2016年11月23日(水) 5:00-7:15pm サントリー
ベートーヴェン フィデリオ 序曲 5′
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」 20′8+10′
ピアノ、キット・アームストロング
(encore)
バッハ コラール前奏曲から「おお愛する魂よ、汝を飾れ」 BWV654 7′
Int
チャイコフスキー ロメオとジュリエット 21′
リスト 前奏曲 15′
(encore)
ワーグナー ローエングリン 第3幕への前奏曲 3′
クリスティアン・ティーレマン 指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
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極限越えのミラクパフォーマンス、圧倒的パワーと盛り上がりに悶絶。もはや、神越えのウルトラ演奏。
あまり表情を変えることの無いティーレマン、ここぞとばかり、ロメジュリ最後の盛り上がりの直前のピアニシモからの展開、大きな体躯の彼がポーディアムでひざを折りまげ、その上あたりに左手を当て、ズボンを少しずりあげ、さらにひざを折り完全なしゃがみ状態、あまり大きくない口を横に大きく開け、ぐるりとまわりを見据え、マグマを噴出。オーケストラのこの世のものとも思えないスーパーサウンドは天空越えの圧倒的な盛り上がり、強烈シンコペーションが地響きをたてる。圧巻、圧巻。ロメジュリは吹っ飛んでいった。筆舌に尽くし難い演奏というのはこういうものなんだろう。この世に2度あるかどうか、とんでもねぇ演奏だった。
ティーレマンの棒というのは殊の外、単刀直入で、まどろっこしい甘美スタイルではない。山に駆け上がるにも一気に行く。エネルギッシュでダイナミックさが勝る。一瞬、ドラスティックに見えたりするがこれが彼の作品解釈と演奏表情付けの方針。この前のスーパーウルトラ演奏のラインゴールドでも同じですね。
今日のロメジュリも同じ味付け、上述の盛り上げもテンポを落としてコッテリと、といった雰囲気はまるで無し。通常進行での音楽的な盛り上げ、これは彼独特の技で、裏表一体化しているこのオーケストラの表現能力の偉大さを思わずにはいられない。カミソリ技。そこに持っていくティーレマンの才覚。アドレナリンの空中伝播。
それやこれやなんだが、このオケの能力には恐れ入る。ロメジュリの最後のロングトーン聴けば開いた口が2分ぐらいふさがらない。この透明な張り具合。唖然茫然、聴いているほうは座りながら立ち尽くす。あまりのぶっ飛び演奏にのけぞる力も残っていない。
言われなくてもわかっているオケと、そのことをわかっている指揮者。そして、双方の大人の立ち振る舞い。彼らにとってあたりまえの演奏だったのかもしれないが、普段からこのような関係が築かれていればこそのビルドアップされた日常演奏が普通に可能になるという話だろう。
演奏後のプレイヤーへのスタンディング指示もティーレマンの演奏スタイルそのものですね。まどろっこしい指示は一切ないし。君立って、君たち立って、明確。一見横柄に見えたりするがトップリーダーはこういうことも必要。双方わかっている。双方の自負がいい具合に両立している。
どっかの国のオケみたいに、あっ、オレ立つの、なんだから、横の君たちも一緒に立とうよ、子供の風景には毎度あきれるが、ティーレマン&ドレスデンの爪の垢でも煎じて飲むのはスケジュール的にもつらいかも知れないから、団体の親分はこのような大人の立ち振る舞いが日常のオーケストラ演奏会を見て勉強し、団員にお話をして聞かせてもいいと思いますよ。大人の関係、大事ですね。客演が常態化している日本オケ、それでももっと大人の自負と心意気をもっていいと思いますね。ついでに親分にはP席に座ってもらって、にやけない、踊らない指揮の神髄もしっかり見てほしいものです。にやけて踊る前にすることが山のようにあるはずだということがよくわかると思いますよ。熱い湯船になってくださいよ、ステージの上の方々。そうすれば振る方はもっと熱くなって湯船に来ますから。
人類の至宝コンビを目の当りにしたわけで、こうゆうときは演奏だけではなく、始まる前から終わり切るまで、すべて見尽くすのがいい勉強になる。そういう話です。
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あんぐりと開いた口がふさがる間もなく、しもてから一度挨拶にポーディアムへ、二度目にしもてから現れたティーレマン、このときすでに前奏曲が始まる。息をつく間もなくリストの圧倒的な波、波。
ロメジュリはティーレマンにとって標題音楽ではなくて、もはや純音楽的なリアリティー。彼のスタイルに合う音楽なのだろう。このリストも同じ。切り込みと音の広がりはオーケストラにとっても共感が強いもの。ロメジュリの上をいく音の広がりを感じました。ストレートでエネルギッシュな演奏スタイル、それに、タップリ情感はテンポを落とさなくても表現できるということをよく教えてくれる。フォルム重視の造形感が一段と濃くなる。昨年聴いたブルックナー9番のところにも書きましたけれど、フルトヴェングラーとまるで違うパフォーマンスだがそれが説得力ある次元として存在している。
圧倒的な弦の広がり、透明感。弦のようなブラスセクションの鳴り。木製マシンのようなウィンド、金属音ではない鋭さ感じます。
ひとつしかないようなフシでここまで展開できるリストの技が凄い。織物のように積み重ねていくオーケストラの力量、圧倒的な音楽、内声部の広がりを実感させつつ、ブラスが二音を伸ばし切り折り目をつけるようにあっけなく前奏曲は終わる。ロメジュリと同じく拍手するアクションも忘れて聴き尽す聴衆。終わったという実感が遠のく。
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エンペラーを弾くはずだったブロンフマンがキャンセル。代わりにキット・アームストロングが同曲を弾くことに。そのせいかどうか、ティーレマンにより1曲追加がありました。
追加となったフィデリオ序曲をまず冒頭で演奏。サービスと準備体操だったのかもしれないが、後半のロメジュリ、前奏曲と何も変わるところがない熱い演奏。エネルギッシュで大迫力、レオノーレが仰天しそうな演奏。弦のきしみが心地よいベートーヴェンですな。
キット・アームストロングは昨年(2015.2.26)一度聴いた。ブリテンのピアノコンチェルトでした。今日はエンペラー。
1992年生まれのキット。24才。作曲までするマルチ才能派。
主役は伴奏オケで、譜面上、オーケストラの音が切れるところをピアノがつないでいく。そんなところですね。ブロンフマンならガチンコもしくはオケと同質のダイナミックでエネルギッシュな演奏と推測されますが、今日のピアニストは別の事をしている感が強い。ミスマッチとは言わないが世界観が違う。オーケストラサウンドを聴いて満足でした。1楽章のいきなりピアノのあとの主題の入念な演奏、第2楽章の弱音の音の運び。聴きどころ満載でした。
ピアノアンコールの甘口バッハ演奏にはびっくり。
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今日の演奏会はマイクのセッティングがありましたから、いつかメディアで聴ける日がくるかもしれません。
ティーレマンはくぎ抜きスタイルが少し減った気がしますね。このオーケストラとは阿吽の呼吸でしょうから過激にくぎを抜く必要もないのかもしれませんし、両腕を前に八の字を作っていく動きがあれば十分なんでしょう。
どっちにしても、この組み合わせ、人類の至宝ですね。こんなコンビ見たことも聞いたこともない。
ティーレマンのポーディアムへ向かうステップ、それに引き下がるときのステップ、彼の作り出す音楽の熱と同じですね。
おわり