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駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

四月大歌舞伎『木挽町のあだ討ち』『黒手組曲輪達引』

2025年04月12日 | 観劇記/タイトルか行
 歌舞伎座、2025年4月9日11時(昼の部)。

 文化9年、春の夕刻。西国の某藩で勘定方を務める伊納清左衛門(市川高麗蔵)の屋敷では、妻の妙(中村芝のぶ)と嫡男の菊之助(市川染五郎)がなごやかに話をしている。菊之助は一月後に元服を控えた、前髪立ちの爽やかな若者である。そうした中、清左衛門は人払いをして下男の作兵衛(市川中車)と何か談合している様子。そこへ本家から、次郎衛門(市川猿三郎)が目付を伴い来訪したとの知らせがあり…
 原作/永井紗耶子、脚本・演出/齋藤雅文。2023年に単行本化され、直木賞、山本周五郎賞を受賞した小説を歌舞伎化。全2幕。

 著者は今から11年前に四国こんぴら歌舞伎大芝居を取材して、スタッフさんたちの奔走する姿を見て「いつか、この熱を書きたい」と願ったそうです。それが素晴らしい形で結実したんですね、胸アツです。
 私も受賞前に読みましたが、おもしろかったことは覚えているのですが細かい筋は忘れていました(笑。私の読書はいつもこんな感じなのです…)。原作は確か連作短編集の形で、芝居小屋の役者さんや裏方さんたちがそれぞれの章で主役になっていって、その通底に菊之助のあだ討ちの進捗があり、最後に真実が明かされて…という、ある種のミステリー仕立てだった気もします。歌舞伎では菊之助を主役に据えているので、一幕ラストに実際の事件の真相が知れる形になり、よりわかりやすく、ある種単純化、大衆化されたのかなとも思いますが、そういうわかりやすさ、親しみやすさって歌舞伎の醍醐味だもんな、とも思ったりしたのでした。
 新作歌舞伎としてよくできていたと思いますし、バックステージものとして演劇ファンなら嫌いな人なんていないだろうし、染五郎というぴったりの主演を得て、綺麗に仕上がったと思いました。今後もいい感じに座組を変えて再演されていくといいですね。新作歌舞伎ってけっこういくつも立ち上がるけれど、それが再演され続けてきちんと歌舞伎の財産になっていくか、古典にまでなっていけそうか…というのはまた別の話だな、とか、いくつか観てきて素人ながらに感じられるようになってきたので。
 もちろんまずは数打ちゃ当たるでいろいろたくさんやってみることが大事で、そこから取捨選択して育てていくことも大事、ということなのかな、と思います。宝塚歌劇もオリジナル作品が打てるうちが華であり、それだけの体力が組織にあることがまず大事なんですもんね。古典よりわかりやすく観やすいだろうから、というナンパな理由でついつい足を運びがちな私ですが、作品を育てていく一助になれるようなファンでいよう、とも思うのでした。
 そんなわけで今回は、フツーに満足しました。芝居はこれからさらに練れていくのでしょうし、もう少し手を入れられるものでもあると思いましたしね。そういう意味でも発展性があると思いました。でもとにかく染五郎と中車さんがよかったので(あとは壱太郎さん、猿弥さんとかも)、満足です。
 森田座の篠田金治役は幸四郎さん。ちょいちょい台詞に詰まり、二幕ではプロンプターの声がよく聞こえたのは残念でした。ここを親子でやる趣向はわからなくもないし、そういうメタ要素もあっても別にいいんだけれど、芸に響くんじゃ問題ですね。お疲れなのかもしれませんが、パパがんばって!と念じちゃいました。
 パパと言えば(笑)中車さんはさすがで、ご主人一家とお家大事に粉骨砕身低頭平身の忠義者のお役なのですが、若様相手の情熱あふれる芝居のくだりが、演技が熱くてペーソスどころかユーモア出ちゃってちょっとドリフ感すら出かけるくらいだったんですけれど、真相と心情が出る場面だったので、そこで観客のテンションがぐっと上がって集中度が増したんですよね。それまで、そんなに重い、濃い話じゃないなとさわさわしていた客席の空気が、一変したのです。これがもう本当に小気味よかったです。
 そしてそれらを全部受ける形の染五郎さんはもちろんずるいくらいに美しく凜々しく爽やかで、でも弱くて迷いもある真面目な優しい、青年になりかけの少年みたいなお役を瑞々しく演じていて、台詞も美しく、そりゃ周りみんなぐらりときちゃうでしょ!世話焼いちゃうでしょ!!って感じで素晴らしかったです。いなせなお姉さんぶるほたるの壱太郎、お兄さんぶる一八の猿弥さんの情愛がまた染みました。
 もうひとりの木戸芸者、五郎は虎之介さん。読売めいた客席登場もあって良きでした。やじゅさまも素敵、その妻の雀右衛門さんも素敵。あと菊之助ママの芝のぶさんもホント声が素敵で、うっとりしました。武家の奥方、かくあるべし…!
 幕切れも華やかで素晴らしく、また新春のころに再演されるといいのでは?など思ったりしました。

 後半の『黒手組~』は(ここで切るのが正しいのかも私はわからないのですが)作/河竹黙阿弥。歌舞伎の十八番『助六』のエッセンスが散りばめられているとのことですが、私には元ネタがわからないのでなんでこーいう展開になるの?とよくわからないところもありました。また、「時勢に応じた演出」というのもこの演目につきもの、ということなのでしょうか? 権九郎/助六の二役を演じた幸四郎さんがここでは「どじゃーす」の大谷選手に扮して、デコピンまで登場していました(笑)。ただ、このくだりを多少巻いているのか、予定では15時45分だった昼の部の終演時刻がこの日は33分でした。まあ巻くよね、夜の回の開演まで30分ってのは酷すぎますもんね…
 新造の白玉は米吉さん。
 しかし醜男が女郎を身請けするも、女郎にはイケメンの間夫がいて…ってのも盗まれる宝刀云々と同じくらい歌舞伎あるあるな設定ですね。そしていかにも男性が好きそうな話です。要するにこちらとしてはちょっと「ケッ」ってところはありますね。
 ラストは大立廻り。「こうらいや」の傘も出て、華やかで楽しゅうございました。








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