宝塚大劇場、2017年7月14日15時(初日)、15日11時、8月12日11時、15時。
東京宝塚劇場、9月20日18時半、26日18時半。
17世紀、太陽王と呼ばれたルイ14世(愛希れいか)が治めるフランス。国王が隊長を務める銃士隊は国家と王家を守るため、日々鍛錬を積んでいた。隊員たちはそれぞれ腕の立つ個性派揃い。大胆不敵なポルトス(暁千星)、沈着冷静なアトス(宇月颯)、正規の色男アラミス(美弥るりか)、そして無敵のヒーロー・ダルタニアン(珠城りょう)。ある時、ダルタニアンにルイ14世の剣術指導をするよう指令が下るが…
脚本・演出/小池修一郎、作曲・編曲/太田健。アレクサンドル・デュマの小説『三銃士』をもとに、新たな発想で描くオリジナル・ミュージカル。全2幕。
初日の感想はこちら。これでほぼほぼ書き尽くしている感じです。
東京公演もビギナー(男性含め)を誘って楽しんでいただき、私は鼻高々でした。やはり毎夏これでいいと思うんだけどな、新規ファン獲得のいいチャンスだと思うけどな。コアファンがちょっと飽きてきてチケットが一般に取りやすくなるならなおのことチャンスだと思うんですよね、少なくとも向こう四年、各組で順次やるのはいい手だとマジで思います。
公演が進むにつれて、同性愛を笑いのネタにしているのではないか、また年かさの未婚女性を馬鹿にして笑うようなところがあるのではないか、色男というよりは女性を蔑視・軽視するキャラクターとして描かれていないか…といった点に引っかかる、というような意見も聞かれるようになりましたし、そうだなと思う部分もそうかなと思う部分も個人的にはありました。
まず同性愛に関する引っかかりとしては、たとえばれっきとした男性だと思われていたルイがダルタニアンとキスしているところを目撃したときの、宮廷の面々の反応だとか、ダルタニアンに国王との恋愛を相談されたときのアラミスの反応だとかがあたるのだと思いますが、まず当時としても同性愛は普通にあったものの公然の秘密とされていたようなところがあって、決して大手を振って公表されたり公認されたり歓迎されたりするものではなかった、ということは踏まえておく必要があると思います。「女嫌い」というのは男性同性愛の婉曲表現だったのかもしれませんが、この作品では単なる性向を語るものとしても捉えられるようで、私は引っかかりませんでした。
ただ、最初はそんな反応だったかどうかあまり記憶がないのですが、ヤスちゃん演じるリュリがこれを歓迎するそぶりを見せ始め、さらに仮面舞踏会でアトスに会って「タイプ!」と言ったりするようになったので、リュリはそういう性指向の人なのね、ということが印象的になり、結果的にこの問題が際立ってきてしまったのだと思います。リュリはバレエの振付家ですが、こういう芸術関連の職の人にそういうキャラクターが当てられがちだというステレオタイプに反発する空気もあるでしょうし(以下脱線しますが、思えば『華やかなりし日々』でやはり振付家を演じていたあっきーにもそういう方向性の役作りはありえたんだろうけれど、おそらくダーハラにはこのあたりのキャラクターたちにそこまでのこだわりはなかったんだろうし中の人はそういうことを考えつくタイプではないので、ごくフツーのキャラクターになったのでしょう。やらされていたらやっていたかもしけないけれど、上手くできたかは不安かな…ちーちゃんならともかく。また、ヘタに上手くできてしまっていた場合、以後そういうタイプの芝居ばかり求められる上級生になっていってしまった可能性もあるので、やはりやらなくてよかったんだろうと思うのでした。そっちにいっていたらおそらく私はその後こんなに好きにはならなかったと思うよ…この芸の幅の異様に狭いザッツ・二枚目スターが結局私は好きなんだもん…閑話休題)、ヤスは『A-EN』でも「男の子を好きな男の子」を演じているので、またかいな、という空気もあるんだと思います。
でも私はリュリは、相手が同性だろうが異性だろうが、国王が恋愛をしていることを喜んでいるように見えたと思いました。政治や剣術にはあまり興味がなくてバレエに夢中で、いつも母親と乳母にべったりされているような奥手の、ちょっと引っ込み思案そうな青年王のことを、リュリは兄貴分としてちょっと心配していたんじゃないかと思うんですよね。でもちゃんと恋愛しているんだ、人とつながれる人だったんだ、そうだよ愛は素晴らしい…と喜び寿ぎ感動している、ように私には見えた。だからリュリがアトスを恋するのは蛇足だったかなとは思います。同性愛者じゃないと同性愛を認められないわけではありませんからね。でもとにかくそのことで同性愛をネタにして笑いにしているとは、私は感じませんでした。
ダルタニアンに国王との恋愛を相談されたアラミスの反応についても同様で、驚くのも単に珍しいからであり、同性愛が少数派なのは単なる事実であって差別でもなんでもないのだし、彼自身は単に同性には性的に興味がないからそういう相談には乗れないと言っているだけで、嫌悪感を示したり馬鹿にして嘲笑している感じはまったくありません。ルイ13世のことを語るマザラン(一樹千尋)しかりです。
今回はそもそもがイケコが、ちゃぴで『リボンの騎士』ができる、やりたい、となったところから生まれた物語でしょうが、ダルタニアンが男としての国王に恋してしまってとまどい混乱する…みたいな展開もなかったわけですし、同性愛がネタとして安易、安直に使われているとか馬鹿にされて笑いの種にされているとかは私は感じなかったのでした。
モンパンシェ公爵夫人(沙央くらま)に関しても、まずこの時代の高位の貴族の女性には称号として爵位や夫人という名が与えられても実際には夫を持たず独身だった女性が少なからずいた、という事実がありますし、それはいわゆるオールドミスとか、現代の職があって自立もしている独身女性の在り方とかとはちょっと違うものなんですよね。そして彼女への笑いは、「中年女が年甲斐もなく若い男を追っかけまわして、みっともない」というような嘲笑ではなく、「幼い初恋を一途に貫き、脈がないけど知らぬふりで無邪気に恋焦がれ続けアタックし続けている勇気といじらしさ」に対する、微笑ましさと共感の笑みだと思うのです。それはコマのチャーミングでキュートでかつ押し出したっぷりな芝居の上手さによるところも大きい。イケコがどこまでわかって書いているかは正直ナゾかとも思いますが、なのでこれも私は引っかからなかったのです。
逆にアラミスが本当に色男なのか、というかいい男なのか問題、はけっこう根深いかなと思いました。プレイボーイってもはや古い概念ですよね、だって不特定多数にモテたって仕方がないわけですから。愛している人に愛されるだけで十分なはずなんですから。たくさんの相手をするということはそのそれぞれを大事にはしづらいということで、それは男を下げることになりますよ今や。
というか厳密に考えるならキャラブレしているように感じられなくもなかった…かな、私には。単に女にモテちゃうので相手にしちゃうけど本質的には興味がない、むしろ女を馬鹿にしている…というのはまあありがちなプレイボーイ像だと思うんですけれど、やはり女性が演じ主に女性の観客が観る芝居のキャラクターなのですから、そういう女性蔑視・軽視は良くないです。あくまで女性を尊重しているキャラクターとして描いてほしい。となると、懺悔でテキトーな助言をしたり献金と称して金を巻き上げようとするのはけっこうグレーかなと思うんですよね。まあそこまで深く描く暇はないのかもしれませんが…
というわけで、深読みしようとすればポリティカル・コネクト的にもフェミニズム的にもポロポロ齟齬もある物語ではあるかと思うのですが、でもやはり細かいことをそこまで気にさせないパワーと明るさ・楽しさ・単純明快さは特筆ものなので、やはり素晴らしいエンタメ傑作に仕上がっているのではないか、と私は思うのでした。
では、出演者の感想を。
「無敵のヒーロー」なんてキャッチをもらってまったく違和感も遜色もないダルタニアン珠城さん、素晴らしいですね! ファンも増えたことと思います。
田舎出身でちょっと武骨で、でも明るく誠実でまっすぐで真面目で、嘘やごまかしが嫌いで、努力と勇気の人。本人そのままで、そしてちゃんと主役・主人公になっていて、とても魅力的でした。ガタイの良さも素晴らしい、劇場全体抱いても大丈夫! もう信頼感しかありません。決して器用なタイプではないけれど、だからこそのラブコメにハマったかなというのがまた素晴らしい。
そしてフィナーレでは本当に色っぽくセクシーになりました! テレは捨てられたし気合も入った、センター任せて安心だし、娘役ちゃんたちに囲まれても男役たちを率いても素敵に決まる。そして何よりちゃぴとの愛と信頼あふれるデュエダンが素晴らしい。ここで理想のカップルを体現してみせることこそが宝塚歌劇の大命題なんじゃないかと私は思うのです。
たとえ同性愛者でも異性愛からしか生まれてこられないのだし、というか理想の男女カップルを演じているのがそもそも同性同士という本当に深いねじれがここにはあるのだけれど、だからこそ「愛は素晴らしい」とてらいなく訴えられるデュエダンが人の心に届くのだと思うのです。本当に素敵です。泣けます。
そして無敵のヒロインと言いたくなるちゃび。もはや裏トップスター様とも言えますが、変わらずみずみずしく愛らしく、素晴らしい。
ルイは元男役だからできる役…ということでもなくて、要するにちゃびの芝居が上手いから成立できている役だとも思います。ルイーズになったときの落差も素晴らしい。東京で増えた、酒場でダルタニアンとベルナルド(月城かなと)に挟まれたときの「彼女って言って!」アクションと、馬鹿正直に「会ったばかりだ」と答えちゃうダルタニアンにガクーッてなるトコ、ホント可愛かったです。
これまた女性だからって着飾ることしか考えていなくて今にも国政を放り出しそうな無責任なキャラクターに描かれていることが女は政治に向かないと言うかのようでフェミニズム的に云々、という意見もありましたが、これまたこの時代の国王で本当の意味で親政をした人って少ないんだろうし、「自分に嘘をつきたくない」というのは誰しもが願う真実の望みだと私は思うので、本当に王になるべき兄弟の代理を務めるのはもう限界、普通の女の子として生きてみたい、とりあえず髪を伸ばしたいドレスを着たい恋をしたい…というのは無責任でも考えなしでもなんでもないと私は思いました。可愛くて一生懸命なルイーズを演じるちゃびにはその説得力があったと思います。
欲を言えば、本編中でもバレエをそれほどがっつり踊っているわけではないので、フィナーレではガンガン踊る場面がひとつ欲しかったところだけれど、尺の問題もあるしあまり珠城さんを食っちゃってもなんなんで(^^;)、次のショー作品への期待として取っておきましょう。
まだまだ珠ちゃぴ作品がたくさん見たいです、長く長くいてね、ちゃび。
イケコの一本立てのフィナーレの歌手を務めるのは何回目?というみやちゃんですが、押しも押されぬ二番手スターとしてこちらも盤石の輝き。まあある種似たような色男役ばかりになっちゃっている気がしなくもないのは、本当はもっと芝居ができる人なだけにもったいない気もしますが、これも今後の課題として、楽しみに見守り続けたいです。
フィナーレの男役群舞で珠城さんが抜けたあとのセンターをきっちり務められているのはさすがです。小柄だけれどオーラがある。一級のスターさんですよね。
そして組替えしてきてすんなり三番手にハマったれいこちゃん、これまた素晴らしかったです。悪役なんだけどちょっと抜けてて憎めない、というのがまたぴったりで、超絶美人なんだけど全然お高くなくてむしろほわわんとしている中の人の人となりも見えてとてもよかったです。そして芝居の質も月組に合いそう。今後、かっちりしたお芝居やシリアスな作品も楽しみです。
三銃士はとしちゃんとありちゃん、こちらも盤石。としちゃんの渋さ上手さ、ありちゃんの闊達さは財産です。フィナーレでアイドルふうにしてくるとしちゃん、逆に大人っぽくセクシーに垢抜けてきたありちゃんと、こちらも恐ろしいまでの戦力っぷりです。今後にもさらに期待!
イケコにコメディリリーフとして絶大な信頼を寄せられているっぽいゆりちゃんがまたいい味出しているし、まゆみさんの上手さ手堅さ、るうちゃんの渋さカッコよさ、ジョーの素敵さも得難いものです。護衛隊の四人もホントいいんだよね。
それからすると娘役にはちょっと役不足だったかな? くらげちゃんのマリア・テレサは絶品でしたが、マザリネットとかは本当はやりようがないんですよね。でもわかばはやっぱり華があるし、私はさくさくな夢中でした。みんな妍を競って美しく可愛かった! あとはすーさんの素晴らしさ、なっちゃんの手堅さ、さち花の泣かせる情愛ね…!
おだちんも本当に垢抜けてきて、でもロケットで濃厚なウィンクを飛ばすので「国王様ご乱心…!」って毎回思うのが本当に楽しかったです。れんこん、るねっこ、ぎりぎり、あちも素敵でした。ヤスの仕事人っぷりももちろん素晴らしい。はるくんもホント綺麗。
新公は東西とも観られなくて残念でしたが、充実したものだった模様。もう未来に楽しみしかありませんね。
専科のヒロさん、コマちゃんはこれぞ専科という確かな仕事ぶりだったと思います。素晴らしいバランスでした。
そうだ、東京で変更になった壁ドンの効果音ですが、これは正直ちょっとやりすぎじゃないかな? 壁ドンそのものに十分インパクトがあるので、少なくともあんなに残響音があるタイプの効果音は要らないと思うなあ。珠城さんなら生音で十分なのでは…?(笑)
というのも、壁ドンって普通はイメージ上のものなんですよ。実際にやられたことがある人もやったことがある人もそうそういないと思うの。せいぜい少女漫画やテレビドラマで見かけるくらいのもので、そのブームだってピークは去りつつある。
それを、リアル三次元で目にする衝撃とおもしろさの方が、ものすごいワケですよ。もちろんお芝居の中なんだけれど、生身の役者が目の前で実現して見せてくれているという衝撃が、十分すぎるくらいある。そしてときめきと同時におもしろさも湧く、その絶妙さを観客に十分に味わわせるためにも、長引く効果音は蛇足だと思います。ドン!があって笑いが起きて、固まったちゃぴルイーズがすぐ「…今、ドンって響いたわ」とか言うんで十分だと思うのです。そこでまた笑えるんだし。効果音が長いと間も開くわけで、それこそ間抜けです。
でも本当にベタは最高です、こういうことをてらいなくやってくれるイケコと珠ちゃぴは素晴らしい。萌え、ときめき、恥ずかしくてちょっと笑っちゃう感じ、大事です。
だからベルナルドの柱ドンもそれこそ効果音なんかいらなくて、ぺちんとかぺたんみたいな生音でいいんですよ。で、響かなかったルイが「壁がないから」って流すんですから。
ベルナルドの「おまえがオレの壁だ!」のハケに思わず湧いた初日の拍手喝采、よかったなあ。あれは『王妃の館』初日のこんクレのチューからのチュー返しに湧いた拍手と歓声とまったく同じものでした。ホントに素の、心からの、「よくやった!」っていうねぎらいの拍手喝采なんですよね。役者冥利に尽きるのではないでしょうか…
公演は残り10日ほど。新鮮さを失わず、ますます盛り上がることを祈っています。れいこが加わってのさらなる新生月組のさらなる飛躍に、期待しています。
***
9月27日に東京宝塚劇場にて開催された、「第11回演劇フォーラム 宝塚歌劇と海外文学」なるものにも、お友達にお誘いいただいて参加してきました。おかげさまでSS席聴講(?)になりましたが、思った以上に楽しい2時間弱のトークショーになりました。
第一部はまず、演劇評論家の大笹吉雄氏による、日本演劇における海外文学作品の上演についての概要、みたいなレクチャー。明治以降、シェイクスピア、イプセン、ロシアもの、フランスものというよっつの入り口があったこと、当時女優が洋装で舞台で歌うことがどれだけ衝撃的なことだったか…など、楽しくお勉強できました。
続いて植G…というのは失礼ですね、植田紳爾氏による宝塚歌劇における海外文学作品の上演について。1917年にもう『クレオパトラ』をやっていて、これはつまり史実ではなく戯曲『アントニーとクレオパトラ』をやっている、ということなのでしょう。植田先生は脚本の師匠から原作のあるものの脚色なんかやるな、と指導されていたそうですが、実際にはそんなことは言っていられなくて、いろいろ手がけざるをえなかったとのこと。
入団年に上演された『赤と黒』では上がった脚本が戯曲っぽくて上演台本としては使えなかったということなのか、助手以前の若手四人がかき集められて書き直しを命じられ、なんとか間に合わせたものの初日に生徒に台詞がまだ全然入っていず、舞台のベッドの下やら洋服箪笥の中やらに隠れてプロンプターを務めたそうです。生徒が芝居で箪笥の扉を開けようとするので中で必死に扉を引っ張って止めたとか、すごい話に大爆笑でした。
『ベルばら』ブームのあと次に何をやるかすごく悩んで、スケールの大きさから『風共』を考えていたのだけれど権利関係が大変そうで、でも契約できちゃってがんばって…という話もおもしろかったです。当時レット・バトラーに髭をつけるか否かが大論争になって、二枚目スターに髭なんてとんでもないという拒否反応も大きかった中、「宝塚だからあれはムリ、これはダメ」という風潮に風穴を開けたくて、やらないでやめるよりやってみて駄目ならやめようとトライしたこと、ショーちゃんが家でも一日中口髭をつけて生活してみて必死に慣れてくれたこと、それでも公演が東上する際には当時の新聞に「髭は箱根を越えるか(東京公演では髭をやめるのではないか、の意)」と騒がれたこと…などなど、知っていた話も多かったけれど改めて聞くといろいろすさまじく、おもしろかったです。あと春日野八千代を「石井さん」と呼んじゃうのもツボでした。
『戦争と平和』が長く再演されていない話も出ましたね。私は生には間に合っていないのですが、人気があったと聞いています。またやればいいのになあ…もう新作はけっこうですと言いたいですけれど、変わらずお元気で、宝塚歌劇と舞台に愛情があるのはとてもよくわかったので、ちょっと見直した楽しいトークでした。
さらにイケコこと小池修一郎氏が登場して、『ヴァレンチノ』から始まる自作を語ってくれました。どちらかというと海外ミュージカルの輸入翻案が多くて、海外文学の上演というテーマから外れる部分もありましたが、最新作はもちろんデュマの小説『三銃士』が原作なわけで、これまたおもしろトークが炸裂しました。
『エリザベート』ガラコンなんかでは人生経験を積んだOGの歌の上達に感動する、みたいな話もおもしろかったし、どこの組で誰主演でいつこの企画で、と劇団から振ってくることもあるので、生徒の持ち味に合わせたり前後の作品と被りがないよう留意すること、宝塚では脚本と共に演出も担当するので、夢ばっかりの設計図だけを書くのではなく納期や予算も考えた現場工事部分も請け負うようなものだ、という話も興味深かったです。
今の月組は、トップスターが組長・副組長を除けば一番の上級生で貫禄もあって…という構成ではなく、ややイレギュラーな、トップスターより上級生のスターが何人もいる構造になっているけれど、だからこそダルタニアンと三銃士もいいユニット感が出た、という話はおもしろかったです。四人だと偶数なのでセンターがなく、トップスターがセンターでないなんて異例なんだけれど、今回に限ってはそれがかえっていいのではないか、と言うのですね。下克上というか、下級生が上級生をちゃん付けして呼んじゃうようなビックリの組もあるんだけれど、珠城さんはトップスターにもかかわらず上級生たちに対して敬語を使うし前を通るときは頭を下げるし、でも上級生たちも珠城さんをタテ、支え、口先だけでない仲の良さ、雰囲気の良さ、チームワークの良さがあって、そのバランスの良さが作品にも反映されていると思う、とのこと。「ホントはそんなこと思ってないだろ、なんてことがないんですよ」とか、「ファンのみなさんにはいろいろ思うところもあるでしょうが」とか言っちゃうところもおもしろかったです。
厳密な歴史劇ではないので衣装や音楽でも遊んでみた、などと語るときは、イケコ自身も新たなチャレンジを楽しみおもしろがってるんだな、と感じられて興味深かったです。
15分ほどの休憩を挟んで、第二部は珠ちゃぴみやちゃんがゲストでトーク。
衣装が暑いとか重いとか、立ち回りがすべてカウントがついていて、でも音楽と綺麗にハマったときには感動したとか、客席も東西で反応が違うような、でも壁ドンは鉄板でウケてくれるとか、いろんな話が出ましたが、基本的に珠みやが「るりさん」「りょうちゃん」としょっちゅう目を見交わしているのが萌え萌えでした。ひとりだと、あるいはちゃびとふたりだとしっかりするのに、みやちゃんがいると任せて甘えたになるよね、珠城さん…(*^o^*)
それから、三人が語るそれぞれのツボ、の話がおもしろかったです。ちゃぴがみやちゃんのツボを、みやちゃんが珠城さんのツボを、珠城さんがちゃびのツボをかたる流れのはずが、珠城さんだけみやちゃんのツボも語るという強火担っぷりで。
まずちゃぴは、アラミスならまあ懺悔ソングとか酒場の立ち回りでのラストに髪をふっと払うところなんかを挙げそうなものですが、ダルタニアンとベルナルドが熱くやり合い始めるときにアラミスがルイーズをかばってくれるところの、その優しさ、紳士らしさを挙げるのが、なかなかマニアックでよかったです。というかふたりのほぼ唯一の絡みであり、アラミスにとっても客席下りを除けばほぼ唯一のアドリブ・ポイントだそうです。
みやちゃんは、仮面舞踏会に紛れ込んだダルタニアンとルイーズが銀橋に出て、ルイーズがわかばちゃんマリー・ルイーズの目からダルタニアンを隠そうとしたりするくだりの、ふたりの目配せが好きなんだそうです。広い舞台で、あんなにたくさんの人が出ている場面で、だけど無言で通じ合ってるふたり…みたいなのに萌えるらしい。こっち側ですねみやちゃん!(笑)
そして珠城さんは、単にちゃぴの可愛いところを挙げるんじゃないところがすごくらしくてよかったです。珠城さんのツボはルイーズがアンヌ皇太后に「もうこれ以上嘘はつけません、マリア・テレサにではなく、自分自身に」みたいなことを宣言するところ、だそうなんです。ずっと親やマザランの言いなりできたルイーズが、ついに、自分自身の真実の想いをきっぱり告げるところに感動するんだそうです。すごくらしくないですか!? みやちゃんが「真面目だ…」とつっこんでいました(笑)。
返す刀で珠城さんが挙げるみやちゃんのポイントは、クライマックスの立ち回りの際にダルタニアンに「恋人を助けに行け」みたいに言ってくれるところ、だそうです。「恋人」という表現がアラミスっぽいんだそうな。私はダルタニアンの返しの「メルシー!」も大好きです!!(聞かれていない)
ニマニマしていたらあっという間にお開きのお時間でした。最後のご挨拶もものすごくきっちりしっかりしていて、任せて安心の三人でした。珠城さんは黒のスーツ、ちゃびはピンクのワンピ、みやちゃんは白ドットの黒ジャケットにグレーのパンツだったかな? 細くてお洒落でした。そして珠城さんはホント脚が長いなー! 眼福でした。
公演のお疲れも見せず終始ニコニコの三人に、すっかり癒やされたひとときでした。楽しかったです!!
東京宝塚劇場、9月20日18時半、26日18時半。
17世紀、太陽王と呼ばれたルイ14世(愛希れいか)が治めるフランス。国王が隊長を務める銃士隊は国家と王家を守るため、日々鍛錬を積んでいた。隊員たちはそれぞれ腕の立つ個性派揃い。大胆不敵なポルトス(暁千星)、沈着冷静なアトス(宇月颯)、正規の色男アラミス(美弥るりか)、そして無敵のヒーロー・ダルタニアン(珠城りょう)。ある時、ダルタニアンにルイ14世の剣術指導をするよう指令が下るが…
脚本・演出/小池修一郎、作曲・編曲/太田健。アレクサンドル・デュマの小説『三銃士』をもとに、新たな発想で描くオリジナル・ミュージカル。全2幕。
初日の感想はこちら。これでほぼほぼ書き尽くしている感じです。
東京公演もビギナー(男性含め)を誘って楽しんでいただき、私は鼻高々でした。やはり毎夏これでいいと思うんだけどな、新規ファン獲得のいいチャンスだと思うけどな。コアファンがちょっと飽きてきてチケットが一般に取りやすくなるならなおのことチャンスだと思うんですよね、少なくとも向こう四年、各組で順次やるのはいい手だとマジで思います。
公演が進むにつれて、同性愛を笑いのネタにしているのではないか、また年かさの未婚女性を馬鹿にして笑うようなところがあるのではないか、色男というよりは女性を蔑視・軽視するキャラクターとして描かれていないか…といった点に引っかかる、というような意見も聞かれるようになりましたし、そうだなと思う部分もそうかなと思う部分も個人的にはありました。
まず同性愛に関する引っかかりとしては、たとえばれっきとした男性だと思われていたルイがダルタニアンとキスしているところを目撃したときの、宮廷の面々の反応だとか、ダルタニアンに国王との恋愛を相談されたときのアラミスの反応だとかがあたるのだと思いますが、まず当時としても同性愛は普通にあったものの公然の秘密とされていたようなところがあって、決して大手を振って公表されたり公認されたり歓迎されたりするものではなかった、ということは踏まえておく必要があると思います。「女嫌い」というのは男性同性愛の婉曲表現だったのかもしれませんが、この作品では単なる性向を語るものとしても捉えられるようで、私は引っかかりませんでした。
ただ、最初はそんな反応だったかどうかあまり記憶がないのですが、ヤスちゃん演じるリュリがこれを歓迎するそぶりを見せ始め、さらに仮面舞踏会でアトスに会って「タイプ!」と言ったりするようになったので、リュリはそういう性指向の人なのね、ということが印象的になり、結果的にこの問題が際立ってきてしまったのだと思います。リュリはバレエの振付家ですが、こういう芸術関連の職の人にそういうキャラクターが当てられがちだというステレオタイプに反発する空気もあるでしょうし(以下脱線しますが、思えば『華やかなりし日々』でやはり振付家を演じていたあっきーにもそういう方向性の役作りはありえたんだろうけれど、おそらくダーハラにはこのあたりのキャラクターたちにそこまでのこだわりはなかったんだろうし中の人はそういうことを考えつくタイプではないので、ごくフツーのキャラクターになったのでしょう。やらされていたらやっていたかもしけないけれど、上手くできたかは不安かな…ちーちゃんならともかく。また、ヘタに上手くできてしまっていた場合、以後そういうタイプの芝居ばかり求められる上級生になっていってしまった可能性もあるので、やはりやらなくてよかったんだろうと思うのでした。そっちにいっていたらおそらく私はその後こんなに好きにはならなかったと思うよ…この芸の幅の異様に狭いザッツ・二枚目スターが結局私は好きなんだもん…閑話休題)、ヤスは『A-EN』でも「男の子を好きな男の子」を演じているので、またかいな、という空気もあるんだと思います。
でも私はリュリは、相手が同性だろうが異性だろうが、国王が恋愛をしていることを喜んでいるように見えたと思いました。政治や剣術にはあまり興味がなくてバレエに夢中で、いつも母親と乳母にべったりされているような奥手の、ちょっと引っ込み思案そうな青年王のことを、リュリは兄貴分としてちょっと心配していたんじゃないかと思うんですよね。でもちゃんと恋愛しているんだ、人とつながれる人だったんだ、そうだよ愛は素晴らしい…と喜び寿ぎ感動している、ように私には見えた。だからリュリがアトスを恋するのは蛇足だったかなとは思います。同性愛者じゃないと同性愛を認められないわけではありませんからね。でもとにかくそのことで同性愛をネタにして笑いにしているとは、私は感じませんでした。
ダルタニアンに国王との恋愛を相談されたアラミスの反応についても同様で、驚くのも単に珍しいからであり、同性愛が少数派なのは単なる事実であって差別でもなんでもないのだし、彼自身は単に同性には性的に興味がないからそういう相談には乗れないと言っているだけで、嫌悪感を示したり馬鹿にして嘲笑している感じはまったくありません。ルイ13世のことを語るマザラン(一樹千尋)しかりです。
今回はそもそもがイケコが、ちゃぴで『リボンの騎士』ができる、やりたい、となったところから生まれた物語でしょうが、ダルタニアンが男としての国王に恋してしまってとまどい混乱する…みたいな展開もなかったわけですし、同性愛がネタとして安易、安直に使われているとか馬鹿にされて笑いの種にされているとかは私は感じなかったのでした。
モンパンシェ公爵夫人(沙央くらま)に関しても、まずこの時代の高位の貴族の女性には称号として爵位や夫人という名が与えられても実際には夫を持たず独身だった女性が少なからずいた、という事実がありますし、それはいわゆるオールドミスとか、現代の職があって自立もしている独身女性の在り方とかとはちょっと違うものなんですよね。そして彼女への笑いは、「中年女が年甲斐もなく若い男を追っかけまわして、みっともない」というような嘲笑ではなく、「幼い初恋を一途に貫き、脈がないけど知らぬふりで無邪気に恋焦がれ続けアタックし続けている勇気といじらしさ」に対する、微笑ましさと共感の笑みだと思うのです。それはコマのチャーミングでキュートでかつ押し出したっぷりな芝居の上手さによるところも大きい。イケコがどこまでわかって書いているかは正直ナゾかとも思いますが、なのでこれも私は引っかからなかったのです。
逆にアラミスが本当に色男なのか、というかいい男なのか問題、はけっこう根深いかなと思いました。プレイボーイってもはや古い概念ですよね、だって不特定多数にモテたって仕方がないわけですから。愛している人に愛されるだけで十分なはずなんですから。たくさんの相手をするということはそのそれぞれを大事にはしづらいということで、それは男を下げることになりますよ今や。
というか厳密に考えるならキャラブレしているように感じられなくもなかった…かな、私には。単に女にモテちゃうので相手にしちゃうけど本質的には興味がない、むしろ女を馬鹿にしている…というのはまあありがちなプレイボーイ像だと思うんですけれど、やはり女性が演じ主に女性の観客が観る芝居のキャラクターなのですから、そういう女性蔑視・軽視は良くないです。あくまで女性を尊重しているキャラクターとして描いてほしい。となると、懺悔でテキトーな助言をしたり献金と称して金を巻き上げようとするのはけっこうグレーかなと思うんですよね。まあそこまで深く描く暇はないのかもしれませんが…
というわけで、深読みしようとすればポリティカル・コネクト的にもフェミニズム的にもポロポロ齟齬もある物語ではあるかと思うのですが、でもやはり細かいことをそこまで気にさせないパワーと明るさ・楽しさ・単純明快さは特筆ものなので、やはり素晴らしいエンタメ傑作に仕上がっているのではないか、と私は思うのでした。
では、出演者の感想を。
「無敵のヒーロー」なんてキャッチをもらってまったく違和感も遜色もないダルタニアン珠城さん、素晴らしいですね! ファンも増えたことと思います。
田舎出身でちょっと武骨で、でも明るく誠実でまっすぐで真面目で、嘘やごまかしが嫌いで、努力と勇気の人。本人そのままで、そしてちゃんと主役・主人公になっていて、とても魅力的でした。ガタイの良さも素晴らしい、劇場全体抱いても大丈夫! もう信頼感しかありません。決して器用なタイプではないけれど、だからこそのラブコメにハマったかなというのがまた素晴らしい。
そしてフィナーレでは本当に色っぽくセクシーになりました! テレは捨てられたし気合も入った、センター任せて安心だし、娘役ちゃんたちに囲まれても男役たちを率いても素敵に決まる。そして何よりちゃぴとの愛と信頼あふれるデュエダンが素晴らしい。ここで理想のカップルを体現してみせることこそが宝塚歌劇の大命題なんじゃないかと私は思うのです。
たとえ同性愛者でも異性愛からしか生まれてこられないのだし、というか理想の男女カップルを演じているのがそもそも同性同士という本当に深いねじれがここにはあるのだけれど、だからこそ「愛は素晴らしい」とてらいなく訴えられるデュエダンが人の心に届くのだと思うのです。本当に素敵です。泣けます。
そして無敵のヒロインと言いたくなるちゃび。もはや裏トップスター様とも言えますが、変わらずみずみずしく愛らしく、素晴らしい。
ルイは元男役だからできる役…ということでもなくて、要するにちゃびの芝居が上手いから成立できている役だとも思います。ルイーズになったときの落差も素晴らしい。東京で増えた、酒場でダルタニアンとベルナルド(月城かなと)に挟まれたときの「彼女って言って!」アクションと、馬鹿正直に「会ったばかりだ」と答えちゃうダルタニアンにガクーッてなるトコ、ホント可愛かったです。
これまた女性だからって着飾ることしか考えていなくて今にも国政を放り出しそうな無責任なキャラクターに描かれていることが女は政治に向かないと言うかのようでフェミニズム的に云々、という意見もありましたが、これまたこの時代の国王で本当の意味で親政をした人って少ないんだろうし、「自分に嘘をつきたくない」というのは誰しもが願う真実の望みだと私は思うので、本当に王になるべき兄弟の代理を務めるのはもう限界、普通の女の子として生きてみたい、とりあえず髪を伸ばしたいドレスを着たい恋をしたい…というのは無責任でも考えなしでもなんでもないと私は思いました。可愛くて一生懸命なルイーズを演じるちゃびにはその説得力があったと思います。
欲を言えば、本編中でもバレエをそれほどがっつり踊っているわけではないので、フィナーレではガンガン踊る場面がひとつ欲しかったところだけれど、尺の問題もあるしあまり珠城さんを食っちゃってもなんなんで(^^;)、次のショー作品への期待として取っておきましょう。
まだまだ珠ちゃぴ作品がたくさん見たいです、長く長くいてね、ちゃび。
イケコの一本立てのフィナーレの歌手を務めるのは何回目?というみやちゃんですが、押しも押されぬ二番手スターとしてこちらも盤石の輝き。まあある種似たような色男役ばかりになっちゃっている気がしなくもないのは、本当はもっと芝居ができる人なだけにもったいない気もしますが、これも今後の課題として、楽しみに見守り続けたいです。
フィナーレの男役群舞で珠城さんが抜けたあとのセンターをきっちり務められているのはさすがです。小柄だけれどオーラがある。一級のスターさんですよね。
そして組替えしてきてすんなり三番手にハマったれいこちゃん、これまた素晴らしかったです。悪役なんだけどちょっと抜けてて憎めない、というのがまたぴったりで、超絶美人なんだけど全然お高くなくてむしろほわわんとしている中の人の人となりも見えてとてもよかったです。そして芝居の質も月組に合いそう。今後、かっちりしたお芝居やシリアスな作品も楽しみです。
三銃士はとしちゃんとありちゃん、こちらも盤石。としちゃんの渋さ上手さ、ありちゃんの闊達さは財産です。フィナーレでアイドルふうにしてくるとしちゃん、逆に大人っぽくセクシーに垢抜けてきたありちゃんと、こちらも恐ろしいまでの戦力っぷりです。今後にもさらに期待!
イケコにコメディリリーフとして絶大な信頼を寄せられているっぽいゆりちゃんがまたいい味出しているし、まゆみさんの上手さ手堅さ、るうちゃんの渋さカッコよさ、ジョーの素敵さも得難いものです。護衛隊の四人もホントいいんだよね。
それからすると娘役にはちょっと役不足だったかな? くらげちゃんのマリア・テレサは絶品でしたが、マザリネットとかは本当はやりようがないんですよね。でもわかばはやっぱり華があるし、私はさくさくな夢中でした。みんな妍を競って美しく可愛かった! あとはすーさんの素晴らしさ、なっちゃんの手堅さ、さち花の泣かせる情愛ね…!
おだちんも本当に垢抜けてきて、でもロケットで濃厚なウィンクを飛ばすので「国王様ご乱心…!」って毎回思うのが本当に楽しかったです。れんこん、るねっこ、ぎりぎり、あちも素敵でした。ヤスの仕事人っぷりももちろん素晴らしい。はるくんもホント綺麗。
新公は東西とも観られなくて残念でしたが、充実したものだった模様。もう未来に楽しみしかありませんね。
専科のヒロさん、コマちゃんはこれぞ専科という確かな仕事ぶりだったと思います。素晴らしいバランスでした。
そうだ、東京で変更になった壁ドンの効果音ですが、これは正直ちょっとやりすぎじゃないかな? 壁ドンそのものに十分インパクトがあるので、少なくともあんなに残響音があるタイプの効果音は要らないと思うなあ。珠城さんなら生音で十分なのでは…?(笑)
というのも、壁ドンって普通はイメージ上のものなんですよ。実際にやられたことがある人もやったことがある人もそうそういないと思うの。せいぜい少女漫画やテレビドラマで見かけるくらいのもので、そのブームだってピークは去りつつある。
それを、リアル三次元で目にする衝撃とおもしろさの方が、ものすごいワケですよ。もちろんお芝居の中なんだけれど、生身の役者が目の前で実現して見せてくれているという衝撃が、十分すぎるくらいある。そしてときめきと同時におもしろさも湧く、その絶妙さを観客に十分に味わわせるためにも、長引く効果音は蛇足だと思います。ドン!があって笑いが起きて、固まったちゃぴルイーズがすぐ「…今、ドンって響いたわ」とか言うんで十分だと思うのです。そこでまた笑えるんだし。効果音が長いと間も開くわけで、それこそ間抜けです。
でも本当にベタは最高です、こういうことをてらいなくやってくれるイケコと珠ちゃぴは素晴らしい。萌え、ときめき、恥ずかしくてちょっと笑っちゃう感じ、大事です。
だからベルナルドの柱ドンもそれこそ効果音なんかいらなくて、ぺちんとかぺたんみたいな生音でいいんですよ。で、響かなかったルイが「壁がないから」って流すんですから。
ベルナルドの「おまえがオレの壁だ!」のハケに思わず湧いた初日の拍手喝采、よかったなあ。あれは『王妃の館』初日のこんクレのチューからのチュー返しに湧いた拍手と歓声とまったく同じものでした。ホントに素の、心からの、「よくやった!」っていうねぎらいの拍手喝采なんですよね。役者冥利に尽きるのではないでしょうか…
公演は残り10日ほど。新鮮さを失わず、ますます盛り上がることを祈っています。れいこが加わってのさらなる新生月組のさらなる飛躍に、期待しています。
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9月27日に東京宝塚劇場にて開催された、「第11回演劇フォーラム 宝塚歌劇と海外文学」なるものにも、お友達にお誘いいただいて参加してきました。おかげさまでSS席聴講(?)になりましたが、思った以上に楽しい2時間弱のトークショーになりました。
第一部はまず、演劇評論家の大笹吉雄氏による、日本演劇における海外文学作品の上演についての概要、みたいなレクチャー。明治以降、シェイクスピア、イプセン、ロシアもの、フランスものというよっつの入り口があったこと、当時女優が洋装で舞台で歌うことがどれだけ衝撃的なことだったか…など、楽しくお勉強できました。
続いて植G…というのは失礼ですね、植田紳爾氏による宝塚歌劇における海外文学作品の上演について。1917年にもう『クレオパトラ』をやっていて、これはつまり史実ではなく戯曲『アントニーとクレオパトラ』をやっている、ということなのでしょう。植田先生は脚本の師匠から原作のあるものの脚色なんかやるな、と指導されていたそうですが、実際にはそんなことは言っていられなくて、いろいろ手がけざるをえなかったとのこと。
入団年に上演された『赤と黒』では上がった脚本が戯曲っぽくて上演台本としては使えなかったということなのか、助手以前の若手四人がかき集められて書き直しを命じられ、なんとか間に合わせたものの初日に生徒に台詞がまだ全然入っていず、舞台のベッドの下やら洋服箪笥の中やらに隠れてプロンプターを務めたそうです。生徒が芝居で箪笥の扉を開けようとするので中で必死に扉を引っ張って止めたとか、すごい話に大爆笑でした。
『ベルばら』ブームのあと次に何をやるかすごく悩んで、スケールの大きさから『風共』を考えていたのだけれど権利関係が大変そうで、でも契約できちゃってがんばって…という話もおもしろかったです。当時レット・バトラーに髭をつけるか否かが大論争になって、二枚目スターに髭なんてとんでもないという拒否反応も大きかった中、「宝塚だからあれはムリ、これはダメ」という風潮に風穴を開けたくて、やらないでやめるよりやってみて駄目ならやめようとトライしたこと、ショーちゃんが家でも一日中口髭をつけて生活してみて必死に慣れてくれたこと、それでも公演が東上する際には当時の新聞に「髭は箱根を越えるか(東京公演では髭をやめるのではないか、の意)」と騒がれたこと…などなど、知っていた話も多かったけれど改めて聞くといろいろすさまじく、おもしろかったです。あと春日野八千代を「石井さん」と呼んじゃうのもツボでした。
『戦争と平和』が長く再演されていない話も出ましたね。私は生には間に合っていないのですが、人気があったと聞いています。またやればいいのになあ…もう新作はけっこうですと言いたいですけれど、変わらずお元気で、宝塚歌劇と舞台に愛情があるのはとてもよくわかったので、ちょっと見直した楽しいトークでした。
さらにイケコこと小池修一郎氏が登場して、『ヴァレンチノ』から始まる自作を語ってくれました。どちらかというと海外ミュージカルの輸入翻案が多くて、海外文学の上演というテーマから外れる部分もありましたが、最新作はもちろんデュマの小説『三銃士』が原作なわけで、これまたおもしろトークが炸裂しました。
『エリザベート』ガラコンなんかでは人生経験を積んだOGの歌の上達に感動する、みたいな話もおもしろかったし、どこの組で誰主演でいつこの企画で、と劇団から振ってくることもあるので、生徒の持ち味に合わせたり前後の作品と被りがないよう留意すること、宝塚では脚本と共に演出も担当するので、夢ばっかりの設計図だけを書くのではなく納期や予算も考えた現場工事部分も請け負うようなものだ、という話も興味深かったです。
今の月組は、トップスターが組長・副組長を除けば一番の上級生で貫禄もあって…という構成ではなく、ややイレギュラーな、トップスターより上級生のスターが何人もいる構造になっているけれど、だからこそダルタニアンと三銃士もいいユニット感が出た、という話はおもしろかったです。四人だと偶数なのでセンターがなく、トップスターがセンターでないなんて異例なんだけれど、今回に限ってはそれがかえっていいのではないか、と言うのですね。下克上というか、下級生が上級生をちゃん付けして呼んじゃうようなビックリの組もあるんだけれど、珠城さんはトップスターにもかかわらず上級生たちに対して敬語を使うし前を通るときは頭を下げるし、でも上級生たちも珠城さんをタテ、支え、口先だけでない仲の良さ、雰囲気の良さ、チームワークの良さがあって、そのバランスの良さが作品にも反映されていると思う、とのこと。「ホントはそんなこと思ってないだろ、なんてことがないんですよ」とか、「ファンのみなさんにはいろいろ思うところもあるでしょうが」とか言っちゃうところもおもしろかったです。
厳密な歴史劇ではないので衣装や音楽でも遊んでみた、などと語るときは、イケコ自身も新たなチャレンジを楽しみおもしろがってるんだな、と感じられて興味深かったです。
15分ほどの休憩を挟んで、第二部は珠ちゃぴみやちゃんがゲストでトーク。
衣装が暑いとか重いとか、立ち回りがすべてカウントがついていて、でも音楽と綺麗にハマったときには感動したとか、客席も東西で反応が違うような、でも壁ドンは鉄板でウケてくれるとか、いろんな話が出ましたが、基本的に珠みやが「るりさん」「りょうちゃん」としょっちゅう目を見交わしているのが萌え萌えでした。ひとりだと、あるいはちゃびとふたりだとしっかりするのに、みやちゃんがいると任せて甘えたになるよね、珠城さん…(*^o^*)
それから、三人が語るそれぞれのツボ、の話がおもしろかったです。ちゃぴがみやちゃんのツボを、みやちゃんが珠城さんのツボを、珠城さんがちゃびのツボをかたる流れのはずが、珠城さんだけみやちゃんのツボも語るという強火担っぷりで。
まずちゃぴは、アラミスならまあ懺悔ソングとか酒場の立ち回りでのラストに髪をふっと払うところなんかを挙げそうなものですが、ダルタニアンとベルナルドが熱くやり合い始めるときにアラミスがルイーズをかばってくれるところの、その優しさ、紳士らしさを挙げるのが、なかなかマニアックでよかったです。というかふたりのほぼ唯一の絡みであり、アラミスにとっても客席下りを除けばほぼ唯一のアドリブ・ポイントだそうです。
みやちゃんは、仮面舞踏会に紛れ込んだダルタニアンとルイーズが銀橋に出て、ルイーズがわかばちゃんマリー・ルイーズの目からダルタニアンを隠そうとしたりするくだりの、ふたりの目配せが好きなんだそうです。広い舞台で、あんなにたくさんの人が出ている場面で、だけど無言で通じ合ってるふたり…みたいなのに萌えるらしい。こっち側ですねみやちゃん!(笑)
そして珠城さんは、単にちゃぴの可愛いところを挙げるんじゃないところがすごくらしくてよかったです。珠城さんのツボはルイーズがアンヌ皇太后に「もうこれ以上嘘はつけません、マリア・テレサにではなく、自分自身に」みたいなことを宣言するところ、だそうなんです。ずっと親やマザランの言いなりできたルイーズが、ついに、自分自身の真実の想いをきっぱり告げるところに感動するんだそうです。すごくらしくないですか!? みやちゃんが「真面目だ…」とつっこんでいました(笑)。
返す刀で珠城さんが挙げるみやちゃんのポイントは、クライマックスの立ち回りの際にダルタニアンに「恋人を助けに行け」みたいに言ってくれるところ、だそうです。「恋人」という表現がアラミスっぽいんだそうな。私はダルタニアンの返しの「メルシー!」も大好きです!!(聞かれていない)
ニマニマしていたらあっという間にお開きのお時間でした。最後のご挨拶もものすごくきっちりしっかりしていて、任せて安心の三人でした。珠城さんは黒のスーツ、ちゃびはピンクのワンピ、みやちゃんは白ドットの黒ジャケットにグレーのパンツだったかな? 細くてお洒落でした。そして珠城さんはホント脚が長いなー! 眼福でした。
公演のお疲れも見せず終始ニコニコの三人に、すっかり癒やされたひとときでした。楽しかったです!!