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「江戸繁昌記 ニ篇」 13 混堂(ゆや)11

(散歩道のシコンノボタン)

迷走している台風10号が、海水温の高い海で発達して、やっと東へ動き出した。来週頭には東海、関東辺りに上陸して、日本海へ抜けるコースをとる模様である。家の周りには、外壁塗装用の足場が組まれているから、風が心配である。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

一日両浴、三銭、糠を費やす。熱を好む者。温を喜(この)む者。寒を療する者。浄を貪(むさ)ぼる者。千磨百剔、汚れを除き、光を放ちて、孰(いずれ)か、能く心を洗う。湯の盤の銘に曰う、苟(まこと)に、日に新たにして、また日新なり。庶幾は、都人心を併せて、これを滌(あら)いて、六根清浄ならんことを。
※ 両浴(りょうよく)- 朝夕、一日に2度風呂に入ること。
※ 千磨百剔(せんまひゃくてき)- 何度もえぐりとり、何度も磨きをかけること。
※ 庶幾(しょき)- こいねがうこと。切に願い望むこと。


混堂、或は湯屋(ゆや)と謂う。或は風爐屋(ふろや)と呼ぶ。堂の広狭(こうきょう)、蓋し常格無し。一堂を分画して、両浴場と作し、以って男女を別く。戸、各々一つ、両戸間に當りて、一坐所を作す。形、床の如くにして高く、左右下(くだ)し監すべし。これにして銭を収め、事を誡(いまし)める。これを伴頭(番台)と謂う。
※ 常格(じょうかく)- 常に定まった格式。
※ 分画(ぶんかく)- 分割して区画すること。


戸に並んで(かきね)を開き、の下に数衣閣(トダナ)を作し、の側に数衣架(タナ)を構ず。単席数筵(座敷)、筵を界してを施し、より室に至る中霤の間、尽(ことごと)く板地を作して、澡洗所と為す。半ばに当りて溝を通し、以って余り湯を受く。
※ 牅(よう)- かきね。
※ 闌(らん)- てすり。
※ 中霤(ちゅうりゅう)の間 -(「霤」は、あまだれ。)座敷と浴室の間に、板敷の洗い場がある。水に濡れることを前提にした板の間である。
※ 澡洗所(そうせんじょ)- 洗い場。


湯槽広がり、方九尺、下に竈(かまど)有りて爨ず。槽の側に穴を穿ち、湯を泻(つな)ぎ、水を送る。穴に近くして、井有り。轆䡎、水を上す。室の前面塗るに、丹艧を以ってす。半上はこれを牅にし、半下はこれを空にす。客、空所より俯(ふ)し入る。これを柘榴口(ザクログチ)と謂う。牅戸画くに雲物花鳥を以ってす。常に鎖して啓(ひら)かず。蓋し、湯気を蓄うるなり。
※ 爨ず(さんず)- 炊く。
※ 轆䡎(ろくろ)- 回転運動を利用する装置の総称。ここでは、釣瓶の滑車のこと。
※ 丹艧 -(意味不明)「舟用の赤い塗料」(?)


湯船のそばに井戸があったとは、想像もしなかったが、湯温を下げるためには水が必要であり、手っ取り早く水を得るには井戸がそばにあるのが便利である。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 12 混堂(ゆや)10

(散歩道のソライロサルビア)

先週に続いて、駿河古文書会に出席する。月に2回の会が後半に纏まったために続くことになった。さらに来週は9月の会が続くため、3週連続となる。しかも、来週は自分の当番である。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

晩に際して混雑、復た沸く。吊燈(ちょうちん)晃々として、真に白日の如し。なお偸兒に備えて、中央にまた高床を設け、更に一南郭を出す。左顧右省、蚤を撮るの眼を為す。
※ 晃々(こうこう)- キラキラと光り輝くさま。
※ 偸兒(とうじ)- ぬすびと。
※ 左顧右省(さこうしょう)- 左を見たり右を見たりして、周りの様子を窺う。


雪に砕ける竹、返魂香、枕辺の臂(うで)、松落ちざる緑、曲同じくして音異るに、音同じくして節(ふし)(こと)なり。時に鬨聲(トキノコエ)を揚げ、挟むに邪許の聲(キヤリ)を以ってす。水潑し桶飛ぶ。山壑、将に頽(くず)れんとす。方(まさ)にこの時にてや。湯滑かにして油の如し。垢を沸かし、を煎ず。衣帯狼藉、脚の投ず容(ひろ)き莫し。蓋し、蚤と蚤相食らうことを知る。
※ 山壑(さんかく)- 山と谷。山谷。
※ 膩(じ)- あぶら。あぶらあか。
※ 衣帯狼藉、脚の投ず容(ひろ)き莫し - 着物と帯がとり散らかって、足の踏み場もない。


女湯のまた江海を翻す。乳母と悪婆、喋々談じ、大娘小婦聒々話す。飽(あ)くまで、隣家の富貴を罵(ののし)り、細かに伍閭の長短を弁ず。わが新婦を訕(そし)り、わが旧主を訴(うった)う。
※ 江海(こうかい)- 大河と海。
※ 喋々(ちょうちょう)- しきりにしゃべること。
※ 大娘(だいじょう)- おばさん。
※ 小婦(しょうふ)- 若い嫁。おめかけさん。
※ 聒々(かつかつ)- 人声が大きく騒がしいさま。
※ 伍閭(ごりょ)-(「伍」は、五人組(向こう三軒両隣)。「閭」は村。)御近所や町内。


金龍山の観音、妙法寺の高祖、併せてその霊験に説き及ぶ。隣家の放屁も論じて、遺(のこ)すこと無し。既にして、甲夜を報ず。爨奴、早く槽底に向いて、枘(セン)を脱す。数客闌入す。伴頭、急に止めて曰う、既已に漏(もら)せり。(ヌケマシタ)客曰う、大いに事を敗けると。(オヽシクジリ)沈吟して去る。
※ 柝(き)- 拍子木のこと。
※ 甲夜(こうや)- 五夜の一。およそ今の午後7時または8時から2時間をいう。戌の刻。初更。
※ 爨奴(れい)- 三助。風呂屋の男の使用人。燃料を集め,釜を焚き,また特に洗い場で浴客のあかすり、肩もみを行った。
※ 槽底(そうてい)- 湯船の底。
※ 闌入(らんにゅう)- 許可を得ずにかってにはいりこむ。乱入。
※ 既已(きい)- すでに。もはや。
※ 沈吟(ちんぎん)- 考え込むこと。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 11 混堂(ゆや)9

(散歩道のヤゾウコゾウ)

マキノキの実を当地ではヤゾウコゾウという。これはまた、鈴なりのヤゾウコゾウである。通りかかった御近所の、地元出身のSさん、車を停めて、たくさん成ったねえという。子供の頃はよく食べた。もっとも、食べるにはまだ早い。黒くなるくらいに熟したら甘くなる。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

一裸、烟を吹きて坐す。顎を引いて下(おろ)し窺い、梯下の一人を指着して曰う、伴公看ずや。悪(にく)むべし。の湯水を乱用する者は、隣家の野郎なり。夫れ水なるは五行の一つ、これを乱用して可ならん。人間一日、水火無ければ、則ち死なん。豈(あ)に慎み用いざるべけんや。一を叩いて万を知る。人物この如く推知す。その金を惜まざるを、その火を戒(いまし)めざるを。将に一條の理屈を説出し来らんとす。
※ 叟(そう)- おきな。老翁。
※ 那(な)- あれ。あの。離れた人や物を指して言う語。
※ 五行(ごぎょう)- 五行説では、万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなるという。


伴公、面てを仰ぎて、壁間の題額を指示し、叟に訊ねて曰う、僕、未だ審(つまびらか)にせず。額面の文字は、所謂(いわゆる)俳句か、抑々(そもそも)狂歌か。叟曰う、俳歌これなり。狂歌は俗称なり。曰う、知らず。何の風味が有る。曰う、似て非なる者、究竟、趣無し。これ唐人の寐語ならず。日本人の寐語のみ。(都俗謂う。難解は曰く、唐人寐語。)
※ 風味(ふうみ)- そのものやその人などから受ける好ましい感じ。風情。
※ 究竟(くきょう)- 物事をそのきわみまで突き詰めること。 また、そのきわみ。究極。くっきょう。
※ 寐語(びご)- ねごと。たわごと。「ねごと」とルビあり。


世に解すべからざるもの有りて、これを為す。自ら大人と称す。大人の、大人たる所以(ゆえん)、全く理會(理解)し難し。公もまた、解すべからざる人。自己の有する所にして、何たるを解せず。嘆ずべきかな。公が職、冗(ヒマ)なり。今より少なく書を読め。

曰う、如何ぞこれに及ばん。僕、唐様を学ばんと欲して、未だ暇あらず。請い問う、当今誰をか能書と為する。曰う、所謂(いわゆる)烏賊、世間皆なこれなり。孰(いずれ)をか能書と為し、指頭、字を結ぶも、胸中、文字を立てず。
※ 能書(れい)- 字を巧みに書くこと。また、その人。能筆。
※ 烏賊(いか)- 烏賊は墨を持つが字を解さないことから、文字を書いても字の意味を解さない人に譬えた。
※ 指頭(しとう)- 指の先。ゆびさき。


並びに、達摩(ダルマ)の門人、且つ書は姓名を記するに足る。(拙筆、従来この語を宗(たっと)ぶ)これを為すは、彼を為すに如からず。公、少なく書を読め。

伴曰う、近ごろ千筵間に善く一大字を作す者有りと聞く。識らず、如(いか)ん。叟笑いて曰う、龍を屠(ほ)うることを学ぶ者は、学び得て用無し。これ亦、一叚、解すべからざる事。
※ 千筵間(せんえんま)- 「センジョウジキ」とルビあり。
※ 一叚(いっか)- 一時的な。余計な。


叟、自ら膝を進む。火頭(ガンクビ)の覆(くつが)えるを省ず。烟(たばこ)膝頭に墜(お)つ。叟、惶遽し、衆、失笑す(フキダス)。
※ 惶遽(こうきょ)- おそれ慌てること。「ウロタエ」とルビあり。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 10 混堂(ゆや)8

(散歩道のギョウジャニンニクの花)

ムサシが食べなくなり、獣医に見て貰ったところ、腸炎で、一日絶食させて、薬を処方してもらってきた。夕方の散歩もムサシ抜きでする。何枚か、花の写真を撮る。その一枚、毎年のように見て来た花だが、ギョウジャニンニクの花らしいと判明した。前は畑に植わっていたような気がする。栽培種なのだろうか。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

楼上また一南郭有りて、茶菓を売る。茶の、概ね山本山の(茶名)上に出ず。或は麦湯を煎ず。饅頭、羊羹、品、糠種、紅を陳(なら)べ、緑を累す。精製に非ずといえども、扭金阿市(並び、菓子名)の前日に比すれば、また餘甘有り。
※ 糝(しん)- こながき。米の粉をかきまぜて煮たてたあつもの。
※ 糠種(ぬかだね)- 糠漬けの漬け物。
※ 累す(るいす)- 積み重ねる。
※ 扭金(ねじがね)- 長方形を中央で一回ねじった形をした駄菓子。
※ 阿市(おいち)- 御市。落雁に似た駄菓子の名。


万能無二、(並び、膏薬名)相撲膏薬。楊木(ヨウジ)、歯粉(ハミガキ)を連ねて、満箱これを貯(たくわ)う。
※ 万能(まんのう)- 万能膏。あらゆるはれもの、傷などに効くという膏薬。
※ 無二(むに)- 無二膏。京都の雨森敬太郎薬房の膏薬。
※ 相撲膏薬(すもうこうやく)- 浅井万金膏。愛知県一宮市浅井町で製造・ 販売された膏薬。別名「相撲膏」。
※ 満箱(まんばこ)- 箱いっぱい。


失物、須(すべか)らく自ら戒(いまし)むべし。決して昼寝を許さず。(予に於いてこれを誅す)並びに署して、壁間に在り。
※ 失物(しつぶつ)- 「うせもの」とルビあり。

裸々一塊、相依りてを囲む。子(小)声、丁々喧嘩、道を争う。傍観、八着を贏(あま)る。当局、一迷を喫す。東南、風急なり。後辺に立ちて助声する者、睾丸を把(にぎ)りて、他の頂上に放在す。
※ 棊(き)- 囲碁。
※ 傍観、八着を贏(あま)る -「おかめはちもく(岡目八目)」とルビあり。
※ 放在(ほうざい)- 入れること。


裸々、並び臥(が)して、手、春畫本を翻(ひるがえ)す。看て妙処に到る。或は起つこと能わず。(青蛇、舌を吐く)
※ 春畫本(しゅんがほん)-「ワライボン」とルビあり。「春畫本」は、性的な描写だけでなく、ユーモアもあふれていたので「笑い絵」と呼ばれていた。

裸々団欒、紅緑泛食す。伴公、甚だ恐れる。他の算数を繆(あやま)らんことを。
※ 紅緑 - 前述の「紅を陳べ、緑を累す」を指している。
※ 泛食(ぼうしょく)- 色々広く食べること。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 9 混堂(ゆや)7

(大代川に映る夕陽)

これも昨日写したものである。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

男にして女様、糠を用いて精滌し、(面恐剥皮鉄面、何をか憂えん)人にして鴉浴、一洗、径(みち)に去る。
※ 精滌(せいじょう)- こまかく洗う。
※ 面恐(おもこわ)- 恐い顔。
※ 剝皮(はくひ)- 皮をむくこと。
※ 鉄面(てつめん)- 鉄面皮。恥を恥と思わないこと。厚かましいこと。
※ 鴉浴(あよく)- カラスの行水。


物有り、板を舐めて、青蛇、鱗を曝らし、包頭(カワカブリ)桶に触れ、玄亀、頭を縮む。


この文は、詳しく注を付けるのは止めた。

酔客、気を噓(ふ)いて、熟柿香を送り、漁啇膻を帯て、乾魚臭を曝す。
※ 熟柿香(じゅくしか)-熟柿のようなにおい。酒に酔った人の息のにおいを形容する語。。
※ 漁啇(ぎょてき)- 魚の素。(これは何だろう)
※ 膻(だん)- きも。
※ 乾魚臭(かんぎょしゅう)- 魚の干物の臭い。


一環の臂墨(イレズミ)。掩(おお)う所、有るが若(ごと)く、満身の花繍(ホリモノ)。赤裸、側に在るも悪(お)ぞ。よく浼(けが)さん。故(ふる)うに、これを示すに似たり。一撥、衣を振れば、汶々の受けるを欲せざるなり。
※ 一環の臂墨(いっかんのひぼく)- 罪人の腕の入れ墨であろうか。
※ 赤裸(せきら)- まるはだか。すっぱだか。
※ 汶々(もんもん)- くりからもんもん。入れ墨のこと。


浮石(カルイシ)踵(かかと)を摩(ま)し、両石、毛を敲(たた)く。衣を被(ひ)して、爪を剪(き)り、身を乾(かわ)かして、蚤を拾う。光頭一箇(ホウズアタマ)、乾々洗滌し、更に頂上に向いて、一桶水をにす。一人傍より絶叫して曰う、快し。相視て大いに笑う。
※ 乾々(けんけん)- 怠らず勤めるさま。「ごしごしと」位の意。
※ 倒(とう)- さかさま。


午末の際が伴頭倦昬嗒焉として坐睡す。南郭に隠る。模様想うべし。賓頭盧、屡々(しばしば)来客に撫(な)ぜらる。
※ 午末(ごまつ)- 昼下がり(?)。
※ 倦昏(けんこん)- 疲れて意識が薄れる。
※ 嗒焉(とうえん)- うっとりとすること。
※ 坐睡(ざすい)- 座ったまま眠ること。いねむり。
※ 南郭(なんかく)- 南の区画。
※ 几(き)- 机。
※ 賓頭盧(びんずる)- 十六羅漢の第一。白頭・長眉の相を備える阿羅漢。日本ではこの像をなでると病気が治るとされ、なで仏の風習が広がった。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 8 混堂(ゆや)6

(飛行機雲が目立つ、今日の夕空)

このところ、夕空ばかりを眺めている。台風1号がなかなか発生しなかった今年、帳尻を合わせるように、太平洋に幾つも発生し、次々に日本にやってくる。台風11号が去ったと思ったら、今朝は台風9号が関東を襲い、房総半島に上陸した。人が付けた順番など、自然界は頓着しないようだ。

オリンピックが終わった。メダル数が、金12個、銀8個、同21個、合せて41個、国別では6位。メダル数では過去最高であったロンドン大会の38個を3個上回った。

孫たちが去って、今日から外壁の塗装の業者が入った。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

全く業気を除して、自ら痴を知る。清音宛轉中、忽(たちま)ちの濁音を挟んで曰う、魂を返す、返魂香。名畫、霊有らば憐むべきの一隻語(カワイトタツタヒトコトノ)の如し。一声これを聴かしめよ。声大なり。
※ 業気を除して -「つとめぎ(務め気)はな(離)れ」とルビあり。
※ 宛轉(えんてん)- なめらかで、とどこおりのないさま。
※ 返魂香(へんごんこう)- 焚くとその煙の中に死んだ者の姿が現れるという伝説上の香。反魂香(はんごんこう)。
※ 隻語(せきご)- ちょっとした言葉。短い言葉。


(つい)で歌いて曰う、松は固より緑を落さず(トキワニテ)、薪と為すは桜と梅、誅焼(キリクべテ)始めて知る、衛士の火、庭燎、今夜君が與(とも)して来たる。
※ 衛士(えじ)- 護衛の兵士。
※ 庭燎(にわび)- 神事の庭にたくかがり火。


甲、乙を怒りて曰う、湯を用いる事、姑(しばら)く、徐々にせよ。我が頭は誕生仏に非ず。洗然たる一怒声、頓(とみ)啾音遏密す。寂たりや。適す(ちょうどその時)聞く。湯中に自然に声有りて、湧き上るを。蓋し、人の放屁するのみ。
※ 洗然たる(せんぜんたる)- さっぱりとした。
※ 啾音(しゅうおん)- 啼く音。
※ 遏密(あつみつ)- 鳴りものをやめて静かにする。


外面の浴客、位置、地を占め、各(おのおの)自ら垢を摩(ま)す。一人は大桶を擁し、爨奴をして、背を巾(ぬぐ)いしむ。人、両児を挟んで慰撫、頭を剃らす。弟は手に陶亀と小桶を弄す。兄は則ち已に剃らせり。側に在りて板面に巾(手ぬぐい)を布(し)き、舒巻、自ら娯(たの)しむ。
※ 爨奴(さんど)- 三助。風呂屋の男の使用人。燃料を集め、釜を焚き、また特に洗い場で浴客のあかすり、肩もみを行う。
※ 舒巻(じょかん)- のばし広げることと、まき固めること。


水舟に就いて嗽し、因って、睨(にら)め、板隙を窺(うかが)う。蓋し、更代藩士。(温泉宮、目前に在り。覗かざるを得ず)隅に踞して、盤を前にし、犢鼻(ふんどし)を洗濯す。曠夫なると知る可し。
※ 水舟(みずぶね)- 水槽。
※ 嗽す(そうす)- 口をすすぐ。うがいをする。
※ 更代藩士(こうたいはんし)- 参勤交代で江戸へ来た藩士。
※ 踞す(きょす)- しゃがむ。
※ 曠夫(こうふ)- 妻のいない男性。男やもめ。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 7 混堂(ゆや)5

(今日の夕焼け)

午前中、大賑わいであった我が家も、名古屋のかなくん一家が帰り、掛川のまーくんたちも帰り、孫たちの夏休みも終わったようなものである。夕方、久し振りにきれいな夕焼けを見た。しかし、明日は台風9号がやってくるようで、雨模様だという。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

且つ、短製犢鼻(ふんどし)の、越中と称するもの、古来これ有りて、然し世誤りて、公の意に出ると為す。要するに、また徳に帰するのみ。倹なるかな徳やなり。然り、而(しこう)して、無知の細民、これを長くするに止まらず、或は皺紗絹帛、紫を結んで紅を紆(あしら)うに至る。陰嚢は一身の命脈、陽茎は一生の要用かなといえども、これを襲するに、これを用いる。居士、私に恐るる。嚢裂け、茎折れしことを。
※ 倹なる(けんなる)- 安っぽい。
※ 細民(さいみん)- 下層階級の人々。貧しい人たち。
※ 皺紗(しゅうしゃ)- ちぢみ織り。
※ 絹帛(けんぱく)- 絹の布。絹織物。
※ 命脈(めいみゃく)- いのち。生命のつながり。
※ 要用(ようよう)- 必要なこと。
※ 襲する(しゅうする)- 覆う。
※ 私に(わたしに)- 私的に。個人的に。


姉、妹が(たぶさ)を仰ぎて曰う、誠に佳し。誰をしてこれを為さしむる。曰う、那(な)んぞ、阿清のみ。少く頭を顫(ふる)って曰う、彼が手、僻を成し髻根緊急、言い終らず、偶々男湯裏に向いて、耳朶を傾着して曰う、また例して源太を聞く。誠、厭(いと)う。何ぞ(誰)一人して、河東一中を唱うる無き。
※ 髻(たぶさ)- 髪の毛を頭の頂に集めてたばねたところ。もとどり。
※ 阿清(あきよ)- 清さん。(「阿」は、氏名等の前につけ、愛称をあらわす。~ちゃん。)
※ 僻を成し(へきをなし)- 癖がある。
※ 髻根緊急(たぶさねきんきゅう)- たぶさの根元をしっかり縛る。(「根合する」とルビあり)
※ 耳朶(じだ)- みみたぶ。みみ。
※ 源太(げんた)-「曲名」と注がある。常磐津に「源太」という曲名あり。
※ 河東(かとう)- 河東節。浄瑠璃の一種。(「河東」と「一中」合せて「並び曲名」と注有り。)
※ 一中(いっちゅう)- 一中節。浄瑠璃の一種。


隔壁声有り。詞に曰う、悦ぶべきも初見を奈(いか)ん。翠被、君に伴なう。遅々す、宜しく。他(の女)の明朝の弄(ろう)に、従(ま)かす。一味の野情嘉期を促す。却って枕辺に向いて、玉臂を引く。
※ 初見(しょけん)- 初対面。初めて合うこと。
※ 翠被(すいひ)- カワセミの羽でつくった着物。緑色のふとん。
※ 遅々(ちち)- 物事がすらすらと進まず、時間がかかること。
※ 一味の野情(れい)- 野暮。野暮な男。
※ 嘉期(かき)- よい時。
※ 玉臂(ぎょくひ)- 美しいひじ。玉のように美しいうで。


最後の部分は、聞こえてくる音曲を漢文に直したものだが、解読に大変苦労した。妓が一見の客をあしらっている内容だと思うが、理解して貰えたであろうか。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 6 混堂(ゆや)4

(散歩道のタマスダレ)

午後、金谷宿大学、「古文書に親しむ」へ出かける。五輪のテレビ観戦で、皆、お疲れの様子。その五輪、男子400メートルリレーの銀メダルは感動的であった。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

既にして女湯もまた発す。屐音班々、金振るい、玉砕く。横坊の声、妓、左(ひだり)に紫を褰(から)げ、新道の外妾、斜めに碧帯を垂れる。紅姉粉妹爨婢を連れて並び、伴公に就いて糠袋を買う。
※ 屐音(げきおん)- 下駄の音。
※ 班々(はんはん)- あざやかではっきりしているさま。(正しくは王偏に將、何とよむのか?)
※ 横坊(よこぼう)-「坊」は、方形にくぎられた町の区域。市街。まち。「横坊」は、横丁の意。
※ 裳(も)- 平安時代以後の女房の装束で、腰部から下の後方だけにまとった服。
※ 外妾(がいしょう)- 自宅以外に住まわせているめかけ。
※ 紅姉粉妹(こうしふんまい)- 紅と白粉の姉妹。
※ 爨婢(さんぴ)-「オサンドン」とルビあり。
※ 伴公(ばんこう)-(「公」は、人名の略称などに付いて、親愛の情、または軽い軽蔑の意を表す。)「伴公」で、「番頭」を指す。
※ 糠袋(ぬかぶくろ)- 糠を入れた布袋。肌を洗うのに用いる。


笑語喧鬨、湯中、一派の波を湧(わ)かす。一浴して出て、皆な外板上に在りて澡(あら)う。鶏卵の皮を脱するは、皓顔の紅を拭(ぬぐ)うなり。白蓮の漣󠄁(さざなみ)に濯(あら)うは、玉臂、粉を剔(えぐりと)るなり。惜むべし、瑠璃の露、江戸の水、(並匳漿)一洗して余香を滴(したた)らす。
※ 笑語喧鬨(しょうごけんこう)- 笑い声や喧しい声。
※ 皓顔(こうがん)- 白く汚れなく輝いている顔。
※ 玉臂(ぎょくひ)- 美しいひじ。玉のように美しいうで。美人のひじの形容として用いる。
※ 江戸の水(えどのみず)- 文化8年(1811)、式亭三馬が売り出した化粧水。
※ 並匳漿(なみれんしょう)-(「匳」は「くしげ」、櫛や化粧道具を入れておく箱。「漿」は濃い汗。)「いずれも、化粧水」の意。


思う、渭水(あぶらあか)の漲(みなぎ)らん。真に是れ一面の温泉宮。聞く、往時は男女同浴、混雑、別け無し。賢執越公に及びて、停止、別けならしむと。仰(あお)ぐべし。今、人の別湯に浴する者は、公の余沢に浴するなり。
※ 渭水(いすい)- 黄河支流の一つ。陝西省中央部を流れる川。流域の渭水盆地は中国古代文明の中心の一つで、秦・漢以来は「関中」とよばれ、歴代王朝の都となった長安(西安)がある。
※ 膩(あぶらあか)- 油じみてべたつく垢(あか)。
※ 温泉宮(おんせんぐう)- 中国陝西省西安の南東の驪山(りざん)にあった離宮、華清宮のことか。唐初に太宗が造営した温泉宮。玄宗が楊貴妃を連れてしばしば訪れた。
※ 混雑(こんざつ)- 物事が無秩序に入りまじること。
※ 余沢(よたく)- 先人が残してくれた恩恵。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 5 混堂(ゆや)3

(新東名を帰る)

午後、駿河古文書会で、静岡へ出かけた。今日の課題は大変難しく、オリンピックのテレビ観戦に時間を取られて、後半2ページほど、予習を諦めて出席した。当番も、なかなか判断が難しい所が幾つかあって、解読に苦労があったようだ。

古文書会からの帰りに、松坂屋へ寄って、デパ地下で、日曜日に帰る、かなくん達に御馳走するために、お寿司を買って帰った。支払いは、手元にあった商品券を使った。

帰る途中、東名の事故で、東名を降りた車が国一バイパスに集中して、渋滞が起きていた。夕食に間に合わなくてはと思い、藤枝で新東名に乗り換えて帰った。新東名は空いていて、思いの外、早く帰宅出来た。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

浴室は今も昔も声が響いて上手に聞こえるのであろう。ついつい喉自慢も出ようというものである。

室内声高く有り、唱えて曰う、君を候(待)ち、君を候(待)ちて、蚊帳の外に在り。丁鐘、暁を報ずるも、妾(わらわ)が心、豈(あ)に悔(くや)まんや。
※ 君を候(待)ち、君を候(待)ちて -「おまえをまちまち」とルビあり。江戸時代天保二年頃流行した「はねだ節」に、「おまえをまちまち蚊帳の外」という歌詞がある。「蚊に食はれ 七つの鐘のなる迄は こちやかまやせぬ かまやせぬ」と続く。「こちゃえ節」といい、曲は「お江戸日本橋七つ立ち」と同じ。
※ 丁鐘(ちょうしょう) - 町の鐘。時の鐘のことであろう。


清声更に高し。曰う、竹、雪に碎(くだ)けり。雀、飢えに苦しむ。暁寒、骨を侵(おか)す。如奈(いか)んぞ遣(や)り帰さん。
※ 竹、雪に碎(くだ)けり。雀 -「ゆきおれささにむらすずめ(雪折れ笹に群雀)」とルビあり。端唄「雪折れ笹」に、「雪折れ笹に群雀、今朝の寒さに帰らりょか、たとえ年季の増せばとて」という歌詞がある。

暁、湯沸し易く、熱を訴えて児啼く。便(すなわ)ち、板壁を鳴らして水を呼び、送り瀉(そそ)がしむ。熱を好む者、憤(いきどお)り出で、曰う、(しっ)、敗せり。好湯、頓(にわか)曝潦と成り。
※ 叱(しっ)、敗せり -「いまへましい(いまいましい)」とルビあり。
※ 曝潦(れい)-「ヒナタミズ(日向水)」とルビあり。「潦」は「にわたずみ」雨が降って地上にたまったり流れたりする水のこと。


混雑、朝を崇(お)え、飄風漸く止む。暫時、客罕(まれ)なり。伴頭始めて朝食に就く。
※ 飄風(ひょうふう)- 急に激しく吹く風。つむじかぜ。はやて。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 4 混堂(ゆや)2

(雨雲が降りて来る)

昨日、太陽が沈んだ同じところに、今日は雨雲が降りてきた。オリンピックテレビ観戦疲れである。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

湯屋の戸が、いよいよ開いた。

一人、左右を顧みれば、則ち驚いて曰う、闢(ひら)けたり。二人相與(とも)に、験(ため)して、衝き入る魚鱗雑襲。欲客、武を接す
※ 雑襲(ざっしゅう)- 多くのものが入り乱れて重なる。
※ 武を接す -(「接武」はすり足のこと)すり足で歩く。


睡気未だ除かれず。欠(あくび)し、かつ撫する者。頂きに手巾を安(やす)んじ、浴衣を挟み抱く者。口吻を裂きて、楊枝を使う者。寝衣(ねまき)にして束帯せざる者。燭炬に鼻薫する者は、蓋(けだ)し、事有りて徹夜するなり。(懐中、僅か湯銭を余す)
※ 眶(まぶち)- 目のふち。また、まぶた。
※ 撫する(ぶする)- なでる。
※ 手巾(しゅきん)- 手ぬぐい。
※ 口吻(こうふん)- 口さき。口もと。
※ 束帯(そくたい)- 男子の正式の朝服。ここでは、「昼間の衣服」の意。
※ 燭炬(しょくきょ)- かがり火。
※ 事有りて徹夜 - 徹夜したのは博奕であろう。すってんてんで、湯銭しか残らなかった。


頭額、重きが若き者は、なお宿醒を帯るなり。(喉中、未だ一粒米を下す)肩を翕(あ)わせ、を上下する者、瘡癢を爪するなり。懐抱を摸索する者、蚤児(のみ)捫する。児を擕(たずさえ)て往き、爺を扶(たす)けて至る。
※ 臂(ひ)- うで。
※ 瘡癢(そうよう)- できものと、皮膚のむずがゆい病気。
※ 懐抱(かいほう)- ふところ。
※ 摸索(もさく)- 手さぐりで探し求めること。
※ 捫する(もんする)- ひねる。


混浴雑澡、頭、陰嚢を搶(つ)き、尻、眉額に上り、背が背と軋(きし)り、脚が脚と交わる。冷え物相報じ請う、恕(ゆる)せよ
※ 雑澡(ざっそう)- 入り混じって洗うこと。
※ 冷(ひ)え物相報じ - 冷たい身体の一部が、暖まった相手の身体に触ること。(浴堂内通語)と注がある。
※ 請う、恕(ゆる)せよ -「ごめんなさい」とルビあり。


冷えた身体が温まった体に触る感覚は、混んだ銭湯を経験したものでなければ解らないだろう。そんな些細なことに、謝る所作が、100万都市江戸の平和を守って来た。

互に田舎人(通語)と称す。彼は南無阿弥と唱え、此は妙法蓮華と念ず。南無阿、南無妙。伴頭、甚だ恐れる。人のこれにおいて成仏せんことを。
※ 通語(つうご)- 世間一般に使用されている言葉。


ここで死なれりゃ、番頭さんもたまらない。
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