駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

「私が強いたのです!」~上田久美子氏のご卒業に寄せて

2022年04月08日 | 日記
 演出家の上田久美子先生が年度末の3月31日をもって宝塚歌劇団を退団したそうです。それこそ先月末からソース不明の噂が飛び交っていましたが、今日、産経新聞のウェブ記事になっていました。今後はフリーの演出家として活動、欧州留学も予定しているとのことですが、文化庁の研修生として行くようだとも小耳に挟みました。
 生徒の卒業同様、当人の意志、決断が一番なので、ファンといえどもとやかくいうことではないよな、とは思います。ただ、生徒と演出家はちょっと別でしょうし、私自身が新卒で入った会社にずっといて転職など考えたこともなく終身雇用にしがみついて定年までいる気満々でいることもあって、職場としてはまあまあいい環境だろうしよっぽどのことがない限りそうそう辞めないのではないかしらん、と「そのうち外部に行っちゃうのでは」説が流れるたびに思ってきました。すごく若い演出助手さんがいろいろつらくて辞める、というのはまた別ですが、ある程度作品の上演機会があったような作家さんはそれなりに手応えも感じているだろうし、もちろん宝塚歌劇っていろんな制約が大きいとは思うのだけれどその制約を逆手にとってそこで何をやってやるか、みたいなトライの仕方や楽しみ方もしているのではないかと勝手に期待していたのです。だからまだまだアイディアもあってどれからどの順でやろういい生徒や組が回ってくればなワクテカ、とか手ぐすね引いてる感じなんじゃないのかなー、と勝手に思っていたのです。
 でも、ここで、という当人のご決断だったのでしょう。
 劇団はさすがに引き留めたとは思いますしね。それでも当人の意志が固かったのでしょう。もっと勉強がしたい、ということなら在籍したままでも留学でもなんでもさせてやれよと思うし、というか劇団が金出して率先してお抱え作家に順に勉強させろよとも思いますが、そのあたりが折り合わなかったのでしょうか。あるいはもう本当に、ここでやれることはやりきった、これからはここではできないことをやりたい、だから今ここを辞めたい、ということなのかもしれません。それならもう、どうしようもないですよね。私は宝塚歌劇をとても愛しているので、勝手にちょっと裏切られた気分でいますが、でも仕方ないと思っています。私は可愛げがないのでジタバタできないタイプなんですよ、去る者を追えないんです。行かないで、とか泣いてすがりつくことができないの。それこそ無為なことですもの…
 私は外部のストプレもミュージカルも、あるいはバレエやオペラも歌舞伎も観るし(文楽は未経験)、舞台が好きです。あるいは漫画や小説や映画、テレビドラマでもなんでも、要するにフィクションが、お話が、物語が好きなのです。私が宝塚歌劇に出会ったのはだいぶ遅くて、もう大人になってからの出会いでしたが、それでも突き刺さりました。性差別だとか若者の搾取だとかの問題についてももちろん意識しているつもりですが、それでもここでしかできないこと、ここでしか観られないものがあると思っていて、存在意義を確信しています。150周年を、そのころバーチャルなんちゃらな技術が開発されていても、杖ついてでも劇場へ行って生で観る気満々です。個人的には今は贔屓のいない農閑期ですが、その方が冷静に観られる部分もあるのだろうし、ここ数年達成できている全演目観劇を今後も万障繰り合わせて続行する所存です。そして勝手にわあわあ言い続けるつもりです、それが自分の健康の秘訣だろうくらいに思っています(メーワク…)。
 未婚の女性が扮する男役と、娘役でしか作れない世界があると私は考えています。彼女たちが演じることに意味がある、意義があることがありえると思っています。外部の男女の俳優が演じても同じことにはならないものが、確かにある。それほどまでに今の世の中は男女が平等ではなく、非対称です。私は男役と娘役の意味、意義について一晩中でも語れる自信があります。「何ソレ、意味わからない、てか無意味では? まだそんなことやってんの?」と言われるほどに男女平等の世の中が来るまで、宝塚歌劇は存在し続けることでしょう。宝塚歌劇なんか必要とされない世の中になった方が、人類は幸せになります。でも残念ながらそんな未来は来ない、とも私は考えているのでした。
(ちなみに私が歌舞伎に全然くわしくないせいもありますが、私は男性だけが演じる歌舞伎に関して、いわゆる立ち役と女形の意味、意義についてはまったく語れません。それほど男女の非対称が今は厳然と存在すると考えています)
 今の世に宝塚歌劇は必要です。いや、存在も知らない、観たことのない人がたくさんいることは知っています。そういう人の方が多いことも。でももっと増やすべきだとも思っていて、それはこれを知った方が楽になれる人というものがいると考えてからだし、ここに未来の希望の芽があると考えているからです。だからそういう意識のある若い、新しい作家さん大歓迎なのです。もちろん今いる人にもさらにがんばっていっていただきたい。だからくーみんのご卒業は残念です。でも仕方ないです、止められません。ご多幸をただただ祈るのみです。くーみんは私らのこんな祈りなど必要としないような人なのかもしれませんが。
 こうなったら単なるOG公演なんて本当はやってもらいたくなくて、むしろ歌舞伎か文楽の脚本を書いてほしいですね。そもそもそういう指向の人だったとも聞きますし。それなら勉強に観に行きたい、そして新たな視野を広げてもらいたいです。まだまだ甘える気満々ですみません。でも意地悪な言い方をすれば、外部の作品なんて座組次第だと思うので、なんでも必ず観に行きますなんてことは私はちょっと言えないな、とか思うのでした。
 でもご多幸を、ご活躍を、幸運を祈っています。それは本当です。祈るのはタダだしな! 生徒もけっこうショックを受けているかもしれませんね。まあ中で演出とか演技指導を受けるのはそれはそれで大変だとも聞くし、一概に残念がるばかりではないのかもしれませんが…自分の贔屓にも当て書きを、できれば主演作を書いてほしかった、というファンも多かったことでしょう。タイミングの問題もありますが、確かにちょっと偏りもありましたしね。そのあたりももったいなかったです。
 みんながみんなファンだなんて思っていなくて、みんないい、いい言うけど私はピンとこないんだよな…と思っていた人も私は知っていますし、そんなの当然だとも思います。アンチというほどではないけど、「それほどでもないよ、常に諸手を挙げて絶賛ベースなんておかしいよ」というのはまっとうな感覚でもあると思います。私だって思うところはありました。盲目的、狂信的なファンではなかったつもりです。それはまあ、これまでの感想記事にも表れていますかね…
 個人的には、私は珠城さんをもちろん大好きでしたが、贔屓認定はしていないので、それでセーフ、というのもあるのかもしれません。『翼~』のころはまだ澄輝会に入る前でしたしね。それでいうと『神土地』は贔屓出演作ではあったわけですが、そして確かにおもしろいポジションのお役をいただけたかと思ってはいますが、全体としてはものすごく大きな比重があったわけではない、と思う、のでセーフ、なのです。なんか、『星逢』も『金色』も『fff』も、主演が贔屓だった人ってタイヘンだったろうなもう揺さぶられまくっちゃってさあ…とかなんとなく傍目八目的に感じていたのですよ…そういう目に遭わなくてセーフ、お話だけ観ていればすむようなところがあるのでセーフ、みたいな。それで盲目的、狂信的ファンにならなくてすんだのかもしれません。
 マイ・ベストは何かなあ…悩むなあ、決められないなあ…それぞれ本当に性癖に刺さる(笑)ところがあるし、作品としての出来とかもあるし、そもそも何を求めるかもあるし…
 よく並べて語られることの多いオギーに関しては、私が一番宝塚歌劇から遠ざかり気味だったころのショー作家さんで、私は本当に未だにショーがよくわからないという自信がある(笑)ので、当時も観ていてそこまで刺さらなかったし退団を惜しいと思ったことも戻ってきてほしいと考えたことも全然ないんですね。外部の作品もいくつか観てはいますが、すごく好きと感じるとかすごくオギーっぽいと思うとかが、私はないです。でもどなたかが「オギーには間に合わなかったけどくーみんには間に合った」とつぶやいていました。私もくーみん作品は全作観られました。その僥倖に感謝するべきなのでしょう。そしてこの先「あのときはすごかったんだから」と謎の自慢をする嫌みな老ファンになってやるんだ…!(笑)
 上田久美子先生、ご卒業おめでとうございました。サヨナラショーもフェアウェルパーティーもなくて残念です。この先劇団がくーみん作品を再演しなくなっちゃうのかと思うと本当に残念です(著作権は劇団にあるんでしょうけれどねえ、やらなさそうですよねえ…)。くれぐれもお体に気をつけて、お元気で、朗らかでいらしてください。清く正しくなくていい、美しいのは知っています。今後も何かを発信してくださるのなら、機会があれば拝見したいです。本日まで本当にありがとうございました。


 以下、これまでのこちらでの記録。わりとファンなので(笑)初日から行ってわあわあ語っていたりもするので、別記事もたくさんありますが。

●2013年月組バウホール公演『月雲の皇子』/銀河劇場再演
●2014年宙組シアター・ドラマシティ、日本青年館公演『翼ある人びと
●2015年雪組本公演『星逢一夜』/17年中日劇場再演
●2016年花組本公演『金色の砂漠
●2017年宙組本公演『神々の土地
●2018年月組本公演『BADDY
●2019年星組本公演『霧深きエルベのほとり』(潤色・演出)
●2020年宙組梅田芸術劇場、日生劇場公演『FLYING SAPA
●2021年雪組本公演『fff
●2021年月組本公演『桜嵐記

 これはちょっと別口だけれど、

●2017年月組MP『MOON SKIP

 そして担当新公で観ているものは『ジプ男』、『エド8』、『PUCK』、『神土地』、『凱旋門』でした。


 最後になりますが、今回タイトルにした「私が強いたのです!」は『月雲の皇子』の木梨軽皇子の台詞です。窮地のヒロインを救うために、代わりに自分が罪をかぶるために言う、偽りの言葉…いやぁ痺れた、初見時に衝撃で席から立ち上がりそうになったことを覚えています。いい展開でした、いい台詞でした…!
 イヤ別に、私たちファンがくーみんにくーみんたることを強いてきた、みたいなことを言う気は特にないのです。単に印象的な台詞だから、なんなら一、二を争うくらい好きな台詞だから掲げただけです。
 外部でも脚本と演出を両方やる作家さんはいますが、どちらかというと別れている方が多いですよね。そしてもちろんどちらもとても才能が要るものですが、演出ってちょっと何がどうってのが傍目にはわかりにくい部分があるから、脚本の巧拙の方がわかりやすい。その意味でもいい台詞を書ける、いい物語を作れる才能は貴重です。がんばっていただきたいです。きっとできる人は、運命が手放さないと思うのですよ。それこそ運命が書くことを強いるのだと思うのです。でもそれは歓喜に至るのだから…!
 これからのご活躍を、心からお祈りしています。







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