィリーもと語るし福士くんもいつかウィリーをと言っているけれど、いやぁやらないで済む世の中になっているといいよね三十年後くらいにはさあ、としか思えませんよね…若い役をやっていた役者が次の再演では年長の役を、というのは私はロマンで大好きなんですけれど、これは本当にしんどいと思う。早く作品の寿命が尽きて単なる歴史になるといい、と思います。それくらい、重くてしんどい作品でした。もちろんハッピーエンドではない。でも観てよかったと思うし、なんなら好きだし、未だ上演される価値がある作品だと思います。ちゃんと批判的に観られているのか怪しい気もしますけれどね、世の中ここから全然変わっていない気しかしないですからね…
 ウィリーの兄ベンは高橋克実、ビフの友人バーナードは前原滉、ウィリーの上司ハワードとレストランのウェイターの二役を山岸門人。ウィリーのボストンでの「顧客」が町田マリー。みんな上手い、怖い。
 ベンはウィリーの回想の中の姿というか、過去の亡霊、理想の幻みたいな存在として出るので全身真っ白。わかりやすい記号ですね。そして町田マリーは他の女優さんふたりと3人で赤い帽子とドレスの女としてなんとなく舞台に佇んでいたり過ぎったりする役もやっていて、そのエリーニュス感もたまりませんでした。バーナードの自転車もハワードの録音機もとても効果的。というかパルコの板って意外に大きいんだなとハッとさせられる、半円形にライトを当てたがらんどうの中に大きな冷蔵庫がひとつ、あとは四畳半にも満たないような小さなダイニングキッチンや寝室や子供部屋の装置がガラガラ出てきては片付けられていく…というのもとても印象的でした。
 冷蔵庫は、この時代の家庭の三種の神器というか、高価な家電の象徴なんでしょうね。まだまだ高くて故障も多く、ローンを払い終える前に故障してさらに修理代がかかるという代物。それでも円満な家庭の象徴として、背伸びしてでも買わなくてはならない物…ウィリーが実際に自殺したんだとして、冷蔵庫に入って死ぬことはできないので手段は何か別のものだったんだろうとは思いますが、彼が冷蔵庫の中に入って扉が閉まって幕が下りて終わるラストはまさに象徴的でした。ちなみに1幕も幕が下りていましたね、私は幕が下りて終わる演出が好きです。どちらも内容が内容なだけに拍手はしづらいものでしたが、カーテンコールには気持ちよくスタオベしました。素晴らしい舞台でした。
 鈴木保奈美も久々の舞台だったそうですが(というか最近芸能活動に熱心ですよね、本格復帰なのかな?)、ちょっと若く見えすぎな気はしなくもなかったけれど、ちゃんとこの役っぽくてよかったです。女性キャラクターにちゃんと意味と存在感がある、けれど変に甘えられていないところもとてもいい作品だと思いました。
 プログラムがサイズが小さくて分厚いところも好感を持ちました。北九州まで二か月の上演ですね、無事の完走をお祈りしています。





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貴城けい・大空ゆうひ・瀬奈じゅん30th ANNIVERSARY DINNER SHOW『SEIZE THE DAY』

2022年04月03日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚ホテル宝寿、2022年4月1日19時(初日)。
 宝塚歌劇団78期の中卒で同期の中でも末っ子で、成績は中の下か下の下(笑)、それぞれ月組と宙組でトップスターになった3人の、芸能生活30周年記念DS。音楽監督/吉田優子。

 大空さんの声がけでさくっとまとまった企画だそうですね。キラキラマスクでピアノと指揮もしてくださった優子先生も、ちょうど40周年のメモリアルだそうです。私も1992年に大学を卒業しまさしく30年前の今日が入社式だったので、感慨深いです。そう、私は大空さんのファンですが、ずっと社会人同期だと勝手に考えていたのです(笑)。めでたいです、来られたよかった!
 3日間、5回のショーですが、初日はアサコのお誕生日。去年もエリザのガラコン中で大空さんにお祝いしてもらったそうですが、今回もたくさん蝋燭が刺さったフルーツ山盛りの大きなバースデーケーキが途中にサプライズで持ち込まれて、客席みんなで「ハッピーバースデー」の演奏に手拍子しました。48回目、一番嬉しいお誕生日になったそうです(^^)。一足お先にお姉さんになります、と残るふたりに笑っていました。スカステのカメラが入っていないどころか会の記録カメラマンもいないようで、客席の中井美穂さんが記念撮影させられていました(笑)。てか楽にはカメラ入れようよ、これは歴史ですよレジェンドですよ事件でしたよ! もちろん私がファンだから、というのもありますが、とても楽しいショーでした。アサコはミュージカルにもよく出ているし、大空さんはストプレが多いけどライブやったりもしているし、その点ではかしちゃんが最近は一番活動していないかもしれないけど実はちゃんと歌が上手いのってかしちゃんで、低く色っぽい声も未だ健在で、なので3人とも別に歌手じゃなくてもさすがちゃんと仕上げてきていて、もちろんスターっぷりは素晴らしいし男役スイッチ入って肩クイクイさせて踊っちゃうし(こーいう大空さんホント久々に見た!とテンション上がりました)、揃って歌っても声質がわりと似ていて聴いていて心地良くて、もちろんトークは抜群に楽しくて、本当にとても素敵な、クオリティの高いショーだったのでした。大満足!
 お衣装は、最初は黒のパンツスーツ。次がクリーム、ピンクベージュ、シャンパンゴールドみたいな色みのパンツスーツ。デザインがちょっとずつ違うのが素敵。3人とも髪の長さは肩くらいですが、さすがアサコはこういうときに前髪上げてくるんですよね、オールバックでビシッとバッチリ! かしちゃんと大空さんはウェイビーで飾り気がない感じで、それも素敵でした。で、黒スーツもアサコは白シャツなのよ! パンツの丈とかフォルムとかホントみんな違っていて、でもお似合いで、ホント素敵でした。てか3人ともほっそりしたままでスタイルが現役時代から全然変わっていないの、稀有なことですよね。ピンヒール履いても背も同じくらい? 見栄えも素晴らしかったです。
 ノリノリのドラムのリズムから始まって、アサコの「ファンシーダンス」、大空さんの「ナイスガイ」、かしちゃんの「ダンシングフール」の3連発から。そして「カリビアン・ナイト」でしたかね? あとどこかで「ディガ・ディガ・ドゥ」もありましたっけね?(すでに記憶が怪しくてすみません…)
 で、録音のみほこ額田のソロからのアサコの「あかねさす紫の花」に入ってくる大空さん…そうよねこの大海人と中大兄やったよね…!と震える。そうしたら今度は大空さんとかしちゃんの『仮面のロマネスク』の「あなたがいたから」でまた震えましたよね…! そういえばかしちゃんは初演の新公ヴァルモンなのでした。なんなのどっちがメルトゥイユなのそれともダブル・ヴァルモンってことなの濃いわ…! のちのトークであれが新公初主演だったという話になって、ラブシーンも何もやったことがないのにあんな濃厚な…とか、かたや大空さんはもう最後も最後に再演したのでもう熟しきっていて賞味期限ギリギリの…とかわあわあ言い合っていて、ホント可愛らしかったです。
 そのあとるいるいのおりょうの台詞があってからのかしちゃんのソロで「風雲に生きる」、だったかな? 
 初舞台は、ロケットの他にかしちゃんはカゲコーラスもやっていて、でも一度カゲコーラスボックスに行き忘れたことがあって、バレないようにふたりがかしちゃんの姿を隠したことがあった、とか。ロケットは大空さんとかしちゃんが隣で、お化粧前はかしちゃんとアサコが隣だった、とか。特出と役替わりが大変だった『飛鳥夕映え』の話は、あとでするようなことを言っていて結局しなかったような…(笑)
 かしちゃんは初演『エリザ』新公ルドルフ、大空さんは月組初の『エリザ』でルドルフ、そのときのシシィはアサコということで、ダブル・ルドルフにアサコシシィの「ママ鏡」も。交互に歌って迫るふたりからアサコが「今日のルドルフ」を選ぶという趣向らしく(選ばれなかった方に「ごめんなさい」の台詞を言う(笑))、この回は大空さんが選ばれていました。お稽古のときにはついぞ見られなかった、捨てられた子犬のようなルドルフの目を本番でやっと見た!というのがポイントらしいです(笑)。
 ここでスミカの声で大空さんにお着替えを促すアナウンス。これがスミカが滝汗かいて録音したヤツか、とによによしました。なので残ったかしちゃんとアサコの「闇広」で繋ぎ。ふたりの接点、共演としては『ベルばら』があったんだけれど、選曲のときには思い出せなかったんだそうです(笑)。
 そのあとは大空さんの『ラスパ』、アサコの「エル・ビエント」、かしちゃんは雪組から組替えするときと宙組に来てすぐやったコンサートで歌った曲を(タイトル失念しました、すみません…)。ラスパとエル~は優子先生の作曲だそうです。大空さんは優子先生のピアノでまた歌えて嬉しかったそうな。そしてエル~はアサコが初めDSで歌い、好きな曲だったので退団公演の中詰めにも「使い回し」て、組子全員のコーラスで歌えて嬉しかったそうです。
 それでもうさだまさしの「奇跡」を歌っておしまい…だったかな? アンコールは「フォーエバータカラヅカ」でした。

 宝寿は横に長い広間で、チケットが届いたときは番号の大きさに心が折れそうになったんですけれど、実は後列でもほぼセンターのたいそう見やすいたいそうお席で楽しかったです。ノリノリで拍手、手拍子しまくりました。ありがとうございました。
 見学席も出ていましたがOGが何人か来ていたのかな、現役さんはいなかった気がします。タキさんをお見かけしました。
 思えばかしちゃんは本当に雪組の御曹司で出世頭で、でもそのころアサコは花組で大空さんは月組でボーッとしていたんですよね(笑)。そこからいろいろなことがありました…宙組は未だ何かの火除け地みたいに使われているようで残念なのですが、劇団は生え抜きトップをそろそろ出してくださいよねマジで…(><)
 ところで何度も言ってきていることなのですが、そんなわけで私はユリちゃんの『風共』からこっち月組を観ていて、かなり早くから大空さんのことは好きだったんですけれど決定的にオチた何かとかを覚えていなくて(宙組への組替えとトップ就任を朝刊で知ったときの衝撃はとてもよく覚えています。そして博多座でおそるおそる入会案内をいただいた…(笑))、でも『エールの残照』の新公で本役が同期だったことを「アララ」と思ったことはすごくよく覚えているのでした。新公を生では観ていません、「歌劇」とかで知ったのかな? 普通は新公って上級生の役をやるものなのに、まあこの時期なんせトップが若いユリちゃんだったんでいろいろねじれや逆転もあったんですけれど、本役が同期ってこの人ってよっぽどできないか成績悪いってことなのかなでも私はこの人の方が好きなんだけど…と感じたことをすごく覚えているのです。なのでこの日久々に書いたお手紙にもこの頃から好きでした、みたいな意味でこのことを書きました。素でタイトルを『風のシャムロック』と書き間違え、違ったこれは曲名だった、でも消せるボールペンじゃないやもう仕方ない、とそのまま書き進めたくらいでしたが…
 そうしたらそのころちょうどアサコもそれを拾っていたのですね。そのときアサコが大空さんに「(いつか? この新公で、の意味か?)大空祐飛の風が吹くね」とお手紙に書いたそうなんです。そして、アサコが大空さんご卒業時の同期のお花渡しに来たのは大劇場千秋楽でしたっけ、そのときにさらにそれを踏まえて「風が吹いたね」と耳打ちしたそうなんです。帰宅して確認したら東京大楽のかしちゃんの耳打ち舞台写真はあった…それはともかく、これを聞いてちょっと泣きそうになりましたよね私…!
「だいぶ遅かったけどね!」と大空さんはテレて笑っていましたけど…いやぁ尊い! 明かしてくださってありがとう…! 最近、お手紙の内容を明かしちゃったり耳打ちの内容を内緒にしたりとそれこそ月組でありましたが(笑)、長くファンをやっていればいつか真相が本人の口から明かされることもあるんですよみなさん…!
 卒業しても好きでいられる活動をしてくれていることもそもそもありがたいです。ヤンさんといい大空さんといい、私は贔屓に恵まれているなあ。なのであきちゃんはのんびりヨガと刺繍をやってくれていていいです、ムリに芸能活動を求める気はないのだ…そしてまだ次の贔屓との出会いは先で大丈夫ですのんびりいろいろ楽しんでいますので…
 そんなほっこり幸せになった、夜桜の美しい一夜でした。ちなみにお初の遠征宿のベッドと枕がマイ史上最高に柔らかくてふわっふわで天国でした。堅めのマットレスが好きな人にはあれは全然ダメだったろうけれど…でもバスタブがなくシャワーブースのみのコンパクト・ホテルだったので、もう行かないと思うけど!(^^;)








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