亡き夫と通った思い出の喫茶店が閉店し、立ち寄った書店では料理本がいつもと違うコーナーに。時が過ぎ去る寂しさのなか、彼女の目に止まったのは一冊のBLコミックス。75歳の老婦人と書店員の女子高生が織りなすのは、誰もまだ見たことがない日々でした…
確か連載が始まってすぐくらいに、「これはいい!」と話題になっていて、電子で試し読みをちょいと読んだ記憶があります。でもそのときは、老婦人と女子高生がBLという共通の趣味を解して友人になる話なのねー、くらいの受け取り方しかしなかったように思います。その後、映画化もされて再度話題になっていた気もしますが、やはりスルーしていました。
が、そのとき発売されたボックスで全巻借りられることになったので、ならば、と読んでみました。ら…確かにそうなんだけど、それだけではないお話でしたね。
今や私は市野井さんに自分を重ねて読むべきなのかもしれません。あちこち身体を労りながら、周りのコミュニティに支えられてもいるけれど、基本的にはひとりでできることはなんでもひとりでして、ひとりの暮らしを続けている女性…満ち足りているような、寂しいような。
一方で、自分がうららくらいの歳の頃はどんなだったかな、とも思いはせました。ここまでボッサーとはしてなかったかもしれないけれど、でも外見には全然かまっていなかったかな。少なくとも英莉ちゃんみたいな朝からキラキラの女子では全然なかった。なんなら友達もそうたくさんはいなかったかもしれません。何をしていたかといえばやはり趣味に走っていて、創作同人活動バリバリでした。初めて行ったコミケはまだ晴海だったし、世はキャブ翼全盛期でしたが私はオリジナルを描いていたので…なので同人友達はいたかな。ともあれ空想の世界で息をしていたんだと思います。
そういう意味ではうららの方に近いのかもしれないけれど、家庭環境は全然違うし(でも両親が離婚していても子供を通してそれなりに行き来があり、離れて暮らす父親ともかったるいときもあるけどちゃんと会っている、というのはいいことですよね。離婚家庭がこういうふうに描かれることってあまりない気がするので、新鮮でした。この両親は夫婦としては破綻したけれど子供の親としてはちゃんとしていて、喧嘩別れの没交渉、とかではないのがすごくいいなと思いました)、彼女がずっと通奏低音のように感じている将来への漠然とした不安みたいのものは、まあ思春期特有のものなのかもしれませんが、私はこんなに繊細に感じ悩み迷っていたろうか…?とは思いました。まあ当時はそれなりに悩んでいて、今や忘れてしまったのかもしれないけれど…私はまあまあ学校の勉強ができたので、受験がんばろう、進学して就職したい、自分で自分を食わせていきたい、とは考えていたので、そのために目先のテストに集中しつつ、ひとつひとつやっていけばなんとかなるだろう…とは考えていて、あまり不安に感じてはいなかったのかもしれません。今よりずっと、将来に希望が見える、右肩上がりの社会だったから…というのは、あるかもしれません。
でも、つむぎくんのような近所の幼馴染みはいなかったし、こんな甘酸っぱい想いもしなかったかな…ちゃんと好き、っていうのとは違うのかもしれない。でも彼女といる様子を見ると胸がザワつくんよね、わかるよ。お姉ちゃん含めて三人で子犬のように転げ回って遊んでいたころと違って、彼が意外にも美形に育ち上がってしまったので、好きとかなんとかとは違うんだけどなんか腰が退けて…というのも、とてもわかる気がします。その彼女であるキラキラ女子の英莉ちゃんに対しても腰が退けちゃうところも。そしてそんな英莉ちゃんのほうでも、「うらっち」のことが気に障るし、自分の将来に不安がないわけではないことも…ああ、甘酸っぱいー!
アオハルだね!と一言で片付けるのはランボーだと思いますし、一方で市野井さんもこの歳でも青春なんだなーとか思いますが、要するに全部含めて人生の物語、なのかもしれません。万物は流転する、エントロピー増大の法則…
ふたりの友情は確かに築かれた、しかしそれはそれとして、市野井さんは国際結婚をして海外にいるらしい娘のもとにふらりと暮らしを移してししまう。そういうことってありえると思うし、その軽やかさがいいし、さみしくはあるんだけれど、このままふたりでずっと縁側でお茶飲んでBL読んで暮らしました、なんて絶対に嘘なワケだし、なのでとても素敵な終わり方だなと思いました。そこまであってのこのタイトルでもあるのですね。人は変態する。変化し、移動し、生きていく…
特に目新しいところはない気はしますが、ふたりが出会うきっかけとなったBLコミックがちょいちょい挟まれるのもいい。その漫画家とアシスタントさん、担当編集の様子が描かれるのもいいですよね。
「大事なものを大事にできてすごいね」という台詞がありますが、それが無理なくできるようになることが、大人になる、幸せになる、ということなのかもしれません。自分が大事なもの、人が大事なものを大事にして生きていきたい、と改めて思ったり、しました。
確か連載が始まってすぐくらいに、「これはいい!」と話題になっていて、電子で試し読みをちょいと読んだ記憶があります。でもそのときは、老婦人と女子高生がBLという共通の趣味を解して友人になる話なのねー、くらいの受け取り方しかしなかったように思います。その後、映画化もされて再度話題になっていた気もしますが、やはりスルーしていました。
が、そのとき発売されたボックスで全巻借りられることになったので、ならば、と読んでみました。ら…確かにそうなんだけど、それだけではないお話でしたね。
今や私は市野井さんに自分を重ねて読むべきなのかもしれません。あちこち身体を労りながら、周りのコミュニティに支えられてもいるけれど、基本的にはひとりでできることはなんでもひとりでして、ひとりの暮らしを続けている女性…満ち足りているような、寂しいような。
一方で、自分がうららくらいの歳の頃はどんなだったかな、とも思いはせました。ここまでボッサーとはしてなかったかもしれないけれど、でも外見には全然かまっていなかったかな。少なくとも英莉ちゃんみたいな朝からキラキラの女子では全然なかった。なんなら友達もそうたくさんはいなかったかもしれません。何をしていたかといえばやはり趣味に走っていて、創作同人活動バリバリでした。初めて行ったコミケはまだ晴海だったし、世はキャブ翼全盛期でしたが私はオリジナルを描いていたので…なので同人友達はいたかな。ともあれ空想の世界で息をしていたんだと思います。
そういう意味ではうららの方に近いのかもしれないけれど、家庭環境は全然違うし(でも両親が離婚していても子供を通してそれなりに行き来があり、離れて暮らす父親ともかったるいときもあるけどちゃんと会っている、というのはいいことですよね。離婚家庭がこういうふうに描かれることってあまりない気がするので、新鮮でした。この両親は夫婦としては破綻したけれど子供の親としてはちゃんとしていて、喧嘩別れの没交渉、とかではないのがすごくいいなと思いました)、彼女がずっと通奏低音のように感じている将来への漠然とした不安みたいのものは、まあ思春期特有のものなのかもしれませんが、私はこんなに繊細に感じ悩み迷っていたろうか…?とは思いました。まあ当時はそれなりに悩んでいて、今や忘れてしまったのかもしれないけれど…私はまあまあ学校の勉強ができたので、受験がんばろう、進学して就職したい、自分で自分を食わせていきたい、とは考えていたので、そのために目先のテストに集中しつつ、ひとつひとつやっていけばなんとかなるだろう…とは考えていて、あまり不安に感じてはいなかったのかもしれません。今よりずっと、将来に希望が見える、右肩上がりの社会だったから…というのは、あるかもしれません。
でも、つむぎくんのような近所の幼馴染みはいなかったし、こんな甘酸っぱい想いもしなかったかな…ちゃんと好き、っていうのとは違うのかもしれない。でも彼女といる様子を見ると胸がザワつくんよね、わかるよ。お姉ちゃん含めて三人で子犬のように転げ回って遊んでいたころと違って、彼が意外にも美形に育ち上がってしまったので、好きとかなんとかとは違うんだけどなんか腰が退けて…というのも、とてもわかる気がします。その彼女であるキラキラ女子の英莉ちゃんに対しても腰が退けちゃうところも。そしてそんな英莉ちゃんのほうでも、「うらっち」のことが気に障るし、自分の将来に不安がないわけではないことも…ああ、甘酸っぱいー!
アオハルだね!と一言で片付けるのはランボーだと思いますし、一方で市野井さんもこの歳でも青春なんだなーとか思いますが、要するに全部含めて人生の物語、なのかもしれません。万物は流転する、エントロピー増大の法則…
ふたりの友情は確かに築かれた、しかしそれはそれとして、市野井さんは国際結婚をして海外にいるらしい娘のもとにふらりと暮らしを移してししまう。そういうことってありえると思うし、その軽やかさがいいし、さみしくはあるんだけれど、このままふたりでずっと縁側でお茶飲んでBL読んで暮らしました、なんて絶対に嘘なワケだし、なのでとても素敵な終わり方だなと思いました。そこまであってのこのタイトルでもあるのですね。人は変態する。変化し、移動し、生きていく…
特に目新しいところはない気はしますが、ふたりが出会うきっかけとなったBLコミックがちょいちょい挟まれるのもいい。その漫画家とアシスタントさん、担当編集の様子が描かれるのもいいですよね。
「大事なものを大事にできてすごいね」という台詞がありますが、それが無理なくできるようになることが、大人になる、幸せになる、ということなのかもしれません。自分が大事なもの、人が大事なものを大事にして生きていきたい、と改めて思ったり、しました。