駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『凱旋門/Gato Bonito!!』

2018年08月22日 | 観劇記/タイトルか行
 宝塚大劇場、2018年6月26日13時、18時(新公)。
 東京宝塚劇場、8月16日18時半、21日18時半。

 1938年、第二次大戦前夜の暗黒に覆われたヨーロッパ。戦火を逃れた者や各国からの亡命者たちず、わずかに火を残すパリの街に集まり始めていた。ナチスの強制収容所の拷問から逃れ、ドイツから亡命してきた外科医ラヴィック(轟悠)もそのひとりである。彼は今、亡命者たちの唯一の救いの場所である「オテル・アンテルナショナール」に身を置き、モグリの医者として生きていた。ある雨の夜更け、ラヴィックはセーヌ川に架かるアルマ橋の上で今にも身を投げそうなジョアン・マヅー(真彩希帆)と出会う。彼女はイタリアからパリに来たが、滞在先のホテルで連れの男に死なれ、錯乱していた…
 脚本/柴田侑宏、演出・振付/謝珠栄、作曲・編曲/寺田瀧雄、吉田優子、玉麻尚一。エリッヒ・マリア・レマルクの小説を原作にしたミュージカルで、2000年雪組初演。

 原作小説は未読、初演も未見。以前スカステで映像を見た気もするものの、なんかしょっぱい話だったような…?というイメージしか沸かない程度の記憶でした。当時からイシちゃんがそんなに得意ではなかったのだと思われます。
 主演として本公演に特出するのはもうどうなんだ、という引っかかりもありましたしね。『ドクトル・ジバゴ』は下級生メインだからまだよかったけれど『長崎しぐれ坂』とか…しかも私には声が、特に歌がつらく感じられ、クオリティとして引っかかったんですよね。芝居が渋くていいのはわかるんだけど、いかにも苦しそうに発声されると百年の恋も冷めます。また、トップコンビが恋愛を演じる、というのが私にとって宝塚歌劇のほとんど大命題なので、それを壊されるのも正直言って嫌でした。これがラストらしいからさ、なんてまことしやかにささやかれたりもしましたが、その後続報はありませんよね…でも、たとえばではボリスを演じていたらどうなんだ、とか、ありますよね。そういう専科の在り方ならあると思いますしね。それかもう理事に徹するか…組子には勉強になるのかもしれないけれど、やはりもっとファンの在り方を考えてほしいなあ、とは思ってしまいます。
 という感じで、ややブーブー目線でノー知識で出かけたので、初見はけっこう混乱しました。まずもってラヴィックがスカした男に思えて全然好感が持てなかったし、有名な「いのち」がストーリーが全然始まっていないように思えるけっこう前半に歌われるのに唖然とし、そんなふうに歌い上げられてもまだ誰の気持ちにも寄り添えてないのに感動なんかできないよ、無理…となってしまいまして。シュナイダー(奏乃はると)のくだりも、当初私は、ラヴィックは彼への復讐をずっと胸に秘めていて、それでジョアンに対しても深く関わるのをやめようとしていたの?でもなら最初からそうちゃんと説明しておいてよ…とか思ってしまったのでしたが、おちついて観ると偶然再会して初めて、自分の中に復讐を考えるような憎悪やこだわりがあったことに気づく…みたいな流れだったんですね? でもじゃあ最初からジョアンに対して一歩引いているのは何故なんだ、やっぱりよくわからん男だぜ…とますます混乱したりもしました。
 ラヴィックは世が世なら外科部長、とか言われているのでまあまあ壮年の男なんでしょうし、だから女優の卵とかいう小娘ひとり偶然助けたからってそうそう簡単にはなびかないよ、ってことなのかもしれませんが、それじゃ物語にならないわけでさ。あっさり恋に落ちるか、そうでないなら逡巡の説明をきちんとしてほしかったです。
 だいもんボリスがちゃんとラヴィックの友人に見えたのはさすがでしたし、悪い女だとかメンヘラだとか言われがちなジョアンですが私はきぃちゃんはすごく上手く演じていた気がしました。てか別にフツーの女ってだけじゃない? ジョアンって。性悪でもなんでもないと思うけど…
 咲ちゃんアンリ(彩風咲奈)も甘さとエキセントリックさが覗く役作りでよかったです。でも総じて、群像劇だから仕方ないんでしょうが、スター組子の面々がすべて役不足に見えて残念でしたね。博多座とかの、半分のメンバーで上演する別箱公演くらいが似合いの演目なのではないでしょうか…しょっぱいけどシックでストイックな舞台で、嫌いではないのですがね…
 なので新公は楽しく観ました。あがちんのラヴィックが、若いけど若すぎない感じで、だからジョアンの世話を焼ききれないでちょっと距離を置こうとしてしまうのがわかるな、と思えたのが大きかったです。そして潤花ちゃんのジョアンもとてもよかった。どうしても賢さがにじみ出てしまうきぃちゃんジョアンより、より体当たり感とか刹那的なワイルドさ、乱暴さ、それゆえの剥き出しの魅力みたいなものを感じました。眞ノ宮くんの優男っぷりもよかったし、かりあんのメガネはマジでヤバかったし、あみちゃんハイメが本当にリリカルでアイドルで、そして野々花ひまりちゃんのケートが超絶よかったのが印象的でした。あゆみちゃんの本役さんは自分の病気を知っているのかな、と思わせたところはよかったけれど、社交界の花感とかラヴィックとのワケあり感は圧倒的に新公の方がよかったと思いました。
 さすがのくーみん演出で、ラストにセリを使って印象を変えてきたのもお見事でした。
 新公を踏まえてさらに本公演をおちついて観ると、イシちゃんがちゃんと若作りして歳のわりには稚気のある普通の男をしっかり演じているのがわかりましたし、だからこれはヒーローとヒロインのスカッとした恋物語なんかではなくわりと普通の男と女のわりと通俗的なメロドラマで、その背景に戦争直前のパリというものがあるからせつなくしょっぱくなっているけれど意外と本質はそこにはないのかもしれないな…と思うようになり、そのメロドラマ感を楽しめるようになりました。
 でもだからこそ、そういう普通の、決して高潔すぎない、むしろ情けないところも多々あるラヴィックというキャラクターを演じる主演だいもん、というものを観たかったかな…とも思ったのでした。うーむむむ。

 ショー・パッショナブルは作・演出/藤井大介。
 暑苦しくて濃くて激しくてピカピカでギラギラで観ているだけで消耗する、いいダイスケショーでしたね! 楽しかった!!
 私は犬派なので猫縛りについてはそこまでハマりませんでしたが、とにかく生徒の起用が上手いと思いました。路線スターだけでなく歌手やダンサーをきちんと使って、多くの生徒にちょいちょい出番を与え、娘役ちゃんもいろんな拾い方でいろんなグループを作ってバンバン場面に出し、さらに全員に銀橋を渡らせる快挙。近年屈指の中詰めだったのではないでしょうか。
 まず白猫ちゃん6人のセレクトがヤバい。咲ちゃんがオケピから出てきて男役がずらり銀橋に並ぶとかヤバい。だいもんときぃちゃんががっつりコンビなのも嬉しい。
 ひらめのピンクの猫が可愛くてたまらん。上級生娘役たちを薙ぎ倒していくだいもんがたまらん。カリとすわっちが歌うとか素晴らしすぎる。がっつりタンゴの振り付けも素晴らしい。
 ヒョウ柄あーさにまとわりつくヒョウ柄娘役たちのセクシーさがたまらん、ひらめやみちるのお尻ガン見でしたよ。からの銀橋パレードたまらん、そこに混ざっている女装の男役たちもたまらん。背中が開いてるお衣装にショートヘアというかほぼ男装のままの髪型での女装、というのも新鮮で、汗をかいている背中がやらしくてたまらん。でもちゃんとトップコンビがカップルになって丁々発止の「コパカバーナ」たまらん。
 からのあすが歌手でまなはるひーこ、カリあゆみのダンスで一場面作るなんてすごすぎる。そしてちょっといいとこだけ歌ってあとは揺れてるだけでも許されるようなトップスターがガンガン働かされて客席登場のアドリブ祭り、楽しすぎる。ダイスケショーあるあるのなんか土着的な総踊りに神が降りてきちゃうのも、刺し殺し合ったあとの復活みたいなヘンなドラマがなくてよかった。そしてりさみちるを連れてひとこが銀橋を渡り、咲ちゃんが歌ってだいもんが娘役たちをまたまた薙ぎ倒し、男役たちがざかざか大階段を降りてきて踊り、そのまま熱いデュエットダンスに突入するのもいい。視線ガンガン絡めて息ぴったり合わせて超爽快! そしてやっとパレード、というおなかいっぱい大満足の豪華さでした。
 ショーの代表作、まして黒塗りショーを持つことはトップスターの勲章かと思います。だいもん、よかったね! 次が一本立てだけに、ここはがっつり楽しんでおきたいよな、でも目が足りなくて困っちゃうよなという心が忙しいショーでした。楽しかったです。好き!!!



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