宝塚バウホール、2015年7月28日マチネ。
優勝者には歌手デビューの権利が与えられるオーディション番組。かつては絶大な人気を誇ったものの、スターの不在により視聴率が低迷し、いつしか打ち切りの噂までささやかれるようになっていた。そんな中行われた新シリーズの一次選考で、とある挑戦者が歌い始めた途端、スタジオの空気が一変する。彗星のごとく現れた青年の名はリアム(鳳月杏)。彼の歌声に類まれなる資質と可能性を見出した番組関係者たちはにわかに色めき立つ。財閥の御曹司ながら歌手を目指すネイサン(水美舞斗)をはじめ、各地での選考を経て集まった個性豊かな面々とともに、番組が用意したレッスンに励むリアムだったが…
作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、玉麻尚一、高橋恵、振付/伊賀裕子、平澤智。月組から花組に組替えした鳳月杏の初バウ主演作。全2幕。
何度も言っていますが、私は宝塚歌劇初観劇演目が『メランコリック・ジゴロ(正確には「ン」は1号小)』初演だったので、ハリーのファンです。だからハリーには甘い。盲目的と言ってもいいかもしれません。近作では『マリポーサの花』『ロジェ』『ダンサセレナータ』あたりはつらかったけれど、全然見限れない。そんなに評判の良くなかった『ラストプレイ』『ルパン』とか好きだし、小公演だと『はじ愛』も『THE KINGDOM』も好きでした。
今回の演目はちなっちゃんのバウ初主演作、という点がトピックなのだと思うけれど、私がこの座組の中で一番好きなのはだから、ハリーですすみません。だからちょっと偏った感想になると思います、重ね重ねすみません。私、今わりと花に弱いんだよね…(萌えない、熱がないという意味です)
最初に言っておくと、私はおもしろかったです。私は好きです。特に二幕。ベタな展開にちょっと笑っちゃいつつ意外にうるっとしてしまい、そのまま怒濤のフィナーレになだれ込んでもうハイテンションで手拍子入れまくりで、すごく楽しく観終えました。
でも、ホラ、だからこそ、だったらさあ…と語り出すと私は長い、というのは、ここにいらしてくださっているみなさんはもうご存じですよね…と甘えてみる(笑)。というか最近、「感想を楽しみにしています」とか言っていただくことが多くてすごく嬉しいです。こんなごくごく個人的な、偏った感想と口うるさい意見だけのブログを読みに来ていただいていること、本当に感謝しています。
基本的にはとにかく言葉にして吐き出さないとアタマの中がいっぱいになってしまってパンクしそうでつらいので、自分のために整理して書きつけて、そうしたら安心して綺麗さっぱり忘れられて次に行けるという、キャパの小さい困った自分のための、本当の意味での備忘録として始めたブログなのですが、やはり読んでくださる方がいるとか、共感や同意やイヤ違うよこうだったよとご指摘くださったりとかの反応がいただけるのが嬉しくて、せっせと書いているようなところもあるのです。
引き続きおつきあいいただけたら嬉しいです。
さて、日本で言えば『スター誕生!』とかになるのでしょうか(古い?)、この手のいわゆるオーディション番組というものを実は私はほとんど見たことがなくて、ある種の社会現象みたいなものになったことがあったというのも知識としてうっすら知っている程度だったので、それってそんなに一般常識な有名な出来事だったの? こんなナンバーじゃなくてちゃんと台詞で説明してから始めた方がよくない? とか思いつつも、まあ冒頭としてはザッツ・ハリー・ミュージカルな展開だよねー、などと思いながら眺めていきました。
で、ズカズカ現れたちなつリアムのオーラ、掃き溜めに鶴(失礼!)感におののき、しかし「歌うの? 踊るの?」と言われたらそらダンスやろ! と思ったら歌うんだ! みたいな、まあでも歌手になる話だもんね、でも残念ながらこの歌唱にはそこまでのインパクトはないんじゃないかうーむ…などと思いながら観ていきまして。
で、ああ群像劇なのね、なるほどなるほど、まあストーリーはないけどシチュエーションものなんだからそれはそれで仕方ないし、若手ながら生徒はみんながんばってるじゃん、と思いつつも、しかしむしろこの中では上級生口の方が演技が怪しいというか、ぶっちゃけハリー芝居ができていないのでは? と思い始めてしまい…
なんか観ていてだんだん、ハリーが描きたかったもの、脚本に書いたものと実際の舞台に現れている芝居とに勝手に乖離を感じてしまい、ああこれがハリー芝居に慣れている月組上級生たちだったら、とか、イヤでもハリーがもっと細かく演技指導して演出つけてやるべきだろう、最近そのあたりがヌルくないか? とか考え始めてしまい…
で、一幕ラストまで来て、カッコいいんだけどでも、主人公が一番描かれていないんですけど? コレこの先大丈夫なの!? となってしまったんですね。
ただ、たそサイモン(天真みちる)がリアムに言う、おまえは他のオーディション挑戦者みたいにギラギラしていない、やる気が感じられない、それじゃ駄目だ、みたいな台詞は印象的だったんですね。そういう、「熱くなり方(ヘンな日本語ですみません)がわからない」みたいな人がいるって、最近すごくすごく身に染みて感じているので、個人的に(><)。
で、これはハリーがちなっちゃんに当て書きした役なんだろうし、確かに月組時代の、同期のゆうきなんかの陰に隠れていたころのちなつにはちょっとそういう空気があったかもしれないなと思うと、主人公としてやや変わっているかもしれないけれどけっこう今どきな、おもしろいキャラクターを振ってきたなあと思いましたし、そういう人間がどう熱くなるか、みたいなものを描いてくれるのかな? それって興味あるし、おもしろそう! とときめいたんですね。
だって、いると思うんですよそういう人。すごく努力したりしなくてもたいていのことはなんとなくそこそこできちゃうって人。だからこそこれがやりたいとかここで死ぬ気でがんばるとかがない人。でも真剣じゃないってことじゃないし本気じゃないってことでもない。ただがむしゃらになり方がわからない、みたいな人。もう一皮剥ければ、もうひとつ弾ければ、一段階上に行けるのに、と言われがちな人。
そういう人が、何をきっかけにどう変わるのか? それを描くドラマなのかな、と思ったんですね。
ただそれにしては、リアムはちょっとサイモンに言われただけであっさり本気になっちゃった、ような…? アレレ…?? みたいになり…
かつ、だったらジェイク(亜蓮冬馬。やっと認識できましたが騒がれるわけだ、いいもの持ってるね!)との場面とかをもっと上手く活用して、もうちょっとリアムのこのキャラクターを説明しておかないと、わかりづらいんじゃないの? と思ったのですよ。
ふたりは友達で、おそらくはハイスクールの同級生かなんかで、卒業後は共に整備士になって自動車の修理工場みたいなところで働いているらしくて。ジェイクにはカスタムカーを作りたいとかの夢があって、この仕事が好きでがんばっていて、でも経営的に苦しくて悩んでいる。対してリアムは車に対してそこまでの情熱がない。
でも高校時代にちょっとバンドを組んだことはあって、それは楽しかった。歌うことは好きだった。だから今回、軽い気持ちでオーディションに臨んだのだけれど、周りはみんなもっとガツガツギラギラしていて、本気で歌手になりたいと考えていて、なのに俺は…みたいな、そういう部分をもう少し出しておかないとダメなんじゃないの?
ハリー芝居に特有の「ああ」とか「うん」とか「そうだな」とかのごくごく短い台詞を、味と雰囲気を漂わせて発するちなつはとても素敵なんだけれど、しかし今のままではあまりにもリアムというキャラクターふわっとしか見えてこなさすぎじゃない? …というのが、私の幕間の感想でした。
そうしたら二幕があの展開ですよ。えっ、リアムってそんな重い過去がある設定のキャラクターだったの? だから中途半端にしか歌に情熱を傾けられないってことだったの? だったら一幕からそれをもうちょっと出していかなきゃダメだよ脚本! …となったのでした。
わかって観たらまた違うかもしれないんだけれど、何度も観る観客ばかりじゃないし、これはやはり構成に難があるのでは…?
しかも、じゃあそういうハードな人生を歩んできていて、だから今ひとつ歌に本気になれなかった青年が、それでもやっぱり歌うことが好きだ、歌いたい、となる話…としては、やはりこれって、やや弱い…よ、ねえ?
あと、これは最初の私の思い込みがよくなかったとは思うのだけれど、ちなつってそういう重い過去を背負って人生投げかけてて斜に構えたところがあるクールで影のある役、みたいなものが、意外に似合わなくないですか? それよりもっと、当初私が勝手に思い込んだような、今どきの、普通の、まあまあ才能がありながらも熱くなったり努力したりしてそれを開花させるガッツみたいなものが今ひとつないほややんとした青年…みたいな方がニンじゃない? というか本人の素ってそっちじゃない? イヤ知らないんだけどさ、周りにちなつファンが多いもので、その話から察するに、さ。イヤ素がどうだろうとちゃんと役を演じるべきなんだけど、その役がなんかちょっと…コレでいいの? と思ってしまったので。
ぶっちゃけ、リアムよりラトヴィッジ部長@『THE KINGDOM』の方がキャラクターとして素敵だったと思うし、それを演じていたちなつが素敵に見えた気がしない? という…
えーでもそれってもったいないじゃん、今回せっかくの主役なのに! と、ちょっとしょぼんとしてしまった私なのでした…
その点を除けば、後半の展開はベタとはいえおもしろかったし、全体にユーモラスな部分も出てきて客席からも笑いがドッカンドッカン起きてて、すっごく弾むように進みましたし、痛みに歌い続けられなくなったリアムをネイサンがフォローして歌い継ぐくだりは、ベタすぎる! とちょっと気恥ずかしくて笑っちゃったけど嬉しかったし萌えたし、実はけっこう感動しちゃいました。そうキタか! とか、来たキタ! って感じ、大切だと思います。予想を裏切り、期待に応えるってヤツですね。個人的にはここのリアムは、右腕をずーっとぶらんぶらんにしておいてほしかったけどね。
というワケで、全体としては私はとても楽しく観たのですけれど、もうちょっと手を入れたら万人がもっとすっきり「ああおもしろかった! リアム素敵だった!! ちなつサイコー!!!」って手放しで大絶賛する傑作青春ロマン&アクション群像劇、になりえたのではないかな? と思うと、ちょっと残念なのでした。
群像劇としては、ジェラルディン(朝月希和)の母親など、未回収の部分はもうちょっと手を入れてほしかったかな。
また、個人的には、べーちゃんダイアン(桜咲彩花)がジェイクのガールフレンドなのはいいにしても、リアムにも彼女に対して「友達の彼女だけど、でもちょっと気になる…」くらいの想いがある、程度でいいから、やっぱりラブが欲しかったなーと思います。
あと、じゅりあジェニファー(花野じゅりあ)、るなティモシー(冴月瑠那)、たそサイモンの大人チームのある種の業界ズレしたドライさ、疲れ、あきらめとか、りおなヴィクター(冴華りおな)やさなぎデイビッド(舞月なぎさ)のコミックリリーフ・パートが、芝居としてもうちょっと立ってくるといいのにな、とも思いました。ぶっちゃけここにるうちゃんとかひびきちとかが入っていたらもっと…とか思ってしまったわけです、申し訳ない。
でも下級生たちはがんばっていましたねー!
くり寿ちゃんの歌はホントよかったし、高峰くんもよかった。千幸くんの台詞の声も良くて、一之瀬くんなんか100期なんだとか? 全然ちゃんとしてました。すごい!
殊勲賞はイヴォンヌ(鞠花ゆめ)だったかなー。『次郎吉』も素晴らしかったけど、さすが伊達に上級生やってませんね、鮮やかでした!
というわけでヒロインというか娘1格はマイティーでしたね(^^;)。でも私はネイサンのキャラクター設定には萌え萌えでしたが、マイティーがハマっていたかと言われるとちょっと違う気もしましたし、ちなマイにもそこまでの萌えは感じませんでした。
ただフィナーレというかパレード、ラインナップでちなつを見るマイティーの表情は完全に娘1だなと思いました(笑)。
歌は正直もうちょっと歌えるなと期待していたので、すんごい聴かせるというほどではない…という気がしたのが残念でした。
でも痩せたし垢抜けたし、あたたかい確かなお芝居をする人で、新公主演もやらせてもらえてバウ二番手も立派に務めて、それこそステップアップしどきだと思います。がんばれ!
そしてちなっちゃん…漏れ聞くところによると初主演に気負うことなく淡々ゆるゆるとしているそうですね(^^;)。イヤいいと思います。そこで豹変! 確変!! みたくならないところがいかにもです。
でも化けなかったからダメかと言うとそういうことではなくて、この作品は多くの観客に「鳳月杏ここにあり」と思わせたと思いますし、組替えや扱いの正当性や実力、華の認識をさせたと思います。納得のスターさん、として地位が確立されたと思う。まずはそれが大事かな、と思います。
スタイル抜群で色気があってダンス最高で芝居心があっていい声していて華があってオーラがあって、もっともっとその魅力を生かし開花させる場所がこの先も与えられてしかるべきスター! だと、素直に思えました。それが大事だと思うのです。
公演は折り返し地点に入りましたね。体調をキープすること、その上でさらにいろいろチャレンジしていくこと、舞台全体を見てかつ自分もさらに輝けるよう励み続けること…真ん中で公演を背負わされないと勉強できないことがたくさんあると思います。存分に吸収してほしい、そしてこの先大きく化けてほしい。応援したいと思います。
ものすごいチケ難だそうで、一回とはいえ友会が当たって観られて本当によかったです。またせっせと貢ぎます…
優勝者には歌手デビューの権利が与えられるオーディション番組。かつては絶大な人気を誇ったものの、スターの不在により視聴率が低迷し、いつしか打ち切りの噂までささやかれるようになっていた。そんな中行われた新シリーズの一次選考で、とある挑戦者が歌い始めた途端、スタジオの空気が一変する。彗星のごとく現れた青年の名はリアム(鳳月杏)。彼の歌声に類まれなる資質と可能性を見出した番組関係者たちはにわかに色めき立つ。財閥の御曹司ながら歌手を目指すネイサン(水美舞斗)をはじめ、各地での選考を経て集まった個性豊かな面々とともに、番組が用意したレッスンに励むリアムだったが…
作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、玉麻尚一、高橋恵、振付/伊賀裕子、平澤智。月組から花組に組替えした鳳月杏の初バウ主演作。全2幕。
何度も言っていますが、私は宝塚歌劇初観劇演目が『メランコリック・ジゴロ(正確には「ン」は1号小)』初演だったので、ハリーのファンです。だからハリーには甘い。盲目的と言ってもいいかもしれません。近作では『マリポーサの花』『ロジェ』『ダンサセレナータ』あたりはつらかったけれど、全然見限れない。そんなに評判の良くなかった『ラストプレイ』『ルパン』とか好きだし、小公演だと『はじ愛』も『THE KINGDOM』も好きでした。
今回の演目はちなっちゃんのバウ初主演作、という点がトピックなのだと思うけれど、私がこの座組の中で一番好きなのはだから、ハリーですすみません。だからちょっと偏った感想になると思います、重ね重ねすみません。私、今わりと花に弱いんだよね…(萌えない、熱がないという意味です)
最初に言っておくと、私はおもしろかったです。私は好きです。特に二幕。ベタな展開にちょっと笑っちゃいつつ意外にうるっとしてしまい、そのまま怒濤のフィナーレになだれ込んでもうハイテンションで手拍子入れまくりで、すごく楽しく観終えました。
でも、ホラ、だからこそ、だったらさあ…と語り出すと私は長い、というのは、ここにいらしてくださっているみなさんはもうご存じですよね…と甘えてみる(笑)。というか最近、「感想を楽しみにしています」とか言っていただくことが多くてすごく嬉しいです。こんなごくごく個人的な、偏った感想と口うるさい意見だけのブログを読みに来ていただいていること、本当に感謝しています。
基本的にはとにかく言葉にして吐き出さないとアタマの中がいっぱいになってしまってパンクしそうでつらいので、自分のために整理して書きつけて、そうしたら安心して綺麗さっぱり忘れられて次に行けるという、キャパの小さい困った自分のための、本当の意味での備忘録として始めたブログなのですが、やはり読んでくださる方がいるとか、共感や同意やイヤ違うよこうだったよとご指摘くださったりとかの反応がいただけるのが嬉しくて、せっせと書いているようなところもあるのです。
引き続きおつきあいいただけたら嬉しいです。
さて、日本で言えば『スター誕生!』とかになるのでしょうか(古い?)、この手のいわゆるオーディション番組というものを実は私はほとんど見たことがなくて、ある種の社会現象みたいなものになったことがあったというのも知識としてうっすら知っている程度だったので、それってそんなに一般常識な有名な出来事だったの? こんなナンバーじゃなくてちゃんと台詞で説明してから始めた方がよくない? とか思いつつも、まあ冒頭としてはザッツ・ハリー・ミュージカルな展開だよねー、などと思いながら眺めていきました。
で、ズカズカ現れたちなつリアムのオーラ、掃き溜めに鶴(失礼!)感におののき、しかし「歌うの? 踊るの?」と言われたらそらダンスやろ! と思ったら歌うんだ! みたいな、まあでも歌手になる話だもんね、でも残念ながらこの歌唱にはそこまでのインパクトはないんじゃないかうーむ…などと思いながら観ていきまして。
で、ああ群像劇なのね、なるほどなるほど、まあストーリーはないけどシチュエーションものなんだからそれはそれで仕方ないし、若手ながら生徒はみんながんばってるじゃん、と思いつつも、しかしむしろこの中では上級生口の方が演技が怪しいというか、ぶっちゃけハリー芝居ができていないのでは? と思い始めてしまい…
なんか観ていてだんだん、ハリーが描きたかったもの、脚本に書いたものと実際の舞台に現れている芝居とに勝手に乖離を感じてしまい、ああこれがハリー芝居に慣れている月組上級生たちだったら、とか、イヤでもハリーがもっと細かく演技指導して演出つけてやるべきだろう、最近そのあたりがヌルくないか? とか考え始めてしまい…
で、一幕ラストまで来て、カッコいいんだけどでも、主人公が一番描かれていないんですけど? コレこの先大丈夫なの!? となってしまったんですね。
ただ、たそサイモン(天真みちる)がリアムに言う、おまえは他のオーディション挑戦者みたいにギラギラしていない、やる気が感じられない、それじゃ駄目だ、みたいな台詞は印象的だったんですね。そういう、「熱くなり方(ヘンな日本語ですみません)がわからない」みたいな人がいるって、最近すごくすごく身に染みて感じているので、個人的に(><)。
で、これはハリーがちなっちゃんに当て書きした役なんだろうし、確かに月組時代の、同期のゆうきなんかの陰に隠れていたころのちなつにはちょっとそういう空気があったかもしれないなと思うと、主人公としてやや変わっているかもしれないけれどけっこう今どきな、おもしろいキャラクターを振ってきたなあと思いましたし、そういう人間がどう熱くなるか、みたいなものを描いてくれるのかな? それって興味あるし、おもしろそう! とときめいたんですね。
だって、いると思うんですよそういう人。すごく努力したりしなくてもたいていのことはなんとなくそこそこできちゃうって人。だからこそこれがやりたいとかここで死ぬ気でがんばるとかがない人。でも真剣じゃないってことじゃないし本気じゃないってことでもない。ただがむしゃらになり方がわからない、みたいな人。もう一皮剥ければ、もうひとつ弾ければ、一段階上に行けるのに、と言われがちな人。
そういう人が、何をきっかけにどう変わるのか? それを描くドラマなのかな、と思ったんですね。
ただそれにしては、リアムはちょっとサイモンに言われただけであっさり本気になっちゃった、ような…? アレレ…?? みたいになり…
かつ、だったらジェイク(亜蓮冬馬。やっと認識できましたが騒がれるわけだ、いいもの持ってるね!)との場面とかをもっと上手く活用して、もうちょっとリアムのこのキャラクターを説明しておかないと、わかりづらいんじゃないの? と思ったのですよ。
ふたりは友達で、おそらくはハイスクールの同級生かなんかで、卒業後は共に整備士になって自動車の修理工場みたいなところで働いているらしくて。ジェイクにはカスタムカーを作りたいとかの夢があって、この仕事が好きでがんばっていて、でも経営的に苦しくて悩んでいる。対してリアムは車に対してそこまでの情熱がない。
でも高校時代にちょっとバンドを組んだことはあって、それは楽しかった。歌うことは好きだった。だから今回、軽い気持ちでオーディションに臨んだのだけれど、周りはみんなもっとガツガツギラギラしていて、本気で歌手になりたいと考えていて、なのに俺は…みたいな、そういう部分をもう少し出しておかないとダメなんじゃないの?
ハリー芝居に特有の「ああ」とか「うん」とか「そうだな」とかのごくごく短い台詞を、味と雰囲気を漂わせて発するちなつはとても素敵なんだけれど、しかし今のままではあまりにもリアムというキャラクターふわっとしか見えてこなさすぎじゃない? …というのが、私の幕間の感想でした。
そうしたら二幕があの展開ですよ。えっ、リアムってそんな重い過去がある設定のキャラクターだったの? だから中途半端にしか歌に情熱を傾けられないってことだったの? だったら一幕からそれをもうちょっと出していかなきゃダメだよ脚本! …となったのでした。
わかって観たらまた違うかもしれないんだけれど、何度も観る観客ばかりじゃないし、これはやはり構成に難があるのでは…?
しかも、じゃあそういうハードな人生を歩んできていて、だから今ひとつ歌に本気になれなかった青年が、それでもやっぱり歌うことが好きだ、歌いたい、となる話…としては、やはりこれって、やや弱い…よ、ねえ?
あと、これは最初の私の思い込みがよくなかったとは思うのだけれど、ちなつってそういう重い過去を背負って人生投げかけてて斜に構えたところがあるクールで影のある役、みたいなものが、意外に似合わなくないですか? それよりもっと、当初私が勝手に思い込んだような、今どきの、普通の、まあまあ才能がありながらも熱くなったり努力したりしてそれを開花させるガッツみたいなものが今ひとつないほややんとした青年…みたいな方がニンじゃない? というか本人の素ってそっちじゃない? イヤ知らないんだけどさ、周りにちなつファンが多いもので、その話から察するに、さ。イヤ素がどうだろうとちゃんと役を演じるべきなんだけど、その役がなんかちょっと…コレでいいの? と思ってしまったので。
ぶっちゃけ、リアムよりラトヴィッジ部長@『THE KINGDOM』の方がキャラクターとして素敵だったと思うし、それを演じていたちなつが素敵に見えた気がしない? という…
えーでもそれってもったいないじゃん、今回せっかくの主役なのに! と、ちょっとしょぼんとしてしまった私なのでした…
その点を除けば、後半の展開はベタとはいえおもしろかったし、全体にユーモラスな部分も出てきて客席からも笑いがドッカンドッカン起きてて、すっごく弾むように進みましたし、痛みに歌い続けられなくなったリアムをネイサンがフォローして歌い継ぐくだりは、ベタすぎる! とちょっと気恥ずかしくて笑っちゃったけど嬉しかったし萌えたし、実はけっこう感動しちゃいました。そうキタか! とか、来たキタ! って感じ、大切だと思います。予想を裏切り、期待に応えるってヤツですね。個人的にはここのリアムは、右腕をずーっとぶらんぶらんにしておいてほしかったけどね。
というワケで、全体としては私はとても楽しく観たのですけれど、もうちょっと手を入れたら万人がもっとすっきり「ああおもしろかった! リアム素敵だった!! ちなつサイコー!!!」って手放しで大絶賛する傑作青春ロマン&アクション群像劇、になりえたのではないかな? と思うと、ちょっと残念なのでした。
群像劇としては、ジェラルディン(朝月希和)の母親など、未回収の部分はもうちょっと手を入れてほしかったかな。
また、個人的には、べーちゃんダイアン(桜咲彩花)がジェイクのガールフレンドなのはいいにしても、リアムにも彼女に対して「友達の彼女だけど、でもちょっと気になる…」くらいの想いがある、程度でいいから、やっぱりラブが欲しかったなーと思います。
あと、じゅりあジェニファー(花野じゅりあ)、るなティモシー(冴月瑠那)、たそサイモンの大人チームのある種の業界ズレしたドライさ、疲れ、あきらめとか、りおなヴィクター(冴華りおな)やさなぎデイビッド(舞月なぎさ)のコミックリリーフ・パートが、芝居としてもうちょっと立ってくるといいのにな、とも思いました。ぶっちゃけここにるうちゃんとかひびきちとかが入っていたらもっと…とか思ってしまったわけです、申し訳ない。
でも下級生たちはがんばっていましたねー!
くり寿ちゃんの歌はホントよかったし、高峰くんもよかった。千幸くんの台詞の声も良くて、一之瀬くんなんか100期なんだとか? 全然ちゃんとしてました。すごい!
殊勲賞はイヴォンヌ(鞠花ゆめ)だったかなー。『次郎吉』も素晴らしかったけど、さすが伊達に上級生やってませんね、鮮やかでした!
というわけでヒロインというか娘1格はマイティーでしたね(^^;)。でも私はネイサンのキャラクター設定には萌え萌えでしたが、マイティーがハマっていたかと言われるとちょっと違う気もしましたし、ちなマイにもそこまでの萌えは感じませんでした。
ただフィナーレというかパレード、ラインナップでちなつを見るマイティーの表情は完全に娘1だなと思いました(笑)。
歌は正直もうちょっと歌えるなと期待していたので、すんごい聴かせるというほどではない…という気がしたのが残念でした。
でも痩せたし垢抜けたし、あたたかい確かなお芝居をする人で、新公主演もやらせてもらえてバウ二番手も立派に務めて、それこそステップアップしどきだと思います。がんばれ!
そしてちなっちゃん…漏れ聞くところによると初主演に気負うことなく淡々ゆるゆるとしているそうですね(^^;)。イヤいいと思います。そこで豹変! 確変!! みたくならないところがいかにもです。
でも化けなかったからダメかと言うとそういうことではなくて、この作品は多くの観客に「鳳月杏ここにあり」と思わせたと思いますし、組替えや扱いの正当性や実力、華の認識をさせたと思います。納得のスターさん、として地位が確立されたと思う。まずはそれが大事かな、と思います。
スタイル抜群で色気があってダンス最高で芝居心があっていい声していて華があってオーラがあって、もっともっとその魅力を生かし開花させる場所がこの先も与えられてしかるべきスター! だと、素直に思えました。それが大事だと思うのです。
公演は折り返し地点に入りましたね。体調をキープすること、その上でさらにいろいろチャレンジしていくこと、舞台全体を見てかつ自分もさらに輝けるよう励み続けること…真ん中で公演を背負わされないと勉強できないことがたくさんあると思います。存分に吸収してほしい、そしてこの先大きく化けてほしい。応援したいと思います。
ものすごいチケ難だそうで、一回とはいえ友会が当たって観られて本当によかったです。またせっせと貢ぎます…