駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

澄輝日記6.2~宙全ツ『バレンシアイズ』@横浜

2016年11月27日 | 澄輝日記
 私は神奈川県出身なので、横浜の神奈川県民ホールには気安いイメージがあります。ただし今は東京都民なので、特に来易くはありません。やはり松戸より遠かった…古くて馬鹿でかくて音響が悪いホールですよね。三階席観劇だったのでかなり遠くて残念でしたが、舞台の奥行きがかなりあるので、一階前方席からでもけっこう遠く感じる舞台かもしれませんね。かなこレアンドロにたしなめられたロドリーゴが下手階段に移動するとき、かなり長く走っていましたよ…
 でも三階ロビーからの銀杏越しの港の眺めは素敵でした。中華街目撃情報もあったし、組子も横浜をゆっくり楽しめたんだったらよかったな。おいしいものがたくさんあるので、いっぱい食べて行ってくれたらいいな。そしてここからは首都圏を離れて本当に旅興行、地方公演という感じになりますよね。リピーターもたくさんついていくとはなかなかいかない土地で、アウェイ感もあるでしょうが、心を強くしてがんばってきていただきたいです。
 神奈川県出身者はりりこ、カテコでまぁ様に紹介されていました。よけてあげるあっきーの姿が可愛らしかったよ…
 横浜初回のお芝居のプロローグ、一度上手袖に引っ込むところであっきーが入る袖を間違えかけていたのが激カワでした。ショーのプロローグではきゃのんにはスポットライトが当たっているのにすっしぃさんにしばらく当たらなくてヒヤヒヤしたり、全ツあるあるも変わらず続いています。
 日曜は収録だったようですが、はりきったまぁ様が歌でケロッたりしていたのもご愛嬌。雰囲気は変わらずいいままで、順調に公演を続けている印象です。マルガリータのスイカズラのソロのあとにも拍手が入るようになって、嬉しいです。(※追記あり)

 さすがにいろいろ慣れてきて、それでもやっぱりまだまだいろいろ発見があったり、深読みし始めたりと、あいかわらず萌え活動が忙しいです。
 配役発表以前には、例えばイサベラがまどかになるならゆうりちゃんのシルヴィアか?とか思ったり、ゆうりイサベラが発表されてからもシルヴィアはしーちゃんあたりかな?とか思っていたものでしたが、今となってはららたんでよかった!としか思えませんね。どちらでももちろん観てみたかったけれど、あたりまえですがこのシルヴィアにはならなかった。そうしたらあっきーロドリーゴもきっと何かしら変わっていたろうと思うのです。
 ゆうりちゃんやしーちゃんだともう少しおちついたシルヴィアになって、あきらめかけた哀しさみたいなものももっと漂ったのかもしれません。それに対してあっきーはどう出ていただろうかな…ロドリーゴの方がかなり子供っぽく見えるような役作りもあったかもしれませんね。
 でも、今のものが、やはりいい。仮定で比べても仕方ないんだけれど(^^;)。本当に相手役さんがいるって素晴らしい、がっつり組んだお芝居を見せてくれるって楽しい。そしてあっきーとららたんの映りの良さ、相性、お互いがお互いをより素敵に見せている相乗効果に、本当に感動しかありません。
 ロドリーゴというキャラクターは、まあこの三人の中ではクールな二枚目のアオレンジャーであればいいのだと思うので(ちなみにフェルナンドがザッツ主人公のアカレンジャー、ラモンがカレー好きの好漢・キレンジャーです。だからプロローグのスパニッシュのキーカラーは、今はまぁ様が赤、ゆりかがオレンジ、あっきーが緑だけれど、この三色にすればよかったのにと思っている私なのでした)、その枠さえ守っていれば役者によってどんなふうにでも色づけさせられる役なのだと思うのだけれど、今回のあきリーゴは本当に絵に描いたようなロドリーゴっぷり(ヘンな日本語ですみません)と言っていいのではないかしらん。柴田先生にも満足していただけたのならよかったなあ。
 なんか、中の人は、本当ににゆるくて可愛くていい子なフツーの人なんですよ。ちなみに脱線しますが、なのでポスターカレンダーはあんな画一的な決め顔じゃなくて、ほわわんとした笑顔の方がよかったんじゃないかと思うんだよなあ。本人は男役としてカッコ良く見られたいから決めたがる、それはわかるんだけど、それはみんなもすることだからさ。素のあの笑顔のやわらかさは、ガードやギャラリーに来る人、お茶会に参加する人くらいまでしか知られていないワケで(最近はスカステの露出も増えたかな…革の番組、ゆるくて可愛かったよねえ…)、もっとどんどんアピールして表に出して売っていった方がいい面なのではないかと思うのですよ。
 で、まあそれはともかく、そんなワケで中の人はそんななのですが、どうしてひとたび舞台に立つと生まれながらのお貴族さま、上品で高貴でロイヤルでノーブルな空気が生まれちゃうんでしょうかねえ? そりゃ美貌ってのもあるんだけど、本当に不思議。
 で、そんな持ち味の人に今まで貴族っぽい役が来なかったっていうんだから、そりゃ今までなかなかブレイクしないはずだよね、としかもう言いようがありませんよね。一昨年の全ツ『ベルばら』のジェローデルくらい?ってことですもんね。演目の巡り合わせとかもあるから仕方ないんだけれど、そりゃ劇団、損失だったよ…そして今、やっと、取り返すかのように、水を得た魚のように、当たり役を得て輝いているワケですよこの人は!
 何不自由なく育ったお坊ちゃんで、聡明で、優秀で、挫折を知らず、だからちょっと高慢で頑固で、生真面目で神経質なところもあって、でも愛する者に対してはちゃんと優しいし情にも篤い。自分の非はちゃんと認める潔さもあるし、広い度量もある。
 けれど、叔父(伯父かな?)に言われるがままに恋人をおいて首都遊学なんかに出て、その間に恋人を奪われ、でも何もできないし叔父に文句も言えない自分を責め、悔やみ、恋人にも当たり、あきらめようとしても思いきれず、拗ねている。
 友達に安酒場に呼び出されて出向くものの、こんな下町に来ることそのものが不本意だし、不潔そうで嫌だし、つきまとう女たちはわずらわしいし、絡んでくる男は小うるさいし…ともう不機嫌全開でプンスカしているロドリーゴが愛しくて仕方ありません。これがチャーミングに見えるんだからたいしたものですよね。え、欲目かな?
 ロドリーゴとシルヴィアの出会いとは、どんなものだったのでしょうね? あるいはフェルナンドとイサベラの出会いは? どんなふうに恋に落ちたのでしょうね?
 ラモンとイサベラはロマのコミュニティの中で一緒に生まれ育った幼馴染かな?とかイメージできるのですが…描かれていない部分も想像させる柴田ロマンの深さがたまりません。
 で、ロドリーゴとシルヴィアに関しては、当人同士は結婚を前提としていて、つまり清いおつきあいだったに決まっているじゃないですか。貴族の子女同士のことでもありますし(シルヴィアの生家の爵位は出てきませんが、貴族でなければルカノールがわざわざ後妻に据えないとも思うので)。なのに、奪われてしまった、人のものになっていた、純潔を汚されていた。それが、悔しい、という男の小ささすら見えるようなのが、またたまらなくいいんですよ。でも「♪奪われて知ったこの恋しさに…」と歌うロドリーゴは本当に甘くせつなく悲しげで、愛しいですけどね! 「苛む」って歌詞がまたたまりませんよね!!
 シルヴィアは、何を求めているということはないんですよね。「そんな目で見ないで」とか言うんだけど、以前のようなおつきあいはできないんだし、といって愛人になりましょうってことでもないんだし、混乱してただ嘆いている。でもすべてロドリーゴ恋しさゆえに言っていることで、自己正当化しているとか自己憐憫に浸っている女、というふうになっていないところがいい。「どこか遠いところへ一緒に逃げて」ってのもものすごく非現実的なことを言っているわけで、でもそれにある意味で応えてしまうのが愚かな男というもので。で、ロドリーゴはフェルナンドたちとの計画をシルヴィアに打ち明け、待っていてくれと告げ、抱き寄せ、誓いの口づけを交わし、一夜を過ごす…(と私は勝手に思っている)
 そしてこれが結果的にはシルヴィアを追い込むのでした。結局彼らがしようとしていることは殺人なわけです、犯罪なのです。スペインの独立のためにフランスの傀儡を倒すとかなんとかいろいろ大義名分も被せているし、貴族同士の正当な決闘の面もあるかもしれないけれど、つまるところは女仇討ちであり個人的な意趣返しであり単なる復讐なわけです。法律的にセーフかもしれないし民意もあるかもしれない、けれど神は許さない。シルヴィアもまた、愛する男の手を汚させてしまう自分を許せなかったのでしょう。
 それにこの時代、男は二度も三度も結婚しても、女には二夫にまみえずみたいな理想を推しつけて寡婦として残りの一生を送らせる圧力があったようです。シルヴィアがロドリーゴと再婚するなんてことはおそらくほとんど不可能だったのでしょう。強行しても外聞が悪く、社交界からつまはじきにされ、ロドリーゴの将来を奪うことになる。ロドリーゴは誰かもっと別の、清らかなお嬢さんを妻に迎える必要があるのです。それには自分が障害になる、そこまでシルヴィアは考えたに違いないのです。
 ところで結局のところ彼女はどんなふうに命を絶ったのかしら、そしてそれをどんな状況でロドリーゴは見つけたのかしら…考えるだけで泣けます。でもそれをフェルナンドに訴えちゃうところが可愛いんだけどね! イヤまあそれは物語の都合でもありますが、ロドリーゴのフェルナンド好きっぷりにはニヤニヤしちゃうのでした。フェルナンド、ロドリーゴの面倒を見てあげてね…(ToT)(なんか違う話になりそうだ)

 しかしあっきーの高笑いが聞けるのなんて今回だけかもしれませんよ? 貴重だわあ…
 あ、会場先行で舞台写真(の一部、と信じたい)が発売されていましたが、ロドリーゴの単独ショットは柱プレイのところでしたよさすがわかってる! でもららたんとのツーショが欲しいよお…!!
 夜会でのダンスといいキスシーンといい、どんどん深まってきていて繊細さを増していて、一瞬も見逃せません。キスがむやみと長い回も…あったよ…? ららたん死んじゃうから加減してあげてねあきちゃん…イヤやっぱいーや心のままにやるがいいさ!

 会総見もノリノリで、ショーの「キッスは目にして」のてっぺん指差しウィンクをちゃんと三階席てっぺんの会席に飛ばしてくれたり、ラヴィングアイズの光の男なんか見上げる振りが多いものだから心おきなく会席見上げてくれていて、嬉しくて微笑ましくて笑っちゃいました。
 三組デュエダンも本当に楽しそうですよねえ。最初に下手の脇階段にちょっと降りて、まいあを迎え入れるところ、まいあがすっごい嬉しそうに笑うので、きっとあっきーがいい笑顔で迎えているんだろうなあと思うとキュンキュンします。あっきー自身は後ろ向きなんだけれど。
 ラスト近くに縦一列に並ぶときにもまぁ様とアイコンタクトしているのが、あっきーは後ろ姿でもまぁ様がニコッとしているので窺えます。嬉しい。その前の男役群舞が大好きだったのでそこにいないのは寂しいけれど、ここを例えば二組のデュエダンに変更するとかではなくて、三組のままで、あきまいあを入れたくれたことが本当にありがたいし嬉しいです。
 でもつい、かけるとかまりなとか、エビちゃんとかゆいちゃんを探してしまうのです…バウ公演はKAATで観ます、こちらも楽しみです!

 今夜はみんな横浜泊まりかな、お茶会や親睦会があった生徒さんもいたそうですね。働くなあ、お疲れさまです。
 一週間がんばって働いたら、次は福岡です。私は月全ツ以来の会場かな? 博多は街ごと大好きなので、楽しんできたいと思います!




※追記

 ところで私の周りでもそろそろ、前回宙組版『バレンシア』を映像でも見ていずノー予習で今回の公演を観てラストに「ええええっ!?」となる、という人は現れているし、その気持ちもわからなくはないのですが、そのまま感想のたいていが「結局はマルガリータみたいな女が勝つんですねえ…」みたいなことになるのがどうにも私は解せません。
 まあ恋愛というか結婚というかを勝ち負けで語るのはどうなんだ、ということもあるけれど、それより何より、それじゃフェルナンドとマルガリータは結婚すべきではないってこと?マルガリータがフラれて不幸になればいいって思ってるってこと?って、不思議なんです。だってマルガリータって別に何も悪いことしていないじゃないですか、だからこういう人がきちんと報われる世の中であるべきなんじゃないの? 現実はそんな世の中じゃないから、なおさらお話の中でくらいそう決着すべきなんじゃないの?
 だいたいさ、これは私が独身女であることのひがみから言っていると思っていただいてかまわないんですけれど、宝塚歌劇の観客の大半は女性で、その大半は主婦で、そのほとんど半分くらいは、夫の浮気に耐えながらも目をつぶって平穏な家庭生活を営む努力をしているんじゃないの? それって要するにマルガリータの生き方ってことじゃないの? だからマルガリータに共感し同情し彼女を擁護し「そうよフェルナンド、ちゃんと責任取ってよね!」って言う側に回る方が自然なんじゃないの?
 そりゃ物語の主人公とヒロインはフェルナンドとイサベラだから、ふたりに結ばれてもらいたい、ハッピーエンドのお話がいい、という願望はわかります。マルガリータは考えようによっては、親の決めた結婚に安穏と乗っかってあぐらをかいているだけで、なんの努力もしていない小賢しいお嬢ちゃんで、でも「待ってる」とか言っちゃって重くてウザい女だぜ!って見方もあるでしょう。でも、世のメジャーはここにあるんじゃないの? 私は残念ながら女子らしい女子の生き方ができなくてこんなになっちゃってますけど、もっと生きるのが上手い女子はみんなちゃっかりこうじゃないの? それともみんな自分をイサベラやシルヴィアのようだと思っているの?
 まあ自分がどのキャラクターのタイプかと考えることと、キャラクターに共感するとか感情移入するとかとは違うことだとはわかっていはいるつもりなのですが。とにかく、マルガリータが嫌われることに納得いかないし、近親憎悪なのかな?とすら思うのです。私は何度も書いていますが『コルドバ』のアンフェリータとか『琥珀』のフランソワーズとかの、「主人公の正当な妻・婚約者・許嫁」ってキャラクターが大好きなんですね。それが尊重されるべきだと考えているし、なのにスムーズにそうならないところがドラマチックなのだとも思っているし、だけど単なる嫌な女とかヒロインの恋敵にしてしまうのではない作家の姿勢が好きだし、私が今のところなれていない立場なだけに憧れるというのもあるのです。ここを否定して自分の首を絞めたくないんですよね。
 現実には、フェルナンドみたいな男がマルガリータみたいな女と結婚しながらイサベラみたいな女と愛人関係を続ける、ということが多いのではないでしょうか。そして誰も幸せにならなかったりする。けれど柴田ロマンはそれを選択しない。イサベラから、女から別れを切り出させ、残された男が泣いて終わる。宝塚歌劇だから、お話だから。どんなにつらくても、それが理想的で、美しいから。この先、また違った、幸せな未来がそれぞれのキャラクターにありえるのかもしれないという希望を残せるから。
 そしてここで話を切り上げる。イサベラがラモンと本当に幸せになってしまったら、フェルナンドがイサベラを忘れてマルガリータと幸せになってしまったら、それはあまりに現実的で、「お話」にはならないから。実際にそうした選択をした人間はその後、絶対にそういう別の形の幸せを手に入れて生きていくと思います。失恋を抱えて生き続けるには、人生はつらすぎるから。
 …というのが私の人生観であり物語観であり、だから柴田ロマンが好きなんだけれど、もちろんだから嫌、そこが嫌という人もいるだろうことはわかるのですがしかし、どうもそういう人と話をしていて納得できたことがないというか、論理的にほほうと思える説明にあったことがない…まあ私がそこからの話を避けちゃってるところはあるかな?
 今回に関して言えば私にはまどかが好演していると思えるだけに(映像でしか見ていませんが和音美桜ちゃんもとてもよかったと思う)、なんかすごくモヤモヤするのでした。マルガリータの生き方も楽ではないと思うし、でも生まれ落ちる場所をもし選べるなら三人の中ならここじゃない?とかも私は思うし、なので私はそういう感覚に素直でいたいんだよなあ…
 全然違う理由でこのお話やこのキャラクターに違和感を感じている、という方がいましたら、すみません。すごく一面的な、個人的な見方しかできていない自覚はあるのです。でも自分をスッキリさせるために、ちょっと書いてみました。




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澄輝日記6.1~宙全ツ『バレンシアイズ』@松戸

2016年11月25日 | 澄輝日記
 初めて行ったホールでしたが、近くて驚きでした。うちからなら横浜や相模大野より行きやすいんだ!と発見しました。駅からは歩きましたが、カッカしていたのでこれまた全然大丈夫でした。
 そしてとても音響のいいホールで、綺麗で快適でした。全ツあるあるでスポットライトの精度が甘かったのはおもしろくなっちゃってましたけどね。ダークアイズで下手から現れているゆりかになかなかライトが当たらず、歌が始まっちゃうよ拍手入れられないよとハラハラしたり、すみっコ5でもあっきー始めライトが当たるのがみんなツーテンポくらい遅く、私は何しろ真ん中しか見ていなかったので気づきませんでしたがかなこが真っ暗な中歌声だけ響かせたり、もんちにピンクのライトが当たっちゃったりしていたとか。
 ま、そういうのも楽しいものです。中詰めのまぁ様の「松戸のみなさん、こんにちはー!」に「こんにちはー!!」と返すコール&レスポンス、とかね(夜は「こんばんはー!」でした(笑))。松戸観光大使のみっちゃんからピーナッツサブレの差し入れがあったこと、大休憩にはみんなでペロリといただいちゃったらしいことの紹介がカテコであったりもしました。食いしん坊な宙組子、愛しい…!
 昼の回はともちんがご観劇でした。前ルカノール様にあっきーロドリーゴを観ていただけたなんて、震えましたね…! 私はルカノールはりんきらで観たかった派ですが、時空を越えてともちんルカノールとあっきーロドリーゴだったら…なんと想像するだけであわあわします。てかともちんの色気がすごすぎて別のドラマが展開しそうですけどね!? 甥ごと欲しくてまずはその恋人を奪ったんですよね!?みたいな…ともあき、恐ろしい! ま、前回のあきちゃんは「バレンシアの海も時化続きだ!」が初台詞の兵隊さんだったワケですけれどね(^^;)。
 さてさてしかし三日空いたからかまたまたお芝居で泣きました私…フェルナンドが古い恋の歌を歌う傍らでロドリーゴは、最初ちょっと意外そうに驚いて、あきれてみせて、そして顔を背け、やがて在りし日の甘い思い出の世界に浸っていって胸痛めているような顔を見せていたのですよ…! ルカノールに奪われることなど考えもしなかった、シルヴィアとの幼く甘く幸せな日々を、思い出していたに違いない表情…! それだけでもうウルウルしてしまいました。それはきみに焦がれ愛してしまったからだよ!!!
 前方席をいただけたときにがんばってノーオペラで観た幻想場面では、まぁゆうりの無重力リフトが本当に素晴らしくて、でもそこにそれまでついぞ見せなかった笑顔で入ってくるあきららが本当に甘やかで幸せそうに輝いていて、その完璧すぎる構図に改めて震撼しました。
 そこからの「瞳の中の宝石」がまた、一層まろやかな歌声になっていて、ホールの素晴らしい音響によく乗っていて響いて…またまた号泣でした。なんて優しく激しくららたんをかき抱くのでしょう罪輝さんてば!!!
 ラストも、花道がない舞台なので、イサベラが上手の壁にとりすがって泣いて、一度だけ振り返って、袖に走り去る…というのがもう本当にせつなくてせつなくて、フェルナンドもう一回抱き寄せに行こうよ!どこか遠くでふたりで生きていきなよ!!って叫びたいくらいでした。きっとロドリーゴがマルガリータのフォローをして新領主夫妻となってがんばるよ!みたいな。
 そこからのロドリーゴのオフ台詞もすごくせつなく響いたし、「私のイサベラも…死んだ…!」の台詞はどんどん説得力を増しているなあ、と思いました。
 私はこのお話を、二股男の話だとか自分勝手に暴れる男たちの話だとか捉えるのは、あまりに浅薄な気がします。結果的に、かもしれないけれど復讐は何も生まないこと、奪われたからといって奪い返しても何も戻らずまた何かを失うこと、とかもきちんと描かれているし、単なる勧善懲悪の話とかヒーローの冒険活劇ではないじゃないですか。登場人物たちはみんな血肉を持ってこの世界を生きていて、当時の身分社会や風習などから考えるとみんなが仕方のない選択をしていて、でも人生ってそういうものだし、それでも始まっちゃうのが恋ってものだし…と思うんですよね。だから演劇として古くさいとかとは別に、人間の真実が、感情のドラマが描かれていて、そこは古びていない、傑作だなと私は思うのでした。

 『ホッタイズ』プロローグのタンゴ、まどかちゃんと組んで一緒に前見ているうちはいいんだけど(ホールドが逆なのが気になるソシアルダンス・ビギナーですが)、向き合うと一瞬ぱっと笑って、また真顔になって踊るのホント罪深い…心臓止まる…
 通路席をいただいての客席下りは手拍子に一生懸命になってしまって、まぁ様とあっきー以外はすっしぃくらいにしか手が出せませんでした…まぁ様はペタッと手を合わせてくださいました、優しい! あきちゃんは会席がわらわら群がるのに爆笑してみんなの手に触れるのにタイヘン、って感じで走り去っていきましたが、帰ってくるときもニコニコで見つめてくれました。なので中詰めの「め組」の「♪スイートベイベ―」が「スミキベイベー」に空耳するくらいの会席薙ぎ倒し狙い撃ち指差しウィンクはホントひどかったよね…
 三組デュエダンは、どの相手役さんを迎えるときもニコッとするのが本当に優しげなんだけれど、相手はゆうりちゃんの笑顔が一番まろやかで可愛らしいよねえ。やはり娘役力に一日の長があると思うのです。まいあもまどかも本当にキュートだけどね。
 ここはまぁ様のお衣装が新調になったので、紫グラデの三組感が薄まったのは残念ですが、まあ番手の問題として仕方ないかな。藤色というよりはピンクっぽいお衣装になったあっきーですが、お似合いです!(今、「鬼愛」って変換されたPC怖い…)

 昨日のお誕生日はまさかの雪! 東京の11月の降雪は54年ぶりだったそうですよ、ミラクル…! 寒がりあっきーがホテルの部屋で布団から出ずブルブル震えてるのにりくが「あっきーさん、雪合戦しましょうよ!」とか窓全開にして騒いで隣室のりんきらにうるさいと叱られそれをゆりかに爆笑され、なのにりりこが「やる!」って寝癖のまま乱入してきて今度はすっしぃに叱られる、その間まぁ様は暖炉の前で娘役全員侍らせてくつろいでる…まで勝手に受信しました(笑)。みんなにお祝いしていただけたのかしら、さっつんはメールしてくれたようですね。ありがたや。
 去年も一昨年も公演中で、入り出ガードでお祝いできました。三年前は確か『風共』のお茶会がお誕生日前日だったんじゃないかな? 私はそこで初参加して、翌日のお誕生日当日も「可愛かったなー…」とかうっとり反芻して近所のちょっといいケーキ屋さんでケーキ買ってきてひとりでお祝いしながら食べてそれをつぶやいたら、「そんなに好きだったの!?」ってフォロワーさんたちに総ツッコミされたのも今ではいい思い出です(笑)。うん、当時はまだ無自覚だったんだろうけれど、それでも相当好きだったんだろうね…
 そこからもいろいろあったけれど、今は本当に楽しいし幸せです。

 今日は府中公演ですね。松戸も首都圏の人間には行きやすく、他組ファンのお友達ともたくさん会えて褒めていただいて嬉しかったけれど、今日もたくさんの方が観に行っているのかな? 私は平日だし動けません…レポを待つ!
 なので次は横浜です、会総見だし楽しみです-!!!


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澄輝日記6~宙全ツ『バレンシアイズ』初日雑感

2016年11月22日 | 澄輝日記
 そろそろカテゴリーを新設せねば…と思っていますが未だ手を束ねています、すみません。が、病はいよいよ膏肓に入っております。
 その1はこちら、その2はこちら、その3はこちら、その4はこちら、その5はこちら。観劇感想の合間にもこちらこちらなどプチ日記が紛れていることも多いので、検索していただけるといいかもしれません。お手数おかけいたしましてすみませんです…

 さて、ルドルフで泣かなかった私が、『バレンシアの熱い花』第10場で号泣していました宙組全国ツアー公演梅田初日。人生、何が起こるかわからないものです。
 オペラグラスの目に当たるゴムの輪っかが涙で濡れて、冷たい冷たい。視界はブレて観づらいし、それでも泣きやめなかったし、なんなら嗚咽が漏れそうでした。
 私はどうして毎公演、贔屓の力量を下に見てむやみやたらと心配しては嬉しい裏切りに仰天し感動する、ということを繰り返すのでしょう。そろそろ信じてあげようよ自分、その方が楽だよ? でもこれも性格なんですよね…それにわずか一年前の同じく全ツ梅田初日『メラジゴ』のベルチェでは、できてなさ加減とニンじゃなさ加減が本当にショックで密かに落ち込んだりしたこともあったのですよ。それがまさかまさか、いつの間にかこんな立派な、素晴らしい、文句のない、素敵な輝く姿を見せてくれるなんて…号泣。
 私はキャラクターとしてそもそもロドリーゴが大好きなのですが、理想的な、本当にロドリーゴらしいロドリーゴがそこにいましたし、本当に本当に見たかった、理想的な二枚目の、水も滴る美青年貴族役のあっきーがそこにいました。甘い歌声を響かせて、相手役を優しく見つめ、冷たい眼差しを敵に飛ばし、熱く激しい芝居を見せていました。こういう贔屓の姿が見たかったのだ、ということに自分でもやっと気づいて、それに驚いて泣いていたようなものでした。本当におバカですみません。いつもスカしたことばかり言っていますが、実は私はけっこう自分で自分のことがよくわかっていないのでした。
 今回のあっきーロドリーゴは物語の中でも押しも押されぬ立派な三番手キャラクターであり、出番や台詞が前回公演より減らされたりすることもなく、相手役とふたりだけで一場面を任されたりきちんとしたソロがあったりで(しかも主題歌!)、もうこの人がこんな大きなお役を演じることは今後ないのではないかとまで思ってしまい、そういう意味でも泣けました。でもそれでも悔いはないと思えたくらい、素晴らしい好演でした。だから私は本当に泣けて泣けて、仕方がなかったのでした。
 今日はその話をします。

 プロローグ、板付きなんて聞いてない!と叫びそうでしたよね。
 幕が開いて装置を見て、ああなんかちょっと最近『激情』でも見たようなセットっぽいなあ、でもまあ同じスペインものだしなあ、とか思い、センターに板付くまぁ様の超絶シルエットを惚れ惚れ見つめ、お人形みたいだけれど本人なんだよねうん知ってる、歌い出したりライト当たったりしたら拍手かしら、その次のフレーズに入るくらいにおそらく下手から登場かしらね…とか思っていたら、下手に!すでに!いる!
 階段の影から頭しか出ていなくても、シルエットだけでもすぐわかり、心臓が脈打ちましたよ。なんならまぁ様への拍手に出遅れたくらいですよすみません。てか『アーサー王』同様に拍手が入れづらい演出でしたよね、中村A先生ちょっと考えて? 土曜昼の回からは拍手は「フッ」の掛け声のあとに入れることにしたようですね、ファンの対応力たるやすごいものです(その後の組総見に参加していなくて拍手表を確認していないので、違っていたらすみません)。
 それはともかく、そんなワケでここはロドリーゴではなく「バレンシアの男S」であり帽子の影で顔もほとんど見えないのですが、それでも口の端片方上げてときどきニヤリとするのやめていただいていいですか罪輝さん死人が出ますよ!?(嘘ですもっとやってください)
 まぁ様が赤でゆりかちゃんがオレンジ、かな? 対してあっきーは緑で、あまり似合うイメージがない色なんだけどまあそれはいいです。主役を囲んで綺麗に三人組として扱ってもらっていて嬉しいし、三人とも背が高くて脚が長くてダンスが端正で見惚れます。
 途中アダージョとして入るまぁゆうりの美しい映え方も素晴らしい!
 複雑なことを歌っているわけでは全然ない、けれど単純で豊かで美しい歌詞の主題歌がまた素晴らしい。見事なプロローグだと思います。

 続く出番は第5場、ルカノールの居城で催された夜会の場。
 ところでその前に「ロドリーゴが城に帰ってきているぞ」という台詞があるので、彼にとってもここが生家なのでしょうか。つまり元々はこのお城はロドリーゴの父親の城で、彼が亡くなった後、兄ないし弟のルカノールが城主として入り、かつ今はバレンシアの領主として君臨している…ということなのでしょうか。それとも前領主だったフェルナンドの父親の城で、領主が代々入るお城なのかなあ? でもラストでロドリーゴがラモンに「また城に遊びに来てくれ」と言っているし、ロドリーゴがルカノールの養子になったことでこの城も継いだことになっているのかしら…次の領主はロドリーゴかフェルナンドが務めることになりそうですが、ぶっちゃけロドリーゴはそれどころではないかもしれませんし、どうなるんでしょうね…? ラモン、遊びに行ってあげてね…(ToT)
 それはさておき、水色の燕尾にピンクのサッシュのあっきーロドリーゴの貴公子っぷりったらもうハンパないです! 美しい顔を苦悶にゆがめ、すがりつくシルヴィアを冷たくあしらいながらの登場、心臓止まりかけますね。自分の留守の間に人の妻となった彼女を責め、彼女をおいてのんきに遊学に出ていた自分のことも責める。彼らは友人仲間には知られた恋人同士だったようだけれど、正式な婚約をしないままに時をおいていたのは確かにまずかったかもしれませんね。そこをルカノールにつけ込まれた。今のバレンシアでは誰も彼に逆らえない…
 シルヴィアの弟マルコスや友人のレアンドロの取りなしにも耳を貸さず(『エリザ』エルマーに続きかなこにたしなめられている…!と腹筋が鍛えられましたよね)、しかしロドリーゴは具体的な善後策を考えられないままでいます。つまり彼はやっぱり貴族のぼんぼんでちょっと甘ちゃんなんだと思うの、フェルナンドが誘ってくれなかったら日々スネてグレてウジウジ悩んで後悔しているだけで日を送っていたと思うのですよ、ありがとうフェルナンド!(笑)
 夜会に現れたフェルナンドと行き合い、ルカノール公爵夫人となったシルヴィアを嫌みったらしく紹介し、フェルナンドにマドリードでの遊興を冷やかされて嫌そうな顔をするのがまたたまらん。ふたりは士官学校の同級生か何かなのでしょうかね? 貴族の子弟として親同士の行き来も幼い頃からあって知り合いだったのかもしれませんが、のちに「レオン将軍下の同門」みたいな話が出てきますもんね。国王の部下として軍務に付くことは貴族の義務で、でもホントはお飾りで役職だけもらっておけばいいようなところを、父を失ったフェルナンドだけがわざわざ離島の駐屯地まで仕官しに行っていたのでしょう。
 フェルナンドも本当は真面目なタイプの青年で、だからロドリーゴとも気が合って友達だったんだろうし、なのに数年ぶりに会ったら世慣れたと言うよりナンパになってて、ロドリーゴも友の変化にとまどったのかもしれません。彼はおそらく首都マドリードでもきちんと勉学に励み礼節をわきまえ質実剛健に暮らし、必要な社交はしても下町でハメをはずして飲み歩いたり馬鹿騒ぎするようなことはしなかったしできないタイプなのでしょう。ましてや女遊びなど。
 ルカノールは甥のロドリーゴとシルヴィアが恋人同士だったことは知っていたのでしょうか? 知っていて彼女を欲し、甥を遊学目的でよそに追い払い、彼女の父を陥れて、救う代わりに後妻になれと迫ったのでしょうか。でも彼女にも子供ができなくて、それでロドリーゴを養子にし跡継ぎとすることにしたのでしょうか。ルカノールはロドリーゴを目障りに思いつつも優秀であることを認めてはいて、今回の一件で完全に自分に屈服させ子飼いにできると判断したのかもしれませんね。でもロドリーゴはそんなことは受け入れられない、しかし夜会の席で嫌だと反抗することもできないし、フェルナンドが受けろと言うから不承不承に頭を下げる…このお育ちの良さとふがいなさの同居がまたたまらん!
 ダンスが始まるとルカノールに言う台詞は「美しい奥方を拝借しても?」だったかなと思っていましたが、「拝借します」でしたね。いいぞいいぞ! 踊っているうちに燃え上がるふたりの心、周りが見えなくなってふたりだけの世界になって…ららたんの胸に顔を埋めるあっきー、ららたんの手を取ってひざまずくあっきー、ららたんを抱きしめてすっしぃが去った方向を睨みつけるあっきー…た・ま・り・ま・せ・ん!!! 白目が効く中、暗転。

 第6場、下町の酒場「エル・パティオ」。ラモンとイサベラのショーの後、さも嫌そうに入店してくるのがたまりません。店員に赤い帽子を預け、マントを脱ぐと目にも鮮やかな赤い燕尾に白のパンツ。歓待する女主人にも最低限しか話をせず、ただ酒を飲む…みなさん指摘していますけど、ここの椅子の座り方がもう絶品オブ絶品ですよね!? 足首そこに置くんだ!?ってエラそうさ加減、慇懃無礼さ、たまりません! 安いプラスチック製の小道具のグラスが安い音しか立てられないのも気にならないくらいです!(なるけど!! バカラ持ってきてバカラ!!!)
 本来なら庶民の憩いの場にこんなにも不機嫌そうに入ってくる彼の方が完全に悪いし、いけ好かない客なんだけれど、女たちはいいカモかもしれないと思ってまとわりつく。でも相手にされない。で、歌姫(ですから! 大健闘していましたからゆうりちゃん!)イサベラの登場です。でもロドリーゴはその美貌に目をやりもしない、ただただ迷惑そうなの。女性の方から声をかけるなんてはしたない、という美意識の持ち主でもあるのでしょうね。てか今まで何度もこうしてかまわれては迷惑に感じてきたのかもしれません。ヤダ萌える!
 ところで脱線しますがゆうりちゃんイサベラはウメちゃんより断然美しくて断然いい子っぽいところがたまりませんでした。ラモン始めみんなが彼女を愛するのは、彼女の美貌ゆえではなく、こんなに美人なのにいい子、あるいはこんなに美人でかついい子、だからなのかなと思わせられました。下町育ちの下卑たところや薄汚れたところのない、明るくまっすぐで温かな人柄を思わせて、そらフェルナンドも惚れるよな、とごくごく自然に思いました。歌うまぁ様をうっとり見つめる様子が本当に愛らしいんだよねえ!
 そしてまたまぁ様も、真面目だけどチャラいチャラいけど真面目なニンがよくハマる、素晴らしい主人公像だったと思います。自分勝手な男に見えかねないところを、誠意や明るさ、温かさで支えていると思いました。あと真ん中力が本当に素晴らしくて、まぁあきゆりか(単に学年順と呼びやすさです、すみません)の映りの良さと三者三様っぷりも本当に素晴らしいと思いました。奇跡のような組み合わせで、まるで当て書きのようでした。だからこそその三人にそれぞれハマるゆうりちゃんが尊い…!
 さてしかしロドリーゴはそんなイサベラのことも振り払います、だからラモンがキレます。でもロドリーゴも全然動じない、意外に喧嘩慣れしているんです。「やってみろ」だってキャー!ですよ!! 平手打ちされても顔色ひとつ変えないクールさときたら! で、脱いだ手袋をゆっくり取り上げて、決闘の申し込みに叩きつけるのではなくその手をラモンの顔に張って、綺麗にお返しする。わあ憎々しい! 作法どおりの決闘を提案されて「貴族の旦那でしたかい」ってラモン、見たらわかるでしょどこからとう見ても立派なお貴族さま以外の何者でもないわよ!?!?
 あっきーはゆりかに比べたら線が細いんだけれど、そこもいかにも貴族のぼんぼんっぽくて素晴らしい。剣を構えて掲げる左手の長い指の美しいこと! 両者一歩も引かない立ち回りも美しい。フェルナンドがマントを投げて割って入る演出も素晴らしい絵面です!
 フェルナンドのフォローがあって、イサベラが友人のガールフレンドとわかればきちんと礼を尽くす、そんなところもロドリーゴっぽいです。明るく軽口を返すラモンもすっごいいいヤツ! ゆりかも本当にニンで素晴らしかったと思います。
 で、なのにフェルナンドがなかなか本題に入らず、ギターなんか手に取った日にはロドリーゴはあきれてそっぽを向きます。フェルナンドが甘く巧みに歌い出すのにちょっと意外そうな顔をして見せるのは、彼のこんな一面をロドリーゴは知らなかったということでしょうし、レオン将軍からバラードだのソネットだのを彼は教わらなかったということなのかもしれません。で、そのまま、聞くともなしに耳に入る歌詞に誘われるように、彼もまたありし日の恋人とのあれこれを思い出すような遠い目になる…絵になるなあ。
 一曲で一応切り上げるフェルナンドに対して、ロドリーゴが「詩人の先生」という冷やかし方をするのも素晴らしい。というかこういう台詞、柴田先生にしか書けないと本当に思います。
 続く場面でホルヘとミゲルが、ロドリーゴが剣の使い手であることをちょっと意外そうに語り合っているのがまたいいですよね。貴族のぼんぼんの嗜み、なんてレベル以上の腕であることが意外だったのでしょうし、驚異に感じたのでしょう。そうよ彼を見損なわないでちょうだい!と鼻高々になりますね(立ち位置不明)。

 第7場、密談。ここでもまたまたスカした座り方をしているので、あれは庶民たちへの威嚇ではなくロドリーゴの素なんだな、って思えるのがまたたまりませんよね。でもフェルナンドが真意を語り出すと驚いて組んだ足を下ろし、揃える。それがまた美しいのよ!
 そして立ち聞きするラモンの気配を察して「シッ」と指を立ててフェルナンドの話を制する。カ、カッコいい…(吐血)
 しかしこの三人ってなんでこんなベタベタくっついて腕組んで歌うんですかねホント意味不明ですよね可愛すぎますよね素晴らしすぎますよね? ここの舞台写真出さないとか絶対ないですよね歌劇団さま??

 第9場、辻斬りって表現がイカすし、あっきーがさおを斬りつけるってのもいいよネ!
 そして私の大好きな大好きな幻想場面へ…宝塚歌劇らしくて大好きなのです、廃れてほしくない。
 主人公とヒロインに対し、それぞれに想いを寄せる男女、という絶妙な構図に、さらに交錯するもう一組のカップルとしてロドリーゴとシルヴィアが加わります。メインキャラクター6人がハマる、絶妙オブ絶妙な構成だと思います。しかもここが幻想場面だから、ロドリーゴが今まで劇中でまったく見せなかった満面の笑みを浮かべて、ゆっくりゆっくりシルヴィアを迎えに行くんですよ、もうホント涙腺決壊しますよね心臓止まりますよね。
 フェルナンドたちの企みが成功すれば、このふたりは晴れて結ばれるのだろう、けれどフェルナンドとイサベラにはそんな未来はないのだ…ということが暗示される場面でもあります。素晴らしい。だからロドリーゴとシルヴィアがフェルナンドとイサベラの間に突っ切って入って、ふたりを分かつ形になる。素晴らしすぎます。前回公演ではロドリーゴたちに照明が当たったまま次の場面につながる感じだったと思いましたが、今回は一度サスだけになって場面を区切るのが素敵だなと思いました。で、再びライトが当たって現実の時空間に戻ると、ロドリーゴの眉間にもまた皺が戻っちゃうんだけど、ここからのららたんの嫋々たる嘆きの芝居が本当に素晴らしくて、かつ相手の男前度を格段に高めていて、彼女の娘役力に感服しました。本当にありがたいし至福です。そしてあっきーもちゃんとららたんを美しく見せられていると思いました。相乗効果でより美しい、とはカップルの正しいあり方ですよね。相手役がいる、ってなんて素晴らしいことなのでしょう!
 ららたんはこのキャラクターに似合いだろうと私は思っていましたが、本当にハマっていて素晴らしかったです。声がいいんだよね、アニメ声っぽくも大人っぽくしっとり聞かせることもできる声なの。そして本当に色っぽい、大人っぽい、せつない演技ができる娘役さんです。当時のこととて、シルヴィアの実年齢はロドリーゴよりだいぶ若いということもありえると思うのだけれど、ルカノールによって大人にさせられてしまった彼女はもはやロドリーゴより年嵩に見えるくらいな、臈長け大人びた風情を漂わせて美しくたたずむのでした。そんな、「見知らぬ女」になってしまった彼女に焦って、ロドリーゴは怒っている部分もあるのではないかしらん…ヤダ萌える!
 そしてあっきーのソロ。主題歌の前にオリジナルのフレーズがまずあって、それがもうせつなくて胸に迫って、そこからの主題歌の甘さときたら貴方…!(思わずセレスティーナ)ルドルフ効果だと思うのですが本当に歌がさらに達者になっていて、細やかでハートがこもっていて上手くて響いてシビれて、もうもうダダ泣きでした。柱の使い方がまたもう、ね…! 母親を求めてすがりついていただけのルドルフとは大違いでした。
 このメロウさ、ロマンチックさ、美男美女っぷり、甘く優しく愛し合っているのにすでにほのかに漂う悲劇の気配は、柴田ロマンにはなくてはならないものですよね。まぁ様もゆりかも、たとえばハリーのラブコメが洒脱に演じられたようにもっと演技の幅が広いタイプのスターさんなのでしようが、もしかしてあっきーの真骨頂はここにこそあったのか…!?と改めて考えさせられました。『エリザベート』のルドルフのときも、『うたかたの恋』のルドルフに通じるものがある、と言う人が多かったけれど、それってこういうことだったのかしら…? 実は私個人としてはそこまでぴんときていなかったので、本当に嬉しい発見でした。ちなみにあきららにゆひすみの空気を見る人も多かったようですが、それも私はよくわからなかったかな…? でも、嬉しいです。
 そしてそしてほぼ初であろうラブシーン、キスシーンも、ららたんが背中に回した手が雄弁で、もうもうたまらんかったとです! ごっつぁんです!!

 で、この場面でロドリーゴが身につけていた十字架を(ここの銀の燕尾も素晴らしい。見えすぎない、下品にならない絶妙な開襟具合も素晴らしい!)、第17場でシルヴィアが身につけていませんか? つまりここでふたりは初めて結ばれていて、そのあとロドリーゴが、いつかルカノールを倒し一緒になる日までこれを私と思って、とかなんとか言って渡したものなのでは?という妄想がはかどって仕方がないのですが??
 男役さんが相手役の娘役さんに小道具としての婚約指輪や結婚指輪を贈る、というベタなエピソードが私は大好きで、いつかあっきーにもやってもらいたいしその報告を聞きたいでもなんかあんまテレなくてつまんなさそう…まで受信できている私ですが、今回は公式な恋人や夫婦の設定ではないからそれがなく、残念に思っていました。でもこの十字架がそれにあたるものだったのでは!?!? キャー!!!

 第12場、ラモンが黒い天使に参加する前に、ロドリーゴがフェルナンドに「謝らなくちゃならないことがある」とシルヴィアに計画を打ち明けてしまったことを謝罪しますが、ここは、「謝らなくてはいけないことがある」でもいいかな?と思いました。あとはのちにルカノールと対決するときのフェルナンドの「剣を貸してあげろ」が、こうラモンに言うのではなく、「剣を貸して差し上げろ」とルカノールに向けて言う方が嫌みったらしくていいかなと思ったのと、「立ち会っていただこう」も決闘の立会人、傍観者となることを求めているみたいに聞こえかねないから何か言い換えられないかな?(「試合っていただこう」ってのも耳で聞くと意味が取りづらいだろうしなー、とか)という点だけが、今回日本語として引っかかりました。あとは本当にストレスがなく、敬語も正確で、むしろ美しく豊かで感じ入る台詞が多い芝居で、柴田先生の脚本力に改めて感服するしかありませんでした。
 そしてここで、妹をバルカに殺されたラモンが参加したいというのを、さっと握手の手を差し出して迎えるロドリーゴが本当に凛々しくて爽やかで、素敵です。

 第16場の出撃場面で(「静かに出発」って台詞がまたツボ)、城内でシルヴィアが手引きをする手はずの説明があったときに、ロドリーゴがちょっと誇らしげなのがまた可愛いですよね。
 あとはまあ、チャンバラが多少ダイナミックさに欠けるのと、「勝ったぞー!」ってなるのにももうちょっとカタルシスが欲しいところなんだけれど(かなこがおいしいところを持っていくのがまたかなこっぽくていいんだ!)まあ何せ古い芝居だし、映画みたいなスペクタクルは望めないので、仕方ない。
 第18場、マントと仮面を取って白ブラウスに黒のレースのベストと黒パンツ黒ブーツのすっきりしたスタイルが、もう暴力的に美しい。ラモンを優しく送り出すところもいいし、姿が見あたらないシルヴィアのことをフェルナンドに聞いちゃうなんとも言えない脳天気さもいい。現れたイサベラに「やあ」って明るく声をかけて、ふたりを残して立ち去ってあげるところも本当に素敵です。
 で、ラストの出番(?)はオフ台詞での「フェルナンド! シルヴィアが…私のシルヴィアが、死んだ…!」なんだけれど、これが本当にいいんですよね。以前は、「塔から身を投げて…」みたいな、つまりシルヴィアの死が自殺であることが明示される言葉が必要なのではないかと思っていたのだけれど(その方が、フェルナンドにとってのイサベラの「死」との意味の違いもまた明示されると思うし)、その前のららたんの悲壮な演技が十分に悲劇を予感させていますし、このあまりにもまっすぐでものがたそうなロドリーゴの前では一度でも他人の妻であった自分をシルヴィア自身が許せなくなってしまい苦しくなってしまうというのもわかる、という気がしたんですよね。だから「えっ!?」ってなる観客ももちろんいたとは思いますが、キャラクターの心情や話の流れは充分に追えるし理解できるし納得させられるものになっているのではないかと思いました。
 そしてその前の、ことにゆうりちゃんの演技がいいからこそ、フェルナンドとイサベラが別れを選ばざるをえないのが理解できるし、フェルナンドが「私のイサベラも…死んだ…」と言ってしまうのにも納得できると思うのです。すごいドラマだよなあ…
 そしてコーラスが被さり、バックのホリゾントの色が変わり、幕がただ静かに下りる…素晴らしい幕切れだと、私は思っています。
 フォローにはならないかもしれないけれど、イサベラにはラモンがいてくれます。そしてフェルナンドはマルガリータのところに帰らなくてはなりません。まどかがベストまどかだったと思いました。役付きとして今までちょっと背伸びをさせられることが多くて、十分健闘してきたと思うけれど、今回のマルガリータはとてもとても良かったと私は思いました。幼く見えるという人もいたけれど、実際にマルガリータというキャラクターは年齢として若くて、けれどフェルナンドの屈託も理解していて待つことをきちんと選択した、その歳にしては大人な少女なのではなかろうかと私は思っていて、それをまどかは立派に演じているように見えました。可愛くいじらしく、嫌みでなくぶりっ子でない。すごいことだと思いました。このキャラクターはこの物語においてとてもとても大事だと思います。それこそ6人がきちんと揃わないと成立しない物語なのです。まどかは立派に応じていたと思いました、感心しました。

 総じて、舞台としてはレトロどころかアナクロと言っていい作品だと思います。音楽が鳴って主人公が登場したり、ブリッジ音楽と暗転で場面展開がなされたり。でも都会で最先端の現代的でスタイリッシュな演劇やミュージカルを見るような観客にはアナクロでも、田舎のジジババにも絶対にわかるストーリー展開と勧善懲悪ドラマのキモ、というのは大事だと思うのです。ことに全国ツアーにおいては。これなら話についていけなくて寝ちゃう人続出、なんてことにはならないと思うのです。そういうことって大事だと思います、そうしてファンを地道に増やしていかなければ宝塚歌劇に未来はない。過激な実験やチャレンジはバウホールなりなんなり、もっと別の場でいくらでもできるはずでもありますしね。
 そんなワケで私は柴田スキーでありこの作品が大好きで、その再演を贔屓組で観られて大好きなキャラクターを贔屓が演じてくれてそれが本当に良くて、幸せです。私の号泣はそれ故のものでもあったのです。


 ショー『ホッタイズ』はフィナーレの三組デュエダンに愛ちゃんの代わりに入れていただいたこと以外は出番はそんなに大きく変更されていず、ずっと心穏やかに観られました。が、中詰めの「め組」とかすみっコ5とかだいぶ調子乗ってるし(笑)、全然油断できませんでした。あとプロローグでまどか、Jumping EYESでらら、中詰めでしーちゃん、デュエダンでまいあと、いろいろな娘役さんと組んでくれるのかが嬉しかったです! ゆうりちゃんとはデュエダンでも組むしプロローグも後半は隣になるし、逆の隣はせーこだし、Jumping~はなんなら女装のりりこと隣でコンタクトしているし、ホント楽しい! そして楽しそう!!
 コマの一場面がりんきらとセットでもらえたりするとベストだったかなーとは思いますけれどね。てかりんきらをもっと起用してほしい、ウィザードはりんきらに回した方がよかったと思いました。そしてここのゆりかはすぐ次にも娘役ちゃんに囲まれるメイン場面があるので、忙しいしトップスターを差し置いて「またこの人?」感がちょっとあるかな?と感じてしまったので。
 でも贅沢は言えません。愛ちゃんのダンスパートは全部りくだし、そういう評価なのでしょう。
 でもいいの、きっともっとずっといろいろできることがある、まだまだ驚かされるしときめかされるし好きにさせられるんだって、もう私は知っているのです。そして泣いたり笑ったり大騒ぎしながらついていく。宝塚ファンライフはめまぐるしくて大変だけれど、なるべくまるこど引き受ける。ちゃんと働いて、健康で、清く正しく美しく朗らかに観劇する。誓います。
 まずは明後日、松戸です!(笑)
 今回、いつにも増して支離滅裂ですみません、ナウオンも早く見たいけど仕事も忙しいのでもう寝なくては…どっとはらい。







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バレンシアの熱い夜

2016年11月18日 | 澄輝日記
 『バレンシアの熱い花』後日談の二次創作BL、ラモロドです。
 『バレンシアの熱い夜』というよりは『バレンシアの青い小さな花』みたいになってしまいました。
 初演以降の上演のどの中の人とも特に無縁で、あくまで脚本のキャラクターに準拠する個人的な妄想だとお含み置きいただければ幸いです…






   *   *   *





城から戻ると、街はまだ騒然としていた。
義勇軍があちこちで通りを封鎖していたり、公爵の私兵と小競り合いを続けているようだった。
俺はまっすぐねぐらに帰って、夜まで夢も見ずに眠った。
「槍が降ろうが店は開けるよ」
と言ってバルバラが叩き起こしに来たので、いつもどおりエル・パティオに行って、歌った。
客はみんなクーデターの話に夢中で、誰も舞台なんか観ちゃいなかった。こっちも集中できていなかったので助かった。
イサベラはいつもどおりに踊っていた。話をする時間は、なかった。
店を閉めたあとにバルバラから、イサベラがフェルナンドの旦那と別れてきたらしいこと、バレンシアを出るつもりらしいことを聞かされた。
あいつらしい。
旦那はあの可愛らしいお嬢さんと結婚して、新しい領主になるんだろう。そんな街では暮らせまい。
バルバラは知り合いの店を紹介すると言っていた。流れ流れて生きていくのが俺たちの暮らしだ。
俺もついていきたいが、俺がそばにいたんではイサベラは旦那のことを思い出すばかりだろう。
それに俺はローラの墓守をしてやらなきゃならない。ここはひとりで行かせてやる方がいいのだろう。
生きている限り、きっとまた会える。

公爵は義勇軍の兵隊に成敗されたことになっていた。
前の領主を殺させた黒幕だったってことも公けにされたから、どのみちフェルナンドの旦那やロドリーゴの旦那がお咎めを食らうことはなかったろうが、まずはよかった。
ただ、あの騒ぎの中で、公爵夫人も亡くなったそうだ。流れ弾にでも当たったんだろうか、かわいそうに。
俺はあの夜、地下道から出たときにちらっとお見かけしただけだ。ロドリーゴの旦那のマントにくるまれて、ほとんど姿が見えなくなるくらい、ほっそりした、綺麗な人だった気がする。
以前はロドリーゴの旦那と恋仲だったと聞いた。旦那は大丈夫なんだろうか。どうしているだろう。

公爵夫人、シルヴィアさんが埋葬されるというので、遠目に覗きに行った。カトリックの墓地に入るのは憚られた。
シルヴィアさんは公爵家ではなく、実家の墓地に葬られるみたいだった。マルコスの若旦那が、痩せた中年の男を支えながら、ボロボロ泣いていた。あれが親父さんだろうか。
フェルナンドの旦那と婚約者のお嬢さんが、参列者の応対をしているようだった。
ロドリーゴの旦那は、みんなの輪の端にいた。真っ黒な服を着て、まっすぐ前を見てまっすぐ立っていた。肩を落とすでもなく、泣いてもいないようだった。青白い、能面みたいな顔でただ宙を見ていた。
大丈夫なんだろうか。

「遊びに来てくれ」
とロドリーゴの旦那は言ったけど、のこのこ出かけても本当にいいもんなんだろうか。
その後、フェルナンドの旦那がバレンシアの立て直しに奔走しているらしいことは、風の噂に聞こえてきていた。でもロドリーゴの旦那の話は聞かない。旦那方はあれきりエル・パティオには来ないままだ。
ロドリーゴの旦那は、あんなばかでかい城にひとりで暮らしているんだろうか。家族はもういない、と聞いた気がするんだが。
門の前でうろうろぐるぐるしてしまう。いつかのイサベラみたいだ。
思いきって入っていったら、フェルナンドの旦那のうちにいたみたいな執事がここにもいた。いけすかないヤツで、門前払いされそうになった。食い下がったら、「旦那さまはご来客の応対中でございます」ときた。
旦那が在宅なんだったらそのお客と一緒でかまわないよ、と入らせてもらった。城の中の様子をあまり覚えていなかったが、奥から話し声がするんで行ってみた。
「なーにやってんだよ!?」
って思わず大声出しちまった。客ってのはレアンドロだったのだ。肘掛け椅子に丸まったロドリーゴの旦那に、レアンドロが覆い被さっているように見えた。
「やあラモン、久しいな」
って、旦那はのんきに笑っていた。ちょっと痩せて見えたけど、元気そうだ。よかった。
「では私は失礼するよ」
とかなんとか言って、レアンドロが早々に立ち去ったので、俺は一安心した。
レアンドロの噂を、ロドリーゴの旦那は知らないんだろうか。…知らないんだろうな。
俺が軍隊に少しばかりいたときも、あいつは悪評紛々だった。ちょっとご面相のいい若い兵隊には片端から声をかけて、士官だってことにものを言わせて口説いてるって話だった。
今のも絶対怪しかったと思う。慰める振りして押し倒すつもりだったんじゃないだろうか。ロドリーゴの旦那はちょっと坊ちゃん坊ちゃんしてるというか、世間ずれしてないとこがあるから、流されちゃいそうで危ないよ。
俺がぎゃあぎゃあ忠告しても、旦那は「彼はいい友達だよ」とか言って微笑むばかりだった。俺はなんだか気が抜けて、とりあえず持参した花を渡した。墓地には行きづらかったんで、ここでシルヴィアさんに供えてほしかった。
「ありがとう。近く私も、おまえの妹に花を手向けに行こう」
と旦那は言ってくれた。
花を生けに来た執事に睨まれた気がしたが、無視して居座った。ぬるい茶を出されたが飲み干してやった。
「フェルナンドの旦那のお仕事を手伝うんですかい?」
「そうだね…マルコスががんばってくれているようだけれどね」
物憂げに笑う旦那は、やっぱりちょっと本調子じゃない感じがした。エラそうにキリキリしているくらいでちょうどいいのに。
ガウンの襟元から覗く細い銀の十字架は、あの夜シルヴィアさんがしていたものじゃないだろうか。形見に譲り受けたんだろうか、それとももともと旦那が贈ったものだったんだろうか。
十字架を手繰る指が細い。ちゃんと食べてるのか?
「あのとき…おまえは妹の仇を討ち、フェルナンドは父君の仇を取った」
旦那は呻くように言った。
「私だけが、私怨で叔父を殺したのだ…だから報いを受けたのだ…」
旦那は、シルヴィアさんの死を自分のせいだと思っているのだ。
そういうことじゃないんじゃないかと思うんだけど、俺はうまく言葉にできなかった。
がっくりうつむいた旦那の肩が本当に薄くて、こっちの胸が潰れそうだった。
それで…それで、つい…つい、その肩に手をかけて、抱き寄せてしまった。あおのかせると、涙が宝石みたいに光っていた。
それで…それで、つい…
…俺はなんてことをしちまったんだ!

  *  *  *

「まあ伯爵、いらっしゃいませ!」
バルバラの素っ頓狂な歓声に振り向くと、ロドリーゴの旦那が店に入ってくるところだった。
「ご無沙汰しましたね、マダム。みなさんも一杯どうぞ」
とかなんとか言ってにこやかに笑うもんだから、マヌエラ筆頭に女たちがみんな旦那のテーブルに群がった。おいおい、この間来たときと全然態度が違うじゃねーかよ。
旦那の顔色からは変な青白さはなくなっていたように見えた。それはよかった。でも俺は合わせる顔がなくて、こそこそしていた。でもどうしても、あの冷たかった唇の感触を思い出してしまう。
店は込んでいて、舞台もバタバタしていた。気がついたら旦那の姿はなかったが、バルバラに「話があるって、小部屋でお待ちだよ」と言われた。
「またきな臭い話じゃないんだろうね?」
と睨まれて、そんなんじゃないよと取りつくろったが、じゃあなんの話だと言われても困る。怒ってるんだろうか、殴られるのかな…
おたおた小部屋に行くと、旦那は例の気障な座り方をして、涼しい顔で酒を飲んでいた。この店の安酒が高級そうに見えるんだからたいしたもんだ。
俺が向かいの椅子に座っても、こちらを見ないままだ。俺はだんだん耐えられなくなって、立ち上がってテーブルに手をついて平謝りしてしまった。
「この間は! …とんだ失礼を…! ちょっと、気の迷いというか…なんというか…なかったことにしてください、全部忘れてください!」
そのまま頭を下げ続けてたら、旦那は何も言わずに立ち上がって、出ていった。目も合わなかった。
許してもらえなかったんだろうか。どうすればよかったんだろうか。

それきり、旦那は店に現れなかった。
旦那がフェルナンドの旦那の仕事を手伝うようになった、と聞いた。
どこだかの家のお嬢さんとの縁談がまとまりそうだ、とも。
政治とか、爵位とか、いろいろあって貴族ってのも大変だ。でも旦那があのばかでかい城にひとりで住むんじゃなくなるなら、いい。あの執事とか、使用人はたくさんいるだろうけど、そうじゃなくて、家族が増えるなら、いい。
旦那が幸せなら、いいんだ。

ローラの墓参りに行ったら、ものすごく大きな白百合の花束が供えられていた。
あわてて墓地を走り出て通りを見回したら、紋章のついたでっかい馬車に乗り込もうとしているロドリーゴの旦那が見えた。走り寄って、引きずり下ろすようにして捕まえた。
「…どちらさまですか」
「…なんの冗談ですか」
まさか、全部忘れてくれと言ったのを根に持っているんだろうか。ときどき子供みたいだよな、この人。
「花、ありがとうございました。よく場所がわかりましたね」
「…遅くなって申し訳なかった」
「あいつは旦那方みたいな貴族の若様に憧れていました。喜んでいると思います」
俺が頭を下げると、旦那はあきらめたのか馬車を城に帰して、呑みにつきあってくれた。
あいにくエル・パティオが休みだったので、近場の店に入った。しかし掃き溜めに鶴感がすごいな。
俺はどきまぎしてしまって、子供のときの話とか、とりとめのないことしか話せなかった。旦那はあまり食べずに、ただ俺の話に笑って酒を呑んでいた。
それはいいんだが…意外と弱いんだな? あっという間に目が据わったぞ? というか潰れたぞ?
どうしよう…うちには最近フラスキータが入り浸っているので、連れて帰るのはまずい気がする。といって城まで運ぶ自信もない。意外に重いんだ、これが。
仕方がないので、負ぶってエル・パティオまで連れて行った。小部屋の長椅子に横たえて一息つく。
上着だけ脱がせて肩にかけてやると、ひっくるまって丸まり、すぐに静かな寝息を立て始めた。
罪もない顔で寝入っているのを見つめていたら、こっちも眠くなってしまった…

小さなくしゃみで起こされた。まだ夜明け前だろう、闇が一番濃い頃だ。
水差しの水を一口呑んで、旦那にも渡す。旦那は喉を鳴らして飲むと、また丸まった。
「寒いな」
火を焚くほどじゃないかと思ったんだが…毛布かなんか、あったかな。
「寒いよ」
わがままだな。あとはもう人肌しかないぞ。襲うぞ。
「…誘うなよ」
「何故?」
真っ青な瞳が見返してくる。なんできらきらして見えるんだろう。
「…旦那、男と経験ないだろ?」
「もちろんないよ。でもおまえはひどくしたりしないだろう?」
どうだろう。全然自信がない。遊び半分みたいなもんだったし…ずっとイサベラに一途だったんだし。最近はフラスキータに押し切られてるけど。
「あと、その旦那ってのはやめてくれ」
と言われて、何かが飛んだ。耳元で名前を呼んでやる。あとは覚えていない。


遠い鐘の音に目覚めると、朝だった。
旦那はすっかり身支度を整えて、椅子に座って小窓から空を見ていた。綺麗な横顔だ。服に皺ひとつないのは何故なんだ、高級品は違うのか。まさか何もかも夢だったのか。
「腹減ったな…」
俺の言葉に、旦那は声を上げて笑った。男相手になんだが、花が咲いたような笑顔だった。
明けない夜はない。朝になれば、夜の間に見た夢は日の光に溶けて、うたかたのように消えてなくなってしまう。
でも日は昇ればまた沈む。また夜は来るのだ、必ず。





<了>









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『あずみ~戦国編~』

2016年11月18日 | 観劇記/タイトルあ行
 Zeppブルーシアター六本木、2016年11月16日マチネ。

 時は戦乱の世、慶長二十年。うきは(鈴木拡樹)、あまぎ(斉藤秀翼)、ひゅうが(三村和敬)ら幼子の面影を残す少年たちは、小幡月斎(山本亨)に率いられた刺客の一群、狙うは肥後の名将・加藤清正(久保田創)の命。刺客の中にはまだ十六歳の少女・あずみ(川栄李奈)もいた…
 原作/小山ゆう、構成・演出/岡村俊一、潤色/渡辺和徳。2005年初演。全2幕。

 2005年に上演された初演の、翌年の再演『あずみRETURNS』を観ていて、そのときの感想はこちら
 その後も結局私は原作漫画を未読なままなのですが、プログラムの原作漫画家のコメントによれば、『あずみ』は江戸幕府初期を舞台にしたいわゆる第一部と、幕末を舞台にした第二部『AZUMI』とがあるそうですね。どちらにも同じ境遇で育ったあずみという名の少女が主人公としていて、しかしそれは同一人物ではなく、物語としてはある種のパラレルワールドのようなものになっているのだそうです。そして第一部はまさに「第一部・完」みたいな形になっており、要するにオチていないのだそうです。読者が納得するような、そして主人公が幸せになれるような道筋がつけられなかったからだそうです。
 そりゃそうですよね。そして前回の私は、そんなふうに生まれさせられてしまい生きさせられてしまったこのヒロインのために涙したのでした。なんてひどいことをさせるんだ、なんてひどい境遇の主人公を産み出してしまったんだ、菩薩と祀り上げる一方でまだ年端もいかない少女に「次は誰を斬ればいいんだ!?」と言わせて幕切れなんて舞台を作るなんてなんてひどいんだ…と泣いた訳です。
 今回も基本的にはその焼き直し。キャストが違っていて、細かい台詞やギャグ部分は変更されているのでしょうが、キャラクターやドラマやストーリーはほぼ同じなのだと思います。前回を細かくは覚えていないのでアレですが。
 今回はその前に漫画の第二部も『AZUMI 幕末編』として舞台化していて、初舞台だったヒロインが好評だったそうですね。その続投ありきの企画だったのかもしれません。
 が、どうしても比べて観てしまうこともあり、現代的になっていたとかブラッシュアップされていたとかいうよりは、型落ち感を私は感じてしまいました。あの配役で明治座でやった意義は大きかったと思うのだけれど、今や2.5次元ミュージカル(ストレートプレイですが)の枠組みなんですかしょぼん、みたいな。
 何しろほっしゃんのキャスティングが良くなかったんじゃないですかねぶっちゃけ。これは旧芸名で俳優としては星田英利ということなのでしょうが、クレジットもトメだけどホントに?って感じですよ。だってストーリーテラーというか、とっぱしにしゃべるのがこの人の演じる飛猿なんですが、滑舌悪くて声のとおりが悪くて下手なんだもん! 棒読みで全然物語世界に誘われないんだもん! そういう役作りなのかもしれませんしそういう芸風なのかもしれませんが、私には舞台役者でない人が覚えた台詞をただそらんじているようにしか見えず、芝居に見えませんでした。それで、この舞台の出来を判断してしまったところがあります。
 だから、確か前回もあった、寒いギャグとか客席いじりとか、現実の俳優が虚構の世界を作り上げている「舞台作品であること」を変な逆手に取ったような悪ふざけとかが、私はもう本当にダメで(そもそも私が笑いに厳しいノリが悪い客だということもあるのですが)、すっかり引いてしまいました。一幕の見どころが美女丸(早乙女友貴)の殺陣しかねえ!と思っちゃいましたよ幕間。あのあたり全部カットしたら30分くらい浮いたんじゃないの?とかね。
 その分、ヒロインのキャラクターを立てる演出上の工夫をしてほしかったです。川栄ちゃんはすごく健闘していたと思うのだけれど、でも台詞があまりにナチュラルすぎました。現代的すぎるというか、テレビ芝居の台詞でした。周りの達者なおじさま役者たちがみんなこのファンタジーを成立させるために見得ガンガン切ってけれんみたっぷりに大芝居をしているので、余計に際立ちました。そしてそれがヒロインの魅力とか個性に見えるというよりは、中の人の演技力不足に見えました。でもそれじゃダメでしょ?
 だいたいみんながなんでそんなにあずみのことを好きになるのか、さっぱりわかりませんでした。初潮のことも性交のことも知らないピュアっぷりは描かれているけれど、そういうイノセントさって要するに愚鈍とほぼほぼイコールで、だから可愛いよね素敵だよね、みたいにはならないはずじゃないですか。そして中の人にも、キャラクターの個性や魅力を具体的に表現するエピソードがなくとも有無を言わさず納得させてしまう圧倒的なオーラとか華みたいなものとかが、ないように見えました。それじゃダメでしょ? メイサにはあった気がするよ? 比べるな、という意見もあるだろうけれど、でもやっぱり何かが足りていない気がしました。
 それは実は相手役たるうきはも同じで、よくまあ喉をつぶさないなあと感心するくらい上手く怒鳴るし、すごく熱く見える芝居をすごく的確に演じているんだけれど、なんか皮相的というか中身が感じられないというか、なんかツルンとしていて引っかかりがない、不思議な役者さんだなあと思いました。ここに萌えられなかったのが私としては致命的だったかな…
 私は秀頼(小園凌央)は好きでした。もともとキャラクターとして好き、というのもあるんだけれど、すごくちゃんと演じられていたと思いました。二世タレントとしてちょっと冷めた目で見られているらしいのですが、私はラインナップのお辞儀が一番深いのにも感心しました。彼はハートがあるお芝居をしていたように思います。
 でも淀君(有森也美)はね…カナメさんが素晴らしすぎたからね…
 というワケで、二幕に入ってからは話はシリアスだし前回感心し感動したとおりに流れていくので、「ああそうだった、うんうん」みたいに思いつつまあまあ楽しく観たのですけれど、同じ展開なのでかえって同じようには泣けず、再確認して終わり、となってしまったのでした。
 なんらかの進化や変化がなければそれは単なる縮小再生産だから、ちょっとなあ…と思いました。ものすごいドル箱興行だからそれでいいんだ、と言うならそれでもいいですが…
 あ、あとフライングも…なんか別に…なくてもよかったのでは、とか思ったり…しました…
 アンサンブル陣の殺陣はすばらしく、見応えがありました。全体の舞台の構成としてもよく出来ていると思うし、なんか結局はけっこう好みなんですよね。だからこそ安くやってほしくないんだけどなあ、とか思ったりしました。いろいろ考えさせられて、おもしろかったです。

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