河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2400- 大澤壽人、コントラバス協、佐野央子、神風、福間洸太朗、交響曲第1番、ヤマカズ、日フィル、2017.9.3

2017-09-03 22:23:38 | コンサート

2017年9月3日(日) 3:00-5:20pm サントリー

オール・大澤壽人プログラム

コントラバス協奏曲(1934) wp  8-3-4-2+9′
  コントラバス、佐野央子  アルト・サックス、上野耕平

ピアノ協奏曲第3番変イ長調 神風協奏曲(1938)  10-8-7′
  ピアノ、福間洸太朗

Int

交響曲第1番(1934) wp  17-13-14

山田和樹 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団


名前の読み方が確定していないというあたり、これまで今ひとつうったえかけに弱かったのかもしれないなどと思うところはあれど、その名前は見かけても作品は聴いたことが無いという安穏とした無関心が正当化されるわけでも無し。

一人の日本人作曲家作品で埋め尽くされたオーケストラ演奏会。大規模な作品が三つ。うち二つが初演もの。指揮者、オケ、ソリスト、用意万端、これ以上望めないようなラインナップ。毎年恒例のサントリーのサマーフェスティバルならではの企画とはいえ大したもんだ。驚きの企画には快挙快挙の演奏で応える。エポックメイキングなコンサート。大変に充実した内容の演奏会でした。

そもそもコントラバスのコンチェルト、これまで聴いたことがあったのかどうか、あったとしてもたぶん1回2回。この日は作曲者1934年の作、世界初演を女性ソリストで聴く、この醍醐味。聴く前からスリリングでエキサイティング。1曲目からド派手なプログラミングですな。
5楽章3部形式で1楽章、2-3楽章、4-5楽章の三束。タイミングはおおよそ曲目欄に記した通り。クーセヴィツキにデディケートされたものとのこと。さもありなん。
3部形式とは言え明確に楽章毎にポーズが入る。終楽章への入りがアタッカ気味であったことを除けば。
両端楽章の規模がデカい。全楽章、型は良く決まっている。他の2作品でも同様ですね。
型にはまっている感じはないがそういった構造部分でのトリッキーなところはないので聴くほうとしてはプログラム冊子の解説は短いなりにかなりの手助けになる。
第1楽章冒頭から太いなめし皮のようなコントラバスサウンド、やや明るめで強靭。ビンビンくる。息つく間も無くその魅力のとりこになる。底の方から太く明るい音が湧き出てくる。
メロディーラインは探してもなかなか出て来ずなのだが、この演奏現場を観ているそのことの興奮がそういったことを打ち消す。コントラバスの深みのあるサウンドからチェロ、ヴァイオリン風な高音までしなやかな演奏。ピッチが正確で緩み無し。
総じて、ソロのときオーケストラは静まる。音楽は進む。作曲家というものは大したものだ。
低音で進行するソナタ形式は迫力ありますね。ドイツ音楽的な重さはまるで無い。伴奏の息も総じて短いライン。これは後続2作品も同様ですね。
第2,3楽章は短くてあっという間。モノローグとアリアとなっているものの何やら短いエピソードが軽く挟まれているといった感じ。ここだけでなく全般にわたりジャパニーズ風味は殊更感じない。他2作品も同様。むしろ忘れさせてくれる。
キュインキュインと四分音は自然に音楽として溶け込んでいて妙な違和感はない。佐野さんのプレイが光る。
3部第4楽章は終楽章への序奏のよう。後付けになるけれどもこの後の2作品、ソナタは序奏が付いていて、この4楽章もそのような位置づけと見える。この作品中、一番長い終楽章は形式の中に空白ができカデンツァ技を満喫できる。
佐野さんはこの楽器を自由自在に操る。まことに素晴らしい表現力。抱え込んで弾く高音、背を伸ばしビーンと鳴らす低域の幅、楽器が小さく見える。
世界初演、日本再発見、ふさわしい内容の作品と演奏でした。スバラシイ。

と、ここまで1曲だけなのだが、再発見、発掘という苦労はいかばかりかと思う。初めて演奏するという事は楽譜を探し出して揃えてチェック、検証して、整理して整える。ニッポニカさんがやっているように初演するという事は資料としてきっちり整えることであり、色々と大変な作業だと思う。そして、音として具体化する最大の仕事がある。
大澤作品が昔演奏されていた時代があり流行らなくなり今こうやってまた脚光を浴びつつあるのか、それとも文字通り発見したから、という出来事なのか、判然としないところがあるのだけれども、片山さんの言う、再発見‘戦前日本のモダニズム’は再ではなくどうも文字通り発見なのかもしれないという気もする。それから、固定観念を生みそうな戦前という形容詞を省いても良かった。戦争の出来事に左右されるところにいなかった、もしくはそのようなことを考えることをしなくてよかった大澤の作品の香り。1930年代中期の佳作。
私たちがあらためて認識したことを発見したのか、見つからなかったものを発見したのか。忘れられた作曲家とあるので、忘れられた事の意味を知る必要がある。

2曲目はピアノ協奏曲。ソリストは福間さん。タブレット譜面での演奏。こちらの作品は初演ではなくて割と取り上げられている作品の様ですね。初演ものでタブレットとかいったら聴くほうはちょっと心配、みたいなところもあるけれども著名ピアニスト、今更この手の問題はないのだろう。
2楽章のサックスソロは上野耕平さん。布陣は整いました。
副題は神風特攻隊とは関係がない、時代が前後していますし。飛行機のことを言っているようではあるが。

10列目付近のかぶりつきに近い席。ピアノ鍵盤側。第1楽章冒頭いきなり派手なグリサンドが何度も出てくる。プロペラ機の音なのか。もう、ランディングしてもいいような勢いだ。
この作品も型が決まっている。そのことを頭の隅に置きつつ演奏を楽しめばよい。
日本くささがない作品でドイツぽい重心の深さと刻み込みも無い。フランス風味と言えばそうかもしれない。第1楽章の目まぐるしく動くピアノ、伴奏は上澄みのようだ。
緩徐楽章の上野さんのサックスはラウンド・ミッドナイトな世界にはいっていくような雰囲気だが、ピアノはラヴェルの二つのピアノコンチェルトの緩徐楽章モード。洒落た世界で品と落ち着きがある。
終楽章のコーダに向けた力感に作為的なところは無くて、やはり型を作り、流れを作っていく。曲を通してあるモットー音型を前面に出しつつきっちりと音楽を整えていく。ヤマカズ&日フィルの几帳面な演奏が光る。ピアノとオケは激しさを増し爆発的に終わる。お見事。
福間さんの素晴らしいピアノ。サントリーは7か月にわたる改修が終わり、9月1日より再スタート。この日は1日に続き2度目のサントリー訪問でしたけれども、初ピアノ音を聴きました。以前のようなもやもやと焦点の定まらないバシャっとした感じが緩和されていたように思う。福間さんのピアノによるところがあるかもしれない。粒立ちが良い、それにひとつずつの音がクリアで明快に聴こえてくる。和音もきれい。そう快な演奏を後押し。

神風終楽章カデンツァでみんな耳をそばだてて聴いているところに、ジジイのバカでかいくしゃみひとつ。ヤマカズがびっくりして肩をすくめている。それをみたジジイが苦笑い。もう金輪際来るな。
静かさを、ぶち壊しにくる、あほジジイ(字あまり)

休憩を挟んで後半、世界初演の交響曲第1番。3楽章形式。大編成な曲。40分を要する大規模な作品。聴く前の気分としてはフルトヴェングラーの交響曲第1番の実演を聴いた時のような気持ちとなる。あれは80分の大技だったけれども、今回なにやら雲をつかむようなあたりに、似たアトモスフィアを感じた。気持ちの思い起こしかも知れない。

フルヴェンのドイツデモーニッシュなものとは真逆のポジションからの音楽の発露。沸点までのトリップはもはやアナザーワールドメジャーで測らなければならない。測らなくてもいいが、これまで色々と聴いてきた西洋風味のジャパニーズ作曲家作品とは一線を画する、聴いた感じでは。
といっても、端的にわかるのは音色や響きのこと。形式は決まっている。
明るい、息の短いフレーズ、独特な流れ、縦に押し込むような律動は無し、フランス風味の作曲家作品に似ていると言えばそうかもしれない、和風なものが回避されているわけではないとは思うものの殊更押しつけがましく入り込んでいない。
これがいわゆる彼の作風なのだろうか。少なくとも、こちら側のこれからの彼の作品の聴き方がわかった気分にはなる。

型が決まっていて独特な流れと響き、静かさと盛り上がり。
第1楽章序奏付きソナタ、主題はだいたい追える。独立したインストゥルメントの息は短い。それでいて全体としては流れていく。巨大編成の楽器バリエーションを最大に活用したものと感じる。音色が色々と変わっていき、それらが全体俯瞰としてはメロディーラインを構築している。やにっこいと言えばそうかもしれない。取りあえず身を浸す。
含みを持たせた静かエンドは品があり妙な気負い無し。洒落た風味。
中間楽章はアンダンテの変奏曲となっている。聴いた感じではテンポも変わるしリズミックな面白さがあって狂詩曲風な鮮やかさ。この楽章も味なエンディング。妙味。
フィナーレ楽章はこれまた序奏付き、ロンド・ソナタ。気張らない盛り上がりが印象的。
ABACABA-coda(C´)、Cはスケルツォモードの快活さ。Cを中心点にして前後にABA。プログラム解説があるので追える。主題連は明確に異なるので追うのは割と楽。
大編成の音の厚みはあるけれども各フレーズの長さがそれほどでもなくて、途切れ途切れの歌が続いていく。快活さが増しCを活用したクライマックスエンディング。
聴いているほうのエモーショナルもどことなく独特でそこはかとなくまだら模様な気分となる。
巨大なシンフォニーで、深刻で無いのが良い。オーケストラを聴く醍醐味めいっぱい満喫できました。

ヤマカズ&日フィルは見事な演奏。彼ら、まっさらのキャンバスを埋めていくのは好物だろう。初演は参考物件が無いし色々と大変だと思う。一旦音になると相応にイメージが出来上がりますしね。怖さのあるやりがいジョブだろう。ヤマカズお見事な共感の棒。日フィルの真摯な演奏、佳演。秀演。ビューティフルパフォーマンス。

多数の収録マイクがセッティングされていたので、直に音源の商用化発売があると期待。早めにホットな録音聴いてみたい。今後の演奏会での取り上げ、活性化には是非とも要ります。
これも片山さんの尽力に期待、よろしくお願いしたいところです。
素晴らしい演奏会ありがとうございました。
おわり


付記

サントリー、サマーフェスティバル2017より、
片山杜秀がひらく「日本再発見」、戦前日本のモダニズム

天才作曲家 大澤壽人 駆けめぐるボストン・パリ・日本 みすず書房