駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

アンディ・ウィアー『火星の人』(ハヤカワ文庫SF)上下巻

2016年01月30日 | 乱読記/書名か行
 有人火星探査が開始されて三度目のミッションは、猛烈な砂嵐によってわずか六日で中止を余儀なくされた。火星を離脱する際、折れたアンテナがクルーのマーク・トワニーを直撃、彼は砂嵐の中に姿を消した。だがマークは奇跡的に生きていた。不毛の惑星にひとり残された彼は、限られた食料、物資、自らの技術と知識を駆使して生き延びようとするが…!? 映画『オデッセイ』原作小説。

 映画の予告は観て、なかなかおもしろそうだったので原作小説を読んでみました。
 著者はプロの小説家ではなく、本業はエンジニアとかプログラマーとかいった人だそうで、SFオタク。ネットで無償で公開し、その後キンドルジェンで売り出して大ヒットして、紙の本が大手出版社から出て映画化されることにもなった…という、典型的現代的シンデレラ・ストーリーを辿った作品のようです。
 確かに、いい意味で素人くさいというか、文芸色がないなと思いながら、でもすごくおもしろく読みました。
 もちろん、どう生き残るか、というサバイバルものとしてハラハラドキドキさせられるし、地球ではごく簡単なことでも、大気がない、つまり圧力がない温度がない世界では一事が万事なかなか大変なことになるということがすごく勉強になるし、長期のミッションを見越してそういう人材を最初から選んでいるということなのでしょうが主人公のタフさやユーモアを忘れないところに本当に感心させられます。
 それでも、普通の小説家だったら、もうちょっと内省的な部分や感傷的なパートを書いちゃうんじゃないかと思うんですよね。故郷のことを思ったり、仲間のことを考えたり、来し方行く末とか宇宙の深淵を覗いちゃったりとか。そういうのがいかにも文学っぽいじゃないですか。
 でも、生き延びるのに忙しくて意外にいろいろやることあってそんな暇ないから、というのを別にしても、そういうパートがほとんどないんですね。これが私には意外でしたし、でもそこが目新しくてウケたのかもしれないな、とも思いました。私がちょっともの足りなく感じたのは、私がもう古い人間だからなのでしょう。
 でも宇宙飛行士たちを新時代のニュータイプだとするならば、こういう志向の、常に前向きで楽観的で希望と理想とユーモアを忘れず、かつ現実に丁寧に真摯に向き合い知恵を絞りひとつずつ着実にこなす、新人類がもう生まれ育っているのかもしれません。よきにつけあしきにつけ。
 映画はもう少し古いタイプの人間が作るものだろうから(笑)、過度にお涙頂戴ものになってしまって原作のこのライトでドライな味わいを損ねるようなことがなければいいなと、余計な心配をしてしまったりもするのでした。

 
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『花より男子 The Musical』

2016年01月25日 | 観劇記/タイトルは行
 シアタークリエ、2016年1月24日マチネ(東京千秋楽)。

 超絶金持ち名門校・英徳学園高等部。この学園はF4すなわちFlower4と呼ばれる花の四人組によって支配されていた。大財閥・道明寺家のプリンス、道明寺司(松下優也)。花沢物産の御曹司、花沢類(白洲迅)。日本一の茶道家元の跡取り、西門総二郎(真剣佑)。総合商社・美作商事の後継者、美作あきら(上山竜治)。ごく一般庶民でありながら両親の願いによりここに通うことになった牧野つくし(加藤梨里香)は、卒業まで目立たずにいようと努めていたが、あるきっかけからF4に目をつけられてしまい…
 原作/神尾葉子、脚本・作詞/青木豪、演出/鈴木裕美、音楽/本間昭光、振付/木下菜津子、YUSUKE、美術/二村周作。全2幕。

 累計部数6000万部超の日本で最も売れた少女漫画をミュージカル化した舞台。原作コミックスは仕事で読んで、さすがによくできていておもしろくて感心しましたし、連ドラも韓ドラも見ましたが、今回の舞台化に関してはキャストなど特に引っかからなかったのでチケット取りを見送っていました。
 が、初日が開いたら評判が良くて、およよと思っていたらチケットが転がってきたので、千秋楽に出かけてきました。
 企画・製作は東宝、キューブ、ネルケプランニングということなので、いわゆる「2.5次元ミュージカル」なのかもしれませんが、原作漫画が「お金持ち」という非日常要素があるとはいえ基本的には日常系の地に足ついたどメジャー王道ストーリーなので、「あの作品を舞台にするなんてファンタスティック!」とか「こんなふうに舞台化するなんてアンビリーバボー!」みたいな感じはなかったかな。何しろ観たことないのでイメージで語っていますが、2.5次元ってもっとニッチでコアな作品を原作に、舞台ならではのマジックで3次元化しているもので、そこに中の人の人気なんかが加味されているものなのかなーと思っているので。
 でも、2.5次元だろうがただの漫画原作ものだろうが、とにかくオリジナル・ミュージカル(海外ミュージカルの輸入翻案などではない、という意味で)として、すごーくすごーくよくできていたと思いました。楽しかったー!
 何が素晴らしいってまずキャストの歌唱力ですね。ミュージカルなんだから前提条件だろうという気がしますが、そうでない舞台だって多いわけじゃないですか。でも今回はみんなが歌えて、歌詞がはっきり聞こえて感情が伝わって音程の不安定さはまるでなくて気持ちよく伸びる声量があって、聞いていて本当に心地よかったです。
 そしてみんな身体能力が素晴らしい。ダンスだけでなく体のキレ、身のこなしがキビキビしていて清々しい。単に若いから、とかではなく、きちんと訓練された技量を感じました。
 そして演技もちゃんとしている。ややオーバーアクション気味なんだけれど、後方席からノーオペラでもみんながみんなちゃんと伝わる演技をしている。わかりやすくて、きゅんきゅんして、一緒に笑って泣けました。
 ただひとり危なっかしかったのが静役の古畑奈和で、SKE48の子なんですね。アイドルだからダメだと言うつもりは毛頭ないけれど、残念ながら今回は悪目立ちしていたと思います。台詞が下手なのはキャラクターの独特さにスライドしないこともなかったけれど、歌は声量がなくて音程が不安定で聞き苦しかったし、何より立ち姿が美しくなかったのはアイドルとしてももっと勉強していていいところだったのでは…宝塚歌劇の娘役とか見習うといいよ、膝くっつけて踵はちょっとずらして10時10分に開いて立つんだよ、美しいよ!
 まあ、ネームバリューだけはあるテレビ俳優による舞台としては微妙な出来の作品なんかも山ほどあるし、もちろんその知名度に惹かれて私だってホイホイ出かけてしまったりしているわけですが、本来なら今回の舞台の実力あるメンツたちがその名前で客を呼べるようにならなきゃダメですよねー。イヤ役者の名前で舞台を観に行く、という姿勢がそもそも違うと言われてしまえばそれはそうなのですが。
 私は上山さんを『ブラック メリー・ポピンズ』で観たことがあるくらいで、他のキャストは全然知らなかったのですが、もちろん私が知らなかっただけでそれぞれ人気のある人たちなのでしょうが、本当に素晴らしくて感動しました。舞台俳優としてのさらなる活躍を祈っています。

 しかし最終的には、「やっぱ漫画ってすごいな、要するにこれを全部ペンと紙だけでやってるんだからな…」とはちょっと思ってしまいました。
 うむ、2.5次元についても機会あればさらにトライしたいです。いろいろ考えてみたい。しかしそれとは別に、やはりまっさらのところからの舞台オリジナル作品というものもまた、求めていきたいと思ってもいます。





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宝塚歌劇星組『鈴蘭』

2016年01月23日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 宝塚バウホール、2016年1月22日ソワレ。

 15世紀フランス北部の公領アルノーでは、領主クロード(輝咲玲央)により、妹シャルロット(音波みのり)とガルニール公の嫡子エドゥアールの婚約披露の宴が行われていた。その中で、彼女の7歳年下の幼馴染リュシアン(礼真琴、子役は天路そら)はシャルロットを連れ出し無邪気に告げる、「大きくなったら迎えにいく」と。13年後、青年となったリュシアンはフランス王ルイ11世(一樹千尋)の元で無為な日々を送っていた…
 作・演出/樫畑亜依子、作曲・編曲/手島恭子。全2幕。『かもめ』でバウ初主演を果たした礼真琴のバウ主演第二作、同期入団の演出家・樫亜依子のデビュー作。

 幕間の時点では、『CODE HERO』や『アルカサル』と意味は違えど同レベルの駄作な気がする…と絶望的な気分になったのですが、二幕では多少気分が盛り返しました。貴重な人材は辛抱強く育てるしかありません、見捨てるのは簡単ですがあえて苦言を呈し次回作に期待しましょう。というかまず基本を抑えようきちんと修行しよう。宝塚歌劇の演出部はある種の徒弟制でやっているのではないかと思っているのですが、ちゃんと秀作書かせてるのか? これもちゃんと面倒見ている先輩が手を入れたのか? いきなり手を放してやってみろ、なんて、いかにバウホールが若手の挑戦の場だとしても問題です。お金を払って観に来る観客に失礼だし、有限の青春を賭けている生徒にも失礼です。
 もちろん今回、金を返せとは言いません。見どころはたくさんありましたしね。でも金を出して観たからこそ、もっとなんとかできただろう、とは言いたいのです。
 まこっちゃんの作品運のなさを哀れみますよ…まさに三拍子揃ったなんでもできるスターなのに、それ故女役をやらされたりなんたりばかりで代表作、当たり役に恵まれていませんよね? 『かもめ』は私は好きだったのだけれど、世評はあまり良くないし、今考えても宝塚歌劇としてどうだったのかとか期待の新進スターの初主演作としてどうだったのかという点からするとはなはだ微妙でした。こんな逸材を潰すようなことがあってほしくはないのだけれど、さりとて過去の名作の再演でではこの人で観たいもの、似合うものがあるかと聞かれると「はて?」となってしまうのも、なんでもできる万能型スター故の苦しさかしら…ま、ファンはまた違った見方をしていてちゃんと支え愛し期待しているのでしょう。うん、やはりここはあまり心配しません。
 それよりカッシーの修行だよ。というワケで以下つらつら語ります。いつも私の書く感想は未見の方にはわかりづらかろうと思うのですが、今回はこの演目を観ない・観られない方も多いと思うので、意識して丁寧に書きますね。何がどう問題だったのかわかっていただければと思います。
 ご観劇のご予定のある方は、観終えてからまたいらしていただけると嬉しいです。なるべくフラットに観ていただきたいし、私自身も普段はそれを心がけているつもりです。と言いつつ常に、ハードルを下げようだが暴れる用意もやめられない…と揺れているのですけれどね(^^;)。幾分、常に意地悪に観がちであることは自覚しています、すみません。

 さて。
 プログラムの演出家の言葉を読んで感じましたが、そして今ここにあらすじを書き写す為に「Story」部分を読んで(私はネタバレを避けるため観劇前にはここは読まないのです)改めて感じましたが、カッシーあんまアタマ良くないね。若い人にありがちな頭でっかちさ、自分がアタマ悪いことに気づいていない系の、アタマいいと思い込んでいる系の書きっぷりだと思いました。まずはその自覚からだなー、そして作中でやたらと何度も台詞にあったけど「素直に」、もっとシンプルに基本に忠実に、作ることを覚えましょうよ。小洒落たテクニックを駆使したいならそのあとやればいいのです。残念ながらあなたはまだその域にない。
 まず、物語を展開するにあたり、まずはキャラクターを、ことに主人公のキャラクターを提示する必要があるのだ、ということを覚えましょう。この場合のキャラクターとは、その登場人物の名前、性格などの人となり、立場や身分などの立ち位置設定、のことです。
 よくギャグにされる、昭和の時代の少女漫画にあった「いっけなーい! 私、○○。遅刻、遅刻!!」とか言いながら食パンかじって走るセーラー服の少女のイントロ、あれは実はとても正しいのです。これで彼女の名前がわかり、寝ぼすけだとか粗忽者だとかあわてんぼうさんだとかいう性格が窺え、学生であることがきちんと提示されている。可愛い絵柄で読者も好感が持て、さてではこの子が何をやらかすのかな…と「彼女の物語」を追う気になる。こういう「つかみ」が物語を展開する際に必要なのです。
 宝塚歌劇は基本的にはファンが観に来るものであり、主役への好感度は前提としてあるのだから、その環境としては恵まれています。でもみんながみんなまこっちゃんのファンで彼女が主役で主人公の名前はリュシアンでアルノー公家に預けられている、と知って観に来ているとは限りません。そこに甘えてはいけないのです。
 だからベタだろうがなんだろうがまず、「僕、リュシアン! わんぱくで両親の手に余るからって、親戚のうちに預けられちゃってるんだ!!」から始めるべきなんです。これが今の脚本ではまったくできていません、彼が誰でどんな人間で何故ここにいるのかさっぱりわからない。観客をつかめていないのです。
 名乗らせるなんて演出としては下の下です、だからギャグにされるのです。でもできてないより100万倍マシです。隣の大劇場公演を観ましたか? 生田先生はちゃんとまぁ様に冒頭で「♪僕の名はウィリアム・シェイクスピア」って歌わせていますよ? そして歌詞とそのすぐあとの展開で、彼が夢に燃えた駆け出しの劇作家であることを提示している。そこへ妻アンが訪ねてくる、さあこのふたりの物語を追おう…って観客は物語の世界に誘われていくのです。
 リュシアンの名前、わんぱくで無邪気な少年であること、親戚のうちで出会った年上の少女に憧れていたこと、をまずきちんと提示しましょう。リュリュだのなんだのといったエピソードはその後です。子役はとても健闘していたと思うけれど、いっそまこっちゃんにそのままやらせたってよかったと思います。それくらいわかりやすくしないと、現状では「誰この子? え? これが主人公なの?」ってなっちゃってますよ。13年後のまこっちゃんリュシアンが過去を夢に見ていたのだ、というのもすごくわかりづらかったですもん。子役とのスライドってそれこそもっとベタにやらないとダメですよ。『月雲』とか『白夜』とか観た? 子役がセリ下がったら本役がセリ上がるとか、子役と背中合わせに立った本役がくるりと振り返って大人になるとか、ああいうことがちゃんとできないのなら、『星逢』のように本役が子供時代をそのまま演じたってよかったのです。まこっちゃんならきっと上手かったよ?
 思わせぶりな台詞や歌詞をアンサンブルに任せて、各キャラクターや国内外の情勢をわからせようだなんて無理、無理。下級生には残念ながらそこまで聴かせる力はありませんし、観客だってそんなに熱心に歌詞を聞き取って設定を読み取ってくれたりなんかしません。
 わんぱくな少年が憧れていた少女がお嫁にいってしまう。少年は再会を誓うけれど、少女もそして観客もそれがそうたやすくはないと知っている。そして年月がたち…というイントロが「素直に」受け入れられて初めて、観客はこの物語の世界に入れるのです。その工夫の術を、演出家としてまず身につけましょう。
 シャルロットは書けているのだから、できるはずです。はるこがたおやかで可愛くてすばらしい、というのを別にして、ある種の政略結婚だけど両国の架け橋としてがんばるわ、と前向きに語る明るさ、強さ、彼女の魅力がきちんと提示されている。それが失われる悲しい予感すら出せている。これを全キャラクターにやらなくてはいけないのです。主人公が一番書けてないんだよねー、残念です。

 次に劇団首脳部(なるものがあるとして)に言いたいのですが、新人がこんなミステリー仕立ての企画を出してきても通してはいけません。書ききれるわけありません。
 主人公が探偵役になるミステリーの場合、観客は主人公と一緒になって事件の真相に迫っていくことになるわけですが、主人公のキャラクターすら明確に提示できていなくて観客の彼への共感も呼び起こせてないのに、そんなこと無理です。かつ、彼が何を知っていて何をどう疑問に感じていて何をしようとしているのか、もうまく提示できていません。こんなんで謎解きも何もあったものじゃないのです。舞台自体がナゾになっちゃってるんだから!(爆)
 カッシー、ここでもまずは順番にやればよかったんだよ。まず13年の間に何があって今のリュシアンがどこでどうしているのか、を提示しよう。なんか悪友たちが歌っていたのかもしれないけどそれでは伝わらないってさっきも言いました。
 二幕でまこっちゃんがきーちゃんエマ(真彩希帆)に語るくだりが、まこっちゃんの芝居が素晴らしかったんですよね。声に色と情感があって、聞かせた。そこで初めて彼の13年間の屈託を知ったんですよ、何故シャルロットに会いに行かなかったのか、その間どうしていたのか、それをどんなに後悔しているか。やっと彼の気持ちがわかりました。でもそれじゃ遅いでしょ? 好きな女がいて、死んだらしくて、死の真相を知りたい! 起承転結のそこまでが「起」でしょ? なんで二幕で語らせるねん。これがないから、彼がなんでそこまで過去にこだわるのかサッパリわからなくて、観客の心は主人公から離れてしまうのですよ。
 しかも事件に関し彼が何を知っているのかもきちんと提示されていない。これではミステリーが成立しませんよ。彼がシャルロットの死を聞かされるところから始めるべきだったのでは?
 私は王とアルノー公がその話をするときにリュシアンがしらっとしているので、「あ、もう知ってたの?」とそこまで話が飛ばされていることに驚きましたし、「なのになんでこの男は何もせずここで平然とチェスとかしてるわけ? 彼女を愛していてその死の報に不信感があるならさっさとなんかしら行動しないの?」とますますこの主人公のことがわからなくなりました。そんなふうにしちゃダメでしょ?
 しかも事件の前提がそもそもよくわかりません。シャルロットの生死がそもそも怪しいのか? 死んだとされているが幽閉されている、とかの疑念がある、とかではなくて? 死んだことは確定していて、死因が怪しいということなのか? 夫を殺したかどで処刑されたという噂、というけれどどこでのどの程度の噂なのか? ということは「処刑された」とは公表されていないということなの? なのに何故そんな噂が出るの?
 ベタでもリュシアンに「シャルロットが死んだなんて嘘だ!」と嘆かせるとか、「彼女が人殺しなんてするわけがない、濡れ衣だ!」と叫ばせるとかしないと、観客には彼が何をどう疑問に思っているのかもわからないわけですよ。ぶっちゃけシャルロットは過去の女でこれからヒロインのエマとのラブがあるんでしょ?くらいのことは思っている観客も多いわけで、主人公と心が離れること甚だしい。こんなんでおもしろい謎解きになるわけないじゃないですか。その後の展開のずさんさより何より、こういうことが問題です。
 この物語は、というか企画は、最初から負け戦なんですよ…通しちゃダメだったんです。通すならもっと叩いて叩いて、きちんとしたものに直させるべきだったのです。

 細かいことはきりがないので大事なことをあとひとつだけ。
 小説を書くとか漫画を描くとか映画を撮るとか、要するに物語を作る、ということは要するに人間を描くことであり、それすなわちその愛と生死を語ることなのではないか、と私は漠然と思っているのですが、これまた年寄りの繰り言と思ってくれてもいいし若い世代にありがちなことなのかもしれないけれど、愛と生死をあまりに軽く扱っていませんか? この作品。
 実は結局のところよくわからなかったんだけれど、シャルロットって本当に夫の後追い自殺をしたってことなのでしょうか? それは愛ゆえに、そして夫に死なれたことへの絶望ゆえにだったのかもしれないけれど、そう書くと美しいかもしれないけれど、私はやっぱり自殺を簡単に選ぶ人間のことは好きになれません。公国のことも母国のことも義理の娘のエマのこともすべて投げ捨ててシャルロットが自死を選んだのだとしたら、私は彼女を好きにはなれないし、彼女を愛していたリュシアンのことも好きになれません。
 でもそれじゃダメでしょ? 何度も言ったけれど、キャラクターの好感度を下げてはいけません。ひいてはその役の中の人である生徒を好きにさせてなんぼの宝塚歌劇なんですから、これは許されないことです。
 愛する夫の後追い自殺をする女を美しい、哀れでいいとか思ってカッシーがこれを書いているのなら、あまりに人間とか人生とか生命とかをナメた見方をしていると言えるのではないでしょうか。若いから、未熟だから、ではフォローできない、作家に向いてないよとしか言えないものを私は感じます。
 ヴィクトル(瀬央ゆりあ)に関しても同様です。これまた二幕になって急に生い立ち設定とか展開させるのは遅いんだよ、という指摘はもう面倒なのでしないことにして、でも彼にこれだけのドラマを背負わせたいという意欲は買います。
 ガルニール公の次男で、優秀な兄を誇りに思い愛し敬い追いつこうとがんばってきた利発な少年。けれど実は妾腹の生まれで周りからは陰に陽に差別され蔑まれ、ついには心がゆがんでしまった男。わかるよ、彼が悪いばかりじゃなかったんだね。
 でも結局のところ彼が兄を手にかけた、そういうことですよね? 強い愛情が憎悪に反転することはよくあることです。しかしそれで実際に殺人を犯すかどうかはまた別の問題だと私は思う。ヴィクトルが兄を殺したとした時点で彼は観客の同情を失うと思います。命というものはそれほど重い。
 彼が、死にかけた兄を故意に救わなかった、とかではダメだったの? 結果的に殺してしまった、それを当人もすごく後悔している、だがもうこの手は血に汚れたも同然だ、だから義姉の自死も利用する、医者も殺させる子供も殺す…なら、まだ、わかったかもしれない。そういうデリカシーを求めたい。
 それができていたら、彼もただの悪人ではなく、苦しかったのだ、犠牲者だったのだ…みたいにまとめて、それこそW主演に見えるくらいにもっていけたかもしれません。でも現状、カッシーが人の命というものをあまりに軽くしか考えられていないから、ヴィクトルはただの殺人者に成り下がってしまっています。何度も言いますがこういうことではダメなのです。
 『ロミジュリ』じゃないけど、愛と死について、もっともっと考察してみよう。それを安易にしか描けないなら、それは作家としての才能がないということです、残念ながら。この点が実は一番大きな問題なのかもしれません。

 というワケで以下は、まったく罪がなく、かつそれぞれに大健闘していた生徒さんたちの感想を。
 まこっちゃんは本当になんでも上手いし、久々の男役を楽しそうにいきいきとやっていて、私は格別のファンということはありませんがとても好感を持ちました。きーちゃんとのデュエットソングの耳福っぷりは裏公演の『ラブドリ』と同等かしのいでいたかもしれません。
 ナウオンでも語られていましたが、リュシアンとエマは似たもの同士で、どちらも本当は明るくやんちゃで元気なキャラクターなのに、状況のせいで今は屈折していて、それが回復されていくお話なのだ…という側面がもっと生かされてくると、もっといいロマンスに仕上がったのかもしれませんけれどねー。
 普通に考えたらとんでもないSっぷりというか傍若無人さ(というか当人であるエマの無視っぷり)も、まこっちゃんが力技で愛嬌に見せていましたからねー。ああ、もっといい作品を与えてあげてください…
 フィナーレのソロは、振付はともかくお衣装がいただけない気がしたのは私だけなのでしょうか…もっといい場面を与えたあげください、あたらこんな逸材を…(ToT)
 初バウ・ヒロインのきーちゃんも素晴らしかった! とにかく歌声がまろやかで、お姫様役としてきちんと可愛く作れていたのも素晴らしかったし、リュシアンと反発したり心惹かれたりといった細やかな心の動きもうまく表現できていました。ラストのムリクリなラブコメ展開をギリギリ成立させていたのは、ひとえにふたりの力量です。本公演レベルですね、もっと大きな役が観たい!
 せおっちは髭がセクシーで、「スパイス」なんぞに収まらない存在感を見せていました。新公を主演して一皮向けましたよね、フィナーレのセンターっぷりも立派だと思いました。
 ただ意外と声が高いというか軽いんですね。一朝一夕ではどうにもならないことかもしれませんが、踏ん張ってほしいなーと思いました。
 「娶るか」は例えば『月雲』の「私が強いたのです」くらいインパクトのある萌え台詞になりえたと思うんだけれどなー…残念です。
 ヒロさんはさすがでしたが役不足、無駄遣いかと。柚長もなー、実は彼女の継子いじめがすべての根源だったんだからもっとドラマを背負えたのになー…これも生徒の罪ではありません。
 白妙なっちゃんのセシリアも中途半端な役でなー、ナポリ王の庶子だかで不遇でグレててヴィクトルの愛人で? 脇筋としておもしろいんだけどカッシーにそこまで書く力がまだないんだよ。なっちゃんは的確に色濃く演じていてよかったけれど、ドラマとしては不発だったと思うので残念です。生徒の罪ではありません。
 はるこは素晴らしかった! あるべきシャルロット像だったしそれ以上だったと思います。ヴィクトルは兄嫁である彼女に懸想してしまって、それでゆがんだところもあったのでしょうね。そんなドラマもあったんだろうけれど残念ながら今のカッシーには以下同文。
 オレキザキはシブくてカッコよかったー! 声がいいですね。フィナーレがキレッキレだったのも印象的でした。二役の医者は顔が見えなさすぎたけど(^^;)。
 ヴィクトルの傭兵バルトロメ役の漣レイラも、もっとおもしろくなる役だったのに書けてないもんでほとんど失笑ものでしたが、生徒は野太く荒々しく作っていて強い印象を残してくれました。
 この時代の片外しマント(ケープ?)、彼だけ『シェイクスピア』同様右側を外していて、残りの登場人物たちは左を外していましたが、どういうことなんだろう? 右腕か開いていたほうが動かしやすそうですが…
 シャルロットの乳母ロジーヌ役は紫りら。いつの間にこんなに存在感ある娘役に…求められる役割をきっちり果たしていたと思いました。
 ガルニールの貴族エルネスト役が紫藤りゅう。本来なら儲け役になるんだろうけど、あの冷めた客席では笑いはすべって当然だよね、お気の毒でした。あと、明るく綺麗だけどお調子者でヘタレ、みたいなキャラが極美慎演じるエティエンヌとどっかぶりなのが本当に気の毒。カッシーの芸のなさ故です。でもこれで私は顔と声を覚えられたかなー。
 ガルニールの貴族の娘アデール役が華鳥礼良。私は以前からなんとなく好きなタイプの顔だなーとは思っていた娘役さんだったのですが、こんなに大きな役がついたのは初めてなのでは? すごくいい仕事をしていたと思いますが、カッシーの非力さゆえにぶっちゃけ浮いて見えたと思います。お気の毒…生徒の罪ではありません。
 売り出し中の綾凰華はフランス王の、侍従かな側近かな?のマルセル。プログラムにキャラクター記載がないくらい番手というか学年が下なのか…押し出しが良くてオーラがありますね。ホントはもう少しクールにシャープに作るといいキャラクターだった気がしますが、今後に期待。
 他にはヴィクトルの子供時代を演じた天希ほまれ、エマの侍女リーズを演じた麻倉しずくが達者で印象的でした。
 ニコラの拓斗れい、ノアの彩葉玲央も目立っていましたね。でもニコラは役として空回りしていたような気が…カッシー本当に頼みますよ…

 これもひとつのいい経験として、今後に生かされることを切に祈ります。観ないという選択肢はないのだから…生徒は演出家を選べないのだから…頼みますマジで!








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宙組子日記&『シェイクスピア』大劇場新公雑感

2016年01月21日 | 澄輝日記
 先日『Shakespeare』大劇場新公を観てきまして、めでたく大劇場遠征を終えました。あとは東京までおとなしく(失笑)待ちます。変化が楽しみ!
 ハラダ、一本もの、イシダ、ウエダ、ウエダ、ハラダ、ウエダ、ハラダ、一本もの…みたいな、なんなのいじめなの?という苦難の年月を経て、ようやっと佳作と言ってもいい普通の出来の二本立て公演が来たので(まあ私は『モンアム』は意外と嫌いじゃありませんでしたけどね…)、せっかくですから珍しく(?)このあたりでスター語りをさせていただきたく思います。普段はどちらかというと演目に関してばかりねちねち語っていて、生徒さんに関して細かく言及することはない方だと思うのですが、新公も『白夜』『王家』と観ているので、下級生もだいぶ覚えてきましたしね。語りたいお年頃(笑)なのです。よければおつきあいくださいませ。

 というワケで、まずは我らがトップスターのまぁ様。
 どこかのブログで見た言葉で「文人が似合う」というのがあって、要するに『王家』のラダメスにしてもマッチョな将軍、武人というより優しくてノーブルな貴族の坊ちゃん感が前面に出るような、明るく爽やかな人となりを言い表しているようで上手い表現だなと感心しましたが、素晴らしいトップさんですよね。
 新公初主演に関しては私は決して早すぎたとは思っていませんでしたが、その後一年の間にバウ主演を二本も背負わされたりしたときの劇団の上げ方にはやや乱暴な感じを受けましたし(しかも作品にあまり恵まれなかった…映像でしか見ていませんが、『BUND/NEON 上海』は私は嫌いではないのですが)、恵まれた資質を持ちながらも花組時代はいろいろとあっぷあっぷしていたのではないかと思います。当人ものちにスカステのインタビューなんかでこのあたりのことを語っていましたね。
 だから組替えは成功しましたよねー。なかなか正二番手扱いされずやきもきさせられたのも、今となっては、その間にゆっくりできたり肩の荷が下ろせたりいいリセットができたりしたのではないかしらん、とか思ったりします。
 そしてトップ、真ん中が似合う! 明るくおおらかで前向きで、みんなが元気で自由になれる、いいリーダーシップを発揮しているように見えます。名ダンサーで、歌も本当に良くなりましたし、芝居もハートがあって素晴らしいですが、やっぱりショー・スターですよね。今回やっと初オリジナル・ショーが来てロケット以外の全場面に出る大活躍ですが、もっともっとショーが観たいです。古風なロマンチック・レビューの再演もハマると思うし、ダンス・コンサートなんかも企画してほしいです。
 今回のウィルも、夢と希望にあふれた爽やかでまっすぐな青年で、でもその純粋さや才能ゆえに周りに振り回されちゃったりする危うさもあるような、ここまで来て等身大という表現もどうかと思いますが本当にヘンにデコラティブなキャラクターではないのが、実に似合っていていいなと思いました。こういうのをたとえばナチュラル、オーガニックとかいうのではないのかねケーコたん、おっと脱線。
 ストラットフォード時代に友人ふたりと逃げ出して、顔を見合わせてニカッと笑うときの四角い口が大好きです(*^o^*)。
 秋の全ツは柴田ロマンが観たいなー。『あかねさす』とか『琥珀』とか『黒い瞳』とかどうかなー。楽しみだなー。

 みりおんは早くシシィが観たいです。上手いのはわかっているし、どう役作りしてくるか楽しみです。私は単に自由を愛する強く悲しい女性というだけでなくて、けっこうエキセントリックなところがあって現世では生きづらかったんだろうな、と思わせられるようなシシィが見てみたいかな―。
 博多座『王家』ではいっそアムネリスが見たいです。上手いだろうなー、魅せてくれるだろうなー。ずんちゃんアイーダとかでもいいと思うんですよね。それくらいぶっこんでくれないと集客が本当につらいのでは、と今から心配しています。
 今回のショーでは、「天使のウィンク」が個人的にはややアレで残念です。歌が上手い人は別に聖子ちゃんふうに歌ったりなんかしなくていいと思うのですよ…というかみりおんはちゃぴとはまた違った意味で男前なんだと思うから、娘役を率いてバリバリ踊るような場面をひとつ任せちゃってほしいなー、とか思います。

 ゆりかの組替えも本当に成功しましたよねー。私はスタートがヤンさんだったわりにはヤンミキ萌えがそんなにはなくて、トップと二番手のコンビにもそんなにナニかを求めるタイプではないのですが(ナニかってなんだよ)(バランスがいいとか芝居がお互い引き立つとかは求めたいけれど)、まぁゆりはなんかすごくいい感じで仲良さそうでゆるそうで健全そうで(笑)、すごくいいと思います。ナウオンとかホント見ていて楽しい、ときめく。
 星組育ちの御曹司でたくさん場数踏んできててスターオーラがハンパなくて、宙組子にもいい刺激になり勉強になっていることでしょう。歌もものすごく良くなりました、昔は椅子から転げ落ちそうな思いを何度もさせられたものでしたが…次回の、宙組に来ての初主演作が本当に楽しみです。
 ジョージは、冷静な目で見ればけっこうキャラが崩壊してしまっているキャラクターなのかもしれません。政治的な野望があまりない父親を不甲斐なく思って、女王に取り入りセシルを打倒し権力を手にしようともくろみ、その手段として人心を扇動できるウィルの才能に目をつけた…ということのはずですが、歴史的にも最終的には政治家というより劇団のパトロンとして終わった人なのかな? シメのリチャードの台詞によれば、ですが。
 でも今のように、ウィルをただ利用するだけでなくちゃんとその才能を認めていたのだ、とか、自分は処罰されるにしても彼だけは救いたかったので奔走する、というキャラにした方が、ただの悪人、敵役にしてしまうより良かったかなと思います。二番手スターにワルいカッコいい悪役をやらせるのは基本ですし、それで人気も出るものですが、ゆりかの人気ってもう十分確立されている気もするし、こういうユーモラスでチャーミングなキャラクターの方がニンかなーとも思うので。
 ジョージがウィルを好きすぎる感じはホントに微笑ましくてニヤニヤものですよねー。ダーク・レイディ場面はまあオマケとしても(笑)、ウィルをストラットフォードからロンドンに旅立たせアンは待たせておくところ、アンとリチャードが怪しいんじゃないかと耳打ちしちゃうところとか、ホントたまりません。中の人が健全っぽそうだから、余計に安心して勝手に萌えられるというか…(^^;)
 ゆうりちゃんとのカップルも本当にゴージャスで、こういう二番手カップルが確立されているのも組のバランスが良く見えて気持ちがいいです。
 ショーでは「はべらかし先輩」まぁ様を見習って娘役に囲まれる流れを一手に引き受けていて、それも二番手スターの面目躍如ですよね。でもジゴロとEYE(Dark)はそんなには萌えなかったんだよな…全ツ『ホッタイズ』ではまぁ様ジゴロが見たいかなー…(演目未発表です)

 愛ちゃんは『王家』に引き続きお芝居ではずんちゃんとニコイチ扱いですが、立派な三番手スターとして着々と場を与えられていてそれにきちんと応えていて、頼もしい限りです。
 サウサンプトンが美形だったのは史実のようですし、だから彼が髪を払っただけで女官が歓声上げても当然なんだけれど、それで客席から忍び笑いがこぼれちゃうのはちょっとナルシーに見えちゃうからなんですよね。愛ちゃんがそう役作りしているならそれで正解だからいいんだけど、ホントにホントの二枚目でもいいと思っているので、笑われないカッコよさを確立できるかはこれからの課題かな?
 後半おもろい展開になってしまうのも、これから組を背負うスターに育てるためには「おもしろい」ではなく「カッコいい」と思わせなければいけないんだからこういうんじゃダメだ、みたいな意見をネットで見たのですが、私はチャーミングで良かったなーと思ってるんですよね。リストだっておもろかったけどカッコいいところもちゃんとある役だったし、愛ちゃんは大丈夫だと思います。
 ゆりかDCでは二番手格になるのかな? 『SANCTUARY』も私は大好きだったけれど、ここでどんな活躍を見せられるかが勝負だと思います。がんばってほしいなー。
 ショー力はもう少し欲しいかもしれません。もうちょっと踊れて見えるようになるといいよねー。歌は私は好きなんだ、ちょっとこもったように聞こえるあの声ごと好きなので。プロローグ居残り銀橋は初日はあっぷあっぷに見えましたが、今やせーこ以下ゆうりありさまどかを「僕の子猫ちゃん」扱いしているようにすら見えます。いいぞいいぞ、バーンといこうホット愛!

 そして芝居もショーも、押しも押されぬ二番手娘役扱いのゆうりちゃん、イヤうらら様、素晴らしいですね! 私は二番手娘役はいた方がいいと考えているので、陣容が整ってきた今の宙組には鼻高々です。他組はトップ娘役が下級生だったり就任から間がなかったりで、二番手娘役らしきポジションに確定した娘役さんはいませんからね。
 ゆうりちゃんは組む相手を素敵に見せる娘役力が素晴らしいし、悪女をやろうがヴァンプをやろうが女役になりすぎないチャーミングさ、可愛げがあるのが素晴らしい。演技も本当に細やかですし、あとは本当に歌だけですよね…
 20年以上ファンやっていて美人ばっかり何百人も見てきていますが、わけてもとびきりの美人だと思いますし、なんとかいいポジションにつけてあげたいので、ホント歌次第ではないかしらん。まあ歌えないトップ娘役なんてのもそれまたたくさん見てきましたけどね…
 ショーのタコ足ダルマのセリ上がりには、右手を音に合わせてピン!と払うところで拍手入れたくてたまりません。入るようになっちゃうといいのになー。
 新公では市民(女)のロンドン小町っぷりが素晴らしく(奥にいようが端にいようが綺麗ですぐわかる)、五月祭の女の花冠がラブリーで素晴らしく、酒場の女はお給仕なんてしなくていいのよと言ってあげたい美しさで、見ていて楽しゅうございました。

 ずんちゃんは美形のサウサンプトンに対して武闘派のエセックス、というわりには持ち味がノーブルなので今回の芝居の役回りはちょっとなー、という感じだし、『王家』に引き続き愛ちゃんとニコイチってどうなのよ育てる気あるのかコラとかいろいろ言いたいのですが、これまた明るくおおらかなオーラのあるスターで、包容力も頼れる感じもありますし、私は進撃の95期の中でも逸材だと思っています。
 歌えるし、ホントはショーでももっと使われていいと思うのですが、今回はやっと新進スター枠を埋めました、という感じかな。でもそら、もえことのエトワールのハーモニーは素晴らしい。エトワールは歌ウマの娘役に務めてもらいたい派の私ですら脱帽です。
 中詰めとっぱしの三組ヤングカップル銀橋、初日におそるおそる出てきていた感じが忘れられません。ひとつずつ度胸をつけていこう、場数だよ場数!
 新公ではジョージ、さすがに余裕がありましたね。髭と開襟が似合っていてセクシーでときめきましたし、声ができていておなかからちゃんと出ているので、もえこウィルに対して「都から来た権力者」として立てたのが大きかったと思います。
 博多座ではアイーダかなアムネリスかなウバルドかな、ケペルになるんじゃつまらないと思うんですよね。あとはカマンテ? ううーん…とにかく今後に期待しています。

 以下、順に芝居のグループ分けで語りますと、まずシェイクスピア家。
 パパまっぷー、あたたかいよね素晴らしいよね。ショーのまぷ子ちゃんも素敵ですよね、歌手としての起用も嬉しい。ほんとはあっきーもりんきらもずんちゃんも歌えるんだけど、違う枠だからね。
 ママあおいちゃん、出番は少ないんだけど情愛が見えていていい感じです。比べることではないのかもしれないけれど、私はすーちゃんとかはいつも役が大きすぎると思っていて、じゅりあも今後は役を落とすべきだと考えているので、副組長の娘役の仕事としてショー含めて今回は正しいと思うんですよねー。
 ハムネットららたん、かわゆ! パパがママに綺麗なドレスを贈ったことにホントに嬉しそうで、つたない口調でちょいちょい違うこと言っていて常にキラキラしていて、お芝居として本当にいい。
 ショーの三組銀橋もららたんの可愛い力が図抜けていると思っています。可愛子ぶるのとは違うんだよね、娘役として可愛くある芸がちゃんとできていると思うのです。このあたり、まいあちゃんは期待の星、まどかはまだまだ素質だけでやってると思う。がんばれ―、楽しみ―!!
 そして新公のMVPはららたんだったと思っています! ららのアン、すごくよかった!! 見目の雰囲気はどうしてもみりおんより可愛らしく幼げになってしまっていたけれど、演技がとにかくよかったです。ちゃんとウィルより年上で、歳がいっている女性で、でも茶目っ気にあふれた魅力的な女性像を作り出していると思いました。
「なら、私が役者になるわ!」
 でくるりんと回ってみせてハート鷲掴みでしたし、歌もいいんだよなあ。私は言われているほど彼女の歌が下手だとか不安定だとか思ったことはなくて、むしろ好きなタイプのソプラノ・リリコに思えるので…情感もあって、聴かせてくれました。
 号泣したのが『冬物語』場面で、ウィルとデュエットしたあと抱きしめ合うくだり。ららアンはもえこウィルに身を投げ出すようにして抱かれていて、全身全霊で夫に向かい合ってるんだって感じすごく出ていて、私は爆泣きして歌い終わりの拍手ができませんでした。ここ、舞台上の一座メンバーたちは拍手するけれど客席からは拍手が出たり出なかったりだと思うのですが、新公では自然とあたたかな拍手が湧いていましたね。感動的でした。
 新公ではハムネットはりらたんでしたが、うーん…普通? ちっちゃくて可愛いんだけどいろいろまだまだなのかなあ、がんばってほしいなあ…

 一座のメンバーではコマちゃんは専科なので別にして、まずはかける、素晴らしいですね! 『白夜』での役とかとはまた違った味を出してきていて、素敵です。そしてショーのダンサーとしての重用っぷり! やっとわかったか劇団!! 今回の94期祭りはめでたい限りです。
 このジェームズは新公ではほまちゃんでした。意外と普通だったかな…? 上手さに舌を巻く!みたいな感じは私は受けませんでした。
 続いて少年女形役者役のコンデルせーこ、素晴らしいですね! ショーでも圭子お姉さまにすべて持っていかれてしまうことはなくてちゃんと歌手として起用されていて、よかったです。
 新公ではさよちゃん、ショートカットが可愛かった! でもやはり本公演ほどの鮮やかな印象は残せなかったかもしれません。がんばれー!
 ポープあっきーは、『ロミジュリ』でパリスを演じていてそのモデルがそもそもアンの求婚者パリスで…というギミックが演出上まったくわからないことになっているのが本当にもったいない。でもこのおマヌケな役をすごーく楽しそうに演じているあっきーが可愛いからいいです。ハイ贔屓目ですが何か?(開き直り)イヤいいですと言いつつ生田先生にお手紙書きましたが何か?(^^;)
 しかし何故パリスはあんなにヘタレなのだろう…あれがポープの素だということなんだろうか…パパまっぷーをくさす台詞の板についてなさがたまらないんだよね、大根役者という設定だと信じたい。メイポールに巻かれちゃうところはもっとちゃんと巻かれて、正面向いてやってもいいのになーと思います。
 ショーは本当に大活躍でありがたい限りです。愛ちゃんが三番手としてしっかり上げられているので、結果的にという言い方はアレですがそれ以外の部分のセンターや先頭をすべてもらえている形で、いつもいい位置にいて観やすいことこの上ない。あと、贔屓目と言われればホントにそれまでなんですが、今回、本当に見せ方が大きくなっていて目立っている気がします。もともとスタイルはいいんだけど、下手したらひょろっと線が細く見えすぎていた部分が、なくなった気がしました。ショーのお稽古が本当に楽しそうだったからなー、もっともっと踊りたいんだろうなー。
 モンチは、ベンという役どころが中途半端でもったいなく、かつ役不足に見えるということは初日雑感でも指摘したつもりです。もったいないよなあ。でも小さいけれどなんでもできる…という意味では、より華があるように見えるそらに役割が移っているということなのかなー…残念だけれど。
 ケンプりくは、ウィルとアンの結婚が認められたときにすごく嬉しそうな顔をするのが印象的ですよね。ホントいつも温かい芝居をしているんだよなあ。ショーではあっきーのアオリで私が観られていないことが多くて申し訳ないのですが(^^;)、ダンサーとしてさらにバリバリ起用されてほしいと思っています。
 ヘミングそらがまた達者でねー。コンデルは少年だから女形だけど、ヘミングは背が低いだけで意外と大人なのかな? それで女形をやらされているのが不服、という役作りなのかな? 『冬物語』後半でけっこう仁王立ちしているのとかが、いかにもホントは男性の俳優さん、という感じがいいんだよねー。ポープに対して意外とエラそうなのもイイ(笑)。
 ショーのロケットボーイも素晴らしい。私はロケットにはロケットボーイかロケットガールSがいてほしい派なので、嬉しかったです。
 でも新公は私がやや期待しすぎたかな…本役コマのリチャード役、正直舞台を壊すくらい場をさらってしまうのではとまで思っていたのですが、意外と普通だった…? コマちゃんの空気を変える力量を痛感しました。ずんちゃんジョージと握手したあと手をぬぐっちゃうところとか、よかったんですけれどね。
 役名なしのかなこですが、そしてさしたる台詞もないですが、だからアラが目立たなくていいが(オイ)、しかしこの上げ方はどうしたことか!(笑) 私は以前は、美貌は美貌だがちょっときつく、性格悪く見えるかなーというのと、とにかく台詞が下手なのがつらいとか思っていましたが、今回はなんかちょっときんぐに似て見えるマイルドな美貌になっていて、ポープにやたら先輩面して絡んでいるところもなんかちょっとおもしろくて、注目しまくりです。
 ショーのダーク・レディAも素晴らしいですね! 鬘はどれもよく似合っています。正しい女装だわー。
 同じく役名なしのまりなも可愛いよ、もうちょっと使ってほしいよ。でも台詞がまだ全然できていないんだなあ、と新公ベンで痛感しました…がんばれ!
 アーミンもえこは本公演ではわりと手堅い感じでしたが、初主演の新公はがんばっていましたよ感動的でしたよ! 歌えるというのは武器ですねえ、最初は緊張して見えましたがあっという間に舞台を支配できていました。
 歌に比べたら芝居はまだまだ一本調子だったかもしれませんが、それこそ若く青い等身大の青年像を見せてくれていましたし、天才故の危うさとかが出せていければなおいいかな。同期のららとの息の合ったカップルぶりもとてもよかったです。
 タッパもあって映えるしね、お化粧は多分もっと綺麗に見せられるはずなので、がんばっていってほしいです。
 どの組も95期が新公を卒業したらまた新たな戦国時代でしょうからね。96期のそら、97期のひとこに98期のありちゃん、そこにもえこが並んで、あとはなみけーやしどりゅー、まちくん、れんこん、マキセルイに期待? 楽しみです。

 宮廷音楽家のりおはルーシーの従者もやっていて手堅いし美形なのですが、この役回りではそこまで目立つとかは残念ながらないかなー。でもショーではいいですよね、黒髪センターパーツとかすっごく目立つし、まゆたん似の美貌に磨きがかかってきた気がします。この先が楽しみ!
 同じく音楽家その他いろいろやっているあきもも、上手いし独特の顔立ちが目立っていいと思うのでもっと使ってほしいよねー。新公ジョンはややもったいなかったかなー、上手いし手堅いんだけど、もっと大きな役を見てみたかった気がしました。

 宮廷の高官チームは、形としては悪役おじさんs。まずはセシルりんきら、やっぱり上手いんだけど、上手すぎてこういう役を任されがちなのが気の毒と言えば言えますよね…
 新公ではなっつでしたが、声ができていてよかったなー。この子ももっと真ん中あたりをやらせてみてあげてほしいなー。
 セシルの息子ロバートてんれーはさすがの怪演ですが、新公の朝日奈くんがさらにすごく作っていて、なかなかの気合いを感じました。
 さおもなー、上手いのわかってるだけに損な役回りになってるかなー、難しいよなー。新公ではりりちゃん、こちらも声ができていてよかったです。
 ゆいちぃもこういう役回りは損かも。つまりこのあたりの並びが、『白夜』でも見ませんでしたっけ!?ってなるのが困ったものだと思うのですよ。よく考えて配役してくれ宙P!!
 新公ポープは贔屓目かもしれませんがあまり感心しませんでした…パリスは別におとぼ役に作らなくても、悪く作ってもいいかなと思ったんですが、中途半端に見えました。ウィルにすごんで、すごみ返されたらすぐビビって、すぐアンの方向いていそいそ立ち去る…ってのがバタバタの段取りにしか見えませんでした。あれでちゃんと笑いが取れる本役はすごいんだな、とか思ってしまいました。素のポープになると埋もれて見えたのも残念。背が高くていいものあるのになー、がんばれ!
 そしてエリザベス女王の新公はしーちゃん、圧巻でした。本公演の女官も綺麗で見とれるんだけど、口紅の色を抑えたくらいでは隠しきれない美貌の女王っぷり、素晴らしい歌声で舞台を締めていました。博多座ではアムネリスを見たいぞ…!

 それから進撃のまどか、まだまだ素材だけでやっている気もしますが、エミリアのインパクトは立派だと思いました。ショーでの重用も娘役の層の厚さを見せるようでイイですね! 三組デュエダン、たまには見たくなりますもんね!!
 新公ではエミリアはまいあちゃん、本役よりエキゾチックな作りでよかったです。そしてまどかは新公ではベス、これは苦戦していたかなー。これからいろいろ芸の幅を広げていけるといいのでしょう。今後が楽しみです。

 その他新公で印象的だったのは女官長のさすがのせとぅー、あと女官sではふみなが美人でした!
 そして抜擢と言っていいサウサンプトン伯役の希峰かなたくん、エセックス伯役の優希しおんくん、アーミン役の愛海ひかるくん。ちゃんとしてたねえ!
 しおんくんは本公演のパックもあるしダンサーなんだろうとは思っていましたが、声がちゃんとしていて好感を持ちました。かなたくんもWトリオに入っていて売り出し中ですが、ちゃんと二枚目に作れていて立派だと思いました。
 ひかるくんも愛嬌があって感じがよかったです。大事、大事! 小公演で使われていくといいなあ。でもかなたくんとひかるくんは次は『王家』か、ううーむ…
 そして次の本公演は『エリザ』なんだから困っちゃいますが、まあ生徒は出演できるだけで嬉しいんだろうし、見守るしかないですね。今後の宙組に幸多かれ!




 
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ジェットラグ『罠』

2016年01月12日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 紀伊国屋ホール、2016年1月11日マチネ(千秋楽)。

 あるアパートの一室に、明日入籍を控えた男女が同棲していた。そこへ、男の友達だという女4人がやってきた。4人は結婚式で披露するサプライズの取材に訪れたと言い、男には秘密だと言う。女は初対面の女4人を招き入れるが…
 作・演出/山崎洋平。全1幕。

 どんなトラップが仕込まれた舞台なのかな…と、こちらも身構えて観るじゃないですか。そのせいもあるかもしれませんが、私はわりと最初のうちはノリきれなくて、けっこう困ってしまいました。
 このあらすじはプログラムにあるものを書き写したのですが、まずそんな設定だとわかりませんでしたしね。キタさんがひとり暮らししているアパートで、台本読んで歌の練習かなんかしているからミュージカル女優さんなのかな?くらい。椅子がふたつあるダイニングテーブルが出ていたけれど、同棲感はあまりなかったですし。だいたい、左薬指にした結婚指輪を外して投げ捨てるところから始まらなかったっけ? あとなんで音楽が「白鳥の湖」だったの?
 オープニングの曲が「キッスは目にして」だったのは「♪罠」という歌詞のためだと思いますが、宙組大劇場公演に通っている身としてはツボすぎました(^^;)。
 で、そのキタさん、部屋着だからどの程度の女優さんなのかよくわからないし、彼氏の女友達4人に踏み込まれてからも、お互い含むところがあるという芝居だから怪しげなのはわかるんだけど、私にはきらりの芝居がすっごくナチュラルに見えて、それからするとキタさんの芝居は浮いているようで、そういえば私、卒業後の彼女の舞台を初めて観るんだったわとかキタさんの芝居好きだったんだけど外の舞台だと違って見えるのかなーとか、けっこう邪念が浮かんでしまいました。
 何よりキタさんが、年下の男と結婚しようとしている女に見えなかったし、彼の浮気に怒って浮気相手たちを罠にかけるような女に見えなかったんだけど、なのでミスキャストなんじゃないかと思わなくもなかったんだけれど、でもそういうのも全部ひっくるめての「罠」でありギミックだったんだろうか…という気はしました。
 ストレート・プレイなんだけど突然ぶっこまれる歌謡シーンは、私は嫌いじゃなかったですけれどね(^^;)。
 サスペンスなのかコメディなのかギャグなのかシュールなのかリアルなのかよくわからず、でもまあまあ笑っているうちに、最後のオチにどかんとひっくり返された、という感じでした。
 まあでもこれでいいならなんでもありになっちゃうし、これで整合性があるのかどうかよくわからないし、やや卑怯な気もするオチでもあるとも思うのですが(たとえば『道玄坂綺譚』にはその先にさらに素晴らしい展開があったのだから)、これまた宙組担としては笑うしかないオチでもあるワケで、まあ楽しく観終えました。
 きらり、これからもお仕事していってくれるといいなー。そしてキタさんも、いつもおもしろい演目を選んでいるイメージなので、機会あればまた観ていきたいです。
 ジェットラグは『私はスター』を再演するとのこと。チラシにわざわざちーちゃんの名前を出すの、いいと思います。OGでもなんでも使って知られていかないと、こういう小さい劇団は運営がつらいはずなので。私みたいに釣られて出かける人が必ずいるはずなので。
 今年も外部もいろいろちゃんと観ていきたいと思っています。いい出会いに恵まれますように。




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