東京宝塚劇場、2010年9月28日マチネ、10月1日マチネ、5日ソワレ、10日ソワレ。
1950年代、ニューヨーク郊外の高級住宅地ロングアイランド。大富豪のララビー家にはふたりの息子がいた。長男のライナス(真飛聖)は仕事一筋の真面目人間、次男のデイヴィッド(壮一帆)は対照的なプレイボーイ。ララビー家のお抱え運転手の娘サブリナ(蘭乃はな)は幼い頃からデイヴィッドに憧れていたが、彼はサブリナに見向きもしない。サブリナの父は身分違いの恋をあきらめさせるため、娘をパリに留学させるが…
原作/サミュエル・テイラー、脚本・演出/中村暁、翻訳/清水俊二、作曲・編曲/西村耕次、鞍富真一。1954年にビリー・ワイルダー監督、ハンフリー・ボガード&オードリー・ヘップバーン主演で映画化したロマンティック・コメディをミュージカル化。
結局映画を観ていないのですが…というか、大昔に観たことがあるかとは思いますが、きれいさっぱり忘れているので、比較ができないのですが…
ザッツ少女まんがというか、ザッツ・シンデレラストーリーというか、で、役が少ないこと以外はとても宝塚向きの作品…という前評判どおりではありました。
ただ…
少女まんがとかロマンス映画というものはたいていヒロイン視点で話が進むので、男役トップスター重視の宝塚歌劇に仕立てるには、実はけっこう技がいります。
今回も、特に前半のライナスの出番の作り方には苦労している感じかありありとしました。
サブリナの自殺未遂エピソード前にも、もうちょっとうまくキャラ立てすることはできると思うけれどなー。パーティーでの歌も銀橋の歌もちょっと唐突で、何を表現したいのかよくわからなかった…
というか今回、楽曲があまり良くなかったと思います。印象的でドラマティックなメロディライン…なんて全然聴けなかった気がする。
パリの料理学校であるとか使用人たちのナンバーであるとか、せっかくのミュージカルらしいショーアップシーンが、なんかスカスカしていて、観ていてあまり楽しくなかったんですよね…
パーティーやクラブのシーンは、人海戦術も効いていてまあまあだったかとは思うのですが…
まあこれは主に初見の感想で、二度目以降は慣れもあってまあまあ楽しんでしまったんですけれどね。
ライナス、サブリナ、デイヴィッド、そのキャラクターと三角関係のあり方は本当にベタで好み。だからこそ、もっと素敵にやってほしかった。台詞もなんかスカスカしていてなあ…なんかあまり脚本家の愛情を感じなかったんですけれど…
まず、ライナスが株価のことしか頭にないビジネスマン、というのは歌もあって表現できていたと思うのですが、サブリナからはとっつきにくい人と思われていたこと、ぶっちゃけ冷たくて怖い人だと思われていたこと、というのはもっと出しておいた方がいいんじゃないかなあ。
まとぶんはとてもいい感じの、中年に片足つっこんだくらいのマイルドな紳士っぷりを演じてくれていましたが、やはり人柄が出てしまってクールなキャラにはあまり見えない。
でもここを強調しておかないと、あとでサブリナが、ライナスって意外と親切で優しい人なんだわと知るところとか、彼にもつらく悲しい恋の思い出があったんだわと知るところとかが効いてこないわけですよ。この二面性、深み、複雑さが彼の特徴なんですから。
逆に、
「僕はドン・ファンなんかじゃな~いっ」
とそれはそれは楽しそうに歌うデイヴィッドは、根っから葉先まで明るく楽しい気のいいプレイボーイ、でいいわけです。
難しいことは兄貴に任せて、悪友たちとガールフレンドと日々楽しく遊び回っていて、短い結婚生活を三度送っているけれど、それは彼にとって特になんでもないことで…という極楽とんぼ。
もちろん彼は彼なりに、サブリナとはある程度真剣な恋をして、だけど彼女の自分へのキスに愛情がないことを知って、兄を殴り、兄に譲り、そういう愛を知りました。だから少しは心を入れ替えて、少しはまともになって、おそらくはエリザベス(天咲千華)にちゃんと謝って彼女ときちんと結婚して、ちょっとは仕事も手伝うようになって、今度こそ幸せな家庭を作って安泰な結婚生活を送るようになるのでしょう。
でもそれは別の話。
これは、基本的には、ライナスとサブリナの恋物語なのだから、特にライナスのキャラクターはもっともっと描き込まれなければならないと思うのですよ。
対してサブリナは、これはもう、今回がトップ娘役就任お披露目のランちゃんのキャラそのまんまで、それでいいのです。観客の女性が感情移入しやすい、普通の、可愛らしい女の子、で十分なのですから。
えりたんが「ぺらっぺら」と評したほどほっそい体はスタイル抜群、サブリナパンツ姿の折れそうなこと!
パリから帰ってきて、ショートヘアになってからはホントに洗練されて、でもおきゃんなところはそのままで、本当に可愛らしいヒロインでした。
白いドレスは本当に美しかった…!
ただ…おそらくは原典は『会議は踊る』かな?王子とウエイトレスの恋物語に関して…
私だったらサブリナに、
「心あるウエイトレスなら、買収には応じないわ」
だけでなく、
「王子のために身を引くわ」
と言わせたなー。
アメリカはヨーロッパとはまた階級意識がちがくて、ララビー家の人々はフェアチャイルドのことは使用人なんだから下に見ているわけですが、サブリナのことはきちんと「使用人の娘」として見ていて、「使用人扱い」はしていない。けれどもちろん自分たちとは違う範疇の人間だとは思っているわけです。
その微妙さからすると、正しくは「身分違い」とは言い切れないのかもしれない(事実このあとライナスとサブリナは結婚するのだろうし)。
だけど奥ゆかしい日本人からすると、やはり
「身を引くわ」
と申し出るヒロインをこそ素敵と思ってしまい、
「月の方が手を差し伸べてきたんだもん」
と開き直ってしまうアメリカ娘は小面憎く見えると思うのですよ…
私なら
「自分から身を引く」
と言わせる。事実、彼女はそのあとひとりで船に乗ったのですから。
だからこそ、それを画策したライナスが追っかけたところが、響くんですから…
…と思ったのも初見の感想。
実は二度目の観劇がSS席三列目どセンターで(ちなみに一列目どセンターで三代前のトップ・タモがご観劇。ショーの手拍子はノリノリでした(^^))、表情までとてもよく見えて、芝居の印象がけっこう変わったんですよね…
ライナスは、サブリナが、
「心あるウエイトレスなら、買収には応じないわ」
と言ってのけたその表情にこそ、惚れたのかもしれない、と思ったのです。
そのとき恋に落ちた、というのは言い過ぎだとは思うけれど、少なくとも、その真剣さに打たれ、心動かされた。
だからこその
「彼女は愛を欲しがっている、お金じゃない」
なんでしょう。
彼女の真剣さ、熱意に打たれて、だからこそデイヴィッドと踊れないでしょんぼりしているサブリナがいじらしくて、弟の代わりに踊ってやり、頼まれてもいないキスを運んだのでしょう。
ちなみにこの、キスを運ぶというか、誰かの代わりにキスをする、キスを届ける、というのは欧米文化にはよくあるんですかね。少なくとも映画や小説でいくつか見たことはあるので、そう珍しいことではないし、ライナスとしても、デイヴィッドからそこまで頼まれていないにしても、あくまでデイヴィッドがいればやっていたであろうことでもあるし、サブリナのいじらしさに応えてあげたくて
「デイヴィッドからのキスだ」
と言ってただキスをしたのでしょう。
しかしサブリナは揺れてしまった。おそらくは家族以外からされる初めてのキスだったのだろうし…「デイヴィッドから」と言われたって現実にキスしたのはライナスなんだし…
サブリナは動揺し、ライナスもそれを見てややあわてたような、悪いことをしちゃったな、というような心の動きが感じられました。
それが、恋の始まりというものだったのかもしれません。
クラブ・プルチネラのシーンは本当に可愛くて、デイヴィッドの勧めで今はやりの場所に来たものの、おっさんライナスは今時の踊りなんて気恥ずかしくてできなくて、バーディーたちに誘われてもなかなか立てない。
でもサブリナが踊りたそうにしているのを見て、仕方ないなと席を立ち、エスコートして…
そこからは、アップテンポの曲に若者らしくノリノリになるサブリナがライナスをリードしていって、そこからふたりしてヒートアップしていって…
ランちゃんの若さスパークリングな感じがサブリナの若い輝きと渾然一体になっていて、それを受けるまとぶんの大きさがまた出ていて、本当に素敵で心躍るシーンでした。
そのあとの「あの子は素敵じゃなかった」ソングについて。
今の恋人と過去の恋人を比べて論じるような下品な真似を宝塚歌劇の主人公にさせるべきではない、という意見も聞いたのですが…私はわりと引っかからずに、自然に聴けましたね。
「あの子はきみほど素敵じゃなかったけれど、僕はそれでよかった」
と素直に歌うライナスには本当に素直に好感が持てました。そう、恋って、美形だからとか、ゴージャスだからとか、そういうことで生まれるものじゃないですからね。でも、ライナスのかつての恋人は、たとえ地味でも質素でも素朴でも、きっととても素敵な人だったのでしょう。悲しい結果に終わったとしても、それは素敵な恋だったのでしょう。
それを懐かしく恥じらいつつ歌うライナスは素敵で、温かい人柄を思わせる。だからサブリナも微笑んだのだろうし、ビジネスだけのクールな人じゃないんだわ、とわかるのです。
そして、そこまで表現していたとは思えないけれど、もしかしたら、パリ帰りの素敵な外見だけでちやほやされている我が身を少しは振り返ったかもしれません。今の自分はライナスのかつての恋人よりずっと素敵かもしれないけれど、ライナスは彼女の方が好きなんだわ、という寂しさ…まで感じていたら、それはもう立派な恋です。
それはライナスも同じで、過去の恋について歌っていたのがいつの間にか、想いは目の前のサブリナに帰ってきます。
「それでよかった、けれど今は…」
そしてサブリナの方に一歩歩み寄りかける。サブリナは距離を保とうとして、あわてて今夜のお礼なんかを口にする。それでライナスも適切な距離をとることを思い出して、一歩下がって、彼女を送って、去る…
ライナスとの間に一線を引いたのはサブリナだったけれど、でもそのままあっさり終わると肩すかしのような寂しいような…となってサブリナの銀橋モノローグ、なんだろうから、あのあたり、もっと気を使ってほしかったなー。なんか台詞が物足りなかったです。
サブリナが公衆電話でライナスに断りを入れるシーン、それを受話器を置いたままにして迎えに行くライナス…素敵です。
そのあとの社長室のシーンはもちろん白眉。
パリ行きのチケットを見て喜ぶサブリナと、真実を告げざるをえないライナスと…
そして、
「僕は頭が悪い」「株のことはわからないけれどキスならわかる」
というデイヴィッド。もちろん
「抜糸した!新品同様だ!!」
の明るさもたまりませんが、ちゃんと色恋というか人の情がわかる、ちゃんとした人間なのですよ彼は。そして男として兄に出し抜かれたこともわかっている。だからこそのパンチ。そしておそらくは悪友どもに頼んでの、兄を船に送り出すための作戦…
タグボートを漕いだのはきっとバーディーたちなのでしょう。
ライナスの完璧な秘書であるウィリス(未涼亜希)たちも、自分たちが恋の喜びを知った後だったからこそ、ライナスの旅立ちを支持しました。会社のことより、プライベートの幸せを応援したのです。
なんてハッピーな物語でしょう!
にやにやにんまりして観終われるって、やっぱり素敵なことですね!
というわけでウィリスのまっつはもちろんすばらしく、長らく名コンビを組んできたイチカのマカードル(桜一花)との息もぴったり。そして雪組に行ったら本当に重宝されると思うしバンバン場をさらってほしいと思います!
これで卒業の絵莉千晶は途中エトワールが代役になるくらい喉をつらくしていましたが、千秋楽は無事歌ったとのこと、よかったよかった。
ほかに印象的だったのはパーティーの歌手の扇めぐむの歌がとてもよかったこと、使用人ではやはりまよといまっちが目立つこと、悪友たちではだいもんの顔が好きで目がすぐいくけど、苦手に思っていたまーくんも今回よく見えたなあ、ということねかな。
あまちゃきのコメディエンヌっぷりもよかったです。
スパークリング・ショー『EXCITER!!』は作・演出/藤井大介。
近年出色の、派手で色っぽくてかっこいい、大好きなショーになりました。
第6場、エキサイトドールSが黒いダルマのバードたちとともに銀橋に出て歌うときの、ランちゃんの意外な強さ! 暗転直前のばっちりウィンク!!
第11場、チェンジボックスでMr.YUがEXCITERに変身するのは、誰を連れていっても鉄板でウケました。
そしてそのあとのクラブのシーンのきらりにもうメロメロ!
笑っているような目の娘役が好きで前から注目してはいましたが、今回の笑顔がもうホントにキュートで小悪魔的で! そしてダンスの振りがじゅりあと見比べてもやっぱり好き!! かーわーいーいー!!!
さらにハバナの場面でのランちゃんのビッチっぷり。すばらしい。
男も女も色っぽく強く美しく、大変けっこうでございました!!
1950年代、ニューヨーク郊外の高級住宅地ロングアイランド。大富豪のララビー家にはふたりの息子がいた。長男のライナス(真飛聖)は仕事一筋の真面目人間、次男のデイヴィッド(壮一帆)は対照的なプレイボーイ。ララビー家のお抱え運転手の娘サブリナ(蘭乃はな)は幼い頃からデイヴィッドに憧れていたが、彼はサブリナに見向きもしない。サブリナの父は身分違いの恋をあきらめさせるため、娘をパリに留学させるが…
原作/サミュエル・テイラー、脚本・演出/中村暁、翻訳/清水俊二、作曲・編曲/西村耕次、鞍富真一。1954年にビリー・ワイルダー監督、ハンフリー・ボガード&オードリー・ヘップバーン主演で映画化したロマンティック・コメディをミュージカル化。
結局映画を観ていないのですが…というか、大昔に観たことがあるかとは思いますが、きれいさっぱり忘れているので、比較ができないのですが…
ザッツ少女まんがというか、ザッツ・シンデレラストーリーというか、で、役が少ないこと以外はとても宝塚向きの作品…という前評判どおりではありました。
ただ…
少女まんがとかロマンス映画というものはたいていヒロイン視点で話が進むので、男役トップスター重視の宝塚歌劇に仕立てるには、実はけっこう技がいります。
今回も、特に前半のライナスの出番の作り方には苦労している感じかありありとしました。
サブリナの自殺未遂エピソード前にも、もうちょっとうまくキャラ立てすることはできると思うけれどなー。パーティーでの歌も銀橋の歌もちょっと唐突で、何を表現したいのかよくわからなかった…
というか今回、楽曲があまり良くなかったと思います。印象的でドラマティックなメロディライン…なんて全然聴けなかった気がする。
パリの料理学校であるとか使用人たちのナンバーであるとか、せっかくのミュージカルらしいショーアップシーンが、なんかスカスカしていて、観ていてあまり楽しくなかったんですよね…
パーティーやクラブのシーンは、人海戦術も効いていてまあまあだったかとは思うのですが…
まあこれは主に初見の感想で、二度目以降は慣れもあってまあまあ楽しんでしまったんですけれどね。
ライナス、サブリナ、デイヴィッド、そのキャラクターと三角関係のあり方は本当にベタで好み。だからこそ、もっと素敵にやってほしかった。台詞もなんかスカスカしていてなあ…なんかあまり脚本家の愛情を感じなかったんですけれど…
まず、ライナスが株価のことしか頭にないビジネスマン、というのは歌もあって表現できていたと思うのですが、サブリナからはとっつきにくい人と思われていたこと、ぶっちゃけ冷たくて怖い人だと思われていたこと、というのはもっと出しておいた方がいいんじゃないかなあ。
まとぶんはとてもいい感じの、中年に片足つっこんだくらいのマイルドな紳士っぷりを演じてくれていましたが、やはり人柄が出てしまってクールなキャラにはあまり見えない。
でもここを強調しておかないと、あとでサブリナが、ライナスって意外と親切で優しい人なんだわと知るところとか、彼にもつらく悲しい恋の思い出があったんだわと知るところとかが効いてこないわけですよ。この二面性、深み、複雑さが彼の特徴なんですから。
逆に、
「僕はドン・ファンなんかじゃな~いっ」
とそれはそれは楽しそうに歌うデイヴィッドは、根っから葉先まで明るく楽しい気のいいプレイボーイ、でいいわけです。
難しいことは兄貴に任せて、悪友たちとガールフレンドと日々楽しく遊び回っていて、短い結婚生活を三度送っているけれど、それは彼にとって特になんでもないことで…という極楽とんぼ。
もちろん彼は彼なりに、サブリナとはある程度真剣な恋をして、だけど彼女の自分へのキスに愛情がないことを知って、兄を殴り、兄に譲り、そういう愛を知りました。だから少しは心を入れ替えて、少しはまともになって、おそらくはエリザベス(天咲千華)にちゃんと謝って彼女ときちんと結婚して、ちょっとは仕事も手伝うようになって、今度こそ幸せな家庭を作って安泰な結婚生活を送るようになるのでしょう。
でもそれは別の話。
これは、基本的には、ライナスとサブリナの恋物語なのだから、特にライナスのキャラクターはもっともっと描き込まれなければならないと思うのですよ。
対してサブリナは、これはもう、今回がトップ娘役就任お披露目のランちゃんのキャラそのまんまで、それでいいのです。観客の女性が感情移入しやすい、普通の、可愛らしい女の子、で十分なのですから。
えりたんが「ぺらっぺら」と評したほどほっそい体はスタイル抜群、サブリナパンツ姿の折れそうなこと!
パリから帰ってきて、ショートヘアになってからはホントに洗練されて、でもおきゃんなところはそのままで、本当に可愛らしいヒロインでした。
白いドレスは本当に美しかった…!
ただ…おそらくは原典は『会議は踊る』かな?王子とウエイトレスの恋物語に関して…
私だったらサブリナに、
「心あるウエイトレスなら、買収には応じないわ」
だけでなく、
「王子のために身を引くわ」
と言わせたなー。
アメリカはヨーロッパとはまた階級意識がちがくて、ララビー家の人々はフェアチャイルドのことは使用人なんだから下に見ているわけですが、サブリナのことはきちんと「使用人の娘」として見ていて、「使用人扱い」はしていない。けれどもちろん自分たちとは違う範疇の人間だとは思っているわけです。
その微妙さからすると、正しくは「身分違い」とは言い切れないのかもしれない(事実このあとライナスとサブリナは結婚するのだろうし)。
だけど奥ゆかしい日本人からすると、やはり
「身を引くわ」
と申し出るヒロインをこそ素敵と思ってしまい、
「月の方が手を差し伸べてきたんだもん」
と開き直ってしまうアメリカ娘は小面憎く見えると思うのですよ…
私なら
「自分から身を引く」
と言わせる。事実、彼女はそのあとひとりで船に乗ったのですから。
だからこそ、それを画策したライナスが追っかけたところが、響くんですから…
…と思ったのも初見の感想。
実は二度目の観劇がSS席三列目どセンターで(ちなみに一列目どセンターで三代前のトップ・タモがご観劇。ショーの手拍子はノリノリでした(^^))、表情までとてもよく見えて、芝居の印象がけっこう変わったんですよね…
ライナスは、サブリナが、
「心あるウエイトレスなら、買収には応じないわ」
と言ってのけたその表情にこそ、惚れたのかもしれない、と思ったのです。
そのとき恋に落ちた、というのは言い過ぎだとは思うけれど、少なくとも、その真剣さに打たれ、心動かされた。
だからこその
「彼女は愛を欲しがっている、お金じゃない」
なんでしょう。
彼女の真剣さ、熱意に打たれて、だからこそデイヴィッドと踊れないでしょんぼりしているサブリナがいじらしくて、弟の代わりに踊ってやり、頼まれてもいないキスを運んだのでしょう。
ちなみにこの、キスを運ぶというか、誰かの代わりにキスをする、キスを届ける、というのは欧米文化にはよくあるんですかね。少なくとも映画や小説でいくつか見たことはあるので、そう珍しいことではないし、ライナスとしても、デイヴィッドからそこまで頼まれていないにしても、あくまでデイヴィッドがいればやっていたであろうことでもあるし、サブリナのいじらしさに応えてあげたくて
「デイヴィッドからのキスだ」
と言ってただキスをしたのでしょう。
しかしサブリナは揺れてしまった。おそらくは家族以外からされる初めてのキスだったのだろうし…「デイヴィッドから」と言われたって現実にキスしたのはライナスなんだし…
サブリナは動揺し、ライナスもそれを見てややあわてたような、悪いことをしちゃったな、というような心の動きが感じられました。
それが、恋の始まりというものだったのかもしれません。
クラブ・プルチネラのシーンは本当に可愛くて、デイヴィッドの勧めで今はやりの場所に来たものの、おっさんライナスは今時の踊りなんて気恥ずかしくてできなくて、バーディーたちに誘われてもなかなか立てない。
でもサブリナが踊りたそうにしているのを見て、仕方ないなと席を立ち、エスコートして…
そこからは、アップテンポの曲に若者らしくノリノリになるサブリナがライナスをリードしていって、そこからふたりしてヒートアップしていって…
ランちゃんの若さスパークリングな感じがサブリナの若い輝きと渾然一体になっていて、それを受けるまとぶんの大きさがまた出ていて、本当に素敵で心躍るシーンでした。
そのあとの「あの子は素敵じゃなかった」ソングについて。
今の恋人と過去の恋人を比べて論じるような下品な真似を宝塚歌劇の主人公にさせるべきではない、という意見も聞いたのですが…私はわりと引っかからずに、自然に聴けましたね。
「あの子はきみほど素敵じゃなかったけれど、僕はそれでよかった」
と素直に歌うライナスには本当に素直に好感が持てました。そう、恋って、美形だからとか、ゴージャスだからとか、そういうことで生まれるものじゃないですからね。でも、ライナスのかつての恋人は、たとえ地味でも質素でも素朴でも、きっととても素敵な人だったのでしょう。悲しい結果に終わったとしても、それは素敵な恋だったのでしょう。
それを懐かしく恥じらいつつ歌うライナスは素敵で、温かい人柄を思わせる。だからサブリナも微笑んだのだろうし、ビジネスだけのクールな人じゃないんだわ、とわかるのです。
そして、そこまで表現していたとは思えないけれど、もしかしたら、パリ帰りの素敵な外見だけでちやほやされている我が身を少しは振り返ったかもしれません。今の自分はライナスのかつての恋人よりずっと素敵かもしれないけれど、ライナスは彼女の方が好きなんだわ、という寂しさ…まで感じていたら、それはもう立派な恋です。
それはライナスも同じで、過去の恋について歌っていたのがいつの間にか、想いは目の前のサブリナに帰ってきます。
「それでよかった、けれど今は…」
そしてサブリナの方に一歩歩み寄りかける。サブリナは距離を保とうとして、あわてて今夜のお礼なんかを口にする。それでライナスも適切な距離をとることを思い出して、一歩下がって、彼女を送って、去る…
ライナスとの間に一線を引いたのはサブリナだったけれど、でもそのままあっさり終わると肩すかしのような寂しいような…となってサブリナの銀橋モノローグ、なんだろうから、あのあたり、もっと気を使ってほしかったなー。なんか台詞が物足りなかったです。
サブリナが公衆電話でライナスに断りを入れるシーン、それを受話器を置いたままにして迎えに行くライナス…素敵です。
そのあとの社長室のシーンはもちろん白眉。
パリ行きのチケットを見て喜ぶサブリナと、真実を告げざるをえないライナスと…
そして、
「僕は頭が悪い」「株のことはわからないけれどキスならわかる」
というデイヴィッド。もちろん
「抜糸した!新品同様だ!!」
の明るさもたまりませんが、ちゃんと色恋というか人の情がわかる、ちゃんとした人間なのですよ彼は。そして男として兄に出し抜かれたこともわかっている。だからこそのパンチ。そしておそらくは悪友どもに頼んでの、兄を船に送り出すための作戦…
タグボートを漕いだのはきっとバーディーたちなのでしょう。
ライナスの完璧な秘書であるウィリス(未涼亜希)たちも、自分たちが恋の喜びを知った後だったからこそ、ライナスの旅立ちを支持しました。会社のことより、プライベートの幸せを応援したのです。
なんてハッピーな物語でしょう!
にやにやにんまりして観終われるって、やっぱり素敵なことですね!
というわけでウィリスのまっつはもちろんすばらしく、長らく名コンビを組んできたイチカのマカードル(桜一花)との息もぴったり。そして雪組に行ったら本当に重宝されると思うしバンバン場をさらってほしいと思います!
これで卒業の絵莉千晶は途中エトワールが代役になるくらい喉をつらくしていましたが、千秋楽は無事歌ったとのこと、よかったよかった。
ほかに印象的だったのはパーティーの歌手の扇めぐむの歌がとてもよかったこと、使用人ではやはりまよといまっちが目立つこと、悪友たちではだいもんの顔が好きで目がすぐいくけど、苦手に思っていたまーくんも今回よく見えたなあ、ということねかな。
あまちゃきのコメディエンヌっぷりもよかったです。
スパークリング・ショー『EXCITER!!』は作・演出/藤井大介。
近年出色の、派手で色っぽくてかっこいい、大好きなショーになりました。
第6場、エキサイトドールSが黒いダルマのバードたちとともに銀橋に出て歌うときの、ランちゃんの意外な強さ! 暗転直前のばっちりウィンク!!
第11場、チェンジボックスでMr.YUがEXCITERに変身するのは、誰を連れていっても鉄板でウケました。
そしてそのあとのクラブのシーンのきらりにもうメロメロ!
笑っているような目の娘役が好きで前から注目してはいましたが、今回の笑顔がもうホントにキュートで小悪魔的で! そしてダンスの振りがじゅりあと見比べてもやっぱり好き!! かーわーいーいー!!!
さらにハバナの場面でのランちゃんのビッチっぷり。すばらしい。
男も女も色っぽく強く美しく、大変けっこうでございました!!