宝塚バウホール、2025年1月31日11時半、2月2日11時半。
時は飛鳥時代。百済人の青年・智積(極美慎)は、留学生として大和にやってきた。推古天皇(瑠璃花夏)に拝謁するために小墾田宮を訪れた智積は、何かに怯えて震える寶皇女(詩ちづる)とすれ違う。百済人である観勒僧正(悠真倫)のもとで開いた学堂で書を教え始めた智積は、書生に混じって文机に向かう寶と再会して…
作・演出/平松結有、作曲・編曲/太田健、小澤時史。平松先生のデビュー作となる「幻想秘抄」、全2幕。
かりんさんの初バウ主演作『ベアベア』の感想はこちら。
悪くなかったと思っていますし、今回も悪くない、素敵なお役、作品だったと思います。主演作に恵まれる、というのはいいことですよね…!
ただ、マイ初日がけっこう後半だったため、「素晴らしい!」「名作!!」みたいな評判を聞きすぎていて、ちょっと期待しすぎて観てしまったせいもあるのかもしれませんが、残念ながらまあまあ粗があるように感じられて、もったいないぞ惜しいぞ…!と思いながらの観劇となってしまいました。とはいえ2幕後半、そしてフィナーレはダダ泣きしながら観たんですけどね。なのでなおさら、あともう一歩…!と、久々に新人作家のネームを直す漫画編集者魂が発動してしまいました。
以後、ねちねち語りますが、愛ゆえ、また一定以上高く評価しているからこそのダメ出しだと思っていただけると助かります。過不足のない最高傑作!と激賞している方は、ここでお引き返しくださいませ…
ところでゆうゆ(と勝手に呼ぶ)は柴田先生の『あかねさす紫の花』から宝塚歌劇にハマったのでしょうか? プログラムのコメントのラストにそんなようなリスペクトの言葉があり、とても良きでした。それでフィナーレのデュエダンの終盤に、「♪君を恋い、君を慕い、あてどなく…」あたりのメロディを乗せた…んですよね? ドラマチックでとてもよかったです、胸突かれました。
私は昭和の学生だったので、「白村江」はもちろん「はくすきのえ」派ですが、百済と唐の戦争に大和朝廷が派兵して大敗したこの戦いの謎に、「もし斉明天皇に、百済人との秘められた恋物語があったなら?」という着想を得て、生み出されたフィクションが『にぎたつ~』です。良きアイディアだと思いますし、史実の改変部分も含めてとてもいいストーリーに仕上がっていたと思いました。萌えもドラマもとてもよかった、好みでした。
だからこそ、もっと引っかからせず、もっと素直に萌えさせたぎらせ盛り上がらせてほしかった…!と細かいところが気になってしまったのです。過剰な要望かもしれません。これで十分伝わった、おもしろかった、よかった、という方ももちろん多いことでしょう。でも、もっと高みが目指せたと思うのです…! そして今のままでは、『月雲の皇子』と比べて語るのは乱暴だと思いました。アレはマジ別格…!!
ただ、あの作品もそうでしたし、今は東上しなくても、数年後でも再演されてもいいかな、とは思います。なんせかりんさん智積がとてもいいので。もちろん彼女は夏には花組へ組替えしてしまうのですが、例えば大空さんの『銀ちゃんの恋』も、まあスミカが一緒に異動していたからかもしれませんが、花組でやったものを宙組でも再演しました。大空さんはタニとの役替わりの『ラスパ』でも、ヒロイン入れ替えというかなんというか…な不思議な組を跨いだ再演もしています。こういうケースもあってもいいと思うのです。だいややらいとやれいんやまるちゃんが、いい仕事するかもしれないじゃん…!
そのときは以下、ブラッシュアップしてくれたりするとなおいい…!と思うのでした。
さて、時代としては『日出処の天子』のあと、『あかねさす~』や『飛鳥夕映え』『鎌足』前夜あたり…?と思いつつも、歴史にめっちゃくわしいとかはないので予習どうしようかな、など案じていましたが、「特に要らない」というツイートを見て、確かにあまり勉強しちゃうとネタバレしちゃったり観劇自体の興を削ぐかもしれないので、まずはこちらの人物相関図を眺める程度にしておこう…とマイ初日に向かいました。で、これくらいは押さえておいてよかった!と感じましたし、ホントになんにも知らないで来る人にももうちょっと親切に作ろうよ、とは思いました。
というか創作鉄則その1なのでゆうゆコレだけまず覚えて? 役を出したらすぐ名乗らせる! ないし周りの人間にすぐ呼びかけさせて、観客にその役の名前を知らせる! 隙あらば何度でもやる! コレ大事。てか絶対に必要。宝塚歌劇はファンが観るものだから、ある程度は中の人で識別するものだけれど、みんながみんなのファンじゃないし衣装を着替えたら誰だかわからなくなったとかフツーにあるんだし、役としてきちんと把握させなきゃダメ。そのためにはまず名前! これが今回は圧倒的に足りませんでした。これはいただけません。すぐ直せるんだからすぐ直して!
冒頭、さりお覚従(碧海さりお)はしばらくしたらうたちから呼ばれるから名前がわかるけれど(でもこれも第一声でもいいくらいです)、うたちは名前が出ないまんまじゃん。このときは斉明天皇なんだっけ? ちゃんと出しましょう。台詞には「大君にお伝えを…」云々とかあるけれど、この人のことだと明確にわかりません。女帝が多い時代ではあるけれど、普通は、この人は女性だし大君の妻、皇后ってことなのかな? 夫である天皇に伝えてくれと言われてるのかな? で、この人はなんて名前の誰なの?? とか思っちゃうでしょ。キャラクターの名前、立場を最低限説明してから話を進める、鉄則です。2幕後半でここに再び戻ってくる構成は素晴らしいだけに、残念でした。
てかこの前の、かりんさん独特の声の開演アナウンスと、月と、「熟田津に船乗りせむと…」の歌と(カゲソロは星咲希)…の幕開きは素晴らしすぎましたね。あっという間に世界に引き込まれました。(個人的に『天守物語』の月と並びましたよ…! あとはやはり『月雲~』の月、ね…)
で、話戻って、御剣くんは人質になっていた百済の皇子・扶余豊璋(御剣海)と説明されてから出てくるからいいとして、そこにさらに出た碧音くんがノー名乗りノー呼びノー説明なんですよ、これもダメすぎでは? 名前も立場もわからない、大和側の人間だとしかわからない。それともあとで、子役のふみたんから変わったところで「あっ!」って思わせたいの? でもそんなの無理だと思うんですよ…てかこの時点ではこのふたりがこうして戦っていることは観客にとってはなんの意味もないことなので、むしろ出さなくてもいいくらいかもしれません。それか後半、もう一回この場面もやるとよかったのかも。そこでならこの戦闘ダンスはあってよかったと思うんだけれど、ここに置くにはやや長いと私は観ていて感じました。なんせフツーの観客は主役の登場を待っているので、これだと前振りがあまりに長すぎると感じると思うのですよ…あと今回、殺陣が全体にあまり良くなくて(殺陣/清家一斗。もちろん生徒の技量の問題もあるのかもしれませんが…)けっこう残念だったので、もっとがんばるかもっとダンスに振るかしてほしかったかな、とは感じました。
白村江の戦いが惨敗に終わり、覚従は四十年前を思い出す。ここは遠い昔、百済から船に乗ってやってきた浜だ、智積とともに留学生として希望に満ちあふれて渡ってきた海だ…と。で、月、船の上に後ろ姿、振り返ってライト! 拍手! ソロ! これは大正解で良きでした。ベタ演出はいつでもサイコーです。
若くなった(笑)覚従と智積が合流して、でもここでふたりのキャラの違いをもっと出しておきたかったですね。智積は「そういうのはおまえに任せる」とか言ってさっさといなくなっちゃうんだけれど、「そういうの」ってのはつまり政治的な配慮とか社交辞令とかいったことかと思うのですが、わかりづらいし、それだと天真爛漫キャラになっちゃって、真面目で正しすぎる男、みたいなのとちょっと齟齬が出ると思うのです。出世とか権力争いみたいなことには興味がない、真面目で純粋な学問好きで好奇心旺盛で、それですぐどっか行っちゃう…みたいな描写が上手くできるといいですよね。キャラ表現をせずにスターのチャームにおんぶに抱っこでは、作家としてはダメだと思うよゆうゆ…
天皇に拝謁するには丸腰で、という規定はよくあるものだし納得だけれど(むしろ学生がいちいち帯刀しているものなのか?と私は感じたのですが…どうなんでしょう?)、ここの台詞の「潔白」ってのは変では? それとも何か聞き間違えてます?私…
禁じられた懐刀を手に進もうとしている寶と、智積がぶつかる。古い少女漫画の出会いのパターンですが、まあベタでいいでしょう。でも私はこれが刀か巻物か判別できず、はて?となりました。しかもそのあとことの顛末がわかっても、結局なんのための刀だったのかよくわからなかったのですが…私が鈍いだけだというならすみませんが、でももっと自明じゃないとダメでは? そもそも寶はこの時点で、夫の高向王(颯香凜)と別れたかったの? それとも酒に溺れて暴力を振るうようにはなったけれど、彼のせいではないとかばおうとする気があったの? この刀で何をするつもりだったの? 彼を殺して自分も死ぬ、とか? では盟神探湯の裁きを信じてなかったということ? 説明プリーズ…状況や心情がわからないとヒロインに共感できないじゃん、もっと工夫してほしかった…
その後も、「推古天皇のおなり」の台詞のあと、田村皇子(稀惺かずと)と寶の名も呼ばわせましょうよ、でないとヒロインがここに再度現れたことに気づかない観客もいるって…田村なんかずーっと名前も出ないし、何者?ってなっちゃうじゃん。智積が「あの人は…」と気づいて、覚従か観勒が解説する、とかが欲しいです。私はこのふたりはどの立場でここにいるのか全然わかりませんでした。普通に考えれば推古天皇の息子と娘に見えると思うんですよ、王子と王女として玉座のそばにいるのかな?と思うじゃん。でもホントは親子でも兄妹でもなくて、でも縁戚ではあり王族ではあるんでしょ? それはここで出しておいた方がいい情報なのでは?
あと、智積たちを紹介する蝦夷(輝咲玲央)自身もまず名乗らせましょう、誰だかわかりません。アタマに「大臣の蘇我蝦夷が申し上げる」とかなんとか言わせればいいだけなんですから。ついでに、この人が長く大臣をやっていて天皇を圧迫しているのだ、という政治状況がここで説明できるとなおいい。その対立構造はこのお話のキモなんだから、早く提示するに越したことはありません。
その後の盟神探湯のくだりはよかったんですけれど、でもそもそも高向王と寶皇女が夫婦だってのもここで提示してから始めてもよかったんじゃないですかね? 知らない男の知らない罪の裁判を観るより、観客もその方が真剣に観られるでしょ? そして結局、高向王の罪や罰はどういうことになったのか、よくわからなかったんですけど…DVが暴かれて、寶とは離婚が成立した、みたいな「裁き」がきちんと下されるべきだったのでは? そのあとの寶のソロで、彼女の境遇が少し判明しますが、遅いというかスムーズじゃないんですよね…ちなみに赤ん坊は「病に倒れる」とは言わないのではあるまいか。だってまだつかまり立ちもしないうちに亡くなったようだし…頼むよー、こういうところにいちいち引っかかりたくないんだよー…(ToT)
で、そんな寶の両親が学堂の隣に暮らしていて、寶の弟・軽皇子(凰陽さや華)を通わせている…んだけど彼は最後までずーっと名前が出ません。ひどすぎる…呼ばせなよ! きちんと認識させてよ! 衣装が変わらないし寶を「姉さん」と呼んでいるから弟役なのはわかるけど、その後完スルーだったけどまがりなりにも一度は天皇になる人じゃん…! あと、なのでここ以前に寶が推古天皇の親戚だと明らかにしておかないと、ここのあまりのフツーのホームドラマ感に、単にお嬢さま程度なのかな?ってなっちゃうじゃん。身分差は強調しておいた方が、のちの主人公たちの恋愛がドラマチックになりますよ…!
「普段は後宮にいる」ってだけなら侍女かなんかなのかな? だってフツーのお嬢さんのようだし…ってなりません? なんで智積はこれだけで「王族なのか」と思えるのでしょうか…?
そのわりに智積が寶になれなれしいのも気になります。書を教えるのに熱心で接近してしまって…とかいうのはいいんだけれど、身分ある人に対してはもっとかしこまる人柄なんじゃないのかなあ? 百済からの留学生の立場は、尊敬されているようでいて所詮外国人、と見下されている部分もあるはずで、智積はそこで喧嘩するタイプじゃないだろうから、もっと腰が低く常にへりくだっている感じの方がキャラに合うのでは?と感じました。この作品は和製『ディミトリ』だとも言われているようですが、そのあたりの身分差の緊張感が足りないです。だって智積、皇子相手にすぐ「おまえ」とか言うじゃん。それじゃ身分差も強調されないし、結果ドラマが盛り上がりづらくなると思うんですよねぇ…
小鈴(鳳花るりな)の登場はややランボーですが、これはおもしろい筋でしたね。でもパロほどのキーパーソンにまでは至っていなかったのがやはり惜しい…あとやはり筆の正しい持ち方から教えるべきではないのか(笑)。
蓬莱寺のくだりの、蝦夷と観勒の癒着や豪族・僧侶の堕落の描写はよかったし、それに抗い小鈴を救おうとする智積もよかったんだけど、絹を奪った智積を蝦夷があっさり見逃すのはナゾだし、その絹を米に換えるのに智積が「蘇我に言いつけるぞ」って言うのは…カッコ悪くないですか?? 私はちょっとしょんぼりしましたけど…???
まあ、正しいことが必ず通るとは限らないのが世の中だ、というのはわかります。そこからの回想シーンもなかなか良く、なんてったって『BF』に続いてまたかりんさんの子供時代を演じる俺たちの茉莉那ふみがまた上手くて素晴らしいのです。ただこのエピソード自体は、なかなか微妙ですよね…自分の正義を貫くことで父親を死なせているワケですけど、そんな主人公は微妙では? それでも俺は折れない、正義を曲げない、ってのは…イヤいいんだけどうーん…
推古天皇と寶の場面はちょっとよかったですね。なくてもいいようなくだりではあるんだけれど、ふたりの女性に志があり政治家としてしっかりしていそうなところとか、寶が推古天皇を敬愛していて支えたいお仕えしたいと思っている…というのは見せておいていい要素だと思いました。というかもっと寶を描き込んだ方か、今っぽくてより良い作品になるのではないかしらん、など考えました。
でも「たくましい」の乱発には私はやはり引っかかったかな…男女差別と言われようと、女性の表現として似つかわしくない気がしましたしね。凜々しい、とか気高い、とかじゃダメだったのかなあ…
しかし私は次期はありうたちがいいんですけれど、正直ルリハナの方が上手いな…とは思ってしまいます。前回のアメリカ大統領といい、「頂」のお役が続いていますが、さすがでございます…
日記の盗み読みはアレだけど、智積と寶の心が寄り添い合っていく描写はニマニマできて良きでした。が、本当は寶もここまでに今ひとつキャラが立っていなくて、智積が恋に落ちるほどには思えないのがもったいなかったかなー。このあとで田村が歌うように、本当はおてんばで才気煥発な明るい女性で、家のためにした最初の結婚やそこで子供を亡くしたことに傷ついてはいたけど、吹っ切れてくると生来のそうした魅力が出てきて…というのが智積の「泣いたり笑ったり」云々みたいな台詞につながるんだろうし、それで智積も心を動かすんだろうけど、そういう描写ができていないんですよねー…言われるほど強がっている描写もなかったし。でも、海に照る月の話題で盛り上がり、約束をし、ポスター構図で寄り添い合うふたり…という流れはとても美しいのでした。
さて、続く蘇我邸の場面。ここでもにじょはなちゃんの名前や立ち位置の説明がされるのがかなり遅いので、それまで妻なの?妾なの?侍女なの?と考えさせられるのがしんどいです(正解は妹)。入鹿(大希颯)も同様。「さすがお兄様の息子」みたいな台詞でやっと関係性が明らかにされる…もうちょっと上手くなんとかしてほしいですね。ここの悪役ソングはベタで良きでしたが、余計に『ディミトリ』感が出ちゃいましたかね…
さてしかし次の場面での田村皇子の歌、たまりませんでしたね! 智積の呼び捨てに眉をひそめるところから、もうたまらん!!(しかし寶皇女というのは名前というよりは役職名、通称に近いようなもので、個人としての名はもっと別にあったんでしょうね、など思います。中大兄皇子なんかも、そのパターンですよね。三兄弟の真ん中で大兄で皇子だってことしか表していない…)私はキャラクターやポジションとしては、この田村が超のつくツボなんです。田村が幼なじみの寶をずっと好きだったとせつせつと歌い、しかし紗幕の奥では智積と寶がキャッキャウフフしている…この構図が嫌いな人がいましょうか!?(笑)しかもこのキャッキャウフフ、ふたりの心の距離が近づきつつある…みたいなイメージシーンかと思いきや、実はやることやってるという驚きの展開になるんですもんね!? イヤ手が早いな智積!(笑)まあ寶も生娘ではないし、この時代の婚外性交はもっとおおらかなものだったのかもしれませんが…でもスキャンダルではあるのでしょう。でも誰の子だソングは下世話すぎやしないか…風が吹いちゃいそうなんでやめていただきたかったです。それか腹筋が震えてしまう…
朝顔場面は、朝顔が今ひとつ美しく見えないなあ…など思ってしまいました、すみません。このころの「結婚」は、そもそも結婚という用語もまだなかったのかもしれないし、通い婚だったり一夫一婦制じゃなかったりでいろいろおおらかなのでしょう。このふたりが、子供ができたから結婚、とはならないのもわかる気はしますが、でもそれは智積が外国人だし、寶が皇族だし、という理由があるからで、でもふたりの愛は永遠だ…みたいなことをもっとクリアに台詞にできるといいかな、と感じました。理屈ぽい人間ですみません…あとは、智積には思い当たるところがあるんだから、寶に安易に「もしかして…」とか聞かせないでほしい。寶に他にも男がいると思っているように聞こえちゃうでしょ?
一方で、いつのまにか法堤郎女(二條華)も田村にちゃっかり嫁いで男児を産んでいる…つっこみたいけれどここは我慢。ところで寶の侍女の秋坂(星咲希。ちなみに耳でだけ聞いていたときはもっと素敵な漢字の名前なのかと思っていました…ここも『月雲』の蜻蛉に敵わないのですよ)はここでやっとちゃんと出たけれど、ハナから姫様に付き従っているべきではないんですかね…?
しかしかりんさんのパパ姿が観られるとは…メロでしたね……ただ、ここの智積が歌う子守歌はおそらく朝鮮語なので寶が「何をお歌いで?」みたいなことを言っているんだと思いますが、観客にはそこまで類推しづらいので、歌詞に木槿の朝鮮名を入れるとか、一節は朝鮮語で歌わけるとか(たとえなんのことか意味はわからなくても)、何か工夫が欲しかったところです。しかしのちに長じた中大兄皇子(子供時代は茉莉那ふみ。父の子供時代を演じた生徒が息子の子供時代も演じる、このニヤリ感よ…!)がこのメロディを笛で吹く…というのには胸突かれました。良きアイディア!
推古天皇の病は篤く、次の天皇に田村皇子を指名し、寶には皇后に立てと言う。ここ、わかりづらいです。はっきり「田村に嫁いで皇后となり、田村を支えて国を統べよ」と言わせたほうがいい。寶にとっては皇位につくことより、智積がいるのに田村に嫁がされることが問題なんですから。結婚という言葉が出せないにしてもそこはクリアにしておかないと…今のままだと天皇と独立して皇后になるみたいじゃん。そういうことじゃないでしょ?
小鈴のスパイ活動によって智積の日記が偽造され、茅渟王(美稀千種)の謀反が捏造され、追っ手がかかり、寶も智積を疑ってしまう…わかっちゃいるけど全員登場のいわゆるイケコ式1幕ラスト、盛り上がりますね! 懸命に巻物を投げ広げるかりんさんも愛しいです(笑)。キャーッ!!!
あ、でもここでつんつん田村の天皇名をちゃんと出しておきましょう。「舒明天皇のご即位!」とかなんとか言わせておけばいいだけなんですから。あとで突然出しても「誰?」ってなっちゃうでしょ…(ToT)
第2幕。ちょっと時間が戻っているような形になるのか、舒明天皇になった田村が茅渟王の嫌疑を晴らしてくれる。でもそれを理由に寶に婚儀を迫っちゃうようなところが田村なのよ、たまらん…! それに対して寶が智積との息子の処遇の話を出すのは、打算的ではあるけれどある種当然でもあるのでいいんだけれど、「あの子」より「私の息子」の方が良くないですかね? そして、寶の嫁入りと皇后就任、自分の息子が蹴落とされそうなことに怒る法堤の「あの女」もわかりづらい…指示代名詞は上手く使わないとダメなんですよ、「寶皇女」とはっきり言わせたほうがいいと感じました。
智積たちの学堂は山奥に移転させられたようで、やや廃れている模様。なので多少時間が経っているのではないかと思うのです。その後のシーンでもかりんさんはかなり落ち着いた芝居をして見せていますが、しかし具体的に「あれから何年」みたいなことは言わせてもいいのかも。そして、なのでこのあとの岡本宮の火事(これは史実だそうですね)でも、ここの中大兄はもう赤ん坊ではなく、2、3歳児くらいになっていてもいいのでは…と思いました。それくらいの子供のぬいぐるみ?を使うのは微妙なのかもしれませんが…あと、秋坂の脚に添え木を当てるくだり、要ります? これで智積が医学にくわしいとするのは苦しいのでは…私は無駄なターンに感じました(^^;)。でもこのあたりの田村もすごくいいですよね、罪悪感に自家中毒のようになっていき、転落していく弱さがたまらん…!
一方、人質として百済からやってきた皇子の扶余豊璋と中大兄がひょんなことから親交を結び、ともに智積の学童に通うようになり、茉莉那ふみが碧音斗和に成長する…104期の並び、エモすぎます! 大樹の向こうに回って入れ替わらなくても、背中合わせになってくるりんとしたら「成長著しい」のです、良き! ここの「♪止め跳ね払い」リプライズ、そら泣くよね…!
もう一方、田村、今は舒明天皇の信頼篤い入鹿は、天皇に仕え看護する一方で毒を飲ませている…105期の並び、エモ!! しかし、不審に思われないよう時間をかけて毒殺しようとしていることを表す会話が、受け答えが変なので要再考。薬を怪しんだ寶が、智積を頼って山奥の学堂を訪ねる…せつない再会でした。
舒明天皇は湯治のため熟田津を訪れる。ここのひよりんが大海人皇子(藍羽ひより)であることもすぐ名前を出して明かしましょうよー、わかる人はすぐわかってニヤリとするけれど、そういうの要らないよ…ともあれ寶は舒明天皇との間に大海人をもうけて、それなりに円満なのでした。
死期を悟った舒明天皇は、寶を次の天皇とする違勅を残そうとする。しかし田村には人の筆跡を真似る特技があって智積の日記を偽造できたけれど、智積にはそんな技はないはずなので、蝦夷に見破られない違勅を代筆するのは無理なのでは…?と思ったのですが、智積が厩戸皇子の経文か何かを筆写していたというくだりで、 彼もまた手跡まで真似て書いていたので田村のライバル云々という受け答えになっているのでは、というリプライをいただきました。なるほど…! あとは、智積が自分が書いたとされる日記を見て、ハネで田村の手による偽造だと知るくだりに関しても、「鏡のように」文字を移せるはずの田村が、罪悪感からか嫉妬心からか心が乱れて完璧な筆写ができなかったんだろう、という感想を読んで、またまたなるほど…!と思いました。「♪字は心を写し出す」という歌もありましたしね。そういう描写はなかったけれど、田村もこの学堂に通って、ともに学んだ時間があったということなのかもしれません。そのあたりで、寶が智積に和歌を教えたのかもしれません…
ともあれ、夫の違勅を受けて、寶は皇位につき、皇極天皇となります。これも天皇名を出した方がいいと思いました。
蘇我の刺客との乱闘で智積の髪がザンバラになるのは素晴らしすぎました。しかしここで中大兄との父子の名乗りがあるのは感動的だとしても、智積を父と呼んだ口ですぐ「亡き天皇の子である私に刃を向けた逆賊」云々と言わせるのは、ダメじゃん…(><)智積は捕縛され、死刑にもされそうなところを、外国人なのだから…と百済へ強制送還されることになる。とても大海など渡れそうにない、すぐにも沈みそうな小舟で…でもそんなこたぁ見ればわかるので、民にわざわざ言わせるのは間抜けだと思いました。
その後の顛末が類推できて、私は初見ではこのあたりからずっと号泣でしたが、でも本当のことを言えば、智積が何故この小さな船に乗ることに同意したのか、そして寶もまたそれを見過ごしたというか同意したというか…には、もっと理由が必要だと思います。智積をもっとズタボロにさせて、どのみちそう長くは生きられないと思わせるとか、息子とも親子の名乗りができたし愛した女とも再会できて誤解が解けて、もう思い残すことは何もないし、天皇になろうという彼女の足を引っ張りたくない…みたいな自己犠牲が見えると、よりよかったのではないかしらん。今はただ諦めの早い男に見えなくもない…あるいは観勒とかに何か脅迫めいたことを言わせてもいいと思うんですよね。それで、寶の足手まといに、邪魔になりたくないから、自ら消える決心をする智積…となるべきなのでは。ナウオンでは「愛とは許すこと」みたいな話が出ていましたが、智積のこの行動はさらに一歩進んで、愛する人のために、その邪魔になることを避けて自ら死のうというものなのですから…
「♪熟田津に船乗りせむと…」と、智積が歌い出す。のちに百済に向けて戦船を送り出すときに斉明天皇が額田女王(美玲ひな)に読ませたとされるこの歌は、ここで、このシチュエーションで、智積が歌ったのだ、という最大のフィクション…! そらもう号泣でした。
序に戻って、エピローグ。皇極天皇となった寶はその後弟に一度は皇位を譲り、しかしその弟が死去したので重祚して斉明天皇になっています。長い間、国と民のために尽くし働いてきた…そういう説明はあってもよかったのにな、と思います。そこで覚従に派兵を懇願され、これが自分の最後の仕事だろう、と出兵を決断する。この最後の仕事は、唯一のわがまま、だったのかもしれません。無謀で勝ち目がないことは見えていたのかもしれないからです。けれど寶は、智積がいつか帰る祖国を座して滅亡させるわけにはいかなかったのです。ずっとがんばって国を率いてきた女性の、最後の甘い判断を、誰が留め立てできるでしょう…
ここで早瀬まほろがひょいっと出てきていますが、名乗らせろっつってんの! ひよりんと背中合わせくるりん儀式をしてないんだから、誰だかわからないでしょ? 台詞から中大兄の弟だとはわかるけど、ちゃんと大海人だってわかんなきゃ意味ないでしょ? 万人が『あかねさす~』を履修していると考えてはいけません。ここの意味が伝わらないんじゃ効果半減です。
中大兄は父の祖国である百済を救おうとする、しかし大海人には大和がそこまでする意味がわからない。これがのちにこの兄弟の争いの遠因となるのである…大きな船がふたつに割れて、離れていく中大兄と大海人…! ここを正しくたぎらせたいでしょ!? 私は大感動しましたよ! 『春の雪』といい、乗り物の装置が真ん中でふたつに割れるのが嫌いな人なんていません!!(主語デカ…)
ところで中大兄のこの出生の秘密設定、不敬では?とつっこんでいるツイートを見かけましたが、史実でも中大兄の誕生は寶と田村の結婚より早いそうですね。まあ当時はいろいろあいまいなんだろうし順番もいろいろなんだろうし、男系男子にこだわっているのなんて近代のごく一部の層でしかないのだろうからどうでもいいっちゃいい気もしますけどね…
覚従は百済と大和を往復しているけれど、智積は百済に戻っていない。「まだ海を迷っておられるのですね…」、まさかの『長い春の果てに』! ちょっと…イヤだいぶ、海に、迷ってたんですね智積さあぁん!!
船団と月の向こうに、寶は幻を見て海へと駆け出す。入水というよりは、史実どおり寶はこの地で病に没したのでしょう。でも魂は月の照る海へ、そこで小さな船に乗って昔と変わらない笑顔を見せている、愛する男のもとへ還っていく…もう号泣ですよ。月光の中、船の上で抱きしめ合うふたり。最後の最後に「♪熟田津の海に月出づ」と、ここでタイトルを歌う智積…これを泣かないでおられましょうか……
あまりにも美しい、卑怯なまでに素晴らしいラストシーンだったのでした。
そしてフィナーレがたっぷりあります、良きですね! 『ベアベア』も『ラスジョ』もなかったからね!
まずはさりお、御剣くん、つんつんにあいみちゃんの星組若手ホープ四人がカッコよく。新公主演で線引いてるんでしょうけれど、本当は碧音くんもここに加えたかったですよね…さりおセンターに104期ふたり、105期ふたりという布陣が、今回の座組では素晴らしかったわけですからね…! でも御剣くんもよかったよ、新公ラーマに抜擢させるまではまだぼやっとしていたと思うので、間に合ってよかったです。最近スカステなんかでの露出も多いし、タッパがあってスタイル良くて華があるスターさんです。もちろんいつでもなんでも上手い碧音くんにも主演のチャンスが欲しかったけれどね…今後も大事にしてください。ちなみに105期もつんつんの方が上手いしこちらは華もありますが、なんせあいみちゃんのタッパやスタイルの良さは武器なので、劇団にはここをどうするつもりなのかを早急に考えてきちんと手当てしていただきたいです。正直今さら100期を組替えさせている場合ではない、タレントいまくりの105期をどうにかしないとまた95期みたいなことになりますよ…?
そしてさりおも大事にしてください…! いい人役、親友役をたくさん観てきた気がしますが、主人公のピンチにおっとり刀で駆けつける格好良さは初出だった気がしました。素敵でしたよー!!
そのあと男役群舞が続いて、かりんさんが加わって、ワタクシまた号泣…ありちゃんのあと、他に天飛くんとかが加わって、この布陣で星組本公演をやるんだと思っていたのにと思うと、泣けて泣けて仕方なかったのです。しかし贔屓目もあるのかもしれませんが、ここの振付、ダンスはよかったな。同じ花郎ふうのお衣装のダンスでも、私は『不時着』のフィナーレにはあまり感心しなかったので…
月光イメージの白いお衣装の娘役さんたちが出て、センターはルリハナちゃん。優雅でとても良きでした。そしてふたつの輪が作られて、それぞれから智積かりんさんと寶うたちが現れる…
本編でも何度か連れ舞をしているわけですが、それでもやはり格別でした。スモークが美しく、涙でよく見えませぬ…流れるメロディに『あかねさす~』のワンフレーズが入るのも良き。
そしてうたちが去って、かりんさんがひとり残ってもうひと踊り。やだスターさんみたい…!とまた爆泣きするワタクシ。別にダンサーじゃないしたいしたこともしていないんですけど(オイ)、のびのび踊っていてすがすがしく神々しく、また涙、涙。最後にピンクの花びらが舞い散り、そっとひとひら手のひらにつかんで微笑み、キメ…泣かせに来てるんだ、わかってるんだ、だが泣いてしまうんだ…!!
パレードはひよりんふみたんの子役コンビから。月光や采女ではちゃんと美女でしたよー。プログラムでもそうですし、ラインナップも主役ふたりの両サイドは組長とまりんさんなので二番手扱いはしないということなのでしょうが、つんつんもさりおもパレードはちゃんと扱われていて良きでした。最後にうたち、そしてかりんさん。晴れやかな笑顔で三方礼、カテコのご挨拶は特にひねりナシ。良き、良きです。
マイ初日観劇後に、こちらなど読ませていただき、改めて勉強しました。
かりんさんの顎のほくろはものによっては消されていますが、今回のポスターにはちゃんとあってとても良き。このほくろがいいんですよ! 何故消す!?
ロゴも、普通の明朝体でないところがとても素敵。星空を大きく入れた構図も素敵。久々にB2ポスター買っちゃいましたよ…!
智積が特に笑っていなくて、もの言いたげにちょっと唇を開きかけているところが好き。本編のポーズとちょっと違うんですよね、そこがいい。本編では寶もただ智積の肩に頭を乗せただけで、両手とも自分の膝に置いていたと思いますし、ふたりはもっと微笑んでいたと思います。こんなふうにして語らった、あるいは語らずただ寄り添い合ったいくつもの夜が、このふたりにあったのね…と思わせる深さ、濃さがあると思いました。
プログラムの表4に主役の写真を入れず、星空のみとしている潔さもたまりません。
ゆうゆ、アレコレ言いましたが、そして勝手にニックネーム呼びしてすみませんが、第二作にも期待しています…!
というわけで、かりんさん、特に何がいいとか上手くなっているとかはない気もするのですが(だがそこがいいのだ…歌声が時にヨレるところとかも。これはもはや芸ですよ…!)、こんなにも純粋でまっすくであたたかできよらかで優しく凛々しく頼もしく、包容力のある男性の役を、なんら嘘臭くなく、てらいなく嫌味なく演じられる…というのがまさしく才能、立派な芸だと思います。本人の人柄まんま…というよりは、ちゃんと役を生き役を体現しているんだと思うので…そのことが本当に素晴らしいです。素直で真面目で温かな人柄によく沿う、素敵なお役に当たって、本当によかったです。いいお役、いい作品を引き当てるのは運なのか、何かが呼び寄せるのか…でもこの先、ダメダメ作品をスターの力任せになんとかするようなところも観てみたい気もします。なんともならなくても、それはそれ(笑)。好きなので甘くてすみません…
正直まだ花組での姿を思い描けませんが、しかしVISAガールは似合いそうなんで是非…!とか思ってしまいます。ご本人は組替えに驚いたり不安を感じたりしているのでしょうか、お茶会にこのところ行けていないから話が聞けず、心配だわ…でも、まずは大尊敬しているこっちゃんから学べるものをすべて学んで、ありちゃんともキャッキャウフフして(笑)、のびのび育っていってください。応援しています…!
そしてうたち、可愛いし達者なんだけど、以前まどかにもあったような、焦ったり感情的になる演技で声が跳ね上がるのがあまり美しくないので、上手く修正できるといいなと願っています。小さいから誰にでも合うし、逆に言えばありちゃんは多少背が高い相手役でもものともしないタイプにトップスターになるのでしょうが…ありうたちがいいなあ、どこの月組だよって言われても次期はありうたちが私は希望です。でもこればっかりはなんとも…ですね。星娘も新公ヒロイン経験者がわんさといるからなあぁ…(でもるりなたんにもチャンスをいただければと思っています…!)
所用あり、配信が見られなくて残念です。そして三番手主演だと円盤化がないんだろうから(そしてかりんさんトップ時代に販売されるヤツですね…!)、スカステ待ちになるので先が長いですね…てかなんで配信が平日昼間やねん、あと二度目の休演日が土曜だったのはなんでやねん。イヤいろんな都合の人がいるから万人にいいようにはできないのはわかっていますが、最大多数の最大幸福を狙うべきでしょ? 二度目も月曜休演にして千秋楽は水曜まで延ばしても、特になんの問題もなかったと思うのですが…? 謎…
いつかの再演を信じて、部屋に貼ったポスターを眺め続けますね。そのときの私はこのうたちのような表情をしている気がする…
これまたかなりのチケ難公演でしたが、なんとか二度観られて幸せでした。ご縁に感謝です…!
時は飛鳥時代。百済人の青年・智積(極美慎)は、留学生として大和にやってきた。推古天皇(瑠璃花夏)に拝謁するために小墾田宮を訪れた智積は、何かに怯えて震える寶皇女(詩ちづる)とすれ違う。百済人である観勒僧正(悠真倫)のもとで開いた学堂で書を教え始めた智積は、書生に混じって文机に向かう寶と再会して…
作・演出/平松結有、作曲・編曲/太田健、小澤時史。平松先生のデビュー作となる「幻想秘抄」、全2幕。
かりんさんの初バウ主演作『ベアベア』の感想はこちら。
悪くなかったと思っていますし、今回も悪くない、素敵なお役、作品だったと思います。主演作に恵まれる、というのはいいことですよね…!
ただ、マイ初日がけっこう後半だったため、「素晴らしい!」「名作!!」みたいな評判を聞きすぎていて、ちょっと期待しすぎて観てしまったせいもあるのかもしれませんが、残念ながらまあまあ粗があるように感じられて、もったいないぞ惜しいぞ…!と思いながらの観劇となってしまいました。とはいえ2幕後半、そしてフィナーレはダダ泣きしながら観たんですけどね。なのでなおさら、あともう一歩…!と、久々に新人作家のネームを直す漫画編集者魂が発動してしまいました。
以後、ねちねち語りますが、愛ゆえ、また一定以上高く評価しているからこそのダメ出しだと思っていただけると助かります。過不足のない最高傑作!と激賞している方は、ここでお引き返しくださいませ…
ところでゆうゆ(と勝手に呼ぶ)は柴田先生の『あかねさす紫の花』から宝塚歌劇にハマったのでしょうか? プログラムのコメントのラストにそんなようなリスペクトの言葉があり、とても良きでした。それでフィナーレのデュエダンの終盤に、「♪君を恋い、君を慕い、あてどなく…」あたりのメロディを乗せた…んですよね? ドラマチックでとてもよかったです、胸突かれました。
私は昭和の学生だったので、「白村江」はもちろん「はくすきのえ」派ですが、百済と唐の戦争に大和朝廷が派兵して大敗したこの戦いの謎に、「もし斉明天皇に、百済人との秘められた恋物語があったなら?」という着想を得て、生み出されたフィクションが『にぎたつ~』です。良きアイディアだと思いますし、史実の改変部分も含めてとてもいいストーリーに仕上がっていたと思いました。萌えもドラマもとてもよかった、好みでした。
だからこそ、もっと引っかからせず、もっと素直に萌えさせたぎらせ盛り上がらせてほしかった…!と細かいところが気になってしまったのです。過剰な要望かもしれません。これで十分伝わった、おもしろかった、よかった、という方ももちろん多いことでしょう。でも、もっと高みが目指せたと思うのです…! そして今のままでは、『月雲の皇子』と比べて語るのは乱暴だと思いました。アレはマジ別格…!!
ただ、あの作品もそうでしたし、今は東上しなくても、数年後でも再演されてもいいかな、とは思います。なんせかりんさん智積がとてもいいので。もちろん彼女は夏には花組へ組替えしてしまうのですが、例えば大空さんの『銀ちゃんの恋』も、まあスミカが一緒に異動していたからかもしれませんが、花組でやったものを宙組でも再演しました。大空さんはタニとの役替わりの『ラスパ』でも、ヒロイン入れ替えというかなんというか…な不思議な組を跨いだ再演もしています。こういうケースもあってもいいと思うのです。だいややらいとやれいんやまるちゃんが、いい仕事するかもしれないじゃん…!
そのときは以下、ブラッシュアップしてくれたりするとなおいい…!と思うのでした。
さて、時代としては『日出処の天子』のあと、『あかねさす~』や『飛鳥夕映え』『鎌足』前夜あたり…?と思いつつも、歴史にめっちゃくわしいとかはないので予習どうしようかな、など案じていましたが、「特に要らない」というツイートを見て、確かにあまり勉強しちゃうとネタバレしちゃったり観劇自体の興を削ぐかもしれないので、まずはこちらの人物相関図を眺める程度にしておこう…とマイ初日に向かいました。で、これくらいは押さえておいてよかった!と感じましたし、ホントになんにも知らないで来る人にももうちょっと親切に作ろうよ、とは思いました。
というか創作鉄則その1なのでゆうゆコレだけまず覚えて? 役を出したらすぐ名乗らせる! ないし周りの人間にすぐ呼びかけさせて、観客にその役の名前を知らせる! 隙あらば何度でもやる! コレ大事。てか絶対に必要。宝塚歌劇はファンが観るものだから、ある程度は中の人で識別するものだけれど、みんながみんなのファンじゃないし衣装を着替えたら誰だかわからなくなったとかフツーにあるんだし、役としてきちんと把握させなきゃダメ。そのためにはまず名前! これが今回は圧倒的に足りませんでした。これはいただけません。すぐ直せるんだからすぐ直して!
冒頭、さりお覚従(碧海さりお)はしばらくしたらうたちから呼ばれるから名前がわかるけれど(でもこれも第一声でもいいくらいです)、うたちは名前が出ないまんまじゃん。このときは斉明天皇なんだっけ? ちゃんと出しましょう。台詞には「大君にお伝えを…」云々とかあるけれど、この人のことだと明確にわかりません。女帝が多い時代ではあるけれど、普通は、この人は女性だし大君の妻、皇后ってことなのかな? 夫である天皇に伝えてくれと言われてるのかな? で、この人はなんて名前の誰なの?? とか思っちゃうでしょ。キャラクターの名前、立場を最低限説明してから話を進める、鉄則です。2幕後半でここに再び戻ってくる構成は素晴らしいだけに、残念でした。
てかこの前の、かりんさん独特の声の開演アナウンスと、月と、「熟田津に船乗りせむと…」の歌と(カゲソロは星咲希)…の幕開きは素晴らしすぎましたね。あっという間に世界に引き込まれました。(個人的に『天守物語』の月と並びましたよ…! あとはやはり『月雲~』の月、ね…)
で、話戻って、御剣くんは人質になっていた百済の皇子・扶余豊璋(御剣海)と説明されてから出てくるからいいとして、そこにさらに出た碧音くんがノー名乗りノー呼びノー説明なんですよ、これもダメすぎでは? 名前も立場もわからない、大和側の人間だとしかわからない。それともあとで、子役のふみたんから変わったところで「あっ!」って思わせたいの? でもそんなの無理だと思うんですよ…てかこの時点ではこのふたりがこうして戦っていることは観客にとってはなんの意味もないことなので、むしろ出さなくてもいいくらいかもしれません。それか後半、もう一回この場面もやるとよかったのかも。そこでならこの戦闘ダンスはあってよかったと思うんだけれど、ここに置くにはやや長いと私は観ていて感じました。なんせフツーの観客は主役の登場を待っているので、これだと前振りがあまりに長すぎると感じると思うのですよ…あと今回、殺陣が全体にあまり良くなくて(殺陣/清家一斗。もちろん生徒の技量の問題もあるのかもしれませんが…)けっこう残念だったので、もっとがんばるかもっとダンスに振るかしてほしかったかな、とは感じました。
白村江の戦いが惨敗に終わり、覚従は四十年前を思い出す。ここは遠い昔、百済から船に乗ってやってきた浜だ、智積とともに留学生として希望に満ちあふれて渡ってきた海だ…と。で、月、船の上に後ろ姿、振り返ってライト! 拍手! ソロ! これは大正解で良きでした。ベタ演出はいつでもサイコーです。
若くなった(笑)覚従と智積が合流して、でもここでふたりのキャラの違いをもっと出しておきたかったですね。智積は「そういうのはおまえに任せる」とか言ってさっさといなくなっちゃうんだけれど、「そういうの」ってのはつまり政治的な配慮とか社交辞令とかいったことかと思うのですが、わかりづらいし、それだと天真爛漫キャラになっちゃって、真面目で正しすぎる男、みたいなのとちょっと齟齬が出ると思うのです。出世とか権力争いみたいなことには興味がない、真面目で純粋な学問好きで好奇心旺盛で、それですぐどっか行っちゃう…みたいな描写が上手くできるといいですよね。キャラ表現をせずにスターのチャームにおんぶに抱っこでは、作家としてはダメだと思うよゆうゆ…
天皇に拝謁するには丸腰で、という規定はよくあるものだし納得だけれど(むしろ学生がいちいち帯刀しているものなのか?と私は感じたのですが…どうなんでしょう?)、ここの台詞の「潔白」ってのは変では? それとも何か聞き間違えてます?私…
禁じられた懐刀を手に進もうとしている寶と、智積がぶつかる。古い少女漫画の出会いのパターンですが、まあベタでいいでしょう。でも私はこれが刀か巻物か判別できず、はて?となりました。しかもそのあとことの顛末がわかっても、結局なんのための刀だったのかよくわからなかったのですが…私が鈍いだけだというならすみませんが、でももっと自明じゃないとダメでは? そもそも寶はこの時点で、夫の高向王(颯香凜)と別れたかったの? それとも酒に溺れて暴力を振るうようにはなったけれど、彼のせいではないとかばおうとする気があったの? この刀で何をするつもりだったの? 彼を殺して自分も死ぬ、とか? では盟神探湯の裁きを信じてなかったということ? 説明プリーズ…状況や心情がわからないとヒロインに共感できないじゃん、もっと工夫してほしかった…
その後も、「推古天皇のおなり」の台詞のあと、田村皇子(稀惺かずと)と寶の名も呼ばわせましょうよ、でないとヒロインがここに再度現れたことに気づかない観客もいるって…田村なんかずーっと名前も出ないし、何者?ってなっちゃうじゃん。智積が「あの人は…」と気づいて、覚従か観勒が解説する、とかが欲しいです。私はこのふたりはどの立場でここにいるのか全然わかりませんでした。普通に考えれば推古天皇の息子と娘に見えると思うんですよ、王子と王女として玉座のそばにいるのかな?と思うじゃん。でもホントは親子でも兄妹でもなくて、でも縁戚ではあり王族ではあるんでしょ? それはここで出しておいた方がいい情報なのでは?
あと、智積たちを紹介する蝦夷(輝咲玲央)自身もまず名乗らせましょう、誰だかわかりません。アタマに「大臣の蘇我蝦夷が申し上げる」とかなんとか言わせればいいだけなんですから。ついでに、この人が長く大臣をやっていて天皇を圧迫しているのだ、という政治状況がここで説明できるとなおいい。その対立構造はこのお話のキモなんだから、早く提示するに越したことはありません。
その後の盟神探湯のくだりはよかったんですけれど、でもそもそも高向王と寶皇女が夫婦だってのもここで提示してから始めてもよかったんじゃないですかね? 知らない男の知らない罪の裁判を観るより、観客もその方が真剣に観られるでしょ? そして結局、高向王の罪や罰はどういうことになったのか、よくわからなかったんですけど…DVが暴かれて、寶とは離婚が成立した、みたいな「裁き」がきちんと下されるべきだったのでは? そのあとの寶のソロで、彼女の境遇が少し判明しますが、遅いというかスムーズじゃないんですよね…ちなみに赤ん坊は「病に倒れる」とは言わないのではあるまいか。だってまだつかまり立ちもしないうちに亡くなったようだし…頼むよー、こういうところにいちいち引っかかりたくないんだよー…(ToT)
で、そんな寶の両親が学堂の隣に暮らしていて、寶の弟・軽皇子(凰陽さや華)を通わせている…んだけど彼は最後までずーっと名前が出ません。ひどすぎる…呼ばせなよ! きちんと認識させてよ! 衣装が変わらないし寶を「姉さん」と呼んでいるから弟役なのはわかるけど、その後完スルーだったけどまがりなりにも一度は天皇になる人じゃん…! あと、なのでここ以前に寶が推古天皇の親戚だと明らかにしておかないと、ここのあまりのフツーのホームドラマ感に、単にお嬢さま程度なのかな?ってなっちゃうじゃん。身分差は強調しておいた方が、のちの主人公たちの恋愛がドラマチックになりますよ…!
「普段は後宮にいる」ってだけなら侍女かなんかなのかな? だってフツーのお嬢さんのようだし…ってなりません? なんで智積はこれだけで「王族なのか」と思えるのでしょうか…?
そのわりに智積が寶になれなれしいのも気になります。書を教えるのに熱心で接近してしまって…とかいうのはいいんだけれど、身分ある人に対してはもっとかしこまる人柄なんじゃないのかなあ? 百済からの留学生の立場は、尊敬されているようでいて所詮外国人、と見下されている部分もあるはずで、智積はそこで喧嘩するタイプじゃないだろうから、もっと腰が低く常にへりくだっている感じの方がキャラに合うのでは?と感じました。この作品は和製『ディミトリ』だとも言われているようですが、そのあたりの身分差の緊張感が足りないです。だって智積、皇子相手にすぐ「おまえ」とか言うじゃん。それじゃ身分差も強調されないし、結果ドラマが盛り上がりづらくなると思うんですよねぇ…
小鈴(鳳花るりな)の登場はややランボーですが、これはおもしろい筋でしたね。でもパロほどのキーパーソンにまでは至っていなかったのがやはり惜しい…あとやはり筆の正しい持ち方から教えるべきではないのか(笑)。
蓬莱寺のくだりの、蝦夷と観勒の癒着や豪族・僧侶の堕落の描写はよかったし、それに抗い小鈴を救おうとする智積もよかったんだけど、絹を奪った智積を蝦夷があっさり見逃すのはナゾだし、その絹を米に換えるのに智積が「蘇我に言いつけるぞ」って言うのは…カッコ悪くないですか?? 私はちょっとしょんぼりしましたけど…???
まあ、正しいことが必ず通るとは限らないのが世の中だ、というのはわかります。そこからの回想シーンもなかなか良く、なんてったって『BF』に続いてまたかりんさんの子供時代を演じる俺たちの茉莉那ふみがまた上手くて素晴らしいのです。ただこのエピソード自体は、なかなか微妙ですよね…自分の正義を貫くことで父親を死なせているワケですけど、そんな主人公は微妙では? それでも俺は折れない、正義を曲げない、ってのは…イヤいいんだけどうーん…
推古天皇と寶の場面はちょっとよかったですね。なくてもいいようなくだりではあるんだけれど、ふたりの女性に志があり政治家としてしっかりしていそうなところとか、寶が推古天皇を敬愛していて支えたいお仕えしたいと思っている…というのは見せておいていい要素だと思いました。というかもっと寶を描き込んだ方か、今っぽくてより良い作品になるのではないかしらん、など考えました。
でも「たくましい」の乱発には私はやはり引っかかったかな…男女差別と言われようと、女性の表現として似つかわしくない気がしましたしね。凜々しい、とか気高い、とかじゃダメだったのかなあ…
しかし私は次期はありうたちがいいんですけれど、正直ルリハナの方が上手いな…とは思ってしまいます。前回のアメリカ大統領といい、「頂」のお役が続いていますが、さすがでございます…
日記の盗み読みはアレだけど、智積と寶の心が寄り添い合っていく描写はニマニマできて良きでした。が、本当は寶もここまでに今ひとつキャラが立っていなくて、智積が恋に落ちるほどには思えないのがもったいなかったかなー。このあとで田村が歌うように、本当はおてんばで才気煥発な明るい女性で、家のためにした最初の結婚やそこで子供を亡くしたことに傷ついてはいたけど、吹っ切れてくると生来のそうした魅力が出てきて…というのが智積の「泣いたり笑ったり」云々みたいな台詞につながるんだろうし、それで智積も心を動かすんだろうけど、そういう描写ができていないんですよねー…言われるほど強がっている描写もなかったし。でも、海に照る月の話題で盛り上がり、約束をし、ポスター構図で寄り添い合うふたり…という流れはとても美しいのでした。
さて、続く蘇我邸の場面。ここでもにじょはなちゃんの名前や立ち位置の説明がされるのがかなり遅いので、それまで妻なの?妾なの?侍女なの?と考えさせられるのがしんどいです(正解は妹)。入鹿(大希颯)も同様。「さすがお兄様の息子」みたいな台詞でやっと関係性が明らかにされる…もうちょっと上手くなんとかしてほしいですね。ここの悪役ソングはベタで良きでしたが、余計に『ディミトリ』感が出ちゃいましたかね…
さてしかし次の場面での田村皇子の歌、たまりませんでしたね! 智積の呼び捨てに眉をひそめるところから、もうたまらん!!(しかし寶皇女というのは名前というよりは役職名、通称に近いようなもので、個人としての名はもっと別にあったんでしょうね、など思います。中大兄皇子なんかも、そのパターンですよね。三兄弟の真ん中で大兄で皇子だってことしか表していない…)私はキャラクターやポジションとしては、この田村が超のつくツボなんです。田村が幼なじみの寶をずっと好きだったとせつせつと歌い、しかし紗幕の奥では智積と寶がキャッキャウフフしている…この構図が嫌いな人がいましょうか!?(笑)しかもこのキャッキャウフフ、ふたりの心の距離が近づきつつある…みたいなイメージシーンかと思いきや、実はやることやってるという驚きの展開になるんですもんね!? イヤ手が早いな智積!(笑)まあ寶も生娘ではないし、この時代の婚外性交はもっとおおらかなものだったのかもしれませんが…でもスキャンダルではあるのでしょう。でも誰の子だソングは下世話すぎやしないか…風が吹いちゃいそうなんでやめていただきたかったです。それか腹筋が震えてしまう…
朝顔場面は、朝顔が今ひとつ美しく見えないなあ…など思ってしまいました、すみません。このころの「結婚」は、そもそも結婚という用語もまだなかったのかもしれないし、通い婚だったり一夫一婦制じゃなかったりでいろいろおおらかなのでしょう。このふたりが、子供ができたから結婚、とはならないのもわかる気はしますが、でもそれは智積が外国人だし、寶が皇族だし、という理由があるからで、でもふたりの愛は永遠だ…みたいなことをもっとクリアに台詞にできるといいかな、と感じました。理屈ぽい人間ですみません…あとは、智積には思い当たるところがあるんだから、寶に安易に「もしかして…」とか聞かせないでほしい。寶に他にも男がいると思っているように聞こえちゃうでしょ?
一方で、いつのまにか法堤郎女(二條華)も田村にちゃっかり嫁いで男児を産んでいる…つっこみたいけれどここは我慢。ところで寶の侍女の秋坂(星咲希。ちなみに耳でだけ聞いていたときはもっと素敵な漢字の名前なのかと思っていました…ここも『月雲』の蜻蛉に敵わないのですよ)はここでやっとちゃんと出たけれど、ハナから姫様に付き従っているべきではないんですかね…?
しかしかりんさんのパパ姿が観られるとは…メロでしたね……ただ、ここの智積が歌う子守歌はおそらく朝鮮語なので寶が「何をお歌いで?」みたいなことを言っているんだと思いますが、観客にはそこまで類推しづらいので、歌詞に木槿の朝鮮名を入れるとか、一節は朝鮮語で歌わけるとか(たとえなんのことか意味はわからなくても)、何か工夫が欲しかったところです。しかしのちに長じた中大兄皇子(子供時代は茉莉那ふみ。父の子供時代を演じた生徒が息子の子供時代も演じる、このニヤリ感よ…!)がこのメロディを笛で吹く…というのには胸突かれました。良きアイディア!
推古天皇の病は篤く、次の天皇に田村皇子を指名し、寶には皇后に立てと言う。ここ、わかりづらいです。はっきり「田村に嫁いで皇后となり、田村を支えて国を統べよ」と言わせたほうがいい。寶にとっては皇位につくことより、智積がいるのに田村に嫁がされることが問題なんですから。結婚という言葉が出せないにしてもそこはクリアにしておかないと…今のままだと天皇と独立して皇后になるみたいじゃん。そういうことじゃないでしょ?
小鈴のスパイ活動によって智積の日記が偽造され、茅渟王(美稀千種)の謀反が捏造され、追っ手がかかり、寶も智積を疑ってしまう…わかっちゃいるけど全員登場のいわゆるイケコ式1幕ラスト、盛り上がりますね! 懸命に巻物を投げ広げるかりんさんも愛しいです(笑)。キャーッ!!!
あ、でもここでつんつん田村の天皇名をちゃんと出しておきましょう。「舒明天皇のご即位!」とかなんとか言わせておけばいいだけなんですから。あとで突然出しても「誰?」ってなっちゃうでしょ…(ToT)
第2幕。ちょっと時間が戻っているような形になるのか、舒明天皇になった田村が茅渟王の嫌疑を晴らしてくれる。でもそれを理由に寶に婚儀を迫っちゃうようなところが田村なのよ、たまらん…! それに対して寶が智積との息子の処遇の話を出すのは、打算的ではあるけれどある種当然でもあるのでいいんだけれど、「あの子」より「私の息子」の方が良くないですかね? そして、寶の嫁入りと皇后就任、自分の息子が蹴落とされそうなことに怒る法堤の「あの女」もわかりづらい…指示代名詞は上手く使わないとダメなんですよ、「寶皇女」とはっきり言わせたほうがいいと感じました。
智積たちの学堂は山奥に移転させられたようで、やや廃れている模様。なので多少時間が経っているのではないかと思うのです。その後のシーンでもかりんさんはかなり落ち着いた芝居をして見せていますが、しかし具体的に「あれから何年」みたいなことは言わせてもいいのかも。そして、なのでこのあとの岡本宮の火事(これは史実だそうですね)でも、ここの中大兄はもう赤ん坊ではなく、2、3歳児くらいになっていてもいいのでは…と思いました。それくらいの子供のぬいぐるみ?を使うのは微妙なのかもしれませんが…あと、秋坂の脚に添え木を当てるくだり、要ります? これで智積が医学にくわしいとするのは苦しいのでは…私は無駄なターンに感じました(^^;)。でもこのあたりの田村もすごくいいですよね、罪悪感に自家中毒のようになっていき、転落していく弱さがたまらん…!
一方、人質として百済からやってきた皇子の扶余豊璋と中大兄がひょんなことから親交を結び、ともに智積の学童に通うようになり、茉莉那ふみが碧音斗和に成長する…104期の並び、エモすぎます! 大樹の向こうに回って入れ替わらなくても、背中合わせになってくるりんとしたら「成長著しい」のです、良き! ここの「♪止め跳ね払い」リプライズ、そら泣くよね…!
もう一方、田村、今は舒明天皇の信頼篤い入鹿は、天皇に仕え看護する一方で毒を飲ませている…105期の並び、エモ!! しかし、不審に思われないよう時間をかけて毒殺しようとしていることを表す会話が、受け答えが変なので要再考。薬を怪しんだ寶が、智積を頼って山奥の学堂を訪ねる…せつない再会でした。
舒明天皇は湯治のため熟田津を訪れる。ここのひよりんが大海人皇子(藍羽ひより)であることもすぐ名前を出して明かしましょうよー、わかる人はすぐわかってニヤリとするけれど、そういうの要らないよ…ともあれ寶は舒明天皇との間に大海人をもうけて、それなりに円満なのでした。
死期を悟った舒明天皇は、寶を次の天皇とする違勅を残そうとする。しかし田村には人の筆跡を真似る特技があって智積の日記を偽造できたけれど、智積にはそんな技はないはずなので、蝦夷に見破られない違勅を代筆するのは無理なのでは…?と思ったのですが、智積が厩戸皇子の経文か何かを筆写していたというくだりで、 彼もまた手跡まで真似て書いていたので田村のライバル云々という受け答えになっているのでは、というリプライをいただきました。なるほど…! あとは、智積が自分が書いたとされる日記を見て、ハネで田村の手による偽造だと知るくだりに関しても、「鏡のように」文字を移せるはずの田村が、罪悪感からか嫉妬心からか心が乱れて完璧な筆写ができなかったんだろう、という感想を読んで、またまたなるほど…!と思いました。「♪字は心を写し出す」という歌もありましたしね。そういう描写はなかったけれど、田村もこの学堂に通って、ともに学んだ時間があったということなのかもしれません。そのあたりで、寶が智積に和歌を教えたのかもしれません…
ともあれ、夫の違勅を受けて、寶は皇位につき、皇極天皇となります。これも天皇名を出した方がいいと思いました。
蘇我の刺客との乱闘で智積の髪がザンバラになるのは素晴らしすぎました。しかしここで中大兄との父子の名乗りがあるのは感動的だとしても、智積を父と呼んだ口ですぐ「亡き天皇の子である私に刃を向けた逆賊」云々と言わせるのは、ダメじゃん…(><)智積は捕縛され、死刑にもされそうなところを、外国人なのだから…と百済へ強制送還されることになる。とても大海など渡れそうにない、すぐにも沈みそうな小舟で…でもそんなこたぁ見ればわかるので、民にわざわざ言わせるのは間抜けだと思いました。
その後の顛末が類推できて、私は初見ではこのあたりからずっと号泣でしたが、でも本当のことを言えば、智積が何故この小さな船に乗ることに同意したのか、そして寶もまたそれを見過ごしたというか同意したというか…には、もっと理由が必要だと思います。智積をもっとズタボロにさせて、どのみちそう長くは生きられないと思わせるとか、息子とも親子の名乗りができたし愛した女とも再会できて誤解が解けて、もう思い残すことは何もないし、天皇になろうという彼女の足を引っ張りたくない…みたいな自己犠牲が見えると、よりよかったのではないかしらん。今はただ諦めの早い男に見えなくもない…あるいは観勒とかに何か脅迫めいたことを言わせてもいいと思うんですよね。それで、寶の足手まといに、邪魔になりたくないから、自ら消える決心をする智積…となるべきなのでは。ナウオンでは「愛とは許すこと」みたいな話が出ていましたが、智積のこの行動はさらに一歩進んで、愛する人のために、その邪魔になることを避けて自ら死のうというものなのですから…
「♪熟田津に船乗りせむと…」と、智積が歌い出す。のちに百済に向けて戦船を送り出すときに斉明天皇が額田女王(美玲ひな)に読ませたとされるこの歌は、ここで、このシチュエーションで、智積が歌ったのだ、という最大のフィクション…! そらもう号泣でした。
序に戻って、エピローグ。皇極天皇となった寶はその後弟に一度は皇位を譲り、しかしその弟が死去したので重祚して斉明天皇になっています。長い間、国と民のために尽くし働いてきた…そういう説明はあってもよかったのにな、と思います。そこで覚従に派兵を懇願され、これが自分の最後の仕事だろう、と出兵を決断する。この最後の仕事は、唯一のわがまま、だったのかもしれません。無謀で勝ち目がないことは見えていたのかもしれないからです。けれど寶は、智積がいつか帰る祖国を座して滅亡させるわけにはいかなかったのです。ずっとがんばって国を率いてきた女性の、最後の甘い判断を、誰が留め立てできるでしょう…
ここで早瀬まほろがひょいっと出てきていますが、名乗らせろっつってんの! ひよりんと背中合わせくるりん儀式をしてないんだから、誰だかわからないでしょ? 台詞から中大兄の弟だとはわかるけど、ちゃんと大海人だってわかんなきゃ意味ないでしょ? 万人が『あかねさす~』を履修していると考えてはいけません。ここの意味が伝わらないんじゃ効果半減です。
中大兄は父の祖国である百済を救おうとする、しかし大海人には大和がそこまでする意味がわからない。これがのちにこの兄弟の争いの遠因となるのである…大きな船がふたつに割れて、離れていく中大兄と大海人…! ここを正しくたぎらせたいでしょ!? 私は大感動しましたよ! 『春の雪』といい、乗り物の装置が真ん中でふたつに割れるのが嫌いな人なんていません!!(主語デカ…)
ところで中大兄のこの出生の秘密設定、不敬では?とつっこんでいるツイートを見かけましたが、史実でも中大兄の誕生は寶と田村の結婚より早いそうですね。まあ当時はいろいろあいまいなんだろうし順番もいろいろなんだろうし、男系男子にこだわっているのなんて近代のごく一部の層でしかないのだろうからどうでもいいっちゃいい気もしますけどね…
覚従は百済と大和を往復しているけれど、智積は百済に戻っていない。「まだ海を迷っておられるのですね…」、まさかの『長い春の果てに』! ちょっと…イヤだいぶ、海に、迷ってたんですね智積さあぁん!!
船団と月の向こうに、寶は幻を見て海へと駆け出す。入水というよりは、史実どおり寶はこの地で病に没したのでしょう。でも魂は月の照る海へ、そこで小さな船に乗って昔と変わらない笑顔を見せている、愛する男のもとへ還っていく…もう号泣ですよ。月光の中、船の上で抱きしめ合うふたり。最後の最後に「♪熟田津の海に月出づ」と、ここでタイトルを歌う智積…これを泣かないでおられましょうか……
あまりにも美しい、卑怯なまでに素晴らしいラストシーンだったのでした。
そしてフィナーレがたっぷりあります、良きですね! 『ベアベア』も『ラスジョ』もなかったからね!
まずはさりお、御剣くん、つんつんにあいみちゃんの星組若手ホープ四人がカッコよく。新公主演で線引いてるんでしょうけれど、本当は碧音くんもここに加えたかったですよね…さりおセンターに104期ふたり、105期ふたりという布陣が、今回の座組では素晴らしかったわけですからね…! でも御剣くんもよかったよ、新公ラーマに抜擢させるまではまだぼやっとしていたと思うので、間に合ってよかったです。最近スカステなんかでの露出も多いし、タッパがあってスタイル良くて華があるスターさんです。もちろんいつでもなんでも上手い碧音くんにも主演のチャンスが欲しかったけれどね…今後も大事にしてください。ちなみに105期もつんつんの方が上手いしこちらは華もありますが、なんせあいみちゃんのタッパやスタイルの良さは武器なので、劇団にはここをどうするつもりなのかを早急に考えてきちんと手当てしていただきたいです。正直今さら100期を組替えさせている場合ではない、タレントいまくりの105期をどうにかしないとまた95期みたいなことになりますよ…?
そしてさりおも大事にしてください…! いい人役、親友役をたくさん観てきた気がしますが、主人公のピンチにおっとり刀で駆けつける格好良さは初出だった気がしました。素敵でしたよー!!
そのあと男役群舞が続いて、かりんさんが加わって、ワタクシまた号泣…ありちゃんのあと、他に天飛くんとかが加わって、この布陣で星組本公演をやるんだと思っていたのにと思うと、泣けて泣けて仕方なかったのです。しかし贔屓目もあるのかもしれませんが、ここの振付、ダンスはよかったな。同じ花郎ふうのお衣装のダンスでも、私は『不時着』のフィナーレにはあまり感心しなかったので…
月光イメージの白いお衣装の娘役さんたちが出て、センターはルリハナちゃん。優雅でとても良きでした。そしてふたつの輪が作られて、それぞれから智積かりんさんと寶うたちが現れる…
本編でも何度か連れ舞をしているわけですが、それでもやはり格別でした。スモークが美しく、涙でよく見えませぬ…流れるメロディに『あかねさす~』のワンフレーズが入るのも良き。
そしてうたちが去って、かりんさんがひとり残ってもうひと踊り。やだスターさんみたい…!とまた爆泣きするワタクシ。別にダンサーじゃないしたいしたこともしていないんですけど(オイ)、のびのび踊っていてすがすがしく神々しく、また涙、涙。最後にピンクの花びらが舞い散り、そっとひとひら手のひらにつかんで微笑み、キメ…泣かせに来てるんだ、わかってるんだ、だが泣いてしまうんだ…!!
パレードはひよりんふみたんの子役コンビから。月光や采女ではちゃんと美女でしたよー。プログラムでもそうですし、ラインナップも主役ふたりの両サイドは組長とまりんさんなので二番手扱いはしないということなのでしょうが、つんつんもさりおもパレードはちゃんと扱われていて良きでした。最後にうたち、そしてかりんさん。晴れやかな笑顔で三方礼、カテコのご挨拶は特にひねりナシ。良き、良きです。
マイ初日観劇後に、こちらなど読ませていただき、改めて勉強しました。
かりんさんの顎のほくろはものによっては消されていますが、今回のポスターにはちゃんとあってとても良き。このほくろがいいんですよ! 何故消す!?
ロゴも、普通の明朝体でないところがとても素敵。星空を大きく入れた構図も素敵。久々にB2ポスター買っちゃいましたよ…!
智積が特に笑っていなくて、もの言いたげにちょっと唇を開きかけているところが好き。本編のポーズとちょっと違うんですよね、そこがいい。本編では寶もただ智積の肩に頭を乗せただけで、両手とも自分の膝に置いていたと思いますし、ふたりはもっと微笑んでいたと思います。こんなふうにして語らった、あるいは語らずただ寄り添い合ったいくつもの夜が、このふたりにあったのね…と思わせる深さ、濃さがあると思いました。
プログラムの表4に主役の写真を入れず、星空のみとしている潔さもたまりません。
ゆうゆ、アレコレ言いましたが、そして勝手にニックネーム呼びしてすみませんが、第二作にも期待しています…!
というわけで、かりんさん、特に何がいいとか上手くなっているとかはない気もするのですが(だがそこがいいのだ…歌声が時にヨレるところとかも。これはもはや芸ですよ…!)、こんなにも純粋でまっすくであたたかできよらかで優しく凛々しく頼もしく、包容力のある男性の役を、なんら嘘臭くなく、てらいなく嫌味なく演じられる…というのがまさしく才能、立派な芸だと思います。本人の人柄まんま…というよりは、ちゃんと役を生き役を体現しているんだと思うので…そのことが本当に素晴らしいです。素直で真面目で温かな人柄によく沿う、素敵なお役に当たって、本当によかったです。いいお役、いい作品を引き当てるのは運なのか、何かが呼び寄せるのか…でもこの先、ダメダメ作品をスターの力任せになんとかするようなところも観てみたい気もします。なんともならなくても、それはそれ(笑)。好きなので甘くてすみません…
正直まだ花組での姿を思い描けませんが、しかしVISAガールは似合いそうなんで是非…!とか思ってしまいます。ご本人は組替えに驚いたり不安を感じたりしているのでしょうか、お茶会にこのところ行けていないから話が聞けず、心配だわ…でも、まずは大尊敬しているこっちゃんから学べるものをすべて学んで、ありちゃんともキャッキャウフフして(笑)、のびのび育っていってください。応援しています…!
そしてうたち、可愛いし達者なんだけど、以前まどかにもあったような、焦ったり感情的になる演技で声が跳ね上がるのがあまり美しくないので、上手く修正できるといいなと願っています。小さいから誰にでも合うし、逆に言えばありちゃんは多少背が高い相手役でもものともしないタイプにトップスターになるのでしょうが…ありうたちがいいなあ、どこの月組だよって言われても次期はありうたちが私は希望です。でもこればっかりはなんとも…ですね。星娘も新公ヒロイン経験者がわんさといるからなあぁ…(でもるりなたんにもチャンスをいただければと思っています…!)
所用あり、配信が見られなくて残念です。そして三番手主演だと円盤化がないんだろうから(そしてかりんさんトップ時代に販売されるヤツですね…!)、スカステ待ちになるので先が長いですね…てかなんで配信が平日昼間やねん、あと二度目の休演日が土曜だったのはなんでやねん。イヤいろんな都合の人がいるから万人にいいようにはできないのはわかっていますが、最大多数の最大幸福を狙うべきでしょ? 二度目も月曜休演にして千秋楽は水曜まで延ばしても、特になんの問題もなかったと思うのですが…? 謎…
いつかの再演を信じて、部屋に貼ったポスターを眺め続けますね。そのときの私はこのうたちのような表情をしている気がする…
これまたかなりのチケ難公演でしたが、なんとか二度観られて幸せでした。ご縁に感謝です…!