駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『麗しのサブリナ/EXCITER!!』

2010年10月28日 | 観劇記/タイトルあ行
 東京宝塚劇場、2010年9月28日マチネ、10月1日マチネ、5日ソワレ、10日ソワレ。

 1950年代、ニューヨーク郊外の高級住宅地ロングアイランド。大富豪のララビー家にはふたりの息子がいた。長男のライナス(真飛聖)は仕事一筋の真面目人間、次男のデイヴィッド(壮一帆)は対照的なプレイボーイ。ララビー家のお抱え運転手の娘サブリナ(蘭乃はな)は幼い頃からデイヴィッドに憧れていたが、彼はサブリナに見向きもしない。サブリナの父は身分違いの恋をあきらめさせるため、娘をパリに留学させるが…
 原作/サミュエル・テイラー、脚本・演出/中村暁、翻訳/清水俊二、作曲・編曲/西村耕次、鞍富真一。1954年にビリー・ワイルダー監督、ハンフリー・ボガード&オードリー・ヘップバーン主演で映画化したロマンティック・コメディをミュージカル化。

 結局映画を観ていないのですが…というか、大昔に観たことがあるかとは思いますが、きれいさっぱり忘れているので、比較ができないのですが…
 ザッツ少女まんがというか、ザッツ・シンデレラストーリーというか、で、役が少ないこと以外はとても宝塚向きの作品…という前評判どおりではありました。

 ただ…
 少女まんがとかロマンス映画というものはたいていヒロイン視点で話が進むので、男役トップスター重視の宝塚歌劇に仕立てるには、実はけっこう技がいります。
 今回も、特に前半のライナスの出番の作り方には苦労している感じかありありとしました。
 サブリナの自殺未遂エピソード前にも、もうちょっとうまくキャラ立てすることはできると思うけれどなー。パーティーでの歌も銀橋の歌もちょっと唐突で、何を表現したいのかよくわからなかった…
 
 というか今回、楽曲があまり良くなかったと思います。印象的でドラマティックなメロディライン…なんて全然聴けなかった気がする。
 パリの料理学校であるとか使用人たちのナンバーであるとか、せっかくのミュージカルらしいショーアップシーンが、なんかスカスカしていて、観ていてあまり楽しくなかったんですよね…
 パーティーやクラブのシーンは、人海戦術も効いていてまあまあだったかとは思うのですが…
 まあこれは主に初見の感想で、二度目以降は慣れもあってまあまあ楽しんでしまったんですけれどね。

 ライナス、サブリナ、デイヴィッド、そのキャラクターと三角関係のあり方は本当にベタで好み。だからこそ、もっと素敵にやってほしかった。台詞もなんかスカスカしていてなあ…なんかあまり脚本家の愛情を感じなかったんですけれど…

 まず、ライナスが株価のことしか頭にないビジネスマン、というのは歌もあって表現できていたと思うのですが、サブリナからはとっつきにくい人と思われていたこと、ぶっちゃけ冷たくて怖い人だと思われていたこと、というのはもっと出しておいた方がいいんじゃないかなあ。
 まとぶんはとてもいい感じの、中年に片足つっこんだくらいのマイルドな紳士っぷりを演じてくれていましたが、やはり人柄が出てしまってクールなキャラにはあまり見えない。
 でもここを強調しておかないと、あとでサブリナが、ライナスって意外と親切で優しい人なんだわと知るところとか、彼にもつらく悲しい恋の思い出があったんだわと知るところとかが効いてこないわけですよ。この二面性、深み、複雑さが彼の特徴なんですから。

 逆に、
「僕はドン・ファンなんかじゃな~いっ」
 とそれはそれは楽しそうに歌うデイヴィッドは、根っから葉先まで明るく楽しい気のいいプレイボーイ、でいいわけです。
 難しいことは兄貴に任せて、悪友たちとガールフレンドと日々楽しく遊び回っていて、短い結婚生活を三度送っているけれど、それは彼にとって特になんでもないことで…という極楽とんぼ。
 もちろん彼は彼なりに、サブリナとはある程度真剣な恋をして、だけど彼女の自分へのキスに愛情がないことを知って、兄を殴り、兄に譲り、そういう愛を知りました。だから少しは心を入れ替えて、少しはまともになって、おそらくはエリザベス(天咲千華)にちゃんと謝って彼女ときちんと結婚して、ちょっとは仕事も手伝うようになって、今度こそ幸せな家庭を作って安泰な結婚生活を送るようになるのでしょう。
 でもそれは別の話。
 これは、基本的には、ライナスとサブリナの恋物語なのだから、特にライナスのキャラクターはもっともっと描き込まれなければならないと思うのですよ。

 対してサブリナは、これはもう、今回がトップ娘役就任お披露目のランちゃんのキャラそのまんまで、それでいいのです。観客の女性が感情移入しやすい、普通の、可愛らしい女の子、で十分なのですから。
 えりたんが「ぺらっぺら」と評したほどほっそい体はスタイル抜群、サブリナパンツ姿の折れそうなこと!
 パリから帰ってきて、ショートヘアになってからはホントに洗練されて、でもおきゃんなところはそのままで、本当に可愛らしいヒロインでした。
 白いドレスは本当に美しかった…!

 ただ…おそらくは原典は『会議は踊る』かな?王子とウエイトレスの恋物語に関して…
 私だったらサブリナに、
「心あるウエイトレスなら、買収には応じないわ」
 だけでなく、
「王子のために身を引くわ」
 と言わせたなー。
 アメリカはヨーロッパとはまた階級意識がちがくて、ララビー家の人々はフェアチャイルドのことは使用人なんだから下に見ているわけですが、サブリナのことはきちんと「使用人の娘」として見ていて、「使用人扱い」はしていない。けれどもちろん自分たちとは違う範疇の人間だとは思っているわけです。
 その微妙さからすると、正しくは「身分違い」とは言い切れないのかもしれない(事実このあとライナスとサブリナは結婚するのだろうし)。
 だけど奥ゆかしい日本人からすると、やはり
「身を引くわ」
 と申し出るヒロインをこそ素敵と思ってしまい、
「月の方が手を差し伸べてきたんだもん」
 と開き直ってしまうアメリカ娘は小面憎く見えると思うのですよ…
 私なら
「自分から身を引く」
 と言わせる。事実、彼女はそのあとひとりで船に乗ったのですから。
 だからこそ、それを画策したライナスが追っかけたところが、響くんですから…

 …と思ったのも初見の感想。
 実は二度目の観劇がSS席三列目どセンターで(ちなみに一列目どセンターで三代前のトップ・タモがご観劇。ショーの手拍子はノリノリでした(^^))、表情までとてもよく見えて、芝居の印象がけっこう変わったんですよね…
 ライナスは、サブリナが、
「心あるウエイトレスなら、買収には応じないわ」
 と言ってのけたその表情にこそ、惚れたのかもしれない、と思ったのです。
 そのとき恋に落ちた、というのは言い過ぎだとは思うけれど、少なくとも、その真剣さに打たれ、心動かされた。
 だからこその
「彼女は愛を欲しがっている、お金じゃない」
 なんでしょう。
 彼女の真剣さ、熱意に打たれて、だからこそデイヴィッドと踊れないでしょんぼりしているサブリナがいじらしくて、弟の代わりに踊ってやり、頼まれてもいないキスを運んだのでしょう。
 ちなみにこの、キスを運ぶというか、誰かの代わりにキスをする、キスを届ける、というのは欧米文化にはよくあるんですかね。少なくとも映画や小説でいくつか見たことはあるので、そう珍しいことではないし、ライナスとしても、デイヴィッドからそこまで頼まれていないにしても、あくまでデイヴィッドがいればやっていたであろうことでもあるし、サブリナのいじらしさに応えてあげたくて
「デイヴィッドからのキスだ」
 と言ってただキスをしたのでしょう。
 しかしサブリナは揺れてしまった。おそらくは家族以外からされる初めてのキスだったのだろうし…「デイヴィッドから」と言われたって現実にキスしたのはライナスなんだし…
 サブリナは動揺し、ライナスもそれを見てややあわてたような、悪いことをしちゃったな、というような心の動きが感じられました。
 それが、恋の始まりというものだったのかもしれません。

 クラブ・プルチネラのシーンは本当に可愛くて、デイヴィッドの勧めで今はやりの場所に来たものの、おっさんライナスは今時の踊りなんて気恥ずかしくてできなくて、バーディーたちに誘われてもなかなか立てない。
 でもサブリナが踊りたそうにしているのを見て、仕方ないなと席を立ち、エスコートして…
 そこからは、アップテンポの曲に若者らしくノリノリになるサブリナがライナスをリードしていって、そこからふたりしてヒートアップしていって…
 ランちゃんの若さスパークリングな感じがサブリナの若い輝きと渾然一体になっていて、それを受けるまとぶんの大きさがまた出ていて、本当に素敵で心躍るシーンでした。

 そのあとの「あの子は素敵じゃなかった」ソングについて。
 今の恋人と過去の恋人を比べて論じるような下品な真似を宝塚歌劇の主人公にさせるべきではない、という意見も聞いたのですが…私はわりと引っかからずに、自然に聴けましたね。
 「あの子はきみほど素敵じゃなかったけれど、僕はそれでよかった」
 と素直に歌うライナスには本当に素直に好感が持てました。そう、恋って、美形だからとか、ゴージャスだからとか、そういうことで生まれるものじゃないですからね。でも、ライナスのかつての恋人は、たとえ地味でも質素でも素朴でも、きっととても素敵な人だったのでしょう。悲しい結果に終わったとしても、それは素敵な恋だったのでしょう。
 それを懐かしく恥じらいつつ歌うライナスは素敵で、温かい人柄を思わせる。だからサブリナも微笑んだのだろうし、ビジネスだけのクールな人じゃないんだわ、とわかるのです。
 そして、そこまで表現していたとは思えないけれど、もしかしたら、パリ帰りの素敵な外見だけでちやほやされている我が身を少しは振り返ったかもしれません。今の自分はライナスのかつての恋人よりずっと素敵かもしれないけれど、ライナスは彼女の方が好きなんだわ、という寂しさ…まで感じていたら、それはもう立派な恋です。
 それはライナスも同じで、過去の恋について歌っていたのがいつの間にか、想いは目の前のサブリナに帰ってきます。
「それでよかった、けれど今は…」
 そしてサブリナの方に一歩歩み寄りかける。サブリナは距離を保とうとして、あわてて今夜のお礼なんかを口にする。それでライナスも適切な距離をとることを思い出して、一歩下がって、彼女を送って、去る…
 ライナスとの間に一線を引いたのはサブリナだったけれど、でもそのままあっさり終わると肩すかしのような寂しいような…となってサブリナの銀橋モノローグ、なんだろうから、あのあたり、もっと気を使ってほしかったなー。なんか台詞が物足りなかったです。

 サブリナが公衆電話でライナスに断りを入れるシーン、それを受話器を置いたままにして迎えに行くライナス…素敵です。
 そのあとの社長室のシーンはもちろん白眉。
 パリ行きのチケットを見て喜ぶサブリナと、真実を告げざるをえないライナスと…

 そして、
「僕は頭が悪い」「株のことはわからないけれどキスならわかる」
 というデイヴィッド。もちろん
「抜糸した!新品同様だ!!」
 の明るさもたまりませんが、ちゃんと色恋というか人の情がわかる、ちゃんとした人間なのですよ彼は。そして男として兄に出し抜かれたこともわかっている。だからこそのパンチ。そしておそらくは悪友どもに頼んでの、兄を船に送り出すための作戦…
 タグボートを漕いだのはきっとバーディーたちなのでしょう。
 ライナスの完璧な秘書であるウィリス(未涼亜希)たちも、自分たちが恋の喜びを知った後だったからこそ、ライナスの旅立ちを支持しました。会社のことより、プライベートの幸せを応援したのです。
 なんてハッピーな物語でしょう!
 にやにやにんまりして観終われるって、やっぱり素敵なことですね!

 というわけでウィリスのまっつはもちろんすばらしく、長らく名コンビを組んできたイチカのマカードル(桜一花)との息もぴったり。そして雪組に行ったら本当に重宝されると思うしバンバン場をさらってほしいと思います!

 これで卒業の絵莉千晶は途中エトワールが代役になるくらい喉をつらくしていましたが、千秋楽は無事歌ったとのこと、よかったよかった。
 ほかに印象的だったのはパーティーの歌手の扇めぐむの歌がとてもよかったこと、使用人ではやはりまよといまっちが目立つこと、悪友たちではだいもんの顔が好きで目がすぐいくけど、苦手に思っていたまーくんも今回よく見えたなあ、ということねかな。
 あまちゃきのコメディエンヌっぷりもよかったです。

 スパークリング・ショー『EXCITER!!』は作・演出/藤井大介。
 近年出色の、派手で色っぽくてかっこいい、大好きなショーになりました。
 第6場、エキサイトドールSが黒いダルマのバードたちとともに銀橋に出て歌うときの、ランちゃんの意外な強さ! 暗転直前のばっちりウィンク!!
 第11場、チェンジボックスでMr.YUがEXCITERに変身するのは、誰を連れていっても鉄板でウケました。
 そしてそのあとのクラブのシーンのきらりにもうメロメロ!
 笑っているような目の娘役が好きで前から注目してはいましたが、今回の笑顔がもうホントにキュートで小悪魔的で! そしてダンスの振りがじゅりあと見比べてもやっぱり好き!! かーわーいーいー!!!
 さらにハバナの場面でのランちゃんのビッチっぷり。すばらしい。
 男も女も色っぽく強く美しく、大変けっこうでございました!!

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歌野晶午『舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵』(光文社文庫)

2010年10月26日 | 乱読記/書名ま行
 浜倉中央署の刑事・舞田才歳三には、ゲームとダンスが好きな11歳の姪、ひとみがいた。行き詰まった事件の謎を、彼女の何気ない言葉が解決へと導く、傑作推理連作集。

 第10回本格ミステリ大賞受賞!の帯がかかっていましたが…
 別に賞がすべてではないですが…
 というか、賞って、賞が受賞作に名誉を与えるんじゃなくて、受賞作が賞に名誉を与えるんですよね。
 こんな素晴らしい作品が受賞するんだから、それだけのすごい賞なんだ、というか。
 こんな素晴らしい作品に目を着けるなんて、さすがちゃんとした賞だ、というか。
 それから言うと…この受賞作でいいの?と私は思いました。

 これって本格推理かなあ?
 まあアイディア先行でキャラクター軽視、という部分は本格推理の悪い部分に通じるかもしれない。
 でも悪い部分にだけ通じてどうするよ…
 帯には「11歳小学生の姪と34歳刑事の叔父の名コンビ誕生!!」とうたわれていますが、せっかくのこの関係性がいかされていないし。
 ひとみの出生の秘密にはせっかくのドラマがあるのに、中途半端に放り出されたままだし。
 主人公、兄、兄嫁、姉とキャラクターはまあまあ揃っているのに、人間関係に変化がないままでもったいないし。

 連作短編集って、一話完結でも少しずつ動いていたり変化したりしている部分があって、そこを楽しんでいって、ラストにはやっぱりシメとかオチがあるべきだと思うんですけど…?

 別に実際にひとみが探偵家業をすることを期待していたわけではありませんが、それにしても、せっかくの設定とタイトルが泣く作品で、それが何かの賞の受賞作となると、その賞、大丈夫?とか思えてしまって…

 そんなことを考えさせられてしまった作品だったのでした。残念。
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『エリザベート』

2010年10月17日 | 観劇記/タイトルあ行
 帝国劇場、2010年9月21日ソワレ、10月15日マチネ。

 1898年9月10日、オーストリア皇后エリザベート(瀬奈じゅん)がルイジ・ルキーニ(高嶋政宏)という男に刺殺された。それから11年後、彼は独房内で自殺した。だが彼の魂は解放されなかった。「何故エリザベートを殺したのか?」という闇からの問いかけは続く。暗闇の中で、ルキーニはエリザベートの物語を語り始める…
 脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ、音楽/シルヴェスター・リーヴァイ、演出・訳詞/小池修一郎。1992年オーストリア初演、96年宝塚歌劇団にて日本初演、2000年版東宝版初演。エリザベートとトートを中心に、キャストの入れ替えがあった2010年版。

 開幕前は石丸さんの前評判が高かったわけですが、蓋を開けてみると城田トートに絶賛の嵐…
 とにかく長身なので、宝塚の男役トップスター出身のエリザベートが小さく見えていい、とか、声が甘くて妖しくてセクシーだ、とか、とにかく色っぽくて尊大そうで超越している感じがいい、とか…
 ツイッターでも評判は聞いていて、話半分に聞きつつ期待していたのですが…

 確かに、声はいい。歌は音程がしっかりしていてとても聞かせる。
 甘く、妖しく、色っぽい。
 背が高くて見栄えはするし、尊大で人間のことなんかなんとも思っていなさそうな「死」そのもの。
 …でも、感心しなかったんだよなあ。

 だってこのトート、エリザベートに恋していますかね?
 私が、よりロマンティックで夢々しい宝塚版の方がやっぱり好きだから、こう思ってしまうだけなのでしょうか?
 たとえば私はフランツがエリザベートの私室を訪ねてから、トートが出てきてエリザベートに
「出て行って!」
 と言われるまでのくだりが大好きなのですが、ここの解釈がとにかくちがくて…
 エリザベートに拒まれても、平然とデスクにふんぞり返って座るトートじゃ私は嫌なんだ…
 ドクトル・ゼーブルガーになって現れるところもそう。エリザベートに拒まれても、なんら痛痒を感じず寝椅子にふんぞり返る…
 そのエラそうな寝姿がいい、という声も聞くのですが…でも、でも。
 
 フランツのヘタレな優男っぷりも現実の男優さんだとなー、というのもあるのですが、エリザベートに拒否されてもトートが全然平然としているのがとにかくイヤ。
 トートの心が動いていないのなら、傷ついていないのなら、揺さぶられていないのなら、それは恋ではない。
 単に気まぐれでエリザベートから命を奪うのを待ってやっているだけで、エリザベートを愛しているから、彼女に愛されたいと思っているから待ってあげているのではない。
 演出として、それでいいの?

 また、私がなんだかんだ言ってアサコが好きすぎるから、なのかもしれませんが…

 アサコのエリザベートはとてもすこやかでまっすぐでひたむきで、花組からの特出でエリザベートを演じたときにもとても好感を持ちましたけれど、その性格は変わっていないのですね。
 とても明るくて健康的で人間的。
 これは、死に片足を突っ込んだような、浮世離れした、現実と向き合うことの少なかった美しく幽玄な美女エリザベート…という演出としてはまちがった役作りなのかもしれません。
 けれどこのミュージカルが現代で上演されて意味を持つためには、ヒロイン像は現代の理想に即したものになるべきで、こういう健康的で健全なキャラクター像というのもありだと思うのですね。
 だからこそ、それにあわせてトートは、紳士的で草食男子的な、月組でアサコが演じたときのようなトートになるものだと思うのですよ。
 エリザベートを愛して、彼女に愛されたくて、だから常にそばに寄り添い、手を差し伸べ、彼女がふりむいてくれるのをずっとずっと待っている…

 これって解釈として甘いのかな?
 でも城田トートはあまりにもマッチョで肉食的で、その気になったらいつでもエリザベートを殺せてしまうし、そうしたとしてもなんの心の痛みも感じなさそうな存在に見えました。
 しかも、無慈悲な死の象徴になりきっているかといえばそうでもなくて、色気と生気はあるわけだから、要するに古い時代の男、女が何を望んでいるのかなんて考えたこともない身勝手で尊大な男、のように見えてしまうのです、私には。
 しかも力はある。最悪です。

 そして東宝版は宝塚版よりトートの出番が少なくエリザベートの出番が多く、エリザベートはトートとの恋よりも現実との戦いに多くの時間を割いているように見えて、ここでも愛と死のロンドと言われるほどの恋心は見えてこない。
 最後にエリザベートがルキーニに刺されたのもたまたまであって、トートを迎え入れたわけではない。
 もちろんふたりして白いお衣装になって抱き合って昇天していくような宝塚版のようなフィナーレがないから、ということもあるけれど、いったいこれは何を描いたドラマなのか、とてもわからない、見えない、と私は思いました。

 いやしかし城田くんはいいですよ。
 宝塚版ではハンガリー戴冠のシーンではトートは王冠を授ける神官に化けていますが、東宝版ではバレードの馬車の御者になっており、黒天使ならぬトートダンサーにビシバシ鞭を振るっているのですが、まあなんと似合うこと。
 しかしマッチョだ。少年ルドルフに対しても恐ろしい誘拐犯にしか見えなかったり、青年ルドルフに対しても誘惑なんかしてなくて、力任せにただ暴走させて命奪う非道っぷり。
 うーむ、怖い…


 というのが、初見の感想。
 最初はかなり前方ながらかなり下手寄りで観て、そのショックも大きかったのかもしれません。
 二度目の観劇は後方ながらもほぼセンターで、舞台全体がすっきりとよく見えて、おちついて観られました。
 それに、城田くんが少し調子を落としていたのか、かなり抑え目に歌っているようで、それもおちついていて好感が持てました。
 つまり、私が苦手に思った肉食感、ガツガツ感が少なかった(^^;)。
 それでまた、印象が変わりました。

 あいかわらずトートはエリザベートを愛しているようには見えないし、それで言うとエリザベートもトートを愛しているようには見えない。
 ルキーニに刺されて命を落とし、トートに迎え入れられてからも、エリザベートは
「私が命ゆだねる、それは私だけに」
 と歌うのです。トートへの愛を歌うわけではない。
 つまりこれはエリザベートとトートの愛の物語ではなく、とあるひとりの人間の女性ととあるひとりの死神の戦いの物語で、そこには愛というよりはむしろ戦いという名の平行線があったのだ…という物語なのかもしれません。
 そう考えると、トートとエリザベートの関係を男女の愛と同じ文脈でくくろうとする宝塚版の方が曲解しすぎなのかもしれません。
 そもそも死とはこういうものなのかもしれません。
 この方が、ウィーンオリジナル版に近いのかもしれません。
 確かに本場ヨーロッパには、ナンパなロマンティシズムなんか割り込む隙がない気がする…

 それで言うとやっぱり私は実は『エリザベート』という作品自体がどうもよくわからないというか、納得できたためしがないというか、自然に感動できたことがないというか…なんですよね。
 好きな演目か、と問われると頷きづらいですし。

 ううーむ、正解はどこにあるのだろう…
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『Pal Joey』

2010年10月12日 | 観劇記/タイトルは行
 青山劇場、2010年10月4日ソワレ。

 流れ者のクラブシンガー、ジョーイ・エヴァンス(坂本昌行)はもいつか自分の店を持ち、自分にしかできない夢のショーを作る野望を抱いている。シカゴのチープなナイトクラブでMCの職を得るが、クラブの看板シンガーはジョーイのかつての恋人グラディス・バンプス(彩吹真央)だった。ある晩ジョーイは田舎から出てきたリンダ・イングリッシュ(桜乃彩音)と街のコーヒー・ショップで出会う。さらに、気まぐれで店を訪れた大富豪夫人ヴェラ・シンプソン(高畑淳子)にも甘く迫る。愛すべき相棒「パル」と呼ばれたジョーイの行く先は…
 原作・脚本/ジョン・オハラ、作曲/リチャード・ロジャース、作詞/ローレンツ・ハート、翻訳・訳詞・演出/吉川徹、振付/リチャード・ピークマン。1940年ブロードウェイ初演、2008年にリチャード・グリーンバーグが新脚色。映画版はフランク・シナトラ主演の『夜の豹』。1989年に『魅せられてヴェラ』というタイトルで日本初演。1991年に宝塚歌劇団で『パル・ジョーイ』として公演。

 ユミコとアヤネの宝塚退団後の初舞台、というので観に行きました。
 私が観た日はちょうど東京公演中だった花組の休演日で、まとぶん、えりたん他たくさんの生徒が観劇していました。
 グラディスが客席登場の「Zip」で、
「あら、ここ、イケメン揃いね」
 なんてかまっていました(^^)。

 三人の女たちは均等の魅力を放つのが理想だと思うので、それでいうとリンダは、まあどうしても地味なポジションになりがちなんだけれど、もう少しだけがんばってもよかったかな。こういう女のしたたかさって実はけっこう本質的なんだけれど、舞台を作るような男性には一番ピンとこないものなのかもしれませんね。
 でもアヤネはニンにあってたし、天然ボケっぽいところはきちんと笑いが取れていたし、よかったと思います。男性アンサンブルにがんがんリフトされているのを見て、まとぶんは何を思ったのかしらん…もちろん自分の方はもう新しい嫁を迎えているわけですが(^^;)。

 ヒロインポジションはどちらかというとグラディスなのかな。
 でも宝塚の『パル・ジョーイ』もシギさんがヴェラを演じていたようなので、こちらを重く扱う演出も確かにありえたのでしょうね。

 三人の女たちはみんながそれぞれにジョーイに恋して、けれど誰もジョーイを捕らえきれず、逆にいえばそれぞれみんなジョーイを見限って、より強く、しなやかに、美しく、賢くなっていく。
 それは女の正しい生き方です。
 逆に言うとジョーイは男そのもの。お馬鹿な男そのものです。
 いつも、いつまでも、ここではないどこか、今の自分ではない自分を捜し求めて、追って追って、ふらふらと歩いている。
 そんなものはどこにもないのに。自分は自分でしかないのに。おそらくそのことに彼は一生気づかない…

 これはそんな男の愚かさと、賢く美しくなっていく女たちとの不毛な一瞬の行きずりを描いた、とてもせつなくほろ苦い、ドライな物語なのだと思います。

 だからこそ、ジョーイにはもう一押し、
「ダメな男だってわかっているけど、惚れちゃうんだよねえ」
 というようなチャームが、欲しかった。
 坂本くんはとても達者で歌もダンスも過不足なかったと思うけれど、その、「味」が、「魅力」が、足りなかったかなあ。
 こういう、ホントに男ってこうだよねえ、というキャラクターをこそ、宝塚の男役が演じると効果があったりするもんなんですけれどねえ。宝塚版はどんな感じだったんだろう…観てみたいものです。

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劇団四季『赤毛のアン』

2010年10月09日 | 観劇記/タイトルあ行
 自由劇場、2010年9月30日マチネ。

 19世紀と20世紀の境い目、カナダ、プリンス・エドワード島の村アヴォンリー。内気で普段はめったに家を離れないマシュー・カスバート(日下武史)が馬車で出かけるのを見て、レイチェル・リンド夫人(中野今日子)たちは大騒ぎ。しかしマシューの妹マリラ(木村不時子)から、畑仕事を手伝う男の子を孤児院から引き取るのだと聞いて、みんなの疑問は解決します。しかし、ブライト・リバーの駅で人待ち顔にしていたのは、赤毛でそばかすの少女アン・シャーリー(この日は笠松はる)だったのです…
 原作/L・M・モンゴメリー、音楽/ノーマン・キャンベル、台本/ドナルド・ハーロン、歌詞/ドナルド・ハーロン、ノーマン・キャンベル、翻訳/吉田美枝、梶賀千鶴子、訳詞/岩谷時子、演出/浅利慶太、振付/山田卓。全2幕。

 もちろん私はテレビアニメの大ファンで、原作小説も愛読し、最近テレビアニメの冒頭部分を再編集した劇場版アニメも観ました。そのイメージはやはり大きい。
 このところ宝塚づきすぎていたので、やたらとゆっくりで明晰な四季特有の台詞回しがわざとらしく感じられたし、とにかくスタイルのいい美男美女というものがいないので(ダイアナの山西里奈よりブリシーの桜小雪が美人でした。あとダイアナのママ、横山幸江。ギルバートはこの日は斎藤准一郎でしたが、うーん…)目が淋しく感じたりしました…
 しかしなんと言ってもマシューとマリラがすばらしいので、泣かされて、満足だったんですけれどね。

 でも、マシューがアンをグリーン・ゲイブルズまで連れ帰る道中は、もうちょっと長くてもよかったんじゃないかなあ。いい歌も欲しかった。ここのおしゃべりの楽しさが、あのマシューをしてマリラに逆らわせ、男の子ではなく女の子を、このアンを、うちに置こうと思うにいたるのですから…

 新訳版の小説は未読です。手にしてみたくなりました。
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