駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇月組『応天の門/Deep Sea』

2023年04月29日 | 観劇記/タイトルあ行
 宝塚大劇場、2023年2月11日11時、21日13時、18時(新公)。
 東京宝塚劇場、3月30日18時半、4月6日18時半(新公)、25日18時半。
 
 時は平安の初め、藤原北家の筆頭である良房(光月るう)とその養嗣子・基経(風間柚乃)が朝廷の権力を掌握しつつあった頃。京の都では、月の子の日の夜に鬼たちが大路を闊歩し、その姿を見たものを憑り殺すという「百鬼夜行」の噂に人々が怯えていた。京の治安を守る検非違使の長・在原業平(鳳月杏)は、帝の御前でこの怪事件の早急な解決を約束する。というのも、彼には頼もしい助っ人の心当たりがあったのだ。それは先ごろ偶然に知り合った風変わりな青年で、学者を多く輩出してきた菅家の三男、幼きころより秀才の誉れ高き菅原道真(月城かなと)であったが…
 原作/灰原薬、脚本・演出/田渕大輔、作曲・編曲/青木朝子、植田浩徳。編曲/多田里紗。「月刊コミックバンチ」で連載中の漫画をミュージカル化した平安朝クライム。

 原作漫画は電子無料キャンペーンをやっていた分だけ読みました。けっこう量があった気がしたけど、三巻分かな五巻分かな? 絵は味があっていい感じ、漫画はめっちゃ上手いというタイプではないですが、そこそこ人気があるようで長期連載になっていますよね。史実をもとにした平安朝を舞台に、歳の差バディ探偵ミステリー、というアイディアは目新しい。基本的にはひとつずつ事件を解決していくスタイルですが、グルグルものではなく時間はちゃんと流れていて、史実はこの先いろいろあるのでどこをどう描いていくのかは見ものでしょう。ただ、紙のコミックスはもう重くなっていく巻数だと思うので、上手くまとめていかないとね、と老婆心ながら思います。
 さて、そんなわけで毎度真面目で芝居に真剣な月組さんは、原作漫画の雰囲気を生かしてそりゃ手堅く上手く仕上げてくるのでした。田渕先生もオリジナルだとややアレレですが元があるとまだ違うのか、流れるようなステージングでたいしたものです。「食えない坊ちゃん」という言葉の使い方が、二度目のは正しいけど最初のは違うんでないかい?ってのと(そして三度目は…同じ言葉をそんなに何度も使うなよ、と言いたい)、開演アナウンスに被さる音楽がうるさくて、トップスターのアナウンスをナメてんじゃねぇぞ?ってのが気になったくらいかな。平安貴族や武人たちとか、どうしても男役ばかりで娘役に役がないのを、ヒロインの店で働く女性たちや祭り見物に出る町人たち、神楽舞の伎女たちなどに上手く起用して、ちゃんと銀橋にも出す親切設計は褒めたいです。あと、そもそもこんなにちゃんとしたセットを作るのは演劇としてはややダサくて、今はもっと抽象的な空間をそれなりに見せるのが主流では?と思いつつも、セリや盆やカーテンや銀橋や、セットを吊るバトンもガンガン使って素晴らしいスピードの場面転換を見せるのも、たいしたものだと褒めておきたいです。ホント毎度エラそうですみません。 
 さてしかし、原作が連載中でもあり、ひとつの事件の真相は解明したものの犯人を糾弾するには相手が権力者すぎて、罪を問いきれないだろうし今はネグっておくしかない…というオチなので、ややスッキリしない、という残念さはあります。「本当の戦いはこれからだ!」という「週刊少年ジャンプ作品かな?」なオチは、個人的には嫌いじゃないですけどね。ただ、主人公が歌い終わったら本舞台にはもう照明を入れて、敵の顔を観客にきっちり見せて、そのあとは照明を主人公に絞って終えるのではなく全部バン!と落として終わった方がカッコよかったのでは、とは思っています。
 あとは、ここではないどこか、たとえば唐はすべてが理想的で極楽パラダイス…とか夢見ていたお坊ちゃまの主人公が、いろいろな大人と関わってひとつの事件を解決する中で、書物だけでは知ることができなかった世の中を多少とも知り現実をかいま見、ここもそんなに悪くないしまずはここをもっと良くしてからでないと旅立つ資格はないな、とひとつステップを踏み成長し思い直す…のはもちろんひとつのドラマなんだけれど、まあでもちょっと弱いよね、という問題はあったかな。宝塚歌劇が何故ラブストーリーばかりを上演するかといえばそれはてっとり早くわかりやすくドラマチックだからで(脚本家の技量のせいで全然ドラマチックにならないこともままあるにせよ)、恋愛とか革命とか(同列なのか)以上にドラマチックな素材をなかなか用意できないからでしょう。でも今回はトップコンビが恋愛関係にないのでした。
 別にキャラみんながみんな恋愛していなくてもそれは全然かまわないんだけれど、でも今回、感情的な屈託があるのって高子(天紫珠李)との昔の恋を未だ引きずっている業平とか、幼き日に出会ったもうひとりの自分のような、親しくなりきれなかった片想いの友のような吉祥丸(瑠皇りあ)を引きずっている基経とかであって、主人公でもヒロインでもないんですよね。道真ももちろん兄への想いはあるし語るんだけれど、子供だし性格的にドライなのもあって「そういうもの」としてもう納得しちゃっているようなところがある。まあ実質的な跡取り息子として自分ががんばるしかない、というんで割り切らざるをえなかったのでしょうが、そんなわけで未だうだうだしている業平とか基経の回想シーンなんかの方がドラマチックだし、萌えがあるんですよね。
 そしてヒロインは最初っから最後までキッパリスッキリなデキるキャリアウーマンなワケで、ここも感情に特に変化がない。この変化のなさ、ドラマのなさ、感情の動かなさが、作品としては弱いんだと思います。萌えがない、ワクテカしない。今ひとつ淡泊なまま、「続きはまたの機会に!」って感じで終わってしまう…よくできているんだけど、そもそもの構造がこうなのであり、そこが弱点の作品だったかな、と思います。イヤ組ファンは楽しく通ったんでしょうけれどね、でも私はそう感じて、そんなに何度も観に行くものじゃないなと思ってしまったのでした。でも、平均点以上の出来の作品だったとは評価しています。毎度エラそうな物言いでホントすんません…

 さて、れいこちゃん道真は、そりゃ漫画よりは青年に片脚つっこむ少年像でしたが、三白眼で膨れっ面で、毎度「…嫌です」や「…ちょっとぉ」でちゃんと笑いを取れる達者さもあり、さすがでした。業平に高子の話を振るくだりは、素で天然なのか意地悪な皮肉なのか、なかなかひやりとしそうなものなのですが…そんな、聡明なんだろうけれど世間知らずすぎる、人の感情や心の機微に疎い子供で、まだまだ危ういところもある様子をすごく上手く演じていたと思いました。
 くらげ昭姫(海乃美月)もニンにぴったり。もうちょっと婀娜っぽくても楽しいだろうけど、なんせその色気を受け取る人がいないので無駄なものは出さないんですよね、という感じかな。くらげちゃんの役どころとしては目新しいところはないような気もしますが、ヒロイン像としては意外に他にないものかもしれず、そういう幅が増すのはいいことだと思いました。
 ちなつ業平もそりゃもう上手い。藤原家の勢力争いからは外れたところにいて、飄々と風流人を気取り、町行くおなごたちに気軽に手を振りもするけれど、かつての恋を未だ思いきれないでいる…まあ、いい男のお役です。そりゃ上手いです。
 おださん基経も赤い唇が禍々しく、白皙の美青年で実は恐ろしいやり手、でも今はまだ義父の陰で…というのとその義父とも実は屈託があり…というのとさらには妹・高子、そして吉祥丸への想い…となかなかにてんこ盛りな、おいしいキャラを素敵に演じていて、月組ってホント盤石!って感じでした。
 はっきり四番手格に据えられた感のあるぱるは藤原常行(礼華はる)。歳の設定はわかりませんが位や立場が業平より上らしく、ちなつにまあまあ横柄っぽい態度のぱるなんて新鮮、トキメキ…と私はワクテカでした(笑)。まあもともと好きなスターさんなんだけどさ。顎髭もお似合いで、ちょっと男臭いところもある、でも妹ラブの生真面目で心配性な青年、という感じでしょうか。まあ並ぶとどうしても演技はまだまだなんだけど(声がまだ軽く聞こえるんですよね。なんせ周りが上手すぎる、怖いよ月組…)、まだまだがんばっていけることでしょう。このスタイルはなんせ武器です、信じてるぞがんばれ!
 白梅(彩みちる)のみちると長谷雄(彩海せら)のあみちゃんはほぼニコイチでキャッキャしていて良きでしたが、まあ役不足ではあったことでしょう。辛抱時期もあるということです。
 今回は退団者が多くて、るうさんは基経の養父・藤原良房。渋く悪く重々しく、さすがでした。からんちゃんはなんとラストも子役の清和帝(千海華蘭)、これがまた上手くていとけなくて、下がり眉で「なんとかしてたも」と言われた日にはみんな身を粉にして働いちゃいますよ帝のために…!ってな出来でした。ぎりぎりは基経の手下で鬼に化ける黒炎(朝霧真)、これまたこういうお役をたくさん観てきましたがその集大成というクールさ、シャープさ、ワルさで良きでした。ゆーゆは化粧がショーと同じかなみたいな目尻キラキラで素敵で、らんぜたんは若き日の高子(蘭世惠翔)他いろいろやっていましたが、どこも美人でホント目立っていました。さびしい…
 印象的だったのは若き日の道真・阿呼(一乃凛)ののりんちゃん、あの「すごい? あこすごい?」の愛らしさは、袖でどんなにるうさんがお稽古しても及ばないでしょう(笑)。それと若き日の基経・手古(白河りり)のりりちゃんのキツさ、研いだ刃のような美しさ、わずかに滲み出る愛情や寂しさ…あとは高子に仕える山路(白雪さち花)の、ラストの手紙を差し出すくだりのさりげない素晴らしさね…! あと、静音ほたるちゃんの顔が好きです!!(宣言)あとあと、いつでもどこでもホント上手いれんこんの声、至宝です。
 最後に俺のまのんの多美子(花妃舞音)の幼女芸、これまた至宝です! 新公の方がお姉さんに見えたもんなー…毒酒をあおって倒れた兄が連れられて去るのを子供みたいな泣きじゃくり顔で見送っていて、ホントもーヨシヨシしてあげたかったです!! きゃわわわわ!!!

 新公もご縁あって東西ともに観られたので、以下簡単に覚え書き。
 主演は七城雅くん。私は『ギャツビー』新公を観られていないので、なんかカワイイ新公大蛇丸だなー…くらいで印象が止まっていたのですが、なんとこんなに歌える芝居もできる少年に見えるおちつきはらっている、たいしたものでした!
 ヒロインはみかこ、羽音みかちゃん。劇団使う気あったんかーい!な今さらな配役だとは思いました。『ブエノス~』ではちょっと足りていないなと感じましたが、その経験をものにしたか、同系統と言ってもいいかもしれないこのお役をスッキリしっかりこなしていて、感心しました。ただ超絶スタイルとキレキレのダンスが売りのショースターかなとも思うし、今後も芝居で娘役芸が要るような役は回ってこないタイプな気がするので、ホント路線系娘役がいないな月組…とはなりました。
 業平は一輝くん、まああっぷあっぷしていましたね。劇団が育てる気満々なのはわかるし、こういうお役もホント経験だとは思うけれど、歌は弱いしそもそも苦手意識がある気がするし、お化粧も私はあまりいいとは思いませんでした。まあこういう背伸び経験も財産だ、がんばっていけー!
 逆に基経るおりあきキタコレ案件でしたでしょう! 彩音くん同様、美貌のわりにこれまで役付きが悪い印象でしたが、これは次の新公主演があるのでは!? てか使わないともったいないのでは劇団!? おださんとはまた違う印象の、悪い炎が静かに燃えている感じのお役で、もちろん本公演が吉祥丸というエモさもありますが、本当に目を惹いたと思いました。
 俺のまのんは白梅、可愛かったけどまあしどころがない役なんだな、と改めて思いましたね。コンビの長谷雄は和真あさ乃くん、これまた可愛くて手堅かったです。
 りりたんの桂木がさすがだったなー。是善の澪あゆとくんもよかった。
 清和帝は天つ風朱李くん、幼げで良きでした。良房の彩路ゆりかがまた上手くて、今まで絶品の三下芸、子分芸をたくさん観てきたけどおっさん芸も出来るんかワレ!と刮目しました。常行は遥稀れおくん、やはりのっぽさんで実直そうでよかったです。
 おはねちゃん高子はなんかフツーだった気がしました。真弘くんの國道がまた上手いんだ…! その真弘くんが本役の是則の凉宮蘭奈くんは、ちょっと上がってたかなー…? この子は男役だけどゆーゆの大姉さまもやっていたのですね。
 あとはうーちゃんがやってた若き日の業平、月乃だい亜キレーイ! ヤバーイ! のりんちゃんの若き日の高子も素敵でした。あとみうみんの手古、良きでしたー!
 新公担当は中村真央先生。A先生のお嬢さんで元CAでドーターの中村Dとか呼ばれ始めているとかなんとか…大きな変更はなかったと思いました。


 ラテングルーヴの作・演出は稲葉太地、サブタイトルは「海神たちのカルナバル」。
 生徒たちをもうちょっと小分けに出してくれるとゆっくり観られて嬉しい…とは思いましたが、まあ華やかでわさわさにぎやかなショーで、楽しくてよかったです。黒塗りではなく、日焼けの範疇と言えなくもないブラウンフェイスくらい。ただし娘役は身体をけっこう濃く塗っている人が多かった気がしました。
 プロローグ、れいこちゃんの「ダイブ…」からのるうさんのアナウンスや映像、というのは素敵でしたが、ここで踊る海神の遣いたちがまあまあいいメンツなので、だったらもっと照明入れんかい、と思いました。コロスに徹するならもっと下級生を起用すべきでしょう。スターの顔を見せないなんて宝塚歌劇では無意味です。
 そしてチョンパ。デーハーな色目のわさわさしたお衣装で勢揃い、良きでした。デコレーションズのモジモジくんみたいな水色タイツの下級生たちも良き。彼女たちは続くちなつ吟遊詩人のバックにもいて、一輝くんフィーチャーでした。わかります、わかりますよ。
 そしてくらげマーメイドセンターのマンボ場面。マンボの女がみんな髪型も濃くてパンチあってよかったなー。マイ初日はまだおはねちゃんがショーを休演していて、代役でまのんが入っていたのでウハウハでした。しかしここのくらげちゃんのお衣装はミュージカル『SIX』にあるものの完全なパクリだそうですね。バレないと思っているのか劇団…こんな組織にセクハラパワハラ対策だのコンプラ遵守だの働き方改革だの、ホントできるワケないよなーと死んだ目になりますね……
 みちるゆーゆらんぜみかこと揃い踏みの真珠がまたたまらん。ここの「(プレイボーイ)」と役名につく海神役のれいこちゃんがスッキリと素敵。じゃんけんはまあよくわからんが…平和で良き。
 そこからフェニタカの赤いスーツやドレスで中詰め。からのぱるあみセンターの恒例若手爆踊り場面。あみちゃんはホント上手いんだけどホントちっさいんだ、そこだけだよ…
 そして花園へ。もう何度も見た気がする女装ちなつですが、れいこちゃんが色っぽく絡み、おださんが色っぽく歌う…おださんの歌がとてもよかったです。
 エルメスとビットが出そうな(笑)くらげちゃんの歌から、暖色サルエルでマントルを表現する土俗的なダンス場面へ。退団者ピックアップもあり。そしてロケット、もうまのんたんガン見でした。
 フィナーレは両脇の娘役さんの尻を撫でるれいこちゃんが好きです(笑)。デュエダンは笑顔なしのタンゴ。タンゴでは相手の脚の間で脚を跳ね上げる振りがよくあるものですが、れいこちゃんって脚は長くないからまあまあくらげの脚に当たっていて、アザになっていそう…とか思っていましたすみません。
 パレードのエトワールはなんと五人の役替わり。私はりりちゃんと桃歌雪ちゃん、咲彩いちごちゃんを観たのかな? オーディションで全員が良くて、というのはわかるけど、それでもひとりに絞ってこそのエトワールの座ではないんかいな…とは思ったかな。じゃあ次回は誰にやらせるの?ってのもある…
 ダブルトリオはのりんちゃんとほたるちゃんガン見でした。

 退団者は多いけれど、それでも層の厚さと充実を感じさせる、良きショーだったと思います。
 次の別箱のポスターが素敵で、さらにその次の本公演の先行画像はなかなかにナゾで(笑)、ますます楽しみではありますね。『月の燈影』も私は生では未見で、映像でも観たことがない気がするので、楽しみにしています!


***


 以下、最近の宝塚雑談日記を少しばかり。
 せおっち専科異動、SNSファンアート禁止令、主演役替わり『ミーマイ』とこっちゃんの休養、の三連続コンボ発表について、ごく個人的な所感です。

 せおっちについては、マイティの先例があったのでそこまで騒ぎにならなかった印象ですが、それはあくまで二度目だからであってそもそもホントどうなんだこの措置、という問題は引き続きあるワケです。しかもせおっちには今のところDSの発表もない…その後、なかなか破格の博多座主演(役替わりで半分だけど)が発表されたマイティと比べると、だいぶ扱い悪くない?とファンならずとも気分は良くないです。まあずっとかたくなに大羽根を背負わせてもらえず、と思ったら全ツでひょいっと背負わせて、でもコレですからね…『1789』は一本ものだし、トップコンビ以外の大羽根はなさそうですよね。本公演での大羽根がないまま組を去るのか、つらいなー…でもフィナーレの歌唱指導はあるかな、アレはれっきとした二番手スターのお仕事ですよねえ(『蒼穹』でそらがやったのはラストシーンにあーさが出ていたという出番の関係によるイレギュラーなので)。つまり要するに、せおっちは組の二番手スターの仕事はちゃんとしてるしグッズなんかも出してて劇団はそれでちゃんと商売してるんだから、待遇もちゃんとしてくださいよよその二番手と同格じゃないとおかしいじゃん、と激しくつっこみたい、のです。
 マイティのときにも言ったけれど、ここまで来るまでになとんでもできたろう、たとえばありちゃんを組替えさせたときにひょいっと逆転させたってよかったのに、どうしてこう下手なんだ劇団…とはホント何度でも言いたいです。ただ、当人とどういう相談がなされたにせよ、専科に異動してでも劇団には残りたい、タカラジェンヌとしてまだやりたいことがある、と生徒さん本人が判断、決断してくれたのだろうから、それは尊重したいし、実際に他組にどんな形で出演してどんな化学反応が生まれるのか、は純粋に楽しみではあります。ただ、ファンは予定が立たないつらさとかを抱えることになるから、タイヘンだろうなとは思います…でもせおさんってホント愛されキャラだから、今後も良きようになるといいなとホント祈っています。

 SNSファンアート禁止令については、そもそもけっこう以前から公式サイトの奥にひっそり告知されていたそうで、それを最近になってたまたま誰かが見つけて「えっ、ダメだったの!?」って騒ぎ出した、ということなんじゃないかな、とは考えています。FAQの形になっていますが、それは文面のことだけで、実際にこういう問い合わせの凸があったわけではないと思っています。
 で、法律的なことから言えば、そりゃこういう線引きになる、というのはわかるのです。著作権とか、肖像権とかね。でも実際、中の人たちは、特に電車のおじさまたちは、ツイッタランドの楽しげなタイムラインをおそらく全然見ていないんですよね。インスタの不法動画投稿無法地帯とかメルカリの会グッズ転売みたいなのはつぶしていってほしいけれど、ファンアートはそういう類のものではないし、絶対に宣伝効果があるので、ちょっとでも賢ければスルー推奨なんですけれど、なんでこう極端っつーかよく考えてないっつーか下手を打つのが得意なんでしょうかねえ劇団…
 既存の漫画を原作に舞台化しておいて、その漫画家が感想レポイラストみたいなのを描いて自身のSNSに上げるのを規制する権利が本当に劇団にあるのか、とか、そもそも広報誌みたいなところに今まで仕事を依頼してきたプロのイラストレーターさんたちとかもいただろう、彼女たちがお仕事レポとして多少の似顔絵まで描くことを規制できるのか、とか、ホント問題アリアリです。ならもう全オリジナルでやれ、ってなっちゃうじゃん。
 あと、そんなこと規制している暇があるなら使えないチケトレやめてもっときちんとしたリセールシステム整えろよ、高額転売対策にもっと本腰入れろよ、とかいろいろやってほしいことは他に多々あるワケですよ。てか文春にすっぱ抜かれた件は結局どういうことだったんだよ、とかね。アレだってフェーズは違っても地続きの問題なんじゃないの…?
 しかも、それで問い合わせが来てある程度の回答は個別にしてるようでも、結局は引っ込めないんですよ。そういう組織だって知ってた、思ってたよマジで…改めないんだよね、誤ったことよりその方がホント良くないことなのにね…
 そこからの雪組大劇場レポの盛り上がらなさと言ったらあなた(byセレスティーナ@『バレンシアの熱い花』)、作品が駄作だっつーのもあるけど(オイ)写真もイラストもないタイムラインの寒々しさ、惨憺たるありさまは、このままならすぐ集客に直結しますからね…思い知って思い直してほしいけど、でもそういう組織じゃないんだよなー劇団…はー、絶望しかない。つらいです。

 そしてそこへ星組の別箱発表が。
 まずは天飛くんのバウ主演は、そりゃめでたいよ? ただなんか題材が…この間のかりんさんバウは画家で今度は小説家なんだ?という、ね…なんか、史実とか実在の人物とかからしかお話って作れないものなの?とちょっと最近の若手演出家の作家性に疑問を感じなくもないのですが、まあまずは楽しみに待ちたいと思っています。下級生座組になるだろうけどしっかりした芝居はしてくれそうですよね、つーか天飛くんが抜けた残りのチームは誰が芝居をするんだろうね、という(オイ)心配をしていたら…え? え??
 まず、久々の博多座公演、これはめでたいです。かつては年イチでフツーにやっていたのにいろいろあって不規則になっていたので、御園座と博多座は定期的に公演する、となるとホントいいと思います。いいハコだしいい街です、遠征はいつも楽しいです、大歓迎。
『ミーマイ』は…まあもう一生分観たけど…まあでも別箱なら役がないのもまだ軽減して見えるし…あとこの作品の本当の意味がきちんと伝えられているバージョンを私は観たことがないと思っているので、もう一度信じてみてもいいかも…直近はみりかの? でももうだいぶ経っていますしね。そして月組と花組でしかやってこなかった演目なので星組でやる、というのはいいですよね。別にどこかの組が独占することはないと思うので。生徒はみんな好きで出たいんだろうしね。
 そしてマイティ特出、ありちゃんと役替わりでビルとジョン卿をやる、というなかなかランボーなダブル主演です。ありちゃんは『1789』は三番手スターなワケで、その千秋楽翌日にせおっちが専科異動することで二番手に昇格するのでしょうが、二番手として何もしてないうちにもう博多座主演なワケです。イヤ別箱主演で東上もしているスターなのはわかっていますよ、でも博多座って他の別箱と違うでしょう。これまで主演は必ずトップスターだったハコでしょう。そんなに安い扱いでいいの?という…
 マイティも、そりゃこれまでトップスターか次期トップスターが主演していた全国ツアーを専科のカチャが主演した例ができたとはいえ、専科初仕事が博多座主演なんだ、すっごーい呆然…って、ちょっとなりません? なんか、トップとか主演とかの格って、なんなんだろうね…みたいな。というかこれで今後は他組に特出するときは二番手格で出るってことですよね? なんなら1.5、が言い過ぎなら1.8番手くらいで? 2.5番手ではない、ってことでは? つまり別格スター枠ではなく、脇役でもないってことですね? 本公演でそれをやられると組ファンはとてもフクザツに感じることになると思われるのですが…イシちゃんが主演したのとはワケが違うし…あのときだって貴重な一公演がつぶれた、と思ったトップファンは多かったワケですし…
 あとねえ、まさみりちゃぴ体制での『ロミジュリ』もそうだったけど、運命的なカップルの話なのにジュリエットひとりに対してロミオがふたりって、純粋におかしいやろって話で、今回も「僕と僕の女の子」の話なのにサリーひとりにビルふたりですよ、ナメてんのか?ってなりません? そしてひっとんに対する負担も大きいと思うのです。花組出身でそりゃマイティとも面識はあるし、上手く合わせるんだろうけど、でもふたりのビルを相手にするって、単純に心理的にしんどそうじゃないですか。それに唯一無二のカップル感が全然ないじゃないですか。
 それでいうと、トップコンビこそ唯一無二の、至高のカップルなんであって、そういうファンタジーをふたりで作り上げて夢を売っているのが宝塚歌劇なんじゃないの? 前回は『赤と黒』がダブルヒロインものだったから、とか全ツなのでイレギュラーで、とか言い訳できたけど、本当は常にこっちゃんの相手はひっとんでひっとんの相手はこっちゃんであるべきでしょう。そこんとこ、劇団はどう考えてるんでしょう?
 さらに、じゃあここでビルをやらないこっちゃんが何をするかと言えば「休養」なんですよ…いやー、なんなの? 働き方改革なのかもしれないけど、大変な思いをしているトップスターはこっちゃんだけじゃないでしょう。てかトップ娘役はトップじゃないのか? 何故ひっとんは休ませなくていい、という判断になるんだ?
 激務の軽減なら、休演日を二週に三日にするとか、週十回公演を八回にするとか、一か月公演は一か月半公演にしてお稽古期間もその分長く取るようにするとか、五組でグルグル回しているだけじゃ休養が取れないならどの組も公演していない時期ができてもいいからもっと公演と公演の間隔を開けて間遠にするとか、お稽古は一日八時間までにきっちり規制するとか、心身ともにプロのメンテナンスを劇団のかかりで入れるとか、研修サバティカル休暇みたいなのを各組順に取れるようにするとか、なんかそういうことなんじゃないですか?
 イヤ実際は、こっちゃんがさっさと卒業したがっていて、劇団が慰留して、でもカラダしんどいんですよと言われてじゃあ休んでもいいから、ってなった、とかなんじゃないの?と勝手に邪推しているのですが…でもそんなんでいいのか?という…そもそもこっちゃんはせおっちに譲る気だったからこそ、あまり長くやる気がハナからなかったのかもしれませんしね。そういうのが前後、いろいろあって少しずつ狂ってきて、ギクシャクしているんじゃないのか? 本当に大丈夫なのか? とか、ホントもうなんかいろいろぐちゃぐちゃ心配です。
 でもなー、ホントなんだかなー、なんですよね…
 これは後輩が言っていたのですが、こっちゃんが休んでひっとんが稼働するなら、たとえばほのか、るりはな、うたちとバウで『若草物語』とかをやってほしかった、というのはマジでアリだな、と。つまり娘役だって主演ができる、客が入る、という先例を作るチャレンジをするとか、そういうトライの方がまだ未来や可能性が感じられますよね。それを、トップが休みでいないから二番手の相手役ね、専科特出の相手役ね、って今の感じがなんかもう、トップ娘役を、ひいては娘役全体を軽く扱うのヤメロ、と言いたくなってしまうのですよ…

 はー、なんかもう疲れたよパトラッシュ…イヤ生徒さんはみんながんばっているんだ、スタッフさんたちだってきっとみんなそうだと思うんだ。でも首脳陣を信じられないんだ、何度も何度もナゾの措置を見てきたから…
 それでも、今日観てきた花組梅芸『二人だけの戦場』初日が素晴らしく、29年ぶりの再演でもちゃんとしているってこともちゃんとあるんだな、単なる過去の栄光の焼き直しでもないしな、ああブリリア増やしたいなーなんでこんな公演期間短いの? …とか考え出しているんだから、やはり私はチョロいファンなのでしょう。
 でも、怒るべきときは怒るしギャアギャア声は上げるから。なんでもいいと思われたくないから。大事にしてほしい、尊重してほしいから。そしていいものを作り見せてもらって幸せになり世の中を良くしていきたいから…
 ホント、頼みますよ劇団……










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韓流侃々諤々neo 2 『悪の花』

2023年04月23日 | 日記
 2020年tvN、全16話。原題ママ。
 BS12で全24話に編集されたものを見ました。
 私が韓ドラを見ていたころは美少年枠にいたイ・ジュンギが、今や小さな娘がいる父親役をやるようになっていた…!というんで、見てみました(笑。ステイホームで『王の男』を見返したときの感想はこちら)と言ってもほのぼのホームドラマでは全然ない、よくできたラブ・サスペンスでした。
 イ・ジュンギ演じるペク・ヒソンは家事も育児もこなす今どきの主夫で、自宅の階下にある工房兼アトリエで彫金作家をやっている、温和な青年。父親は大きな病院の院長のようで、実家は裕福そうだけれど、庶民の嫁が気に入らないのか、関係は良くない様子。
 その妻チャ・ジウォンを演じるのはムン・チェウォン。父親を早くに亡くし、駄菓子屋みたいなものを営んでいるらしき母親のもと、苦学して警察官になり、今は刑事として奮闘している。なので娘ウナの世話も夫頼み、という感じ。でもラブラブ。そもそもジウォンの方が押せ押せでヒソンを口説いた模様。
 彼女が、美人なんだけどクール・ビューティーではなくて、足で稼ぐタイプの刑事で、でもドラマにありがちな猪突猛進の空回り鉄砲玉タイプでもないところが実によかったです。容疑者や被害者に対する観察眼や気遣いがあり、安易な逮捕や解決に飛びつかず、真に良き方向に事態が収まることを目指して、地に足着けてがんばる着実な刑事さんなのです。職場には叩き上げっぽい、昔ながらのセクハラもパワハラもしちゃうよみたいなおじさん先輩もいるのですが、意外とジウォンのことを買っていて、いじる一方でちゃんと信じてくれたり任せてくれたり守ってくれたりするのもいい。ジウォンに懐いている後輩男子の刑事もいたり、メガネキャラっぽい上司も視野が意外に広くて、職場として風通しが良くて実に素敵なのでした。実際の警察はこんなじゃないよ、とは言われてしまうんでしょうけれど、ヒロインの職場の描写として、また犯罪の真実を探っていくストーリーなのでその中での警察組織の在り方として、案配がとてもよかったのが、このドラマが見やすかったポイントのひとつかなと思います。
 他にヒソンの姉ヘス(チャン・ヒジン)、事件を追う週刊誌記者のキム・ムジン(ソ・ヒョヌ)がメインどころでしょうか。このムジンが、当初は敵ないしモブキャラかなーと思うくらいだったんですけれど、意外やナイスガイで人情派で熱血漢ででもへっぴり腰なところもあって、実に人間臭くて、ヒソンを心配しヘスのことが好きなのもいじらしかったし、これまた素敵なキャラクターだったのでした。
 一見温和で物静かなヒソンですが、実は妻に隠れて、鏡に向かって笑顔の練習をしているようなところがある。どうやら共感能力や喜怒哀楽の感情といったものが実はないらしく、必死で普通の人のように偽装して暮らしている、ということらしいのですが、それというのも…という、彼の過去をめぐるサスペンスです。
 この、主役は彼なんだから視聴者は彼に感情移入して見始めるんだけど、実は彼には隠し事が、裏の顔が…となると、今度はヒロインに感情移入して、でも彼女がただ騙されているだけの可愛そうなヒロインになるのではなくて、今度は彼女が夫を怪しみ出すと、ふたりの仲はどうなるの、そもそも真相はどこにあるの、本当に悪いのは誰なの…と、客観的に他人事になりすぎることもなくキャラクターみんなに寄り添いドキドキしながら回を追う展開になっていく、とてもよくできたサスペンスでした。脚本も演出もちゃんと計算されていて、何度も「あっ、そういうこと!?」「えっ、そういうこと!?」があり、そして破綻がない。サスペンスといえどザル脚本、なドラマって残念ながらたくさんありますが、これは本当にそういうところがなくて、スイスイと、またドキドキと見続けられました。
 ラストも、綺麗だなと思いました。なりすましのストレスや事件の衝撃や責任感や罪悪感やなんやかやに押し潰されて、記憶が欠けたりまだらになることもあると思うのです、それはドラマ都合ではなく現実に、人間として。でも全然違う人間になってしまうのとは違うから、そして身体が覚えていて何かのきっかけで思い出すこともあるから…愛と信頼があればまた良い関係が作っていけるから、何よりまっすぐで柔らかで強い子供がかすがいになってくれるから…
 だからきっとヘスも帰ってくるから、時差に負けずに連絡取ってねムジナ!と思うのでした。良き、良き。









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鳳凰祭四月大歌舞伎『新・陰陽師 滝夜叉姫』

2023年04月22日 | 観劇記/タイトルさ行
 歌舞伎座、2023年4月20日11時(昼の部)。

 時は平安。故郷である東国の民のために朝廷に反旗を翻した平将門(板東巳之助)は関八州を掌握する。朝廷は将門の旧友である俵藤太(中村福之助)に討伐の勅命を出す。藤太は帝の寵愛を受ける桔梗の前(中村児太郎)を恩賞に所望し、それを条件に東国に向かう。そこへ妖術使いの蘆屋道満(市川猿之助)が現れて鏑矢を贈る。藤太は将門を討ち取るが、打ち落としたはずの首はどこかに消えてしまう。この一件で将門の祟りを案じる都の若き陰陽師・安倍晴明(中村隼人)と友人で笛の名手の源博雅(市川染五郎)は、ある日、糸滝(中村壱太郎)と名乗る娘と出会うが…
 原作/夢枕獏、脚本・演出/市川猿之助、振付/藤間勘十郎、補綴/戸部和久、作曲/鶴澤慎治。2013年に新開場した歌舞伎座初の新作歌舞伎として上演された作品を、次代を担う花形俳優を揃えて再演。発端、序幕、二幕、大詰の全三幕。

 原作小説は昔読んだことがあるようなないような…つまり読んではいるのですが『滝夜叉姫』を読んでいるかはさだかではなく、あとはコミカライズ版の印象の方が強いかもしれません。それでもミーハーなのでウキウキとチケットを取りました。二等で十分、でも花道は観たいから一階後方のセンターブロック、と選んで買いましたが大正解でした。もちろんラストの宙乗りは二階、三階席の方がより長く楽しめたのかもしれませんが…
 しかし配役発表時、晴明と博雅はキャラのニンが逆では?などと言われていたものでしたが、そういう問題ではなかった(笑)。なんというか、キャラがちょっと原作と違っていたし、何よりこのふたりは別に主役コンビでもなんでもなくて、単なるお飾りのタイトルロールであり、それでいうとやはりタイトルロールである滝夜叉姫の方がまだ悪役令嬢として(?)見せ場のあるおいしい役になっている、全体としてはとにかく悪役大活躍、という不思議な構造の作品になっていたのでした。
 初演の晴明は染五郎、つまり今の染五郎パパであり、博雅は勘九郎だったそうですが主な配役にすらなく、将門が海老蔵、桔梗の前が七之助(ヤダ、観たかった!)、蘆屋道満は亀蔵さん(ヤダ、ますます観たかった!)なので、どうも役の比重がだいぶ違う様子。それはそうで内容も、当時のサイトからすると第一幕は都大路で「晴明、百鬼夜行に遭いしこと」、そこから貴船山中の「将門復活、最後の戦いと大団円」までの全三幕だったようで、つまり今回は再演といっても「新・」がついているし全然違う作品なんじゃないの??という感じなのでした。ブラッシュアップは大事だけれど、全然違うものにするならそれは再演ではないし、これだと初演版をちょっと観てみたかったかもね…とはちょっと思ってしまいました。
 いや、楽しかったんですよ、めっちゃウケたし大満足でしたよ、でもちょっと思っていたのとも違うな、とも感じたので…初演の方がイメージに近かったのかな、と思ってしまったのです。
 第一幕に、主役は出てきません。将門の祟りがテーマの話だから、その元のエピソードからやろう、というのはわかるけれど、前振りにしては長すぎるわけで、要するに主体はこっちです、と言っているようなものなワケです。で、第二幕になってやっと登場とした晴明が、「私が主役です、出番が遅いのは脚本のせいです」みたいなことを言って笑いを取る。他にもちょいちょい楽屋落ちの台詞や今どきの言葉が使われるギャグがある、そういう世界観なのでした。
 晴明には特にキャラはなく、博雅も笛の名手というだけのキャラのようで、糸滝とトートツに少女漫画展開が始まるのですが、それもただそれだけで、特にバディものにも平安探偵ものにもなっていない印象でした。ただ、大詰で晴明が大きな袖で博雅をかばう振りがあったので、そこはキュンとしたかな(笑)。まあそれだけで、主体は悪役たちのピカレスク・ロマンみたいな方にあるのでした。
 でも歌舞伎のギミックというのはこういうファンタジックなものと相性がいいと私は思っていて(私が古典歌舞伎をまだまだちゃんと観られていない素人だからでしょうが)、スッポンから現れたりセリ下がったりするのはもちろん、壁のどんでん返しで現れたり消えたり、謎の法力?をかますと相手の武器に火が点いたりといった仕掛け、何よりムカデその他に扮したアンサンブル隊とのアクロバティックなチャンバラ・アクションが湧きどころになっていて、登場人物たちの感情のドラマとかではなくそういうパフォーマンスで見せる演目なのだな、とわかって観るとそっちに完全に振りきっていて、そしてちゃんと楽しくおもしろいわけで、そういう意味でよくできているのでした。
 なので祟りの調伏というか首の回収というか、はなんとジャンプ方式の「続く!」みたいな棚上げエンドで、絶賛東京公演中の宝塚歌劇月組『応天の門』とまさかの同じで笑いましたし、あちらはれいこちゃんが銀橋で歌って去るけどこちらは猿之助が宙乗りしてハケるという、そういう呼応になっています(笑)。いや酒に毒、とかホント同じことやってるやん!というのもおもしろすぎました。そういうのをそういうふうに楽しむ演目として大正解だったということです。昼の回だし、ホントのんびりわあわあ楽しめておもしろかったです。大向こうは全然かかっていなかったけれど、客席はよく湧いていました。特にいい感じでミーハーな歓声を上げる女性グループが近くにいて、嫌味でなくうるさくなく、自然で可愛らしくて、空気を盛り上げていました。大衆演劇って感じでホント楽しかったです。
 児太郎さんも声がいいなあ、とか、壱太郎さんも圧巻の裾捌きの大アクションで花道引っ込み、カッコよかったなあぁ、とか、ホントいろいろ楽しかったです。てか将門と村上帝が二役という歌舞伎のランボーさ、ホント好き(笑)。
 二部制になってたっぷり四時間やるようになり、個人的にはちょっと行きづらくなりました。また、七月まで私が観たい、観てわかりそうな演目や惹かれる配役がなさそうなので、来月の明治座のグランドロマン歌舞伎まででちょっと一休み、かな…でも機会を見つけてまたいろいろ観ていきたいです。お声をかけてくれるお友達たちにも恵まれていますしね…むしろおもしろいものがあれば御園座でも博多座でも行きたい(笑)。引き続き、なるべく素軽く生きていきたいと思っております。

 



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『アイーダ』

2023年04月21日 | 観劇記/タイトルあ行
 新国立劇場オペラパレス、2023年4月19日18時。

 ファラオ時代の古代エジプト。エジプトとエチオピアは衝突を繰り返している。メンフィスの王宮では、エチオピア軍との戦いに備えて総司令官を選ぶ神託が行われていた。若き警備隊長ラダメス(ロベルト・アロニカ)は、司令官としてエジプト軍を率いることを夢見る。彼の恋人である女奴隷のアイーダ(セレーナ・ファルノッキア)は実はエチオピアの王女だが、ラダメスはそのことを知らない。エジプトの王女アムネリス(アイリーン・ロバーツ)もまたラダメスに恋していた。ラダメスに恋人がいることに気づいたアムネリスは、その相手がアイーダではないかと疑い…
 台本/アントニーオ・ギスランツォーニ、作曲/ジュゼッペ・ヴェルディ、指揮/カルロ・リッツィ、演出・美術・衣裳/フランコ・ゼッフィレッリ、再演演出/粟國淳、合唱/新国立劇場合唱団、バレエ/東京シティ・バレエ団、管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団。イタリア語上演、全四幕。

 キエフ・オペラで観たときの記事はこちら。劇団四季『アイーダ』はこちら、宝塚歌劇団の『王家に捧ぐ歌』なら直近はこちら
 楽しくゆったり観ました。もっとコンパクトなオペラももちろんあるけれど、これは兵士だの女官だの神官だの巫女だの民衆だのもたくさん出てくる大所帯の人海戦術グランドオペラで、神殿だの王宮だののセットも豪華で天井の高い舞台をいっぱいに使って、ゴージャスできらびやかでデーハーで眺めているだけで楽しい。そしてもちろん聴いていても楽しい。人の声って本当にすごい! そしてタイトルロールのわりにアイーダって意外と出番がないしそんなに歌わないのかもしれない、やはりドラマの中心になってガンガン歌うのはアムネリスなんだな、とか考えたりしました。
 というかここから『王家』を作ったキムシンってマジ天才だな、と改めて思いましたよね…オペラを観ていると「あ、ここが♪そ~れ~はナイルの流れ~の、よーおーにー、にあたるところね」とか「わあ、♪そ、れ、は、ファラ~オの、むすーめだからっ、の場面まんまやん」とかはもちろんたくさんあるんだけれど、オペラにはウバルドたちもいないしケペルたちもいない、ファラオ暗殺もない。どちらかというとごく卑近な、単なる三角関係のメロドラマで、神への祈りみたいなものはあるんだけれど、戦争反対というような大きな思想的なテーマは全然ないわけです。なのにこれを、アイーダに「♪戦いは新たな戦いを生むだけ」と歌わせ、ラダメスに「♪この世に平和を、この地上にこそ希望を、人みなあふれる太陽浴び微笑んで暮らせるように、そんな世界を私は求めていく」と歌わせる物語に進化、変化させたのは本当に天才的な所業だと言えるでしょう。深みが圧倒的に違います。まあもちろん、オペラは歌が主役であくまで歌を楽しむものだから、ストーリーは単純なもので十分、というのはあるんでしょうけれどね。
 以前はラダメス役者がおっさんだったことにがっかりした記憶もありますが、今回はもうオペラ歌手とはそういうものだと思って観ることができるように成長したので(^^;)、違和感は特に感じませんでした。ただ、場が終わるたびに、カーテン前に主要キャストが出てきてお辞儀して拍手を受けるんだけど、物語は続いているので、それはちょっとなんだかな、と思ったかな…その場面だけに登場してもう出てこないゲストキャラ役者みたいな人が挨拶に出てくるのはいいんだけど。まあでもバレエとかでもソリストがレベランスして拍手もらってから去るから、同じかな…
 あとは、かの有名な凱旋行進場面で、囚われてきた奴隷ということなのか、黒塗りというか焦げ茶色の肌着を着たバレリーナたちが半裸のお衣装で踊り、それはまあバレエなのでアフリカン・ダンスとかではないんだけれど、このなんちゃってアフリカの表現は今はどうなんだろう…とかはドキドキしました。まあアモナズロ(須藤慎吾)以下は日本人キャストですし、観客もほぼ日本人だろうし、それでいうならラダメスもアムネリスも金髪碧眼の白人だったらしいこのころのエジプト人にはあまり見えないんですけどね…
 リアル馬が二頭登場していて、蹄が床に滑っていそうでこれまたドキドキしましたが、お利口に行進していたのでよかったです(乗馬マネージャー/砂田一彰 スターライトステーブルス)。
 いわゆるアイーダトランペットが見られたのもアガりました。演奏者が役に扮して舞台上で吹いていたのかなあ?
 そういえばスタッフ欄に「かぶりもの」というのがあったのですが(かぶりもの/スタミーニャ・バザール)、ツタンカーメンがつけているようなアレが白と青のストライプで、「『王家』初演ママ…!」と震えました。考証、ちゃんとしてるんだなあ…(のちに金ピカになりましたが)
 ことほどさように、物語やドラマに没入して感情移入して観るというよりは、眺めてあれこれつっこみつつ考え楽しんでしまったのですが、こういうグランドオペラはそれでいいのかなと思いました。客席は満員でブラボーの声も飛び、でもまだ最前列には客を座らせていないようでした。3回の休憩含めてたっぷり3時間50分という贅沢な娯楽、堪能しました。



 





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韓流侃々諤々neo 1 『彼女の私生活』

2023年04月19日 | 日記
 私は『冬ソナ』日本初放送には間に合っていなくて、その年の年末の再放送か何かで一気にハマって、そこから十年くらい濃い韓流ファン生活を送っていました。2001年から2012、3年くらいまでのことですね。韓ドラと韓国映画を見て韓国料理を食べて韓国語を習いソウルに年3くらいで行って、ロケ地巡りをしチムジルパンに通いソルロンタンを食べキムチとシートマスクと韓国海苔を爆買いして帰国していました。K-POPにはハマらなかったので、だんだんメインのドラマ出演者がアイドルっぽくなっていく流行りに乗れずになんとなく遠ざかりました。
 当時、「トモトモのヨンヨン日記」のち「トモトモの韓流侃々諤々」というブログをやっていて、サービス終了時にうまく移転できず貴重な記録をなくしてしまったと後悔しているのですが、コロナのステイホーム期に手持ちのDVDなど見返して、その感想は記事にしました(こちらからこちらまで)。同じころ、BSなどで『明蘭』『如懿伝』あたりから華流ドラマを見るようになり、しばらくいろいろ見ていましたが、だんだん飽和してきたというか当たり外れがあって好みで選別できるようになってきたので(役者の顔が好きか、キャラが好きか、関係性に萌えるか、ストーリーがおもしろいかのどれかがないと、4話くらいまでで見限って離脱してししまう)、さらに手を広げるべく最近の韓ドラはどんななのかしらんとちょっと見てみたら、なんせ韓国語はちょっとはわかるのでもちろん字幕で見ているんですけれどニュアンスがわかって楽しく(華流は標準中国語?の問題もあってもとの台詞も吹き替えだそうで、ときどき役者が同じなのに声が違うドラマがあるので、だんだん違和感が出てきてしまいました…)、久々にときめきました。アボジオモニーズは私が見ていたころとメンツが変わっていなかったりするし、何より当時のスターが十年経ってもまだちゃんと主役を張っていたりするので、それも楽しいです。そういえば、私はまだ観られていないのですが、『愛の不時着』の主演コンビも私がハマっていたころにはもういた役者さんたちでした。当時ももちろん、まさかここが結婚するとはねえ…なふたりでしたが。
 ま、そんなわけで、この『彼女の私生活』も、「お、キム・ジェウクじゃん! さすがにおじさんになったなー、でもいい味出してるなー」くらいの感じで見始めたのですが、とてもウェルメイドなラブコメだったと思うので、以下ねちねち語りたく思います。

 2019年のtvNで放送された全16話のテレビドラマで、私が見たものは全20話に編集されていました。韓国のテレビドラマは1話の尺が1時間以上あるものがほとんどなので、日本でCM入り、ノーカットで放送しようとすると枠の関係でこういうことになるのかなと思います。確かにトートツなヒキも多かったようにも思いますが、それほど気にはなりませんでした。原題ママ。
 ヒロインのソン・ドクミはパク・ミニョン。私はお初かなあ? 美術館の学芸員で、ことさらに作っている感じはないけれどバリッと働くデキる女で、その実アイドルオタク、という役どころ。
 相手役がキム・ジェウク演じるライアン・ゴールドで、アメリカ育ちの韓国人。彼女が勤める美術館に新しい館長として赴任してくるのですが、その前にとあるオークションで同じ絵画を彼女と競り合うところからお話は始まります。
 私はかつてドラマ『コーヒープリンス1号店』とか映画『アンティーク』(原作はよしながふみ『西洋骨董洋菓子店』)で彼を見ていてまあまあ好きで、そのときはまだまだ美青年キャラだったと思うのですが、今や三十代になって(役は33歳設定かな?)、まあおじさんというのは言いすぎですがそれでも若者ではなく壮年、中年に足を踏み出したいい感じの男臭さ、その上でのマイルドでスマートで素敵な感じがよく出た役者さんになっていて、この役もとても良くて、楽しく見てしまったのでした。
 他に、ドクミがメロメロのアイドルグループ「ホワイトオーシャン」のシアン、というのがチョン・ジェウォン、ドクミの幼馴染みウンギがアン・ポヒョン、ドクミの親友でオタ仲間でお嬢様のソンジュがパク・チンジュ、ライアンの幼馴染みで海外で活躍する映像作家チェ・ダインがホン・ソヨン、ドクミのライバルオタ・シンディがキム・ボラという布陣でした。
 
 ドクミは、黒キャップ黒ジャージ黒マスク姿で、天体望遠鏡かなみたいな望遠レンズのごっついカメラを掲げてテレビ局の楽屋口や空港出口に張るタイプのアイドルオタク。もちろんライブやコンサートにも行き、ファンミーティングの抽選に当たるためにものすごい努力をし、ひとり暮らしの部屋はシアンの写真やグッズでいっぱい、というありさま。撮った写真を綺麗に加工してブログに上げていて、それがファンにも好評で、「シアンは私の道」という意味のシナギルというハンドルネームで知られる(ホームページマスター、略して「ホムマ」だそうな)要するにトップ・オタです。母親にはいい歳をして…みたいに怒られていて、なので職場などでは隠しています。でもあまり悪いことだとか恥ずかしいことだとは考えていない感じなんですね、その案配がとてもよかったのです。こういうネタのとき、必要以上にそれをやられると、隠れキリシタンでもあるまいし…とか犯罪じゃないんだし…とちょっとしょんぼりするので。また、シンディも同じく有名オタでシナギルに対してライバル意識があるようで、こちらは自宅凸とかをやっちゃうやらかしタイプで、ドクミはそういうのはよしとしていない、というのもよくできているなと思いました。ドクミとライアンの美術館でシアンのコレクションを展示することになり、仕事なんだからとクールを装いつつムヒムヒするドクミとか、その打ち合わせの出入りを目撃して誤解して妬いたシンディが騒ぎ立てるとか、その彼女はライアンの前の館長の娘で…みたいな絡まり具合でお話とはテンポ良く進んでいきます。
 シアンとドクミがつきあっている、と誤解されて炎上したので、その火消しのためにライアンとドクミがつきあっている振りをして…という、ラブコメに百億回出てくる偽装恋愛がやがて本気に…パターンなのですが、これもとても案配がよかったです。ライアンは帰国したときにシアンの帰国と重なって、カメ子をしていたドクミとぶつかるということもしているのですが、そこからいろいろあって彼女がシナギルであることに気づき、でも黙っていて…みたいな流れも、必要以上に陰湿じゃなくて微笑ましくて、とてもよかったんですよね。ドクミの方もオタクがバレてあわあわする感じがちょうど良くて、卑屈さは全然なかったのでした。また、お互いだんだん惹かれ合ってきて、偽装じゃなくてちゃんとしたおつきあいにしましょう、となる前に誤解で一度離れるターンがあるんですけれど(これまたラブコメ百億回あるある)、そこもねちねち引っ張ってくどくどやる感じがなくて、すぐちゃんと誤解が解けて告白し合ってラブラブになって、そのラブラブもホントてらいがなくて清々しくて微笑ましくて、とてもよかったのでした。
 そう、私が『冬ソナ』にハマったときに、キャラにせよ演じる役者にせよ、男性が無意味にマッチョじゃない、本当に素直で優しいことに感動したんですよね。今はそうでもないかもしれないけれど、当時の日本のアイドルとか人気男性俳優はみんなスカしていてわざと不機嫌そうにしてみせて、それがクールとかカッコいいとか言われていましたけどその実周囲にケアや気遣いを求める傲慢さが滲み出ていて、私はそれに本当に鼻白んでいたので、こんなに近いお隣の国にまったく違う文化があることに心底驚いたのでした。今回も、ライアンのストレートなデレっぷりは本当に気持ちがよかったです。日本のドラマなら今でも、もうちょっとスカさせるか、逆に偏執的に溺愛させるところだと思います。でもライアンは、シアンやウンギに対しても不必要な嫉妬をしないし、ドクミの意志をものすごく尊重する。その上で、恋人同志としてもっと一緒にいたい、みたいな主張はするし、そのために自分の仕事とかはちゃんと調整するし、プレゼントその他も、親への気遣いもちゃんとする、ものすごくちゃんとした大人なのです。そう、全体に人間の捉え方が幼稚じゃないんですよね。ホント日本って何もかもが幼稚でお子ちゃまなんだなー、と痛感します…
 ライアンとダインが結局どういう幼馴染みだったかは語られませんでしたが、アーティスト仲間だったのか、学生時代やもっと前からの知り合いだったのでしょうか? 描けなくなる前のライアンは屈託を抱えた暗い目をしたイケメンでモテて来る者拒まずで、ダインはそれを傍らでずっと眺めていて、告白しないでいたのかもしれません。
 一方、ナンギの方もカットのせいなのか当初はちゃんとした説明がなく、弟?同級生?従兄弟?ナニ?とか思っていたのですが、実は赤の他人で、ここもとてもおもしろかったです。生さぬ仲の兄弟、みたいなのは物語のド定番ではありますが、韓国ってこれまた日本より多文化(タムナ)家庭が多いんだそうで、国際結婚とか移民とか養子とか、海外にルーツを持つ人と家族になることがそんなには珍しいことではないようで、またそうしたこととは別に、甥や姪でも我が子と同じように育てるとか近所の子でも一緒くたに面倒見るとかがドラマでなく現実に日本より断然多いようです。ドクミとナンギも、母親同士が産院で仲良くなっただけの仲で、でもナンギの母は未婚でバリキャりで性格的にも子育てに向いたタイプではなかったので…ということで、ドクミの両親がナンギを引き取って一緒に育てることにしたようです。のちにドクミの弟も生まれるわけですが、ひとりもふたりも三人も同じと言えば同じなのかもしれませんし、ドクミの父親が働かなくなるのはドクミの弟の事故死きっかけなのかもしれませんが、その前後でもナンギの母が入れる食費は現金収入としてこの家庭にはありがたかったはずで、そういうトントンのつきあいだったのでしょう。ソンジュ含めて同級生で仲良しで家族同然、のつきあい…
 それが、ナンギの方はドクミを意識し出して…というのもラブコメあるあるすぎる展開でしたが、これも重たすぎずしつこすぎずしんどすぎず、ナンギが素敵に納得し引いてくれて、とてもよかったです。ラストはよくある「1年後」みたいなパターンでしたが、シンディとユーチューブのカップルチャンネルをやっているようで、まだ恋人未満なのかもしれませんけれど、とてもほっこりしました。帰国してしまったかもしれないけれどダインともいい飲み友達になっているのかもしれず、ナンギはそういうとてもいい男なのでした。
 ソンジュはビル持ちの社長令嬢で裕福で、夫は薄給のテレビ局務めで自分は趣味程度のカフェを経営していて、おそらく収支は全然赤字でも実家から仕送りをもらっているような状態なのかもしれません。でも性格的にはお金持ちの意地悪お嬢様みたいなんでは全然ない、フツーのヒロインの親友役なところがこれまたよかった。別にお金持ちみんなが悪役令嬢な必要はないわけで、この程度にお金に困っていない人って普通に実在するし、でもそれが友達づきあいのネックにならないことも普通にある。そういう「普通」をきちんと取り込んで描くドラマなところが本当によかったな、と思いました。ソンジュの夫が彼女たちのオタ活をドキュメンタリー番組のネタにしてトラブルになるターンも、ソンジュの怒り方がまっとうで、とても清々しかったです。
 さらに初期は、ドクミとソンジュがペタペタしているのを見てライアンが彼女たちをレズビアン・カップルだと誤解する、というターンがあるのですが、これも冷笑とか差別の視線がまったくなくて、ただ今の韓国社会ではマイノリティで苦労しているだろうからできる便宜は図ろう、みたいな感じで動くライアンの姿勢が素晴らしかったし、そういう姿勢のこのドラマが本当にちゃんとしていると思いました。誤解されていたことに気づいたドクミもただ笑っちゃうだけで、必要以上に怒ったり恥ずかしがったりしないのがまたよかったです。同性愛は数が少ないだけで恥ずかしいことや悪いことではない、という思想が根本にちゃんとあるのがわかるのです。すごいなあ、進んでるなあ、でも当然のことなんだけどなあ、翻ってなんで日本は…嘆息するばかりです。
 ドラマ後半はライアンの実母捜しがテーマに展開されました。これまた日本以上に海外養子が多い韓国のこと、韓ドラあるあるネタではあります。お絵かきとシャボン玉で遊んだ幼い記憶が、ドクミとライアンをさらに深くつなぎます。ドクミは主に経済的な理由で留学をあきらめ、画家にならずに学芸員になったわけですが、今はもうそれを挫折だとは捉えていなくて、美術館の仕事を愛しまた仕事ができる女性として描かれているのも気持ちがいいです。ライアンは実母を想起させる絵画を発見して自分では絵が描けなくなってしまったようですが(カットがあるのかこのあたりもあまり細かい説明、描写がなかったのですが)、いろいろ解明されて母と弟ができて再び絵が描けるようになって、ふたりはアーティストとキュレーターとしてグローバルな活躍をしていく…というラストが本当に清々しく、またスケール感があって、こういうのも日本のドラマではなかなかないな、と思いました。だってちゃんとリアリティがありますもんね。日本でやっても残念ながらそれはただのドリーム、なんちゃってグローバルにしかならない気がする…ホントしょんぼりです。
 そんなわけで、特に目新しいことをやっているわけではないんだけれど、きちんとアップデートされた、とても上質のラブロマンスで、でもおそらくこれが今の韓ドラの平均的な出来なんだろうな、と思うとホントうらやましい限り…と思ったのでした。
 楽しい鑑賞でした!









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