駒子の備忘録

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キャサリン・ライアン・ハワード『56日間』(新潮文庫)

2023年03月12日 | 乱読記/書名か行
 新型コロナウイルスが猛威をふるう中、ダブリン市内の集合住宅で身元不明の男性の遺体が見つかった。遡ること56日前、独身女性キアラは謎めいた男性オリヴァーと出会っていた。関係が深まるにつれて、ふたりには互いに明かせぬ秘密があるとわかるが…遺体発見の現在と過去の日々を交互に描く、コロナ禍に生まれた奇跡のサスペンス小説。

 もともと「カップルが出会い、恋に落ちる小説のアイディアを温めていて人物設定も結末も見えてい」たところに、コロナによるロックダウンに関する政府の記者会見があってさらに閃いて執筆した小説だそうです。「現在一緒に暮らしていない人とはたとえ屋外であっても会うことはできないという『世帯間での交流禁止』ルールを厳守するとなれば、付き合い始めて間もないカップルは別れるか同棲するしかない」という事態になったので、「知り合って間もない男女が一緒に暮らすという、やや無理筋な展開に説得力」が出たからです。
 交際の経緯を双方から別々に語ったり、過去と現在の視点が行き来したりして徐々に意外な真実が見えてきて…みたいな手法はサスペンスとしてよくあるものですが、それが上手く効奏していたと思います。おもしろく読みました。だからこそ、オチが不満でした。
 まず、ローラは目くらましみたいな存在だろうからいいにしても、でも彼女の狙いが不発に終わったことまで描いてもいいんじゃないのかな、と思いました。リーが真実にたどり着けないまま終わる、というのは別にいいと思ったんですよね。そういうことって実はよくあることだと思うので。この現状からは本当の真実は推察できないし、警察の仕事としてはそれで十分なんだろうと思うからです。全部わかってリーが納得するまで描く、なんてことには意味がないしリアリティもないと思うので。
 ただ、つまり主人公はやっぱりキアラだったと思うので、この終わり方はあまりに中途半端だったのではないかしらん。彼女は母親に真実を告げたくて、真実を明かすために動いたんでしょ? その真実を手に入れて、それでどうなったか、どうしたか、どう思ったか、が重要なんじゃないの? 兄の「真実」は明らかにされた一方で、並行して自分はある種の罪に手を染めてしまったのであり、そこに関して思うことがあるはずで、それを描写してこそ、のこの小説だったんじゃないのかなあ…でないとオリヴァーもちょっと報われないんじゃないのかなあ。彼はある種ちゃんと罰を受けることにしたわけでしょう、因果応報ってそういうことです。じゃあキアラはいいの? たとえば母の死に間に合わない、とかで報いを受けるべきなのではないの? でないと話の据わりが悪くないかなあ…
 というのが、私の意見です。おもしろく読んだだけに、残念でした。あと、コロナ禍を上手く生かした小説ってまだあまり数がないと思うので、これはその点がとてもよくできていてよかったとは思いました。







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