駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

ひとりギリシア悲劇『アガメムノーン』

2017年03月25日 | 観劇記/タイトルあ行
 朝日カルチャーセンター新宿教室10号室、2017年3月24日10時15分。

 紀元前458年に上演されたアイスキュロスのオレステイア三部作の1作目を再構成のうえ、ひとり芝居として上演。
 演出・構成・演奏・出演/佐藤二葉。導入に国際基督教大学名誉教授・川島重成氏の作品解説あり。

 ギリシア神話、というかトロイア戦争オタクのため、出かけてきました。さすが年配の参加者ばかりで私が最年少…?という観客というか受講者の布陣にビビりましたが、最終的には他におふたりほどお若いお嬢さんの参加者もいらっしゃいました。
 教授の講義はあまり語り慣れていない感じで多少退屈でしたが、佐藤さんの公演はさすがに鍛えられた声で素晴らしく、古代の竪琴リュラーを復元した楽器で当時の音階をかき鳴らしつつ歌う語る演じる舞うと、ものすごかったです。おもしろかった!
 タイトルロールはアガメムノーンだけれどこれはほぼほぼクリュタイメーストラーのお話ですよね。そしてアイギストスの存在感のなさったら…私は元の戯曲を読んだことがないのでどの程度変更されているのかわかりませんが、ヒロインの愛人はこの復讐の物語にはあまり関係ないとされているのかな…
 ホメロスの時代にはなかった「トロイア戦争に真の義はあったのか、この戦争は悪ではなかったのか」という視点がこの時代には生まれていた、というのはおもしろいなと思いました。時間がたてばたつほど客観的になっていくんですよね。
 そして当時の演劇の観客はもしかしたら男性のみに限られていたのかもしれないのだけれど、戯曲には超絶ヒロインが多く女の論理で進む話が男性作家によってたくさん書かれていたというのも興味深いお話でした。
 これは戦争に勝つためには自分の娘でも人身御供に出すという男の論理と、お腹を痛めて産んだ娘の命を犠牲にすることでしか勝てない戦争なんざ端からいらないと思う女の論理とがぶつかる物語です。そして復讐が復讐を呼び、やったことはやり返されるという非常なまでの倫理観に貫かれた作品でもあります。
 来月観る『エレクトラ』も楽しみです!



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宝塚歌劇花組『MY HERO』

2017年03月25日 | 観劇記/タイトルま行
 赤坂ACTシアター、2017年3月22日11時。

 かつて全米中の子供を虜にした伝説のMASK☆Jが帰ってくる…映画『MASK☆J The Movie』の公開が決定、主演は人気ナンバーワン俳優のノア・テイラー(芹香斗亜)。何を隠そう彼はMASK☆Jのスーツアクターを務めていた伝説のスタントマンを父に持つサラブレッドだった。だがイケメンで知的でたくましく…というのはあくまで彼の表の顔、実際のノアは酒や女にだらしがなく、トラブルを起こしては事務所にもみ消してもらう生活を送っていた。しかしついに致命的なスキャンダルが露呈して…
 作・演出/齋藤吉正、作曲・編曲/手島恭子、振付/若央りさ、港ゆりか、擬闘/清家三彦。花組二番手スター、待望の東上公演つき主演作。

 歌劇初の特撮ヒーローものにチャレンジ…ということでしたが、特撮ものを見たことがない人や子供のころに見ていても忘れてしまっている人もけっこう多いと思うので、いわゆるスーツアクターというものについてはもうちょっと丁寧に説明してもいいのではないかしらん、というところがまず引っかかりました。かなり最近の言葉ですよね? 少なくとも私が『ゴレンジャー』を見ていた子供のころにはなかった言葉だったと思います。そして当時、変身の前後を違う役者が演じている、という概念が私にあったかかなり定かではありません。そして大人になった今、それを知識として知らない人も実はけっこう多いのではないかと心配するのですよ。ノアの屈託やテリー(鳳月杏)の憧れのもとになる大事な設定なんだから、それがなんなのかきちんと抑えておいてから始めてもらいたかったな、と思ったのでした。
 それはともかく、作者がやりたいことをやりたい放題にやった愛と情熱にあふれる作品で、いろいろ雑だったり乱暴だったり無神経だったり軽かったり薄かったりするところも多々ありはしましたけれど、それでもやりすぎてどうにも困ってしまう事態になっていたり全然できてなくて目も当てられないみたいなこともなく、ある種すがすがしくて気持ちよく、楽しく観ました。
 ただ、特に二幕になってシリアスパートのくみちゃんがいい芝居をしたりするのを観たりすると、そうだよ全体のテンションをもう少しこっちに寄せて、もうちょっとだけちゃんと作ってもよかったんじゃないの?とは思いました。まあこれは好みの問題もあるんでしょうけれど。それより「ケロケーロ」がやりたかったり、偏差値30で笑えるような戯画化された世界をあえて構築したかったのかもしれないけれど、やっぱり芝居って人間を描くものだと思うので、そんなに浅くちゃダメなんじゃない…?と私は思ったのでした。
 まあ贔屓が出ていてリピートせざるをえなくなったら、私だって適当に見切って割り切って、勝手に補完してテンション合わせて楽しんで観たに違いないんですけれどね。でもそうでない観客も判断を下していくわけですからね。まあ結局は客入りがすべてなのかもしれませんけれどね、興行ですからね。
 『フォーエバー・ガーシュイン』を観られていないので、私がキキちゃんの主演作を観るのはこれが初めてです。私個人は全然惹かれないんだけれど、なんの瑕もないなんでもできる素晴らしいスターさんだと思っていますし、いい役いい作品に当たってさらに人気が出て躍進していけばいいな、と思っています。ノアも、まあわかりやすいキャラクターではありますが、だからこそいい役で、過不足なく魅力を発揮できていたと思います。なんせ特撮スーツを着て顔をバイザーで隠していても誰だかわかってカッコいい、というのは実にたいしたものだと思います。死んだ母親のことを好きすぎて父が連れてきた再婚相手を受け入れられない…というのはちょっと女性ウケしづらい設定に私には思えましたけれどね。ちなみにこの子供時代を演じた糸月雪羽、絶品でしたね! あとハル(綺城ひか理)はちゃんとメイベル(芽吹幸奈)を愛していたことにするべきだったと思います。子供の母親が欲しくて再婚する男とかサイテー。メイベルの方はちゃんとハルを愛していただけに残念でした。のちに言及しますが車椅子とか老人ホームとかテリーの病気とか以上に私が引っかかったのは、実はここかもしれません。そして他のものは「特にそこまで深く考えてなかった」ってだけかもしれないけれど、このハルの設定にはヨシマサの男女観が、恋愛観が、人生観が表れているのではないかと私は思う。そしてそれは観客が宝塚歌劇に求めるものと微妙にずれていて危険なのではないかと危惧しています。ダーイシならともかく、ヨシマサにはそういうことは今まで感じてこなかったのになー…あーあ。
 二番手格のテリーちなつもスタイルの良さやカッコ良さ、歌でもダンスでもアクションでもなんでもできる芸達者ぶりや的確で温かい演技ができるところを見せられるいいポジションだったと思います。が、せっかくのキキちなにしては脚本がいかにも甘く浅かったのが残念です。学生時代からの友人で今は俳優としての格に差がついていて、ノアが嫌う父ハルをテリーは敬愛していて…という設定からはもっと確執ある深いドラマが展開できたはずなのに、あっさりでしたもんねー。そこに萌えはないんですね、って感じでした。もったいなかったなー。
 ところで、私は一度しか観ていないのでいろいろ把握できていないことも多かろうと思いますが、テリーの病気設定って必要ですかね? てか療養のためとはいえあっさり引きすぎじゃない? この設定を振るならもっとちゃんと意味があってちゃんと回収しなきゃダメなんじゃないかな…病気ってそんなに簡単にネタにしちゃいけないものなんじゃないかと思うのです。もちろん実際の世の中にごくごく普通に存在するものであり、お芝居の中と言えど自然に普通に扱うべきだ、むしろごくカジュアルに扱うべきだ、という作家の意図が感じられなくもないのです。マイラ(音くり寿)の車椅子同様にね。でも、実際のこうした病気とか障害とかはそう簡単には筆舌に尽くせない難儀なことがいっぱいあるはずで、描き切れないに決まっているフィクションのお芝居で安易に扱うべきではないとも私は思うのです。このあたりの雑さ、無神経さは私は引っかかりました。宝塚歌劇って浮かれているし所詮絵空事を描いている女子供の娯楽かもしれないけれど、現代的なPCの波はもうぼちぼち避けては通れないものになってきていると私は思いますよ…演じている生徒に罪はないだけに、役を通して傷がつくことを私は恐れます。
 ダブルヒロインは元プロテニスプレイヤーでグラビアアイドル経験もあってノアのマネージャーになるクロエ(朝月希和)ひらめちゃんと、ハルが事故死した際に助けられた子役で、後遺症で車椅子になっているマイラくりすちゃん。ナレーションではこの物語のヒロインはマイラとされていますし、ノアとのロマンスを展開するのもマイラなのでそれはそうかもしれませんが、ポジションや物語の中での活躍度合いは本当にほぼ同等で、ひらめちゃんが本当にいい仕事をしていて観ていて楽しかったです。もちろんもっと王道のヒロインもできる娘役さんだと思っていますけれどね。そしてふたりとも、というか出てくる人みんな歌が上手くて耳福な舞台でした。気になったのは、くりすちゃんが小さくて童顔だからって、そして上手いからって、子供時代も演じさせてしまうとちょっと時空が混乱したかな…というくらいでしょうか。あと、キキにお姫様抱っこをさせたいだけだったんだろうとしか言えない車椅子がやはり、気にはなったかな…

 スマイリー一家はみんなすばらしくて、タソはもちろん、映見ちゃんがキレッキレで矢吹くんのアホボンも素晴らしくて、スーパー助演だったと思います。
 老人5人組も、けっこうな下級生も混ざってましたがみんな達者で感心しました。でもだからこそ老人ホーム設定は必要あるのかとか、ボケやセクハラの扱いがギャグと言うにはうそ寒い…と思いましたけれどね。
 るな、りりか、しーちゃんもいい仕事をきっちりしていて、とてもよかったです。あと「お姉さん」(あえてのカッコ書き(笑)、美花梨乃)ね! あ、ジェイ(聖乃あすか)も短い出番ながらとてもよかったです。

 あとはフィナーレかなー。ホントうるさいことばっか言ってすみませんけど、迷彩服、アーミー衣装はないわ…ヒーローは悪と戦うんだよ、でも兵隊は、軍隊はむしろ「悪を」戦うものですよ。戦争いくない。ここは混同してはいけません。
 もっとバリッと都会的なスーツにドレスとかでよかったんだよ…残念でした。私は苦言を呈し続けたいです。

 ドラマシティでも盛り上がりますように、よりブラッシュアップされますように。ノッた者勝ちなところはあると思うので、通われるみなさんは振り切って、元気に「チェンジジャスティス!」してください。
 ところでこれって「正義を変えろってどういうこと?」とか思っていたのですが、「正義に変身☆」ってことだったんですね、失礼しました…


 


 
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宝塚歌劇花組『仮面のロマネスク/EXCITER!!2017』

2017年03月23日 | 観劇記/タイトルか行
 梅田芸術劇場、2017年3月19日16時半。

 1830年、ナポレオン失脚後に再び王政が復活したフランス・パリ。しばしの安逸を貪る貴族たちが作り上げる社交界に、ひときわ注目を集める美貌の貴公子がいた。ジャン・ピエール・ヴァルモン子爵(明日海りお)、類まれなる才覚で零落した家名を再興した青年貴族である。婦人たちとの艶聞が絶えないヴァルモンだったが、かつての恋人メルトゥイユ侯爵夫人(仙名彩世)だけは特別な存在だった。若くして未亡人となったメルトゥイユは高嶺の花として一目置かれる才媛であり、ヴァルモンと唯一対等に渡り合える女性だったが…
 脚本/柴田侑宏、演出/中村暁、作曲・編曲/寺田瀧雄、吉田優子、振付/名倉加代子。1997年雪組で初演、2012年宙組で再演、2016年花組で三演されたラクロ『危険な関係』を原作とするミュージカル。花組新トップ娘役・仙名彩世のプレお披露目公演。

 前回の全国ツアー版の感想はこちら
 演目発表時には正直「また!?」とは思いましたけれどね…ただでさえ再演ものは比べて観られてしまうのに、同じ組同じ主役近い時期の上演と損すぎる気がしました。まあ比べて観てしまう私が悪いのだとは思いますが。
 ヒロインが変わる、というのはもちろん大きいことだとは思いますが、トゥールベルがよかっただけにねえ…という心配もあり…
 で、まずプログラムを見たときに、私は感心しなかったんですね。単純に、地味だな、と思いました。メルトゥイユは「あなたはおっとりしているから」と言われるようなカムフラージュ技を発揮している人ではありますが、それでもこぼれ出てしまう艶やかさ、色気、美貌があるべきキャラクターなんだと思うんですよね。ゆきちゃんはやればもっと派手に作れる人だと思うだけに、残念でした。まだ遠慮があるのかなあ? でも相手役であるみりおがかなりデコラティブに扮装しているだけに、バランスが悪いなあと感じてしまったんですよね…
 なので舞台でもやっぱりそう見えました。おちついているとか老けて見える、というよりはひたすらに地味…いろいろ考えていそうな奥深さは出せていたと思うのですが、そもそも難しいヒロインでもあり、私は違和感を持ったままで芝居に熱中できなかったのでした。
 でもこれからなんだろうなあ、やっぱり。場数がまだまだ足りていませんもんね。ポテンシャルは素晴らしいものがあるはずなので、がんばっていっていただきたいです。ふりきっちゃえ! 応援しています。

 逆に目が覚めるように感じたのはカレーちゃんのダンスニー(柚香光)でした! 初めて正しいダンスニーを観た気すら私はしました。脚本が描いている、作品が求めている、正しいダンスニーの造形。若くてハンサムでいい子でちょっとおバカ。これがいい感じにできていたのはイシちゃんでもみっちゃんでもキキちゃんでもなくカレーちゃんだったのでした。
 これはそれこそ今までの場数が効いていて、そういう経験を踏まえてからの久々の若い軽い役で、本人も楽しそうにやっているのがよくわかりましたし、けれどやりすぎてしまったりヘンにひねて作ったりしていなくて、とてもよかったと思いました。
 あと、劇的に歌唱が安定しましたよね!? これはショーでも驚愕しました。滑舌は前回公演が悪すぎた気がするので今回だけではどうとも判断できませんでしたが、この美貌とダンス力に歌の安定が加わったらかなり大きいのではないでしょうか…!? 期待しています。

 べーちゃんのトゥールベル法院長夫人(桜咲彩花)がまた、イメージが違っていたのですがこれはこれでおもしろかった…というのはあまりに好みを振りかざしすぎな感想なんでしょうね、すみません。でもべーちゃんが好きなんだ…!
 見た目的にどうしても丸顔だし健康的すぎる感じで、神経症的に禁欲的なつましい美女…とは遠いんだけれど、だからこそ、快楽が近いところにあること、あるいは近いところにある快楽の味を知っていそうな感じが出ていて、おもしろいよろめき具合だなと思ったのでした。

 またまた逆に「うーむ…」となったのがセシル(城妃美伶)かなあ…私はこの人の娘役力をすごく買っているのだけれど、今回はなんかこの役に求められる初々しさ、おぼこさが見えなかった気がしました。

 あとはマイティーもよかったなあ! いいアゾラン(水美舞斗)だなと感じました。主人を見習ってちゃんと色男になっているところがよかったです。
 あきらのジェルクール(瀬戸かずや)はさすが髭がヤラしくてよかったですね(ほめてます)。
 まひろくんのベルロッシュ(帆純まひろ)は顔が好みなので期待していたのですが、ごく短いソロがまだまだで、まあこれからかな、まだ沼ではないな、と判断(^^;)。
 前回と同じロベール(夕霧らい)のらいらいが前回同様「ヴィクトワール逃げてー!」と言いたくなる無駄な色気を発揮していて、観ていて楽しかったです(ほめてます)。
 つかさっち、うららちゃんに泉まいらくんとなった三人組がなかなかコミカルで印象的でした。
 あ、ブランシャール夫人(白姫あかり)もよかったなあ。あと華優希ちゃんホントめっかわでした。
 
 久々に観ると、補完が必要な難しい芝居だなあと改めて感じ、全ツ向きではないのではと改めて感じました。みりおのこじらせャラ系譜としてもギィがさらに上を行ってしまったのもあって、今さらヴァルモンってのもなあ…と思ってしまったということもあります。
 総じて、「うーむむむ…」と思いながら観てしまったのでした。残念、残念(この台詞は前回からなくなっているんだよ!)。


 スパークリング・ショーの作・演出は藤井大介。
 2009年の感想はこちら、2010年の感想はこちら。この頃はホントいいショーを作ったよねダイスケ…
 そんなに回数は観ていないんですけど、実況CDを愛聴しているので(初演版の方かな)ものすごく覚えていて、記憶がガンガン蘇ってきてそれはそれは楽しい観劇になりました。ショーだから比較する暇はないんだよね、「ああそうだった、わあ懐かしい楽しい!」みたいにウケているうちに終わってしまいました。楽しかったです。
 とっぱしはまぁ様だいもんPちゃんでやってたんじゃなかったっけ?とか、ああやっぱ大階段欲しいなザカザカ降りてくるのがよかったのになー、とか、トップ娘役センターの主題歌リプライズいいよね!とか。ああ、ここはえりたんのソロだったとか、まっつの美声だったとか…
 ここでもやっぱりゆきちゃんは私にはややパンチ不足に見えてしまったのですけれど、みりおが意外にも楽しそうに、激しくバチバチできていたので大満足。RIO-BOYもめっかわだったしね。マシュケナダも素晴らしかったです。
 新トップコンビに新しく振り付けたデュエダンは今ひとつ中途半端だった気が…? ま、邪馬台国に期待していますね。


 ガンガン進化して全国で花開いてくれるといいなと思っています。気をつけて行ってらっしゃーい!
(友会で当てて譲った最前列で、親友が死ぬかもしれんな…合掌)
 


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宝塚歌劇月組『グランドホテル/カルーセル輪舞曲』

2017年03月18日 | 観劇記/タイトルか行
 宝塚大劇場、2017年1月1日13時(初日)、2日11時、15時、17日18時(新人公演)。
 東京宝塚劇場、2月23日18時半、28日18時半、3月9日18時半(新人公演)、15日18時半、16日18時半。

 1928年、ベルリンにあるグランドホテル。世界に名だたるこの高級ホテルには、それぞれの人生を背負った人々が今日も回転扉を通ってやって来る。フェリックス・アマデウス・ベンヴェヌード・フォン・ガイゲルン男爵(珠城りょう)は思うまま、望むままに生きることに情熱を傾ける、美しく快活で魅力的な青年貴族。一見優雅な長期滞在客だが、実は宿泊費を滞納し続けるほど多額の借金を抱えている。エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ(愛希れいか)は世界的な名声を得ているプリマ・バレリーナ。しかし今では世間も彼女を忘れつつあり、彼女自身も踊ることへの情熱と自信を失いかけている。引退興行の途上、このホテルにやってきた。オットー・クリンゲライン(美弥るりか)は不治の病に冒され、最後の日々をホテルで過ごすためにやってきたしがない簿記係…そして従業員たち、それぞの人生が交錯する…
 脚本/ルーサー・デイヴィス、作曲・作詞/ロバート・ライト、ジョージ・フォレスト、追加作曲・作詞/モーリー・イェストン、翻訳/小田島雄志、訳詞/岩谷時子、オリジナル演出・振付・特別監修/トミー・チューン、演出/岡田敬二、生田大和。1989念ブロードウェイ初演、93年に月組で初演されたミュージカルの再演。新月組トップスター珠城りょうお披露目本公演。

 大劇場初日の感想はこちら
 東京公演で台詞がいくつか足されていましたね。まずフラムシェン(早乙女わかば、海乃美月の役替わり)が生理について「遅くなる」ではなく「遅れている」と言うようになったこと、これは正解。それだけで女なら誰でもなんのことかわかるものなので「来ないのよ、アレが」は蛇足かもしれないけれど、この時点で彼女が妊娠しているかもしれないということは全観客にわからせておいた方がいいことなので、これはいい改変だったと言えるでしょう。
 逆にオットーの「私がユダヤ人だからですか?」は余計だったかな…この時代のこの社会で、差別されていたり抑圧されていたりするユダヤ人なら、ましてオットーのような性格の人なら、こんなことは実際にはまず言わないと思うのですよね。むしろ彼の服装をもっと貧相で薄汚れたものにするべきだったのです、宝塚歌劇ではなかなか難しいことかもしれないけれど。浮浪者みたいな不潔さじゃなくて、古びてくたびれていて体に合っていない、という記号が必要なんですけれど、それが足りなかったのだと思います。
 彼は普段からつましい暮らしをしていて、けれど余命いくばくもないことを知って全財産はたいて最後の贅沢をしにホテルに泊まりに来た男です。病気で痩せてしまって以前の服が体に合わなくなっている、そして質の悪いくたびれた服をずっとずっと着ている庶民です。高級ホテルの格式に合わない客であり、正規の宿泊料金を払えなさそうな客だと思われたからこそ、支配人は部屋がないという嘘を吐くのです。それで十分なはずなのです。きちんと閉じられていない鞄というのは記号としてはむしろ微妙だと私は思います。死にかけている男が何をそんなに持とうというのでしょう?
 のちに男爵が彼に仕立て屋を紹介しようと言いますし、オットー自身もフラムシェンと踊ることになるときは服の埃をはたいたりしていますが、穴が開いていたり継ぎが当たっていたりするのはさすがにオーバーなんだろうし、くたびれた貧相な服装、ってのをスターにさせることが宝塚歌劇では難しいんだな、と痛感しました。でもやっちゃってもいいと思うんですよね、それでもみやちゃんはスターだし美しさは隠せないんですからね。せっかくしょぼくれたいい芝居をしているんだから、フォローするのはそこじゃなかったと思いました。
 あとは、男爵の「あなたが呼吸する空気を呼吸するためです」のあとのスーハー、が増えたのかな。ホントにチャーミングですよね。もちろん動揺をごまかす場つなぎの芝居としての仕草なんだけれど、すごくいいと思いました。珠城さん自身もお茶会で「笑うところです、笑ってください」と笑って言っていましたが、このユーモラスさにさざ波のように客席に笑いが広がるのが気持ちよかったです。
 というかこの作品は今現在においてもなおややお洒落すぎていると私は思っていて、この場面に来て主役ふたりの台詞がきちんと交わされる芝居らしい芝居になるまでは、パラパラした歌と群像劇の展開になんの話か追えなくて退屈しかける観客が多いように感じるので、この場面に入ると安心するんですよね。そのつかみとしてすごく効いていると思いました。
 本当にお洒落でスタイリッシュで、24年前にこれを宝塚歌劇でやろうとしたことがすごいし、今もなお素晴らしい作品だし今後も再演に耐えられる作品だと思いました。死のボレロを男爵とエリザヴェッタが躍ることやラストに再度幕が上がって男爵が銀橋を渡り、みんながハケて空になった本舞台に戻ってきてエリザヴェッタと踊る流れなどは今回のバージョンのみのものなのでしょうが、そういう部分も素晴らしい。いいお披露目公演でした、堪能しました。

 珠城さんは、欲を言えば男爵を演じるにはまだ若いというか、もう一声、ヤクザな崩れた色気が欲しかったところではありますが、チンピラに堕落しきれない真面目さや芯のところでの誠実さが特にエリザヴェッタとの恋に落ちてからに効いてくるので、やはり男爵役でよかったと思います。立派な主役でした。
 でも大劇場初日とかホント、例えばエリックに奥さんの安産を安請け合いする感じのテキトーさとか全然出てなかったもんなー…でも後半ぐっと良くなりました、成長しているのです暴騰しているのです!(笑)
 あとは歌だなー、「♪欲しいのは」の「は」が半音下がるのはホント聞いていてつらかったので、がんばっていただきたいものです。
 ちゃぴはもう圧巻で素晴らしい。でも宝塚歌劇の娘役を逸脱しているとも私は思いません。きちんと演技で「39歳と39か月」の女を演じてみせていて、だからこそ恋に落ちて「女の子に戻る」姿が愛らしくて泣かされたのです。でも彼女はこういうことをもうずっと繰り返してきたのかもしれませんね…
 ウィット(光月るう)に言う「あんたのために踊るわ!」のユーモアというかポーズも含めてむしろギャグ、というのが大劇場初日では全然出ていなかったと思うのですが、東京ではチケットが完売と聞いて俄然機嫌が良くなって、でもあくまで不承不承の振りをする…という流れがくっきり出て良くなったと思いました。
 きっと彼女はけっこうお茶目でチャーミングで芸術家らしい芸術家、なんですよね。ウィットにはちゃんとした妻子がいるのかもしれないけれど、例えば今後の彼女はラファエラ(朝美絢、暁千星の役替わり)のものになることはやはりありえなくて、むしろウィットと結婚したりする形でまとまったりするんじゃないのかしら…とか思いました。彼もまた、単なるビジネス、単なるマネージャーとしてだけでない愛情を、エリザヴェッタに対して持っていたに違いないのですからね…

 みやちゃんも、歌はやっぱりもうひと押し欲しかったかな。まあカナメさんと比べるのも酷なんですけれどね。でもそれ以外は本当に素晴らしいオットーでした。優しい、温かい、いじましい。ビギナーを同伴するとみんながみんな彼の幸せを祈るのが印象的でした。私は、フラムシェンの産む赤ん坊の顔を見るどころか、パリに向かう列車の中でこときれる彼しか想像しないというのに(^^;)。
 ラファエラはあーさの方がニンだったかな、ありちゃんも健闘していたけれどちょっと役をつかめていない感じに見えました。ただそれで言うと新公のれんこんがベストだった気がしたかなー…
 エリックはありちゃんの方が良くて、それは歌が良かったからです。ホントに上手くなりましたよねー。ラストの大曲はあーさはつらかったんだよな…
 そしてフラムシェンは私は意外やくらげちゃんの方が好きで、これももっと言えば新公の結愛かれんちゃんの方が良かった。これは踊れる順でもありました。ヨシコのフラムシェンは「100パーセント理解しました」の前にちゃんと間を取って、しっかり言っていたのに対し、今回のフラムシェンは食い気味に言っていて要するに理解していないわけで、それはどうやら生田先生の演出によるものだったらしいのですが、それでもくらげちゃんの役作りにはまだクレバーさとか計算高さが見えたんですよね。あと立ち方がいちいちわざとらしかったのもとてもよかった。フラムシェンはそういう、いつスカウトされてもいいように自分を飾っている女だったことが表れていたからです。だから買い手が現れたし彼女自身も納得して売った、土壇場でビビったにしても…というふうに見えたのです。でもわかばはあまりに無防備で考えなしの役作りをしているように見えて、結果的にのちの展開が痛々しく見えすぎて私は不快に感じたのでした。
 くらげちゃんの方が背が高くてスカートが短く見えて、やたらパンチラするのもポイント高かったです(笑)。そしてかれんちゃんはホントちょっと下品ギリギリくらいに色気があったなあ、そしてまだ下級生すぎて怖いもの知らずなんだろうけれどほんとに舞台度胸を感じたなあ。あのタレ目は識別できるようになるとホントに目立っていてロケットなんかもガン見でした、期待大!

 みつるプライジング(華形ひかる)は専科としてきっちりいい仕事をしていた印象でした。宝塚版ではソロもカットされているし、細かい設定は省略されていてただのスケベおやじになっちゃっているんだけれど、まあ仕方がないですよね。
 ドクター(夏美よう)も実は新公がよかったなあ…
 あとは支配人(輝月ゆうま)のまゆぽんの慇懃無礼さ、良かったです。原作小説だと伯爵の設定なんですよね、それが労働者階級に転じている屈託を、ちゃんと感じさせました。
 それからなんといってもとしちゃん運転手(宇月颯)ね! 素晴らしかったですね!! 男爵の部屋に勝手に入って長椅子に寝そべって銃の手入れ、たまりませんでしたよね…!!!
 ボーイではれんこん、ヤス、あちくんをガン見。電話交換手ではさくさくをガン見。
 二階から観たときの群舞やフォーメーション、照明の効果も本当に素晴らしかったです。いい作品でした、改めて新生月組お披露目、おめでとうございました。

 あ、新公についてはツイッターでつぶやいてしまって気がすんじゃっているのでちょっとだけ。るねっこは大劇場の方が男爵っぽく演じられている気がしました。珠城さんとはまた違ったノーブルさがあってよかったんだけれど、東京ではエリザヴェッタと恋に落ちて以降が特にただの好青年になってしまって見えた気がしました。
 くらげちゃんは達者でした。あとおだちんがホント上手い歌もいい舞台度胸がある大物感あるすごい! エリックのはるくんも華があって沼の予感。
 総じてもうひとつの役替わり公演を観た気になるくらい、レベルの高い新公でした。


 モン・パリ誕生90周年レビューロマンは作・演出/稲葉太地。起用頻度が高くなっているのが心配ですが、とてもとてもいいレビューでした。オーソドックスでクラシカルですが、珠城さんの持ち味に合っていたと思います。楽しかったです。
 白馬の王子は鬘より何より、銀橋にずっと珠城さんがいることに動揺しましたよ大劇場初日…そそくさと渡ってハケなくていいんだ、トップスターってこういうことなんだ…!と感動しました。ひとりだけ全部の髪が白いちゃびが可愛かったなー!
 そのちゃぴのニューヨークは拍手が入るタイミングが東京から図られていてよかったよかった。『CRAZY FOR YOU』が大好きなのでたまりませんこの場面。ゆりちゃんもあーさも色気が素晴らしい!
 メキシコのいい男たち勢揃いでのダンス対決もベタけど素晴らしい。としちゃんにピンスポってのも素晴らしい。
 ブラジルのカポイエラも素晴らしい、サンバのとんちき衣装も素晴らしい。トップスターはこうでなくっちゃ! そしてちゃぴのステップが素晴らしいのだがさち花の美脚をガン見してしまう私なのでした…
 からのシルクロードはそのさち花さまとまゆぽんのカゲソロが本当に神! からの飛翔も本当に素晴らしいです。まさか月組でこんなにもきれいなトリデンテ場面、三角形隊形を観られるなんて…と感動しました。
 全体にみつるを歌手として起用しているのは謎すぎましたが、ロケットはすんごい力抜かずに踊るあちを観ているうちに終わり、からの黒燕尾に白い羽扇の娘役たちによる「モン・パリ」ってのがもう尊すぎて感涙。すごーくゴージャスですよね。まんちゅーピックアップも素晴らしすぎました。
 そして組カラーのドレスを着たちゃぴが下りてきて歌う…美しすぎました。リフトも軽々、愛に満ち溢れていて、視線がしっかり合って。
 さらにパレードに、としちゃんやゆりちゃんをひとり降りさせる気遣いたるや…! うちでもやってくれていいんだよ頼むね稲葉くん!?と念じましたよね。
 というわけで大満足のレビューなのでした。
 なんちゃって世界巡りだと思っているので、どういう航路なんだとか各国の文化の扱いはこれでいいのかとかは私は気になりませんでした。楽しく観てしまい、いつもいつもあっという間だった…と幸せに帰れる公演でした。
 いい組に仕上がっていくことをさらにさらに期待しています!






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原田マハ『本日は、お日柄もよく』(徳間文庫)

2017年03月12日 | 乱読記/書名は行
 OL二ノ宮こと葉は想いを寄せていた幼なじみの結婚式に最悪の気分で出席していた。ところがその結婚式で、涙があふれるほど感動的なスピーチに出会う。それは伝説のスピーチライター久遠久美の祝辞だった。空気を一変させる言葉に魅せられてしまったこと葉は、すぐさま久美に弟子入りするが…目頭が熱くなるお仕事小説。

 何作か読んでいる作家なのですが、私には当たり外れが大きく感じられ、またこの作品に関しては何故か、結婚式にまつわる恋愛ものの連作短編集だと勝手に思い込んでいて、ずっと手を束ねていました。でも好評は聞いていましたし、ドラマ化が決まって文庫になったようなので、やっと手に取りました。
 結婚式小説ではありませんでした。スピーチ小説、演説小説でした。そういう方向の「お仕事もの」だったのですね…
 私は高校時代にディベートにちょっと興味を持ったことがあって、何かのきっかけがもうちょっとあれば仕事としてそういう方向に進むのもアリだったのかもしれない、とかちょっと思っているのです。そもそも言葉というものに興味があったし、当時書かれる言葉よりむしろ「語られる言葉」に強く関心を持っていたんですね。私は子供のときから能弁で、というか手より口が早いタイプで、みんなを口で指示して仕切って自分は何もせず胡坐かいてグループを統率しているような子供でした。もう少し成長するとそんなサル山のボスみたいなことはしていられなくなるわけで、もっと個人としてきちんと発言したりそれこそ討論になったりとかはそれこそ委員会とか生徒会レベルでも出てくる事態なわけですが、言葉が拙すぎて議論が成立しなかったり伝えるべきことが上手く伝えられなかったり、というような場面を見てきて、なんかもっとうまくやれる方法があるはずなのに…と思っていたりしたのでした。
 国会の答弁なんかもしかりですよね。海外ではもっと演説やスピーチが重要視されているのに、日本では弁が立つというのは口ばっかりで中身がないように取られることが多いようで、でもそういうことも不満でした。言葉だけで中身や実行が伴わないのはもちろんダメだけれど、でもまず言葉でだけでもつかめるもの、伝えられるものがあるだろう、とずっと思っていました。
 日本ではこういうスピーチライターやイメージ戦略、ブランディングの仕事はまだまだ浸透していないのでしょうかね。私はとても大事なことなんだと思うけれどなあ。そういう部分を扱った、まあ全体としてはややぬるく、予定調和な話なんだけれど、うるうるしながら読みました。映像化に向いている作品だと思います、楽しみです。

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