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「エコエコアザラク」

 

 日本のホラー漫画界のレジェンド、古賀新一氏の数多作品の中でも、世間一般に一番有名な作品が「エコエコアザラク」でしょう。本来魔女である美少女·黒井ミサが活躍する、怪奇漫画「エコエコアザラク」は1975年9月の週刊少年チャンピオン誌上で始まり、79年4月まで大長編連載され、新書判コミックスで全19巻まで刊行されました。また続編が80年代以降、同じ秋田書店発行の、月刊少年チャンピオンや月刊サスペリアに連載されました。

 「エコエコアザラク」シリーズの主人公·黒井ミサは、ふだんは女子中学生だったり、続編では女子高校生ですが、隠された真の姿は黒魔術を操る魔女であり、黒井ミサ自体に苛めや暴力など危害を加える相手、または学校や街で不良行為を行い誰彼なく迷惑を掛けてる学生、女性に痴漢行為をする大人の男、平気で犯罪を行う奴ら、殺人も厭わない凶悪非道な連中、妬み嫉みが強く意地悪で根性のねじくれた女、または単純に自分の欲の強いエゴイストな者などが、黒井ミサの使う黒魔術の餌食になって、最後は残酷な目に合う、ある種、悪を懲らしめる痛快な面もあるホラー漫画です。

 「エコエコアザラク」の主人公、黒井ミサが黒魔術を使って悪人や不良を懲らしめる行為はある種、天罰みたいな面もありますが、特に悪人とまでは思えない普通の人が欲を出したばっかりに、黒井ミサの黒魔術の餌食になるような内容もありますね。そういう点では藤子不二雄A 先生の「笑うせえるすまん-黒いせえるすまん-」にも、内容のベースが似た面があるかも。またお話に依っては、凶悪犯に無惨に殺された若い女性の無念の霊魂が、黒井ミサの身体に乗り移り、黒井ミサの黒魔術を使って凶悪犯に復讐し、残酷な殺し方で思いを遂げる、というようなエピソードもありますね。

 黒井ミサが黒魔術を使って悪人や不良を懲らしめる、といっても懲らしめられるくらいじゃとても済まない、残虐な方法で、それこそ八つ裂きみたいなやり方で酷い死を与えられることも多い。そこがホラーなんですけど。黒井ミサは中学校や高校の正体不明の美少女転校生で、学校が舞台のことも多いのですが、お話に依っては黒井ミサは夜のガード下の闇の中で辻占い師をやっており、学校でも街中でも黒井ミサに関わった者たちには、みんな不幸が訪れる。それも残酷な目に合う、ウルトラ級の不幸が。

 古賀新一先生のペン捌きの、細い線を駆使して描く緻密な画面、背景から人物の表情まで、特に妖魔に襲われて恐怖に歪む表情や、魔物に執り憑かれて顔貌が不気味に膨れたり歪んでしまった表情、などなど本当に気持ち悪い画面を描き出す画力は、恐怖漫画のレジェンド·楳図かずお先生と双璧と言って良いくらいのものですね。

     

 古賀新一先生と言えば一番に代表作として挙がるのが「エコエコアザラク」だろうし、その次に挙がるのが貸本漫画からメジャーの少女雑誌に移った頃の、「へび少女」や「くも少女」もの、あるいは80年代90年代のホラー漫画雑誌に掲載された珠玉の怪奇短編作品かも知れない。でも僕に取っての日本怪奇漫画界のレジェンド、古賀新一は僕が子供の頃の、ひばり書房·つばめ出版が刊行していた貸本漫画の怪奇オムニバス誌、「オール怪談」「怪談」で巻頭カラーを飾っていた不思議な物語のホラー短編漫画だ。子供の頃、古賀新一先生のホラー短編漫画は本当に怖くて、だけど魅力的で、毎月「オール怪談」「怪談」収録の怪奇掌編を楽しみにしていた。

 貸本時代の「オール怪談」を出していたひばり書房と「怪談」を出していたつばめ出版は、姉妹企業だとも同じ会社だとも言われてます。両貸本オムニバス誌ともだいたい1958年から67年頃まで発刊され、だいたい月一巻発行で約10年間に「オール怪談」が84巻まで「怪談」の方が101巻まで刊行されました。

 「オール怪談」「怪談」共に怪奇漫画の短編を四、五作品収録という編集内容は全くと言っていいほど同じで、短編集に描いている当時の漫画作家さんのメンツもほとんど同じでした。内容は怪奇·恐怖·ホラー風味のSF とファンタジー、ホラー風味のアクション劇画で全てA 5 貸本誌、主に僕が愛読していた頃はだいたい128P から136P の中に、20P から50P の短編漫画が収録されてました。僕が貸本漫画を読み始めた63年より以前に刊行された両誌には、もっと分厚いのもあったみたいですけど。

 貸本誌「オール怪談」「怪談」に収録されるホラー短編は、現代劇も時代劇もあって、古賀新一(しんさく)先生は主に現代劇のホラー漫画を描いてました。当時の両誌の巻頭カラーを飾っていた漫画家は、僕の記憶する限り、古賀新一、浜慎二、小島剛夕の三氏が多く、浜慎二先生も現代劇怪談で、小島剛夕先生はほとんど時代劇だった。ひばり書房の貸本誌の巻頭カラーページは巻頭8ページで四色カラーでしたね。ちなみに東京トップ社刊の貸本誌は巻頭16ページ四色カラーで、大阪日の丸文庫の貸本誌は巻頭16ページ二色カラーだった。

 子供の頃の僕はほとんどと言っていいくらい毎日、貸本漫画を二冊借りて来て読んでたけど、好んで絵の上手い漫画を愛読していて絵の下手な漫画は読み跳ばしていた。貸本漫画は玉石混淆で絵のヘタクソな漫画家も多かった。古賀新一·浜慎二·小島剛夕の三氏は抜群に絵の上手い漫画家で、古賀新一·浜慎二の絵柄は当時大好きでしたね。

 小島剛夕さんというと、後の「子連れ狼」他の時代劇剣豪アクション劇画で一世を風靡するくらいの大人気漫画作家になる訳だけど、貸本時代の小島剛夕さんも人気が高かった。「オール怪談」「怪談」の巻頭カラー作品も時代劇の怪談掌編をよく掲載していた。貸本時代の小島剛夕作品は時代劇の悲恋ものが多くて、「オール怪談」「怪談」に載せる話も例えば「牡丹灯籠」みたいなものが多かったと思う。女の幽霊が出て来る恋愛に絡めた恨み話とか。

 僕が貸本の「オール怪談」「怪談」を愛読していた時代って、僕の6歳~11歳の頃だから、貸本漫画も絵が上手くて解りやすいお話が好きだった。古賀新一·浜慎二のホラー漫画は絵も上手いが、怖い話が単純明快で子供でも解りやすかった。あの頃の小島剛夕作品は恋愛がテーマだったから、子供の僕には解りにくかったんだと思う。小島剛夕さんは絵が上手いというのはよく解るのだが、あの絵柄に子供時分の僕は馴染めなかったなぁ。

 「怪談」「オール怪談」レギュラー漫画家陣の中では、いばら美喜氏もときどき巻頭カラー作品を描いていて、突飛なアイデアのホラー漫画も多かったが、アクション劇画調の絵もうまくて、当時は僕は、いばら美喜さんのホラー短編漫画はけっこう好きだったな。「えぇっ!?」って驚くような、怪奇ものだけど笑えるアイデアも多かったように思う。

 

  貸本時代の古賀新一先生は貸本初期の頃は作家名義を“古賀しんさく”と名乗っていて、当時の貸本漫画の人気ジャンルでは、日本国内なのに拳銃バンバン撃って活躍する若い私立探偵のアクション劇画が流行っていて、各人気貸本漫画家それぞれがヒーロー探偵を作り出していた。貸本時代後半はホラー漫画専門のような作風になる古賀新一先生も、古賀しんさく時代には独自のヒーロー探偵ものを描いていた。「新吾シリーズ」というハードボイルド探偵アクション劇画で、貸本の単行本で12巻まで続いた。

 「新吾シリーズ」は僕も貸本で読んでた記憶があります。基本、拳銃バンバン撃って悪者を退治するハードボイルド·アクション劇画なんだけど、この当時から既に作風にホラー色が出ていたと思う。そういう意味ではちょっと“いばら美喜”さんとも似たテイストがあったかな。

 漫画家名義を“古賀新一”に統一する以前の貸本時代は、“古賀しんさく”の他に本名である“古賀申策”名義で描いていたこともありますね。貸本初期のアクション劇画の時代の絵柄は後のホラー漫画のタッチとはかなり違う絵柄で描いてますね。“初期のさいとうたかを”を彷彿とさせる貸本アクション劇画のタッチですね。当時の貸本アクション劇画で人気のあった、さいとうたかを·南波健二·旭丘光志·沢田竜治·江波譲二のような、太くて力強い線でけっこう荒々しいタッチでしたね。

 2018年3月、古賀新一先生はお亡くなりになりました。2018年3月1日に81歳でこの世を退場して、手塚治虫先生、水木しげる先生他、たくさんの日本漫画界の大レジェンドたちが星となってる漫画の大星団に行かれて、その星の一つとなられました。戦後の日本独自の文化である日本コミックの世界を作り、昭和の漫画文化が花開いて最初の隆盛の時代を作った、黎明期から昭和時代の日本漫画史レジェンドたちは、もうかなりの先生方が夜空に輝く漫画の星となられましたが、日本コミック文化の創成期から昭和の隆盛期、怪奇漫画ジャンルを楳図かずお先生らと共に作り上げた古賀新一先生も、日本漫画史のホラー漫画ジャンルに名前を残すレジェンド漫画家ですね。

 エコエコアザラク(1) (少年チャンピオン・コミックス) Kindle版 古賀新一  (著)

エコエコアザラク(2) (少年チャンピオン・コミックス) Kindle版 古賀新一 (著)

エコエコアザラク 全19巻完結(ホラーコミックススペシャル) [マーケットプレイス コミックセット] コミックス

小説 エコエコアザラク (APeS Novels) 単行本 岩井志麻子 (著)

エコエコアザラク 10 (少年チャンピオン・コミックス) コミックス 古賀 新一 (著)

エコエコアザラク(19) (少年チャンピオン・コミックス)Kindle版 古賀新一 (著)

エコエコアザラク 文庫版 コミック 1-10巻セット (ザ・ホラーコミックス) 文庫 古賀 新一 (著)

エコエコアザラク (6) (ザ・ホラーコミックス) 文庫 古賀 新一  (著)

 貸本漫画から出発して、貸本誌でアクション劇画や怪奇ホラー漫画を描いていた古賀新一氏は、1964年の週刊マーガレットに少女向けのホラー漫画「白へび館」を連載し、そこから主に集英社の月刊·りぼんや週刊マーガレットに「へび少女」「くも少女」系の少女怪奇漫画を掲載し続けて、少女漫画愛読者の人気を得ます。「へび少女」や「くも少女」ものだけでなく、吸血鬼や人面疽、人喰い鬼婆などなどの恐怖の怪物から、小学校高学年から中学生くらいの美少女が襲撃され追い回され、逃げ惑うお話を数多描き上げて、当時の少女から若い女性の読者に大人気でしたね。

 また、古賀先生の作品が、60年代半ばから後半の時代、少女漫画雑誌で美少女ホラー漫画が大ウケしていた頃、少年画報社発行の週刊少年キング誌上の「人間怪獣トラコドン」や江戸川乱歩のスリラー雰囲気のサスペンス作品を、古賀新一流のホラー漫画タッチで描いた中編作品など、当時の少年漫画雑誌にも怪奇ホラー漫画の中編·短編をいっぱい掲載していました。

 80年代の半ば頃から90年代、「サスペリア」や「ハロウィン」などの、少女や若い女性を主な読者対象とした怪奇ホラー漫画専門誌がいっぱい発刊されましたが、そういった雑誌にもたくさんの怪奇ホラー漫画の短編を掲載されてましたね。

 90年代後半に発刊された角川ホラー文庫の「死霊の叫び-古賀新一恐怖傑作集」には珠玉の怪奇ホラー漫画の短編が詰め込まれてて、この短編漫画集は絶品ですね。恐怖漫画のアイデアといい細い線を駆使して緻密に描いた画力といい、この上ない恐怖感を醸し出しています。またホラー漫画には、怪奇とギャグは隣り合わせという感覚も含んでいますから、ブラックユーモア的に思わず笑ってしまう部分もあって楽しいですね。

 「エコエコアザラク」が週刊少年チャンピオンに連載されていた時代、僕は東京·羽田空港の職場に勤めていて、僕自身も若かったけど僕よりも一つ二つ三つくらいの年下の後輩社員が、よくジャンプやチャンピオンを買って来て読み捨てのように職場のロッカールームに置いてたので、当時、僕はこの漫画本、特に週刊少年チャンピオンをほとんど毎週(タダで)愛読してました。このとき雑誌連載で「エコエコアザラク」は読みましたね。

 また80年代後半、僕はもう東京の会社を辞めて生まれ故郷に帰って来てましたが、この時分、秋田コミックス·セレクトのB 6判の分厚い「エコエコアザラク」の単行本で二、三冊読み返してます。80年代後半には秋田書店発行の怪奇ホラー漫画専門誌「サスペリア」に「エコエコアザラク2」が掲載されていたので、連載を毎回読んだ訳ではないけど、「エコエコアザラク2」も読んでますね。

 漫画本編「エコエコアザラク」の雑誌初出連載は75年から79年までの間なので、本来「エコエコアザラク」の当ブログ内カテゴリ分けは「70年代漫画作品」なんですが、僕がコミックスでちゃんと読んだのは80年代だし、80年代には「エコエコアザラク2」も雑誌連載されてたし、本編もコミックスで売れ続けて人気があったし、80年代には「エコエコアザラク」の文庫版や豪華版も発行されたし、「エコエコアザラク」は90年代に入ってから何度も実写映画化され、また実写のテレビドラマにもなった。90年代も「エコエコアザラク」のコミックスは売れてたんですが、ここは「エコエコアザラク」の当ブログ内のカテゴリ分けは「80年代漫画作品」としました。

 


 
 
 

 

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