駒子の備忘録

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『ミナト町純情オセロ』

2023年03月13日 | 観劇記/タイトルま行
 東京建物ブリリアホール、2023年3月12日14時。

 復興とともに新たな混沌が生まれつつあった1950年代の日本、関西の港町・神都。血で血を洗いシノギを削る争いの末、勢力を拡大した沙鷗組の中心には、ブラジル移民の血を引く若頭筆頭・亜牟蘭オセロ(三宅健)がいた。若頭補佐の汐見丈(寺西拓人)とともにシマを広げてきたオセロだったが、四国の新進ヤクザ・観音組の者に組長を射殺された際、村板医院の娘・モナ(松井玲奈)と出会う。彼女に惚れたオセロは、組を抜けて彼女と夫婦になろうと決めるが、これが先代組長の未亡人アイ子(高木聖子)の逆鱗に触れて…
 原作/ウィリアム・シェイクスピア(松岡和子翻訳版『オセロー』ちくま文庫より)、作/青木豪、演出/いのうえひでのり。2011年に橋本じゅん、石原さとみで上演された『港町純情オセロ』の改訂版。全二幕。

『港町~』は戦前の関西を舞台にしていて、田中哲治演じる舎弟のミミナシ(イヤーがゴーで耳無し、ってことですね…笑)がオセロを罠にはめていく物語だったそうです。それを、イアゴーを女性にしたい、高田聖子で観たい、という企画になって、今回の舞台になったそうです。
 私は『オセロー』だとこちらなどを観ていて、もちろん主役ふたりは名前がまんまなのでこれがオセローとデズデモーナなのはすぐわかるのですが、なんせ舞台設定もだいぶ違うし、周りの濃いキャラたちや転がる話の顛末をただ追って純粋に楽しく観ていたので、「あっ、このアイ子がイアーゴーってことなのか、それでこういう名前なのか、それでこんなに高田聖子オンステージ劇場なのか!」と気づいたのは一幕もだいぶ後半になってから、くらいでした。それこそウォーター!だったなあ(笑)。実際、『オセロー』らしいストーリー展開になるのは二幕から、でもありましたしね。そこまでは、そしてそれからも、なんせ新幹線芝居なので例によって歌や踊りが入ったり謎の笑いや下ネタが入ったりチャンバラもあるし謎の寄り道、脱線もするしで、なかなかすんなり進まないのでちょっと目がくらまされていたのでした。
 そう、『オセロー』って、タイトルロールはオセローでも実質的な主人公はイアーゴーですもんね。彼の嫉妬の物語、というのが私の解釈です。それでオセローも嫉妬と猜疑心に苛まれていく。それが今回は、どちらかというと嘘とかデマ、信頼を裏切られること、がテーマとなっていたようです。
 アイ子からしたら、二代目組長になるはずだったオセロの足抜けは、自分と亡き夫の信頼を裏切られることに他ならなかったわけです。加えて、オセロは組長をかばって怪我をし、かばいきれずに組長を死なせてしまったようだったのに、どうもただモナを助けただけだったのではないかという疑惑が持ち上がって、アイ子はキレたのでした。なのでわりと完全にアイ子の物語になっていた気がしました。出番といい押し出しといい、三宅くんの出る幕じゃなかったようにすら見えたかな…
 ただ、このアイ子がオセロに気があった、みたいな感じはまったくなかったのがよかったな、と思いました。歳上の女とこういう立場の男との物語だと、手癖のようにそこに色恋を持ち込む作家って多いから…イアーゴーはオセローを妬んでいて、それは自分よりキャシオーが評価されていたからそれを恨みに思って、みたいな感じなんだけれど、アイ子はオセロに跡目を継がせようとまで信頼していたのを裏切られたこと、彼が勝手にヤクザから足抜けしてカタギになろうとしていることに純粋に怒っていたのでした。色恋沙汰があったのにあっさり若い女になびきやがって…みたいなありがちな流れがまったくなかったのが、とにかくよかったです。
 デマに踊らされることの怖さや信頼を裏切られることで傷つくことなんかは、オセロにも過去に経験があって…というのもお話に仕込まれていましたが、まあすごく効果的だったかというとアレかな、とも思いましたけどね。
 そんなわけで、三宅くんのオセロは、若僧だしまっすぐでキラキラしていてなんとなく可愛いキャラで、怒りに震えて般若の面相で(お着物の柄も!)奸計を巡らせる高田聖子アイ子さんがまあ完全なる「舞台あらし」@『ガラスの仮面』な舞台でした。イヤそういう企画意図だったんだから正解なんだけれど、そしてデズデモーナの侍女エミーリアに当たる部分がチエ(山本カナコ)とエミ(中谷さとみ)に振り分けられていて、劇団女優陣の活躍の比重が大きい作品に仕上がっていて、フェミっぽいという点でも今っぽいんだけれど、しかし大半のお客は三宅くんを観に来ているのではあるまいか、これでええんかいな…とは、私はちょっと思いました。まあこれだけの劇団なので、客演主演がジャニーズだろうと有名テレビ俳優だろうと関係なく、劇団そのもののファンがほぼ客席を埋めているのかもしれませんが…どうなんでしょう? オセローってどうやってもちょっと情けないキャラだと思うし、ましてこのオセロはそんなにカッコいい役ではなかったと思うし、そしてある種しょーもない死に様をする悲劇なので、ええんかいなこれで…と私はちょっと案じてしまったのでした。三宅くんも髭だし髪型もアレなので、ファンはプログラムにあるようなスッキリしたイケメンヤクザが観たかったんじゃなかろうか…とかね。でっかいお世話でしたらすみません。
 もともとのシェイクスピアの戯曲の幕切れがどんなかよく知らないのですが、こんな感じなのかなあ? つまり今回のバージョンなら、アイ子のラストはちょっともの足りなくないかなあ、と私は感じたのです。オセロも汐見も切り捨てる気なら、組を継ぐ者がいなくなっちゃうじゃん、夫が残した組がライバル組に吸収されたりしちゃっていいの? そこんとこどうなの? 女は男よりリアリストなので、こんなふうに後先考えないのはちょっとリアリティに欠ける気がしました。アイ子にとってのゴールは、いったいどこだったんでしょう…? そう考えると、今回のオチではスッキリしない気が私はしたので…てかそこまでほぼほぼ主役だったのに、最後だけオセロがさらっていって、アイ子は花道の端にモブみたいに佇んで終わってええんかいな、と思ったのです。オセロの死を見届けて満足して高笑いしつつ身投げする、くらいしてもよくない? うーん…
 オセロの死の演出は、まあやりたかったんだろうけどちょっと幼稚で下品かなとも思うし、本物じゃないよとわからせるためなのか妙に明るい色だったのもやや残念でした。また、全体に昭和の任侠映画推しの構成にしているので、幕が下りて「完」とかの映像が出てオチ、としてもいいのにな、と思いましたが、これはラインナップが終わるときにやっとやっていましたね。なので芝居は暗転で終わりましたが、暗転の間に役者たちはポーズを終えて客席向いてお辞儀して、そこに明転だったのでこれはよかったです。何度も言っていますが、役者が役を降りる瞬間を見せられるのが死ぬほど嫌いなので…
 というわけで三宅健を私は初めて舞台で観たんだと思いますが、とても達者で感心しました。ちょっと役不足にすら感じましたが、今後は広く活動してくれるんでしょうから期待しています。松井玲奈も毎度上手いですよね、ある種すっとんきょうでリリカルなお嬢様役なんだけれど、良き塩梅でした。寺西くんも『バイ・バイ・バーディー』で観ましたがホント達者で、もっといろいろ観たいと思いました。劇団員はみんな素晴らしく、高田聖子さまはそれはもう圧巻でした。オセロとモナより着替えが多かったしね!(笑)
 プログラムもデカいのは難点ですがお洒落で素敵でした。休憩込み3時間45分の「新感線時間」の舞台でしたが退屈することはまったくなく、お友達のおかげで超良席で楽しく観ました。5月アタマの大楽まで、どうぞご安全に…!





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