駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

スティーグ・ラーソン『ミレニアム』(ハヤカワ文庫、全6巻)

2018年02月25日 | 観劇記/タイトルま行
 第一部を読み終えたときの感想はこちら
 とりあえず全三部各上下巻全6巻、読み終えました。
 ここで作者は亡くなって、権利関係に関しては作家の父親・兄と長年のパートナー女性との間で裁判になり、作家のパソコンに残されていた第四部の草稿をもとに別の作家が書いたものが続編として刊行されているそうですが、そこまで読むかは現時点では保留、かな。一応、ここまででオチているので。このあとまた話が始まってでもそれが迷走したり綺麗にオチなかったりしたら目も当てられないので…パートナー女性の著作への関与もその後はどうなのかわかりませんしね。
 話、というのは要するにキャラクター同士のドラマ、ということです。ミステリーとしては、事件は解決してオチていくんだろうけれど、要するにファンはミカエルとリスベットがどうなるのかってことが読みたいんだと思いますからね。
 今のところはこのオチでいいんだと思うんですよ。でもここからさらに進めるとしたら、たとえばどこに向かって?というのがまずあります。ふたりが一対の完全にステディな恋人同士になる(あるいは結婚する)、のがゴールとして正しいのか?というのがあるし、リスベットはともかくミカエルにはそれはかなり無理なのでは…という気がします。リスベットの特異さもさることながら、ミカエルというキャラクターをナチュラルに書いちゃうこの作家は本当にすごいと思うんですよね。
 そして結局今までのこの作品において真の主人公はリスベットだったのであり、結局彼女が子供というか思春期みたいな状態から真に成人として自他ともに認められるまで、が描かれた作品だったわけですよコレは。彼女は他人を信用し信頼し、友情みたいなものも抱き、関係を築けるようになった。友情なき恋愛も恋愛なきセックスももちろんあるし悪いものとする気はないけれどでも、たとえばミカエルがいつもしているのは友情もある恋愛でだから何人とでもできるし同時進行もできるし相手もある程度了承できたりする(ダメなときは恋愛をやめて友情だけ残す)。リスベットも自尊心とかプライドとか嫉妬とか独占欲とかいろいろ消化できるようになって、つらい恋愛も乗り越えて、ミカエルへの友情だけをもって心の扉を開くことができた、おしまい、というのが今のオチです。これより先なんかあるのか? ミカエルが変わること、あるいはエリカが変わることなんでありえるのか?
 作品タイトルがミカエルとエリカが共同編集して出版している雑誌のタイトルであることを考えると、やはり表向きの主人公はミカエルなんだろうし、エリカは単なるサブキャラとして片づけられないし、作品の真のテーマは「ペンは剣よりも強し」ということなんだろうから実力行使しがちなリスベットというキャラクターの存在はトータルで見るとけっこう危ういわけです。三部作は、ここまでは良かったけれど、この先はどうかな?という心配があるので…ということで、ついねちねちと語ってしまいました。
 映画、見てないけどおもしろいのかな? まあ見ないな…



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『シャンハイムーン』

2018年02月25日 | 観劇記/タイトルさ行
 世田谷パブリックシアター、2018年2月24日13時半。

 時は1934年(昭和九年)8月23日から9月16日までの約一か月間、場所は上海市北四川路底の内山書店二階倉庫。9年間に渡って上海の地下に潜り、一管の筆を武器に文筆活動を行っていた魯迅(野村萬斎)は蒋介石の国民党政府の軍警による弾圧が強くなるたびにさらに深く地に潜り、その避難行は前後四回に及んだ。それを一回にまとめた戯曲。
 作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽/宇野誠一郎、国広和毅、美術/二村周作。1991年初演、全2幕。こまつ座と世田谷パブリックシアターの三回目の共同制作。

 こまつ座の作品はOG目当てでいくつか観ていて、不勉強なものでわかったりわからなかったりしたものでしたが、今回のようにがっつり会話劇で音楽の逃げ場ナシ、みたいなお芝居は初めてだったかもしれません。イケコの盆だのセリだのの場面転換満載グランド・ミュージカルに慣れちゃうといかにも地味なんだけれど、そもそもは舞台演劇ってこういう、場所は一か所固定で場面転換なんてなくて、会話と演技で物語が紡がれ、その制約の中でこそ広く豊かに世界が広がる…みたいなものを味わうものだよな、としみじみ思いました。おもしろかったです。
 ただ、大変に不勉強なことを恥じながら告白しますが、私はこの時代の日本のことも中国のことも日本人のことも中国人のことも魯迅のこともその著作のことも、教科書で習った程度のことしか知らないので、作家がこの作品を通して訴えたかったことの半分くらいしか受け取れていないのできないかな、と思いました。それは本当に申し訳なく思いました。
 でも、かつてあったこの特殊な状況下のことがきちんと理解できていなくても、想像はできるし、今現在またキナ臭い空気はあって未来を心配する思いはあるので、やはりいろいろと胸に迫ってきました。プログラムには「この芝居は"人間と人間の信頼"、"基本的な人間のあり方"と、ああいう時代に日本人がやっていた"日本人の可能性"を信じて書かれています」という作家の言葉が書かれています。何国人とか何人とか、本当に意味がない。たとえば日本人の父親と中国人の母親を持つ奥田先生(土屋佑壱)がそうです。魯迅は中国人なのに中国政府から迫害され、その最期を看取ったのは日本人ばかりだった、というのがお話の締めですが、それだってきっとたまたまで意味はない。これは人間なら誰でも、近くにいたら助け合うよね、というだけのことを描いている作品でもあるのです。
 ただ、主人公、というか中心人物が魯迅であったこと、ということには意味はあるのかもしれません。誰でも、どこでも、助け合っているけれど市井の人だと大きなドラマにはならないわけで、魯迅が偉大な文筆家であり思想家だったから、というのは大きいでしょう。残念ながら私はその著作を読んだことはありませんが、ある時代のある層には必須の読書体験だったのでしょうしね。別に有名人だから守るべしとか、そういうことではなくて、誰のどんな命だって大切なんだけれど、もしもし人の命より大切な者、重いものがあるとすればそれは思想とか、創作とか、その志、心のありよう、自由、そういったものだと思うんですよね。それを護るために人は命をとして戦うことがある、ということです。いや戦うというのは正確ではないかもしれないな、時の政府の弾圧に対してただ抗っているだけだから。交戦はしていない、こちらからは何もしかけていない。ただ屈しない。暴力を否定する。魯迅の著作や思想を具体的には知らずとも、それは守られるべきだということはわかるし、周りの人々の強さ、尊さも十分わかりました。だから感動しました。半分かもしれなくとも。
 タイトルは、魯迅が日本に亡命し鎌倉で静養していたら書かれたかもしれない小説のタイトル、です。悲しく、はかなく、美しい。
 初演では須藤先生(山崎一)を演じたという辻萬長が今回は内山完造を演じている、というのも素敵ですよね。長く愛され何度も再演されている戯曲にはこういう醍醐味もあるのだと思います。
 あと、ラジオのアナウンサーの声が浅野和之だったのが個人的にはツボでした。
 セットと照明(服部基)もとても素敵でした。

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宝塚歌劇宙組「宙組誕生20周年記念イベント」

2018年02月21日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚大劇場、2018年2月19日18時半。

 1998年1月に誕生し、香港公演を経て同年3月の宝塚大劇場『エクスカリバー/シトラスの風』でお披露目した宙組の20周年の節目を記念し、歴代トップスター7名を特別ゲストに、新トップスター真風涼帆を中心とした宙組生77名と共に映像や歌唱で軌跡を振り返るイベント。
 構成・演出/岡田敬二、音楽/吉崎憲治、甲斐正人、編曲/植田浩德、音楽指揮/井上博文、振付/羽山紀代美。

 ありがたいことにご縁ありまして、出かけて参りました。宙組らしい、スマートでスタイリッシュでさらりとした(笑)、でもとてもアットホームな、優しい温かい雰囲気に包まれた楽しいイベントだったかと思います。
 司会はすっしぃさん。まずは映像で組の代表作などを振り返ったあと、あおいちゃんも合流して、まぁ様から順番に歴代トップスターが登場して主演作の映像を見ながらトークしていく運びでした。
 まぁ様はグレーのトップスに黒のパンツ、ピンヒールのパンプス。ニコニコで顔はちょっと丸くなったようで、今日でちょうど卒業三か月ということでしたが、やはり女性らしい柔らかい空気をまとうようになっていて、すっしぃさんが「まぁ…くん、でいいのかな?」と言うくらい。映像は『王妃の館』と『クラシカルビジュー』だったかな? すぐ「♪ベルサイユへ~」とか歌い出しちゃうのが可愛かったです。黒燕尾の場面にも改めて見入りましたね。
 続いてテルは燕尾ふうの飾りがついたゴールドのトップスとパンツ、ピンヒールサンダルだったかな? 2月15日が退団記念日で、つい先日3年が経ったところだとか。映像は『風共』と『ベルばら』だったかな。バトラーでは眉毛やもみあげの太さにこだわっていた話を披露してくれました。今はキラキラなのにすっしぃさんに「ギラギラしてますねー」とつっこまれていましたね。ここでもオスカルの新曲をあおいちゃんがすぐ歌ったりしていたかと。
 大空さんは、黒で来るだろうなと思っていたら本当に黒のシャツコートみたいなのに深緑の変わった裾のデザインのスカート?パンツ?で、脚がチラチラ見えていました。足下は太いヒールのショートブーツかな。ロングのポニーテールは付け毛かな? 退団以来の大劇場だったそうです。映像は『カサブランカ』一幕ラストで、すぐわかりました。素敵だったよねえ! みーちゃんとのロシア式ハグ?のところで「最初で最後の男役とのキス」とか笑ってましたね。あと「君の瞳に乾杯」という有名すぎる台詞を入れるか入れないか小池先生と相談した話、入れてなんとか成立させたった、みたいな話、相手のために堪え忍んで死んでいく役が多かった話とかをしていたかな。「眉間のしわに挟まれたい人続出」とかあおいちゃんが言ってましたね。
 タニはクリーム色っぽいスーツでビシッとキメてきました。映像は『薔薇に降る雨』で、キスシーンが8回ある退団公演だったという話で、シチュエーションを変えて出るわ出るわで客席も沸きました。下手側で椅子に座った大空さん、テル、まぁ様も大爆笑してて可愛かった! あとは『宙 FANTASISTA!』で、また「♪コスモ、コスモ、ファンタージスタ!」って歌っちゃうあおいちゃんがおもろかったです。 ここからは上手側の椅子に座るようになって、タニと大空さんは就任順と学年順が逆転しているんだけれど、並ばないのでうまく気にならない形にしましたね(^^;)。
 かしちゃんは白いレースのトップスに白のパンツで、なんかきゅるんとしていました。やたらと照明をまぶしがっていたのが可愛かったな。映像は確か『コパカバーナ』で、著作権の関係で動画ではなく写真のみ。星組からの続演で映像からの振り起こしが大変だった話とか、コンサートの客席降りでお触りがすごかった話とかがおもろかったです。あとは軍服祭りだった『ザ・クラシック』とか。『龍馬伝』で二丁拳銃の場面に拳銃をひとつも持たずに出た話とかもあったな!(笑)
 タカコさんも白スーツにポニーテール。ワイドパンツですらりんと素敵でした。『ネバセイ』で今の旦那様のワイルドホーン氏と出会った話や、盛大な歌詞間違いの話を披露してくれました。タカコが一節歌うと同じ歌詞で組子のコーラスがリフレインしてついてくる、という歌で歌詞を創作してしまい、でも組子が必死で同じ歌詞で歌ってくれたとのことでした。あとは『ファントム』だったかな。
 トリの初代トップスターずんこさんは白のトップスに黒のパンツ。今年で芸能生活30周年だそうですね。映像は『シトラスの風』の「明日エナ」で、「汗だくですね和央さん!」「大変でしたよね和央さん!」としょっちゅうタカコに振るのがおもろかったです。汗だくのすっしぃも映像に映っててみんなで大爆笑でした。あとは『激情』だったかな。
 そして発足時に書いてもらった「宙」のパネルが運ばれて、当時ずんこさんもタカコさんも本当に新しい組の名前を知らされていなくて、「夢」とか「虹」とかを予想していたんだけど書かれていく感じが違っていて、近くで見ていると「寅!?」とかも思えて慌てた…みたいな話もおもしろかったです。
 で、ゆりかちゃんとまどかちゃんが加わったんだったかな。『シトラスの風 -Sunrise-』にはずんちゃんがアドバイザーとして入っているんだそうですね。残念ながらみんなでわちゃっと話すくだりはあまりなくて、ゆりかちゃんがお披露目公演の紹介をしてトークコーナーはおしまい、でした。ただ、締めの挨拶をまたまぁ様から順にしていくときに、かしちゃんが急に「真風さん、素敵ですね」とデレてゆりかちゃんが動揺してテレる、ってのがめっちゃおもろかったのと、ずんこさんがそれぞれの相手役だったトップ娘役の名前を挙げてくれたのが嬉しかったです。
 歌唱披露ではずんこさん、タカコさん、ゆりかちゃんが銀橋に出て「夢・アモール」。ふたりは私服、ゆりかちゃんは黒燕尾だけど、ちゃんとあの肩を前後に揺する振りをしてくれて、私は中日も観ましたが全ツで本当にたくさん観ましたしホント感無量でした。綺麗にハモっていましたしね。客席からの手拍子も完璧でしたしね! 感涙のすすり泣きも客席からけっこう聞こえました。
 さらにカーテンが開くと大階段、「宙」の文字がLEDで出ていて、ずんこさんをセンターに現役組子で「明日へのエナジー」。ここも途中の手拍子が完璧でした。そしてもうみんなの声量が! パワーが! すごかった!! フェイクパートはもちろんあおいちゃん。手持ちマイクはトップコンビにキキちゃん、愛ちゃん、ずんちゃん。あっきーは下手で、なんかよそゆきおすまし顔してて、ああ自分たちをアピールするショーじゃないんだな、組のため、この一場面のために一致団結しているモードで、かつ久々の下級生感覚を味わってるのかな、と思いました。でもみんな表情が本当にピカピカで、誇りと喜びに輝いていました。そんなあなたたちがファンとして誇らしいよ!とうるうるしました。すっしぃさんが「この20年がひとつにつながった」みたいなことを言ったのも心に響きました。
 ラストは組子全員で「シトラスの風」。歴代トップスターが銀橋を渡って、ラインナップになったら大空さんの斜め後ろにあっきーが立つことになって、とてもとても私得でした(笑)。
 最後はゆりかちゃんがビシッとご挨拶して幕。カテコではずんこさんが挨拶していたかな。本当に温かで祝祭感と希望にあふれた、シンプルだけど楽しいイベントでした。

 プログラムのプロフィールのフォーマットくらい統一しては?と思ったりもしましたが、アンニュイな写真の大空さんがいかにもだったし、まあいいか!
 花、月に比べたら雪や星も若い組のはずだけれど、こういうイベントはないのかな? やはり歴史が紡がれていくのに立ち会える高揚感が楽しかったので、また何か企画されると喜ばれるのになと思いました。楽しかったです!!!



 
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『ブロードウェイと銃弾』

2018年02月17日 | 観劇記/タイトルは行
 日生劇場、2018年2月16日18時。

 1920年代、禁酒法時代のニューヨーク。劇作家のデビッド(浦井健治)はかねてからの念願どおり自分の戯曲をブロードウェイの舞台にかけることになり、はりきっている。しかしプロデューサーが見つけてきた出資者はマフィアの親玉ニック(ブラザートム)。しかもキンキン声でろくに台詞も言えない愛人オリーブ(平野綾)を主演に据えろと要求し、部下のチーチ(城田優)を監視役として送り込んでくる…
 脚本/ウディ・アレン、オリジナル振付/スーザン・ストローマン、演出/福田雄一。1994年公開のウデ・イアレンの同名映画を自らミュージカル化して2014年ブロードウェイ初演、その日本初上演。全二幕。

 あゆっち目当てで出かけてきました。
 ブロードウェイのネオンサインや看板の美術(松井るみ)に「おお、『ガイズ&ドールズ』の世界みたい」と思っていたら(時代はちょっと違うけど)ナイトクラブでのショーガールのソング&ダンスが始まったので、まさにアデレイドが出てきそうでちょっと笑いました。ベタというか、まあ鉄板ですね。
 てかその前に、城田くんが銀橋(とはここでは呼ばないのかもしれないけれど、オーケストラボックスの手前に道ができていました)が出てきてマシンガンをぶっ飛ばしてタイトルロゴの電飾が点灯、という演出だったんですけれど、ゼヒそこで正面向いてスポット当てて拍手!としてほしかったわ。ハットで顔が見えないままさっさと引っ込んでしまったので残念でしたよ(^^;)。
 あと、原題は『BULLETS OVER BROADWAY』なんだけど、この「OVER」は訳しようがないのかもしれないけれど、「と」ではない気がします。なんかもっと散文調のタイトルをつけてしまってもよかったんじゃないかなあ、損している気がしました。あと、ウラケンと城田くんのダブル主演、凸凹コンビものみたいな売りをしているのかもしれないけれど、もっとショービジネスものだよとかバックステージものだよ、という宣伝の方が客入りが良くなったのではなかろうか…イヤちゃんと入っているなら大きなお世話ですが、集客に苦労しているとの噂を聞かないでもなかったので。
 でも、本当に楽しく観ました。何しろキャストに芸達者しかいないので、ノー・ストレスでソング&ダンスが堪能できるのが楽しい。幕間には、「初日が無事に開いて結婚式が何組か、みたいなハッピーエンドのオチかね?」と楽しくお友達と語らっていたのですが…
 まさかの、こんなコメディで、メインキャストに死人が出ようとは…!とちょっと驚いてしまい、怒涛の大団円にちょっとだけノリきれないで終わってしまったかな、というのが個人的な感想です。イヤこのシニカルさがアメリカン・コメディなんだよ、とか言われれば、まあそうなんでしょうねとしか言えないのですが。
 せめてオリーブは、魚とか海藻とかつけて初日打ち上げパーティーに復活してきてもよかったんじゃないの?と思います。大根女優だけど、殺されるほどではなくない? もちろんチーチ基準では芸術的でないものには死を、なのかもしれないけれど、それがウディ・アレン自身の主張でもある、ということ? でも金で役を買うのは悪とは言い切れないはずだとわかば沙良も体現してたよ?(作品混同) スポンサーがいなければ公演は打てないんだからさ…
 チーチは、芸術に殉じて死んだ、とされても仕方ないのかなと思うのです。ボスの女を殺したんだから報復されて当然だし、他にもいっぱい殺しているからその報い、というのもある。そして自分の作品を残せたからいいんだ、みたいな考え方もできる気がするからです。でもなあ、オリーブはなあ…
 オリーブと言えば、彼女のナンバーは下ネタ的にどうとかより長くて無意味なところがちょっと疲れました。だってソーセージって言ったとたんにもう出オチ感があるわけだからさ。キャラクターとしてこの手のナンバーが必要なのはわかるのでそれはいいんだけど、もっと短くすべきじゃないですかね?と思いました。まあ不愉快だし単純に笑えないんですよね。
 そして、こうなる筋だとわかった上で遡って考えると、デビッドのへっぼこぶり、というか彼の脚本のへっぽこぶりはもっと描いておいてもよかったのでは?と思いました。今、真面目な青年がやっと報われたように見えちゃうじゃん。でも他人の口出しや改変を受け入れちゃうようなへっぼこなんでしょ? 要するに「アーティストじゃない」ってことなんでしょ?
 ヘレン(前田美波里)は「私がつきあってきた男はみんなアーティストでクズ」と言っていたので、デビッドは結局アーティストではなかったからクズでもなくて、一男性としては普通でだからエレン(愛加あゆ)とくっついていい、ってことでこのラストなのかもしれないけれど、私はそもそも特段の理由なく長年の恋人との結婚を渋るようなこんな男はクズだと思いましたし、だからエレンが浮気し返してやったわ、みたいに歌うのに快哉を叫びましたし、なのにあっさり「本気にした?」なんて帰ってきちゃってちょっとガッカリでした。まあでも田舎にでも引っ込んで平々凡々の夫婦の幸せを手に入れればいいよ、あゆっち(の役)が幸せならいいよ。ふたりともアーティストでもボヘミアンでもなかったってことだし(エレンは何で生計を立てている女性だったのでしょう…?)、ここにもアレンっぽいシニカルさが表れているのかもしれませんしね。
 イーデンの保坂知寿ももちろん素晴らしく、ワーナーの鈴木壮麻ももちろん素晴らしく、アンサンブルもみんな女性は可愛くてスタイルが良くて、男性はカッコ良くてバリバリ踊れて、とにかく楽しかったです。お衣装もよかった。オリジナルのサントラとかがあれば買いたかったなあ。
 そして城田くんは私はロミオとかトートとか観ていますが、初めてお芝居がいいなと思いました。本当にこういうギャングに見えました。アドリブっぽいくだりもあるのかな? 沸かせていましたね。
 ウラケンも本当になんでもできる人ですよね。本当にみんな達者で楽しかったです。このメンツに入るあゆっち、やっぱりすごいよ! ますますのご活躍をお祈りしています。





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ルネッサンス吉田『あんたさあ、』(小学館ビッグコミックススペシャル ヒバナ)

2018年02月15日 | 乱読記/書名あ行
 身体を売り、漫画を描き、日々を暮らしている姉。毎朝勤めに出て、淡々と、日々を暮らしている弟。それぞれ口には出せぬ過去を抱いて、ひとつ屋根の下で暮らす。ふたりだけを乗せた、凪いだ世界をたゆたう舟が激しく揺れるとき…情念と諦念の物語。

 ザラリとするお話ではあるのですが、なんかリアルというか、生きるってこういうところあるよね、とか肉親ってこういうものだよね、という思いがあふれて、沁みました。


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