駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『薔薇色のfrontier』

2015年10月30日 | 観劇記/タイトルは行
 東京芸術劇場シアターウエスト、2015年10月29日マチネ。

 1918年。世界中を巻き込んだ大戦が終わりを迎えると、英国では貴族社会が崩壊した。その大きな変化に戸惑うエディ(小野健斗)は元の生活を取り戻そうと躍起になる。しかし婚約者のアンナ(桜乃彩音)は単身、国を出る事を決意した。「伝統を守るべきか?それとも愛をとるべきか?」すると、悩み苦しむエディの前に突然バトラー(泉見洋平)と名乗る奇妙な男が現れ、美しい歌声でエディを“frontier”と呼ばれる不思議な世界へと誘うのだった。果たしてエディは無事元の世界へと戻ってこられるのか? そしてバトラーの狙いとは一体……!?
 脚本・演出/斎藤栄作。全1幕のミュージカル。

 アヤネちゃんレミちゃん目当てで出かけてきました。他のキャストはすべて男優さんで、みんなが何役も兼ねて展開するような舞台なので、アヤネのヒロイン力とレミちゃんのなんでもできる芸達者ぶりを楽しく堪能できました。
 でも話はよくわからなかった…アンナはもともとはエディの亡くなった兄の婚約者で、だからそのままエディと結婚するということに抵抗があるのは想像できるけれど、本当のところはどうなのかが見えないまま異世界放浪(?)が始まるので、立ち位置をどうしていいのか目指すべきゴールはどこなのかさっぱりわからないんですもん。それじゃ安心して展開を楽しめません。
 かつエディにも主人公たる魅力が欠けて見えるので(中の人のファンならいいのかもしれませんが)、私はなおさらついていきづらく感じました。
 舞台は舞台ならではのマジックにあふれていて、キャストも達者な人が多く、ミュージカルとしては楽しかっただけに、肝心のお話がなんだかなー…ってのは、すごく残念でした。私は話に納得したいタイプなので、イメージだけ楽しんで満足、とはならないのですすみません。
 薔薇色ってのは、アンナが亡くなった婚約者に送ったハンカチの刺繍の薔薇なんだろうけれど、フロンティアって? アンナがアメリカに渡るから、そこからのイメージ? 新大陸とか開拓地とか? でも全然意味がわからなかった。なんでエディがアンナと別れることにしたのか、それでいいのかも全然わからなかった…伝統か愛かなんて話になってるのかコレ?
 でもセシルのアヤネはハキハキしていて明るいオーラにあふれていてキュートで素敵だったなー。レミちゃんはマーガレットがさすがでした。ふたりのことは観ていてとにかく楽しかったです。甘くてすみません…



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横関大『ルパンの娘』(講談社)

2015年10月28日 | 乱読記/書名や・ら・わ行
 結婚を考えていた彼は、警察一家の長男だった。そして私は泥棒の娘…書き下ろしミステリー。

 ヒロイン・華は伝説のスリ師である祖父を始め、泥棒や詐欺師の一家の娘で、スリの技などは教わってはいるけれど、家業を嫌ってカタギの仕事についている。優しい彼氏・和馬もいる。ところがいざ結婚となって、彼が実は刑事で家は警察一家とわかり…
 というせっかくの魅力的な設定なのに、まったくおもしろく思えなかったのは、一にも二にもヒロインの魅力不足が原因でしょう。とにかく後ろ向きでやたらとグスグズしている今どき珍しいくらいに主体性のない女で、読んでいてイライラするというよりとにかくつまらなくて応援する気がなくなるのです。
 ヒロインにもっと精彩があって、文体にもっとユーモラスなところがあれば、まったく同じ展開でももっとワクワクしながら読めるのになあ。事件とかストーリー展開とかは普通に良くできているのです。でも話を引っ張るキャラクターにチャーミングさが欠け、文章にも味がないんだから、なんとも…
 あと、書下ろしということですが、私は新聞連載でもまとめたものかと思いました。だって基本的な設定をやたらと何度も説明するんだもん。いい編集者がついてないんじゃないの? もっとちゃんと推敲してほしい。
 いつおもしろくなるんだろうと思いながらも、話の行く末は見守りたくて最後まで読みましたが、オチには唖然…まさかの妊娠小説!
 和馬は刑事をやめる選択をしないし、華自身は汚れのない身でも家族は逮捕こそされていなくても指名手配されている犯罪者、結婚はできない…となって、でも同棲ならいいよね?って展開も「???」だけど、そんで華のおめでたでハッピーエンドって…え? この先どうするの? 現在の戸籍とか婚姻システムではいろいろ苦労があるはずだけど、それはスルーでいいの? みたいな…
 こういうペーパーバック・スタイルのライト・ミステリーみたいなのは流行りなのかなあ。でも出来はピンきりなんでしょうね。初めて読む著者だったし。でもヤングアダルト小説なんてこんなんでいいだろう、って思われてるなら困ります…
 タイトルと設定が良かっただけに、残念でした。
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宝塚歌劇宙組『相続人の肖像』

2015年10月24日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚バウホール、2015年10月20日ソワレ。

 20世紀初頭のイングランド西部。ダラム伯爵家の跡取り息子チャーリー(桜木みなと)は、母の死後、父ジョージの再婚を機に屋敷を離れ父の葬儀にも戻らなかったが、祖母ロザムンド(悠真倫)の一計により居城であるバーリントン・ハウスに戻ってくる。ジョージの遺言は、チャーリーが伯爵家の財産を相続する条件としてジョージの後妻ヴァネッサ(純矢ちとせ)とともに屋敷で暮らすことを上げていた。チャーリーは父のかつての愛人であったヴァネッサに反発するが、財産を失えば莫大な維持費のかかる屋敷を守っていくことは不可能である。苛立ちを募らせるチャーリーは、ヴァネッサの娘イザベル(星風まどか)とも対面を果たすが…
 作・演出/田渕大輔、作曲・編曲/斉藤恒芳。桜木みなとバウ初主演作、全2幕。

 聞こえてくる感想がけっこう評価真っ二つだったので、逆にとても楽しみに出かけ、かつフラットに観たつもりでしたが、私はけっこう好きでした。例によってどうせならもっとこう…とつっこみたい点は多々あれど、基本的にはわりとよくできた作品に思えました。
 しかしどうしてどれもこれも「だったらもっとこう」と人に手を入れたくならせる「あと一歩感」が常に常にあるのでしょうか…宝塚歌劇の演出家は脚本家も兼ねていて、ただでさえ孤独でひとりよがりな作業になりがちなのかもしれませんが、誰かに助言を求めるとか事前に客観的な視点で一度ざっとでも見てもらうことってすごく大事だと思いますよ? 小説家や漫画家でいうところの担当編集者の役割をする人は誰かいないの? たとえばプロデューサーはそういうことはしないの? 企画段階で相談に乗るとかないの? なら無償でいいからやらせてくれホント…人がひとりでできることには限界があるのです。絶対クオリティ上がるよ? ホントもったいなさすぎるよ…
 というワケで今回の論調は全体的には「ガンバレ田渕くん」って感じで語らせていただきます。元ネタを知らないお若い方、すみません。例によってネタバレです。でも期待の若手だからこそ熱いうちに打っておきたいのだよ田渕くん…!

 この作品を嫌ったり苦手に感じたりする人が多い最大の原因は、主人公チャーリーのキャラクター設定にあるのでしょう。でも私は、ずんちゃんの好演もあって、別に全然アリなんじゃないかなあ、と思ってしまいました。
 不仲な両親の元に生まれて、何不自由なく育ててもらったちょっと甘ったれたお坊ちゃんで、でも父親には愛された記憶がなく、夫に愛されないと泣く不幸な母親を見ながら育ち、母の死と父の再婚を機に家を出て、そのまま父への反発を引きずっている、歳のわりには精神的に幼い、思春期というか反抗期を引きずっている、マザコン気味の青年。
 父親が再婚した相手とは母親が亡くなる以前からつきあいがあったようで、要するに愛人を後妻に引き入れたんじゃん!とプンスカしている。本当は、父親も家のために母親と望まぬ結婚をしたのかもしれない、結婚の他に愛を求めてしまっても仕方のないことだったのかもしれない、とわからないこともないのです。もういい歳なんだしね、ホントは子供じゃないんだしね。でもそこに理解を示しちゃったら、不幸なまま死んだ母親が浮かばれない。だから一生懸命怒っている。私には、ずんちゃんチャーリーはそんな青年に見えました。可愛いもんじゃないですか。
 イザベルは彼を理屈っぽいと言うけれど、理屈で怒っているというのとはちょっと違う気もするので、そういう細かい整合性やデリカシーに欠けた脚本の言葉遣いにはときどきイライラさせられました。理屈で考えられるなら、父親が愛より家を選んで母親と結婚した以上、夫としてきちんと母に誠意を尽くし愛も育み息子も愛情を持って育てるべきだった、かつての恋人とは完全に手を切り距離を置くべきだった、そういう割り切りができなかった父親を不甲斐ないと軽蔑する、蔑む…くらいはできたはずなんですよ。でもそういう怒り方じゃないじゃん、もっと感情的じゃん。
 でもそれでいいと思うのです。チャーリーは理屈っぽくなんか全然ない。まだまだ感情的な、尻の青い小僧なのですよ精神的には。それをもっと愛嬌あるように描ければいいのになあ、未だ若い男性である田渕先生にはもしかしたらそれが難しいのかもしれないなあ。でも男のダメさや弱さをうまく認められないと、女相手の商売はできないと思うぞ田渕くん。
 とにかく母親のために一生懸命怒ってみせていて、父親や、父と母が結婚する以前から父とヴァネッサが恋仲であったこととかをとにかく認めまいと虚勢を張っている、ただのいたいけな子供なんですチャーリーは。本当は、ただごく自然に家族に愛されたかっただけの子供。未だ愛され方を知らず愛し方を知らないでいる子供。でもこの世のどこかにはそんな愛なるものがあるということを知ってはいる、ちょっとロマンチストなところもある子供…そんな感じでよかったんだと思います。
 だからこそ、父を早くに亡くしたけれど、父と母に愛されて育ち、チャーリーの父からも財政的な援助と継父としての愛情を受けて慈しまれ、心豊かに育ち、愛を信じ恋に恋する素直で明るい少女イザベルと出会ったとき、感じるところがあったのではないかしらん。そういう話でいいのではないかしらん。
 ちょっとゴシック小説ふうに、陰鬱なお屋敷と墓場の場面から始まって、父親の墓に花を一輪投げ捨てる仏頂面のチャーリーから始めてもいい。それがラストシーンでは、日がさんさんと差す中、恋人と摘んだ花束を笑顔で手向けて終わる…なんて美しい構成にすればよかったのです。チャーリーとイザベルの出会いも、反発から始まって全然いいんだけれど、ああ要するにこのふたりがくっつく話だよね、ってのがもっと提示されるような、ラブコメ展開全開でいったってよかったと思うのです。というかそうすべきだったと思う。ずんちゃん初主演作品なんだし、ハッピーラブコメは観る人すべてを幸せにするエンターテインメントなんだから。ヘンに深刻ぶったって理屈がついてってないんだから。その開き直りが足りなかったと思うのです。惜しい。

 父とヴァネッサの事情が見えてきたり、イザベルの輝きに魅了されたりで自分の足元がグラついて困惑し、でも爵位を継ぐ責任感はあって、でも屋敷と領地を引き継いで次の世代に残すべく運営していくには財産が必要で、でもその財産のためにヴァネッサと同居するなんて我慢できないから、なら財産のある妻を迎えよう、という発想になるのも、そりゃ利己的かもしれないけれど、当時のこの階級の人たちの中では珍しいことではなかっただろうし、自然な流れに思えました。そして、称号目当ての成金新興貴族の娘なんかを嫁にもらうくらいなら、旧知の、そして今もなお自分を想ってくれているらしい幼なじみのベアトリス(愛白もあ。『SANCTUARY』のマルゴの侍女も素晴らしかったが今回も素晴らしい!)を選びたい…というのも、そりゃもうホントに単なる甘えなんだけれど、やっぱり自然な流れかな、と思うのです。
 ただ私たちは、つまり女性観客は、女性なのでヒロインに甘いところがあると思うのですよ(一方で、女性だからこそヒロインに厳しくなるときもあるのだから複雑なのですが)。同じことをヒロインがやってもちゃっかりしててカワイイわね、くらいですんだかもしれませんが、男性主人公にやられるとカチンとくるというのはあると思う。それはスターがどんなにさわやかに演じても払拭しきれるものではないので、脚本・演出に細心の注意が必要だと思うし、今回は全然その配慮が足りてなかったとは思いました。
 何よりベアトリスが、私たち(とひとまとめにして申し訳ありませんが)が感情移入しやすいキャラクターなのです。というか自己イメージを投影しやすいキャラクターだった。おとなしくて引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、派手な美貌は持ち合わせていず地味とか言われがちで、でも本が好きで物語を愛し豊かな想像力を持った、優しく親切で愛情深くおしとやかな女性…ぶっちゃけ宝塚歌劇ファンの女性の自己イメージのパターンとしてこれはかなり最大勢力的なものなのではないでしょうか。だから彼女が正当に評価されなかったり不幸になったりする展開は観客の逆鱗に触れることになるのであり、ものすごくまずいのですよ田渕くん、わかる!? 試験に出るよ? デリカシー足りなさすぎたよ??
 かつてチャーリーとベアトリスに婚約話が出たようですが、のちに破棄されたのかそもそも整わなかったのかは不明瞭でした。ともあれふたりは、ベアトリスの弟ハロルド(蒼羽りく。よかったよ素晴らしかったよ!)と三人で幼い頃からお互いよく行き来して兄弟のように仲良く育ち、でもチャーリーがちょっとテレたかカッコつけたか、「やっぱり愛ってなんなのかよくわからない」とかなんとかうそぶいて別れたのでしょう。そしてベアトリスは社交家でもなく男ウケする派手な美女でもないので、実家の爵位や財産にもかかわらず社交界の花となることもなく、ここまで独身できたのでしょう。でもチャーリーとの久々の再会を素直に喜び、かつ結婚相手として望まれといるらしいと聞いて、素直にうれしがったのでしょう。彼からのきちんとした言葉がないままなのは不安だったでしょうが、それでも心は高ぶってしまう…ああ、なんていじらしい。
 祖母ロザムンドやベアトリスたちの父エドワード(美月悠。ダンディなおじさまぶりが素晴らしかったわ!)が言うように、貴族にとっては爵位と屋敷と領地を次の世代に受け継ぐことが第一の務めだったのでしょうし、結婚とはそのためになされる、財産や家同士の釣り合いなどが優先されるもので、愛情とは無関係なものである、という認識は一般的だったのでしょう。そしてチャーリーは父を嫌うなら、父とは違う生き方をすべく、利己的な条件で選んだベアトリスを愛す努力をしなければなりませんでした。少なくともその意識や覚悟がちゃんとなければダメでした。その意識がちゃんとあって、努力もするんだけれど、でも愛って努力でどうにかできるものではなくて、イザベルに惹かれてしまうのをとめられなくて…というふうに流れていないから、チャーリーが卑怯でわがまま勝手な最低な男で何も悪くないベアトリスがかわいそうすぎてこの話も嫌い、となっちゃう観客が増えちゃったんですよ田渕くん! でもそれじゃダメじゃん!!
 チャーリーにそういう意識がないからこそ、『嵐が丘』に憧れるベアトリスに対して他人事みたいな話をしちゃうところとかは、いかにもでちょっとおもしろかったんですけれどね。でもせっかくエドワードに、娘を愛せとは言わないが誠意を尽くせ、不幸にするなみたいな、いいことを言わせてるのになあ。ところでこのくだりでのエドワードのベアトリス評価はマイナス100万点です田渕くん。観客が感情移入するベアトリスを悪く言うような台詞をスターに言わせるんじゃないよ馬鹿者。スターが悪く見えるだろうが、さおとさおファンに謝れ。
 エドワードを悪い男に描く必要はまったくない。エドワードには、ベアトリスが見栄えの点などで男ウケが悪いし若い君には物足りなく思えるかもしれないが、従順で良い妻になるいい娘だよ、というような形ででもベアトリスをきちんとある程度評価する男でいてほしかった。馬鹿な男なのと人間として馬鹿なのとは違うのですよ。例えばここで「あれの良さは若い君にはなかなか理解できないだろうが…」とでも言わせてくれていたらなあ…田渕くん『アルジェの男』勉強して!
 おそらくエドワードもまた色恋抜きで家のために政略的に選んだ女性と結婚したのであり、外で愛人を囲うくらいのことはしたかもしれませんが決して家庭を壊さず、誠意を持って妻を立て妻を愛し娘と息子を慈しんで育てたのでしょう。チャーリーが目指すべきは彼だったのです。それか、愛を取って家を捨てるかの二択です。でもそれこそ家族のように慈しみ仕えてくれた使用人たちへの恩義もあるし、屋敷や領地への愛着や責任感もあるしで板挟みになる…これはそういうドラマであるべきでした。

 イザベルは何故ハロルドから逃げ回っていたのでしょうね? りくのことだから、暑苦しく迫りすぎたのでしょうか。← 恋に恋する少女とはいえ、口説いてきた誰とでも恋に落ちるというものでもなくて、残念ながらぴんとこないでいたのでしょうね。それか、ハロルドが子爵家令息というのに腰が引けてしまっていたのかもしれません。母親が伯爵と再婚したからといって、自分を「伯爵令嬢」と捉える意識はイザベルにはなかったのですからね。
 チャーリーに対しては、話に聞いていて会うのを楽しみにしていた「兄」でもあるし、静かにピアノを聴いてくれたこともあるし、つっかかられたりしてムカつくんだけどなんかいつもどこか寂しそうで気になるし、ひとりぼっちでかわいそうだし…みたいな感じで気になって、好意的になって、それでいつしか…といったところでしょうか。
 だから「練習」のワルツは、何フレーズか無言で、それこそスモーク焚いてもいいから、もっとうっとりキラキラの演出をして「運命のダンス」を印象づけるべきでした。踊ったら運命の相手がわかる、とイザベルは信じてきたのだから。チャーリーもその話を聞いているのだから。ここで電流が走る演出をしなきゃダメです。何故ただ踊りながらフツーに会話させるとかの演出になるの田渕くん馬鹿なの?
 そこでお互いがとまどいながらもさらに惹かれ合っちゃって、でも認めるわけにいかないし事態はどんどん進んじゃってるし…って話じゃないですか、この作品は。だからイザベルはハロルドの話にチャーリーを立ち会わせようとするんじゃないですか。ハロルドのプロポーズを聞いてチャーリーは焦るんじゃないですか。
 そのあとにもう一場面、チャーリーとイザベルのエピソードが欲しかったですね。恋心が募る印象的な事件、エピソードが足りなかったと思います。こういうところに作家の個性が出るものなので、アイディアを振り絞って何かしらつっこんでほしかった。別に使用人場面をカットしなくても尺的に入れられたと思うなー、全体にちょっと間延びしていたので。宝塚歌劇の座付き作家としてラブい場面を作る力量は絶対に必要ですよ、がんばれ田渕くん!

 その後の展開はもう、ベアトリスが素晴らしすぎました。
 だからこそ、チャーリーにはベアトリスにきちんと謝罪してほしかったなあ。ハロルドには謝ってるのに。なんなのまさか女に頭は下げられないとか思ってんじゃないでしょうね田渕くん?
 去り際、ベアトリスの方がチャーリーの頬にキスしますが、チャーリーが跪いてベアトリスの手の甲にキスしても素敵だったと思うよ? 紳士ってそういうことでしょ? 誠実さってそういうことでしょ?
 そしてそのあとも、チャーリーにはイザベルにきちんとプロポーズさせてほしかった。ツンデレがどうとかいう問題ではありません、愛する相手からプロポーズされることはなんと言われようと全女性の願望であり夢です。宝塚歌劇でくらい叶えなくてどーする。ケチケチしてんじゃねーよ田渕!
 はっ、だんだん口が悪くなりすぎましたすみません。ことほどさようにつっこみどころは多々ある話なのですが、つっこむ気も起きなくなるくらい崩壊した話もたくさんあるわけで、それからしたら全然よかったし私は好きです。でもだからこそもっと良くなって何度でも観たくなるリピーターが出て、組ファンでもずんちゃんファンでもない人がファンになってくれて再演希望まで出るような、そんな傑作になりきれてないのが惜しいのです。それを私はねちねち語らないではいられないのでした。
 逆『ミーマイ』のように言う人がいたけれど、これはむしろ逆『エリザ』ですよね。ファザコンで皇后の務めを重荷に感じ自由を求めたシシィと、マザコンで伯爵家を継ぐための政略結婚を受け入れきれず愛を求めたチャーリーと。でも先述したようにヒロインがやることには寛容でも男性主人公がやることには厳しい目を向けがちな女性観客が多いのだから、細心の注意が必要でした。甘ったれたこと言ってんじゃないよ女々しいやっちゃなあ、と言われないよう、チャーリーの言動の表現にもっと手を尽くさなければならなかったのです。その機微がわからないようなら道は厳しいよ田渕くん!

 というワケでずんちゃんバウ初主演、おめでとうございました! 堂々の真ん中ぶり、この時代特有のお衣装を美しく着こなして、得意の笑顔も封印して、だからこそ終盤やフィナーレでの笑顔の破壊力も増すという盤石のスターっぷり! 素晴らしかったです。デュエットダンスのリフトの優しさがまぁ様譲りだと泣けましたよ…!!
 まどかちゃんもホント上手い。でもやっぱりもっともっと娘役芸に磨きをかけてほしい。ヒロインだけでなく、バンバン経験積ませましょう。そして少しも早くるりるりできるようになってくれたら、ポジションさえ空けばすぐにでも就任できることでしょう。
 そしてりく、よかったよりく! 歌はやっぱり手に汗握りましたが、これぞ当て書き、というりくに想定されるキャラクター像をこれまた素直に素敵に演じてくれて、みんなキュンキュンでしたよ!?
 パレードはまりんさんのあと、まどかの前に出してほしかった。明確なバウ二番手スターとして扱ってほしかったです。ずんちゃんより上級生だし現時点ではずんちゃんより新公主演回数も多いスターさんなんですよ? 思うところが絶対あるはずなんです、それでもこうしてともに舞台を作ってくれているんですよ? 劇団も誠意を尽くすべきです。
 お芝居を締めたのはやはりまりんさん、せーこ。そしてまっぷー、胴布団入れて老け役やらせられるなんてホントは気の毒なんだけれど、上手いできちゃうし、上級生がいない組だからねえ…
 メイド長を演じた花咲あいりもとてもよかった。というかこの人のこんなに大きい役を初めて観ました。嫌味な成金をちゃんと演じてみせた朝央れんも素晴らしい、その困った娘をきっちり演じた小春乃さよも素晴らしい。
 あともあちゃん、ホントに良かった。田渕先生がこの役をつまらないキャラクターに書かなかったことと、彼女を配役してくれたことに感謝します。おそらく近い将来もっと誠実で情熱的な男がベアトリスの前に現われるよ! それか、小説家になって自立して幸せに生きていく…という未来もいいかもしれません。大丈夫、神様は絶対に見ていてくれるし、お父さんも弟も支えてくれるからね?
 一方かなこは色気に甘えず台詞の声をきちんと出せるようになってくれ…いつ上手くなってくれるの? まりなもカワイイだけじゃダメなのよ? まあ今回は役不足だったかもしれませんが…みんな甘やかしちゃいかーん!
 あーちゃんの休演は残念でした。この下僕トリオはまた変わって見えたことでしょう。ふみなもちゃんとしてたなー、意外!(失礼)穂稀せりが上手いのは知っていました、うん。

 前作と違って今回はフィナーレがあって正解。素敵でした。もうじき千秋楽ですね、さらにいい舞台に仕上がっていることを祈ります。









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劇団メリーゴーランド『ショコラ・ショック/海賊の首飾り』

2015年10月17日 | 観劇記/タイトルさ行
 文化シャッターBXホール、2015年10月17日ソワレ。

 万国博覧会を間近に控えたパリの都に、「ショコラ・ノワール」と名乗る謎の怪盗が現われた。怪盗が狙うのは、今なお国民から慕われる伝説のショコラティエ「ムッシュー・ショコラパパ」の遺した12枚の直筆レシピ。やがて同じレシピを狙うもうひとりの怪盗「ファントム・デュ・ショコラ」も現れ、パリ市民はふたりの怪盗の華麗なる対決に大騒ぎ。パリ警察に勤めるランス(華波蒼)はふたりの怪盗を追うが、実は彼にはある秘密があって…
 脚本・演出/平野華子、俵ゆり、作曲/内海治夫。オリジナル・ミュージカルとストーリー・ショーを作り続けている劇団の第五回公演。

 昨年夏の第四回公演『タイニー・ブーン/千夜一夜』に知人に連れていっていただいて脚本のあまりのレベルの高さに感動し、今年春のアナザー・ステージ(ふたり芝居!)も観に行かせていただきました。はちみつ、林檎、チョコレートときている、カレーの隠し味シリーズだそうです(笑)。
 今回も本当に脚本がよくできていたと思いました。完成度としては前作の方が高かったかな? ちょっと詰め込みすぎというか、未消化に感じられる部分も多かったので。だからこそ、もう少しだけ整理してよりブラッシュアップしたら、二幕ものにして宝塚バウホールにかけられる演目だよな、と思いました。
 あらすじだけでもワクワクすると思うのですが、ここにさらに吸血鬼ネタがぶっこまれるんですよ? 純潔でない吸血鬼は人の生き血を吸う代わりになんとショコラ・ショーを飲めば人間に危害は与えずに永遠の命を保てるのです! それはもはや吸血鬼ではないのではというつっこみは禁止です! 紅茶を苦手にしていてイギリスでは迫害も厳しく暮らしづらいので、吸血鬼はパリに来ちゃうのです。なんだソレ!(笑)
 ヒロインのリリアン・ソレル(ジュリアン・ソレルか?と思いましたがね。演じるのは羽良悠里)はショコラ・ショーのワゴンの売り子。とはいえ彼女がクビになるところから話は始まるのですが。彼女の雇い主だった、「ル・キャフェ・デ・フォール」のオーナー・エリーヌ(唐苑茗子。上手い!)、警視総監の娘でランスの上司のレティシア(妃桜みおん)、ランスの同僚刑事のフェルナン(斎桐真。客演)、「ムッシュー・ショコラパパ」のパトロンだった伯爵ダリウス(紗蘭広夢)、登場人物はこの六人だけ。これで回す芝居なのです。そして回せているのです。すごい!
 でもホントはもっとさらにいろいろできるんだと思うのです。すごいよなあ。
 最低限の、セットも何もないようなステージででももちろんなんでもできるのが演劇というものですが、それでももうちょっと高低差があったり広さがあったりするところできちんとやらせてあげたかった、万国博の背景とかエッフェル塔の足のセットとか出してあげたかった、市民たちのコーラスとか入れてあげたかった、警官隊のモブとか出してあげたかった、もうちょっとソレらしい気球を出してあげたかったと思うのです。
 フェルナンにもう一押し色を足して、捕らえるべきショコラ・ノワールに憧れちゃってるすっとんきょうなレティシアとのロマンスを膨らませたかったし、ランスとの友情だってもっと出るとおもしろかっただろうし。
 何よりリリアンとランスのロマンスがもう少しいろいろできたと思うんですよー。ライバルなのか、仇なのか、同僚なのか、恋なのか…ときめきと、とまどいと、くっついたり離れたり、みたいな。
 直近の例で言えば、まだ観ていませんけどたとえば『相続人の肖像』キャストで言うなら、ランスがずんちゃんでリリアンがまどか、フェルナンがりくでレティシアはもあちゃん、エリーヌはせーこでダリウスがまっぷーってことですよ。それで多分できるんですよ、すごいなあ。
 音楽が良くて歌唱力もあるので音楽劇としてのレベルも高く、手作りだというお衣装も去年のものより生地のセレクトが良くて格段に見栄えが良くなりました。音響もちゃんとしています。ホントすごいと思いました。
 あと、アフタートークショーがここまで台本あるよね?って勢いの超弾丸漫談でものすごくおもしろかったです。ファンサービスもちゃんとしていて、本当にすごいです。

 ショーの作曲は美広まりな、振付は俵ゆり、平野華子/森有紗、富永千秋。海賊、悪霊、黄金を追う娘、密林の花…アドベンチャー・ストーリーショーということで、これまたよくできていました。楽しかったです。
 みなさん普段は働いていて、一年かけて公演を打って…ということなんだそうです。こういう劇団は他にもたくさん、それこそ星の数ほどあるのでしょうが、情熱と才能がきちんとあって、応援したいなと思いました。


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宙全ツ『メラシト』初日雑感

2015年10月15日 | 澄輝日記
 初演『メランコリック・ジゴロ』と今回の演目発表についての日記はこちら
 『シトラスの風Ⅱ』についての感想はこちら

 というワケで宝塚歌劇宙組全国ツアー公演『メランコリック・ジゴロ/シトラスの風Ⅲ』を、梅田芸術劇場で初日から4回連続観劇してきました。
 すごーく楽しかったです。でも例によってイロイロと思うところがありましたので書いておきます。
 あくまで現時点での個人的な感想です&ネタバレ全開で語っています、未見の方はご留意を。
 このあと名古屋、金沢、八王子、市川、松本、そして札幌で観劇予定です。楽しみです!

 さて、お芝居で私が一番心配していたのはトップトリオがみんなニンじゃないんじゃないの?ということでしたが、スカステニュースの稽古場トークなんかでも事前に話が出ていましたが脚本はそのまんまでも台詞のニュアンスやキャラクターの持ち味みたいなものを今の生徒に合わせて変えてくれたようで、意外や意外、ハマっていてとても楽しく観られました。
 再演・三演時は私はかなり「コレじゃない」感を強く感じてしまったのですが、贔屓目かもしれませんが今回はそれが本当になかったです。もちろん初演とは違うんだけれど、コレはコレでアリなんだな、と感じられたのが私にはすごくおもしろかったのでした。
 でももちろんまだまだ、この方向で行くならもっとこうであるべきだろう、みたいな部分も見えたので、それは今後の進化を待ちたいと思います。
 全ツ演目としては、ホントはコスプレで悲劇!みたいなものの方が一見さんたちには喜ばれるんじゃないかな?とも思うのですが、宙では『うたかた』もやってるし、すぐ雪が『コルドバ』で回るし(同じ地方を回るとは限らないけれど)、たまにはこういう現代もので人情喜劇、みたいなのもわかりやすいし目新しくて、これはこれで喜ばれるのかな?と思うようになりました。
 何より宙組ファンとしてはコスプレ大作が続いていたので、なんてことないスーツものが観られるだけで楽しいし、人が死なないハッピー・ミュージカルも嬉しいです。かつショーとの2本立て、やはり宝塚歌劇はこうでないとね!

 というワケでまぁ様ダニエルですが、私にとってダニエルというキャラクターは初演で当て書きされたヤンさんのニンそのままに、繊細でナイーブで不器用で生真面目で、顔はいいかもしれないけれどホントはジゴロになんか向かないようなシャイな青年…というイメージです。かつ陰で月っぽいイメージね。
 対してまぁ様は明るくてチャラくてでも意外と真面目というその持ち味で、新たなダニエル像を作り上げているな、と思いました。太陽っぽくてもちゃんとダニエルなのがいいのです。
 ヤンさんダニエルよりずっと器用にジゴロ稼業をやれている。でもうっかり浮気してあっさりパトロネスにバレてフラれちゃったりもする、ちょっとヌケてるところもあるチャーミングな好青年。「どうせ金だけが目当てだったんだからな!」とうそぶいてみせてもどこか寂しそうな、「こんなこと、ジゴロやってりゃしょっちゅうさ」と強がってみせてもちょっと傷ついていそうな。どんなにチャラくても(笑)ちゃんとしたところがある、誠実に生きている健康で健全な青年でした。
 でもちょっとお調子者で、人がいい。だからスタンにいやいや巻き込まれたというより、自分からうっかり踏み込んでいったようにも見えて、途中からはむしろけっこう熱心に動いていて、それがまた主人公っぽくていいのかなとも思いました。実際にはダニエルってあんまり何かをしていなくて、警察呼んで助けに来てくれるのもスタンだったりするんだけれど、スタンの方がヒーローみたく見えちゃうことがないのがいいのです。まぁゆりのコンビの形としてもいい。ヤンミキ、まとえりとはまた違ったスタイルになっているなと思いました。
 そのゆりかスタン。やはりジゴロ仲間というよりは、舌先三寸でなんとなくフラフラ遊んで暮らしている極楽とんぼの悪友、みたいに見えますが、それがスタンの立ち位置なんだと思うんですよねー。あと歴代スタンのうち一番「貴族の出」に見えるのが素晴らしいなと思いました。ティーナはもちろんパトロネスなんかじゃなくて、でも美容師とかマヌカンとかとにかくわりとちゃんと働いていて、ふたりは同棲してるんだけど要するにスタンはジゴロというよりティーナのヒモなんだろうな、と思いました。で、それが似合う(笑)。でもちゃんとラブラブなの。
 ミキちゃんやえりたんみたくわーっとパワーで押し切るようなタイプじゃないんだけれど、周りがゆるゆる騙されそうな(笑)、おもしろい持ち味が効いていました。当人比ではすごくちゃっちゃとしゃべっているんだろうけれど、ちょっと特徴的な声もあってやはりどことなくゆるい。それでダニエルが流される、そのふたりの関係がいい。
 会話のテンポはとても良くて笑いも取れているので、あとは滑舌かなー。ちょっと聞き取りづらいのは損ですよね、がんばっていただきたい。
 でもとにかくふたりがスーツで並ぶとスタイルめちゃめちゃ良くて脚が意味不明に長くて、とにかく眼福。初演から変わらない楽しいダンス・ナンバーも、ふたりのこのスタイルを見せつけるために振り付けされたものだったのか?という気にすらなりました。
 そしてみりおんフェリシア。カマトトになることをとても恐れていたのですが、これまた愚図でノロマででも純真で…というミハルならではのキャラクターよりは、真面目で慎重で控えめで内気で弱気で、でもちゃんといろいろ考えていて、ただしゃべったり行動したりが人より一拍遅くて、みそっかすにされがちな子…という感じにうまくシフトしていたと思いました。そしてそれをとてもナチュラルに、いじらしく可愛らしく演じていて、わざとらしかったり苛ついたりしませんでした。ミハルとかアヤネとかはイラッとさせられるところまでがキャラかなという気がしましたが(笑)、そういうんじゃなくてもちゃんとこれもフェリシア。そしてみりおんの理知的すぎるところはちゃんと隠されていたフェリシアでした。よかったです。そして歌がものすごい上手い(笑)。
 ところでティーナのアーパー設定とか、初演の華陽子ちゃんへの当て書きもあっただろうけれど(オイ)、バブルを引きずっていた当時の世相というかノリもあるのかなー、と今さらながらに強く思いました。だからヒロインとしてのフェリシアの在り方も、当時のまんまだと今やるとつらかったと思うし、これでよかったのではないかなと思いました。
 偽装兄妹の関係から、フェリシアに対してダニエルがちょっとほだされて恋心が生まれるあたりとか、フェリシアが「この人はお兄ちゃんなはずなんだけどちょっとときめいちゃう…」みたいに思うあたりとかが、描写としてまだ浅いというか甘いかなという気もしたので、まぁみりならではのロマンチックさが滲み出てくるとなおいいのかな、と思います。これからに期待。

 トップトリオが良かったのに比べて、私が期待しすぎていたせいかオヨヨとなったのは愛ちゃんバロットとモンチのマチウかな。
 『TOP HAT』のベディーニさんがとてもいい弾けっぷりだっただけに、私は愛ちゃんにはもう一押しパンチのあるアホなワルっぷりを期待してしまっていたのでした。まだちょっと上品というかおとなしいかなー、そういう意味ではもちろん難しい役なんでしょうけれどね。
 笑いももっと取れると思うんですよね。ゆうりルシルへのデレデレっぷりはとても可愛くて、それは歴代よりすごくいいなと思うのですが。
 マチウはあっきーで観たいと思っていただけに、私は余計に厳しく観ちゃったのかもしれませんが、でも「ああ、さすが上手いわ、これはモンチでよかったわ」というほどのインパクトが残念ながらなかったかな―、と思っちゃったのです。『銀英伝』トリューニヒトはもっとすごかったし、めおちゃんはもっと「この役のこの人いいな!」感があったと思う。これからまた変わってくるかな?
 奥さんのきゃのんシュザンヌももっとすっとんきょうでもいいと思いました。

 ゆうりルシルは、こういう役も似合うと思うし美しいしキュートだし、でもやっぱりもうちょっと弾けてもいいかもね。愛ちゃんともども変わってくるのかも。
 しーちゃんティーナはこんな大きい役は初めてかと思うのですが、先述したようにバカっぽいギャルというよりはもっと普通の可愛い甘えん坊な女の子っぽくて、それはそれでアリかなと思いました。しーちゃんに普通にカティアやレジーナをやらせちゃうよりは、おもしろい配役だったと思います。
 そのカティアはありさ。さすがに上手くて、しっとりした大人の女もきっちり演じてみせました。対してレジーナのエビちゃんは、芝居はホントにアレだよね(^^;)。あおいちゃんイレーネは、あおいちゃんがどうということより、このオールドミス・キャラをそろそろどうにかしないとこれでは笑いが取れない気がしました。あと、セットの関係で仕方ないにしても、この場面が図書館だとわかりづらいぞ!
 おっと思ったのはかけるセラノとせとぅーアネット。せとぅーは歌枠かと思っていたけど芝居の声もとてもいいんだなあ! この役はつかみにとても重要な役なので、上手くやってくれてとても嬉しい。そしてこのセラノは絶対カタギじゃない…(笑)でもホントはいい人なの、今は足を洗って美人メイド揃いのこのカフェを細々と経営してるのよね!
 あとあんま関係ないけどゆいちぃシャルルの声が初演そっくりじゃなかったですか!? これまたちゃんと笑いが取れていてよかったです。そらは役不足でかわいそうだったかな、でも初演当時このあたりはズンコ、ガイチ、チャーリーがやってたんですからねえ…! りおユベールはもう少し何かの色をつけてもよかったのかもしれません。ダニエルに対し上から目線なのか同情しているのか、ちょっと中途半端に見えました。

 ところでフォンダリって、私はずっとただの怪しいおっさんキャラかと認識してきたのだけれど、もしかして本人はイケてる二枚目気取りのロマンティストで、そのズレてるところがおかしくて笑える…みたいに演出されているキャラなんですかね?と今回ナウオンとか観てやっと気づいたのですが…それにしては中途半端な気がする。追加されてきたフォンダリとノルベールの青春みたいなくだり、長いし要らないと思うんだけどなー。
 まあでもすっしぃさんはそりゃきっちりやってくれています。フェリシアに「ごめんね?」と謝るのはいつから増えたんだったっけかな…カワイイ。
 対するりんきらノルベールは、そら上手いだろうと思っていましたが本当に上手い。別に髭とかなくてもちゃんとフェリシアの父親に見える空気を作れて、情愛を漂わせて、若者たちに未来を托して去る。カーッコいーい! そりゃベルチェもスキットル渡すよね、という…見事でした。

 細かな変更点はちょこちょこありましたが、何より良かったのは三演で何故かなくなった、ラストのダニエルの「おまえが好きだ!」が復活したことです。「おまえが好きだよ!」になっていましたが。
 レジーナに絡まれるダニエル、ダニエルに荷物を預けたまま走り去ろうとするフェリシア、「おい、荷物!」と呼びかけるダニエル、戻ってきてトランクの取っ手をつかむフェリシア、トランクを離さないダニエル、再度トランクを引っ張るフェリシア、離さないダニエル。
 ダニエルを見上げるフェリシアに、ダニエルが「おまえが好きだよ」と言う。「…え?」と返すフェリシアに、再度「おまえが好きだ」と言うダニエル。続けて、「俺はジゴロで、詐欺師で、文無しで宿無しで…だけどおまえのためなら…」と言い募るところに、フェリシアが抱きつく。「ダニエル!」
 汽車は行き、レジーナが肩をすくめてふたりを祝い、ダニエルはフェリシアを抱きしめたままひょいっと片手を上げてそれに応える…
 そうよそうよこれなのよ! レジーナが薔薇を渡すパターンもあった気がするけれど、それより何よりこの台詞!! この流れでこそのハッピーエンド、名告白シーンだと思っているのですよ。満足! ハリーありがとう!! お手紙書いてよかったよ!!!
 キスシーンと、ふたりで並んで舞台奥に向かっていくのに合わせて幕が下りて、おしまい。幸せ。

 …で、レビューの話に移りたいところですがもえこにも悪いし、仕方がないベルチェの話をしよう…
 いやぁもえこロジェは素晴らしかったですね。『白夜』『王家』と新公を観ていますが、タッパあるし歌えるしスターオーラはあるけれど芝居はまだまだ上手いも下手もないな、という印象だったのですが、全然ちゃんとしていました。「いい旅を」で笑いが取れるのはたいしたものだと思います。
 そのロジェとコンビを組んでいる先輩刑事があっきーベルチェですが…すみません、初日、私、あまりにダイコンに見えてけっこう呆然としてしまいました…
 まず、お稽古映像では茶のスマートなトレンチコートを着ていましたが、実際のお衣装はちょっとダボッとして野暮ったくも見えるブルーグレーみたいなコートに、似た色のスーツと帽子でしたね。まあ刑事なんてお洒落でいても仕方ないから、それはいい。
 で、プロローグは別にして、本編初出時にはムダに(ムダ言うな)センターから登場させてもらってるのがちょっと嬉しいやらおかしいやらだったんですけれど、まずこのくだりの最後の「足、でかいな」がおもしろくなくてしょんぼりしました。笑いが起きてなかったし。そもそも脚本としておもしろいつっこみではないと思うんですけど、「足デカいなー…」くらいのノリでパッと言っちゃった方が笑いが取れるんじゃないかなあ。お願いハリー、指導してあげて…?
 そのあとスタンの部屋に押しかけてきてのくだり、いっそ「ダニエルくん」の「くん」は取ってしまっていいのではなかろうか…これがあるからベルチェがダニエルより年長である感が出るんだけど、欧米ものの呼称としてちょっとひっかかるのと、あっきーがそうまでまぁ様たちより年上にも見えないので、なおさらつらく感じるんですよね。というか、あっきーがベルチェを、まぁ様ダニエルを小僧扱いして「くん」呼びするような中年男に作れてない、ようにしか私には見えなかったのです。
 というかぶっちゃけこのキャラの役作りが私にはよくわからなかった。ここから始まる16年前の現金輸送列車強盗事件の説明台詞は確かに難しいものだと思うのですが、聞き流されない程度にもっとさらっと、情報だけ伝える台詞として言えばいいんじゃないのかなあ。なんか妙にタメたり表情つけたりして語るんだけど、何を表現しているのか私にはよくわかりませんでした。
 もしかして、長年コツコツ捜査してきた無骨な刑事が久々に進展があって舞い上がってて、盛り上がって悦に入ってドラマチックにとうとうと説明しちゃってて周りには引かれてる…ということで笑いを取ろうという演技プランなんでしょうか? でも笑い、ないよね??
 私があっきーを好きすぎていて、ああこういう眉のしかめ方よくするよねとか、こういうふうにニヤリと笑ったりするよね、みたいな見方をついついしてしまい、「ベルチェ刑事」が見えていなかったのかもしれませんが…ううーむ。
「どうして? 君はアントワンじゃないんだろう?」の「どうして?」で笑いが起きるのは私は初めて聞いて、いいなと思いましたし、それはあっきーのおとぼけ感がハマったものなのかなーとも思うのですが…総じて、ハリー芝居ができていない気がしました。
 確かに経験はあまりないんだけれど、たとえば私は映像でしか観ていないのですが『薔薇雨』新公はすごくよかったと思ってるんですよねー。主に主人公像の問題として本公演より好きだし、本役ともちんのある種の悪役をあっきーはとてもよくやっていたと思うのです。もちろん当時いっぱいいっぱいだったんだろうけれど。
 それ以来ハリー芝居に当たっていないんだけど、これはしかし、うーん……
 どうしてもスマートにノーブルに見えちゃうのは、スタン同様貴族の出なのかもしれないし(笑)、それはもう演技力がどうとかいうレベルの問題ではない持ち味、ニンなので、仕方ないしいいと思うんですけれどねー。
「フォンダリ蹴ったりだな」で笑いが取れていたのには安心しました。でもこの駄洒落、別にそんなにおもしろいもんでもないと思うよ?ハリー。
 銃を突きつけていたのにフォンダりにあっさりやられちゃうところとかは、へっぽこすぎていっそ愛しいので大丈夫です。別に敏腕刑事である必要はないと思うので。
 ラストのラスト、ノルベールを連行するときにスキットルを差し出したあと、ムダに帽子をかぶり直す仕草がムダにカッコいいことにはシビれました。そのあと上手奥に移ってからも、フェリシアとダニエルを見つめるノルベールを優しく促す様子には、百戦錬磨で酸いも甘いも噛み分けて世知に長けた、でも優しさを失っていない大人の男像が見えた…気もしましたが、単にスマートな優男なだけのかもしれん…
 とにかくあの長台詞が鬼門な気が激しくします。がんばれ…!!!

 『シトラスの風Ⅲ』は、もう宙組にショーが来るってだけでありがたいんですけれど、でも再演するならロマンチック・レビューでももっといいのあるよ、そもそも最近Ⅱやったばっかじゃん、とかいろいろ不満はありました。そしてわりとそのⅡまんまだったよガッカリ…という感じはなくもないです。
 でもスチールがピンク×水色のてんとう虫だっただけで嬉しかったし!(あ、「そよ風と私」場面のお衣装のことです) どの場面もバリバリキラキラと楽しそうに踊っていてそれだけで嬉しかったし!!(チョロい)
 プロローグは水色のお衣装でよかったね『王家』フィナーレのパステル5のピンク本当に恥ずかしがってたもんね、とか、板付きセンターあきゆうり俺得すぎて怖い!とか、「ステート・フェア」のヤングボーイがニッコニコだな定番のあきエビだなとか、友達が当ててくれた友会席が中詰め客席下りのベスポジだったようわああぁとか、「ノスタルジア」のあきゆうりの超絶美貌たるや絶句…とか、「明日エナ」学ラン組でよかったよちょっとボタン閉めるの下手だとかもういいよかまわないよノリノリだよ最高!とか、黒燕尾が素敵すぎて泣ける…とかなうちにもうパレードなので、十分です。イヤあきゆいとかあきしーとかも観たかったですけどね?
 肩羽は嬉しかったけどセンターで下ろしてくれてもいいのよ?とかはちょっと思いましたけれどね。てかきゃのんがエトワールだから組長・副組長の前がもうあきエビなんですよ、宙組ってホント上級生がいない…!
 「ノスタルジア」はすっしぃではなくゆりかを使ってほしかったし、「ステート・フェア」って『ラ・カンタータ!』では二番手カップルの場面だったんだからここをゆりかゆうりにしてくれてもいいのにと思いましたし、というか全体にゆうりちゃんはショーでは役不足すぎたと思いますし、それで言うなら愛ちゃんにも三番手スターとしてピンの場面を与えてほしかったです。プロローグとパレードと三組デュエダンだけなんて寂しいよ。
 代わりに「夢・アモール」はまぁみりでちゃんとデュエダンにして、尺がないなら増やしたイングリッシュ・ソングは一曲にすればいいんじゃないかなと思いましたし、まぁ様が客席を練り歩いている間に本舞台では下級生カップルを踊らせるとかコーラス隊を出しておくとかして空にしないでほしい、二階席や三階席を置いてきぼりにして地方で初めて宝塚歌劇を観るようなお客さんをガッカリさせないでほしい…と切に思いました。
 でももんちやあきもがノリノリのロケットとか楽しかったし! みりおんの歌声は本当に素晴らしいし! ゆりかの「スマイル」も本当に素敵で、歌が上手くなったよねえとしみじみできたし! 何よりまぁ様が長い手脚を生かしてのびのび踊る姿が本当に美しかったので、楽しく全国追っかけさせていただきますけれどね。まあでも藤井先生には待望のオリジナル・ショーにもっと違うアレもコレも観たい!と暑苦しいお手紙書いちゃいましたけどね。

 今日の島根公演から、本格的に旅暮らしかな? 全ツが二回目という初心者、かつのんびり派のあきゆりかが置いてかれないことを祈ります。元気で怪我なく、千秋楽まで楽しく公演してくれることを、そして各地にファンを増やしていってくれることも祈ってます。ついていきますね、がんばってくださいね!!!












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