駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

澤田瞳子『夢も定かに』(中公文庫)

2017年01月30日 | 乱読記/書名や・ら・わ行
 聖武天皇の御代、後宮で働くべく阿波国から上京してきた若子は、同室になった姉御肌の笠女、魔性の春世とともに宮中で暮らすが、色と権謀の騒動続きで…仕事に意地をかけ、乙女心に揺れ、人知れぬ野望を育む先に何が待つのか? 平城京を陰で支えた女官たちを生き生きと描く宮廷青春小説。

 初めて読んだ作家さんでしたが、歴史小説家というよりは日本古代史研究家、の側面が強い作家さんなのでしょうか…
 ラノベふうのカバーイラストと帯のキャッチで文庫化していますが、看板に偽りありというか惜しいというか…
 まず、オチていないのが許しがたい。話に決着がついてないじゃん、なんでこんなふうに放り出して中途半端で終わらせるの? 担当編集者は何も言わないの? 単行本から文庫にするときに加筆修正するとかなかったの?
 それから、メインキャラクター三人に実在のモデルがいるせいかもしれませんが、それにしてももうちょっと、おもしろく、チャーミングに、濃く色づけしてもよかったんじゃないのかなあ…せっかくこの三人を選んでそれぞれ違う働き方、生き方をさせているんだから、そこに作家のメッセージや作品としてのテーマを乗せることがもっとできたはずなのに、漠然としていて魅力に欠けるんですよね…
 帯にあるように「平城京のワーキング・ガール」の話、であることをきちんと目指して、性格や志向の違う三人の女性が、それぞれがんばりトラブルに巻き込まれさらに思ってもいなかった選択をして終わる…という形に作れれば、すごくおもしろくなったと思うんですよね。
 で、若子が、笠女のように完全に男っ気なしで専門家として生きるのでもなく、春世のようにさんざん浮き名を流し女の出世の階段を上ろうとしたあげく愛に殉じて故郷に帰るのでもなく、男も知ったし愛も知ったけれどその限界も知ったので、すべてを上手く利用してただ真面目に働いていくことを選択する、出世や栄達は目指さない…というのは新しいし意外だし新鮮に見えたと思うんですよね。そこまで行ってほしかった、その資質はある小説だった。
 なので、オチてないじゃん!と怒るのと同時に、いかにも惜しいと無念に読み終えたのでした。残念…


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『エリザベート TAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート』

2017年01月28日 | 観劇記/タイトルあ行
 オーチャードホール、2017年1月20日12時半。

 脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲/シルヴェスター・リーヴァイ、オリジナル・プロダクション/ウィーン劇場協会、構成・演出・訳詞/小池修一郎、演出/中村一徳。

 マイ前回エリザガラコンの感想はこちら。去年の宝塚歌劇宙組『エリザベート』感想はこちら
 もう一生分観た気がするし、演目として好きかと問われるとやっぱり正直それほどでもない…としか答えようがないのですが、メモリアル公演でもありますし、大空さん初のOG公演参加なので、出かけてきました。
 大空さんの出演は最終日、前楽・大楽のみ。なので前楽を観劇してきました。
 トートが7人、シシィが3人、ルキーニも3人、ルドルフは4人。フランツは何人いたかな? とにかく豪華なメンツでした。だって黒天使かよ!って感じでトートが7人ずらりと並ぶんですよ! おもしろすぎました。

 大空ルドルフは何をやるのかしら? アサコトートと「闇広」なんてどうかしら? と思っていましたが、アサコシシィと「僕はママの鏡だから」でした。軍服っぽいお衣装、長めの髪をややラフに束ねて、すごく高いヒールを履いて、今の大空さんが今の声で歌う「僕はママの鏡だから」…沁みました。アサコの手に顔を寄せたときの表情よ!
 私は別に大空さんの男役が観たいとはもう思っていませんし、サエちゃんトートのときの『エリザ』もたくさんリピートしたわけじゃないですし、ルドルフ至上主義でもありません。でも、自分でも驚くくらい沁みました。大空さんの芝居歌が好きだな、と改めて思いました。
 トートは迎えに来なくて、ルドルフがひとり赤いライトの中に立ち尽くして銃声、暗転…みたいな演出でしたが、それもカッコよかったです。
 ラインナップでは最上手でテルと並んでちょこんとしていて、なんかあまり勝手がよくわかっていない感じで、それも可愛くてにまにましました。

 ワタルルキーニが変わらずノリノリだったり、まさおルキーニもホント楽しそうだったり、あやかが本当に美しくてほとんど芸能活動をしていないただの主婦とは思えなくて、ミドリが上手くなっていて、となみも愛らしくて、マリコさんの歌が変わっていなくて、アサコモホント今すぐ現役復帰できるな!?って感じで、…なんかもうホントいろいろ楽しかったです。
 まあ、お祭りとして、たまにはいいかな。ここまで歴史を紡いできた価値がありますよね。若いファンが現役時代を知らないOGに新たに出会えたりするのもいいことだと思います。頻繁に開催するのはどうかと思うけれど、5年ごととかにやっていくのはいいんじゃないでしょうか。大きな財産、うまく活用していっていただければと思います。



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アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』(ハヤカワ文庫)全2巻

2017年01月26日 | 乱読記/書名か行
 凶暴な父によって崩壊した家庭で育ったレオ、フェリックス、ヴィンセントの三人兄弟。独立した彼らは軍の倉庫からひそかに大量の武器を入手し、史上例のない銀行強盗計画を決行する。市警のブロンクス警部は事件解決に執念を燃やすが…スウェーデンを震撼させた、実際の事件をモデルにした迫真のミステリ。

 暴力は連鎖する、とはよく言われますが、痛ましく、でも同じ家庭に育っても生来の性質やいろんな条件での成育が違って、その連鎖から逃れられることもあるし、でも家族であることからは逃れきれない部分もあってまた痛ましくもあり…と、終始眉を寄せながら読みました。みんな幸せになってほしいんだけどなあ…
 実際の事件は大晦日にあったものが、小説ではクリスマスに変更されていて、欧米でのクリスマスというものの存在や意味の大きさにも心打たれました。
 ちょっと突き放したような幕切れもいい。刑事の側に、刑事の家族にどんなドラマがあったのかも全部見せないところもいい。男女のすれ違いの描き方もいい。
 北欧ミステリ、元気ですね。他の作品も読んでみたいと思います。

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宝塚歌劇星組『燃ゆる風』

2017年01月21日 | 観劇記/タイトルま行
 宝塚バウホール、2017年1月17日14時半。

 群雄割拠して天下をうかがう戦国乱世。尾張の織田信長(麻央侑希)は美濃の稲葉山城を攻略すべく兵を向けるも、敵の反撃に苛立ちを募らせていた。そこに、稲葉山城の主・斎藤龍興の家臣が謀反を起こして城を乗っ取ったという報せが入る。信長ですらてこずる難攻不落の城をわずかな手勢で落としたこの男こそ、竹中半兵衛(七海ひろき)。類まれなる智略を以って戦国の世に名を馳せた稀代の軍師である。半兵衛の才覚に興味を抱いた信長は、木下藤吉郎(悠真倫)を彼のもとに遣わすが…
 作・演出/鈴木圭、作曲・編曲/吉田優子、振付/若央りさ、桜木涼介。七海ひろきの初単独バウ主演作となる戦国ロマン、全2幕。

 大変なチケ難公演でしたが、ご縁あって出かけてきました。まあまあ好評のようでしたが、例によって半信半疑の状態で観劇しました。
 一幕を観ている間はずっと、脚本家を放課後に校舎裏に呼び出す案件だな…と思っていました。ベタなアバン、ベタなプロローグ、ベタな主役ふたりの歌と芝居…と淡々と続く展開は、基本ができていると言えば聞こえはいいですがただそれだけの、なんの含蓄もない台詞が並ぶスカスカの脚本でなんのおもしろみも深みもない単純な演出で、ただストーリーが進むだけの、なんか子供が書いた作文みたいで文学になっていない小説のような、中学生が書いたみたいな芝居だな…としか私には思えず、ただただあきれてしまったのです。
 ただ話は進み時間は経ち、キャストが勢揃いして主題歌を熱唱し始めたのでおおこれで一幕ラストだな、と思っていたらまさかの主人公の喀血で、俄然ちょっとおもしろくなってしまって幕間に突入したのでした。確か早世した軍師だという事前の知識は自分にあったように思うのですが、そしてそれは戦死ではなく病死だったとも知っていた気がするのですが、よもや労咳とは思っておらず、ベタな咳と血を吐くベタベタな演出に、もう一周回って「えええええ!?」とすっかりおもしろくなってしまったのです。そしてもちろんそのダメなおもしろさをねじ伏せるかいちゃんのカッコよさと熱さには感動した、というのもあります。
 幕間にバッタリしたお友達が、「でも久々にタカラヅカ観た!って気になった」と言っていて、それは今私たちが通っているのが大劇場の『グランドホテル』であり日比谷の『金色の砂漠』であるからで、片や超スタイリッシュな海外ミュージカル片や超シリアスな人間ドラマで、いわゆる宝塚歌劇らしい、夢々しい明るさや華やかさ、といったものとはちょっと対極な作品世界を展開する演目なので、そういう意味ではこのバウ演目が一番宝塚歌劇らしいのかもしれません。でもこういう幼稚さ、稚拙さ、単純さ(こんな日本語はないか)、お手軽さを「タカラヅカらしい」とそれこそカタカナ表記で言ってしまうような感じが、私は嫌なのです。宝塚歌劇はもっと高尚であるべきだ、とは言いませんが、少なくとももっと高レベルであるべきだ、あれるはずである、と私は考えているので。こんな、ただスターがキラキラしていればいいと言わんばかりの書き割り歌芝居みたいな演目でよしとしている場合ではないだろう、と思ったのですね。
 が、二幕になると、まるで脚本家が替わったかのような芝居のノリの激変っぷりではないですか。上手いのに、またいい役をもらっているのに一幕では今ひとつ出番がないなと思っていた丹羽長秀(大輝真琴)のまいけるとか柴田勝家(輝咲玲央)のオレキザキとか明智光秀(音咲いつき)のいーちゃん、荒木村重(桃堂純)のたおくんが俄然歌い出し演技をし出し、かつ上手い、魅せる、芝居になっている!
 そもそも一幕はまりんさんが仕事をしすぎだったんですよね。専科さんですしできる人なのは知っています、もちろん上手い。でも使いすぎというか仕事させすぎというか仕事してしまいすぎ、に見えました。もっとできる生徒がおもしろいところに配されているよ、なのに陰になっちゃってるよ、と思っていたのが、息を吹き返すような二幕でした。
 そうなったら、やはり上手いとわかっているみっきぃの黒田官兵衛(天寿光希)だってより生きてくる。てか松寿丸(天彩峰里)のじゅりちゃんの子役が激ウマ!! 二條華ちゃんの重門もウッマ!!! もう目が覚めるようでした。
 しかもなんか、芝居として、男も女もなく、みたいなフェミニズム的なことや戦のない平和な世の中のために、みたいな反戦思想とか、ちょっといいことまで言い出しちゃって、ちょっとどうしたのよK鈴木!?と動揺しつつも、うっかり感動してしまいましたよ…
 まあ、残念ながらいね(真彩希帆)を濃姫(音波みのり)の娘としたことはあまり効果を上げていないような気がしましたけれどね。どこの『黒い瞳』かと思いましたが、この作者がこんな女ふたりの場面を作れるとは思ってもいなかったのでそれには感心しましたけれどね。
 いねが濃姫の心を動かす、というのは感動的なのだけれど、すごくうがった見方をすれば半兵衛が妻の出自を政治的に利用したようにも見えてしまうと思うのです。戦のない平和な世を築くためならなんでもする、それこそが智略に長けた軍師としての彼の生き方だ、とまで語る気ならそれもいいとは思いますが、女を仕事に利用する男に見えて駄目、というふうにとらえられなくもないなと私は懸念したのです。まあ流しましたけどね。
 あと、いねが女ということで養子に出されたのなら、代わりに男だからともらわれてきて嫡子に据えられた信忠(紫藤りゅう)の屈託のほうがむしろ大きかったはずで、天才肌の父親のもとの苦しい二代目というドラマもあったはずですし史実としても有名ですし、またしどりゅーが出番のたびにいちいちそういう演技をちゃんとしているのに脚本として回収していない、ノーフォロー、というかそこに触れる気ゼロ、というのがいかにも片手落ちな感じがして、だったらこの設定いらんやろ、そしてその上でこの役をもっとちゃんと描いてやってくれ、という気がちょっとしました。濃姫に子がないことも有名な史実だと思いますしね。
 まあでもとにかく、トータルでは意外にもいい作品でした。気持ちよくラインナップに拍手しました。『桜華に舞え』でちょっと見直したまおくんがまたいつものまおくんに戻ってしまっていて、この人はいつ上手くなるの…とちょっと遠い目になってしまったのと、きーちゃんが歌は抜群にうまいんだけど演技がややさらりとしていて娘役としてのいわゆるルリルリさもまだまだ足りない気がして、おそらくだいもん嫁となるのだろうと私は思っていますがとにかくがんばっていこうね私は好きだけどね応援するけどね、とちょっと案じられたこと以外は、ディズニーコンBSWで知った下級生の活躍が見られたりとたくさん発見もあり、楽しかったです。あとはるこは女神!
 かいちゃんは、歌はまあ引き続きがんばっていただくことにして(^^;)、でももうこういう役、こういう作品にはもう収まりきらない大スターさんだな、と思いました。本人はオタク気質だしこういう参謀タイプのキャラクターが好みなんだろうしすごく研究して的確にまた熱心にかつ楽しんで演じているのがわかるし、それがとてもよくできていると思いました。でももともとの作品の、役の枠がもう小さい。かいちゃんはすでにもう、もっと大きな輝きを放てるスターさんになっているので、そういう場所、舞台を用意してあげてほしいなと思いました。新公卒業前後くらいの新進若手スターの初バウ主演作ならこの役、この作品で上々だったでしょう。でもかいちゃんは今やもっとずっとできるスターさんなのです。
 でも、まずは、単独初主演、おめでとうございました。新生星組では下級生二番手スターの下の三番手、ということになるのかもしれませんが、それで大事にしてもらえるなら十分だし、かつて大空さんもそういうポジションだったことがありましたよ(^^;)。まあ、そこからの大空さんの宝塚人生展開はかなりレアなもので、みんながみんなそういう道をたどれるものだとは私は決して思っていませんが(大空さんを特別と考えたい、というよりは、そもそも誰にもこんなコースをたどらせるべきではない、路線というものはもっとスムーズに組まれるべきものであると考えているから、です)、トップになることがすべてではないし、いい役いい作品に巡り合って輝いててくれて幸せでいてくれればファンはうれしいものなので、十分喜ばしいのではないかなと思うのでした。中途半端な祝い方ですみませんが、でも組替え直後の一時期のような微妙な不遇と「なら宙組に返してよ」みたいなことを言う人が出るような事態はさすがにもうないと思われるので、よかったと思うのです。あと、みんながみんなここまでこられませんよ。すごいことです。
 この先も楽しみにしています。未来に幸あれ。





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恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)

2017年01月21日 | 乱読記/書名ま行
 3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。ここを制した者は世界最高峰のS国際コンクールで優勝する、というジンクスがあり、新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。多数の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、音楽を描き切った青春群像小説。第156回直木賞受賞作。

 受賞が決まる前に、インフル休暇中に読み終えました。6度目のノミネートだったというし、よかったのではないでしょうか。
 ただ、序盤はものすごくワクワクしてものすごいスピードで読んだのですが、個人的には尻すぼみに凡庸になっていったという印象を受けました。というか、これだけのキャラクター設定をしておきながらそれぞれがそれほど絡まないんですね。別に恋愛ドロドロをやれというつもりはないし(個人的にはそういうものを読みたくはありましたが)、テーマとしてはあくまで音楽であり個々の音楽との闘いを描くことに主眼があったのでしょうが、それに終始してしまってキャラクター同士のドラマがほとんどなくてもったいなく感じてしまったのです。
 まあ群像劇、ということでそれぞれの人生をきちんと描いているんだからいいのだ、という見方もあるのでしょうが…私は、その絡み合い、変化が読みたかったので、やや不満でした。
 でもそういうこと以外は、とても楽しく読みましたし、感動的だったと思います。

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