駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『レインマン』

2018年07月31日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 新国立劇場、2018年7月26日18時半。

 初演の感想はこちら、再演の感想はこちら
 チャーリーを演じていた椎名桔平が今度はレイモンドを演じる…という企画はとてもおもしろいなと思って、けっこうがんばってチケットを取って行ったのですが…べ、別の舞台だったんですね。三度目だしいいだろうとプログラムを買わなかったので、途中まで気づきませんでした。今回は脚本/ダン・ゴードン、上演台本・演出/松井周。全2幕。チャーリーは藤原竜也、スーザンは安蘭けい、マーストン医師は横田栄司、ブルーナー医師は渡辺哲。
 というわけで、悪くはなかったんだろうとは思いますが、私は前作の方が圧倒的に好きでした。映画をもう細かく覚えていないので、オチがどうだったのかとか記憶がないんですが…別に兄弟が別れて終わっても全然いいと思うんだけれど、でもたとえばスーザンに対してなんのフォローもないし、急にチャーリーたちが施設に呼び戻された経緯もよくわかりませんでしたし、正直この時点でチャーリーのレイモンドへの気持ちがちゃんと変わっているのか、どう変わっているのかつかみきれないままに最終場になってしまったように私には感じられて、なんか泣いたり虚しいと感じたり悲しく思ったり…といった反応ができなかったのでした。
 舞台転換がとてもお洒落で、でもこんなだった記憶はなかったし、やけどのことはおかしいと思ったので、「もしや違う演出の違う作品…」と途中からは思って観ていたのですが、ラストは、違うにしても「え、ここで終わり!?」と思ってしまって…
 うーん、残念でした。役者さんはみんな芸達者で台詞もクリアで、良かったと思ったんですけれどね。うーん、うーん…


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宙梅芸『WSS』初日雑感

2018年07月26日 | 観劇記/タイトルあ行
 宝塚歌劇宙組『WEST SIDE STORY』梅田芸術劇場公演、初日から三回連続観劇して帰京しました。
 国際フォーラム公演の感想はこちら
 このときすごく感動して、かついろいろ考えさせられたこともあって、初日終演後は、国際フォーラム版の方が出来がよかったのではないか…?と思ってしまいもしたのですが、三回観たら、もちろん慣れもあるのか、どちらもいいな、もっと良くなりそうだな!と素直に思えるようになりました。
 まあ席の問題もあるのかな…二階前列上手、二階前列下手と来て一階後方ほぼどセンター、の順で観たので、やはりセンターっていいな観やすいな、全体が観られるっていいな、としみじみ思ったのです。この作品ってやっぱり海外ミュージカルで、ある程度スターだけ追っていけばいいようなところのある宝塚歌劇ナイズされていないというか、アンサンブルのフォーメーション含め全部にきちんと意味がある構成になっていると思うのです。でも遠かったり贔屓がいたりするとついオペラで観ちゃうので、狭い視界からでは得られないものが多いというか…贔屓が出演するとなるといろいろな意味で目は曇るのは、でもまあ、仕方がないことでしょうかね。良きにつけ悪しきにつけ公正、公平な判断はできなくなるものなのかもしれません。私だけだったらすみませんが(^^;)。
 あと初日は音響というかチューニングがあまり良くありませんでしたよね? 音量のバランスとかも…このあたりも三回目にはぐっと修正してきて聴きやすく、歌詞も台詞も流れなくなってクリアになっていたと思いました。
 リフは、観たいと思っていたしできると思っていました。意外にファン歴がきちんとあるこの人にとって、これが再演されてほしい作品のひとつだったことを知っていましたし、だから出演もさせてあげたかったし、国際フォーラム版では逆チームだったけれど梅芸版には振り分けられて、でもチノとかじゃなくてリフがいいの!って思っていたら早くに「主な配役」として発表されて、本当に嬉しかったのです。
 役を引きずらないタイプなのでお稽古待ちなんかでも特に変化はなかろうとは思ってはいましたが、金髪にしてパーマかけて不良めいていく姿にはときめいていました。
 そして公演の幕開きがまた、リフからなんですよねー。いやぁこれにはもうもうときめきまくりでした!
 ただ、そこへひとりでふらっと現れる感じのベルナルドが、キキちゃんのときはそれはもうものすごいオーラと存在感を感じたんですよ。でも今回は、私が愛ちゃんベルナルドに対するあっきーリフの反応を見るのに集中しすぎていた、というのももちろんありますが、そこまで圧倒されるものを感じなかったんですよ。で、まずここであれ?となりました。そしてベルナルドって実はソロの歌も大きなダンスナンバーも全然ない、その中で存在感を出すのが本当に難しい役だと思うのですが、当時のキキちゃんには確実に物珍しさがあったし、あと台詞の声がやはり格段にいいんですよね。愛ちゃんのこもった声は『不滅の棘』のときにかなり改善されたと感じたのだけれど、やはり今回は損に出ていた気がしてしまったのでした。
 そして前回、ずんちゃんリフの「Jet Song」の歌の上手さに「わあぁミュージカルが始まった!」って高揚感が高まった記憶があるのですが、あっきーリフの歌には残念ながらそこまでのパンチや破壊力がなかったように感じてしまい、今度はここであれれ?となってしまいました…てかこの歌、難しいよね(><)。でも「Cool」はすごくよかったです。ニンに合っていた気がしました。 
 続いて現れるずんちゃんアニータが、私にはまたずいぶんとおばちゃんに見えたのにも驚きました。大評判だったそらアニータは本当に素晴らしかったし、トランジスタ・グラマーっぷりも歌も芝居もダンスもそれはそれは絶品でしたし、キキナルドともまどかにゃんマリアともバランスがとてもよかったのです。でもずんちゃんは、宙男としては小柄ですが、娘役をやるにはもう学年が進みすぎているのではあるまいか…まどか相手でも愛ちゃん相手でも意外にデカいし(膝から下が驚異的に長くて美しい脛の持ち主で、なのに低いヒールでせっかくの美脚をもったいない!と残念でした)、今さら愛ちゃんにデレられないだろう、とか感じちゃったんですよね。
 なのでさらに歌がうまくなったまどかマリアのバルコニー・シーンの歌が始まるまで、私は今回は「ミュージカル来たコレ!」感を感じられませんでした。あ、でも、第1場のダンスは全体に重心が下がってかつリズミカルに、ダンサブルに、そしていい意味で土臭いというかネイティブ感が出てきているように見えて、おおぉ進化してる!と奮えたんだけれどなあ…
 アクションももえこの方がよかった。あのもえこが! このテの役を! という新鮮さもあったし、かつ大健闘していたと思ったのです。あーちゃんだと、ちょっとあたりまえすぎる。あとかけるディーゼルとキャラというか見た目が被る。
 そしてエイラブはりりこのベスト・アクト、代表作だったのではと私は思っているので、まりなにはそこまでの強い印象はなかったかな…とか、ちいちゃいエビちゃんヴェルマと対でいつもいる大柄なゆいちゃんグラツィエーラのすらりとしたスタイルと美しいダンスが大好きだったんだけれど、シャークスの女から替わったまりーあだと都会的な空気が足りない…とか、どうしても比べてしまうんですよね。
 モンチからりおくんに替わったビッグディールがさすが洗練されてシャープで素敵だったのは、好印象だったかな。あと声が本当に良くて、ちょっとまゆたんに似て聞こえたときもありました。ラスト、彼だけがトニーの葬列に加わらなかったのは、彼には思うところがあったのでしょうかね…でも彼がいたからエビちゃんヴェルマがすがりつけたんですよね…泣けました。
 あきもベイビージョンとか夢白ちゃんのエニボディーズとかの続投組がちゃんと上手くなっているのには感心しました。きゃのんロザリアの安定感とかもね。
 あ、さよちゃんコンスエーロはとてもよかった! せとぅーもイメージよりは下級生だと頭ではわかっていても、やはりもっと下級生にやらせたい役だったかもと思っていたのでちょうどよかったし、最近本当に上手くはっちゃけるようになってきていますよね。そしてサムウェアのカゲソロは今回も絶品でした!
 サムウェアのスケルツォのメンバーは続投でしたが、サムウェアの男女は変わって、ゆいちぃの代わりにナベさん、ゆいちゃんのところにまりーあが入ってまりーあのところにさらちゃん。さらちゃんは「アメリカ」のダンスもとてもよかったし、ここでもとても柔らかで素敵でした。
 シャークスのメンバーはジェッツに比べるとちょっと割を食っているところがあるかなと思います。でもりくもさおも変わらずちゃんとしていましたね。てかラストは本当にりくチノの表情の変化に泣かされますよね…
 あ、クラプキ巡査はやはりまっぷーにちょうどよくて、りんきらにはやはりちょっと役不足で残念だったかなー。グラッドハンドは朝比奈くんになっていました。
 主役のふたりは、本公演を挟んでよりブラッシュアップされていたと思いました。ゆりかちゃんトニーはヘンな若作り感がなくなって若者っぷりが板に付いてきたと思いましたし、まどかにゃんマリアはいっとき真っ黒すぎたお化粧が本当に綺麗になっていました。歌も本当に上手くて、頼れます。ふたりのラブラブ度が増した方が物語の悲劇度も上がるので、この点もよかったですね。
 あとよかったのは、まかあきのバディ感かなあ。一期違いなだけなのにこれまで役でもプライベートでもあまり絡みのネタがなくてずっと残念に思っていたのですが、今回はとてもよかった! ずんちゃんリフだとやはりどうしてもトニーの弟分、後輩に見えたし、あえてそう作っていた部分もあるかと思うんですけれど、あっきーリフは普通にトニーとタメに見えました。ああ、このふたりがジェッツを立ち上げたんだなって容易に想像できました。対等な親友、兄弟同然の関係、血のつながった家族より濃い関係、に見えました。だからこそリフは、トニーが離れていっちゃうように感じられることにとまどい、いらつき、怯えていたんだろうなと感じました。このあたりの関係性もおもしろく見えました。
 トニーはジェッツのみんなより少しだけ先に大人になっていて、社会に出て働き始めたし、少年ギャングの路地の縄張り争いみたいなことからは抜けていました。でも恋に恋する少年みたいな、甘い、幼いところがあった。
 一方でリフはちゃんとヴェルマという恋人を持っていて、これがまたあきエビの身長差も萌えたしガンガン踊り合うときの息の合い方にも震えたしエビちゃんのイカした強さにも本当にシビれたんですけれど、私にとって実は何が最高に良かったかって、ふたりがやることやってるカップルにちゃんと見えたってことだったんですよね。
 いや、別に性体験があるから大人だ、なんとことは言いませんよ? でも他人とそこまで真剣に向き合うことで大人にならざるをえない部分って絶対にあるじゃないですか。彼らはそれなりに長い時間を共にしてきた恋人同士に見えましたもん、パッとやってダメだったら別れる、みたいな軽いカップルではなかったもん。だからその点ではリフはトニーより大人なんですよ。リフにはトニーよりそういう、進んでいる部分もちゃんとあって、でもトニーの方が大人な確かに部分もあって、そういう意味でふたりは本当に対等な親友で、単なる先輩後輩みたいなものではなかった…ということが表せていたのが本当によかったと思いましたし、作品としても効いていると思って感動したのでした。ドラッグストアの看板前、脚立の場面のやりとりとか、本当に本当によかった!
 そういう意味では、新しいリフ像が観られて嬉しかったし、それをやってのけて見せたのが贔屓だったってのも嬉しかったし、それはたまたま主役のトップスターの生徒と学年が近かったから、とかいうことだけではなくてちゃんと役を構築し演技をしてのことだと思っているので、私は誇らしくてたまらなかったのでした。だってふたりとも本当はこんな人間じゃない、ってことは1ファンにすぎませんが知ってますもん。その上でゆりかちゃんもあっきーもちゃんと役を作り役として生きていたんだもん。それが舞台に出ていたもん、それが素晴らしいんだもん。
 そんなリフが刺されたとき、初日に私の近くの席から「ああっ」っていう小さな声が漏れたんです。ああ筋を知らない人がいるんだな、真剣に観ていて新鮮に驚いて、そして思わず声が出ちゃったんだなと思うと、感動しました。そして我がことのように誇らしかったです。

 フィナーレの振付がバージョンアップされていたというか、拍手や手拍子が入れやすくなっていたのは素敵な宝塚ナイズだと思いました。センターで踊るリフのなんとまあ楽しそうなことよ! 観ていてニマニマしちゃいました。
 人の心を大きく動かす力を持った、骨太の、不朽の、偉大な作品です。新メンバーでさらに進化していってくれることでしょう。楽しみすぎます、見守り続けます!!


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『Big Bird Summer Festival』

2018年07月22日 | 観劇記/タイトルた行
 恵比寿天窓,switch、2018年7月19日19時。

 元花組トップ娘役・大鳥れいの25周年ライブ。ゲストは同期の越乃リュウ。

 退団後の舞台などにほとんど行っていないので意外に思われそうですが、現役時代はわりと好きな娘役さんでした。なのでいそいそと出かけてきました。
 特に歌の人という印象はありませんでしたが、当人は歌が一番好きなんだそうですね。確かに格段に上手くなっていましたし、情感もあって楽しかったです。「タカラジェンヌに栄光あれ」から始まってシャンソンも歌謡曲も、味もパンチもあってよかったです。1幕のお衣装や気取らなさすぎる大阪弁トークの進行は娘役力が生かされていないなという印象でしたが(^^;)、2幕になって髪を結い赤と黒のドレスになってハバネラで椅子とダンスする…に至ってそうよコレよコレ!とたぎりました。
 そしてゲストは同期、初舞台は『グランドホテル』、出番ナシ、でも全部できそうなくらい聴いていて覚えてしまった…というところからの、越リュウのオットー、ミドリのフラムシェン、越リュウ男爵とミドリグルーシンスカヤのデュエット…に、泣きました。ふたりとも絶対に現役時代より上手くなっているし、でも退団した今だからこそより大切に歌っているのがわかる、渾身の愛のかけっぷりだったと思います。堪能しました!
 アンコールは「私だけに」でしたが、ラス前の「ジュピター」が圧巻で、なのにラストの選曲はタモの持ち歌でしたよ。そんなミドリがやっぱり好きです。よっつしか違わないとは驚きましたが同世代だとは思っていて、でも変わらぬ美女っぷりにアテられました。お見送りまでありました、ありがたや。
 今後のますますのご活躍もお祈りしたいです。




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椿組『天守物語 夜叉ケ池編』

2018年07月22日 | 観劇記/タイトルた行
 花園神社境内特設ステージ、2018年7月18日19時。

 椿組恒例の夏祭り、33年目。初演は22年前。原作/泉鏡花、脚本高取英、構成・演出/加納幸和、美術/加藤ちか。全一幕。

 大空さんで観た『天守物語』しか知らず、原作は未読のまま、『夜叉ケ池』も知らないままで、それでも花園神社のテント芝居なるものを観てみたい、という一心で出かけました。暑さ対策をものすごくしていったのですが、意外にもそこまで暑くなくて快適で、ストレスなく観ました。
 天守夫人・富姫(松本起保)がさすが「高麗屋!」と大向こうから声がかかる素晴らしい女立ち役っぷり(表現として合っているのか知りません、すみません)で、その妹の亀姫(田渕正博)は女形で可愛らしくておもしろくて、侍女も女童も美人揃いで楽しくて、図書之助(一色洋平)はさすがザッツ二枚目ヒーローで、鏡太郎(外波山流太)の浮き世離れした少年っぷりが恐ろしくてその母親・鈴(水野あや)の美しさが恐ろしくて…殺陣というかチャンバラがカッコ良くて、ユーモラスなアドリブも楽しくて、圧倒されている間にラストまで運ばれました。
 それまで、意外に快適に観ていただけに、これのどこにテント上演の意味が…?とか思っていましたが、ありましたね最後に意味が! 舞台の奥の壁を開けて搬出の駐車場とかその先の住宅街を見せちゃうのはシアターコクーンがよくやる手ですが、これもおもしろかったです。
 綺麗に絡み合い綺麗にオチているとは思いましたが、個人的にはこの母と息子の永遠の恋、みたいなモチーフに基本的に興味がないので、そこまで感動はしませんでした。というかこのネタって男性作家の特権だと思いますね。男性最後にして最強のドリーム、と言ってもいいかと思いますが。だってこれを出されちゃうと私は母でも息子でもないので「はー、そうですか…」としか言えなくなっちゃうんですよねえ…これは共感できないものをつまらないと切り捨てることとは違う、と個人的には思っているのですが。
 『天守物語』自体は改めて好きだなまた観たいなと思いましたし(秋の花組芝居に行けそうになくて残念…)、テント公演もまた来てみたいと思いました。



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『STEPS ON BROADWAY 2nd season』

2018年07月16日 | 観劇記/タイトルさ行
 浅草ロック座、2018年7月15日17時。

 ※今回、18禁というか、ややアレかもしれない話題を含みます。…まあ、でも、いつもか。あと、毎度のことですが前置きが長いです。

 確か二年ほど前に、誰だったかお友達から、
「ストリップって行ったことあります?」
 と聞かれて、それがまた「行ったことくらいありますよね?」みたいなニュアンスで、でも行ったことはなくて、申し訳ない不甲斐ない…みたいに感じた記憶が、あります。パリのムーランルージュとかは25年くらい前に旅行したときにさも観光客として観に行ったかと思いますが、あまり覚えていませんでしたし、このときの話題はあくまで日本の、いわゆるロック座とかの(思えばこの名称程度の知識は当時もあったのだな…)ストリップのことだと思えたので、すみません観劇経験ございません、となったのでした。女性客も多くて綺麗でおもしろいですよ、みたいなことも言われたかと思うのですが、そのときは食指が動きませんでした。
 私は子供の頃、商店街にある店舗の二階に間借りして住んでいて、両親は店員として働いていて、普段遊ぶ友達はみんな「お店屋さんの子」、という「町っ子」でした。メインの通りから一本奥に入ると飲み屋街もあって、「♪ロンドンロンドン、愉快なロンドン」とかの呼び込み音楽が流れているような、古いグランド・キャバレーのノリがまだ残るようなタイプのキャバレーとか(入ったことがないのであくまでイメージですが)、カラオケの歌声が漏れ流れるスナックなんかもけっこうありました。うちの父親は会社でのつきあいとかでの外飲みを嫌うタイプの人間だったので、こうしたお店にはあまり縁がなかったようで、子供心にそれらは「どこかよその大人の男性、おっさんの領域のもの」というイメージを持っていたかと思います。
 その町にはストリップ劇場みたいなものはありませんでした。だから私の浅薄なイメージは、昔のドラマとか映画とかでちらりと出てくるような場末のもので、劇場は薄暗くて汚くて臭くて、隅に泥酔して寝込んでいるおじさんがいたりそのまま寝小便しちゃってたり、踊り子さんがまだ踊っているのに早く脱げとヤジを飛ばしたりなんならその場でマスかいてたりする…みたいなものでした。映画館で隣に座ってきた男性に脚をなでられる、程度の痴漢には遭ったことがありましたし、子供ながらに暗いところは性的で危ない、怖いというイメージはどうしてもあったかと思います。
 社会人になってから、歌舞伎町のキャバクラから銀座のクラブまで会社の先輩にくっついて仕事で行くこともありましたが、自分は女性でありそうしたお店の、というかそこで働く女性たちの本来のお客ではない気がする、というある種の引け目を感じて、全然楽しくありませんでした。私はバレエとかフィギュアスケートを観るのが好きで、それは舞台の演目を楽しんだりスポーツ競技としてのプログラムを楽しんだりする一方で、鍛錬された肢体を見て堪能するという要素が確実にあるな、という自覚はあったのですが、それはやはり舞踊演劇とかスポーツのジャンルの中でのことで、かつお衣装が付いていてのことですし、身体そのもの、つまり裸体が提供されるとなると、どうしても最終的には目的が性的なものになるように感じられて、でも私はそれこそバレエでもフィギュアスケートでも男性舞踊手や男性選手より女性舞踊手・女性選手を見るのが好きなんですけれど、それは私が好きな男以外の男はだいたい嫌いというタイプの女であって、あくまでシスジェンダー・ヘテロセクシャルの女性なので、言い方が良くないかもしれませんがこういう、女が売って男が買う場において女の客としてどう存在していればいいのかわからなくてとまどう、という気持ちがずっとあったのでした。売春ではない、んだけれど、でも広い意味では、売り物にしているのは色、ですよね?という…
 そういう混乱というかとまどいがずっとあって、なかなか動けないでいたのでした。

 そのうち、この数か月ほどのことかと思うのですが、浅草ロック座の演目がブロードウェイ・ミュージカル縛りになっていておもしろいんだよ、というツイートを見たり、女性が初めてストリップ観劇に行ったときのブログ記事へのリンクツイートなんかが流れてきたりで、今度は「へえ、行ってみようかな」と思えたのでした。歳をとって厚顔になってきましたし、変な度胸が出てきたというか、旅の恥はかき捨てみたいなこともできるようになってきたので、たとえおじさま方からジロジロ見られたりしても無視できるだろうし、絡まれたら言い返すとか触られたら席を立つとか暴れるとか通報するとか、対処もできるだろう、いっちょ覗いてくるか、と思ったのです。そうしたら、「以前一度見たこととがあって、おもしろかったですよ。ご一緒しましょう」と声をかけてくれるお友達がいたので、出かけてきたのでした。
 現地で待ち合わせしたのですが、前の回を見終えた観客が出てくるところにちょうど居合わせ、お若いお嬢さんふたり組みたいなのを3組くらい見かけ、お友達を待っている間にも2組ほどがチケットを買いに階段を上がっていって、本当に女性客が意外にいるんだな、と感じました。
 階段を上がったらチケット売り場、すぐモギリ、狭いロビーがあって小さな映画館みたいな感じ。こういうものはなんとなくガラガラでさびれたもの…という思い込みがありましたが、休日だったからか客席はすでに六割ほどの入りでけっこう席が埋まっており、最後列どセンターという演出家席かい、みたいなところに陣取ってみました。
 舞台は本舞台と、真ん中にランウェイのように花道が突き出ていて、その先に直径1.5メートルほどの盆があって、そこでの踊りは「ベッドショー」と呼ばれているようなので、そこをベッドと呼ぶということなのでしょうか。女性も多いしカップルもいるし若い男性も多く、飲んだくれてくたびれた臭いおじさん、みたいな人はまったくいませんでした。ジロジロ見られたり絡まれたりすることもなく、そのうちほぼほぼ満席になって、開演しました。

 …感動しました! てかめっちゃ楽しかった! また行きたい! すぐ行きたい! リピートしたい! 宝塚歌劇同様お約束拍手の位置があってそれはすぐ学習できましたが、楽曲ごとの手拍子を覚えて参加したい盛り上げたい! だってバラパラ(古い)みたいな振りを一緒にやってる常連さんっぽい人いたもん! アレやりたい! まざりたい!
 ブロードウェイ・ミュージカルの曲を使ってそのイメージで踊る部分もありますが、全然違う曲が続くこともあるし、なのでこれは物語を見るミュージカルではなくてあくまでダンスと身体を見るショー、レビューなのです。ならただ席におとなしく座っているだけじゃなくて、拍手で感動を伝えたいし手拍子で盛り上げたい、という性が発動してしまったのでした。というか本当にフツーにおもしろかった! ダメな表現だけど!!

 演目は1景(という言い方をするんだそうな)が『Kinky Boots』、大見はるか。2景は『CATS』、みおり舞。3景は『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』、中条彩乃、4景が『CABARET』、赤西涼。10分の休憩を挟んで(演目解説のナレーションが替わりたいくらいたどたどしくて漢字も読めてなかったんですけれど、おそらくあれが味なんですよね…?)、5景『コーラスライン』真白希実、6景『シスターアクト』ゆきな、7景『エビータ』夏木りりか、8景『CHICAGO』真白希実。そしてフィナーレ付きの100分でした。豪華!
 なんせ知っている曲ばっかりだし、イメージどおりのお衣装を着てくれるし、キャッツなんて本当にバレエとして美しかったし、バックダンサーも素敵だし、目が足りない!
 てかオペラ持ってくればよかった!と思いました(笑)。これはご贔屓ができた方が楽しいだろう、とすぐ思ってしまったんですよね。で、好みのスタイルの持ち主、とか好みのダンスをする人、というのはすぐわかるし識別できるようになるんだけれど、顔がもっと見たかったんです。でもわりと薄化粧で、識別がしづらく感じたのでした。というかなんでも宝塚歌劇と比較して考えてすみませんが、お衣装とか踊る世界観は完全にミュージカルの非日常ファンタジーなので、お化粧ももっと宝塚ばりに濃くして浮き世離れして見えた方がいいし、もっと美人にしちゃってもいいのに、と思ったのです。でも男性はナチュラルメイクが好き、というアレなのか!?とも思いましたが…わりとファニーフェイスに見える方が多かったので、余計にそこはとまどいました。美人慣れしていてすみません。しかしそれからすると宣材写真は修正しすぎだろう…(笑)
 あと、意外にみんな笑顔が硬い。必要以上にエロティックで扇情的な表情を作るとかはしていなくて、上品な笑顔で、それはAVみたいでなくて本当によかったのですが、宝塚の笑顔度って逆に特殊なんだなと思いました。でもどんなに下級生でももういつでもものっすごい笑顔を作れるように訓練されているじゃないですかタカラジェンヌって。あの笑顔はすごい、あれだけ笑いかけられて初めてこっちもテレずに微笑み返せるんだな、と思いました。私は本当に感心したし感動したので終始笑顔だったと思うのですが、踊り子さんの笑顔が硬いとなんかこっちだけがヘラヘラしていて失礼に当たるような気がして、ちょっと居心地悪く感じてしまったのでした。踊り子さんは女性客の反応なんか気にしちゃいないよ、ということならそれまでなのですが…これは特に最初の場面でセンターだった方が序盤ほとんど笑わなかったので、それはもしかしたらローラのキャラとしてそうだったのかもしれませんが、私はなんか激しく「踊るの、嫌なの? それともやっぱり私たちみたいな女の客に見られるのは嫌なの?」と動揺してしまったんですよね…その後はそうでもなかったので安心したのですが。
 しかしみなさん身体が本当に綺麗でツルペカで、あれはドーランとかを全身に塗っているのでしょうか。それとも照明の技なのかなあ…
 また、ダンサーとかアスリートってどうしても筋肉質でスレンダーで、だから私の好みからすると胸も小さすぎるのですが、だからこそ露出されてもヘンに色っぽくなりすぎず、清潔で健康な感じがするのもおもしろかったです。男性もモデル体型よりぽっちゃりくらいが好き、とかよく聞きますし、要するにルノワールの絵くらい肉感的な方が本当はセクシーなのかもしれませんが、そういう方向では作っていない、ということですよね。
 どの場面も基本的な構成は同じで、そういう様式美があるのも私としては好みでした。まず本舞台で踊って、花道に出てきて、本舞台は幕が閉まって中で装置が入れ替えられたりいろいろしていて、その間に踊り子さんは脱いでいって、盆が回ってどこからでも見えるようになって、そこでいわゆるご開帳ポーズを次々取って、ポーズが決まるたびに拍手、というのがお約束。で、脱いだお衣装を優雅に拾って幕の向こうに去って行く…
 このご開帳ポーズが、まあ要するに開脚して局部を見せるためにするのですが、まず身体能力的にすごいわけですよ! 人間、そんなふうに脚上がるんだ!?とかそんなふうに脚開くんだ!?とかそんなふうにのけぞれるんだ!?みたいなのの連続で、柔軟性と筋力、体幹の素晴らしさに感動しちゃいました。だから自然と拍手しちゃうわけです。そういう意味では立派に見世物なのかもしれないし、それってある種の差別的な視線があるんじゃないのかなと頭の隅で困惑しなくもないんだけれど、お客が見ないと見せる人の商売は成立しないわけだし、だったら目を逸らすことなくきちんと見て真摯に向かい合わなければならない、とも思うし、冷やかしの拍手ではなく心からの感動の拍手を送りたい、とかまたついつい理屈っぽく考えながら拍手していました。
 あと、本当に神々しいし、なんかすごくありがたい。局部を見せてくれることがありがたい、ってなんなんだ、とか思うし、また実際には本当にブツはあんまり見えなくて、うまくというかなんというか、ヘアで隠されているんですけれどね。私は恥ずかしながらいい歳して自分のものを鏡で見たこともないようなへっぽこなので、がっつり見せつけられたら気持ち悪かったりしてショックかも、みたいなことも心配していたんですけれど、そんなこともまったくなかったのでした。逆についつい目でデッサンする癖で、脚の付け根ってああなっているのかとかお尻から前ってあんなふうになっているのかとか、身体の構造の観察とかをしちゃうくらいでしたよ。それくらい、なんというかドライで清潔なんです。エッチで湿っていて隠微で猥雑、という感じはない。それがこういうものとして正しいのかどうかは正直わからないのですが。でも本来性愛はごくプライベートなものでだからこそほの暗く湿っているものなのでしょうが、エンタメとしてやる以上こう振り切るしかないものなのかな、とまたまた小難しく考えたり。
 そしてアマノウズメとかもこうして裸で踊ったりなんたりしたとかしないとかの神話があったはずですが、踊りって本当に神聖だなあ神事だなあ神に奉納するものだなあ、とか思う一方で、でも旦那に水揚げされる売春みたいなものに通じるものでもあるんだよなあ不思議だよなあ芸事ってホントなんなんだろうなあ、とかもぐるぐる考えちゃったのでした。

 オードリーの赤いロングヘア・ウィッグが素敵だったことや、キャバレーから何故か『グレイテスト・ショーマン』の「This is me」になって踊る赤と黒のリゾートドレスみたいなお衣装とその扱いが絶品だったこと、シスアクのガーリーな白のドレスの絶妙さ、エビータのドラマチックさ、シカゴのヴェルマとロキシーらしき絡み、ベテランダンサーの色気と気迫と全員登場のフィナーレでその踊り子さんがひとり飾りが多いトップスター様だったこと…本当にツボでした。
 あと、前作から追加されたという『コーラスライン』の場面は、ものすごく挑戦的だったのではないでしょうか。私は休憩に続くインターミッションみたいなものかとばかり思っていました。だって脱がないんですよ言い方アレですが! オーディションの準備をしているらしきダンサーが鏡の前でひたすら自主レッスンしている様子を、顔にはライトを当てずほぼシルエットしか見えないような形で、ただひたすら見せ続ける一場面なんです。「ONE」が流れるわけでもないんですよ。すごい! 前衛的だしとてもアーティスティックだなとシビれました。

 せっかく覚えたこのお姉さんたちをまた観に行きたいけれど、次の演目はミュージカル縛りではないしキャストも全然違うようです。しばらくツイッターで演目チェックしちゃおうかな、平日夜はまた空気が違うかもしれないけれど今度はひとりでふらりと行っちゃおうかな、とか考えています。楽しい経験でした!




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