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「江戸繁昌記 ニ篇」 4 混堂(ゆや)2

(雨雲が降りて来る)

昨日、太陽が沈んだ同じところに、今日は雨雲が降りてきた。オリンピックテレビ観戦疲れである。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

湯屋の戸が、いよいよ開いた。

一人、左右を顧みれば、則ち驚いて曰う、闢(ひら)けたり。二人相與(とも)に、験(ため)して、衝き入る魚鱗雑襲。欲客、武を接す
※ 雑襲(ざっしゅう)- 多くのものが入り乱れて重なる。
※ 武を接す -(「接武」はすり足のこと)すり足で歩く。


睡気未だ除かれず。欠(あくび)し、かつ撫する者。頂きに手巾を安(やす)んじ、浴衣を挟み抱く者。口吻を裂きて、楊枝を使う者。寝衣(ねまき)にして束帯せざる者。燭炬に鼻薫する者は、蓋(けだ)し、事有りて徹夜するなり。(懐中、僅か湯銭を余す)
※ 眶(まぶち)- 目のふち。また、まぶた。
※ 撫する(ぶする)- なでる。
※ 手巾(しゅきん)- 手ぬぐい。
※ 口吻(こうふん)- 口さき。口もと。
※ 束帯(そくたい)- 男子の正式の朝服。ここでは、「昼間の衣服」の意。
※ 燭炬(しょくきょ)- かがり火。
※ 事有りて徹夜 - 徹夜したのは博奕であろう。すってんてんで、湯銭しか残らなかった。


頭額、重きが若き者は、なお宿醒を帯るなり。(喉中、未だ一粒米を下す)肩を翕(あ)わせ、を上下する者、瘡癢を爪するなり。懐抱を摸索する者、蚤児(のみ)捫する。児を擕(たずさえ)て往き、爺を扶(たす)けて至る。
※ 臂(ひ)- うで。
※ 瘡癢(そうよう)- できものと、皮膚のむずがゆい病気。
※ 懐抱(かいほう)- ふところ。
※ 摸索(もさく)- 手さぐりで探し求めること。
※ 捫する(もんする)- ひねる。


混浴雑澡、頭、陰嚢を搶(つ)き、尻、眉額に上り、背が背と軋(きし)り、脚が脚と交わる。冷え物相報じ請う、恕(ゆる)せよ
※ 雑澡(ざっそう)- 入り混じって洗うこと。
※ 冷(ひ)え物相報じ - 冷たい身体の一部が、暖まった相手の身体に触ること。(浴堂内通語)と注がある。
※ 請う、恕(ゆる)せよ -「ごめんなさい」とルビあり。


冷えた身体が温まった体に触る感覚は、混んだ銭湯を経験したものでなければ解らないだろう。そんな些細なことに、謝る所作が、100万都市江戸の平和を守って来た。

互に田舎人(通語)と称す。彼は南無阿弥と唱え、此は妙法蓮華と念ず。南無阿、南無妙。伴頭、甚だ恐れる。人のこれにおいて成仏せんことを。
※ 通語(つうご)- 世間一般に使用されている言葉。


ここで死なれりゃ、番頭さんもたまらない。
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