どうして羊飼いという職業に就き、順調に美味しい肉を生産していたのに、やめる決断をしたのか。直木賞作家が「小説家前夜」の日々を綴る自伝的エッセイ。
私より十歳若い、JRA馬事文化賞受賞作もある作家さんだそうですが、私は直木賞受賞作も読んでいなくて、この作品で初めて知りました、すみません。でも、ものすごくおもしろく読みました。
これは「週刊ポスト」の連載のようですが、エッセイというより自分のための防備録、自分で自分のために物語っているようなところがあって、そういう感じにも親近感を持ちましたし、何より動物や人生に対する向き合い方に自分と近いものを勝手に感じて、ものすごく楽しく読んでしまったのです。
北海道の酪農家に生うまれた作者と町育ちの自分を重ねるのは不遜なことでしょうが、しかし私のものごころついたころの夢は「牧場で暮らして漫画を描くこと」でした。それ以前にケーキ屋さん、とかお花屋さん、みたいな夢を持っていたことがあるかは覚えていませんが、少なくとも「お嫁さんになりたい」みたいなことは小さなころから言わなかった子供だったことは確かです。もちろんこの「牧場」も、マザー牧場みたいなものかはたまたムツゴロウ王国みたいなものかは記憶がなくて、ただイメージとして、動物と暮らしたい、動物を世話して生計を立てつつ、漫画を、物語を紡いで生きていきたい…というようなことを、わりとマジで、意外と長く夢として持っていた子供のころを私はよく覚えているのでした。別にものすごく内向的だったとか厭世的だったとかはなくて(そんな子供は嫌だ)、家に引きこもって本や漫画を読むのも好きだったけれどひとたび家を出れば男勝りのおてんばで…というような少女だったし、小学校に上がるころに雑種犬を飼うようになった以外は動物に触れることなどないような町っ子だったんですけどね。犬だってただ可愛がるだけで、散歩も餌やりも世話はすべてほぼ母親がしていましたしね。その後、漫画の原稿を仕上げて投稿したりして賞に何も引っかからなかったりし続けて、ああ自分は漫画家にはなれないんだなと思い、セットで牧場のことも忘れ、夢というか将来の展望は変わっていったわけですが…でも、二十歳のころにこの飼い犬が老衰で死ぬのと入れ替わるように乗馬を始め、北海道・静内の競走馬の生産牧場に住み込みのアルバイトに出かけたりしているので、やはり目指す方向性はあまり変わっていなかったのかもしれません。
この作家も、家業の酪農ではなく羊に惚れてしまったのはたまたまなのかもしれませんが、では修行に海外に出よう、となったりまず二頭もらってくるとかろから始めたり、そこから美味しい羊料理の研究も進めて…みたいな邁進の仕方がすがすがしいやら微笑ましいやら、そしてなんとなく「わかるわあぁ…」と勝手になってしまって、とにかくおもしろく読み進めちゃったのでした。物事との距離感が人として近い部類の感じ、と言いますか…
例えば「羊を飼っているのに羊を食べるなんて…!」って人もいるでしょう。それは乗馬仲間にもいました。私は馬刺しをフツーに美味しく食べられる人間でした。日本の乗馬クラブにいる馬なんてほとんどが地方競馬からの払い下げで、馬術競技で才能を発揮できることもまれだし最後はドッグフードか動物園の餌なんでしょ?みたいな現実は知っているつもりだったので。さらに最初から食用に生産されている動物ならむしろありがたくいただくのが筋だし、それがたとえ自分の愛馬でも最後に食べなきゃならなくなるなら食べますよ…という精神性の人間だったので。でももちろん愛着がないわけではない、愛情や情熱がなければこんなことはそもそもやっていないわけです。そういう感覚が、すごく共感できて、読みやすかったのでした。
その廃業までの日々を綴る技量、この素晴らしいタイトルを付けるセンスはやはり作家のものだな、と思います。他にもいろいろ理由はあったにせよ、主には専業作家となるために羊飼いをやめた、ひとりの女性の、とある期間の生き様の物語。ただやみくもなわけではなく、目標と過程をきちんと定めて突き進むその姿勢が、美しく、読むに値するものになっていたと思いました。
気になる方は、ぜひ!!!
私より十歳若い、JRA馬事文化賞受賞作もある作家さんだそうですが、私は直木賞受賞作も読んでいなくて、この作品で初めて知りました、すみません。でも、ものすごくおもしろく読みました。
これは「週刊ポスト」の連載のようですが、エッセイというより自分のための防備録、自分で自分のために物語っているようなところがあって、そういう感じにも親近感を持ちましたし、何より動物や人生に対する向き合い方に自分と近いものを勝手に感じて、ものすごく楽しく読んでしまったのです。
北海道の酪農家に生うまれた作者と町育ちの自分を重ねるのは不遜なことでしょうが、しかし私のものごころついたころの夢は「牧場で暮らして漫画を描くこと」でした。それ以前にケーキ屋さん、とかお花屋さん、みたいな夢を持っていたことがあるかは覚えていませんが、少なくとも「お嫁さんになりたい」みたいなことは小さなころから言わなかった子供だったことは確かです。もちろんこの「牧場」も、マザー牧場みたいなものかはたまたムツゴロウ王国みたいなものかは記憶がなくて、ただイメージとして、動物と暮らしたい、動物を世話して生計を立てつつ、漫画を、物語を紡いで生きていきたい…というようなことを、わりとマジで、意外と長く夢として持っていた子供のころを私はよく覚えているのでした。別にものすごく内向的だったとか厭世的だったとかはなくて(そんな子供は嫌だ)、家に引きこもって本や漫画を読むのも好きだったけれどひとたび家を出れば男勝りのおてんばで…というような少女だったし、小学校に上がるころに雑種犬を飼うようになった以外は動物に触れることなどないような町っ子だったんですけどね。犬だってただ可愛がるだけで、散歩も餌やりも世話はすべてほぼ母親がしていましたしね。その後、漫画の原稿を仕上げて投稿したりして賞に何も引っかからなかったりし続けて、ああ自分は漫画家にはなれないんだなと思い、セットで牧場のことも忘れ、夢というか将来の展望は変わっていったわけですが…でも、二十歳のころにこの飼い犬が老衰で死ぬのと入れ替わるように乗馬を始め、北海道・静内の競走馬の生産牧場に住み込みのアルバイトに出かけたりしているので、やはり目指す方向性はあまり変わっていなかったのかもしれません。
この作家も、家業の酪農ではなく羊に惚れてしまったのはたまたまなのかもしれませんが、では修行に海外に出よう、となったりまず二頭もらってくるとかろから始めたり、そこから美味しい羊料理の研究も進めて…みたいな邁進の仕方がすがすがしいやら微笑ましいやら、そしてなんとなく「わかるわあぁ…」と勝手になってしまって、とにかくおもしろく読み進めちゃったのでした。物事との距離感が人として近い部類の感じ、と言いますか…
例えば「羊を飼っているのに羊を食べるなんて…!」って人もいるでしょう。それは乗馬仲間にもいました。私は馬刺しをフツーに美味しく食べられる人間でした。日本の乗馬クラブにいる馬なんてほとんどが地方競馬からの払い下げで、馬術競技で才能を発揮できることもまれだし最後はドッグフードか動物園の餌なんでしょ?みたいな現実は知っているつもりだったので。さらに最初から食用に生産されている動物ならむしろありがたくいただくのが筋だし、それがたとえ自分の愛馬でも最後に食べなきゃならなくなるなら食べますよ…という精神性の人間だったので。でももちろん愛着がないわけではない、愛情や情熱がなければこんなことはそもそもやっていないわけです。そういう感覚が、すごく共感できて、読みやすかったのでした。
その廃業までの日々を綴る技量、この素晴らしいタイトルを付けるセンスはやはり作家のものだな、と思います。他にもいろいろ理由はあったにせよ、主には専業作家となるために羊飼いをやめた、ひとりの女性の、とある期間の生き様の物語。ただやみくもなわけではなく、目標と過程をきちんと定めて突き進むその姿勢が、美しく、読むに値するものになっていたと思いました。
気になる方は、ぜひ!!!
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