博多座、2018年5月5日15時、6日11時、22日15時。
天智七年五月五日、即位して天智天皇となった中大兄皇子を祝って、近江の蒲生野で盛大な薬狩の行事が催された。その席には、天智天皇、弟の大海人皇子、もとは大海人皇子の妃であったが今は天智天皇の妃となっている額田女王、そして額田女王の姉・鏡女王らが列席していた。この四人を襲った運命のいたずらは、大和朝廷の混沌とした有様を象徴しているかのようであった…
作/柴田侑宏、演出/大野拓史、作曲・編曲・録音音楽指揮/吉田優子、作曲・編曲/寺田瀧雄、振付/峰さお理。1976年の初演以来たびたび再演されてきた万葉ロマン、12年ぶりの再演。
みりおちゃんが大海人、ちなつが中大兄、れいちゃん天比古のAパターンを二度、みりお中大兄、れいちゃん大海人、ちなつ天比古のBパターンを一度観ました。
イチロさんのものもオサのものもアサコのものも、もう宝塚歌劇ファンでしたが何故か生では観られていなくて、初めて映像で見たときには「えっ、これで終わり!?」と思った作品でした。でもミホコの歌声には思い出深いですし大空さんの中大兄の歌は愛聴していて、ずっと生で観たいと思っていたので嬉しい再演でした。かつ主役の役替わり、とてもおもしろい企画だと思いました。
博多座には珍しく(オイ)ものすごいチケ難公演だったようでしたが(とはいえさすがに中では動いていたのかな?)、みりお会にいる親友のおかけで初見は一階後方どセンター、二回目は二階後方どセンター、三回目は三階席最前列どセンター(ただし落下防止用のガラス板の縁がかなり目障り)というお席で観られていずれもたいそう観やすくおもしろく変化に富み、芝居が心に染みて胸打たれました。いやぁよかった!!!
私は柴田スキーではあるのですが、宙全ツで観た『
バレンシアの熱い花』とか星中日『
うたかたの恋』とかは、正直さすがにちょっと芝居として作品としてアナクロかなとは感じたんですよね。でもこの作品は、日本物バイアスでかえって古びなく思える、ということもあるのかもしれませんが、まさに不朽の名作だと思いました。何度も再演されているのでちょっとずつ改変が加わりアップデートされているのかもしれませんし、今回はことに演出が大野先生なのでもしかしたらこれまでと印象がまた違うのかもしれませんが、私はとてもいいと思いました。シンプルで、質実剛健と言っていいくらいの演出だと思うのですが、その削ぎ落とし方がかえっていろいろなドラマや感情を含んでみせていて、描かれていない部分のエピソードを生み出しているようでもあり、素晴らしかったと思いました。四角いスポット照明の使い方とか、意味のある、雰囲気のある暗転、ストレスのまったくない緞帳前の使い方…心地よかったです。
そして台詞が本当に素晴らしい。古代王朝物だからゆかしい日本語が多い、ということ以上に、会話の妙が素晴らしい。受け答えってこういうものだし、たとえばまっすぐ返事しないことで描けるものってのもあるし、会話の中での絶妙な比喩や皮肉の効かせ方、里歌の暗喩などなど、もう素晴らしすぎました! 『
カンパニー』の脚本への不満が浄化される思いがしましたよ…今回の「ル・サンク」が出て脚本が載るなら、どこがどう素晴らしいのかを書き出すために素晴らしいと感じたところに傍線引くだけで真っ赤にする自信がありますよ私!(ウザい)
そして何より描かれているドラマが、人間関係と恋愛のもつれのドラマが、素晴らしい。というかとにかく好み。これに尽きます。
残された史実や詩歌はごくわずかで、でもこういうことであったのだろう、とされているこの兄弟とヒロインのいわゆる三角関係は、でも実際はどうだったのかは誰にもわからないのだしまたどうとでも脚色できるものだと思います。代々を見比べることができているわけではないのでわからないのですが、役者の演じ方や持ち味によってもけっこうニュアンスは変わって見えそうですよね。なんせ主役が変わっても成立する物語なんですものね。
だからこそキモはやはりヒロインの額田なのでしょう。そしてアタマ二回を一緒に観た我が親友は、こういう女が嫌いだしそもそも柴田ロマンがあまり好きでないことがやっとわかった、と言っていました(笑)。彼女が額田を嫌うのは私もわかるし、私だって別に好きじゃないし現実にいても友達にならないと思います。でもこういうことってあると思うんだよね、こういう女ならこうなっちゃうと思うんだよね~、ってところに私は萌えるのです。萌えて物語を楽しめるのです。彼女は、みりおのファンだからということもあるかもしれないけれど、もっと真面目で潔癖なヒロイン像を物語に求めるタイプなんでしょう。それは現実の彼女の恋愛観とはけっこう違っていたりする。それがおもしろかったです。
額田は、少なくとも今回の額田は、私は潔癖どころかまったく潔くない女だと思います。でもただ流されているだけの浮気な、意志の弱い、か弱い、かわいそうな女では全然ない。彼女には最初から下心というか権力志向というか、自己実現したいしかもそれでチヤホヤされたい、という意志がちゃんとありましたし、そう描かれていました。大人になっての出番以降はそういうふうには明言しないけれど、そういう希望があることは十分描かれているし、そこに時の皇太子からの誘いがあったんだからそりゃ揺れるよねてか浮かれるよねってのが実によくわかる展開だったと思います。
でも一応は断ってみせろよ、と言うのがもちろん我が親友の意見なんだけれど、あそこで夫に「自分から断りなさい、そうすれば皇子も容赦してくれるよ」みたいに水向けられて、でも返事をしないで去る、ってのがザッツ・額田なんだとと思うんですよ。そら卑怯ですよ、もう心は揺れるどころか中大兄に傾きかけているのにそう言わないんだから、自分に正直ですらない。まったくもって潔くない。額田がここで何も言わなかったのは、大海人を傷つけたくないからとか人妻として許されないからとかそんな理由ではなく、心の奥底で望んでいた展開が突然降ってきてただとまどってちょっとキャパオーバー、みたいな感じの逃げだったんじゃないかなあ。また、答えず逃げることが許されるという計算ができた、というのもあると私は思う。
そこからは、姉は実家に帰るわ姪が嫁に来ることになるわで、さも玉突きで仕方なく動いているように見せて、本心ではしてやったりなんですよ。帝の妃となり宮廷一の華と才を咲かせ時めく、幼い日の夢を叶えてみせたんですもの万々歳の我が世の春なんですよ。でもそういう顔はしてみせない。そこがずるいし潔くない(笑)。でも、わかる。
そして蒲生野の野遊びで、ひとり馬を返して走ってきちゃう大海人に手を振っちゃうわけですよ。無視しろよ、背を向けろよ、たとえまだ恋しい気持ちがあったとしても嬉しくてもつらくても、応じるなよ一線引けよ、それが別れた女の矜持だろう、と我が親友は言います。でも額田はそんなタマじゃないんです。「会いたかった」とか語り合っちゃうし、花びらがとかなんとか言って相手にわざわざ触れちゃうし、そしたら男は抱き寄せちゃうに決まってんじゃん女が誘ってるんですよでも額田はそういう女なんですよそこがいいキャラクターなんだと思うんですよ! そりゃ大海人のことも嫌いになって別れたわけじゃないんだから、今でも愛情があるとかなんとかいろいろあるかもしれないけれど、ぶっちゃけ単に切れたくなかったんだよねこっちももったいなかったんだよね両方欲しかったんだよね、だって向こうは欲しがってくれるんだもんね、そら嬉しいよね応じるよね女なら!!
イヤ実際には我々はできないんですよ。同じ女といえどこんなふうにモテないってのを別にしても、それこそ潔くないから恥ずかしいから申し訳ないからそんなことしないスルーする、そしてあとでちょっともったいなかったなと悔やむ、とかがリアルだと思う。でも額田はのうのうとやってみせるからヒロインなのだと思うし、それでこそ物語のキャラクターなんだと思うのです。そこがいいんだと思うんですよね、そこにシビれるべきなんだと思うんですよね。それが萌える芝居なんだと思うのです。
そして柴田先生はそういう恋愛の泥臭さや卑怯さやみっともなさにこそロマンを見てこういう芝居を書き続けてきた作家です。そしてこういうヒロインのことを別に清廉潔白な公明正大な天使のようなキャラクターだとして描いていません。私はそこが好きなのです。それは昨今あちこちで暴露されつつあるミソジニーとは違って、むしろ女性への憧憬が高じたあまりのものであり、女性を真に等身大に扱っていないという点でそれはそれで問題なんだけれど、そしてそういうところが超現代的で最先端を行く我が親友の神経に障るのだろうけれど、私は古い昭和の犬なので大好物なんですよすんません、ということなんだと思うのです。だからもう私は本当に本当にこの芝居に耽溺したのでした。
しかし両パターン観ると、もちろん私がAから観たということもありますが、やはりAの方がバランスがいいというか、物語として据わりがいいのではないでしょうか。つまり大海人が主人公の悲劇として、きちんとまとまっている。中大兄は恋敵、ライバル、悪役というポジションに収まっている。ふたりの間で揺れつつも結果的に主人公を振るヒロインは、真のヒロインとしてまた悪女として陰の主役として燦然と輝いている…
一方Bパターンだと、キャラクターとしての在り方は基本的には変わっていないので、主人公の中大兄がやはりちょっと悪い人すぎて見える気がして、応援しづらくないですかね? そんな男にうっかり揺れちゃうヒロインも弱く見える気がしました。あと、ここをトップコンビがやるんだから、ここがくっつくのがあたりまえに見えちゃうという問題もあります。トップスターがトップ娘役に振られる衝撃、はない。
私は主人公にはもっと葛藤とかを感じてほしいし物語が盛り上がるためには障害が必要だと考えているので、中大兄がもっと、弟の妻を好きになってしまったことに対して罪悪感を持つとか、額田に対しても強く出る一方で実はけっこう自信がないとかひどいことしすぎたかな嫌われたかなと怯えるとか、鎌足ともっと口論になるとか、政治のためには兄弟が団結してみせることが必要なんだから弟と不仲になっている場合ではないのだがしかしあの女があきらめられないのだ…みたいに悩むとか、なんかとにかくもうちょっと悶えてほしかったんですけれど(^^;)、でも中大兄ってそういうキャラクターではないんですよね。となると本当に女に強引に迫って、それだけの魅力がある男だから仕方ないし女もあっさり落ちるんだけど、それだけ、みたいな話に見えなくもない。弟は怒って暴れるんだけれど、やっばりそれだけ、みたいな…
うーん、でももともとの初演はショーちゃん中大兄、オトミさん大海人ですよね。このときの花組はショーちゃんがアンドレでオトミさんがオスカルをやった『ベルばら』の前後ってことかな? ダブルトップ体制だったんですよね? だからニンで配しただけで、どっちが主人公ということはなかったのかなあ…オサの中大兄主人公版はどんな感じだったんでしょう、今度のスカステ放送が楽しみです。
ゆきちゃんが本当に本当に上手くて素晴らしくて、彼女あったればこその公演だったかなとすら思いました。過去には『
仮面のロマネスク』とか、私が期待しすぎて行ったせいかアレレ?な印象なときもあったのですが、今回はアムダリヤやシーラに並ぶ代表作になったかとと思います。
そしてもちろんみりおがよかった。みりおの歌は、だいもんとかまこっちゃんのような上手さとはまた違う上手さがありますよね。台詞の呂律は多少怪しくても歌詞は何故かクリア、というのもある。大海人の歌にはどれも泣かされました。中大兄は私はちょっと役としてつかめなくて、この人ホントに額田が好きなんかいな…とも思いましたが。二役は大変だったでしょうが、企画としてもとてもおもしろいものだったと思いますし、今の花組の布陣ありきのものだったろうので、その意味でも貴重な公演となりましたね。
れいちゃんは、私には天比古では役不足に見え、大海人では力不足に見えました。難しいものだなあ…歌はすごく良くなっていたし、お芝居にもホント情感があるんだけれど、みりおに対してどうしても引いてしまっているように見えたのかもしれません。私は本当はみりお大海人にれいちゃん中大兄という組み合わせが観てみたかったんだけれど、踏まえて考えると今はまだちょっと荷が重かったのかな…でもこれくらいの配役で振りきってやってみて、みりおに並び立つれいちゃんが観てみたかったです。
ちなつはそつなくなんでも本当に上手いですよね。天比古は額田より年長に見えたかな。そして菩薩像を傷つけずに終えたこともあり、怪我が癒えたら仏像作りを再開し小月とうまくやっていくのかも…と思えました。れいちゃんの天比古だともうあの怪我で腕も上がらず仏像作りどころか普通の暮らしもできなくなり、ボロボロに零落していくのが似合いに思えましたが…
なのでやはりちなつ中大兄だと、みりおに対する在り方とかもバランスが良く見えたかなーという印象でした。
べーちゃんがまた素晴らしかったですね! 鏡女王というのは立派なセカンド・ヒロインだと思いますし、かつ最終的には鎌足に再嫁して幸せになれたのではあるまいかという希望を託せる、素敵な女性キャラクターだと思います。それを過不足なく演じてくれました。鎌足との応酬の場面は、もちろん脚本が素晴らしいというのもあるんだけれど、あんな捨て台詞と悲しい哄笑、なかなかできませんよ。あざやかな場面でした。べーちゃんはいつまでも丸いし瑞々しいんだけれど、芝居はもう女役の域に入るものをしっかりできる娘役さんになりましたよね。好き!
あきらは、私にはちょっともの足りなかったかな…鎌足って私は大好きなキャラクターで、皇子さま大事と言いつつ実質的には中大兄を操っているくらいの、かつ色悪めいたところも出してもいいキャラクターだと思うのですが、今回はわりと小粒な単なる能吏に見えちゃった気がしました。ちなつ鎌足とかも観たかったかな…
あとは、さおたやじゅりあやたそやくみちゃんが本当にいい仕事をしていて、せのちゃんの有馬皇子も良くて、しぃちゃんやびっくがいいところでちゃんと歌って、くりすも華ちゃんもとても良くて、なんとも緊密な、本当にいい舞台でした。
全ツにしちゃうには寂しいと思うので、いいメンバーのときにまたこれくらいの別箱で再演していくといいのではないでしょうか。盆が回るのと同時にふたつのセリを上下させられるのは確か博多座だけだったと思うので、白雉の賀での三人の舞は立体的でドラマチックで、どこから見ても本当に圧巻でした。
レビュー・ファンタスティーク『Sante!!』は、
本公演もそんなに数を観たわけではなくまたいつもの定番のダイスケショーという印象ではありましたが、何しろ最近通っているのが『シト風』なので100万倍おもしろく見えましたよね! キキ、マイティーが抜けて専科特出で存在感を放っていたマギーと圭子お姉様も抜けたので、けっこう顔ぶれが変わっていたのも新鮮で楽しかったです。
五大美女はナミケーとあれんくんが参戦、フレッシュででもいい感じにオカマ感があってよかったです。それでこそ男役の女装!
そして博多座はまあまあ段数がある大階段があるからいいよね、引き抜きからの明転でパッと華やかに盛り上がるプロローグにゾクゾクしました。そして今回のアンジュもみんな可愛い! 特に最下の詩希すみれちゃんカワイイ可愛い!!
ブランシュがたそでルージュが鞠花ゆめちゃんってのもいい布陣。フルーティーな美女たちもみんな可愛いしオチのびっくも効いていました。ジゴロもみんな素敵よー! 3組デュエダンがこりのちゃん、しょみちゃんという起用になるというのもいいですねー。てかしょみちゃんめっちゃスタイルいいんですね今までちゃんと把握していませんでしたすんません!! 素晴らしい美脚でした。
シェフはあれんくんでアシスタントがくりすになってるのも可愛かった。そしてあきらとくみちゃん、さおたとじゅりあ…濃い…からのトップコンビ・デュエダンの歌手がびっくで圭子姉さんと同じ歌、でも男役歌唱、でも超絶美声、素晴らしい!
ちなつとべーちゃんもお似合いですが、しかしべーちゃんはまた丸さが戻ってきてしまったのでは…? れいちゃんのロケットボーイが続行で嬉しかったけれど、隣のカンカンのあれんくんがでっかくて目立ってたなー(笑)。
そしてみりおの新女装、素晴らしいよね! 当人はけっこうこういうのを嫌がるタイプだと聞いていますが、断らないでやるんだもんね偉いよね美しいよね! 男顔だと思うし私はみりおにあまり興味がないんだけれど(^^;)、それでもおお!と高揚しましたからね。大事!!
ところで私は星組大劇場も見てきてシンキワミにメロメロになり、同じノリでせのちゃんにもメロメロになったらどうしよう、と身構えていたあきらとのデュエットですが、とりあえず大丈夫でした。てかもっと痩せようよ…あとあのお衣装のパンツはもっと腰履きでいこう…お肉が乗っていたりしわやたるみを見たくないんだよがんばれ…(ToT)
マギーと圭子さんがやっていたマルセル・セルダンとエディット・ピアフの場面はちなつとべーちゃんになりましたが、ふたりとも持ち味違いだったので、がさっと新場面にするか、別の生徒の起用で観たかったかもしれません。
キリストの血みたいな場面はダイスケあるあるでくりすの歌を聴くのみなので、まあ、いいかな…
いわゆるエイト・シャルマン、ゆきちゃんに率いられる娘役8人場面は変わらず素晴らしすぎましたね花娘サイコーでしたね!
黒燕尾はもちろん素晴らしく、そしてトップコンビ・デュエダンの歌手にれいちゃんとは二番手スターの面目躍如ですよれいちゃんホント歌向上してるよー!!
エトワールはえみちゃんに更紗姉さんにうららちゃん、これまた別箱っぽくていいですね。華やかであっという間のショーで大満足でした。緞帳降り際の飲兵衛騒ぎも楽しいです。観劇後のごはんではもちろん楽しくサンテしました!
花組さん、充実期ですよね。次の本公演もおもしろいものでありますように…ダガハラダではありますが、この目で観るまでは信じて待っています!