駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『春の日は過ぎゆく』~韓流侃々諤々リターンズ23

2021年01月31日 | 日記
 2001年。ホ・ジノ監督。ユ・ジテ、イ・ヨンエ。

 ウダウダした男女のウダウダした映画でした。でも、こういう映画が美しい、芸術的だ、ゆかしいとされて成立していたことに、この時代の豊かさを感じました…




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宝塚歌劇花組『PRINCE OF ROSES』

2021年01月30日 | 観劇記/タイトルは行
 宝塚バウホール、2021年1月29日11時半。

 15世紀、イングランド。ヨーク家のエドワード4世(羽立光来)はランカスター家のヘンリー6世(冴月瑠那)を退けヨーク朝を開いたものの、弟クラレンス公(愛乃一真)と信頼していた臣下の反逆に遭い失脚、再びヘンリー6世が王位に就く。ヘンリー6世の忠臣ジャスパー・テューダー(高翔みず希)は甥を伴い、国王に謁見する。その少年こそ若きヘンリー・テューダー(聖乃あすか)であり、居合わせたすべての者に、彼こそ王冠を戴くべき男だと予感させた。だがこの謁見からわずかののち、エドワード4世が国王に返り咲き、ヘンリー・テューダーは亡命を余儀なくされる。ランカスターの血を途絶えさせてはならないとブルターニュへ渡ったヘンリーを、ランカスターの血筋ながらヨーク家の後見で育ったヘンリー・スタッフォード(希波らいと)や、フランス国王の使いを名乗る女性イザベル(星空美咲)ら、様々な目的を持つ人物たちが取り巻いていくが…
 作・演出/竹田悠一郞、作曲・編曲/太田健、瓜生明希葉、多田里紗、振付/御織ゆみ乃、平澤智。期待の100期の期待の星・聖乃あすかの初主演作、竹田先生のデビュー作。

 私は高校の歴史は世界史選択でしたし、プランタジネット朝の一部についてはキャラ立てして同人小説を書いたこともあるようなオタクなのですが(^^;)、最近ではもっぱら菅野文『薔薇王の葬列』(秋田書店プリンセスコミックス既刊14巻)を楽しく読んでいます。これはシェイクスピアの『ヘンリー六世』『リチャード三世』を下敷きにしている、グロスター公リチャードが主人公の物語です。今回のヘンリー・テューダーは、このリチャードの兄エドワード四世の娘エリザベスと結婚して、それでランカスターとヨークの両方の家の継承権と王位継承権も持つことになって、リチャード三世を破りヘンリー七世になって薔薇戦争を終わらせた人…というのが、私の中での知識でした。でもそれ以外の細かいエピソードとかは全然知らないでいたので(『薔薇王~』でもエリザベスは出てきましたがヘンリー・テューダーはまだ顔も出してきません。のちに主人公を倒す役まわりなんだから、いずれは…とも思いますが、リチャードもやっと即位したくらいまでしかまだ話が進んでいないので)、どのあたりをどんな感じで描くんだろう?と楽しみに出かけました。だいぶ若い座組なのは、心配でもあり楽しみでもありました。また、竹田先生の新公演出はいくつか観ていますし、そのデビューも楽しみでした。
 『薔薇王~』で私が好きなのはバッキンガム公ヘンリー・スタフォードで、これはリチャードのキングメイカーでありメガネのブラック参謀みたいなキャラクターなのですが、その役まわりは今回はむしろはなこのトマス・スタンリー(一之瀬航季)がやっていましたね。ヘンリーの生母マーガレット・ボーフォート(春妃うらら)の再婚相手であり、ランカスターとヨークの間で暗躍したようなおじさんなんだと思うので、コレはアリでしょう。全体で観ると、ヘンリーも彼の掌の上で踊らされていただけ、みたいに思えなくもなく、ほのかとはなこは同期なので、ちょっとニヤリとさせられもしました。
 というか竹田先生は母校で『薔薇戦争』の芝居を観て、かつて女性が演じたリチャード3世を思い出していろいろ調べ出したようなことをプログラムで書いていますが(しかしあまり感心しない文章だった…イヤ別にこういうコラムやエッセイみたいなものが上手い必要は特にないんだけれど、なんか主旨不鮮明で…あとこの主語と述語ねじれてない?みたいなのあるし…)、それでも主役をヘンリー7世にして、2番手はライバルであり悪役になるリチャード3世(優波慧)、3番手はその間でフラフラする形になるヘンリー・スタッフォードのらいとと、その間を暗躍するキングメイカーのスタンリー卿のはなこ…としたのは美しい布陣だな、と感心したんですよね。
 さらにヒロインが、まあ下級生すぎるからかヒロイン扱いされておらず、またダブルっぽい扱いなんですが(とはいえラインナップでは星空ちゃんがなみけーの前ではありますがひとりで出てきました)、「フランス国王の使いを名乗る女性」イザベルと、リチャード3世妃アン・ネヴィル(美羽愛)というのがなかなか良くて、特に私はイザベルに関してはこう名乗っているだけで正体は別にあるんだろうし、だとすればそりゃのちに結婚するエリザベスしかないな、と気づきましたが、とにかくこの展開の妙味には感心しました。彼女がこんなふうにヘンリーのもとへ来た史実が、あったかどうかは知らないのですが…
 ただ…わかりづらかったと思います。これでも簡略化しているんでしょうが、それでも観客に馴染みがない国の、時代の、長きにわたる王位争いのお話で、血縁も入り乱れていて、王はコロコロ変わり、すみませんが顔も判別が怪しいような下級生たちがそれぞれの臣下役としてわらわら出てきて…せめてプログラムに家系図が欲しかったです。それか、大野先生ばりの解説コメントか…冒頭、客席がすでにぽかーんとしている中でほのちゃんが凜々しく主題歌を歌ったり(自分で薔薇の王子って言うかな!?って脳内でつい突っ込みましたよね…)、なみけーがギラギラ悪役ソングを歌って音楽が盛り上がってジャン!暗転!!ってなっても、ちょっとお義理の拍手しかできませんでしたよね…あとヒロインがぶっちゃけスパイで観客にも正体が明かされないままに話が進むので、そこでせつない想いを歌われても観客はそれこそぽかーんでしたよね…イヤすっごい感動したキュンとした心から拍手した、って方にはすみません…
 なんかもっと、モンタギューとキャピュレットみたいな対立なんです!ランカスターは赤薔薇でヨークは白薔薇で、バーン!!みたいな対立構造を示すと、まだわかりやすかったのかなあ…でも両方と血縁関係があるキャラクターも多いし、場所も移るしで、簡単に説明するのは確かに難しいんですよね。
 でも、だからこそ、こういうお話ってもっともっと、各登場人物の現在の境遇と、そこに至ったこれまでの経緯と、真意や内心、今後の野望と、そして何より性格とか人となりとかを、整理してデフォルメして提示しないと、観客はついていけないと思うのです。その点で、デビュー作としてとてもハードルの高い題材を選んじゃったもんだな、とは思いましたね。ぶっちゃけ、つらかったと思いました。その後、「ああ、ここのこういうドラマを描こうとしているのね」ってのが、場面場面ではわかるだけに、そしてそれはもっと上手くやれればさぞおもしろかったろうにと思えただけに、そして生徒たちも下級生ながらすごくがんばって演じていただけに、余計に…私、なんかずっと、奥歯を噛みしめながら観てしまいました。なんならいっそ、メインの関係性だけ生かして、架空の国の架空の歴史に移しちゃってもよかったのかもしれません。でも、竹田先生はこれをやりたかったんだろうなあ…
 あとは冒頭、もうちょっとだけほのちゃんヘンリーを強く印象づけられていたら、全体の印象ももう少し変わっていたかもしれません。なんでただ出てきただけで「彼こそ王冠を戴くべき男!」ってなっちゃうの?って感じに、今なっちゃってると思うんですよね。その場に現国王がいるのに。血筋で言えばけっこう傍流なはずなのに。何故? 美しいから? それは納得なんだけど(笑)、でもそもそもジェンヌは全員美しいので、それだけでは説得力がないのです。なんかもっとここで彼の「特別性」を印象づけたい。なので例えば、みんなヨークを倒すぞーみたいなことしか言っていないところに、「ランカスターとヨークの両家をひとつに束ねて、戦争を終わらせ、争いのない世界を築く!」とか言わせて、彼は今まで誰も言わなかったような遠い大きな理想を語る男だったのでしたさすが大器!キラキラッ!!…みたいな演出にするとか、ね。その上で、すごーく熱い男だとか、すごーく優しい男だとかの、何か性格的な特徴を提示できていたら、観客はだいぶつかまれたと思います。で、そんな彼ならこんな大きなこともやってみせるのであろう、と観客は期待する…それなら、もうちょっと辛抱してコロコロ進むこの事態についていってみようか、という心構えが観客にもできたと思うのです。今、そういう前振りがないから、心ない人はなんかワケわからんなーつらいなーおもしろくなったら起こしてー、って言って寝ちゃうんだと思うんですよ残念ながら…もったいないでしょ、それは。なのでまず観客の心をがつんとつかんでほしい。プロローグはもちろんカッコ良くて素敵でしたが、それだけではダメで、芝居本編の冒頭が肝心なのです。そこで「彼こそこの薔薇戦争を終わらせる男だ! 薔薇の王子なのだ!!」とか例えばジャスパーが言って、それでヘンリーが「♪ああ、プリンスオブロージーズ」って歌うならまだわかるワケです。今、そうじゃない。だからあの歌がこそばゆく感じられて仕方がない。もったいないです。
 あとは、やっぱりいろんな人のいろんなドラマを描こうとしすぎていたように私には見えたので、せめて主人公とライバルのグロスター公周りくらいに絞った方がよかったんじゃないかなー、とは思いました。アンとの確執とか、これじゃわからないよー萌えられないよー、ってずっと歯噛みしながら観てました…兄ふたりとの関係とかも、もう少していねいに説明してほしかったです。奸計を巡らし血を分けた兄弟を陥れ弑し、そうまでして手に入れた王座なのに、従う者少なく敗れていく…という悲しい滑稽さなんかは、もう少し上手く描けてたら味わい深かったと思うんですけれどね…
 でも、帰宅してナウオンを見ましたが、生徒さんたちはいずれもすごくよく勉強しているし、歴史的な背景も脚本の中での自分の役の立ち位置も意味もよく理解していて、その上で見せ方を工夫しようとしている様子がとてもよく窺えました。下級生が多いのに、頼もしい限りです。これはきっといい経験になったことでしょう、彼女たちの血と肉になっていくことでしょう。そしてもちろん竹田先生にも。次回作、期待しています。

 では、以下、生徒さんの感想を。ほのちゃんは、私はあまり好きなタイプの系統のお顔じゃなくて守備範囲外、と思っていたのですが、もちろん押されていることはわかっていますし、綺麗だしなんでもまあまあそつなくできるとは評価していて、でも最近露出が増えてくると中身は意外におもろいなとかほややとんしてるなという好感が持ててきて、最近はわりと注目しています。今回は、正直しどころがない役なのではなかろうかとも思うし、まずは主演として出番をこなすだけでも大変だろうにそれはきちんとやれていて、場も保たせているし、歌もめっちゃ上手いとかはないと思うんだけど手堅いし、フィナーレになると俄然生き生きと踊り出したのはちょっと笑っちゃいましたが、とにかくまあいいスターさんっぷりだったので、まずはよかったのではないでしょうか。お衣装もよくお似合いでした。ヒロイン相手にもちゃんと甘い空気や包容力を出せていたと思いましたしね。これからもいろいろなお役をやって、すくすく育っていっていただきたいです。
 なみけーは、意外にこのまま渋い役者になっていくとおもしろいかもしれませんよね…もちろんまだまだちゃんと二枚目、ヒーロー、あるいは優男役もきっちりできるスターさんだとは思いますが。だからもうちょっと役として描き込んであげて、2番手としておいしい芝居をもっとさせてあげたかった気がしたなー…まあこれは私がリチャード3世が嫌いじゃないってせいもあるかもしれませんけれどね。メイクにも工夫を凝らしていましたね。これまたフィナーレではキレッキレでした。
 はなこは、初期は上手すぎて脇扱いなのかなと思っていたらこのところ路線扱いで、ほほう起用する気あるのね劇団?と私はなっていますが、やっぱり上手くてこういう役どころがホント安心して任せられますね。でも新公少尉を見ておきたかったよねホント…こちらもフィナーレは若々しくバリバリ踊っていてよかったです。
 らいとは私は顔が好きなんですけれど(オイ)、スターさんとしてはまだまだ修行中の身だとも思っていて、それこそいろいろやってゆっくり育っていってほしいなと思っています。ただもう背はそれ以上伸びなくていいぞー、とも思っています。今回も、キャラのせいだとは、芝居だとは思うんだけれどずっと膝が曲がっていて、美しくなくてしょんぼりだったので。ともちんとかまさことか、大きすぎると周りとバランス悪くて結局路線から外れていったりすることがあるじゃないですか…でも性格がこれまたのほほんとしてそうだから、それで宙に組替えなんかしたらますますのほほんに拍車がかかりそうでそれも推奨できない…なんとかここでがんばるのよらいと…(ToT)今回のお芝居としては、もっと振りきってやっちゃってもおもしろかったのかもな、とも思いました。もっとおいしい役になったかもしれない、やれる人がやったら場どころか話をさらっちゃうような役になったのかもしれない、とも思ってしまったのは、私がバッキンガム公を好きすぎるからかもしれません…『薔薇王~』では描かれていなかった部分がすごくおもしろくて、考えるだにすごいポジションの人だったんだな、と思いました。赤毛にしたのはいいアイディアでしたね。臙脂色のお衣装がこれまたとても似合っていました。そしてこちらもフィナーレがノリノリでとてもよかったです。
 ちゃぴ似で有名な星空ちゃんですが、頭の小ささと首の長さ、美しさは素晴らしく、この時代のお衣装をとてもよく着こなしていました。でもお化粧はもっと良くなりますよね。プロローグの魂役では美羽ちゃんとシンメだったけれど、明らかに美羽ちゃんに一日の長がありました。でも歌もお芝居もとても健闘していたと思います。素直に取り組んでいる感じがとてもよかったです。難しいお役だったけどね…しかし背が高いなー、大丈夫なのかいな、とは心配になりました。
 とはいえ美羽ちゃんも、メイクはもっと良くなるはず、とは思ったかな。まあアンもこれまた一筋縄ではいかない役どころなので、あえてだったのかもしれませんが…新公紅緒、見たかったですねえ。ダブルデュエダンはふたりとも、まだそつがないといったレベルで、娘役力を発揮できてる域ではなかったかな…ま、こういうのは場数だと思うので、あと相手役の包容力にもよるし、精進していっていただきたいです。
 娘役だと柚長(もう星組組長じゃなく専科生だけど。というか無駄遣いだったかな、ここまでドラマを背負うキャラを広げなくてよかったのではと思いました)の侍女役をやったこりのちゃんがさすがでしたね。声がいいし、当初は名前くらい付けてやれよと思っていたんですけれど、まさに「侍女」としか言いようがない役どころでの仕事っぷりが実に鮮やかでした。
 あとはこうららちゃんね。もう少し揺らぎが出るとよりよかったのかなー、でもおもしろい役でしたし、こんなに仕事しているところをなかなか見ない気がするので新鮮でした。逆にカガリリなんかはもっと悪女っぽい場面があるともっと仕事ができたのではないかしらん…しょみちゃんもしどころがなさすぎた気がしました。イザベルの付き人役の雛リリカちゃんは、少ない出番で意味のある芝居をしていたなと感じました。
 男役だと、はなこの弟ウィリアム・スタンリー(芹尚英)のえいちゃんはだいぶピックアップされていた印象でしたね。でもこれまた好みの顔じゃないんだすみません…トマス・グレイ(海叶あさひ)の海叶くんも私はほぼ初めて認識した、みたいな生徒さんでしたが…うーむ、特に印象がない。むしろケイツビー(峰果とわ)がさすが上手いなと思わせられました。やはり上級生は声ができているし佇まいがいいんですよね。あとはちょっとやりようがなかったのではないかしらん…
 衣装(加藤真美)と装置(國包洋子)はとても素敵だったと思います。特に装置は使い方にも工夫があり、スタイリッシュでもあって、竹田先生のセンスを感じました。あと、美貌一発勝負、直球どストレートみたいな面はあったけれど、ポスターがとてもよかったことも特筆しておきたいです。大事!
 フィナーレもたっぷりめで、花組の下級生がノリノリで踊るとこの人数でもバウ狭いな、と感動しました。あと本編と全然テンションが違っていましたね、その正直さが微笑ましかったです。ダブルデュエダンからのデュエダン、からのソロがあるところに劇団の押しを感じましたが、しかしひとりなのに掛け声って変じゃないかな…ラストの決めポーズの照明には『出島』みを感じました。あえて顔を暗く見せるヤツね、粋ですよね。黒燕尾のボタンが赤薔薇になっていたり、テールの片方にだけ赤い飾りが入っていたりと、お洒落で素敵でした。

 100期は娘役はまどかにゃんと華ちゃんがすでにトップになっています。男役の次の主演はおだちんかな? かりんたんにももちろん期待しています。しかしみんなタイプが違うな(笑)。新公ラストの年がこんなことになってしまって、のちのち影響も出るかもしれませんが、がんばっていっていただきたいものです。新公学年の下級生は今は別箱でがんばるしかない時期だとも思うので、腐らず、自主稽古も続けて、鍛錬していってほしいです。でも何よりまずは健康で、元気でいてください。こちらもまたお手紙だけでも書きたいと思っています。応援しています!


 
 

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『キオスク』

2021年01月23日 | 観劇記/タイトルか行
 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール、2021年1月22日18時半(初日)。

 1937年、オーストリア。ザルツカンマーグート地方、アッター湖の畔で、フランツ・フーヘル(林翔太)は母マルガレーテ(一路真輝)と穏やかに暮らしていた。だがマルガレーテの経済的な後ろ盾となっていた男が急死したため、フランツは母の伝手でウィーンのキオスクで見習い店員として働くことになる。キオスクに住み込んだフランツは、店主のオットー・トゥルスニエク(橋本さとし)から、店で取り扱う新聞や葉巻、そして訪れる客への接し方を学んでいく。そして常連客の精神分析学者ジークムント・フライド(山路和弘)から、もっと人生を楽しむよう勧められるが…
 作/ローベルト・ゼーターラー、翻訳/酒寄進一、演出/石丸さち子、美術/石原敬。昨年のリーディング版から一部キャストを引き継いで上演、全2幕。

 大空さんご出演なので、シュッと遠征してきました。行きののぞみでがっつり駅弁をいただいて、終演後はこのご時勢でどこもかしこも閉まっていましたがさすが梅田のかっぱ横丁では23時閉店の店があり、サク呑みもできました。そして24時半大阪発のサンライズ出雲、初のA寝台で帰京という遠征でした。洗面台とデスクがあるA寝台は三畳間くらいのビジネスホテル個室、みたいな感じ。Bソロは窮屈に感じましたが、これなら私はBシングルで十分かな、とも思いました。でもまずは経験できたので満足です。今はJR東海ツアーズとかでもっと安い往復新幹線とホテルのセットが取れるので、よっぽど時間を買う必要がなければ、しばらくはもう乗らないかもしれません。

 さて、舞台は、空っぽでほの暗いところに8人の役者がズカズカ出てきて、「さあ始まるよ~」みたいなことを歌うところから始まりました。あいかわらずの大空さんの背の高さ、顔の小ささ、腰の細さ、スタイルの良さに驚きつつも、確かミュージカルじゃなかったはずなんだけれど…と困惑してのスタートでした。でも、これももちろん、あえての演出だったのだろうな、と思います。
 その後も、1937年のウィーン、と聞いて身構えるよりはずっと軽やかに、ほのぼのとした市井の暮らし、みたいなものが描かれます。主役の林くんはジャニーズJr.の人だそうですが、ほぼ出ずっぱりでものすごく大変な舞台をきっちり務めていて、好感を持ちました。17歳には見えないので、純朴とかピュアというよりちょっと愚鈍な青年に見えなくもないんだけれど、そんな田舎出身の青年が都会に出てきて恋や世間を知っていく…という様子がユーモラスに展開する舞台です。彼が恋するアネシュカ(上西星来)を含めた5人がほぼ通し役で、大空さんと吉田メタル、堀文明の3人は何役もこなすアンサンブルみたいな役どころで、これがなおさら非リアル感、ギミック感を醸し出している作品でした。
 そしてあえて、そこからの、母親の「フランツ!」という絶叫、暗転、おしまい、という衝撃のラスト、ということだったのでしょう。ドイツによるオーストリア併合とかナチ台頭とかユダヤ人弾圧とか、世界はどんどんきな臭くなっていきフランツも否応なく巻き込まれていくのだけれど、それでもどこかそこまで深刻にはならず、戦争中も市井の人々のささやかな暮らしは続くのである…というようなことがテーマなのかな、と思っていたところにコレだったので、ものすごく衝撃的でした。でも、それくらい戦争というのは非情で惨いものなんだよ、庶民のささやかな暮らしなどあっという間に断ち切られてしまうんだよ、と訴えることがテーマの作品だったのかな、とも思います。
 今はそういう国家間とか民族間の紛争や戦争よりは、全人類が違うものと戦っている世の中なので、忘れかけていたと言ったら変なんですけれど、もちろんこんな状態でも世界のどこかで紛争や戦争は続いていて、またワクチンだなんだである程度戦い終えたらそれこそまたこうした紛争や戦争に精を出し始めるのが人類だと思うので、やはり忘れてはいけないな、戦争は怖いものなのだいけないことなのだ決して起こしてはならないのだと何度でも突きつけられないとダメなんだな、と思いました。そういうことを、街の小さな売店をあえてタイトルにしたのだろうこの作品は、訴えているのだろうと思います。

 さて、そんなわけで大空さんですが、通し役でない役をやるのは女優になって初めてかもとのことで、というか宝塚下級生時代以来のことだったのでは? そしてこれがもうさすがの鮮やかさでした。
 なんかちょっとワケありっぽくてニヤニヤさせられた葬儀参列者から始まって、『銀河鉄道の父』でもあったなという素晴らしい老婆(プログラムでは「老婦人」でしたが)っぷり、ちょっとスノッブっぽくてチャーミングな博士夫人と立て続け。メインどころはフロイトの娘アンナ、なのかな。そして大空さんは顔が薄いせいか(オイ)、こういうなんてことない地味だけど存在感ある役が抜群に上手いと思うんですよねー。父親を気遣って窓辺に佇む様子が、静かに甘やかで美しい。プログラムの写真より若く見えたのも素敵でした。
 そして娼婦、これはまあいい。しかしてキャバレーのウエイトレスですよ! 最初のうちこそ黒いワンピースにエプロンの出で立ちでしたが、ショーガールになって脱いだらすごいんです!! 黒のレーシーなビスチェにガーターベルトに網タイツ、手には鞭でメタルさん相手に女王様!!! そして頓狂な歌を歌う…このためのキャスティングだったのか!? こんな格好、現役時代でも見たことなくない!?と激しくテンション上がってしまいました、すみません…
 からの、すんごいめんどくさそうに仕事する切符売りの女もよかったし、さらに「やつれた男」という役名でSS高官らしき将校に扮するのですが、制帽にロングコートがもう、自前の肩で補正ナシで着てるでしょ!?というカッコ良さ。作業は部下にやらせて自分は手を汚さない感じ、気だるげにやる気なさそうにお仕事して、でも実は冷酷で酷薄なんだろうなと思わせる怜悧さ…素敵でした。男役声はあえて出していない感じで、その「女優さんが男の役をただやっているギミック」感がまたこの作品のファンタジー度を上げ、それがラストに効いてくるのでした。
 一番たくさんお衣装を着替えているようでもありましたし、そういう意味でも楽しかったです。贔屓目と言われればそれまでですが、ホントいい女優さんだなあ…次のお仕事はまだ発表されていませんし、このご時勢でいろいろ大変かもしれませんが、引き続きいいお仕事をしていっていただきたいと思っています。
 イチロさんとは今回が初共演。初舞台の時の2番手さん、次期トップさんのスターさんでしたね。感慨深かったりしたのでしょうか…イチロさんはさすが情感があって、素敵でした。お初の上西さんも素敵だったなあ。そしてさとっさんも山路さんもそら上手いよね。盤石の布陣でした。

 この演目は芸劇に来たあと静岡、愛知、広島と回るようです。残りあと約一か月、無事に上演されますように。お祈りしています…!


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『パレード』

2021年01月22日 | 観劇記/タイトルは行
 東京芸術劇場、2021年1月20日18時半。

 1913年、南部アメリカの中心ジョージア州アトランタ。南北戦争終結から半世紀が過ぎたが、南軍戦没者追悼記念日には南軍の生き残りの老兵たちが誇り高い表情でパレードを行っていた。同じ日、13歳の白人少女メアリー・フェイガン(熊谷彩春)が強姦のあげくに殺された。容疑者として逮捕されたのはレオ・フランク (石丸幹二)、実直なユダヤ人で少女が働いていた鉛筆工場の工場長だ。事件の早期解決を図りたい州検事ヒュー・ドーシー(石川禅)は、市民の差別感情を利用してレオを犯人に仕立て上げていくが…
 作/アルフレッド・ウーリー、作詞・作曲/ジェイソン・ロバート・ブラウン、共同構想およびブロードウェイ版演出/ハロルド・プリンス、演出/森新太郎、翻訳/常田景子、訳詞/高橋亜子、振付/森山開次、音楽監督/前嶋康明。
 1998年ブロードウェイ初演、2017年日本初演から一部キャストを替えての再演版。実際の冤罪事件をもとにしたミュージカル、全2幕。

 初演の発表の記憶もうっすらとあるのですが、そのときはそこまで食指が動かなかったのかもしれません。題材とキャストに今回改めて惹かれてチケットを取りましたが、しかしこの題材でこのタイトル? かつミュージカル? と半信半疑な気持ちで劇場に出かけました。
 ハマコやソンちゃんも出演していました。てかキャストがみんなものすごいミュージカル俳優ばかりで、みんな本当に歌が上手い! 全員掛け値なしに上手い!! ミュージカルなんだからあたりまえでしょ、と言われちゃうかもしれませんが、そうじゃない舞台なんて山ほどあるじゃないですか。この歌唱力はすごかった。軽妙だけれど複雑で難しい楽曲も多かった気がしましたが、なんの問題もなく、歌詞も聴き取りやすくて意味が汲み取りやすかったです。訳詞がいいのかな? 意味が的確に取れる単語、音階に合った言葉が選べていた気がして、ストレスがまったくありませんでした。なかなかないことです、べた褒めしておきたいです。
 しかしてこの重い題材にミュージカルという手法は正しく効いている気がして、流れるような展開に、流されるのではなくしかし重いストレート・プレイを観せられたときのように深く考えこんでしまうことなく、物語の本質を捉えて観ていけるような気がしました。そしてそれがまた恐ろしいところでもあるのでした。
 史実だからしょうがないんだけれど、正義は貫かれず、作品の中では真犯人や真実が明かされることもなく、フランキー(内藤大希)は高らかに歌うけれどメアリーが帰ってくることもなく、ルシール(堀内敬子)はこれからも南部で生きていくと高らかに宣言するけれど夫が暴力的に奪われたことに代わりはなく、物語はアンハッピーエンドというかほぼ救いなく終わります。ただバレードに旗を振る人々の明るいさんざめきが眩しいばかり、舞い散る色鮮やかな紙吹雪がキラキラ輝くばかり…
 恐ろしい。怖い。でもあるだろう、そうだったろうと思えてしまう。悲しい。ユダヤ人差別とか黒人差別とか階級差別とか南北アメリカの対立とか、そういうことに関して本当のところはわからない現代日本人であっても、でもこういうことってあるんだろうな、というか実際にあったんだし今も似たことは起きていてこれからも根絶されることはないのだろうなと思えてしまう、そのことが本当に怖いです。そしてこれはそういうことを訴える舞台なんですよね。つまりは人間の愚かさと凶暴さが怖い、悲しい。
 それでも、スレイトン知事(岡本健一)のような人はいたし、レオとルシールの夫婦仲もこの事件があったからこそ深まり進化した面は否めない。何もかもが悪かったわけではない、しかし失われた命は決して帰らない…それは、「それが人生だ」なんてまとめることなどできない、でも絶望とも諦念とも違う、何か静かな悲しみを感じさせました。初演で、暗転で物語が終わったあと客席がシンと静まりかえった、というのもさもありなん、です。感動して拍手する、なんてタイプの物語ではないからです。でも、素晴らしい作品でした。だからそのことに拍手はしました、もちろん。でも、泣きたくなったのも事実です。人間って怖い。でも人間であることはやめられない。生きていくしかない。
 プログラムの裏表紙に書かれているのは「THIS IS NOT OVER YET」。人間の世のある限り、残念ながらこうしたことは怒り続ける。それでも、優しく賢くなろうと努力し続けられるか、より正しく生きていけるか…そんなことを、わたしたちは突きつけられているのかもしれません。

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宝塚歌劇月組『Eternita』~もう何度目かの、そしてもしかしたらラス前の?珠城日記

2021年01月17日 | 観劇記/タイトルあ行
 宝塚バウホール、2021年1月16日12時、15時。

 もともとは去年6月に予定されていたディナーショーを、場所を移して上演する3Days Special LIVE。
 構成・演出/三木章雄、音楽/吉田優子、編曲/竹内一宏、振付/若央りさ。

 はい、もしかしたらご存じの方があまりいなかったりするのかもしれませんけれど、私は珠城さんの大ファンなんですよ…(周知のことだったらすみません)というわけで日帰りダブル観劇遠征をシュッとキメてきました。久々にサラに入れて、ブレックファーストメニューがいただけて嬉しかったです。ロイヤルミルクティーとシナモントースト…!

 さて、珠城さんの初舞台の『ミーマイ』は、ミホコのサヨナラ公演でしたね。私は東京で観ていて、ロケットなどにいたのでしょうがもちろんさすがに記憶は記憶ございません。トークでも出ていましたが、確か「歌劇」で『ラスプレ』新公で2番手きりやんの役をやると知って、押されている下級生さんなんだろうなあ、と意識したのが私の珠城さんとの最初の出会い(?)だったかと思います。当人はそりゃまだ右も左も本当にワケわからない時期で、そりゃテンパったことでしょう…アサコがトシちゃんに「歩き方が変だから見てやって」と言って、スーツでただ歩くだけのお稽古を延々つきあってくれた、というエピソードを披露してくれました。一方でちなつがあのときロングコートで銀橋に走り出てくる珠城さんがカッコ良かったことを語り、『幽霊刑事』ポスター撮影ではそれ以来のロングコート姿だったよね、という話題からたしかまゆぽんだったかが「あのポーズ、オリンピックのポスターかと思いましたよ」と言い出したのがめっちゃおもろかったです。
 私が初めて珠城さんを生で観たのは『HAMLET!!』レアティーズですね。これがあの珠城りょうか、と意識して観た記憶があります。そしてわりとちゃんとしていたし、何よりガタイがいいのがいいなあ、と抜擢に納得した記憶…
 なのでそこからずっと気になっていて、会に入ったお友達が身近にいたこともあって私はそこまではいいや、などと日和りつつも、ずっとずっと好きで見ていました。まさかトップスターに至るまでにこんなに紆余曲折あると思っていませんでしたよね…もうこの組配属すぐの新公、別箱からコレなんだから、月組と星組が得意の一本被りの御曹司として自他ともにガンガン育てられ鍛えられ上げられていくのだろう、自他ともに認めていくのだろうと思っていたのですよ私は。なんか、もっと楽に、スムーズに就任させてあげたかったよ…けれどその後もいろいろあって、結果的には任期が長くなったのも、よかったのかなと今は思っています。
 そんないろいろも振り返る、まさに感情の忙しい100分でした。ちなみに夜の回のお席が最後列ほぼセンターで、ほぼ私に向かって歌ってくださっていますよね、という視線の合いっぷりで、本当に幸せでした…確かまゆぽんが言っていましたがバウホールは後列の持ち上がり方が急でどの観客の顔も被りなく良く見えるそうです。5列目くらいまではむしろアレだけど、そのあとは本当に観易い劇場ですよね。そして本当に温かな空間でした。

 オープニングは『アリスの恋人』のマーチ・ラビット。白燕尾のボタンが赤い目に、ベストのボタンが黒い鼻に、襟は耳になっていたんですね!? 初めて気づきました、当時は顔しか見ていなかった気がします…ホント可愛いお衣装だったんだなー! ピンクのメッシュが入った鬘もキュート! しっぽを「肉まんじゃないですよ!」とか言って客席もいじるなんて、なんて成長したの珠城さん…!ともうのっけからコーフンしてタイヘンでしたワタクシ。当時も「さすがなーこたん、このたまきちにすごい役を書くよ…!」と震えたものでした。下級生をちょいと目立たせる役、みたいなのがもうハナから似合わないタイプで(笑)、だからって別にカワイイ押しでもないニンだからこの役もかなりアレだったんですけれど(オイ)、でもやるからにはもうこれくらい吹っ切っていた方がよかったんですよね。その後の小公演なんかの役を思うだに、そう痛感します。個人的にはホントいろいろ思うところがあった作品で、なーこたんに暑苦しいお手紙を書いてしまったこともいい思い出です。私が観た昼の回ではゆりちゃんが観劇に来ていて、そういえば帽子屋もすごく良かったなあぁ、と感慨深かったです。主演のみりおのニンにもよく合っていた、いい演目だったよなあ、と思い出バイアスもあるかもしれませんが、早くもしみじみしてしまいました…
 ラビットがハケるとカーテンが開いて、舞台中央に階段がある二段セット、その下にバンド、白燕尾のちなつ、まゆぽん、ヤス、ギリギリが板付いていて、トップお披露目公演のショー『カルーセル円舞曲』より主題歌。差し色に紫を効かせた白の変わり燕尾の珠城さんが加わって熱唱。まあ客席の手拍子が走る走る! バンドが引っ張られてどーする、コントロールしてー!リズム保ってー!メンバーが歌いづらそうでしたがな…でも手拍子が大きくて、音楽が聞こえづらかったりもしたんだろうなー。ヒヤヒヤしましたが、やはりショーの主題歌は楽しい! アガりました!! そういえば『グラホ』の歌はなかったけれど、権利関係の問題を気にした選曲だったのでしょうか。サヨナラショーでもやれないのかな、寂しいな…ともあれお正月公演でしたよね、大晦日から遠征したよね、懐かしい…!
 そしてメンバー紹介、だったかな? 自己紹介のお題は昼の回は「動物にたとえると」でギリギリが恐竜、ヤスがミーアキャット、まゆぽんが熊、ちなつがシロイルカ、珠城さんは大型犬とよく言われる、とのことでした(「でもゆりさんだけは、あ、紫門ゆりやさんですけど、私は笑うとくしゃっ手なって眉間に皺が寄るらしいんですけど、それがウサギみたいって言ってくれます」とののろけ?自慢?アリ)。午後の回はチャームポイントで、ギリギリが大きな口、ヤスがくぼんだ目、まゆぽんがエクボ、ちなつが生え際。珠城さんは左耳の縁を示して、形がちょっと変わっていることをアピールしていました。うん、特徴的だけどチャーミングかどうかは疑問だね(笑)。ちなみに初日は「珠城さんの好きな部位」がお題だったそうです、私は頬骨が好きです!
 そしてEarly Yearsのコーナー、まずは『春の雪』より「桎梏」。いい作品でしたよね、三島も喜んでるだろうよと思った記憶…あと珠城さんに抱かれて死んだみりお(言い方…)が、腕の中が本当にあったかくて本当に寝そうになったと何かの時にコメントしていたことが忘れがたいです。いい学ラン姿だったなあ…あとなんか縛られてたしな…ホント性癖…生田…(呼び捨て御免)
 続いてプレお披露目公演だった『アーサー王伝説』より「私は誰?」。海外ミュージカルで、難しかったのかなあ。初日の上級生たちの緊張がハンパなかったそうで、ヤスちゃんも出番前に袖で緊張してたら、そこへ来た珠城さんがやはりすごく緊張していて「手を握っていい?」と言ってきたんだそうな…何ソレどこのガブリエル…珠城さんはこのエピソードを綺麗さっぱり忘れていて、そしてヤスが見守った珠城さんの出番はもちろん全然震えてなんかいなくて、アレはなんだったんだ…となったそうです(笑)。ええ話や。てかヤスはホントに頭が良くて優しくて繊細で人の心の機微がわかって、だからこういうトークにすごくハートがあって、そして抜群に上手かったです。全ツ『激情』主演と次期トップ就任が発表になった頃、お稽古初日と言っていたかな?に、11回も書き直したという便箋何枚にも渡るお手紙をくれたそうで、今でも「ああっ、ツラいっ!」ってなったときには珠城さんはそのお手紙を読み直したりするんだそうです。「珠城さんがこれから背負うものの重さは私にはわからないかもしれないけれど、珠城さんが嬉しければ私も嬉しい、珠城さんが悲しければ私も悲しい、そういう組子が支えていますよ」…みたいな内容だったそうです。な、泣ける…そしてこの演目は、この歌の歌詞もそうだけれど、ホント運命に勝手に選ばれてがんばらざるをえない主人公、みたいな話で、珠城さんには似合いなんだけど重いんだよ…!と代わりに泣いたものでした。懐かしい…
 お次は前奏からたぎった! 『1789』より「誰のために踊らされているのか?」。大好きだった、ただ半円描いて移動するみたいな振りも再現されていてめっちゃ嬉しかったです。そろそろこっちゃんか咲ちゃんあたりで再演してほしいなー、好きな作品だったしロベスピエールも大好きでした。外部版も観ましたね。当時の月組はマギーとかコマとかの別格スターの配置、バランスも良く、スターの多彩さがいい方に出た演目でした。ありちゃんのトップお披露目にしてくれてもいいですよ?
 そしてギリのバラクとのデュエットで『鳳凰伝』より「されど夢」。珠城さんがメンバーについてひとりずつ語るコーナーがあって、ギリギリのときには、お付き、いわゆるお手伝いをしてくれていることや、がんばり屋さんで、でもこの歌は合わせてくれようとしちゃうので「バラクなので対等でいいんだよ」と言ったこと、そうしたら舞台で変わってきてくれてそれが本当に嬉しかったこと、を語ってくれました。下級生のいいところを嬉しそうに愛しそうに語る珠城さん、というのはお茶会なんかでよく見てきた光景でもあり、今はそういう機会がないだけに懐かしかったです。大空さんの最後のDSがメンバーひとりずつと1曲ずつデュエットを歌うという構成で、ソレでいくのかなーと思ったら残念ながらそうではなかったですが、でもいいデュエットでした。てかギリギリ、いい男役さんになったよね…思えばこのメンバー、ちなつが二分の一主演をしている他は誰も新公主演をしていなくて、それは学年が近い珠城さんが持っていっちゃったからでもあるのかもしれないけれど、でもだから路線じゃないのかもしれないけれど明らかに今の月組の中核を担うスターで実力派で、押しも押されぬ存在なんですよね。よくぞ選んだ、そしてこうでしかなかったメンバーなのかなあ、と思いました。
 続いてカチャが歌ったところをまゆぽんで、『激情』より「自由と抑制Ⅱ」。これもよかったです。そしてまゆぽんはタッパもあるしガタイもいいので、まゆぽんキャリエールに珠城さんエリックなんてのも一場面なら観てみたかったよ…と思ったりしました。しかしまゆぽんはホント、新公でフツーに真ん中張れたと思うんだけどなあ…『舞音』新公主演はまゆぽんでもよかったんじゃなかろうか、と私は今でも思っています…
 そのあと、一度ハケた珠城さんが青い着物を肩がけにして出てきて、私の涙腺が崩壊しました! 『月雲の皇子』より「花のうた」。つーかコレ、サヨナラショーでももう一回絶対やってね? ペンラ振る絶好の曲だからね、当時からもうそう言っていたからね…
 からのヤスのティコが出てきて、「綺麗」を巡るやりとりが再現されて、もうたまりませんでした…そうか、ヤスちゃんとはデュエットがなかった代わりにここのお芝居再現場面があったわけですね。「あの人みたいな様子のことだよ」…こんな素敵な「様子」って言葉の使い方、あります!? 大好きなセリフでした…はあぁ、たまらん。銀河劇場再演のお稽古で、くーみんからは「ティコが大人になっちゃった、上手くなっちゃった」とダメ出しされたそうです。それはそうだよね、でもそもそも初演でこの役にヤスを配したくーみんの炯眼たるや…恐るべし。
 これでちなつが緑の着物を着てきたらどうしようと思いましたがそれはなかった、けどふたりで「穴穂の歌~木梨の歌」。いやー珠城さんがあのときのザンバラお髪に見えたね、すごいね!
 からの、これサヨナラショーでやりますよね?案件第二弾、『Bandito』より「ジュリアーノと仲間たち」。これもまた、当人は望んでないのにリーダーに担ぎ上げられちゃう役で話で、みんなちょっとどうしてこうなんもかんも珠城さんに背負わせるの…!?って初日から涙目になった記憶…でも、珠城さんの無骨さ、真っ直ぐさを生かしたいい役、いいお話でもありました。そして珠城さんの主演運の良さを寿いだなあ…まあ世間的にはやや地味と思われて評判はそんなには良くなかったかもしれないのですが、いいわかばだったし、私は好きな作品でした。ちなみに昼の回の席がこの公演初日観劇の席に近くて、フィナーレのデュエダンで白の変わり燕尾で出てきた珠城さんがホントにザッツ・王子さまで素敵であまりにも意外で(オイ)、椅子から飛び上がりかけたのをまざまざと思い出しました…
 このときみんなは赤と黒の変わり燕尾になっていて、珠城さんも赤のお衣装になって再登場したんだったかな? で、トークを挟んで『Apasionado!!』だったかな? もちろんアサコのショーであり月組のショーなんですけれど、私は大空担でもあって宙組版も通いましたからね、もう感慨深すぎました…!
 Glorious Daysとしてトップ時代および新公主演のコーナーになって、まずは『雨唄』より「SINGIN' IN THE RAIN」。りくのときは手拍子したな…と混ぜるなキケン、な思い出がちょっと蘇っちゃいました。ちゃんと傘の小道具があるのがいいですよね。
 そして『エドワード8世』より「プリンス・チャーミング」。退団を発表しているんだから今なら「退位の歌」もアリだったかもしれない…でもお茶目で軽快で良かったです。この新公も好きだったなあぁ…
 そして初新公主演だった『スカピン』より、ここは日替わりだそうですがこの日は「炎の中へ」だったかな? それまで新公はプロ・ファンが観るもので私なんかとても…と思っていたのですが、珠城さん初主演がどうしても観たくあれこれツテを辿りまくって出かけた、私にとって初新公観劇となった思い出深い作品です…懐かしい。
 そして『ロミジュリ』から「世界の王」。これはヤバいかりんたんのマーキューシオ楽しみすぎる大丈夫かな、とちょっと気が散りましたすみません。イヤ楽しそうでよかったです。赤いお衣装だったけど確かにモンタギューの若者たちでしたよ、そして新公では確かカットになった楽曲ですもんね? 新公ロミオも、いっぱいいっぱいだったんでしょうがとてもがんばっていましたよね。本公演の死は、まあニンじゃなかったんだけど、とにかくこの時期の劇団は珠城さんをアピールしたくてしょうがなかったんですよね…しかしホントやり方がヘタだったよね…
 ここで4人のトークになって、去年の珠城さんとの思い出話とか新公の思い出とかを語ったんだったかな? ちなつがお稽古のあとふたりで人気のない宝塚の街をお散歩して帰ったとか、まゆぽんが拝賀式のあと再度待ち合わせしてふたりで阪急に乗って初詣に行ったとか、いろいろエピソードを披露してくれました。そしてまゆぽんの「どうやって伝えよう」、ちなつの「心のひとオスカル」。『ベルばら』、いろいろしんどかったよね…とまたいろいろ蘇りました。この頃はちゃぴも本当にタイヘンだったろうよ…
 そして「クリタカ」! 盛り上がりました!! 全ツもあったし、この振りはホント覚えているほど観たなー。
 Precious Songsのターン、ブルーグレーの飾りが付いた白の三つ揃えスーツで新郎キタ!な珠城さんが『赤と黒』より「恋こそ我がいのち」。これ、今スカステで円盤のCM流してるんですけど歌がホントひどくて(笑)、イヤ珠城さんには出ない音とか上がりきらない音があるのはもうデフォルトなんですけど(オイオイ)、でも今回は歌えていて胸をなで下ろしました…いやぁ身構えるんですよね、出ない音来るぞってもうわかるので、ファンなので(^^;)。
 そして『DH』のときのかな? 背中が開いた、深いスリットの入ったドレスになったちなつを迎えて、『NW!』より「BESAME MUCHO」。珠城さんに袖からハットを渡す「影の出演者」はまゆぽんとのこと(笑)。そうそう、ここまで珠城さんはヘッドマイクも付けているんだけど手にマイクを持って歌っていたんですけれど、それを置いてから歌い出すんだけどその置き方がめちゃめちゃカッケーんですよマジ惚れる抱いて!! ハイ、がっつりヤッている感のある濃いふたりでたいそうよろしゅうございました。でも背中合わせに立って伸ばした手でお互いの太腿を摩り合う振りがあったあと、その手をつなぐんだよね、それがなんか妙にピュアでキュンとしました…シメには並んでお辞儀しちゃうんだもん、確かにちなつが相手役でしたね(笑)。
 そしてもう一度『激情』に戻って「愛すること生きることどうしてこんなに切ないの」…私この曲大っ好きなんですよー。そういえばここも「恋こそ我がいのち」も、女声パートもみんなメンバーが歌っていましたね。特にヤス、ギリギリ、素敵でした。そしてこの場面終わり、両腕広げて、目をつぶって、顔を仰のけてキメ!だったんですけれど、もう照明といいそのお顔といい、絶品でした。ここの舞台写真が欲しいですプリーズ…そういえばつけまつげの目尻側に乗せた青が本当に綺麗でした。
 ラストソングは『PUCK』より「JUST SAY DANCE TONIGHT」! このボビー、本当にニンじゃなくてしんどかったんですよね。でもこの曲の歌詞はとてもいいし、今聞くとホント刺さる…そしてこの新公のサー・グレイヴィルはとても良かったんですよね、この配役はよかった…
 アンコールは歌謡曲かなあ? 明るいクラップの歌としっとりめのバラード、だったかな? サークレットに真ん中分け、ゴールドの変わり燕尾というザッツ・トップスター!なお衣装で出てきてくれました。その後、感想なんかをトークして終幕、だったかと思います。はー、濃かった…

 プログラムの三木先生の言葉がとても温かいですね。「逃げられない長男。いい人ぶるのではなく、本当にいい人にならねば、の決意。決して楽な道では無かったはずです。でも、とてもいい笑顔が出来るようになりました。」…月組ファンで、初舞台も月組で、月組に配属されて、生え抜きでトップスターに就任して。でも、たまにある、なんにも出来ないんだけど華がものすごくて万人が認めちゃう…みたいなタイプのスターではなかったので、御曹司感もそんなになくて、意外と苦難の道を歩まされたのかもしれません。でも、とにかく努力する人で、絶対に逃げませんでした。それで上級生に可愛がられ心配され励まされ見守られて、もがき悩み苦しみあがいて、その背中を見て下級生が懐き敬い支え、ともに努力し…そうして紡いできた歴史だと思います。新公時代、よくわからない群雄時代、『ドラゲナイ』で急にブログラムもラインナップもみやちゃんを抜いて物議を醸したこと…ホントいろいろありました。劇団がもっと上手くスターとしての位取りをさせておけば、あんなに風当たりが強いこともなかったのではなかろうか、と思うのですが、まあタラレバを言っていても仕方がないので、今は「終わりよければすべてよし」を目指して、最後まで元気に走り抜けていただきたいです。

 今回のライブで出てこなかった作品についても、思い出話を以下、少しばかり。
 『ジプシー男爵』は本公演も新公もちゃんと観たはずなんだけど、珠城さんの記憶はあまりありません…なんでだろう? でもこの公演ではちゃぴに関して「娘役をさせるとは押したいんだろうな、転向させたいんだろうな」と思ったことをとてもよく覚えています。
 『STUDIO54』はみくちゃんと兄妹の警官、みたいな役でしたっけね。押したいんだろうけどふさわしい役を書いてもらえてなくて、当人もなんだかやりようがなくてまごついていたのでは…と心配した記憶があります。この頃からもっとわかりやすく大きな役を当てちゃっていた方が、のちにいろいろ楽だったのではなかろうか、とホント思います。
 『アルジェの男』、これは私は作品としてとにかく好きです。本公演はよくある主人公の仲間役で、新公アンリもニンかと言われるとナゾでしたが(笑)、新公全体がとてもよかった記憶があります。
 まゆぽんのトークで出た『ルパン』は、評判はアレでしたが私は意外に嫌いじゃなかった演目です。新公のルパンとルブランの絆が本公演を越えていた、とまゆぽんは本役のみっちゃんから褒められたそうですが、まあそらそうだよなと思いましたよ(笑)。珠城さんのルパンも、もちろんまさおのあの洒脱さ、軽妙さはなかったけれど、実直でいいルパンだった印象です。本公演のジョゼファンは、だからもうこういう役をやらせるスターじゃないんだと何度言わせればいーんじゃ!となりましたけどね…
 ショーの新公主演となった『花詩集100!!』はすごーくすごーくよかったですよ! 真ん中力が育ってきていて、もう準備ができあがりつつあります!って感じがすごかったです。本役と違うギンギラ衣装がワクテカだったなー!!
 『舞音』はとても景子っぽい景子作品で、クオンはもうちょっと書きようあったやろとは思うお役でした。2番手時代にいい役、いい作品に出会うことは大事なんですけどねえ…ホントその点は不遇でした。
 そこへ主演で回る全ツ『激情』の発表が来て、私は確かこのとき南の島に旅行中だったんですけれど、エステが終わって電波の入るところへ出たらスマホの通知がものすごくて、ホテルの庭のベンチでずーっとお友達たちとLINEトークしていた記憶があります。ホセ、よかったなあ、泣いたなあ、あちこち行ったなあ、楽しかったなあ…
 『NOBUNAGA』は髭のロルテス。体臭を感じさせましたよね…(笑)
 そしてトップ時代に一度はイシちゃん降臨を担当しなければならないのだと思いますが、それが『長崎しぐれ坂』でしたね。役は良かったんだけど作品としてはあまりおもしろく感じなかったかな…てかもっとおもしろくできるやろ、と思いました。
 早くまた再演し、劇団の財産として育てていってもらいたい『AfO』、『カンパニー/BADDY』あたりはサヨナラショーまでお預けでしょうか? ちゃぴサヨナラ公演だった『エリザベート』もなかったですね。『OTT』は、まあ版権かな。『夢現無双/クルンテープ』以降は、さくさくとセットでこれもサヨナラショー候補なのかもしれません。

 持参した文庫を行きの新幹線で読み終えてしまったので、ソリオのサンクスで『幽霊刑事』を買いました。ぬかりのない私…あとはこのラスト・バウと、サヨナラ公演を残すのみ、ですね。私の誕生日の翌々日にご卒業です、歳はとりたくないものだわ…最後まで、しっかり見守りたいと思いますし、卒業後の進路がなんであれ、心を寄せたいと思っています。どうかくれぐれもご安全に…最近の記事はみんなシメがコレになってしまいますが、本当に祈っています。


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