駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

荒川弘『銀の匙』(小学館少年サンデーコミックス全15巻)

2020年06月30日 | 乱読記/書名か行
 目的も夢もなく大蝦夷農業高校に入学した八軒勇吾。将来の目標が定まっているクラスメートたちに劣等感を抱きつつ、実習や部活に悪戦苦闘…

 人気を博しているのは知っていましたが、やっと読んでみました。
 私は武豊と同い歳で(学年は向こうがひとつ上)、大学時代に彼ら若手騎手をニンジンにJRAが女性を競馬場に呼ぼうと大々的に始めたキャンペーンに乗っかって友達とともに初めて競馬場に行ってみて、わかりやすくハマり、大レースを生で観るために北は札幌から南は小倉まで夜行バスやらなんやらでどこへでも出かけ、『優駿』編集部でバイトをし、近所の乗馬クラブに通い、静内の競走馬の生産牧場に泊まり込みでバイトさせてもらったこともあるのでした。今考えると、あれが青春でしたね…やがて社会人になって忙しくなると競馬を追うのはやめてしまったけれど、40歳でマンションを買って週末の実家パラサイト生活をやめるまで、乗馬はずっと続けていました。小障害の完走もできないようなへっぽこウィークエンド・ライダーでしたが、十勝や軽井沢に外乗旅行に行ったりもしました。車は持っていませんでしたが、馬は持っていたのです(笑)。
 それ以外はまったくの町っ子の、ひ弱な育ちで、田舎も怖いし農業ののの字も知りません。それでも、楽しく読みました。わかる、と感じるところがたくさんありました。
 主人公の3年間の高校生活をきっちり描いた漫画で、クラスメイト始めたくさんのキャラクターが出てきますが、キャラ萌えとかストーリーテリングとかいうよりは個々のリアルで具体的なエピソードのおもしろさで読ませるタイプの作品ですね。もちろんいろいろ取材もしているのでしょうが、作者の育ちと環境を生かしたレアな作品かと思います。学生起業にいたる農業の問題点とか未来とかも描いているのですが、お説教臭さはなくて、人はいずれ夢に出会うよ、がんばってごらん、というのが根本的なテーマでしょうか。別に彼女を甲子園に連れて行くために野球がんばる!とか海賊王になって世界の海を制する!とか秘宝の珠を集めて世界の運命を変える!とかじゃなくても、ちゃんと少年漫画なんだな、と好感を持ちました。初回と最終回のイントロが同じ、というのも好もしい。というか行き倒れかけた主人公が馬上のヒロインと出会う、ってのがゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』と同じ、というのが確か連載スタート時に話題になりませんでしたっけね…懐かしい。今どきかなり清い主人公の恋と、やっとやっとのキスシーンの可愛らしさ、美しさも特筆ものでした。お幸せに!
 『鋼の錬金術師』からすると、絵柄の変わり方が、なんというかちょっと珍しい感じでしたが…目か手をどうにかしたのか?という気すらしましたが、嫌な感じではなかったので、何か試行錯誤があったのかな? 特にヒロインの顔なんか、もっと可愛く描けるだろう、という気がしたのですが…
 実写映画にもなったんですよね、機会があれば観てみたいです。

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『ラブストーリー』~韓流侃々諤々リターンズ11

2020年06月29日 | 日記
 2003年、クァク・ジェヨン監督。ソン・イェジン、チョ・スンウ。、チョ・インソン。原題は『クラシック』。

 ヒロインが、両親が若い頃に交わした手紙を読み出す。母親の娘時代が蘇る。それもヒロイン女優が演じる…というのは、よくある趣向です。
 で、韓国のそういう「ちょっと昔」がちょっと昭和めいていて、当時の韓流ファンが郷愁を持って萌えて観ていたのだと記憶しているのですが、この作品のそれは、「ちょっと田舎」であることもあって、昭和というより戦前感がすごいなと思いました。で、見ていくとそれこそベトナム派兵とか民主化運動の学生デモとかの時代の話になっていくので、今見ると、そうした事柄にこういうロマンスを絡めてせつない、ちょっといい話に仕立てるのってどうなんだろう…と思ってしまいました。
 あと、全体にタルい、長い。リリカルとでロマンチックでいいのかもしれないけれど、工夫やアイディアが足りない気がしました。テスはともかく、サンミン母の立場ないじゃん…残念。


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『うつせみ』~韓流侃々諤々リターンズ10

2020年06月28日 | 日記
 2006ネン、キム・ギドク監督。イ・スンヨン、ジェヒ。原題は『空き家』(英題は『3番アイアン』)。

 例によって主役カップルがほぼしゃべらない、いかにもキム・ギドク作品な、ロマンチックでホラーな映画です。映画って実写なんだから写実的であるはずなのに、こうまで観念的に、抽象的になるんですよね。すごいなあ。
 あらすじを言うのは簡単なのです。留守宅に忍び込んではそこで一晩暮らす不思議な青年と、豪邸に閉じ込められて夫に暴力を振るわれている女性とが出会って、まあ、恋をする、というようなお話では、あります。邦題を含めてタイトルがとても効いているので、機会があれば観てみていただきたいです。 

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藤原よしこ『恋なんかはじまらない』

2020年06月27日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名は行
 小学館Cheese!フラワーコミックス全7巻。

 両親の転勤で知り合いの家に居候することになった真琴。でもその家には、親友をフッた学校一のモテ男・カンナがいて…

 最新連載『あしなが王子様は失恋する』も設定がベタで好きでコミックスを買っているのですが、そういえば愛蔵しているこの作品について語っていなかった…と久々に再読して記事を上げています。いやー、カワイイ。めっちゃ好き。
 著作の多い漫画家さんで、出世作は『キス、絶交、キス』だったと思うのですが、あれはやんちゃな男の子と優等生ヒロインのお話でしたかね。でも私はヤンキーとか不良萌えがあまりないので、『恋はじ』(と略されていたかな連載当時…今なら話題は『恋つづ」ですね。てかなんで動詞がひらがななんだろう…)のパターンの方が好きなのです。すなわち、優等生男子とへっぽこ女子、の組み合わせです。これでヒロインがあまりにおバカだったりカマトトだったりすると鼻白むんですが、真琴はもう突き抜けておバカでコドモで単純でまっすぐでいじらしくて可愛いので、許せてしまうのです。そのおバカがカンナに移っちゃうまでのお話、になっているので、それで正解なのです。
 さらに、親の都合でひとつ屋根の下、ドキドキワクワクキャッキャウフフ、なんて少女漫画は手を変え品を変えそれこそ何千何万と描かれてきていて、この作品に関してもカンナの元カノから真琴をいいなと思ってくれる男子、昔憧れていた教生、誕生日、修学旅行、お泊まりデートと出てくるエピソードはベタのオンパレードで、別に目新しいところなんざ何ひとつないわけですが、でもその定番エピソードの描写ひとつひとつがていねいで繊細で、読んでいてとにかくニマニマキュンキュンできるのです。泣いて笑ってときめいて意地張って、喧嘩して仲直りして、またくっついて。ホント可愛すぎます、せつなすぎます、幸せすぎるのです。
 こういうベタな作品はラストもベタにプロポーズないし結婚式で締めるべき、というのが私の持論なのですが、そこをちゃんとクリアしているのも素晴らしいです。
 あと個人的に好きなのが、2巻の最終話、カンナが改めて真琴に好意を告白してくれて交際を申し込んでくれるエピソード。なし崩しになっちゃうんじゃなくてちゃんとしてほしい、してもらえないと不安、っていうのは、甘えかもしれないけれど心情的にすごくわかるじゃないですか。それを真っ赤になりながらでもちゃんとやってくれるカンナが、とにかく愛しいのです。
 というか少女漫画はやっぱりこの、紅潮を示す頬や鼻の上に描かれる斜線ね、コレが大事だよね! コレが多ければ多いほど悶えますよね。クールにスカせない、本気の本音がにじみ出ちゃうって記号ですからね。マジ大事です、試験に出ます。
 あとは再読して気づいたのですが、片目のときもあるけど主に両目に跨がって、瞳の真ん中にまっすぐ一本線を引いて瞬きを表現する漫符(?)、最近の漫画ではあまり見ないなーと思いました。きょとん、パチクリ、みたいなときの瞬きを表しているんですけれど。もう流行らないのかな、伝わらなくなってっちゃうのかな、もったいないなー…
 本編は本誌連載だったわけですが、いつも増刊に掲載されていたショート番外編が巻末に収録されていて、それがまたごく短いながらもいちいち秀逸で、作者の才能とセンスをホントに感じます。オマケページのオマケ漫画もおもろくてカワイイ。ケンケンとタマちゃんが最終巻の表4側カバー袖に載ってる描き下ろしカラーカットでやっとくっついてるんですよ、すごくないですか!? そういえばこういう部分っておそらく電子書籍化されていないんでしょうね…やはり紙だよ、紙で愛蔵してときどき虫干しがてら読み返して愛していくのが大事なんですよ!!
 はー、幸せな再読でした。つらいときにはまた読んで萌えて癒やされますね…






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有間しのぶ『モンキー・パトロール』

2020年06月27日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名あ行
 祥伝社フィールヤングコミックスゴールド全7巻&外伝1巻。

 野市巡(26)、ドラッグストアで元気に働く女子、友達多し。花枝香(28)、超売れっ子ライターで収入も問題も多し。清白すずな(28)、主にプーだが男に愛されまくる女子。3人とも「あたしがいちばんちゃんとしてるな」と思っている3人で、とても仲良し。

 この3人の女子と周りの人々を巡る日常ギャグ4コマ連作で、何がきっかけかは忘れましたがずっと買い集めてきて、長く愛蔵してきました。感想を書いていなかったので、久々に再読してここに上げておくことにしました。やっぱりおもしろかったです。
 岡崎京子『くちびるから散弾銃』もそうですが、女子3人のキャッキャウフフというかダラダラガハハとかっていうかって、どうしてこんなにおもしろいんでしょうね。私も高校一年のときのクラスメイトふたりと3人でよくつるんでいるので、このノリはわかります。ちょうどいいバランスがあるんですよね。
 すずはモテモテというか少なくとも男に苦労していないのでともかくとして、基本的にはヒロインたちの「オトコ欲しいよー!」みたいなところからのすったもんだを描いているだけのお話なのですが、今読んでもいつ読んでもおもろい、わかる、ニマニマするし最後はほろりとさせられます。話を適度に忘れていて「結局このあとどうなるんだっけ? 誰と誰がくっつくんだっけ?」みたいになりながら読むのも楽しいので、またそっとしまっておいて、忘れたころにまた読んで泣き笑いしたいです。外伝含めて、ギャグのスタイルながらも愛と人生の機微を十全に描いている、素敵な作品だと思っています。好き。


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