駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

ねえ、ナナ ~『NANA』再読~

2023年12月17日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 矢沢あい『NANA』(集英社りぼんマスコットコミックス クッキー 既刊21巻)

 私は矢沢あいが台頭してきたころに「りぼん」を卒業しました。なので大人になってからまず『天使なんかじゃない』を読み、よくできていておもしろいことに感動し、これは連載当時のリアル女子中高生は夢中だったろうよ…!と心底思いました。そこから『ご近所物語』や『パラキス』もひととおり読んで、『NANA』は「Cookie」創刊時から読んでいたかと思います。とりあえず手元にあるコミックスは第3巻以降はすべて初刷りでした。
 私はコロナ禍以降、愛蔵しているコミックスを1日1冊再読する…みたいなことを断続的にしているのですが、この作品は連載中断中で、かつ続きが描かれる可能性がなかなかに低そうなことがつらすぎて、再読できないでいました。が、先日なんとなくやっぱり読みたい、となって、いい感じに細部を忘れていたので、とても楽しく読んでしまったのでした。
 美点はいろいろある作品ですが、私が今回感じたのは、今萌え萌えで見ているイタリアの医療もののテレビドラマ『DOC』に似ているかもな、ということでした。これは現代のミラノにある病院が舞台で、内科医チームの群像劇…みたいなものなのかな? メインの筋はありつつも基本的には一話完結で、運び込まれた患者たちの病気や問題が解明され改善されていく…というようなドラマです。でも、ただグルグルはしていなくて、ドラマの中で時間がけっこうガンガン進むのです。なので人間関係がかなり変わっていくんですね。つきあっていた者同士が別れてただの同僚に戻ったり、それぞれまた別の相手と付き合い始めたり、同棲を始めるとか結婚するとか離婚するとか異動するとか故郷に帰るとか亡くなるとか…キャラの出入りもけっこうある。でもとにかく、この「関係性の変化」がけっこう新鮮だな、こういうことが描かれる物語って実は少ないんじゃないのかな、でも人生って本当はそういうものだよな、などと感じていて、毎週おもしろく見ているのです。
 物語って、どうしてもスタートとゴールがあって、たとえば運命の相手同士みたいなメインカップルがあって、それが艱難辛苦の上に結ばれたら終わり、とかのパターンが多いかと思うのです。でもこのドラマは、スタート時にそう思えたカップルがいろいろあって別れて、それぞれ別の相手とつきあい出しても仕事場ではちゃんと同僚同士で信頼し合っていて…みたいな様子が描かれる。改めて、欧米の人って本当に個人がしっかりしているし自分も他人も尊重する姿勢があるし、「大人」だなー、と感動するのでした。
『NANA』のキャラたちは実はせいぜいが二十歳前後の若者ばかりですし、そういう意味では全然大人ではありませんが、わずか一年ほどの物語時間の中で、キャラとキャラとの関係はけっこう激変しますよね。そこがこのドラマと似ているし、少女漫画としては目新しいな、と今回再読して改めて感じたのでした。
 まあナナはいろいろあってもレン一筋で、これは別れているところから始まって再会して元サヤ、という流れなのである意味で一番一途で単純ですが、ナナはそもそもノブとまず友達になったり、その後もヤスをめっちゃ頼りにして甘えていたりして、こういう恋愛以外の関係性を描くのも上手い作品だよな、とも感じます。
 さらにもうひとりのヒロインの奈々はといえば、それはもう不倫リーマンから始まってめくるめく恋愛遍歴(笑)を重ねてのデキ婚、という派手派手しさなワケです。実はこういうことも少女漫画ではなかなか描かれないので、当時も今もやはり新鮮で斬新に感じますし、とてもいいなと思います。奈々には確かにちょっとフラフラしたところはあるんですが、でもそれってわりと女子として、いや人間としてナチュラルなことだとも思うし、そのときどきの恋愛にはそれなりにちゃんと一途なんですよね。ただいろいろな要因で長続きしなかっただけで。これもリアルあるあるだと思いますしね。
(それで言うと私が『キャンディ・キャンディ』を高く評価しているポイントのひとつにも、この点があります。それこそ半世紀前の少女漫画で、ヒロインが複数回恋愛することが描かれることってほぼなかったのではないかと思うからです。キャンディは幼いなりにアンソニーともテリーとも真剣な恋愛をしています。またフッたフラれたでない失恋、別離を描いているのも画期的だったと思います。もちろん最後は初恋の相手が実は…エンドなのでその意味では王道の「運命の相手もの」なんだろうけれど、この過程が大事なんだと思うんですよね…)
 女子中高生向けの、学園ものメインでない、さりとてレディスコミックとも違う女性漫画、女性漫画誌が生まれて久しいですが、当時も今も、こうしたオトナな視線を持って作られる作品って意外とないし、音楽シーンや携帯電話その他含めて時代的にアレとなっても、今なお新しくて素晴らしい作品だな、と思うのでした。作中の年代が書き込まれているので、その時代の物語なのね、として読めるので、その意味で古びないのも強いですよね。
 で、だからこそ、続き、続きをプリーズ…!とホント思うのでした。連載中断にはいろいろなケースがあるので、一概に言えないことはわかっているのですが、それでも始めたからには完結させるのが創作者の義務だ、ということは肝に銘じていただきたい…!
 お話はレンの事故死と葬儀まで描いて中断しています。その数巻前から、この数年後、みたいなシーンが挿入されるようになっていたので、そこが物語としてのゴールで、そこまでの過程もほぼほぼなんとなく見えてはいるんですよね。早ければあと2巻分くらいで描けるような気もするんです。そこを、早く埋めてほしい、読ませていただきたい…!
 この数年後、奈々はスタイリストみたいな仕事をして働いているようで、娘の皐と白金で暮らし、ときどきナナと暮らした部屋を覗きに行っている。シンは芸能界に復帰していて俳優として活躍しているようで、ノブは実家の旅館を継いだらしく、ヤスは何をして働いているのかはわかりませんが美雨といて、みんなと友達づきあいはしている。タクミはロンドンで仕事をしているらしく、レイラもナオキもイギリスにいる模様。彼らのそばにはレンと呼ばれる少年がいる。そして、髪が長くなったナナがイギリスで歌っているらしいという消息が知れる…
 つまり、レンの葬儀の後、ナナが失踪し、トラネスもブラストも活動休止か解散して、奈々が幸子と呼んでいたお腹の子供は生まれてみたら男の子で、それでレンの名を取って名付けられたんですよね? 皐はそのあとに生まれた娘なんですよね? どちらもタクミの子供なんですよね? そのあたりまでは、タクミと奈々の夫婦関係はなんとか成立していたということなのでしょうか。今も、イヤそもそもスタートからしてアレだというのは別にして…
 タクミが今ロンドンにいるのは音楽の仕事のオファーがあったからではないか、と私は推測しているのですが、イギリスに去ったレイラを追って…とかではないことを望みます。私はキャラとしてはタクミが好きなんですよね。読者人気があるのは優しいヤスとかノブかな、とかも思うんですけれど。私は彼の仕事ができるところや非情でも割り切れるところなんかが好きです。もちろん彼にも割り切れきれない部分はあって、そういうところを結果的にでも妻の奈々がフォローしている形になっているのも好きです。彼の結婚観とか妻の尊重のし方もいろいろアレではありますが、でもやはり彼なりの考えや矜持やこだわりや誠意があることはわかるし、私自身は全然奈々に似ていないしなれるともなりたいとも思いませんが、そういうのをひっくるめていいなーと思っちゃうのです。
 ただ彼の仕事のスタートはレイラを上手く歌わせたい、というところにあるので、結局そこかい、ってなるセンもあるのが不安なのですが…
 まあでもこのあたりは所詮脇筋です。だいたいの話はできていてもう描かれるだけになっているんだとしても、なんならナレ説明で済ませて飛ばしてもかまわないくらいなワケで、読者が求めているのは要するにラストシーンでしょう。まあぶっちゃけ、ついにナナの居場所を探し当てた奈々がナナに駆け寄り、海をバックに抱きついて抱きしめて終わり…とかでいいんだと思うのです。タイトルロールはナナと奈々、ふたりのNANAのことだと私は考えているので、ふたりが出会ったところから始まる物語が、ふたりが再会して終わる、というんで十分なんだと思うのですよ。それからしたら奈々のその後の結婚生活の描写なんか些末なことなのです。
 生きてさえいれば、また出会える。傷も癒やせる、乗り越えられる。つらいことはなかったことにはできないけれど、できるだけ忘れて、再び歩き出せる。家族や友人の支えもある。ナナは母親や妹とは疎遠のままかもしれないけれど、でもナナには奈々がいる。赤の他人だけれど、名前が同じの、同い歳の、運命の相手…これはそういう物語なのではないか、と私は思うのです。
 そのラストシーンを、見たい。ほぼわかっているようなものだとしても、きちんと描いてもらいたい。『王家の紋章』はグルグルのまま作者逝去でもいいけれど(オイ)、『ガラスの仮面』とこの作品は(あとそこまでメジャーじゃないけど私が切望しているのは『EXIT』の続き…)、なんとか完結していただきたい…
 改めて、そう思ったのでした。
 でももう、今は新規読者も入っていなくて、忘れ去られつつある作品なのかなあ…寂しいなあぁ……ねえ、ナナ?







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泰三子『ハコヅメ』

2023年04月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 講談社モーニングKC全23巻
 辞表を握りしめた新米女性警察官・川合の交番に、何故か刑事課から超美人の藤部長が配属されてきた。岡島県警(の男性陣)を絶望に陥れるコンビの誕生である…理不尽のち愚痴、ときどきがんばる、誰も見たことのない警察漫画。

 ドラマ化の前後に、17巻まで親友に借りて読んだときの感想はこちら
 その後は毎週「週刊モーニング」でも連載を追っかけて読んでいましたが、第一部完ということで全巻ボックスが漫画全巻ドットコムから出たので、新調した本棚にまだ余裕があることですし(笑)自分でも持っていたくて、ついポチッとしてしまいした。
 1巻の刷数は思っていたほどでもないなという印象で、世評ほど売れていなかったのか、一回の重版部数が大部数だったのかはナゾです。雑誌ではいつも巻頭から3、4本目に掲載されていたので、人気はあったんだと思うんですよね。でも紙より電子で売れるタイプだったかなとは思うし、なんなら課金はせず毎回無料で読むだけで済ませている読者が多かったのかもしれない…とは思います。親友はバッサリ「性犯罪を追う女性警察官の話なんて、おじさんたちが読むわけないじゃん」と言い切っていましたが…
 まだまだ続けようと思えば続けられたんでしょうけれど、長尺ものはどうしても紙コミックスの部数が落ちてくるものだし、何より漫画家さんの興味関心が次へ行ってしまったようですね。それでこの作品はこのあたりで一度ひと区切りとして、違うものも描いてみたい…ということでの連載切り替えだったようです。で、その新連載は無事始まったのかな? 最近雑誌を読んでいないのでわからないのですが…
 お話のオチは、人事異動で川合と藤のペアが解散し、新たに異動したきた同期の男子と組むことになった川合が、連載第一話で藤がやっていたのとまったく同じことをやってみせて終わる、という実に美しいものでした。最初から考えていたオチなのかもしれません。だからまあ、当初描きたかったことはまあまあ描ききったんだろうし、でも連載が長期化すると物語の時間より実際の時間の方が早く進んで、その間に世間の空気も常識も法律も変わるし、元女性警察官の漫画家が描く作品として、そういう現実との乖離を嫌って、一度物語を畳むことにしたのかもしれません。もちろん未来に向けた構想はあったようで、たとえば川合が警察学校の校長になっている未来の場面なんかはすでに描かれていたので、そこに至るドラマを全部ちゃんと見せてくれよ…という思いは読者としてはあるのですが、作者はある種気がすんでしまっているのかもしれません。
 でも、物語としてはやはり完全にはオチきっていないと思うので、ここで放り出すのは読者と作品に対してやはり不誠実だと私は思う。なので5年くらいのうちには戻ってきて、5巻分くらいでいいからさっと続きを描いて、きちんと完結させてほしいなー、と願っています。
 川合が警察学校の校長になっているとき、結婚指輪をしているので既婚なんだと思うのだけれど、まだ川合と呼ばれていて、警察は旧姓の通称使用が認められているようなので単にそういうことなのか、はたまた夫婦別姓が選択できる世になっているという想定なのか…は謎です。が、知りたい。夫が誰か…はどうでもいいかな。別に如月でなくてもそれはかまわないと思うのです。
 また、それとは別に、川合は何やらいわくありげな初体験(という表現もどうかと思いますが)をすることになるようなこともすでに描かれているのですが、このあたりもちゃんと読みたい。というか相手が如月なら、あるいは如月でないのだとしたら何故そうならなかったのか、の経緯を知りたい。あとはせめて彼のために水族館デートは行ってやってくれ川合、頼む。
 つまりそれくらい、私は如月昌也というキャラクターを愛し案じその幸せを祈っているのでした。いっとき、殉職とかさせたらマジ許さん、みたいなターンがありましたが、もしそういう構想ならそれも教えてください先生…(ToT)
 ところで、そんなわけでもうすぐ四十年の付き合いになる親友と三人でコミックスを回し読みした際に、持ち主は副署長を、もうひとりは山田を推しキャラにしていました。ホント何もかもが被らないんだ私たち…
 それはともかく、そんなわけで私はもうどうしてもこのテのタイプがキャラクターとしてツボなのでした。ザンネンなイケメン、という部分よりも、不器用な秀才、みたいなのが好みなんです。源みたいな天才で変人、みたいなのには私はそそられないのでした。次点は、また少しタイプが違うけど上杉、とかね。
 バリッとしたスーツ着て爪先とんがった革靴履いて、知能犯やインテリヤクザ相手に対抗してブチかます敏腕刑事で、ハンサムで、AV検定8段(笑)。モテるし来る者拒まずで彼女が切れたことがないタイプなんでしょうけれど(今はお疲れでお休み中で、昇進と静養と羽根伸ばしのために異動してきたわけですが)、その実まったく恋愛に熱いタイプではなく、なんならセックスもやるより見る方が好きと公言してはばからない、というキャラです。それは彼が美形だから周りからはギャグとして流されて成立しているんだけれど、彼にとっては単に本当のことで、それは彼が幼いころに女児に間違われて性犯罪被害に遭っていることが原因なので、これは彼にとって、というか誰にとってもまったく冗談ごとではない、とんでもないことなのでした。
 この国では性犯罪被害者のほとんどが女性でしょうが、そのケアも全然行きとどいておらず、まして少数の男性被害者のケアにいたってはほぼ何もされていないに等しいのではないでしょうか。今は多少は進歩しているにしても、如月が子供だったころになんらかの救済システムが機能していたとはとても思えません。そして幼き如月は、友達かつ女子である藤が自分と同じような被害に遭わないように努めることに必死で、そして自分のことは受け止めきれず誰にも言えず蓋をし棚上げし、その後は上手く忘れたふりをしてなんとかやってきたのでしょう。彼は賢いし強いから、そうやって自分の心を守ってきたのです。でもやっぱり弊害というか影響は出てしまうもので、思春期以降、自分の身に湧く性欲も他人が自分に向ける性欲に対しても、上手く対処ができないできたのでしょう。というか、性欲とは汚いもの、という感覚が拭えなかったんだと思います。だから楽しくない、気持ち良くない、あるいは快感より罪悪感が勝つ。なので好きな人とセックスする、とかが考えられないわけで、AVを眺めている方がよほど気楽だったということなのでしょう。
 そんな彼が、川合に恋をしているんですよ…しかも川合のスピードが激スローかつ方向がやや明後日なハートの針路に、必死で合わせようとしているんですよ…報われてくれ、幸せにしてやってくれ、と念じて泣かずにはいられません私……
 作品の本筋とは関係ないターンなのかもしれませんが、そこは描いてくれませんかね先生…お願い……これプリントしてモーニング編集部に送ろうかな………(重い)
 というかこの作品は女性警察官を主人公とした日常もの、職業ものだと思うんですが、最終的なテーマというかメッセージは、女性警察官を増やすこと、女性幹部も増やしより女性が働きやすい組織にすること、女性が被害者になりがちな性犯罪を減らし、そうした事件を男性警察官ばかりで扱う事態も減らすこと、今より男女ともに暮らしやすい平和で安寧な世の中を作ること…あたりにあるんだと思います。なので男性の性犯罪被害者で刑事である如月は、この作品が、世界が目指す最終的に救うべき存在なのであり、あたかも北極星のようなものなのではないかと思うのですよ。なのでそこまで描いてあげてほしいのです…彼のためにも、作品のためにも。
 なんだっけ、初めが半分、みたいな、始めることが一番大変で始めてしまえば半分がた終わったみたいなもんだ、みたいなことわざだか言い回しだかがあったと思うんですけれど、それでいえば如月は川合を知ったこと、出会ったことだけでもう半分がた救われているのかもしれません。眠れない夜の過ごし方を、もう彼はひとつ手に入れたのですからね。日にち薬が年月かけて癒やしてきた傷が、最後の一治癒を迎えている…と言ってもいいのかもしれません。どうか彼をこれ以上傷つけないであげてください、泣かせないであげてください、幸せで、健やかでいさせてください…私はそう念じているのです。
 ドラマにもアニメにも如月は登場しなかったけれど、それでよかったかな。私はわりと唯漫画論者(なんだソレ)なので。なので気長に第二部、あるいは完結編連載開始を待ちたいと思います。始めたものは終わらせる、それは作家も編集部も読者と作品に対する義務だと思って、是非ともがんばっていただきたいです…!!!








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渡辺多恵子『ファミリー!』

2021年05月07日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 小学館フラワーコミックス全11巻。

 LAのアンダーソン家は総勢5人。人のいいパパにマリア様のようなママ、男が好きな長男のケイに男の子みたいな長女のフィー、おませな次女のトレーシーの仲良し家族だ。ところがそこに、パパの隠し子を名乗る5歳の天才少年ジョナサンが訪ねてきたから大騒ぎ…ときめきホーム・コメディー。

 私は『ポーの一族』『トーマの心臓』そして『ファラオの墓』『風と木の詩』でフラワーコミックスを買うようになりましたが、雑誌の「少女コミック(現「Sh0o-Comi」)」や「別冊少女コミック(現「Betsucomi」)」は買ったことがなく、雑誌は「りぼん」を卒業したあと「LaLa」に行きました。フラワーコミックスでは他に渡辺多恵子や吉田秋生、秋里和国(当時のペンネーム)なんかを買い集め、白泉社花とゆめコミックスでは成田美奈子や清水玲子を買っていました。秋里さんは最近ヒット作に恵まれていないけれど、いずれも未だ第一線で描いている息の長い漫画家さんですね。今の読者にはそれぞれ『風光る』『海街diary』『花よりも花の如く』『秘密』の作家、なんだろうけれど、私にはこの作品であり『カリフォルニア物語』『BANANA FISH』であり『みき&ユーティ』『エイリアン通り』でありジャック&エレナシリーズなのでした。
 この作品も長く愛蔵しているのに感想を書いていないことに気づきましたので、この流れで再読してみました。レイフとサイモンの回想場面はギムナジウム・チックだし、ケイが読んでいる本が「ルネッサンスとヒューマニズム」だったりするので、確実にこの流れにありますよね。というか、オマージュというかリスペクトとしてあえて散りばめられているんだと思います。
 今も人物の丸まっこい、柔らかい描線が魅力の漫画家さんですよね。とても丁寧で温かい。まだ海外が今よりちょっと遠い時代の連載作品で、でも本人のホームステイ経験もあって、憧れとドリームとロマンと、でもちゃんとマリコ視点の地に足ついた日本からのエピソードも描かれるような、バランスのいい一作だと思います。ホームドラマとしても思春期ものとしてもとても良く出来ています。そして古びていない、素晴らしい。
 フィーという主人公像自体は、この時代でもやや古くなりつつはあったと思うのだけれど(だからジャニスというキャラクターも登場するのだし、この1巻があるのだけれど)、やはり王道、メジャー感というものは大事だと思いますし、彼女はただの脳天気でもなくカマトトでもなくちゃんと成長しているキャラで、健全で健康で、素敵です。
「Vibration」からの「パーティー・ドレス」、「LET ME INTRODUCE」「ジャニス」「ぼくたちの解放」「タッグ・マッチ」そして「Yes,Mom.」「ハイヒール・スプリンター」の流れがすごく好き。キュンキュンします。物語としても実に美しいと思います。
 ジェイもリオも好きだったなー、今でも好きだ。このあたりには、いわゆる少年愛漫画のその後の成長と進化を感じますよね。ちゃんとゲイのカップルになっている。ちょっと都合の良さを感じなくもないけれど、ルイスの在り方もいい。これくらいの年齢やポジションの成人女性キャラが出てきていることもやはり進化の証でしょう。
 名作です、傑作です。毎度コレばかりで申し訳ありません。


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吉田秋生『BANANA FISH』

2021年05月01日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 小学館フラワーコミックス全19巻。

 1973年、ベトナム。ひとりのアメリカ人兵士が「バナナフィッシュ」という言葉を残して、突然精神に異常をきたした。1985年、ニューヨーク。謎の言葉「バナナフィッシュ」を追うアッシュに、暗黒街のボス、パパ・ディノの黒い影が迫る…傑作ハード・ロマン。

 番外編の感想はこちら
 テレビアニメ化の際に刊行されたボックスも買いましたが、そのときも結局再読はしなかった記憶…台詞の差別表現などがかなり修正されたとのことでしたが、やはり雰囲気は変わってしまったのでしょうかね? アニメの第一話を見て、台詞が丁寧にまんまなのに感心し、そして完全にソラで先に言えるほど記憶している自分に軽く引いた記憶もあります。この作家自体はそれ以前からも好きでしたが、この作品は3巻くらいまで出たときに読み始めて、そこからは毎回新巻が出るたびにドキドキと買って読み進めていきました。そういえば今度舞台化もされるそうですね。こちらもそれこそずっと第一線で描き続けている作家なので、新しい読者も入っているだろうし、かつてのファンが制作側に回るターンでもあるのでしょう。この流れで、改めて再読してみました。
 …が、改めて、特に言うことはないですね。名作だ! 読んでいない人は読んでくれ!! 以上、終了、です。
 ベトナム戦争、麻薬、マフィア、ストリート・チルドレン、児童買春、国際政治と軍隊と脱税と他国への内政干渉や戦争工作…と、およそ少女漫画らしからぬモチーフ多出の作品ですが、それでもやっぱり人間への視線が少女漫画のものだと思います。少年漫画や青年漫画は、人間をこういうふうには描かないと思う。愛や、神の描き方も。
 でも、少年愛漫画ではないしBL漫画でもないですね。ゆがめられて育った少年とまっすぐに育った少年との出会いと別れ、を描いているという点では『風と木の詩』と同じだし、片割れが死ぬというオチも同じと言えば同じです。アッシュはジルベールばりに犯されまくってもいますが、この物語ではそれは「性愛」なんてものではなくて単なる暴力であり虐待であり加害です。そういう意味では、彼は結局は「愛」を知らないままにその生を終えたのかもしれません。もう少し時間があれば、彼が初めて得た「友達」である英二から、彼とのつきあいの中から、もう少し愛を学べたのかもしれない。でも、彼にはそんな時間は与えられなかった。英二との友情だけで精一杯だった。彼の環境は過酷すぎました。
 もちろんブランカや、ショーターや、スキップや、アレックスたちや、マックスたちに、ある種の好意は持っていたことでしょう。彼らは「敵」ではなかったのだから。でも、そういう敵か味方か、といった区分とは全然違うところに、英二はいた。彼はそもそもチームの仲間としても認識されていなくて、ずっと外様のお客さんのままだったからです。その特異なポジションで、彼らは友達であり続けた。なんの見返りも求めない友、決して相手を怖れない友、いつも魂がそばにある友…もう少し平和な環境があれば、この友情からアッシュは愛を学べたはずで、より広く、深く、世界を愛していけるようになる余地がありました。彼にはそれだけの柔らかさ、しなやかさがまだあった。父親代わりの兄に優しく育ててもらった根っこがあるからです。けれど、あの死闘続きの日々の中で、英二の身を守ることだけに注力せざるをえなかった。だから彼の「愛」はずいぶんと偏った、濃いながらも小さいもので終わらざるをえなかった…でも、この友情のうちに、微笑んで死ねた。これはそんな友情のお話だった、と私は思っています。
 もちろんアッシュのキャラクターは強烈で、英二との関係性の特異さも新しくて珍しくてエモくて(連載当時この言葉はありませんでしたが)、熱狂的な人気を博した作品でした。多彩なキャラクターも、アクションも、ストーリーテリングも素晴らしい作品です。読み継がれるに足る名作です。漫画としてはわりとフツーというか、たとえばコマの中の構図とかがけっこう下手というか不用意なところは散見されるのですが、ものすごく読みづらいとかわかりにくいとかってことにはなっていないから、まあいいのかなとも思います。あまりそういう部分にこだわりがない漫画家さんなのかもしれません。ともあれ、他に似た例を見ない、これまた時代を画す金字塔的一作です。
 私は去年の春にニューヨーク旅行を計画していたのですが、ブロードウェイ観劇なんかはもちろんですが、フェリーに乗りたかったし市立図書館に行きたかったです。アッシュが生き、のちに英二が写真に収めた街を歩きたかった…コロナが収まったそれこそ暁にはぜひ、敢行したいです。そして夜明けの名を持つ人を偲んで、朝焼けを眺めるのです。40年越しの念願になってしまいそうですが、必ず叶えたいと思っています。それだけのパワーを今なお持つ名作です。





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よしながふみ『大奥』

2021年03月09日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名や・ら・わ行
 白泉社ヤングアニマルコミックス全19巻。

 若い男だけが罹り、5人のうち4人が命を落とす「赤面疱瘡」はあっという間に全国に広がり、やがて男子の人口は女子のおよそ4分の1で安定した。男のあまりの生存率の低さゆえに、男の子は子種を持つ宝として大切に育てられ、女がすべての労働の担い手とならざるをえなくなった。あらゆる家業が女から女へと受け継がれ、わけてももとより官僚化していた武家社会では、男女の役割交替は比較的容易であった。唯一の天下人である公方様にのみ許される最高の贅沢、それは男子の少ないこの世で美男三千人を集めたと言われる女人禁制の男の城、大奥を持つことであった…

 私が持っているコミックスは13巻までジェッツコミックス扱いでしたが、掲載誌はずっと「メロディ」でした。白泉社の少女漫画コミックスのレーベルとしては「花とゆめコミックス」があるはずですが、「花とゆめコミックスLaLa」はあっても「花とゆめコミックスメロディ」はないのでしょうか? それともこの作品は単なる少女漫画ではないから、とか少女漫画の枠を越えるものだから、とか男性でも読めるものだから、とかの理由で今はなき青年誌の名前だったり縁もゆかりもないヤング誌の名前のレーベルに入れられたのでしょうか? だとしたらちゃんちゃらおかしいですね。それは少女漫画の、少女の、ひいては女性の蔑視に他なりません。そしてこの作品に対してそういう処置をするということは、この作品の意味も価値も全然わかっていないということです。反省せーよ、当時の担当者!!
 …それはともかく、16年の長きにわたり連載されていましたが、このたび無事に完結したことは実にめでたい、美しい。
 私はここでも何度か書きましたが、始めた話は終えるのが当然、かつ綺麗に終えてほしいし、長期連載においては最終回ひとつ前の回がとても大事、というのが持論です。この作品もまさにそれで、最終回ひとつ前の回でほぼほぼ本編の肝要な部分は語り終えていて、最終回は余韻あふれるエピローグ回みたいなものになっていました。実に素晴らしい! ここ数年は雑誌で毎回読んでいたのですが、本当に胸がすく思いがしました。
 また、少女漫画家にこの技能を持つ人材は残念ながら少ないのですけれど、似たような歳格好の女性を複数きちんと描き分けている画力があるのが素晴らしい。かつそのキャラクターが少女の頃から老婆になるまでをも、ちゃんとそのキャラらしく描けているのも実に見事です。なんせこの時代の女性たちのことですから、髪型を変えるとか特殊な服装をさせるとか特別な口癖をつけるとか、みたいなキャラの描き分けはできないわけじゃないですか。でもちゃんと、家光も家綱も綱吉も家宣も吉宗も家重も家治も家定も家茂も…その他あまた現れる女性たちが全部違う顔つきで描かれていました。見事なものです。もちろん男性キャラクターに関しても同様ですが。私はこの作家は画力というか絵の魅力というのはそこそこであって、あくまでも秀でているのはネーム力(コマ割りとか、コマの中の絵の構図とか、台詞とか、演出全般とでも言いましょうか)だと思っていたので、なかなか意外な発見でした。
 というか始まった当初は、「男女逆転設定までしてBLが描きたいのか…!」と思ったんですよね。美男三千人の禁断の苑での、逆ハーレムを描くのではなく、中の男同士の惚れた腫れた(イヤ腫れはしないんだけど、同性同士だから)を描くんでしょ?と早合点したからです。そうしたら、意外にも、むしろ、フツーの(という言い方がいけないのはわかっているのですが、ここは、あえて)、男女の、異性愛のドラマがメインの物語となりましたよね…もちろん歴史の物語でありジェンダー論の物語でもあったのですが、私はなんてったってラブストーリー大好きのナンパ者なので、本当に楽しく読んでしまいました。聞けば、赤面疱瘡のワクチン開発ターンで脱落した人が多いとのことで、もちろんまあまあ巻数が進んでいたこともあったでしょうが、舞台が大奥どころか江戸城からも出てしまって、一応源内さんとかはいたけれど基本的に男性たちがめっちゃ真面目にあれこれ奔走する展開の時期だったので、ラブがなくてつまらん(イヤ黒木夫妻とかあったけど)、となったんじゃないかしらん、とか推測したりします。
 ホントどのカップルもせつなく、ドラマチックでしたよねえ…本当の史実(という言い方もなんですが)ではどんなだったんだろう、こういう人となりとして語られていて、それがただ男女入れ替わってるだけなのかしらん!?知りたいわ!ともなりました。
 ところで話が戻るようですが、この平賀源内のキャラクターはちょっとおもしろかったですよね。この人はFtMのトランスジェンダーということなのではないでしょうか? 女性の身体に生まれたけれど、男装している方が楽で生き方に合っていて、性自認もほとんど男性で性愛の対象は女性…特にことさらに描かれていたわけではありませんが、メジャーの漫画にこうしたキャラクターが出てくることはあまりないですし(出てきてもゲイ男性がほとんどでレズビアン女性はかなり少ない、トランスジェンダーやトランスセクシャル、アセクシャル他はこれまではほぼ扱われていないでしょう)、ちょっと「おっ」となりました。そして逆に、この作家は出身は二次BLだったわけですけれど、そういうようなゲイ男性キャラクターはほぼ出てきませんでしたね。それもちょっと意外でした。私はBL作家の一部ないし大半にはたとえ無自覚にせようっすらしたミソジニーがあって(というか今の世では男女問わずうっすらしたミソジニーを植え付けられて育ってしまうんだと思うんですけれど)、それで女性が出てこないような男性同士のラブストーリーを描いているんだし、だから男女の異性愛ラブストーリーを描こうとしても上手くいかない場合が多いのではないか、と考えているんですけれど、この作家に関してはそういうことではなかった、ということですね。いや、彼女のBL作品に出てくる女性キャラクターを見るにそういうミソジニーは感じていなかったので、女性の物語も描ける人ではあろうなと思ってはいたのですが(例えとしてどうかと思うけれど、『フラワーオブライフ』とか)。でも、こんなふうにちゃんと、しかも深く、丁寧に、繊細に描くとは思っていませんでした。お見それしました。それとも、多少は歳をとって丸くなったとかオトナになったというのはあるのかしら…もちろん老化にともない了見が狭くなっていく残念な人間も残念ながら多いものですが、年を経るに従ってより多くの物事を容認していくことが出来るようになる、という豊かな人もいるのだと思うのですよ。そういう意味でも、この作家のひとつの到達点となった作品なのかもしれません。
 でも私は、個人的には、これがSFの傑作、とかは思わないんだよなあ…私のSFの定義は意外と狭いのかもしれません。
 すごいジェンダー論漫画だとは思います。人口比のアンバランスによる男女逆転、といったって、男の種で女が孕んで子供が生まれる、というのは変わらないのです。結局のところその非対称がしんどいわけであってさ…そして「子供にその家、家業、財産、職務を継がせる」ってシステムは変わらなかったわけでしょ、なら「家」のために十月十日も身体の自由を制限されて命懸けで出産する女たちのつらさ、苦しさ、しんどさはむしろ増しているようにも見えるんですよね。恐ろしい物語だ…(そしてそれならば、人工子宮の普及で男性も妊娠、出産が出来るようになった世界での男女のラブストーリーを描いた『四代目の花婿』の方が立派にSFだったと思う)まあしかし、ここから何百年か経っても未だしょーもない避妊手段と前時代的な中絶法しかないヘル・ジャパン、女のしんどさは全然変わっていないのかもしれません…男のつらさとかは知らん、それは別で主張して解決してくれ、女のつらさに乗っかるな。
 話を戻しまして、ところで慶喜ですが、私は以前はけっこうスマートなイメージを持っていてわりと好きだったのですけれど、近年ではけっこう人が悪かったみたいに描かれることも多く、そしてこの作品でもまあまあさんざんな扱いですが、今年の大河ドラマはサブ主人公扱いみたいなものですよね…大丈夫なのかしらん。
 しかし中澤がよかったよね…あんな立ち位置でのあんな登場だったしあの顔デザイン(笑)だったのに、いいキャラになったし最終回にまでちゃんといて、篤姫の面倒も見ていて、実にいじらしい…感動しました。
 そして津田梅子、さらに感動しましたよね。私立に行くお金がうちにあったら私も行っていたかもしれません津田塾…ところで今調べたら「女子大」とは名乗っていないんですね、でも別に共学になった、とかじゃないよね? そんなわけで私は公立の女子大出身です。受験科目が少なくてちょうどよかった、みたいな選び方だった記憶があり、ものすごく女子校に行きたいとか意識高かったとかそういうことはなかったとは思うけれど…無意識に男子との競争を避けていたところはあったかもしれません。だってめんどいもん。フツーに偏差値に合わせて東大とか東工大とか受験して男子と同じ点取っても落とされていたのかも、とか思うとぞっとします。
 …はっ、またまた脱線しました、失礼しました。まあでも、そんなわけで真実は闇に葬られ、けれどひっそりと人の口から口へと語られ続け、世を照らす灯火となっていくのでしょう。今を生きる私たちは、それを頼りに、一歩ずつ、微力ながらも、世を直していくしかないわけです。戦のない、飢えのない、平和で豊かな世を作ろうと命を削って働き、志なかばで死していった彼女たちに、そっと誓うことしか今はできないけれど…きっと、必ず。





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