明治座、2025年4月14日17時45分。
前回観たときの感想はこちら。
直近の宝塚歌劇星組版の感想はこちら。
この回はロナン/岡宮来夢(ダブルキャストは手島章斗)、オランプ/星風まどか(奥田いろは)。プリンシパルはマリー・アントワネット/凪七瑠海、デムーラン/内海啓貴、ロベスピエール/伊藤あさひ、ダントン/伊勢大貴、ソレーヌ/藤森蓮華、ラマール/俵和也、アルトワ/高橋健介、フェルゼン/小南光司、ペイロール/渡辺大輔。
そして個人的MVP、ポリニャック夫人/晴華みどり! ひさびさに舞台で拝見しましたが、変わらず綺麗でキツめのお化粧もバッチリ美しく、歌声はもちろん素晴らしく(最後の曲のフェイク、彼女ですよね!?)、何よりアントワネットとの別れ際の芝居が解釈一致で、観ていていっそすがすがしかったので。宝塚版ってやっぱりここに女の友情を描きがちだと思うのですが、そしてもちろんそれも素敵な解釈だと思うのですが、かおりんのポリニャックは王室を見限ってさっさと亡命しようとするポリニャックでした。で、アントワネットに呼び止められて一応とりつくろう。でもアントワネットのお礼も皮肉な口調で、「止め立てはしません」と言っているけれどせめて一言言ってやりたくて呼び止めたんだな、と思わされました。それに対してポリニャックも一応殊勝な返事をするんだけれど、帰ってくる気なんかさらさらなくて、それを隠そうともしていない感じが、いかにもこの宮廷で生き抜いてきた百戦錬磨の貴婦人って感じでとてもいいなと思ったのでした。ここのカチャトワネットはまだまあまあ綺麗なドレスを着ていたのもよかったなあ。宝塚版だともうぐっと簡素な、寝間着かな?みたいなドレスに落ち着いているのですが、まだチュイルリー宮とかに移送されたわけではないと思うので、そこまででなくてもいいんですよね。でもこちらのアントワネットは本編ラストはいわゆる『ベルばら』ラストふうの、断頭台に向かう、髪を短くざんぎりに切って襟元にスカーフを巻いただけのなんの飾りもないドレス姿になるので、そこで落差を出せるから、というのもあるのかもしれません。カテコではまた豪勢なドレス姿になっていて(衣裳/生澤美子)、上手にロナンとオランプのカップルがハケるのに対してアントワネットは下手へロベスピエールのエスコートでハケていました。これにも私はちょっとキュンときちゃいました。あさピエールとの美男美女っぷりがよかったのもありますが、思えば月組初演ではトップコンビがロナンとアントワネットという、カップルでもなければ対峙する敵同士を演じたことがある種の物議を醸したわけです。でも私はそれには意味があったと考えていて、この作品は革命の物語だからこそそういう配役にしたのだろうと思っていたのです。なので今回も「バスティーユの恋人たち」を偏重してフェルゼンにエスコートさせて二組のカップルの対比を描く…とかではなかったところがいいな、と感じました。
というわけでご縁あってカチャのところにお取り次ぎいただき、S席1階後方センターブロック通路際という(しかも前が何故か空席でした。なので視界は良好でしたが、なんともったいない…)ありがたいお席で拝見しました。外部版はセットらしいセットはなくて、跳ね橋のように降りてくる奥の壁面に映像を映す形なので(美術・映像監修/松井るみ)、これが見づらいとだいぶ魅力が半減するだろうなと思うので、しっかり見えてよかったです。明治座の3階席はさすがにかなり見切れると聞きました、残念です…
客席下りや客席登場が多く、でも見えないと芝居の意味がわからないなんてことはなく単なる賑やかしだったので、それはいいなと思いました。役者は走り回されて大変だったかもしれませんが…翻るお衣装の裾に何度も撫でられるお席でした(笑)。
特に大きな演出変更はなくて、基本的には星組版を踏襲しているように感じられました。もちろんナンバーの振付は違うので、もう踊れるくらいのつもりになっているボディパとかが全然違うと脳がバグるのですが…月組ではアントワネットのソロだった曲が星組でオランプのものに変更されましたが今回もそうなっていて(というかもともとそうだったのかな?)、星組ではバレロワイヤルのフェルマリ逢瀬に歌がなくなりましたがここに新曲が足されたようでした。あとはこっちゃんロナンに足された新曲が今回もありました。月組のデムーランの「武器を取れ」はそもそもソレーヌのパン屋襲撃場面の歌でしたが、今回はちゃんと場面ごとありましたね。あとは一幕ラストが知らない曲だった気がしました…「♪パンパポパン~」も特殊な曲だったんでしたっけ? 三部会場面はラマールたちが国王(山田定世)や王妃や議員たちを人形のように操りながら歌う演出で、こういうのってそもそも文楽や歌舞伎の人形振りから来ているんだよな、と思うと(もとのフレンチミュージカルもそうだったらすみません…)なかなか感慨深かったです。本編ラストのロナンが白いお衣装を着ていないのは、まあ当然ですかね。
逆に言うと、外部でわざわざやる意味をあまり感じられなかったかもしれません。アンサンブルのアクロバットがすごいとか、男声になってキーやハーモニーが変わるとかはあっても、芝居の本質に関してノータッチというか…というか今回のこの作品が群像劇なのか主役カップルのラブストーリーなのか革命ものなのか、演出として不明瞭な気がしました。楽曲は素晴らしく私は大好きで、またいろいろ比較しながら観るのに忙しく、芝居、演技に没頭、感動できなかったのは私の感じ方の問題なのかもしれませんが…
あと、脚本がホントわりとまんまで、台詞の細かいブラッシュアップが全然されていないんだなーというのも残念でした。バスティーユ監獄で再会したときにペイロールがロナンのことを覚えているのって変では?(あれくらいのことは日常茶飯事的にやっているはずで、いちいち記憶していないのが普通でしょう。ロナンの方からギャアギャア言われたら思い出す、くらいはあるだろうけど…)とか、アルトワがオランプを咎め立てしてかわされるとすぐ「そんなことより」と言って別の話に進むのって変では?とか、細かすぎるようですがもっと丁寧に台詞の足し引きをすればもっと良くなるのに、そういう手を全然かける気がないんだなー…というのが嫌でした。変わらないなら、良くなっていかないなら再演する意味ないじゃん…
何よりイケコ問題というのが依然としてあるわけで、そういう契約だからとかなんとか内向きの理由はあるのかもしれませんが、ファンを舐めた興業を続けるのはホント大概にしていただきたいわけですよ…イヤ観に行っておいてお金落としておいて言うな、って話ではあるんですけれどね。でも例えば次の『エリザベート』は私は行きませんよ。みりおの芝居は観たいけど歌えるのか不安だし、だいもんのシシィは観たいけどこのダブルキャストでいいのかってのがあるし(みりおと並べるならむしろカチャの方がよかったのでは…何より宝塚男役縛り、もっと言えば宝塚OG縛りをそろそろやめてほしい)、何よりトート役者にもう新鮮味がなくて…まあそもそもストーリーに納得したことがない、ってのも大きいのですが、だからこそ別の演出家によるこの作品なら観てみたいけど同じならパス!なのです。
それでいうと今作はオーディションもちゃんとしたらしいしキャストを大幅に若返らせていて、『ロミジュリ』ももうそうらしいですが若手の登竜門的作品に仕立てていく、ってのはいいことなんじゃないかと思えました。まあオーディションを受けるにもイケコの覚えめでたくないと、とか聞くと暗澹たる思いに陥るわけですけれどね…
でも全員きちんと歌えていたのには一安心しました。ミュージカルなんだからあたりまえなんですけどね! ややエコーに助けられていた感もありましたが、カチャもちゃんと歌えていたのでよかったです。てか個々のパフォーマンスはみんなホントいいな、と思いました。だからこそ芝居の方向性がバラバラな気もして…宝塚歌劇みたいなトップスターを中心にした集中力、団結力みたいなものってそもそも外部では発現しづらいものですが、頼むよ座長、とはちょっと感じてしまったかもしれません。
『SPY×FAMLY』ユーリしか観ていなくて、その後も名前は聞いていたのですが私が勝手にもっと美少年枠の役者さんなのかと思っていた岡宮くんは、ずいぶんと低くしっかりした声の、体つきもがっちりした、しかし顔はどちらかというと童顔の役者さんなんですね。意外と男臭く野太く、そういう意味では農民ロナンっぽかったし真ん中力あるヒーロー感もありましたが、私にはどうにも彼の役としての個性、特徴、キャラクターが上手くつかめなくて、それが作品全体のぼやんとした印象へ波及してしまったかもしれません。
常におへそが見えそうなくらい開襟していて、そんなサービスは要らないしおなか冷えるからしまっとき、とか思っちゃったりして、野卑とか粗野というのとも違うし、デムーランたちに対する態度も単に学がないだけなのか本当にそんな視野がない愚鈍な人間なのか、それとも単に幼いのか、なんかそういう人としてのキャラクターがよく見えなかったんですよね。演技をしていない、というのは言い過ぎなのですが…うぅーん。男役マジックがあったほうが共感しやすい役ではあるのかもしれません。オランプに対して「俺と仕事どっちが大事だ」みたいなことを言っちゃうのとか、リアル男性に言われるとホント退くしなー…
そしてまどかオランプも、もちろん彼女を観たくて観に行ったのですが、上手いし可愛いんだけどわりと想定内だった気がしてしまいました。そしてあまりアントワネットへの敬意や忠誠心を感じない気がしました。仕事としてやっている、自立した現代のキャリア女性っぽかった…カチャとは宙組ではもう被っていなかったんでしたっけ? そしてロナンとの恋模様がそもそも脚本のエピソード的に足りていないので、ラブストーリーとしても盛り上がりに欠けて見えました。無理チューのあとはもう王太子の葬儀で「ずっとあなたのことばかり考えていたの」って、苦しいよね…
無理チューも(ところで岡宮まどかはエアチューに見えたけど小南カチャはちゃんとしているように見えました、そんなことあるかな? サイラの他のカップルはどうだったかな…てか男女だろうと演技なんだからいちいちホントにしなくていいよねえ)ママでしたしね。その前の口論はある程度気がなきゃしないものではあるんだけれど、やはりそれでキスしていいほどの恋が生まれているとはとても思えないし、このロナンもそんなチャラいキャラじゃないし、観ていてどーなんだって気はしてしまいました。アップデートしてよイケコ…まどかオランプには、一度顔を背けて拒んだあと、「助けてくれたお礼だ」と言われてロナンの顔が近づいてくる間にやや受け入れる気がなくもない演技をしていたような気もしましたが、でもそのあと突き飛ばして怒って去るわけで…はにかみやとまどいよりはやはり拒否に見えるので、引っかかりますよねえぇ。
なんか、このふたりが、自由とは何か、身分とは何か、人を好きになるってどういうことか、革命ってどういうことか、自分の使命とは人生とは…とかをもっとちゃんと考えて言葉にする台詞が足されてもよかったんじゃないのかな、それこそが現代にも通じる問題なのだし…と思うのでした。
カチャトワネットは、ホントどのドレスもお似合いで目が楽しかったです! でも一幕はだいぶ幼い、というか悪く言えばアーパーな役作りで、私はカチャってこんなに棒だったっけ…とか思ってしまいました、すみません。これは二幕で現実がいろいろ見えてきて精神的に成長したあとの芝居を見せるための演技だったんだな、とはあとで気づきましたが、しかしハナからあまり共感しづらい役にしたためにフェルマリカップルが観客の興味的に埋没し、より「バスティーユの恋人たち」感が薄れたのでは…とも感じてしまいました。現役のころは苦手だったり好きじゃなかったり、あるいは好きでも嫌いでもなかったジェンヌさんが女優になるとむしろ好きになる、というのは私にはよくあることなのですが、カチャをどう感じていくかはもう少し観てみないとわからないかな、という感じです。ところで今さら歯でも治しているのか、それともリフトアップでもしたのか、口元がなんか変じゃなかったですか…? 気になったもので…すみません…
フェルゼンは私は知らない役者さんでしたが、まあしどころがない役なので…王太子のお墓前でのアルトワたちとの乱闘のあとのロナンとのやりとりは、なかなかぐっときたんですけどね。舞台の『ベルばら』でもフェルゼンの良さってきちんと描かれているとは言えないと思うので、フェルゼンをタイトルロールにしたミュージカルがそろそろ生まれてもいいよな、など考えます…
デムよしは素敵でしたね! あさピエールとあまり衣装の差がないのは遠目には識別が厳しい気がしたので(ロベピの方がやや髪色が明るく、背も少し高かったようでしたが、宝塚版ほどでなくてももっと衣装の色を変えないとどっちがどっちかわからないって…)、そこは改善していただきたかったですが、キャラの違いはちゃんと出ていました。真面目そう、優しそう、ちゃんとしてそう。
対してあさピエールがほっそりすらりんとしていて(「誰の為に~」ではコートを脱いで踊るから、余計に!)、ちゃんと神経質そうな美形キャラになっていたのもよかったです。サイラで突然現れるインスタント彼女も健在でニヤリ。
そしてダントンも暑苦しい、男臭い役作りで良きでした。ただ、入れあげている娼婦ソレーヌがロナンの妹だと発覚するくだり、やはり客席がつい笑っちゃう芝居になっていて、そこは残念でしたね…
そのソレーヌ、『ムーラン・ルージュ!』で名を売った女優さんという印象でしたが、ダンスだけでなく歌もちゃんとしていて良きでしたねー!
ラマールも芸達者で良き。アルトワも美形で意地悪そうでよかったなー! こういうわかりやすいお役はみんなやっていて楽しいと思うんですよね。ペイロールも絶好調でした。
ルイ16世は上背があってすらりんとしていて、後半は押されてしまう気弱そうな芝居をしていましたが前半は賢王にも見えて、もっと背の低い小太りな役者さんを配役しないとダメなのでは…?とは思いました。あとはリュシル(鈴木サアヤ)もあまり華がなくて姉さん女房に見えて、ちょっと萌えなくて残念だったかな…個人の感想です、すみません。
アンサンブルは女性でもものすごいアクロバットを披露したりしていて、素晴らしかったです。スウィングもちゃんといるようで、何よりです。
作品には本当に強度があると思うので、これを今、日本で上演することで、今の観客に何を訴えていくのか、ということが問われるんだと思うんですよね。そりゃ興業なのでお客が入って儲かればいい、ってのもあるんだろうけど、何を見せてどう感じてもらいたいのか、ってことも同じくらい重要なはずでしょ? この作品に関してはやはり、主人公が命を落としてまで勝ち取った人権宣言(しかしこの「すべての人民」に女性はこの時点で含まれていない…)をどう聞かせるか、どう観客の心に響かせるか、だと思います。浮世を忘れるためにただ楽しく浮かれ騒ぐための観劇もいいけれど、劇場を出たら人はみなその浮世を生き抜いていかなければならないのだから、生き抜く勇気を与えなくては。そして観劇した観客がただ生き抜くだけでなくより良い世を作るために生きていくことこそが、今、必要とされているはずなのだから、興行側は作品を通して何かを伝えていかないと…と、私なんかは思うのです。そこが今回やや弱く感じられたのは、ラストの人権宣言に至るまでの個々の積み重ねがやはりやや弱かったと思えたからで、主にロナンとオランプが何と戦い何に抗いそれでも恋を貫き何に敗れそして何を失ったのか…の描かれ方が明瞭ではなかったからだと感じました。そういえばサイラで宝塚版にはなかったと思う「勝利の日におまえを抱こう」とかいう台詞があって、それはフラグだしそーいうの要らんから、とは思いましたよ…足すべきなのはそういうことじゃないし、そういう改変しかできないならもうこの演出家を変えるしかない時期に来ているということなのです。
逆に言えば、やり方次第でこの作品はもっと、もっともっと良くなる。そういう意味でも再演を重ねていく意味はあると思います。なので役者を替えるのと同じように演出家も替えていこう! いるやろいくらでも、やりたがってる若手なんて!! 観劇して「自分ならこう変える」というプランが出ない作家なんてクズですよ!!! がんばれ東宝、がんばれ日本エンタメ界!!!!
我々もがんばるので、ともに戦ってほしいものです…!
前回観たときの感想はこちら。
直近の宝塚歌劇星組版の感想はこちら。
この回はロナン/岡宮来夢(ダブルキャストは手島章斗)、オランプ/星風まどか(奥田いろは)。プリンシパルはマリー・アントワネット/凪七瑠海、デムーラン/内海啓貴、ロベスピエール/伊藤あさひ、ダントン/伊勢大貴、ソレーヌ/藤森蓮華、ラマール/俵和也、アルトワ/高橋健介、フェルゼン/小南光司、ペイロール/渡辺大輔。
そして個人的MVP、ポリニャック夫人/晴華みどり! ひさびさに舞台で拝見しましたが、変わらず綺麗でキツめのお化粧もバッチリ美しく、歌声はもちろん素晴らしく(最後の曲のフェイク、彼女ですよね!?)、何よりアントワネットとの別れ際の芝居が解釈一致で、観ていていっそすがすがしかったので。宝塚版ってやっぱりここに女の友情を描きがちだと思うのですが、そしてもちろんそれも素敵な解釈だと思うのですが、かおりんのポリニャックは王室を見限ってさっさと亡命しようとするポリニャックでした。で、アントワネットに呼び止められて一応とりつくろう。でもアントワネットのお礼も皮肉な口調で、「止め立てはしません」と言っているけれどせめて一言言ってやりたくて呼び止めたんだな、と思わされました。それに対してポリニャックも一応殊勝な返事をするんだけれど、帰ってくる気なんかさらさらなくて、それを隠そうともしていない感じが、いかにもこの宮廷で生き抜いてきた百戦錬磨の貴婦人って感じでとてもいいなと思ったのでした。ここのカチャトワネットはまだまあまあ綺麗なドレスを着ていたのもよかったなあ。宝塚版だともうぐっと簡素な、寝間着かな?みたいなドレスに落ち着いているのですが、まだチュイルリー宮とかに移送されたわけではないと思うので、そこまででなくてもいいんですよね。でもこちらのアントワネットは本編ラストはいわゆる『ベルばら』ラストふうの、断頭台に向かう、髪を短くざんぎりに切って襟元にスカーフを巻いただけのなんの飾りもないドレス姿になるので、そこで落差を出せるから、というのもあるのかもしれません。カテコではまた豪勢なドレス姿になっていて(衣裳/生澤美子)、上手にロナンとオランプのカップルがハケるのに対してアントワネットは下手へロベスピエールのエスコートでハケていました。これにも私はちょっとキュンときちゃいました。あさピエールとの美男美女っぷりがよかったのもありますが、思えば月組初演ではトップコンビがロナンとアントワネットという、カップルでもなければ対峙する敵同士を演じたことがある種の物議を醸したわけです。でも私はそれには意味があったと考えていて、この作品は革命の物語だからこそそういう配役にしたのだろうと思っていたのです。なので今回も「バスティーユの恋人たち」を偏重してフェルゼンにエスコートさせて二組のカップルの対比を描く…とかではなかったところがいいな、と感じました。
というわけでご縁あってカチャのところにお取り次ぎいただき、S席1階後方センターブロック通路際という(しかも前が何故か空席でした。なので視界は良好でしたが、なんともったいない…)ありがたいお席で拝見しました。外部版はセットらしいセットはなくて、跳ね橋のように降りてくる奥の壁面に映像を映す形なので(美術・映像監修/松井るみ)、これが見づらいとだいぶ魅力が半減するだろうなと思うので、しっかり見えてよかったです。明治座の3階席はさすがにかなり見切れると聞きました、残念です…
客席下りや客席登場が多く、でも見えないと芝居の意味がわからないなんてことはなく単なる賑やかしだったので、それはいいなと思いました。役者は走り回されて大変だったかもしれませんが…翻るお衣装の裾に何度も撫でられるお席でした(笑)。
特に大きな演出変更はなくて、基本的には星組版を踏襲しているように感じられました。もちろんナンバーの振付は違うので、もう踊れるくらいのつもりになっているボディパとかが全然違うと脳がバグるのですが…月組ではアントワネットのソロだった曲が星組でオランプのものに変更されましたが今回もそうなっていて(というかもともとそうだったのかな?)、星組ではバレロワイヤルのフェルマリ逢瀬に歌がなくなりましたがここに新曲が足されたようでした。あとはこっちゃんロナンに足された新曲が今回もありました。月組のデムーランの「武器を取れ」はそもそもソレーヌのパン屋襲撃場面の歌でしたが、今回はちゃんと場面ごとありましたね。あとは一幕ラストが知らない曲だった気がしました…「♪パンパポパン~」も特殊な曲だったんでしたっけ? 三部会場面はラマールたちが国王(山田定世)や王妃や議員たちを人形のように操りながら歌う演出で、こういうのってそもそも文楽や歌舞伎の人形振りから来ているんだよな、と思うと(もとのフレンチミュージカルもそうだったらすみません…)なかなか感慨深かったです。本編ラストのロナンが白いお衣装を着ていないのは、まあ当然ですかね。
逆に言うと、外部でわざわざやる意味をあまり感じられなかったかもしれません。アンサンブルのアクロバットがすごいとか、男声になってキーやハーモニーが変わるとかはあっても、芝居の本質に関してノータッチというか…というか今回のこの作品が群像劇なのか主役カップルのラブストーリーなのか革命ものなのか、演出として不明瞭な気がしました。楽曲は素晴らしく私は大好きで、またいろいろ比較しながら観るのに忙しく、芝居、演技に没頭、感動できなかったのは私の感じ方の問題なのかもしれませんが…
あと、脚本がホントわりとまんまで、台詞の細かいブラッシュアップが全然されていないんだなーというのも残念でした。バスティーユ監獄で再会したときにペイロールがロナンのことを覚えているのって変では?(あれくらいのことは日常茶飯事的にやっているはずで、いちいち記憶していないのが普通でしょう。ロナンの方からギャアギャア言われたら思い出す、くらいはあるだろうけど…)とか、アルトワがオランプを咎め立てしてかわされるとすぐ「そんなことより」と言って別の話に進むのって変では?とか、細かすぎるようですがもっと丁寧に台詞の足し引きをすればもっと良くなるのに、そういう手を全然かける気がないんだなー…というのが嫌でした。変わらないなら、良くなっていかないなら再演する意味ないじゃん…
何よりイケコ問題というのが依然としてあるわけで、そういう契約だからとかなんとか内向きの理由はあるのかもしれませんが、ファンを舐めた興業を続けるのはホント大概にしていただきたいわけですよ…イヤ観に行っておいてお金落としておいて言うな、って話ではあるんですけれどね。でも例えば次の『エリザベート』は私は行きませんよ。みりおの芝居は観たいけど歌えるのか不安だし、だいもんのシシィは観たいけどこのダブルキャストでいいのかってのがあるし(みりおと並べるならむしろカチャの方がよかったのでは…何より宝塚男役縛り、もっと言えば宝塚OG縛りをそろそろやめてほしい)、何よりトート役者にもう新鮮味がなくて…まあそもそもストーリーに納得したことがない、ってのも大きいのですが、だからこそ別の演出家によるこの作品なら観てみたいけど同じならパス!なのです。
それでいうと今作はオーディションもちゃんとしたらしいしキャストを大幅に若返らせていて、『ロミジュリ』ももうそうらしいですが若手の登竜門的作品に仕立てていく、ってのはいいことなんじゃないかと思えました。まあオーディションを受けるにもイケコの覚えめでたくないと、とか聞くと暗澹たる思いに陥るわけですけれどね…
でも全員きちんと歌えていたのには一安心しました。ミュージカルなんだからあたりまえなんですけどね! ややエコーに助けられていた感もありましたが、カチャもちゃんと歌えていたのでよかったです。てか個々のパフォーマンスはみんなホントいいな、と思いました。だからこそ芝居の方向性がバラバラな気もして…宝塚歌劇みたいなトップスターを中心にした集中力、団結力みたいなものってそもそも外部では発現しづらいものですが、頼むよ座長、とはちょっと感じてしまったかもしれません。
『SPY×FAMLY』ユーリしか観ていなくて、その後も名前は聞いていたのですが私が勝手にもっと美少年枠の役者さんなのかと思っていた岡宮くんは、ずいぶんと低くしっかりした声の、体つきもがっちりした、しかし顔はどちらかというと童顔の役者さんなんですね。意外と男臭く野太く、そういう意味では農民ロナンっぽかったし真ん中力あるヒーロー感もありましたが、私にはどうにも彼の役としての個性、特徴、キャラクターが上手くつかめなくて、それが作品全体のぼやんとした印象へ波及してしまったかもしれません。
常におへそが見えそうなくらい開襟していて、そんなサービスは要らないしおなか冷えるからしまっとき、とか思っちゃったりして、野卑とか粗野というのとも違うし、デムーランたちに対する態度も単に学がないだけなのか本当にそんな視野がない愚鈍な人間なのか、それとも単に幼いのか、なんかそういう人としてのキャラクターがよく見えなかったんですよね。演技をしていない、というのは言い過ぎなのですが…うぅーん。男役マジックがあったほうが共感しやすい役ではあるのかもしれません。オランプに対して「俺と仕事どっちが大事だ」みたいなことを言っちゃうのとか、リアル男性に言われるとホント退くしなー…
そしてまどかオランプも、もちろん彼女を観たくて観に行ったのですが、上手いし可愛いんだけどわりと想定内だった気がしてしまいました。そしてあまりアントワネットへの敬意や忠誠心を感じない気がしました。仕事としてやっている、自立した現代のキャリア女性っぽかった…カチャとは宙組ではもう被っていなかったんでしたっけ? そしてロナンとの恋模様がそもそも脚本のエピソード的に足りていないので、ラブストーリーとしても盛り上がりに欠けて見えました。無理チューのあとはもう王太子の葬儀で「ずっとあなたのことばかり考えていたの」って、苦しいよね…
無理チューも(ところで岡宮まどかはエアチューに見えたけど小南カチャはちゃんとしているように見えました、そんなことあるかな? サイラの他のカップルはどうだったかな…てか男女だろうと演技なんだからいちいちホントにしなくていいよねえ)ママでしたしね。その前の口論はある程度気がなきゃしないものではあるんだけれど、やはりそれでキスしていいほどの恋が生まれているとはとても思えないし、このロナンもそんなチャラいキャラじゃないし、観ていてどーなんだって気はしてしまいました。アップデートしてよイケコ…まどかオランプには、一度顔を背けて拒んだあと、「助けてくれたお礼だ」と言われてロナンの顔が近づいてくる間にやや受け入れる気がなくもない演技をしていたような気もしましたが、でもそのあと突き飛ばして怒って去るわけで…はにかみやとまどいよりはやはり拒否に見えるので、引っかかりますよねえぇ。
なんか、このふたりが、自由とは何か、身分とは何か、人を好きになるってどういうことか、革命ってどういうことか、自分の使命とは人生とは…とかをもっとちゃんと考えて言葉にする台詞が足されてもよかったんじゃないのかな、それこそが現代にも通じる問題なのだし…と思うのでした。
カチャトワネットは、ホントどのドレスもお似合いで目が楽しかったです! でも一幕はだいぶ幼い、というか悪く言えばアーパーな役作りで、私はカチャってこんなに棒だったっけ…とか思ってしまいました、すみません。これは二幕で現実がいろいろ見えてきて精神的に成長したあとの芝居を見せるための演技だったんだな、とはあとで気づきましたが、しかしハナからあまり共感しづらい役にしたためにフェルマリカップルが観客の興味的に埋没し、より「バスティーユの恋人たち」感が薄れたのでは…とも感じてしまいました。現役のころは苦手だったり好きじゃなかったり、あるいは好きでも嫌いでもなかったジェンヌさんが女優になるとむしろ好きになる、というのは私にはよくあることなのですが、カチャをどう感じていくかはもう少し観てみないとわからないかな、という感じです。ところで今さら歯でも治しているのか、それともリフトアップでもしたのか、口元がなんか変じゃなかったですか…? 気になったもので…すみません…
フェルゼンは私は知らない役者さんでしたが、まあしどころがない役なので…王太子のお墓前でのアルトワたちとの乱闘のあとのロナンとのやりとりは、なかなかぐっときたんですけどね。舞台の『ベルばら』でもフェルゼンの良さってきちんと描かれているとは言えないと思うので、フェルゼンをタイトルロールにしたミュージカルがそろそろ生まれてもいいよな、など考えます…
デムよしは素敵でしたね! あさピエールとあまり衣装の差がないのは遠目には識別が厳しい気がしたので(ロベピの方がやや髪色が明るく、背も少し高かったようでしたが、宝塚版ほどでなくてももっと衣装の色を変えないとどっちがどっちかわからないって…)、そこは改善していただきたかったですが、キャラの違いはちゃんと出ていました。真面目そう、優しそう、ちゃんとしてそう。
対してあさピエールがほっそりすらりんとしていて(「誰の為に~」ではコートを脱いで踊るから、余計に!)、ちゃんと神経質そうな美形キャラになっていたのもよかったです。サイラで突然現れるインスタント彼女も健在でニヤリ。
そしてダントンも暑苦しい、男臭い役作りで良きでした。ただ、入れあげている娼婦ソレーヌがロナンの妹だと発覚するくだり、やはり客席がつい笑っちゃう芝居になっていて、そこは残念でしたね…
そのソレーヌ、『ムーラン・ルージュ!』で名を売った女優さんという印象でしたが、ダンスだけでなく歌もちゃんとしていて良きでしたねー!
ラマールも芸達者で良き。アルトワも美形で意地悪そうでよかったなー! こういうわかりやすいお役はみんなやっていて楽しいと思うんですよね。ペイロールも絶好調でした。
ルイ16世は上背があってすらりんとしていて、後半は押されてしまう気弱そうな芝居をしていましたが前半は賢王にも見えて、もっと背の低い小太りな役者さんを配役しないとダメなのでは…?とは思いました。あとはリュシル(鈴木サアヤ)もあまり華がなくて姉さん女房に見えて、ちょっと萌えなくて残念だったかな…個人の感想です、すみません。
アンサンブルは女性でもものすごいアクロバットを披露したりしていて、素晴らしかったです。スウィングもちゃんといるようで、何よりです。
作品には本当に強度があると思うので、これを今、日本で上演することで、今の観客に何を訴えていくのか、ということが問われるんだと思うんですよね。そりゃ興業なのでお客が入って儲かればいい、ってのもあるんだろうけど、何を見せてどう感じてもらいたいのか、ってことも同じくらい重要なはずでしょ? この作品に関してはやはり、主人公が命を落としてまで勝ち取った人権宣言(しかしこの「すべての人民」に女性はこの時点で含まれていない…)をどう聞かせるか、どう観客の心に響かせるか、だと思います。浮世を忘れるためにただ楽しく浮かれ騒ぐための観劇もいいけれど、劇場を出たら人はみなその浮世を生き抜いていかなければならないのだから、生き抜く勇気を与えなくては。そして観劇した観客がただ生き抜くだけでなくより良い世を作るために生きていくことこそが、今、必要とされているはずなのだから、興行側は作品を通して何かを伝えていかないと…と、私なんかは思うのです。そこが今回やや弱く感じられたのは、ラストの人権宣言に至るまでの個々の積み重ねがやはりやや弱かったと思えたからで、主にロナンとオランプが何と戦い何に抗いそれでも恋を貫き何に敗れそして何を失ったのか…の描かれ方が明瞭ではなかったからだと感じました。そういえばサイラで宝塚版にはなかったと思う「勝利の日におまえを抱こう」とかいう台詞があって、それはフラグだしそーいうの要らんから、とは思いましたよ…足すべきなのはそういうことじゃないし、そういう改変しかできないならもうこの演出家を変えるしかない時期に来ているということなのです。
逆に言えば、やり方次第でこの作品はもっと、もっともっと良くなる。そういう意味でも再演を重ねていく意味はあると思います。なので役者を替えるのと同じように演出家も替えていこう! いるやろいくらでも、やりたがってる若手なんて!! 観劇して「自分ならこう変える」というプランが出ない作家なんてクズですよ!!! がんばれ東宝、がんばれ日本エンタメ界!!!!
我々もがんばるので、ともに戦ってほしいものです…!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます