宝塚バウホール、2016年9月20日14時半。
20世紀中盤、天才科学者アルバート(瀬戸かずや)が開発したアンドロイドは、人々の生活になくてはならないものになっていた。世俗の喧騒を逃れ隠遁生活を送るアルバートのもとに、ある日、エルザ(城妃美伶)というアンドロイドが助けを求めにやってくる。アンドロイドに働き口を奪われた人間たちによる反アンドロイド運動が高まる中、人間と平和に共存する道を模索するため、自分たちにも感情を与えてほしいとエルザは言う。彼女に亡き妻ミレーヴァ(桜咲彩花)の面影を見たアルバートは、科学者仲間であるトーマス(水美舞斗)の力も借りてエルザに感情を与えようと試みるが…
作・演出/谷貴矢、作曲・編曲/太田健、振付/若央りさ、KAORIalive。谷貴矢先生のデビュー作となるサイエンス・フィクションラブ・ストーリー。
初日からぼやんとした感想ツイしか流れてこなくて、それは今考えたらネタバレを避けるとうまく語れないからだったんだろうけれど、さてどういうスタンスで行ったらいいのかな、まあデビュー作でもあるしそんなに過剰な期待はせず、でも最初からあきらめて行くわけでもなく、フラットに観よう…みたいな感じで出かけてきました。実際には台風の影響もけっこうドキドキもので(武庫川の水位はちょっと怖かったです)、集中しきれるかしら?なんて心配もあったのですが…あにはからんや。
何かを褒めるのに別の何かを引き合いに出すのはあまり良くないことですが、あえて言いますが『
鈴蘭』の100倍おもしろかったです。ちょっと強引なところもつっこみどころもあったけれど、ちゃんとしていました、よくできていました。
キャラクターが立てられていて、伝えたいメッセージやテーマがあって、細かいところが多少アレレでもストーリーがきちんと組み立てられていて、ドラマがあって萌えがある。この萌えって、作家の情熱とかこだわりってことです。かつたくさんの生徒に役があってそれぞれ適材適所だったり個性が生かされていたり意外な挑戦をさせていたりする。そしてそれぞれに魅力を発揮させている。題材、設定、音楽に目新しさがある。ミュージカルとしての基本的な構造がきちんとできている。装置のセンスがいい。
あたりまえのことかもしれませんが残念ながら実はなかなかないことで、新人のデビュー作としては十分に及第点だし、ホントにフツーに楽しかったしおもしろかったです。フツーの男女のクラシカルなラブロマンスを求める向きには置いてかれ感を味わわせたかもしれませんが、たまにはこういうタイプの作品があってもいいし、登場人物の大半が実はアンドロイドでも結局は人の心を、愛を描いている作品なので、そこが何より宝塚歌劇としてちゃんとしていると思いました。そういうところがちゃんとしていさえすれば、SFとしてザルな部分なんかいくらでも目を潰れるのです。
中二すぎるとかオタクで恥ずかしいとかいう意見も多く目にしましたが、私はそんなでもなかったかなー。微笑ましかった。私が自分を理系脳だけどロマンチスト、だと思っているからかもしれませんが、似て非なるツボを感じておもしろく思えたのかもしれません。谷先生は文系脳を自認しているようですが、文理以前に「感情とは何か」という大前提がけっこうあいまいで出落ちに近いくらい破綻していて、それでもいつもわりと細かい整合性を求めたがる私が今回は楽しめた。論理の飛躍にオイオイとなりながらも、キャラクターが好きになれたから楽しく話の行く末を追えた。そして観終えて楽しく幸せになれた、それが大事かなと思いました。
主人公のピンスポ、客席からの拍手、ソロ歌から始まって主要登場人物が順にそれぞれ印象的にかつ思わせぶりに登場し、最後は全出演者が出て総歌総踊りになるプロローグと、二番手格スターたちの場面に黒燕尾、ダブルヒロインのためデュエダンではなくトリプルダンス、のフィナーレがきっちり作れているのも勝因だったと思います。こういう基本をきちんと抑えられることも大事。というか基本のキもできていない素人くさい作品が最近は多すぎました。今回は、脚本の細かい言葉の使い方に引っかかることも多く、もっと神経使って書いてほしいと思わなくはありませんでしたが、そういうところは今後きっといくらでも直していけるでしょうから、まずはデビューを寿ぎたいです。そういうレベルに達する前にデビューさせちゃった人については、劇団、ちゃんと再教育してくださいね! ファンに「自分の贔屓に当てられたくない作家」を量産してどーする、って話ですよ!
では、以下、完全にネタバレで、つっこみつつストーリーをおさらいしたいと思います。一度しか観ていないので、勘違いしているだろうところや記憶が怪しいところが多々あるのですが、ご指摘ください。がんばって考えて修正いたします。
さてそんなワケでこれは、パラレルワールドというか、産業革命のあと勢いあまってアンドロイドまで開発されちゃったような歴史の地球の、20世紀中頃のヨーロッパ、のようです。実際の物理学者アルバート・アインシュタインにはアンドロイドに関して何かの研究があるとか功績があるとかは特になかったかと思うので(しいて言えば「知恵の実」イコール小型核融合装置?の方の研究には関連づけられるかな)、これは「科学者」といえばエジソンかアインシュタインかホーキング、程度のイメージによるネーミングにすぎないのでしょうね。でもいいタイトルだと思います。
というワケでそのアンドロイドを開発した科学者であり主人公であるアルバートは、しかしもはや引退していて、なんなら失踪と言っていいくらいになっている。田舎の屋敷でアンドロイドの執事やメイドに身の回りの世話をさせて、世間からは引っ込んで暮らしている。イブ氏やたそがいい味を出していて、でもこのアンドロイドたちはだいぶ機械じみていて旧式で、アルバートが初期に開発したものをそのまま使っているということなのだろうか?とか思ったのですがそのあたりに関しては特に説明はナシ。でも世のアンドロイドがこの程度の出来の機械なのでは、人間の働き口を奪って人間が恐慌をきたし反アンドロイド運動に走る…なんてことにはなりそうにないけれどね、ともつっこみたかったけれどそれはおきます。
アルバートが隠遁しているのは実はさる事故があって記憶をなくしたからで、親友のトーマスは彼を心配して入り浸っている。そしてある日、所属不明の野良アンドロイドみたいなエルザを連れてくる。エルザの動きはメイドアンドロイドたちより格段にスムーズで、メイドたちにはわからない、枯れた花は美しくないから飾っても意味がないということを理解する能力がある。それでも感情が、ことに「愛」がわからないから、それを教えてほしいと彼女は言う。人工知能AIが愛を理解できるなら、人間と共生する道が開かれるはずだから、と…
アルバートはエルザと出会うことで、忘れていた亡き妻ミレーヴァの顔を思い出し、彼女の幻を見るようになる。エルザはミレーヴァと似ていたのだ。記憶を取り戻そうとする人間の男と、感情を学習しようとするアンドロイドの少女との、奇妙な共同生活が始まる…ワクワクさせられる、素晴らしいイントロだと思いました。
一方、世間では、国家人間主義労働者党が政権目指して広報活動をしていて、アンドロイドへの不安や憎悪を民衆に植え付けようとしている。それはナチスのパロディになっていて、でも幹部のしーちゃんやあかちゃんがちょっとへっぽこだったりしてキュートでユーモラス。そしてカリスマ党首である亜蓮くんヴォルフ(亜蓮冬馬。だからこのキャラクターはベタに「アドルフ」でもよかったのである)には、じゅんこさんヨーゼフ(英真なおき)の傀儡である以上の秘密が何やらあるらしい…上々の展開です。
ヨーゼフはかつてレオという名の科学者で、核融合の研究をしていたらしい。かつてアルバートと手を結び、小型核融合装置をアンドロイドの動力とすることで性能拡大できると考えていたらしい。さらにレオはアンドロイドを兵士として人間の代わりに戦争させることも考えていた。かつての戦争で妻子を亡くした彼は戦争を憎んでいた、ただし世界から戦争はなくせないだろう、ならばアンドロイドに戦わせれば人間は死ななくてすむ…最近のテロとか、憲法改正問題とかにも通じるようなネタもぶっこんできています、その意気やよし。
さて、アルバートとエルザは村のお祭りに行くことになる。ベタですね、フェスタの狂乱は話の進展や展開に欠かせないものですからね。でもここまでアルバートはあくまで自分の過去や亡き妻にこだわっているように私には見えて、だからエルザとダンスしてドキドキして盛り上がっちゃってキスしようとしちゃって…という流れには私はけっこう驚きました。なんかそういう恋愛話の匂いをそこまで全然感じなかったので。エルザの関心もあくまで自分自身の心の動きにあったように見えましたし。話のパターンで考えたら主役ふたりがこういう展開になるのは当然なんだけれど、どうにも唐突に感じました。「恋」が描けないのであればそれは弱点かもしれないぞタカヤくん!
エルザが「動悸がする」と何度も言うのにも引っかかっていて、そういう心臓の鼓動とか脈拍とか血流とかは生物のものであってアンタにはオイル循環ポンプ装置みたいなものはあるかもしれないけどそれは動悸とは言わないだろう、とかも私は考えてしまっていたりしたのですよ。これはあとで回収されるのですが(しかしそこでも言いたいことはあるのだが)。あとリミッターとかロボット三原則にかかわるような部分の設定の説明があいまいだったのも、ホントはちょっと良くないところです。何がどうなればピンチなのかが観客にある程度が予想つかないと、盛り上がれないからです。その上で予想を裏切り、けれど期待に応えるのがいい仕事ってものなのですよタカヤくん!
エルザはアンドロイド友達のヨハン(朝月希和)のために人間に怒り刃向かい暴れ、アルバートと盛り上がってキスしかけてショートしてしまう。修理には、アルバートがかつて開発した小型核融合装置「知恵の実」が必要で、でもそれはアルバートの事故や記憶とともに失われてしまっていて、ヨーゼフや国家人間主義労働者党の幹部たちも探しているものなのだけれど、実はそれを保管していたのはトーマスで、義眼として?右目にしまっていたのだった。そして実は彼はミレーヴァの弟で、ミレーヴァが死ぬに至った事故のことも知っていて、科学者としての才能の差にアルバートに対し思うところがあって…えええまさかのこっちがワルでした展開!?
事故があった地下室に行き、アルバートは記憶を取り戻す。かつてエドゥアルトというアンドロイドに「知恵の実」を搭載したこと、エドゥアルトが暴走しミレーヴァがアルバートをかばって死んだこと…
トーマスが知恵の実をエルザに与えて再起動させ、エルザはレオからアルバートをかばって撃たれ、アルバートはもろもろのショックでフリーズする。そう、実は彼もまたアンドロイドだったのです! 妻の後負い自殺をしようとした彼を、トーマスが救い、脳を移植して?アンドロイドにし、ミレーヴァの心臓を移植してエルザを作ったというのです。
簡単に死なせるわけにはいかないから? 償ってほしいから? 天才的な頭脳が惜しいから? 復讐? 憎悪? それとも愛? 混迷の中、幕…
で、実は私はこれは演出上のストップモーションみたいなもので、アルバートも実はアンドロイドだったのだ!というのを上手く理解できず受け止められないまま幕間に突入してしまったのですけれど、とりあえず二幕。
トーマスを介して、アルバートとミレーヴァのなれそめが語られます。このべーちゃんがもう素晴らしいわけですよ! もちろんしろきみちゃんの娘役力、ヒロイン力は私はものすごく評価しているのですが、しかしベーちゃんには一日の長がある。一幕はずっと亡霊としてたゆたうように舞台にいて、その存在感(という言い方は亡霊役にはおかしいのかな? しかし素晴らしい虚数「i」っぷりでしたよ!)も素晴らしかったけれど、二幕のこの回想場面でのピチピチの女子大生っぷりはもう最高オブ最高でした。
またベタなんだこの回想が! あきらにメガネかけさせて白衣着せたら勝ったも同然だと思ったんでしょうタカヤくん、正解です!!!
学生の身で天才の名を欲しいままにして、でも人づきあいが苦手で友達がいなかったアルバートに、心理学を研究しているミレーヴァが近づいてきて、一緒に研究してアンドロイド開発をしようと持ちかける。ぶっきらぼうな男と人懐っこい女。一緒に研究しているうちにいつしか…キャー!
でもアンドロイドが商業流通するようになるとアルバートは時の人としてすっかり忙しくなって、ミレーヴァとはすれ違いが続いて、そんな中ミレーヴァが病に倒れて、そのとき彼女は妊娠していて…ベタだわ、でもベタは大事だわ。
アンドロイドのエドゥアルドはミレーヴァの不調に気づけず、子供を流させてしまったことを悔いている。こういうのがすでに「感情」だし、そもそもプロトタイプっぽいたそハンス(天真みちる)すら命令違反ができた自分を喜ぶくらいなんだから「自我」もあるワケで、もう全然イロイロ駄目でつっこむのに忙しいんだけど物語も情報過多のまま進みます。
アルバートはレオと手を組んで知恵の実をアンドロイドに搭載することにし、エドゥアルトが実験台一号になって、そして…アルバートはアンドロイドとして再生した。なくしていた記憶も戻った…なかなか長い回想場面でした。
ここでちょっと飛躍しているんだけどおもしろい論理の展開があったのは、こうやって誰かをかばって身を挺すこと、自分の身を投げ出しても誰かを救おうとすること、誰かのために自分の未来を捨てること、それこそが愛だ、というんだけれど、アンドロイドには寿命がないから時間軸を持たない、今がないから差し出す未来もない、だから愛を知ることがないのだ、みたいな話の展開で。でもエルザと同じくアルバートもアンドロイドだったんだから、未来を持たないもの同士だから、対等だからそれでいいんだ、みたいな。オイオイなんだって? パードン? みたいな論旨展開なんだけど、なんだか押し切られてしまって。実際、人間とアンドロイドの恋愛は難しかろうがアンドロイド同士ならアリなんじゃね?と思わせられてしまう、というか。
で、国家人間主義労働者党は選挙に勝って党首ヴォルフが首相だか大統領だかになることになって、あいかわらず民衆を扇動しアンドロイドを排斥し兵器利用しようとしていて、だけどエドゥアルトも亜蓮くんで、二役ではなく彼こそがヴォルフで、要するに今ヨーゼフの操り人形として反アンドロイド運動の急先鋒にいる彼が実はアンドロイドという皮肉なことになっているのです。で、ヴォルフがアンドロイドだと暴露されてしまい、アルバートはヨーゼフの操り人形のヴォルフとしてではなくアンドロイドのエドゥアルトとして生きろみたく迫るんだけれど、彼は党首ヴォルフではなくヨーゼフの息子ヴォルフとしての自我(「I」!)を確立し、「父の息子」として生きることを選択する。ヨーゼフは彼に亡き息子の面影を見ていて、もちろん利用していたんだけれど愛情だってあって、だから僕はそれに応えて生きる…みたいな。唐突なんだけど泣かせる展開で、アイデンティティの問題としてすごく深くて。
で、なんか、人間でもアンドロイドでも同じで、できることもあればできないこともあって、でもとにかく愛が大事で、そうしたらみんなで平和に生きていけるはずで…みたいな話の展開になったんですよ。なんかホント細かい流れを覚えていなくてすみませんが、でもとにかくおもしろかったんです。そうかもね、そうだよねって思わせられちゃったのです。
で、知恵の実のせいで?アルバートの寿命は尽きて(生物じゃないのに「寿命」という言葉はどうなんだ…耐用年数がすぎたとか、機能停止したとか? まあこのあたりはつっこんでもせんないかな)、エルザも同様で、だからトーマスはふたりを屋敷の庭に埋めてあげて、そしてそこにまた花は咲くだろう、と言うのです。機械だから土に返らないよ、産業廃棄物だよ肥やしにならないよその養分吸って花が咲くとかないよ!というつっこみは無粋なのでしません。もういいんです、なんかそういう感動的な輪廻が舞台には描かれていたのです。花は枯れるから美しい、枯れてもまた咲く、それが愛であり世界である、みたいな。怪しい宗教みたいだけど、ある種の真実でしょう。
エピローグ、人間とアンドロイドが平和に共生する世の中になっていて(それとも夢なのか?)、「アルバートに似た男」と「エルザに似た女」が出会う。「きみは人間? アンドロイド?」と男に聞かれて、女は「さあ、どっちでしょう?」と笑う…いや、シュールですよ。見分けがまったくつかなくて(ユダヤ人が付けさせられていたダビデの星を思わせるような、アンドロイドが着る服に必ずあった歯車の意匠がこの場面ではなくなっていたので)、心も通うし恋もできるかもしれないけど、性交とか生殖はできないんですよね!?とか私はつっこみたくなりますからね。でもいいんです、ここのあきらとしろきみちゃんがキラキラしているから。そしてやっと解放されたようなミレーヴァのベーちゃんが、トーマスのマイティーがキラキラしているから。みんながキラキラしていて幸せそうだから。だからいいんです。愛がそこにあるから、愛を信じられるから。
あとはかっちょいいフィナーレとパレードがあって幕、です。めでたい。素晴らしい。
現実のことを言えば、機械に二足歩行させることすら大変で、人間のように動くアンドロイドなんて夢のまた夢です。AIの方にしたって、チェスや囲碁で人間に勝ったからってそれはそういうルールやシステムのあるゲームでは論理が勝つに決まってるからで、たとえば小説を書くなんて夢のまた夢、自然な会話の受け答えのひとつもできないのが現状です。文法にはイレギュラーなルールが多いし、人間は論理的には話さないからAIはそれに対応できない。感情を学ぶとかなんとかいうレベルでは全然ないのです。
さりとてでは人間には心や霊や魂があるから高等なんだ、ってことはまったくなくて、感情なんて脳や神経の電気信号にすぎず、複雑なプログラムに従って作動しているだけかもしれず、そちらの方の研究から「感情を科学的に再現する」ことの可能性はとっくに見えてきています。だから機械と人間の差はあるようでやはりないような、なのです。
愛とはなんなのか、というのは科学的な問いのようでもあるし哲学的な問題のようでもある。愛しいと思い大事に思う、懐く、とかなら動物だって愛を知っている。私たちも、例えば愛用品であるとか思い出の品とか、ただのモノを大事に愛すことはある。でもただのモノが人を愛す、人に懐くということはありえない。ではアンドロイドはどこから「ただのモノ」でなくなるのか? 人間の脳のメカニズムを完全に再現するプログラムができてアンドロイドに搭載すれば、アンドロイドは愛をも知ることになるのか…?
これはもう、ロマンの問題だとしか言えませんよね。
理詰めで進めても仕方ないんだろうし、スタートはあきらに白衣着せたら素敵なんじゃね?くらいからで、ダブルヒロインにしなきゃならないから死んだ奥さんと今の彼女にしようか、二股に見えるとアレだから今の彼女は奥さんそっくりのロボットってことにするか…程度から始めたお話であって全然かまわないと思いました。
生徒をカッコよく見せたい、素敵に、美しく見せたい、楽しいことをやりたい、愛が大事だ、愛があれば大丈夫って言いたい…そんな意志を感じられるからです。かつ、作者が自分の欲望を満たすためだけに劇団を利用しているような感じは見受けられない。そこも大事。
だからやっぱり、イロイロ破綻しているかもしれないけれど、がんばっていたし楽しい舞台でした、というのが結論かな、と私は思ったのでした。
中の人々に関して言えば、実は私はあきらのジョン卿を観たときに意外なダイコンっぷりにちょっと目眩を感じたくらいで、これだけのルックスと渋い声を持っているのに場数踏んでないからかもしれないけど残念なことよ…とか思っちゃったのでしたが(相手役のゆきちゃんマリアがまた上手かっただけにねえ…)、今回の役はその難を上手く隠していてよかったと思いました。もともと真ん中って実はあんまり演技力が要らなくてただいればよくてしどころがないくらいのことの方が多くて、周りがアレコレ絡んでくるのの総受けしてればいいようなところがあると私は思っているので(そうじゃない、主役が芝居をしていかないと成立しないタイプの物語ももちろんありますが)、ちょうどよかったと思うのです。かつもちろんめちゃめちゃカッコいいワケですから、それで十分立派に成立するんですよね。
そこに経験豊富なダブルヒロインが素晴らしく花開いたワケですよ。かつての女に似た女、というのは男のロマンなのかよくある話だけれど女からしたらケッ、ってなもんで、でも今回は上手くはまったしもちろんふたりはまったく似ていなくて、そこがまたよかったです。『
太陽王』フィナーレのトリプルダンスは、私はちえちゃんが二股男に見える気がしてあまり感心しなかったのですが、今回はそんなことはなかったように思いました。えこひいきかな。
パレードもふたり一緒に出てきて上手側が上級生のベーちゃん、でも先にお辞儀をする…というのも絶妙だなと思いました。ふたりともホントにヒロイン力あるし、特にベーちゃんは難しい役どころをものすごく上手くやっていたと思います。そしてしろきみちゃんはなんのかんの言ってもポストかのちゃん最右翼だと私は思っています。上手いし可愛い!
『
スターダム』から二作続けて二番手ポジションを務めているマイティーですが、任せて安心、これまたホントに上手くなったし華が出てきましたよねえ。プロローグとか鮮やかだったし、四人口のフィナーレはバリバリのセンターでした。ホントはこのバウの発表があったとき、別格スター上級生を大切にすることももちろん大事なんだけれど、将来ある若手路線スターにバンバン主演やらせていくほうが有効かもしれないよ、とかも思わなくはなかったんですよね。でも今回はやっておいていい経験だったかと思います。満を持してのバウ主演、そろそろ来てもマジでおかしくないと思うので、がんばっていただきたいです。
三番手格が亜蓮くんで、これまた『スターダム』でもすごくよかったんだけれど、こんな大きな役を臆しもせずよくやってるよねえ、という将来性、大器を感じました。もちろん若さゆえかもしれないけれど、新公主演はすぐ来るよね、花組は安泰だなあ。
あかちゃんがおもろいパートに回っているのもいい経験となると思うし、またいい味を出しているんだコレが! るなっち、しーちゃん、りおなにびっくがまた手堅いし、白姫あかりちゃんの存在感も素晴らしい。鞠花パイセンもホント上手いんだよねー! そしてやっぱりたそが素晴らしい。ひらめも可愛かったよ! そしてもちろんじゅんこさんのサポートは絶品でした。
全ツ組は脇が若いなと思っていたらみんなこっちにいたんだねえ…という印象でした。カレーちゃんやつかさっちはゆっくり骨休めできているのかな。花組が元気なら宝塚歌劇は元気なのです、今後にさらに期待です!