こっちゃんがわりと好き、そしてひっとんは大大大好き! ここ最近の娘役のマイ大ヒット!! そしてそして演目も未見ですがよかったと聞いている! というので、なんとかかんとか手配して梅芸初日にいそいそと出向いてきました。というかお披露目開演アナウンスに心おきなく拍手入れられるってやっぱり貴重ですよね…!
パリ初演の海外版もアッキーヤマコーWキャストの外部版も未見で、いわゆる『モーツァルト!』なら
こちらや
こちら、『マドモアゼル・モーツァルト』なら
こちら、が私の今までの観劇記です。
なので比較は全然できないのですが、プログラムによれば、こっとんお披露目用にヴォルフガングとコンスタンツェの出会いの場面を作ったり、そもそもは二幕からしか登場しないはずのサリエリをプロローグに出したりと、けっこう潤色・改変できている印象を受けました。というかそもそもフランス版はほぼコンサートみたいな作品だとも聞きますし、だいぶ芝居パートを足しているんですよね? ラストもかなりこっとん仕様になっている印象だったので、だからこそ、ならもっとさあ…!と私は全体の構成に不満を持ちました。今回は主にそういう話です。
さて、モーツァルトといえば父レオポルドと姉ナンネール、悪妻のコンスタンツェにライバル・サリエリの嫉妬、みたいなのが定番のエピソードかなと思います。で、アロイジアに関しては『モーツァルト!』にも出ているそうですが私はすっかり忘れていました。コンスタンツェの姉、ヴォルフガングの最初の恋人、です。このキャラクターが今回はとても大きく扱われていました。それはいい。というか素晴らしい。
もっと言えば全体に、男役はみんなしどころがない印象でしたが(どーでもいいとしか思えない役のかりんたんの印象のせいかもしれません…てか確か外部版にはなかったんじゃなかったっけこの役…足してコレなのかダーイシよ…(ToT)でもまあオレキザキとかかなえたんとかひーろーとかしどりゅーとかはちゃんと仕事していたとは思います。おいしいかはともかく…(>_<))、娘役はひっとんはもちろん白妙なっちゃんもあんるもほのかもマメちゃんも歌う歌う歌う! 耳福!! のお祭りだったのです(いーちゃんはもったいなかったかな…)。やはり欧米のミュージカルはプリマドンナありきなのかなあ? 宝塚歌劇ではトップ娘役以外の娘役になかなかいいキャラクターが描かれない、ましてソロなど…という状況を考えたら破格で、娘役好きとしては狂喜乱舞だったのです。
けれどトータルで考えたときに、これがあくまで宝塚歌劇としての潤色を許諾されたのなら、そしてこっとんお披露目としての調整を許されたのなら、さらにもうちょっといろいろできたろうダーイシ!!!と言いたいワケです。
まずもって、休憩30分にフィナーレ込みで上演時間まるっと3時間なのに、一幕がきっかり1時間で終わっちゃうんですよ。かつ話がほぼ始まっていない印象で終わるのです。ヴォルフガングはアロイジアにフラれました、マル、くらいしかストーリー的な内容がない。いかにもバランスが悪いです。コンスタンツェと再会して結婚!までやっちゃった方がいいのでは? と思いました。
そしてこのアロイジアがなかなかいいキャラクターで、物語的にヴォルフガングが先に出会うのはちゃんとコンスタンツェにされているのですが、そのあと姉妹の両親の打算もあってヴォルフガングに勧められるのは歌姫としての出世を目指して売り出し中のアロイジアであり、彼女もそれを目指して彼を誘惑し売名に利用しようとする、なんなら悪女なのかもしれませんが逆に言えば主体性のある、すごくいい女性キャラクターとして描かれているのです。そしてヴォルフガングは彼女の色香にコロッと騙された部分も確かにあるんだけれど、一番は彼女の音楽的才能、歌唱の力量に惚れたんだと思うんですよね。そういう描写、演出になっていました。
だからそんな恋に破れて、そのあとコンスタンツェと再会したときに、そこは魂の双子みたいな、やんちゃさとか自由を求める気質みたいなところが合致して、かつコンスタンツェの方はけっこう最初からヴォルフガングLOVEだったので、っていうんでまとまるのはいいんだけれど(めっちゃいい仕事してる桃堂くんの後見人とはるこママの思惑による契約書をコンスタンツェが破いて、でもヴォルフガングが改めてプロポーズする、という流れはエモくてとても良い)、それでヴォルフガングはよくてもコンスタンツェには実はけっこう屈託があったのだ…とすれば、もっと盛り上がるドラマが描けたのではないかなあ。
このコンスタンツェは「ダンスはやめられない」とは歌わないのだけれど、姉アロイジアほどの音楽的才能はなく夫のミューズにもなれない、というコンプレックスと、それでも誰よりヴォルフガングを理解しているし悩み苦しむ彼のそばから離れない、という自負があったはずなんですよね。そこをもっと描いてほしかったし、だからこそ逆に夜遊びシーンみたいなのは必要だったんじゃないのかなあ? 世間では悪妻と言われている、けれどヴォルフガング自身は「僕にはちょうどよかった」と言う、っていうのがいいんじゃん。それがあってこその、最期の最後までヴォルフガングに付き添う彼女だし、サリエリの見舞いをつっぱねたりまたそのあとヴォルガングのそばに飛んでいって最期を看取ったり…ってのが生きてくるワケじゃないですか。それがあってこそのラストのネチネチふたりいちゃいちゃタイムなはずじゃないですか。新トップコンビおめでとう!になるはずなんじゃないですか。
今、それがないからせっかくのラストが冗長に感じます。というかコンスタンツェがただヴォルフガングにまとわりついているだけの女になってしまっています。でもそれじゃダメでしょ!? コンスタンツェを単なる悪妻として描かないのではなく、悪妻だったかもしれないけれどそれ以上に魅力的な人物だったのでありヴォルフガングとは似合いの一対だったのだ、としないとダメでしょ? だってせっかくのこっとんプレお披露目なんだから!!!
このコンスタンツェはアロイジアと対峙されるのではなくむしろサリエリと対峙されるくらいでもよかったのかもしれません。ヴォルフガングの天才ぶりを重く感じ、彼を愛し同時に妬み憎む、という意味では表裏一体のようだったふたり…としてもおもしろかったのでは?
コンスタンツェとアロイジアののちの和解?も、シスターフッドとして喜ばしく見ていいのか、あいかわらずの嘘の吐き合い化かし合いと薄ら寒く感じればいいのか、中途半端で残念でした。
そしてサリエリも、嫉妬と出世競争に疲れ、それでもついに勝った!となったときにふと口ずさむのが例えば「きらきら星」、とかさ、そういう何か具体的なエピソードが欲しかったと思うのですよ。で、ただ「勝利ですよ、良かったじゃないですか!」とか騒ぐローゼンベルクとの差、とかを描かないと、彼が後世に残らないまでもまがりなりにも芸術家だったからこそモーツァルトを憎み嫉み邪魔もし迫害もしたけれど、その喪失感に悩むし病魔に侵されていると聞けば動揺し後悔する…って流れが効いてくるはずで、もっと感動的に描けたはずなんですよ。そのあたりが全然甘かったし、今の時間配分だとそんなところまで二幕に突っ込めないから、とにかく全体のバランスが悪いしキャラクターとドラマとストーリーの不整合が美しくなくて、もったいない!と思ってしまったのです。
せっかくのパンチある楽曲もただ並べただけではやはりただそれだけで、それを支える芝居が、キャラクターの感情とドラマがないと、盛り上がらないんだと思うのですよ…
こっちゃんにしても、首席だったしなんでもできる人だけれど、単なる天才じゃなくて努力もしてるはずだし悩んだり壁にぶち当たったりもしてきたはずで、そういうあたりもヴォルフガングの生き様とうまく重ねられるとなお感動的だったんだろうけれど、そこまでは望みすぎかなとも思うので、せめてコンスタンツェとサリエリはもうちょっとていねいに描いてあげてほしかったです。今はアロイジアがいいだけに、かえって全体のバランスが悪いようで、本当に残念なのです…
フィナーレの振り付けが今ひとつだったな、とかモーツァルトの編曲も今ひとつだったな、とかには目をつぶってもいい、というか少なくとも後回しにしてもいいです。でも本編のこのもったいなさは、原作側がガチガチに縛っていっさいの改変を認めん!みたいな態度ではなかったろうと思われるだけに、ならもっとやりようあったろう! と歯痒くて悔しかったのです。仕事してダーイシ!(><)
役者たちはこの先どんどん進化して、緩急もつけてくることでしょう。でもそれだけでは埋まらないものってやはりあるので…せっかくのお披露目、せっかく改変が許諾された外部作品なら、もうひと練りしてほしかった、という話です。
装置がお洒落で、見どころもたくさんで、組子はみんながんばっていて楽しそうで、新生星組の前途がキラキラして見えただけに、手放しで大傑作!と言えないのが残念だったのでした。
でもこっとんは本当に相性がよさそうで、フルメンバーになるのが今から楽しみです。
ありがたくも池袋でも一度だけ観られる予定なので、深化を楽しみにしています。あと、新しい劇場も楽しみ!
年内、まだまだ楽しい発見や出会いがあるといいなあ…大事に味わっていきたいです。