駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

ふらり、ひっそり、ひとり。旅 その6/沖縄県

2023年05月31日 | 日記
 20年3月に、10年ごとにもらえる勤続30年のリフレッシュ休暇を2週間取って、親友とふたりで1週間ほどのニューヨーク旅行を計画していました。ところがコロナ禍にわかに雲行きが怪しくなり、キャンセル料金がかかる段になってあきらめ、途端に緊急事態宣言が発令され、ブロードウェイでも次々上演中止になって、判断はまあ正しかったのだろう、となったのですが…そのまま取得を先延ばしにするのもアレだしな、とこの5月後半に取得することにして、海外とは言わずともどこか南の島にしよう、と、沖縄は那覇しか行ったことがなかったので西表島に2泊、石垣島に2泊で出かけてきました。

 休暇3日目に出発。羽田空港は空いていました。お弁当を買ってチェックイン、席は窓側にしたのでグループは3。トランク持ち込みでしたがさすがに預ける人が多いのか、席上部の荷物入れが空いていて助かりました。満席ではないけれどそれなりに込んでいたかな? 隣に来た若いカップルがノーマスクで、でもほぼおしゃべりせず携帯の動画に見入っていたのでこれまたラッキー。というかこちらも静かに爆睡…
 ドリンクサービスに起きてスープをもらい、お弁当でランチにしましたが、CAさんたちは何故かサービスのときだけマスクを外していました。サービス業は笑顔が云々、とか言われているとも聞きますが、CAはサービス業というより安全保安員さんでしょうし、飲食を扱うときほどマスクありでいいのでは…
 出発は使用機到着遅れで十分ほど押しましたが、到着はオンタイムでした。石垣島空港を出ると曇天、風なし、蒸し暑い!
 離島ターミナル行きの路線バスに乗車。50分ほどで到着。両替機の調子が悪く、現金オンリーとのことで、私はちょうどの額の手持ち現金がなかったため、なんと10円だけのお支払いで下ろしてくれました。ええんかいな…
 バスでフェリーの割引券をもらったのをコロッと忘れて、自動券売機でクレカで乗船券を購入してしまいました。窓口で提示したら割り引いてくれたんだろうに…乗船時間まで売店などぶらつき、ビールやさんぴん茶のペットボトル、おやつ用のサーターアンダギーなど買い込んで、島パインのアイスクリームで一服。
 西表島へのフェリーは、冷房が効いているらしい客室もありましたが、外の座席に座って海風を堪能。これまた50分ほどで上原港に到着。フェリー会社のマイクロバスで宿まで送迎してくれるとのことで、さくっと乗り込み、一番に回ってもらって、18時前にはお宿に落ちついていました。西だからか南だからか日の入りが遅く、曇天ながらまだまだ昼間のような明るさでした。ま、この日は1日移動してきただけのようなものでしたね。
 お宿は親友に評判を聞いていた民宿で、先客がお庭のベンチでのんびり酒盛りをしていました。六畳の和室に荷物を広げ、19時に予約しておいた近所のレストランというか居酒屋へぷらぷらお散歩がてら向かいました。なかなか小洒落たお店で、カウンターへ案内していただきました。オリオンビール、シークァーサーサワー、もずくの天ぷらにゴーヤチャンプルーでお腹いっぱい。ひとりだと品数がチャレンジできないのが残念ですね…
 翌日はシュノーケリングの1日ツアーを予約していたのですが、天候不良の予報で中止、との連絡をいただき、ラッシュガードだのなんだの用意してきたのにー!としょぼん。カヌーとトレッキングのコースなら、と言われたのですが、ピンとこなかったのでパスすることにして、そうすると宿には朝食しかついていなくて夕食は送迎つきレストランを予約していたのですが昼が困るなと思い(常に食事のことを考えている…)、美味しいと聞いた炒飯もテイクアウト。
 帰りは街灯もまばらで道路際ですらまあまあ暗く、三日月は綺麗でしたが、念のためと手元に出しておいたLED懐中電灯が大活躍でした。
 庭のベンチに寝っ転がると、降るような…とまでは言わないまでもけっこうな星空で、もっと堪能していたかったのですがなんせ風もなく暑い! 冷房の効いた部屋に戻り、シャワーを浴びているうちに、風が強くなってスコールも何度かあり、これは確かに明日は荒天なのかな、と思わされました。
 朝食が早いこともあり、早めに床についたのですが、宿の口コミにあったとおり煎餅布団でモロ畳ダイレクトな感じで、ゴソゴソ寝返りを繰り返し、ろくろく眠れないままに朝になったのでした…

 二日目。七時半少し前にアラームで起きて、洗面。お宿の朝ごはんをいただき、あとはお庭のベンチとハンモックでのんびりポメラ、読書、ときどきインスタントコーヒーとサーターアンダギーのおやつ。曇天で風があり、半袖Tシャツでは肌寒いくらいで、サムホールもある長袖のラッシュガードをウィンドブレーカー代わりに着ました。
 お昼は昨夜テイクアウトした炒飯をお宿の電子レンジで温めて、フェリーターミナルで買った黒糖ビールと、お庭でいただきました。
 宿はわりと辺鄙なところにあり、歩いて行けるごはん屋さんは昨日のお店だけで、あとは送迎サービスがあるお店を何軒か紹介してもらっていました。ただ、満席だったりこの日が定休日だったりひとりだと送迎できないと言われたりでハズレが多く、ようやく予約できた店は宿までは迎えに行けないが近くのバス停まで出てきてくれればピックアップする、と言ってくれました。歩いて十分ほどだと聞かされていましたが、グーグルマップによると二十五分と出ているところで、私は歩くのは早いし苦にしませんが、さすがにこれは詐欺ではと思いましたし、行きはともかく帰りは道路添いでも街灯がまばらでほぼ真っ暗な中を懐中電灯だけで三十分近く歩くのかと思うと嫌になり、予約をキャンセルして昨日のお店で再び夜ごはん。しかも予約していたお店は予約時間を一時間間違えていて、ドライバーさんが私がバス停にいないと電話をキャンセルと入れ違いによこしたようでしたが、私は歩いていて電話に気づきませんでした。というか何故留守電に伝言を残さないんだ、話が進まないだろうが…なので蹴って正解なお店だったな、と思うことにして、オリオンビールとマンゴーハイ、鶏の唐揚げとフライドポテトという居酒屋メニューで満足したのでした。
 この日は曇天で三日月は雲間にちょっと見えましたが、星は昨夜ほどではなく、早々にシャワーを浴びて、お宿のリビングにあった『テルマエロマエ』を部屋で一気読みして(とはいえ五巻までしかなかったのですが…)、就寝。煎餅布団は、上部を折り返して二重にして背中に当て、私には高すぎる枕は布団の外に出して頭を乗せる…という改善策でしのぎました。が、昼間も昼寝しなかったけど夜も全然寝つけず、朝方うつらうつらしたかな、程度の睡眠でした…

 三日目。七時半少し前に起きて洗面、朝ごはん。晴天、でも雲もあってそんなに暑くはない感じ。荷造りしてチェックアウトし、9時半のフェリーに乗るべく港まで送っていただきました。行きで使用し忘れた割引券を使おうとしたら、往路でしか使えないと言われてしょぼん…乗船券を買い、行きよりずいぶん大きい立派なフェリーの客室に入り、サーターアンダギーをひとつ食べてあとは爆睡…鳩間島に寄る航路で、七十五分ほどで石垣島離島ターミナルへ戻りました。
 コインロッカーにトランクを預けて、ユーグレナモールにお買い物に出てみました。一応、職場へちんすこうとか、仕事の代理を頼んだ同僚にバスソルトやお茶を買い、自分でもいろいろ買って、持参のエコバッグがパンパンになりました。途中、夜はバーになるっぽいカフェでマンゴースムージーで一服。
 お昼はカフェふうのレストランに入ってみて、石垣牛のハンバーグランチにしました。肉ニクしくて美味でした。前菜の沖縄ふうおばんざいも美味、満足。
 とりたてて観光するようなスポットはない感じでしたが(なんせぐうたらしに来たのであまり下調べをしておらず、自分が知らないだけだったらすみません…)、腹ごなしにお散歩しよう、とグーグルマップにあった公園を目指してみました。すると、石垣市核廃絶平和都市宣言なる石碑があったり、憲法九条の碑があったり、世界平和の鐘があったりするような公園でした。ちゃんとしてよねG7、と思うなど…
 さすがに滝汗をかいたので、良さげな喫茶店に入って杏仁プリンで一服。ホントはかき氷みたいなものが食べたかった…ターミナルに戻ってトランクを出し、いい時間の路線バスがないことがわかっていたのでタクシーに十分ほど乗って、ここから二泊するリゾートホテルにチェックイン。こじんまりしていてとても綺麗で静か。ツインのシングルユースで、テラスとお庭とその向こうに海が見えて、とても良きでした。のんびり荷解きと昼風呂。
 夜はお宿のレストランの島人会席なるものを予約しておいたので、予約時間に伺いましたが、なんと貸切でした、すみません…しかしこれが! ジーマミ豆腐、セーイカ紅麹漬け、ナーベラー梅肉和えなどの前菜から、お刺身、煮物、グルクンの竜田揚げにサラダ仕立ての八重山蕎麦、石垣牛のしゃぶしゃぶ鍋に茶碗蒸し、ごはん、ハイビスカスとパパイヤの香の物にドラゴンフルーツのシャーベットまで! 何もかもがめちゃめちゃ美味だったのでした!! 追加した泡盛モヒートも進もうというものです。いやー大満足でした。私が食べるペースに合わせて次のお皿をいい感じで出してくれるホスピタリティもたまりませんでした。
 ところでこのホテルには地下にライブラリーがあるとのことだったので、覗きに行ってみたら少し前の名作、ヒット作の漫画の揃えが良く、「おおおぉ…」となりました。滞在中に読み終えられる気がしない、と思いつつも、里中満智子『天上の虹』(講談社漫画文庫全11巻)をアタマ数冊部屋に持ち込み、インスタントコーヒーなどいただきながら読みふけって、就寝。フカフカのマットレスがありがたや…

 四日目。八時少し前にアラームで起きて洗面、お宿の朝ごはん。今回も貸切で、もしかして昨夜の宿泊は私だけだったのかも…ごはんはこれまた何もかもが美味しい和定食でした。
 十時前の路線バスまで、部屋でぐーたら漫画を読み進め、お宿の案内では徒歩二分となっていた最寄りバス停までぷらぷら向かいましたが、まあまあ早足の私でもたっぷり五分はかかる距離でした。こういう詐称はあまりよろしくないと思うぞ。
 バスは少し遅れて来て、でも観光客がまばらに乗っているだけで座れました。まあまあ田舎道をガンガン進み、二十分ほど行った川平公園前で下車。夕方の戻りの路線バスまで(なんと日に六本ですから…)川平湾でのんびり…などと考えていたのですが、公園を抜けて浜に出て、良く晴れて海はエメラルドグリーンでそりゃ綺麗なのですが、遊泳禁止だしグラスボードなどには乗る気がなく(アレっておもしろいですか…?と考えるノリの悪い私)、砂浜や遊歩道を散歩したらもうやることがないのでした! とりあえず売店でマンゴーフラッペなどつつきつつ作戦を練り、ソーキ蕎麦のランチを済ませて、客引きにいたりいなかったりするタクシーを運良く捕まえてシーサイドホテルまで行ってもらいました。こちらはプールなんかもあるファミリー向きっぽい大きなホテルで、ロビーも広々。涼ませてもらい、売店でお買い物してお金も落として、周りのビーチをまたまたのんびり散策。意外に人気がなくて、まだ観光シーズンとは言えないのかもしれません。川平湾より開けていてよかったような…
 ホテルの玄関に来る一四時前の路線バスに乗って一度お宿に戻り、シャワーと、初日にフェリーターミナルで買ったオリオンビールで漫画(笑)。英気を養って、夕方の路線バスで市街地へ出て、昨日見かけて気になっていたハンバーガー屋さんで夕ごはん。さらに雪塩ソフトクリームもぺろりとたいらげ、もうバスは終わっているので、タクシーでお宿の向かいにあるゴージャスホテルまで戻りました。途中、海にもう沈む、というトマトみたいな夕陽が見られて、タクシーの運転手さんによれば意外に雲が多くて日の入りはなかなか見られないので珍しい、と言われてご満悦。
 ゴージャスホテルのプールバーでベタなカクテルなどいただいて夕涼み。すっかり暗くなったので、またまた懐中電灯を手に、向かいと言えど八分程度は歩くかな、という感じでお宿に戻りました。
 長風呂して漫画。持統天皇の話、ということは知っていましたが、『あかねさす紫の花』くらいの知識しかない身としては、あのあとにこんなドラマが…ともうワクテカでした。

 五日目。八時前に起きて洗面、お宿の朝ごはんは昨日とちょこちょこ違っていて気遣いが嬉しい。そして今朝はひとり客が他にふたりいらっしゃいました。
 部屋に戻って荷造りし、最後までがんばったのですが漫画はあと一冊を残してタイムアップ。もう譲位もしたし、あとは崩御だけかなとは思えど気になる…
 が、十時チェックアウト、読んでおいたタクシーで一路石垣島空港へ。有名らしいミルミル本舗でジェラートを食べて、機内ランチ用にポーク玉子おにぎりのお弁当を買って、すんなり搭乗。今回もお隣の男性ふたり組はノーマスクでしたが、スマホでアニメに見入っていてほぼノーおしゃべりだったのでよかったです。お弁当を食べて爆睡。
 出発も到着も五分押しでしたが、揺れることもなく羽田に戻り、夕方には自宅に無事戻って荷解きしていました。なんかすごい台風が近づいていそう、とのことでしたが、沖縄が影響を受けるのは三日後くらいでは、と言われていましたし、フェリーも飛行機も特に問題なく予定どおり運行されて助かりました。

 思えば、二日目のシュノーケルの予約が飛んだ時点で、四日目にどこかで似たようなシュノーケル・ツアーを頼めばよかったのでしょうが、私はわりとそういう臨機応変なことが苦手なのでした…なのでせっかくの沖縄といえど泳ぎもせず、ただぷらぷらして海を眺めて帰ってきただけみたいになっちゃいましたが、それでもひとりで、レンタカーを借りるでもなく(運転免許を持っていないので)公共機関や徒歩で行ける範囲で、それなりに巡ってこれて楽しかったので、満足です。交通事故にもスリにも遭いませんでしたしね。
 観光時は、なんせ暑いし人がまばらなのもあって、久々にマスクを外して歩きました。日焼け対策としてはしていた方がいいんでしょうけれど…晴れてもドピーカンな日はなく、雲が適度にあったのも助かりました。それでも四日目の夕方にお宿に戻ったときは顔がすでに赤く熱く、お土産用に買ったシートマスクですぐ冷やして保湿に努めました。
 ずっと、斜めがけできてプログラムが入れられる大きさの帆布のトートバッグみたいなものを探していたのですが、ユーグレナモールでうっかり出会ってしまい、購入してしまったのもよき思い出です。ちょっと大きいんだけど用途はバッチリ。お土産に買ったブルーシール・アイスクリームやご当地すみっコの缶バッジなどをさっそく付けて、うちの子にしました。旅とは、おもしろい出会いがあるものです。
 次回はまだノープランです、そろそろ行ったことのない県に行きたいものですが、さて…


〈旅のお小遣い帳〉
往復飛行機&石垣島二泊フリーツアー 71600円
西表民宿二泊 13000円
石垣島~西表島フェリー(往復) 5920円
路線バス一日フリーパス券 1000円
タクシー代(4回) 6980円
食事&おやつ&飲み物代 26682円
お土産代 15619円






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ふらり、ひっそり、ひとり。旅 その5/北海道

2023年05月26日 | 日記
 全ツ札幌や小樽、函館あたりの観光はもちろん、私は中央競馬に熱くハマっていた数年間があったので日高地方などにも通っていたことがあり、また十勝のどさんこ外乗ツアーに参加したこともありました。なので行ったことがない街を選びたい、と稚内を極める!みたいなツアーにまたまたひとり参加してきました。ときは3月アタマ、まだまだ寒かろう時期で、寒い季節に寒いところに行ってみたかったのです。防寒支度も念入りにして行きましたが、意外や好天に恵まれて気温が高く、あまり「しばれるのぉ~」感が味わえなかったのは残念でした。
 JRと京急を乗り継いで集合場所の羽田空港へ。やや早めに着いてしまったので千疋屋のお高いフルーツサンドをむしゃむしゃし、さらに機内でいただくお弁当を買って(さすがにおむすびメインの小体なものにしました)10時前の集合に向かい、飛行機のチケットをいただいて、各自機内へ。席は行きは窓側、帰りは通路側と配慮されていたようでした。
 稚内空港で現地ガイドさんと落ち合って、大型バスへ。まずは宗谷岬と宗谷岬神社へ。前日までの雪が積もってあちこち凍っていましたが、気温はマイナス一度くらいで、よく晴れて気持ちがよかったです。いい気になって自撮りもたくさんしましたが、新調した眼鏡が偏光レンズで紫外線を浴びるとサングラスになる優れもので、目には優しく快適だったのですが、ニットキャップにサングラスにマスクという見事な強盗スタイルの写真がたくさん仕上がったのでした…
 売店でハスカップの香りのハンドクリームなどを自分土産に購入。
 続いてノシャップ岬へ。こちらには何故か(説明書きがあったのかも…よく読んでなくてすみません)イルカのモニュメントがあり、まだ初日前でしたが宝塚歌劇宙組『カジロワ』がイルカ押しらしいと聞いていたので記念撮影…
 てかそこらを鹿の親子がけっこうのんびり悠々歩き回っていて、まあまあでっかかったので、なかなかおもしろかったです。
 さらにバスは北防波堤ドームへ。旧樺太航路の発着場だったところに作られた防波堤だそうな。北海道遺産。なんか映えた写真が撮れました(笑)。
 お宿はそこからすぐの、宗谷湾を望む最北シティホテル、だそうな。とても綺麗でよかったです。チェックイン、解散して各自お部屋へ。
 夕食まで時間があったので、街歩きをしようと出かけたのですが、歩道の除雪が甘い! そうですこっちの人は徒歩なんかではどこにも行かずどんな短い距離でも車を使うのでした。お店は店の前くらい除雪してよ、とも思いましたが、観光的にオフシーズンだからか閉まっている店が多く、アーケード街も見事なシャッター商店街なのでした…それでも小さな喫茶店が開いていたので、コーヒーとチーズケーキで一服。さらにみんな大好きセイコーマートで部屋呑み用の缶チューハイや酔い冷まし用の牛乳、とうもろこしのスナック菓子など買い込んで帰宿。
 夕食はホテルのレストランで、半身の毛蟹や宗谷黒牛の陶板焼きなどの和食膳。蛸しゃぶが美味しかった! グラスの白ワインを追加。
 夜はライトアップされるという防波堤ドームを見に行きたい気もあったのですが、たいした距離ではなかったのですがあの除雪の怪しい歩道を夜歩いたら絶対どこかで転んで怪我する、と思ったのでおとなしく部屋でバスルームを使って、お腹も空かなかったので部屋飲みはせず、寝てしまいました。
 翌日はホテルのバイキング朝食のあと、チェックアウト。宮司常駐の最北神社だという北門神社へお参りし、道の駅わっかないでお買い物。
 その後、日本最北の駅・稚内駅からローカル線の宗谷本線に乗車し、最北の木造駅・抜海駅へ。記念入場券、買いましたよね…ここは日本海沿いの絶景オロロンラインと言われているそうで、この日もよく晴れて利尻富士がよく見えて、列車はそこだけ徐行してくれました。優しい…! 鉄分も満たされました。
 稚内副港市場でまたまたお買い物タイム。ランチに食堂でホタテラーメンをいただき、実家にお土産をあれこれ送る手配をして、ソフトクリームもぺろりと平らげ、あとは一路稚内空港へ。昼過ぎの便で帰京し、夕方には自宅にいる、コンパクトな旅でした。
 夏の礼文なんかも行ってみたいですねー、でもお高いんですってねー…


〈旅のお小遣い帳〉
ツアー代金 36640円
最寄り駅から羽田空港までの運賃 556円×2(往復分)
フルーツサンド 1620円
鶏唐小結び(お弁当) 880円
ハンドクリーム(自分土産) 660円×2
コーヒーとチーズケーキ 600円
セイコーマートでのおつまみその他買い出し、お土産もろもろ含む 2753円
夕食の白ワイン 700円
稚内駅記念入場券 200円
道の駅のお土産類 1372円
海の駅のお土産類 1237円
ホタテラーメン 1200円
ソフトクリーム 400円




 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『不死鳥よ波濤を越えて』

2023年05月21日 | 観劇記/タイトルは行
 明治座、2023年5月20日11時半。

 平家は全盛の時を迎え、安芸国・厳島神社では桜が咲き誇り、花見の宴が催されている。白拍子の陽炎(市川笑也)をはじめとするきらびやかな女たちや、佐伯義澄(中村福之助)たち四天王が舞う中、龍をいただく船に乗って平知盛(この日から市川團子)とその想い者である白拍子の若狭(中村壱太郎)が現れる。皆はこの栄華がいつまでも続くよう祈って舞うが…
 作/植田紳爾、演出・振付/藤間勘十郎、振付/市川猿之助、補綴/戸部和久、音楽/寺田瀧雄、玉麻尚一、SADA、橋本賢悟、作詞/田中傳左衛門。明治座百五十周年記念市川猿之助奮闘公演、昼の部の歌舞伎スペクタクル。全二幕。

 先日、昼夜通しで観たときの感想はこちら
 その後、まだ詳細がわからないのでなんとも…ですが、猿之助さんが休演し、夜の部は花形歌舞伎で主演が予定されていた中村隼人が代役主演して再開し、夜の部はなんと出演してもいない市川團子の代役主演で再開されることになりました。演目としておもしろかったこともあり、観られるなら追加して観ておく…?と確認したら自分が行ける日がもう再開初日しかなく、しかもお安いお席から売れるものなのでもう一等席しか残っていませんでしたが、えいやっと手配したらその数時間後にはもう完売していたようで、あわわわわ…となりました。
 こんな代役、抜擢は無謀だ、とか残酷だ、とかひどい、という見方もあるのかもしれません。でも少なくとも彼はお稽古をしっかり見ていたか、舞台袖から見学していてきちんと研究できていたのではないでしょうか。お稽古熱心な人だと聞くし、普段からそういう心構えでいて、だからいざ話を振られたときに、もちろん悩んだり迷ったりしたでしょうけれど、やります、と応えられたのではないでしょうか。イヤ全然なんにもホントに知らないので、単なる憶測ですが。通しの舞台稽古は休演日に一度やっただけ、との報道もあったようですが。
 でも歌舞伎はコロナ休演がひどかったときも、かなりランボーな代役を立ててすぐさま公演を再開していましたし、払い戻しなどは別途ちゃんとしているにせよ(よそのジャンルより役者につくファンが多そうですものね)、とにかくショー・マスト・ゴー・オンで、芝居小屋を開け続けることに矜持を持っているのでしょう。この公演も、明治座の百五十周年の記念公演、ということもありますが、いろいろな風評や憶測を吹き飛ばすためにも、是非とも再開、続行したかったのでしょう。
 夜は新公主演が代役する形だけど、昼は路線といえどまだ研二くらいの下級生を別箱から急遽引っ張ってきて主役に据えるようなものだ…と、宝塚歌劇にたとえるなら言えるかもしれません。たとえば全ツでBJの陰をやっていたわかくんが急にエルピディイオをやらされるとか、『ストルーエンセ』に出ていたエンリコくんが急に『ボニクラ』に呼ばれてクライドをやるようなものでしょうか。たとえお手伝いしています、みたいなことがあっても、そりゃランボーだろう、となりますよね…私は歌舞伎のおうちのことは全然わかっていないのですが、御曹司なら御曹司だけに、そんな抜擢でいいのかよ、他にもっと適任もいるだろうよ、という見方だってあるのでしょう。御曹司といえどそもそもまだまだ若者、もっとゆっくりのんびり育ててやってくださいよ、ということだってあります。
 それでも、やる、となったらファンは応援するしかないし、ガタガタ言うより観に行ってあげるのが一番、なんですよね。私は、まだ大丈夫です、とか言い続けて逃げている、ファンの風上にも置けない、感じの悪いミーハー周辺オタクですが、ここは即決した自分を褒めたいし、たまたま予定が開けられたご縁を喜びたいです。
 開演前も終演後も、劇場の前にはテレビのレポーターらしき人が来ていましたが、華麗にスルーしました。もちろん彼らが捕まえたがるのはお着物などお召しのいかにも歌舞伎ファンなマダムな方々でしょうが、仮にも報道しようというなら実際に観ればいいだろう、と思います。私でも取れたチケットを彼らが取れないわけはない。その労を惜しんで、「どうでしたか?」とか人に尋ねてその感想で番組を作ろうなどとは片腹痛い。実際に観劇してちゃんと記事にした記者もいたそうで、その記事によればイヤホンガイドも修正が入っていたそうです。私はイヤホンガイドを利用したことがないので、これは盲点でした。手厚いなあ、ちゃんとしているなあ。
 観られて、よかったです。團子丈の活躍が観られて、というのもありますが、私は常にスターより作品、というタイプなので、二度観ることで、前回の記憶や印象が改めて確認できて、更新できて、気づけなかったことにも気づけて、深く刻まれいろいろ考えられたのがよかったのです。そしてこれは歌舞伎でも宝塚レビューでもないけれど、植田歌舞伎としてやはりよくできているし、エンタメで、おもしろく、そこにこんなメタ的要素が重なってしまって、そういう見方はいけないんだろうけれどやはりどうしても刺さってしまって、とても印象深い観劇になりました。客席の集中度も高く、お茶の間のようにお仲間としゃべるご老人やお弁当だかなんだかビニール袋をずっとガサガサいわせているような人もほぼなく、大向こうもよく飛び(ホントにいいところに入って、胸がすきました。絶対に台詞に被らせない、キメるところや出や引っ込みのちょうどいいところに綺麗にかかる。ちゃんと観ている人の、まさしくオタファン芸です)、そして一幕も二幕もよくすすり泣きがしていました。まあさすが植G歌舞伎でベタだけど泣ける作りなわけで、うっかりそれに乗せられるのは悔しいのですが、でも気持ちよく泣いてしまった方が楽…というのもありますよね(^^;)。
 最初から今日が観劇予定だった人、初日から何度も観ていて今日もいるという人、今日が初日だった人、あえて今日観に来た人…いろいろだったでしょうが、温かく、そしてとても真剣な空気だったと思いました。ヘンに甘やかすことはしない、ちゃんと観る、冷笑しない、盛り上げる…そんな気合いを感じました。客席かくあれかし、です。

 BGから入るので、「みなさま、本日はようこそ…」って開演アナウンスが入りそうな気がついしちゃうんですよね。そして「♪祇園精舎の鐘の声…」のコーラスになる。ああ、植Gってカンジ…客席が暗くなり、緞帳が上がって黒カーテンにタイトル文字が出て、そしてチョンパで幕開きです。センターは二番手娘役格、居並ぶ女形に女優さん(今回は女性の出演者もいるのでした)、そして若手スター格の四天王が出てきて舞い踊り、からのトップコンビのセリ上がり、キター!感がたまりません。團子知盛のきりりと麗しい公達ぶり、それはそれは素晴らしい真ん中力がありました。照明を跳ね返す強いオーラがありました。臆していない、やったるで!感が確かにあったと思いました。
 歌は丁寧に歌っていて、まあ若者のカラオケレベルなのかもしれませんが、それでも本役よりお上手。ミュージカルを日々観ている身からすると、腹筋が足りなくて声が支えられないんだな、台詞の発声とは鍛えるところが違うのかな、など思いましたが、でも十分です。歌詞に「♪永遠の彼方に羽ばたく」みたいなくだりがあり、また刺さります。彼はまだ若く継がされる身だけれど、その彼もまたいずれ息子だの甥だのなんだのに永遠をつないでいかなければならない、そういう過酷な芸能に携わっている身なのだ、と改めて思わされました。それでいいかと悪いとかは、私には語れません。
 デュエダン(笑)も美しい。壱太郎若狭が上級生娘役として、リードとまでは言わないもののよく目を合わせてしっかり沿っているのがよくわかりました。美しい、よくできたプロローグです。
 からの、炎の紗幕が下りて、白拍子はじめ平家の女たちが源氏の兵士に襲われるカーテン前芝居になるのですが、小太刀で果敢に戦う女たちがとてもカッコいいんですよね。植Gには常にそこはかとないミソジニーが香るわけですが(この年代の男性だから仕方ないとはいえ)、これは意外でした。まあ歌舞伎の女形さんたちは要するに男性で立ち廻りもできるので…ということなのかもしれませんが。
 そして花道、四天王たちが出てきて、さらに髪を振り乱した知盛が出てきて大立ち回り。これも手がしっかり入っていましたね。殺陣は斬られる方が上手ければなんとでもなる、という部分もあるのでしょうが、それでもやはりメインのスターがちゃんとしていないとカッコよく決まらないものでしょう。実に凜々しく、シャープでよかったです。追いつめられて、船端から海中へ…ここのドボン!な飛び込み方も、本役より良かった気がしました。さすが若者、こんなデカいお衣装でも身体が利くのです。
 そしていわゆる碇知盛場面、これも碇の持ち上げ方が本当にリアルで、鬼気迫るものがありました。気持ちよく拍手しちゃいましたねー…
 一方、若狭は命を絶とうとしたものの、源氏の兵に囚われて…と話は進むわけですが、前回私が一幕で最も印象的に感じたのが船宿での陽炎のくだりだったので(酔うと体温上がって蚊に刺されるんだよね知ってる…!ってなりました)、正直言って全体としては知盛はただ真ん中に白くいるだけで、ドラマは周りの役者が回す構造だから、まあ代役でもできるんじゃね?とか考えていたのですよ。でもやはりそんなことはなかった。通盛(中村鴈治郎)のおもの狂いのくだりといい、若狭と再会して以降の一連のくだりといい、知盛には台詞も他者との掛け合いもしっかりあってそらタイヘンだったのでした。でもそれを、團子知盛はとても丁寧に、そしてときに熱く、きっちり演じている印象でした。お友達が他の公演の初日によく聞こえたというプロンプなんかも全然なかったです。台詞回しが本役そっくり、といっているツイートも見ましたが、私は猿之助知盛をそこまでしっかり覚えていなかったので…周りに比べるとずいぶんゆっくり話している印象で、それが澤瀉屋ふうということなのかなあ、などと思ったりしました。何もわかっていなくてすみません。訥々と実直で、でもさわやかな人物像を演じてみせていたと感じました。
 女は不浄だから船には乗せられない、と宗の水兵に言われて、若狭が行けないのなら自分も行かない、ここで静かに暮らそう、なんならここで死のう、と言い出すのは、やはり若い團子知盛の方が自然にも思えました。だからこそ若狭が、身を賭してでも知盛を行かせようとする流れに説得力が出ていました。でも若狭もあっさりそうするわけではなく、師の尼(市川笑三郎)たちに身を引けと言われたときにはちゃんと嫌がる、のがまたいいんですよね。そうよ、そんな簡単に割り切れるものじゃないですよ。でも一度覚悟を決めたら、ここまで持ってきたんかい!とはつっこみたくなる装束にきちんと着替えて、美しい姿で別れを告げ、扇を形見に投げ捨てて、崖から飛び降りるのでした…
 屋島の侘び住まいでの「死ぬよりつらい生き様を…」みたいな台詞もなかなか刺さりましたが、ここでも若狭の死を嘆く慟哭のすさまじさが、またメタに刺さりましたねえぇ…ところでこの断崖での慟哭は『俊寛』か何かに通じているとかなんとか? これまた教養がなく、私がよくわかっていなくてすみません…
 ここで終わってもいい気もしますが、歌をつけちゃうところがまあおもろいわけですが、スモークの中、大盛り上がりで幕、良き。さすが植田歌舞伎です。
 二幕は、主題歌を胡弓か何かで演奏する中華風のBGから始めて、金王宮の宴から始めるのがまた上手い。いかにもタカラヅカ、植田レビュー歌舞伎です。ここも二番手娘役格のセンターから始めて、トップ娘役とのシンメになる美しさが良き。くらげとじゅりちゃんみたいなものです。二役の壱太郎は一幕とはメイクも変えて、ホントいい感じでした。
 二幕も芝居の白眉は武完(下村青)と紫蘭(中村壱太郎)のくだりだろう、と思っていたわけですが、その前の知盛と紫蘭のくだりもやっぱりよかったです。お礼は言う、ご挨拶も改めてする、誠意は尽くす、だがそれ以上の馴れ合いはしない、まして色恋などとんでもない、亡き若狭に誓った愛があるから…なんてのが似合う清廉な若者っぷり、素敵でした。そういえばここを始め白のお衣装三着、本役より細身でタッパはあるはずですが松竹のお衣装部さんもさすがなんですね、ぴったりフィットしていてマントの丈もちょうどよかったです。
 その後の城外の幕舎場面以降はもうノンストップなわけですが、乾竜(中村隼人)が武完に阿るようで実は…というのも上手い。だからこそ、宗と金の関係を悪くさせたくなくて、自分が死のう、と知盛がなるわけですが、それに抗う乾竜の台詞が、ちょっと足りなくないですかね? 役者が飛ばしているんじゃなくて、脚本に穴がある気がしました。それとも私が聞き取れなかっただけ?
 武完には私が殺す、と言っておきながら、知盛を逃がそうとする乾竜。金の若き王、衛紹王(中村米吉)もそうしてくれと言う。けれど知盛は、それで宗と金の関係がこじれるのは本意ではないから、自分が死のう、乾竜よ殺してくれ、と言う。いやー昔の人なら考えそうなことだし、それを取り入れてベタに作る植Gホントすごいしひどい…そこで多分、乾竜はそれを嫌がって、だったらむしろ自分が死ぬ、みたいなことを言うんじゃないのかなあ? だから知盛が一段ギアが入って激高するんじゃないかなあ? その乾竜の台詞がないように、私には二度の観劇とも聞こえたのでした。日本の敗残の一武将のために宗の宰相の息子が金で死んだらそれこそ国際問題なわけで、知盛はそれを止めるのです。さらには、殉死しようとする部下たちも止める。「死んではならぬ! 生き延びてこそ…」と訴える。そりゃ満場、涙、涙でしょう…
 なおもためらう乾竜を見て、知盛はあえて斬りつける。つい応戦してしまう乾竜。形は違えどちょっと『星逢一夜』を思い出しましたよね…でも我に返った乾竜は剣を握る手を緩める、そこで知盛は乾竜の剣を握って我が身に刺す。二番手の腕の中で息絶えるトップスターさまですよ…! 團子知盛は二階上手席に若狭を見て手を伸ばすので、オペラ越しに目が合って私はもう若狭になりました。てか涙も鼻水も光る大熱演でした。一方で、こときれるにせよ再び乾竜に抱き寄せられるにせよ、常に綺麗な胡座で、身体が柔らかいしお稽古が身に染みついているのだな…などと感心したりもしました。
 カーテン前で王と乾竜、四天王が惜別の想いと未来を語り(歌之介も大号泣)、再び幕が開くとトップコンビのデュエダンでフィナーレ突入です。團子がハケると壱太郎の左右に笑也、笑三郎が並び、これははることくらっち、とか思いましたよね…! 娘役群舞になって壱太郎はハケ、そこからはバレード。四天王、隼人、ラインナップで主題歌合唱、そしてスッポンから不死鳥となった白と金のお衣装で團子知盛の宙乗り、天井から舞い振る紙吹雪…そら泣くよね! 泣かいでか!!

 終演後、客席が明るくなって規制退場のアナウンスが入っても、拍手は鳴り止まず、ついにはスタオベになりました。とはいえ誰かがカテコをやれるようなものでもないのでしょう、スタオベは五分以上続いていましたが、緞帳前に黒カーテンが降りて、舞台では早転換がなされ夜の部の準備が始まったのだろう、と察せられて、自然と散会となりました。でもあの拍手が楽屋に、舞台袖に、スタッフさんたちに届いていたらいいと思います。よくがんばったね、というねぎらいも、本当によかった感動した、という賛美も、明日からもこれからもがんばれ、という激励も、すべて込められていた拍手だったと思いました。実は私はオペラばりにブーイングとかあったらどうしよう、とかまで心配したりもしたのですが、そんなことは全然ありませんでした。気持ちよく退場できました、本当にお疲れ様でした。
 もちろんまだまだこれからが大変で、ここから千秋楽までコンディションを保ってきちんと公演を続けるのも大変でしょうが大事なことですし、体調をキープして、よく寝てよく食べて、完走できるようお祈りしています。さらに今後の公演予定だっていろいろ狂ってくるのかもしれませんが、いろいろ思惑もありつつもみんなで上手く調整してくれることを願ってやみません。ああ、踊りだからパスかな、とか思っていた三越劇場の歌舞伎舞踊、どうしよう…てかもうさすがにチケットがないかな?
 そして猿之助さん、無事の復帰をお祈りしています。私はホントーにただの素人ですが、スーパー歌舞伎の企画といい、パフォーマーとしてプロデューサーとしてとても力量がある人なんだと思っているので、とにかく生還してください、と言いたいです。しんどくても、つらくても、生き地獄でも。ファンなら何を望んでもいいわけではない、と言われようと、ここまで芸で生きてきたからにもそれを見せ続けていただきたいです。引退というものがない、生涯現役という怖ろしいジャンルなのでしょう?
 ハラスメント報道がきっかけとも言われていますし、それが事実ならそういうことは松竹ぐるみで改善していかなくてはならないのはもちろんのことですが、それは宝塚歌劇団も同じことです。反省して、謝罪して、精算して、改善して、進むしかない。被害者の方々の望みを叶えることももちろん大事なので、たとえば廃業を望む人がいるのだとしたら難しいところではあるかもしれませんが…なんとか、どうぞなんとか。
 そしてジャニーズとか今回とかG7とかの陰で、また邪悪な法案がうっかり可決されたりしていませんように…政府に阿りすぎる報道しかない今、ホントもう何も信じられません。こんなのろくなリークじゃないよ、正しい告発ならともかく…
 負けるな。生きねば。そして、四代目市川段四郎丈並びに夫人・延子さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。
 





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宝塚歌劇花組『二人だけの戦場』

2023年05月20日 | 観劇記/タイトルは行
 梅田芸術劇場メインホール、2023年4月29日15時(初日)。
 東京建物Brillia HALL、5月16日16時。

 連邦政府が統治する旧ルコスタ自治州クロイツェル基地で起きた上官殺害事件の裁判が行われる。被告人の名はティエリー・シンクレア少尉(柚香光)。事件が起こる一年前、自治州では連邦からの独立を目指す気運が高まり、連邦軍基地と自治州の少数民族はいつ戦闘状態に入ってもおかしくはなかった。そんなとき、ふたりの新任士官が配属される。士官学校を優秀な成績で卒業しながら、あえて辺境のクロイツェル基地への赴任を志願したシンクレアと、友人のクリフォード・テリジェン(永久輝せあ)。中央の政治に遠い自治州の安定こそ連邦の繁栄につながると判断し、任務への情熱を持つシンクレアだったが、あるときノヴァロ(綺城ひか理)ら連邦兵士たちに絡まれていたライラ(星風まどか)という娘を助けたことから、人生が大きく変わっていき…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、高橋恵、振付/謝珠栄。1994年雪組初演のミュージカル・ロマン、全二幕。

 初演を観ています。でも、なんか裁判の話だったような…という程度の記憶しかなく、再演の報にものすごく沸き立った、ということはなかったように思います。名作だよ!と語る人もいたけれど、なんせだいぶ日が経っていて観たことがない人の方が多いようだったし、名作の誉れ高く再演が待ち望まれて…という作品ではなかったように思うので、周りも「ふーん…」みたいな空気だったのではないでしょうか。あとはまあ、別箱再演、最近ハリー多いよね、みたいな。セットが簡素なことも多いので、柴田ロマンと並び全ツ向きと判断されがちであり、またおそらく財政状況が厳しい昨今、そんなに経費がかからないと判断されている面もあるのではないか、とも邪推します。まあ私はハリーファンなので単純に嬉しくはありましたけれどね。言われてすぐ、ティエリー・シンクレアとクリフォード・テリジェン!ってのは思い出せました。どこのものともつかない印象的な名前で、よく覚えていたのだと思います。
 「ル・サンク」の発売は決定したようですが、別箱って脚本ちゃんと載りましたっけ…これは一行ずつ、この言葉のチョイスが、とかこの言い回しが、とかこのときの演技が、とかねちねち語りたいヤツですよね…初日に駆けつけましたが、そっけないと言っていいくらいの一幕の終わり方から幕間に突入したときの、すごいものを観ている…!という、いろいろなものを受け止めてずしりと心が重く、しかしおもしろさとドラマチックさと二幕への期待に胸躍りそれで心が軽くなる、両極端に高揚したことをすごくよく覚えています。
 東西一度ずつしか観られなかったけれど、そして確かにちょっと上演期間が短めの公演だったけれど、ご縁あればもっと通いたかった、浸りたかった…そんな作品でした。
 確か来月スカステで初演の放送があるはずですが、見比べるのが楽しみです。というか映像を持っていて見直した方が驚くほどまんま、とツイートしていたのを見かけましたが、おそらくそうなんだろうな、それが名作の証だよな、と思います。今ちょうど『バレンシアの熱い花』の初演もスカステで放送していますが、これがまたホントまんまなんですよ。まあ私は宙大劇版も生では観ていなくて、通ったのは宙全ツと先日の星全ツ版だけですが、ホント歌詞の一部やごく細かい台詞の語尾くらいしか変更がない。ソロが追加されている、とか振りが、とかフォーメーションが、とかの相違は些細なことで、キャラクターといいドラマといいストーリーといいテーマといい、何より脚本と演出が、もう骨格も肉も何もかもがしっかり最初からできあがっていて、そして今なお再演に耐えている作品だ、ということです。そういえば『ブエノスアイレスの風』も、初演はわかりませんが再演と三演はやはりごくわずかな変更しかありませんでした。まあこれはもう三度目だからかもしれませんが、それでも。すべからくこうあるべし…
 私がよく、まあいい点がないこともないから換骨奪胎して作り直せば…みたいなことを言うときって要するに八割がた直せ、という意味だし、もうちょっとブラッシュアップすればより良い作品になるのでは、みたいなことを言うときも要するに四割がたは直せというくらいなわけです。でも『バレンシア』といいこの作品といい(これは初演と見比べられていないので本当のところはわかりませんが)、変更している点は全体の二、三%くらいにしか当たらないのではないでしょうか。それこそが本物だということだと思います。

 ティエリーれいちゃん、またまた素晴らしき芝居を更新しましたね。歌は初日は不安定に聞こえたけれど、ブリリアで観たときにはもうすっかり自分のものにしていて、良き芝居歌になっていました。もともと喉がなんかつらそう、というだけで音痴ではないので、歌い方をつかんでしまえばきちんと聞かせられるんですよね。
 そしてティエリーは、士官学校出たての青二才で、いいとこのボン、という設定の青い、熱い役です。初演当時のイチロさんも、カリンチョさんと学年差があったけれど学年のわりに落ち着き払った、つまりあまりキャピッとかキラキラしたところのない、真面目で実直なスターさんだという印象でしたが、それが若くはしゃぎ気味に役を作るのがよかったんでしょうね。若く青い役は若く青い下級生にはなかなか上手く演じられないものです。れいちゃんの若く明るい好青年っぷり、すごくよかったです。酒場でクリフォード相手に呑むときの前屈みっぷりやざっかけなさ、本当によかったです。
 父も祖父も、一族の男はみんな軍人、という家に育ち、そのまま軍人になって、しかし彼が中央寄りの保守的な思想を持たなかったのは、何故なんでしょうね? まったく語られていませんが、たとえば一族の中に唯一の、忘れ去られた振りをされる、軍人にならず結婚もせず旅をして回り本でも書いているような、のんきなおじさん、みたいな人がいて、幼きティエリーを可愛がり、広い世界のことを語ってくれたのかもしれません。あるいは母親が開明的な人で、使用人に異民族の者がいても見下したり顎で使うようなことはせず、常に親身に接していて、そういう中でティエリーも育ったのかもしれません。もちろんちょっと頭でっかちな理想を抱えているようなきらいはあるにせよ、彼にはマッチョなところはまったくなく、すべての民族や自治州が対等で平等に並ぶ連邦制の未来を信じていて、不信や権勢争いによるきな臭い火種を消して回りたいという夢と理想に燃えて、連邦の端っこ、最果ての僻地赴任を志願したのでした。
 それが、「軍とは結局力であり、私の理想は幻だった」となる物語です、この作品は。すごい作品を書くよハリー、宝塚歌劇に…それだけ宝塚歌劇を、そしてその観客を信じている、ということだと思いますし、私は観ていてそのことにとても胸熱くなりました。この作品が理解できる、このドラマの意味が読み取れる、受け取れると信じられているという信頼が、嬉しかったのでした。
 とはいえ冒頭、訓練中のあかちゃんたち下士官や、その後士官学校の卒業セレモニーに現せる白い礼服姿のれいちゃんたちの凜々しくも美しい描写に(この流れるような入れ替わり、素晴らしすぎましたね!)、ダメだって、こういうふうに軍人とか軍服とかをカッコいいものとして描いちゃダメなんだよ、とヒヤヒヤしたのですよ、私。でもハリーはそんなことはちゃんとわかっているのでした。二幕での見事なひっくり返しっぷりよ…ライラたちルコスタの人間から見たらその訓練は威圧的で、いかにも不穏です。そして実際に衝突、戦争となれば、泥沼の中でボロボロになりながら戦うしかない…そして栄光なき負傷、それで前線から退けたのはいいけれど、今度は終戦したので軍事法廷に引っ張り出されるという過酷さ…軍隊に正義はない、戦争はみんなただの戦争でそこにも正義はない、あるのはただ人の死だけなのだ、という怖ろしいまでの真実を突きつける構成に、唸らざるをえませんでした。
 とはいえ(しつこい)彼らが任官前のラスト演習、とか言って街にナンパに繰り出すあたりにまた私は青筋を立てかけたのでした。今や飯テロみたいな描写もやめた方がいいとされる世なのに、ジョークでも女性をゲリラ扱い、キレそうでしたよホント…でも当時の、そして今も、いかにも男の考えそうなこと、言いそうなことで、そのざらりとしたリアリティもギリギリありだな、とも感じました。また女性陣側もわかっていて口説かれに店に集っているわけですしね。まあこれは当時の女が男に頼らないと生きられないせいでもあつて、社会のせいなのですが…でも、先頭切ってみんなを連れ出したわりには、当のティエリーは結局クリフォードと呑んでいるので、それほど嫌な気持ちにならないで済んだ、というのもあります。
 そしてその店で、ティエリーは、踊るライラを目に留める…
 これがまた、「美しい」とは言っているんだけど、それは単に彼女の美貌とかに対してよりも、踊りとか存在そのものに対する漠然とした賛辞で、別にものすごい一目惚れだ、というんじゃないところがいいですよね。その後、ノヴァロたちに絡まれているところを助けるのも、それがライラだとわかって割って入っているわけではない。むしろアルヴァ(希波らいと)を見ていて、三対一の喧嘩を見かねて仲裁した、という感じなのがいいです。その後キャンプにネックレスを届けに行って、ちょっとしたやりとりをして、心にほんのり淡い何かが生まれて…それでもそのときはやっぱりそれだけで、でもその後もハウザー大佐(凛城きら。絶品!)のお供で訪れたシュトロゼック(高翔みず希。絶品!2)の家で再度の再会があって、これぞ運命…とついに雪崩を打っていく感じが、本当に良いのでした。
 士官学校入学以前の生活でも、ご令嬢がたにモテないことはなかったろうけれど、それでもティエリーにとってはこれが初めての真剣な恋愛だったのではないでしょうか。そんな、おずおずとした、ときめきととまどいと、決して自分の想いを押しつけず、相手の意を汲もうとするところ、それでもほとばしっちゃう情熱…みたいなものの表現に、もう本当にキュンキュンしました。
 けれど、事態は無情にもふたりを引き裂くのでした…冒頭とラストシーンはサナトリウムとされているので、ティエリーは牢獄というよりは病院に収監されていて、脚の傷だけでなくどこか内臓も傷めているのですね(クリフォードに先んじて現れるのは看守ではなく医者のようですし)。あの素敵なスーツはインタビュー用のおめかしなのかもしれませんが、普段も囚人服を着て過ごしているわけではなく、実家からの潤沢な送金でそれなりに暮らしてきたのかもしれません。それでも、四十絡みにしては彼は老けていて、それが戦場の過酷さ、幽閉生活のつらさ、傷の重さを窺わせるのでした。その佇まいも上手かった…!
 あとは、再会の言葉は「片時もきみのことを忘れたことはなかったよ」みたいにすべきでしょうハリー!ってだけですね。ここで彼がライラを「おまえ」と呼ぶのはいかにも解せない。これまでも彼女をそんなふうには呼んだことがなかったし、ティエリーは女性を、まして好きな女性を、ましてライラのことを「おまえ」呼ばわりする人間ではないと思うのよハリー…!
 別箱にしてはたっぷり3時間ある作品で、フィナーレも短いのであまりバリバリ踊るという感じではないのですが、各キャラクターを見せてパレードも含めるようなお洒落な構成で、れいまどの息もますますぴったりで、満足でした。うるさいことを言えばラストの敬礼は微妙かな、とまたザラつきましたが、あれは軍人仕草というよりは、すべてのものへの敬意みたいなものを示すポーズなのだ、と解釈して収めることにいたします。

 ライラまどかにゃん、ハリー作品のロマのヒロイン、という意味では『追憶のバルセロナ』に続いて、という感じなのですが、これまたホントーによかった! これはもしかしたらまだ物慣れない下級生娘役がそのままの硬さで演じることもできるタイプのお役なのかもしれませんが、花も実もある演技力でそれをやってのけて、なお初々しく愛らしく、凜々しく強い素晴らしいライラで、私はまどかファンだということもありますがもうメロメロでした。
 最初のダンスがまずもっていい。アルヴァらいととのダンスが、恋人同士ではない、他人同士でもない、血縁、兄妹のものだなって感じの濃さや馴れ合った感じがあるのがいいんですよー! らいとは『うたかたの恋』でもマリーまどかの兄でしたが、もちろん全然違うキャラで、でもその経験も踏まえてぐっと進化していて、こちらもよかったです。タッパが映えるし、歳はティエリーよりもしかしたら若いかもしれないけれど、修羅場の場数が違うよ、という老練さも出せていたと思うし、妹のところに軍人が訪ねてきてると聞いて心配して見に来る感じとか(でもさもふらりと立ち寄ったみたいな顔をする)、これは脚本や演出が上手いんだけれど本当にイイ。そして彼を、急進的な独立や武力衝突を避けるべく働いてきた父親に反感を持つような、わかりやすく熱くアタマの悪い突撃系のテロリストに設定していないところがめちゃくちゃいい。むしろそういうトラブルを避けて旅回りをしていた、ということには説得力があるし、そうやってなんとか平和裏に…って努めてきたのに、もうこうなったからには仕方がない、とばしっと切り替えて独立を宣言し立ち上がるのも、すごくよかったです。きっと若きリーダーとして良き働きをしたことでしょう。いやー、立派な三番手ポジのキャラで、人気出ちゃうじゃーん!とニマニマしてしまいました。
 ホントは上級生のまどかが、歳の近い妹、という感じをまた上手く演じていたと思いました。こういう兄妹でよくあるようなわざとらしいキャピキャピしたべったり感がなくて、でもお互いめっちゃわかり合ってて信頼し合ってて心配し合ってて大事で、絶対に売らない、守る…という濃さ、強さ、痺れました。
 でも、男同士だからなのか、ついカリカリしちゃうアルヴァと違って、ライラは普通にティエリーにお礼を言うんですよね。まあ「変わった人だなー…」くらいは思ってそうな表情をしているのがまたいいんだけど、必要以上に卑屈になったり意固地になったりはしていない、素直さ、まっすぐさ、強さがある。くわしくは語られませんが、かつて些細な嫌疑で基地に引っ張られた過去があり、そのときおそらく彼女の母親は命を落としているようだし、彼女自身もレイプとまでは言わないまでもひどい目に遭わされたようなことが語られるのに、それでも人を、中央の人だからとか軍人だからというだけでは見ない、警戒心はもちろんあるけれどそれでも開いた心を持つ少女であるライラが、本当にまぶしいです。
 お祭りハイで誘っているようなところもあるのに、いざ恋に胸が苦しくなるとしゃがみ込んで小さく丸くなっちゃうのがまたカワイイ。まだ子供なのです、そういう意味では。その前後でも、やたらパタパタ揺れたりにぎにぎしたりでじっとしていない手が、本当に雄弁なんですよね。ライラの心情がそこからあふれちゃってるのです。上手い。
 別れのくだりは、毎度涙鼻水がエラいことになっている大熱演で、本当に素晴らしかったです。ライラならそうだよね、そうなるよね、と思えました。
 ラストに登場するライラは、ずいぶんと綺麗なマダム然としていて、もちろんそれでも苦労はしたに違いないしそもそも生き延びられたことが本当に奇跡なんだろうけれど、それでももうルコスタふうの服装はしていないんだな、ということがちくりと沁みました。その方が絵になる、という作劇都合だったのかもしれないけれど、やはり独立は果たせど小国は文化的にやがては混ざり飲み込まれ簒奪されていってしまうのかな、などと考えさせられたのです。でも、そうしたことも命あってのものだから…今は、抱きしめ合い寄り添い合うふたりの姿に涙するだけでいいのでしょう。

 クリフォードひとこがまた、いつもだけれど本当に上手い、塩梅がいい。感心しました。
 役としては主人公の親友、というよくあるところ。こちらは没落貴族の三男坊で、それをちょっとスネているようなところもあるけれど、本当にボンボンで本当にいい子なティエリーにかえって毒気が抜かれて、「友達だからな」となるような関係性なのでしょう。とてもいい。あとこんなに顔がいいのにちょっと残念な感じもいいんですよね(笑)、これは女性にモテなさそう…ハウザーさん、部下の妹とか娘さんとか、世話してやってください。あとリサ(愛蘭みこ)に「変な顔」とか言うところ、ホントひどいんだけど、要するに子供と同レベルで喧嘩しているということで、すごくクリフォードっぽいです。てかここの、エルサ(朝葉ことの。絶品!3。シビさんになれるレベルまでがんばっていっていただきたい…イヤ上手いホント上手い、こういう役回りがいいのよ。だからこうなると春妃うららの仕事がないわけです、それがよくわかりました)のお盆のエピソードとか、別になくてもいいんだけどホントいいですよね。
 こういう部分も上手いけれど、圧巻なのは証言場面です。歳をとり、親友の弁護といえど冷静になろうと努め、しかし必死さや熱心さが漏れ出てしまう、深く低くときに熱い声…素晴らしかったです。ラスト、ティエリーほど老けていないのはともかくとして、彼の階級が上がっていないようだという指摘ツイートを見たのですが、本当ですか? 制服を替える余裕がなかっただけかもしれませんが、クリフォード、アナタって人は…と泣けてきますね。
 クェイド少佐(航琉ひびき。絶品!4。イヤ今までお芝居ちょっと足りないなとか感じていたんですけれど、この役がちゃんとしていないとこの芝居は死ぬし、素晴らしかったです)を撃ち殺してしまったあと、動揺するティエリーの脳裏によぎるイメージとしてのクリフォード、というくだりがまた、よかったなあぁ…ひとこ、仕上がりつつありますね。

 さなぎがまたいい仕事していて、ラシュモア軍曹(羽立光来)のびっくがまたまたいい仕事をしていて、あと検事(峰果とわ)が本当に素晴らしかったと思いました。カゲソロも絶品。あかちゃんは役不足ではあるけれど、私は今後はこういう起用でいくのだろう、とは思いました。別格スターとして丁重に扱うとは思うけれど、あくまで脇として使われていくんだと思うのです。でもノヴァロもよかった。彼が戦後にわざわざ事件を告発したのは、ティエリーへの意趣返しの部分ももちろんあるんだろうけれど、彼には彼なりの軍人としての美学があって、それがティエリーのそれとは相容れないものだったというだけのことだったんだろうと思います。お仲間の天城れいんくんがまた美貌を生かした意地悪なお役で良きでした。鏡星珠くんも同様。みくりんがらいととバリバリ踊るのも良きでした。赤毛のラチニナ(初音夢)も可愛かったなー。
 場面がハウザー大佐の執務室になると、兵士役の生徒たちが机や椅子を運んでくるのがツボでした。でもこれで十分なんですよね。あとは左右にあるアーチの出入り口が意外に低くて、いつからいとがおでこぶつけるんじゃないかとヒヤヒヤしつつ観ていました。でもホント、必要十分なセットでした(装置/大橋泰弘)。

 初演当時、ユーゴスラビア紛争が起きていたそうで、それでも「あくまでも恋愛物として脚本を書」いた、とハリーはプログラムで語っています。だからこそこの作品は時を超えられるのかもしれないし、そして残念ながら未だ世界から紛争はなくなっていないので、その部分こそが極めて今日的な物語、舞台になっていたのかもしれません。
 火種は常に恐れ、不信です。疑心暗鬼が火のないところに煙を立たせ、枯れ尾花に幽霊を見せるのです。怯えはパニックを呼び、その手に武器を持っていたらそれを振るってしまうものなのです。だから我が国は学んで、武力を放棄したはずなのに…
 我慢して、信じて、話し合えば、歩み寄れる、わかり合える。違う部分があっても同じ人間だと考えること、お互いを尊重し対等につきあうこと、求められていることはごく単純なことのはずです。それを難しくしてしまっているものはなんなのか、私たちもさらに見極めて今を生きていかないとなりません。
 私たちの国は本当に特殊な環境にあって、海に囲まれた島国で、それがほぼそのまま国境となっていて、攻め出ていって負けたこともあるしそれで連合軍に進駐されていた時期もあったわけですが、敗戦直後の一時期を管理されていただけで侵略された、支配されていた、という意識がほぼない、極めてまれかつ恵まれた歴史を持つ国、民族なんだと思います。脳天気といってもいい。地上で隣国と接する国境を持たない分、外国とのつきあいが下手な部分もある。誰もが自然と、普遍的に持つ「よその国や民族に支配されたくない」みたいな想いに対しても、ピンと来ていないところがあるのでしょう。それこそお上に従う風土があるから、よその国が支配者になってもああそうですかと唯々諾々従いそう…なのでちょっと例外的ですが、一般的には、お互いに独立を守りながら、お互いの立場や状況を想像し、思いやり、寄り添い、お互いに歩み寄って、より良き道を探してつきあっていくしかないのです。地球は小さく狭いのですから。
 まあ、敗戦ののちにせっかく手に入れた基本的人権の尊重、主権在民、戦争放棄という素晴らしい理念を掲げた憲法を、なんでもいいからとにかく変えたいみたいな愚劣なことをやろうとしている政府に牛耳られている国に生きている私たちなので、未来はだいぶ暗い気がするのですが、それでも私たちはこうして物語から学べるはずなのです。あやまちはくりかえしませぬから…そう言い続け、実現する努力を続けましょう。でないとホント、エンタメとしての上演も趣味としての観劇もすぐにできなくなっちゃうよ…(ToT)

 東京千秋楽間際に、イチロさんとトウコさんの観劇があったようですね。その前にも、初演出演者のまとまった総見があったようです。つながれていくんですねえ、いいですよねえ。風、大地、星、夜空…大事にしていきたいものです。










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明治座創業百五十周年記念『市川猿之助奮闘歌舞伎公演』

2023年05月18日 | 観劇記/タイトルあ行
 明治座、2023年5月14日11時半(昼の部)、16時(夜の部)。

 昼の部は歌舞伎スペクタクル『不死鳥よ波濤を越えて』。作/植田紳爾、演出・振付/藤間勘十郎、演出/市川猿之助。市川猿之助宙乗り相勤め申し候。夜の部は三代猿之助四十八撰の内『御贔屓繋馬』。作/鶴屋南北、脚本/奈河彰輔、脚本・演出/市川猿翁、補綴・演出/石川耕士、演出/市川猿之助。大喜利所作事は『蜘蛛の絲宿直噺』、市川猿之助六役早替りならびに宙乗り相勤め申し候。

 昼が、1968年に初めて宙乗りを披露した三代目市川猿之助が、1975年に『ベルサイユのばら』を初演して一大ブームを巻き起こした植田先生に依頼して、1979年に梅田コマ劇場で初演したザッツ・タカラヅカな歌舞伎演目の再演、と聞いてチケットをさくっと取ったのですが、夜は夜でおもしろいよと人づてに聞き、なら同じ日に観てしまうか、とこれまたさくっと追加しました。こういうことには腰が軽い私…明治座の座席にはシートマットみたいな物が置かれていて、とても快適でした。
 植Gは(と、これは揶揄半分、純粋な愛着を込めた愛称半分の呼称で以後語らせていただきます)1973年の甲にしき退団公演『この恋は雲の涯まで』で初めて一本ものを手がけたそうで、これはのちにカリンチョさん主演でも再演し、そのときは組回りのころの大空さんも出演していたかと思いますが、源義経が奥州で死なずに大陸に渡って…というようなお話ですね。いわゆるチンギス・ハン伝説みたいな、アレです。その着想を借りて主人公を平知盛(市川猿之助)に移し、歌舞伎として練り上げたのが『不死鳥よ~』だということです。この流れがスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』につながっていったんだそうで、いうなればこれは「スーパー歌舞伎エピソードゼロ」なんだそうです。
 音楽は寺田瀧雄。それに今回は玉麻尚一ほかの手が加わっているとのことですが、観てみたら本当に、私たち宝塚ファンの勝手知ったる宝塚レビュー歌舞伎だったのでした。というかザッツ・植田歌舞伎というか。ああコレか、これを私たちは宝塚歌劇でも観せられてきたんだな、とすごくよくわかりました。
 プロローグとか、『白鷺の城』が始まるのかと思った、とお友達も言っていましたが、もう進行が、様式美が、スターの出方や周りの出方なんかのコードが完全に宝塚仕様なんです。植Gの演目には柴田先生のそれとはまた違うプロローグがよくつきますが、まさしくソレなんですね。そこからもうおもしろすぎてテンションは爆上がりに上がり、楽しく観てしまいました。
 ただ、冷静に考えると、これはあくまで宝塚歌劇で植Gがやっている植田歌舞伎なだけであって、宝塚歌劇ではないんですね。だって宝塚歌劇って、『応天の門』は漫画原作だから別にすると、歴史ものの最新版は『桜嵐記』というところまで進化しているわけですよ(まあ『夢介』も小説原作だから別にしましょうよ、ね…)。あの深遠さ、繊細さ、奥深さや大きさはも植田歌舞伎にはない。植Gは今新作をと言われてもまんまコレをやるでしょう。でもそれじゃもうダメなんですよ、そのことがよくわかりました。
 歌舞伎役者が真面目にやっているからおもしろいし、ドラマとしてもエッセンスはあっておもしろいんだけれど、でもお話も構成としても雑だしザルだし穴だらけで、エンタメとしてはギリギリの出来なんじゃないでしょうか。これをおもしろがってくれる人からでないと金は取れないでしょう。
 そしてもちろん歌舞伎でも全然ない、と思った。私は古典もほんのちょっとしか観たことがないし、おまえが歌舞伎の何を知っているんだと問われても何も答えられませんが、でもこれは歌舞伎ではない、と私は思った。歌舞伎役者がやっているだけの、なんちゃって時代劇か新派の舞台、ファンタジー歴史ものの舞台であって、もちろんタカラヅカ・レビューでもない。歌舞伎役者がやればなんでも歌舞伎になる、ということはないと思うんですよね、だって今どきテレビドラマやミュージカルに出る歌舞伎役者はたくさんいるんですから。そしてそれはそれぞれちゃんとそのテレビドラマやミュージカルになっている。だからこの作品も歌舞伎ではなく、あくまで植田歌舞伎でしかない。そういうエンタメの一種で、おもしろいけど出来はそんなに良くないぞ、まあ楽しんだけどね、でもいろいろ考えもしたよね、ということです。毎度まだるっこしくて申し訳ございません。

 主人公、トップスターのお役は平知盛、まあ『平家物語』でも人気キャラではあります。知将、悲劇のヒーローのイメージ。それが壇ノ浦で難を逃れて…とは、そりゃ考えたくなるのが人情というものです。それはいい、ただ、いかにもトップスター役にありがちな白いだけの役で、おもしろみがないのが残念でした。四天王たちとか乳母(市川笑三郎)とかヒロインの若狭(市川壱太郎。ちょっともう素晴らしすぎてキュンキュンしちゃいましたよ!)がみんなやたら褒めるし慕うし持ち上げるんだけど、具体的な功績も魅力も展望も何も語られないんですよね。これは単純に脚本の弱点です。真ん中力で猿之助さんが良き恋人、良き主人としてどっしり構えて見せているけれど、でもカバーしきれる穴ではないのです。
 生きていたのはめでたいよ、不死鳥のようだよ、再び羽ばたくことを夢見てもいいよ、でも「羽ばたく」って具体的に、ナニ? 大陸に渡って何をどうしたいのか、全然語らないヒーローについていくだなんて、フツー怖くてできません。大丈夫?って部下たちもヒロインのことも観客は疑ってしまう、この構造が何よりの弱点です。
 大陸で仲間を募って捲土重来、日本を源氏の手から取り戻す!でもいいし、源氏の手に落ちた日本は捨てて大陸で平氏の国を作る!でもいいし、源平とかで争うのはもうやめて、みんなが幸せになれる国をみんなで作ろう!とかでもいいし、なんならもう名もなき一市民として外国でひっそりささやかな幸せを感じて生きていく!でもいいので、何かしらの具体的な展望を主人公には語ってほしいんですよね。そこに共感するから、部下たちもヒロインも彼を大陸にやろうと必死になるし、自分たちもその夢に協力する、ついていきたい、ってなるんでしょ? そこがぼんやりしたままでどーする、ってことです。
 でも猿之助さんは若々しく、てらいなく、それこそ白い役ををやるトップスター然としてただただ真ん中でオーラを発し、愁嘆場では大熱演、さすがでした。プロローグの歌は、まあご愛敬。初演ではクレーンで不死鳥を持ち上げてその上に乗ったというペガ子スタイルだったそうですが、宙乗り設備のある明治座になってからは当人が不死鳥になって悠々飛んでいけることになったそうで、やはり圧巻のラストでした。夜の部の宙乗りは話の序盤に早々にあって、カタルシスに欠けたので、やはりなんでも宙を飛べばいいってもんじゃないよな、とこれまた勉強になったのでした。
 ヒロイン、トップ娘役は一幕(上の巻)では知盛の馴染みの白拍子・若狭、二幕(下の巻)では知盛が西域に渡って立ち寄った金王朝の姫・紫蘭の二役で、これがまあ素晴らしく、全娘役ファンがやってもらいたがるようなお役!でした。いうなれば一幕は純粋ヒロイン、二幕は悪女(今で言う悪役令嬢かな?)なんですもの、一粒で二度おいしすぎました!!
 若狭は、壇ノ浦のあと流れ流れて船乗り相手の遊女に身を落とすものの、知盛の生存を信じて操を守って待っている、という展開。ここで、もとは白拍子仲間で今は同じく遊女の身という陽炎(市川笑也)というキャラが出てくるんですけれど、これがまた別格娘役に演じさせたいようないいお役で、シビれまくりました。こういうところが意外に上手いのが憎いんだよ植G…!
 そこへ助っ人に現れるような形にもなるのが、二番手スターの役どころ、中村隼人の楊乾竜、宗の宰相の息子です。知盛の知己で彼を大陸に逃す手はずをしてくれるナイスガイ、イケメン枠ですカーッコいーい! すらりと背が高くスマートでハンサムで明るいオーラがあって優しそうで、役に求められるところをきっちりやってのけて、四天王に対してはアオレンジャーだし、大立ち廻りの見せ場もあってまあおいしい。惚れてまうやろ!でした。
 知盛と若狭は無事再会し、ともに海を渡ろう…となったところで、水軍の兵に女は不浄だから船には乗せられない、とか言われ、モメることになります。まあお話の展開上仕方がないし、当時は確かにそう言われていたんだろうけど、歌舞伎も女性観客が多いと思うのでもう少しフォローせいや植G、とは思いました。またここで知盛が若狭に、先に行くけどすぐ自前の船を仕立てて迎えに戻るから、とか言えばいいのに、そういう具体的なプランを立てることなく「なら俺も残る!」とかしょーもないことを言い出すから(これはお話都合と言えど彼は大器ではないということになってしまうのでやっぱもっとよく考えて植G…)、若狭が知盛を行かせるために身投げすることになるわけで、ああまた物語都合で殺される女を観せられちゃったよ…と暗澹たる思いになりながらも、断崖で慟哭する猿之助さんの熱さにほろりとはさせられてしまうのでした。
 てか『この恋は~』は映像でしか観ていなくてちゃんとした記憶がないせいもありますが、むしろこの演目は『我が愛は山の彼方に』っぽいな、と思う点も多々ありました。まあ植Gの萌えはそのあたりにあって常に同工異曲で作劇している、というのは別に悪いことではないと思います。というか『我が愛は~』は月全ツ版がなんかヘンな改悪だったけど、いいブラッシュアップをすれば今でも上演に耐えるいい作品になると私は考えています。それこそ宝塚グランドロマン、です。
 二幕が華やかな金王朝の王宮の宴から始まるのも、またいかにも宝塚歌劇っぽかったです。年若い王(中村米吉。立役のときと女形のときとちょうど真ん中の少年声を出していて、先日の『応天の門』のからんちゃんを思い出したりもしましたが、ホント良きでした…!)が玉座に着いたばかりで、ふたりの姉姫が紫蘭と蓮花(市川男寅)です。ここは二番手娘役ね、そんで新公ヒロインやるヤツ!(笑)
 紫蘭は宰相の武完(下村青。もと劇団四季の方なんですか? まあ歌う歌う、そしてむちゃむちゃ上手い。あたりまえですが)と婚約していますが、それは先王の取り決めたものであるらしく、ラブはない模様。この設定がまたいいのです…! てーかこの武完、黒いお衣装でいかにも悪役然としちゃって、この間の『ディミトリ』のありちゃんアヴァク系なキャラなわけですよ。王女を娶って国ごと乗っ取りたい野心があるワケ。今なら専科特出のまゆぽんとかがめっちゃ上手くやっちゃうような、三番手ががんばるか別格スターがぎらりと爪痕残すか、な役回りです。
 乾竜のとりなしもあって王家は知盛一行を歓待しようとしますが、武完が水を差し、そこを紫蘭が救います。紫蘭としてはいけすかない武完がやりたがることの反対をやってやりたかっただけなのかもしれないし、知盛の水も滴るいい男っぷりにちょっと興味を持ったのかもしれない。王女としての矜持のある、聡明で、茶目っ気もある、気が強くてプライドも高い、いいお姫さまなんですよコレが! 知盛の方も、若狭と瓜ふたつの紫蘭に出会ってちょっと動揺する。しかしいざ紫蘭に口説かれると、亡き若狭に愛を誓った身でもあるし、と断って立ち去ってしまう。面目をつぶされた紫蘭は、武完に知盛殺害を命じる…いやーこのくだりのドラマチックさには十分金が払えておつりが来ましたね! ふたりともやってて楽しかったろうなあ、というのが窺えました。おもしろかったし素晴らしかったし濃かったし、悪役ソングもめっちゃよかった。銀橋が欲しかったです…! そうそう、どこか忘れましたがカーテン前芝居があったんですよね、植G…!ってなりました。
 さて、ここまでお供についてきた四天王たちは中村福之助、中村歌之介、市川青虎、嘉島典俊。お城の外に幕舎を構えて故郷を思ったりなんたりするのですが、ここでは一幕から変わって西域ふうのお衣装に着替えているのがまたカワイイ。四番手以下くらいの、若手ホープ男役たちがグループ芝居をやらされるあたりですよね、とこれまたニマニマ。
 宗と金の思惑や政治や、案じた王も幕舎を訪れること、そこへの武完の襲撃と立ち廻り、からの二番手の腕の中で落命するトップスターまで、もう怒濤のおもろさでたまりませんでした。イヤ恩人に迷惑はかけられない、とか二国を戦争させたいわけじゃない、とかはわかるのですが、そもそもの知盛の目標や展望が明示されてこなかったので、その選択でええんかーい!というつっこみやここまでついてきた部下たちの立場は、とか何より身を賭してまで彼に海を渡らせた若狭の立場は…とついつっこみたくなるので、純粋に泣けないのはたいそう残念でしたけれどね。でもおもしろいはおもしろいのでした。
 そして昇天…力技ですが、エンタメなのでした。
 そうそう、知盛の仲間で、陽炎の恋人、気の触れた振りをして実は…というこれまたおいしい役どころの通盛(中村鴈治郎)も素晴らしかったです。路線組長とかがやっちゃうヤツね…
 あとはフィナーレというか、バレードがあるんですよ! 宙乗りの支度時間を稼ぐためのものだとしても、やはり多幸感が素晴らしかったです。

 夜の部は、三代目猿之助が1984年に初演したものをもとにしていて、おなじみの平将門や源頼光が登場する「前太平記」もの。もともとは四世鶴屋南北の『四天王産湯玉川』と『戻橋背御摂』をつなぎ、さらに河竹黙阿弥の舞踊劇『土蜘』を下敷きにした『来宵蜘蛛絲』をつなげた長編だったそうです。今回は平良門(市川猿之助)の蘇生に焦点を当てて改稿しているそうです。
 補綴・演出の方のプログラムのコメントによれば、猿翁丈に「筋をひと口で言えるような芝居でないとダメだ」と教えられてきて、「こうしたお芝居は理屈を通すより局面のおもしろさがキモなのですが、あまりに意味不明では興味をつなぎとめられないので」留意し、「将門の息子と純友の娘が許婚で、おたがいに顔は知らないけれど愛し合い、女が男の身替りになりたいと思っている」芝居に仕立てた、ということのようです。
 そう、まあ私もオタクだし、史実としても、あるいは歴史ものの漫画だ小説だドラマだといろいろ見てきているので源平ものも太平記ものも主だったキャラやエピソードはそこそこ知っているつもりではありますが、かつては本当に現在に直結した知識であり常識であり、万人が承知していて、だからこそお芝居でどこかをテキトーに切り出してそこだけ演じても、みんな前後の文脈がわかるし、その場面だけを十分楽しめたのでしょう。
 でも、今、そんな観客はもうほぼいない、でしょう。いや古典歌舞伎を観まくっていてめっちゃくわしくなっている見巧者ならまだしも、たいていはその域にはいないだろうし、まして今やよそからちょっとでも新規の客を取りたいわけで、だとしたら歌舞伎にも歴史にもくわしくない人でもわかるキャラクターを立ててストーリーを展開させなければなりません。ここがキモ、なのはいいけど、そこに至る必然とかその後の顛末も大事なのです。私がコクーン歌舞伎とかスーパー歌舞伎の方が古典より観やすく感じるのは、そういう現代的な配慮がなされているからです。
 だからこの演目も、古典とはいえだいぶ手は入れられていて、しかしやっぱり古典だなあ、特に昼の部に比べるとやっぱり全然歌舞伎っぽいなあ、そしていい意味でも悪い意味でもやっぱりこうなんだなあ、ということがよくわかって、一日通して観てとても勉強になりました。夜の部も夜の部でおもしろかったし、そのおもしろさは昼夜で違うし、これは好みもあるし何を求めるかにもよりますね。なかなかに甲乙つけがたいのでは、と感じました。別に争うものではないけどさ、どっちが客入りがいいとかあるのかなあ? まあ開演時間の関係もあるからな…
 さて、良門は平将門の息子で、滝夜叉姫(市川男寅)の兄です。先月の歌舞伎座の『新・陰陽師』と被ったのはたまたまだったそうですが、それを拾うギャグもありました。猿之助さんって必ずこういうネタを入れますよね…(笑)
 それはともかく、いわゆる「だんまり」を私は初めてちゃんと見たかもしれません。ま、ここも、なんで突然ここに桔梗の前(中村米吉。この作品では藤原純友の娘で、『新・陰陽師』の同名のお役とは違うのがまたなんとも…他にもいくらでも名前なんかあるやろ!)が現れるんじゃーい!とはつっこみたいのですが、それが古典歌舞伎だから仕方ない…(笑)
 場面変わって大江山、遊郭場面のわりに絵面が寂しいのはなんの都合なんでしょう…それはともかく(コレばっかりやな)、ここで登場する、まだお客も取れない田舎娘の百足のお百(市川團子)がかーわー! 台屋ってナニ?な四郎次(中村隼人)がかっけー! 
 それでいろいろあって(オイ)、お尋ね者にされている愛しい婚約者の身替わりとして捕まり死ぬことで彼を守ろう、生き延びさせようと男装している…という超絶ヒロイン設定のよねきっつぁんがもう愛らしくいじらしくせつなく泣かせてきて、なのに歌舞伎ってすぐ首を取るしホントもー!って感じで、そして何故か(オイ)良門の忠臣・正頼(中村福之助)が大立ち廻りの見せ場をかっさらい、四郎次は頼光の家臣だわお百は田原藤太(何故田原なんだメジャーなのは俵だろう)の娘・千晴だわで、なんなんだー!のうちに、ま、今回はこのへんで、みたいな幕引き(笑)。これぞ私が思う古典歌舞伎です…
 ここの赤いおべべで将門の髑髏を手にした千晴たんが素晴らしきすぎて、うっかり舞台写真を買ってしまったことはナイショです。
 ラストは、頼光の家臣たちが蜘蛛の精にたぶらかされて…みたいなのを、猿之助さんが六役早変わりで鮮やかに演じ、あの蜘蛛の糸をぱあっと散らすヤツがふんだんに見られて、これまたではこのへんで!とばかりに幕となる、このランボーさがホント歌舞伎…!と私なんかはマジで思っているので、大満足で楽しく観終えたのでした。いいとこだけバンバン見せるエンタメ、というスタイル、そりゃアリですよね。
 しかし渡辺綱が中車パパだったのね、よくわからなかったかも…とりあえず『大江山花伝』も思い出してニマニマしました。こういうふうにつながるわけですし、やはりお勉強も教養も趣味も大事です。人生を豊かにします。次は三越劇場の歌舞伎舞踊が気になっているのですが、でも私は踊りは全然わからいなからなあ…やはりストーリーがないとなあ、いくら團子ちゃんのためでもなあ…でも何かの筋や情景を踊るものなのかしら、ううーむ…
 と、沼の淵でうろうろしている今日この頃なのでした。










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする