サンシャイン劇場、2020年1月25日18時。
香港から日本へ向けて出航した豪華客船「クィーンサンシャイン号」。そこでは人気絶頂のアイドルグループ「Here Come The Sun」のプロモーション・クルーズが行われるため、大勢のファンやパーサー、マネージャーなど関係者が乗船していた。しかし開催直前に脅迫状が届き、不穏に思ったマネージャーは無事に本番を迎えるため、ひとりの探偵に捜査を依頼した。探偵の名はRED(七海ひろき)。REDは偶然その船に乗り合わせた刑事・熊田(西岡徳馬)と共に事件を追うが…
原作/林誠人、脚本/天真みちる、演出/中島康介、音楽/遠藤浩二、振付/YOSHIKO。13年前に上演された『ケータイ刑事銭形海~演劇者殺人事件』という戯曲を、刑事を探偵に、演劇者をミュージシャンに、劇場を豪華客船に設定を変えてミュージカル化。全一幕。
宝塚歌劇団卒業後、声優やアーティストとして活動してきたかいちゃんの初舞台と、同じくライブの構成や朗読劇の台本なんかを手がけていたたそのミュージカル脚本デビューが観たくて、出かけてきました。
たその脚本については、そもそも原作になった戯曲があるということなので、今回は評価は保留かな。プログラムによれば歌詞にもこだわっていたようですが、残念ながらそんな繊細に味わうような音響や歌唱ではなかったですし…でも、今後ますます活躍していってほしいなと思います。かいちゃん同様、才能と才覚とスキルとやる気があれば、OGのみんながみんな東宝や帝劇のミュージカル女優として成功するわけでなし、はたまた単なる謎のインスタグラマーになってしまうんでない道が何かもっとあるはずなんだと思うので、開拓していっていただきたいですし何より元気で幸せでいてほしい、そしてエンタメ業界にいてくださるというのならお客として投資も応援もしたいと思うのでした。
作品自体は、まあハコにふさわしいと言いますか、ザッツ・2.5次元の香りがしましたよね…バンドのメンバーは『ハイキュー!!』など2.5次元ミュージカル経験者のようで、他の出演者も声優、歌手といったキャリアの方々でしたし。座組がBSとキングレコードと明治座というのがなかなか新鮮だったかと思いますが、これで興行的にも成功するなら今後もこういう形は広がっていき定着していくのでしょうか。でも良きことですね。
個人的には、連続殺人事件をエンタメにするならその時点でリアリティは放棄するしかないので、クライマックスに犯人の動機を巡る泣かせ芝居を持ってくるのはつらいだろうとは指摘したいです。そういう世界観、価値観の物語じゃないはずじゃん、と感動したり共感して泣くというより単にシラけちゃうと思うんですよね…もっと全体にポップに作るしかなかったはずだと思うのです。
その上でバンドメンバーにはもうちょっと個性が欲しかったですし、その他のキャラクターたちにももう少しドラマを与えて、全部で2時間になるようにしてもよかったんじゃないのかなーと思います。今、容疑者候補として目くらましのためだけにいるような感じでもったいないし、バンドのメンバーもちょっと芝居のしようがないように見えました。2.5次元ミュージカルなら原作準拠のキャラクターにどれだけ見えるか、なりきれるかだけ工夫すればいいんでしょうが、今回は彼らにあてて書かれたオリジナルのキャラクターなので、もう少し、たとえば優等生のリーダータイプとか喧嘩っ早くて情熱的なタイプとかナイーブで神経質な芸術家タイプ…とか脚本が書き込んであげればやりやすかったろうし、彼らもそういう演技がしやすかったんじゃないのかなあ。そういうのがないままに、中途半端にアイドルめいた若手俳優に中途半端にアイドルグループの役をやらせるのは、彼らのファンだけが観るならいいかもしれないでしょうけれど普通の舞台ってそうじゃないから、つらいでしょ? みんな長身でスタイル良くてそれぞれイケメンで(私は男性に関してはまったく面食いでないので、キャラが弱いため上手く識別できませんでしたが…)、これから舞台俳優としてなんとでも花開いていけそうに見えただけに、そのあたりは残念でした。
そしてこのお話の中で最もファンタジーなのは、性別年齢不詳の探偵、というつっこみどころしかない設定の主人公なわけですが、かいちゃんはそれをちゃんと的確な演技でやって見せていたんだと思うんですよね。ミステリアスでひょうひょうとしていてどこか浮き世離れしたキャラクターをちゃんと造形しているのです。そこに彼女の男役芸が必要だったのだ、と言ってもいい。なのに作品自体の芝居が残念ながら全体に雑な作りのために、もしかして観る人によってはこのクールでスカした(褒めてます)演技がただの棒に見えるんだろうか、と一周回ってそこまで私は勝手に心配しながら観劇することになってしまいました…うーむ、もったいないし難しいものだなあ…
でも、おもしろいことをやろうとしているし、小劇場チックな演出や笑いもよかったし映像の使い方も客席の使い方もよかったし、バンドのライブのアンコールとしてのフィナーレ、というアイディアも素敵でした。楽しかったです。そして何よりかいちゃんが素敵でした。
宝塚歌劇の舞台メイクでないお化粧の、けれど素化粧ともまた違うお化粧で、男装で、舞台の上で役を演じて生きているタカラジェンヌOG男役を見ることはそうそうないので、そういう意味でも新鮮でしたし(昔々、退団後のヤンさんのハムレットとか観たかな…あとターコさんとかも…)、でも活躍の仕方としてアリだろうしなかったなら広げていけばいいことで、別にまだ男役をやっちゃって…みたいには思わなかったなあ。それはでも、女優さん相手にラブを演じていたわけではなかったからかもしれません。私はかいちゃんのお芝居が好きだったから、女優として女性キャラクターを演じるかいちゃんも今後観てみたいものですが、ファンの想いはまた違うのかもしれないし、何より本人が望むことを上手くお仕事にしていければそれでいいんだと思うので、何かを強要する気はさらさらありません。がんばっていっていただきたいです。
そしてたそのますますのご活躍にも期待しています。cakesの連載の文才は素晴らしいし、エッセイストなんかもできるのかもしれません。でも脚本家、演出家として舞台のお仕事を続けていってくれるんだったら嬉しいなー。それもまたOGの地平を広げることですよね。がんばってください!
…ところでバンド名は「~comes」ではないのだろうか…
あとネタバレですがマネージャーが共犯者だったなら彼女が探偵に依頼したというのはおかしいのでは…
香港から日本へ向けて出航した豪華客船「クィーンサンシャイン号」。そこでは人気絶頂のアイドルグループ「Here Come The Sun」のプロモーション・クルーズが行われるため、大勢のファンやパーサー、マネージャーなど関係者が乗船していた。しかし開催直前に脅迫状が届き、不穏に思ったマネージャーは無事に本番を迎えるため、ひとりの探偵に捜査を依頼した。探偵の名はRED(七海ひろき)。REDは偶然その船に乗り合わせた刑事・熊田(西岡徳馬)と共に事件を追うが…
原作/林誠人、脚本/天真みちる、演出/中島康介、音楽/遠藤浩二、振付/YOSHIKO。13年前に上演された『ケータイ刑事銭形海~演劇者殺人事件』という戯曲を、刑事を探偵に、演劇者をミュージシャンに、劇場を豪華客船に設定を変えてミュージカル化。全一幕。
宝塚歌劇団卒業後、声優やアーティストとして活動してきたかいちゃんの初舞台と、同じくライブの構成や朗読劇の台本なんかを手がけていたたそのミュージカル脚本デビューが観たくて、出かけてきました。
たその脚本については、そもそも原作になった戯曲があるということなので、今回は評価は保留かな。プログラムによれば歌詞にもこだわっていたようですが、残念ながらそんな繊細に味わうような音響や歌唱ではなかったですし…でも、今後ますます活躍していってほしいなと思います。かいちゃん同様、才能と才覚とスキルとやる気があれば、OGのみんながみんな東宝や帝劇のミュージカル女優として成功するわけでなし、はたまた単なる謎のインスタグラマーになってしまうんでない道が何かもっとあるはずなんだと思うので、開拓していっていただきたいですし何より元気で幸せでいてほしい、そしてエンタメ業界にいてくださるというのならお客として投資も応援もしたいと思うのでした。
作品自体は、まあハコにふさわしいと言いますか、ザッツ・2.5次元の香りがしましたよね…バンドのメンバーは『ハイキュー!!』など2.5次元ミュージカル経験者のようで、他の出演者も声優、歌手といったキャリアの方々でしたし。座組がBSとキングレコードと明治座というのがなかなか新鮮だったかと思いますが、これで興行的にも成功するなら今後もこういう形は広がっていき定着していくのでしょうか。でも良きことですね。
個人的には、連続殺人事件をエンタメにするならその時点でリアリティは放棄するしかないので、クライマックスに犯人の動機を巡る泣かせ芝居を持ってくるのはつらいだろうとは指摘したいです。そういう世界観、価値観の物語じゃないはずじゃん、と感動したり共感して泣くというより単にシラけちゃうと思うんですよね…もっと全体にポップに作るしかなかったはずだと思うのです。
その上でバンドメンバーにはもうちょっと個性が欲しかったですし、その他のキャラクターたちにももう少しドラマを与えて、全部で2時間になるようにしてもよかったんじゃないのかなーと思います。今、容疑者候補として目くらましのためだけにいるような感じでもったいないし、バンドのメンバーもちょっと芝居のしようがないように見えました。2.5次元ミュージカルなら原作準拠のキャラクターにどれだけ見えるか、なりきれるかだけ工夫すればいいんでしょうが、今回は彼らにあてて書かれたオリジナルのキャラクターなので、もう少し、たとえば優等生のリーダータイプとか喧嘩っ早くて情熱的なタイプとかナイーブで神経質な芸術家タイプ…とか脚本が書き込んであげればやりやすかったろうし、彼らもそういう演技がしやすかったんじゃないのかなあ。そういうのがないままに、中途半端にアイドルめいた若手俳優に中途半端にアイドルグループの役をやらせるのは、彼らのファンだけが観るならいいかもしれないでしょうけれど普通の舞台ってそうじゃないから、つらいでしょ? みんな長身でスタイル良くてそれぞれイケメンで(私は男性に関してはまったく面食いでないので、キャラが弱いため上手く識別できませんでしたが…)、これから舞台俳優としてなんとでも花開いていけそうに見えただけに、そのあたりは残念でした。
そしてこのお話の中で最もファンタジーなのは、性別年齢不詳の探偵、というつっこみどころしかない設定の主人公なわけですが、かいちゃんはそれをちゃんと的確な演技でやって見せていたんだと思うんですよね。ミステリアスでひょうひょうとしていてどこか浮き世離れしたキャラクターをちゃんと造形しているのです。そこに彼女の男役芸が必要だったのだ、と言ってもいい。なのに作品自体の芝居が残念ながら全体に雑な作りのために、もしかして観る人によってはこのクールでスカした(褒めてます)演技がただの棒に見えるんだろうか、と一周回ってそこまで私は勝手に心配しながら観劇することになってしまいました…うーむ、もったいないし難しいものだなあ…
でも、おもしろいことをやろうとしているし、小劇場チックな演出や笑いもよかったし映像の使い方も客席の使い方もよかったし、バンドのライブのアンコールとしてのフィナーレ、というアイディアも素敵でした。楽しかったです。そして何よりかいちゃんが素敵でした。
宝塚歌劇の舞台メイクでないお化粧の、けれど素化粧ともまた違うお化粧で、男装で、舞台の上で役を演じて生きているタカラジェンヌOG男役を見ることはそうそうないので、そういう意味でも新鮮でしたし(昔々、退団後のヤンさんのハムレットとか観たかな…あとターコさんとかも…)、でも活躍の仕方としてアリだろうしなかったなら広げていけばいいことで、別にまだ男役をやっちゃって…みたいには思わなかったなあ。それはでも、女優さん相手にラブを演じていたわけではなかったからかもしれません。私はかいちゃんのお芝居が好きだったから、女優として女性キャラクターを演じるかいちゃんも今後観てみたいものですが、ファンの想いはまた違うのかもしれないし、何より本人が望むことを上手くお仕事にしていければそれでいいんだと思うので、何かを強要する気はさらさらありません。がんばっていっていただきたいです。
そしてたそのますますのご活躍にも期待しています。cakesの連載の文才は素晴らしいし、エッセイストなんかもできるのかもしれません。でも脚本家、演出家として舞台のお仕事を続けていってくれるんだったら嬉しいなー。それもまたOGの地平を広げることですよね。がんばってください!
…ところでバンド名は「~comes」ではないのだろうか…
あとネタバレですがマネージャーが共犯者だったなら彼女が探偵に依頼したというのはおかしいのでは…