スメタナのわが祖国から始まるプラハの春音楽祭の〆をジュリーニが振ったことがあった。
〆は第九。チェコ語公演。
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1977年プラハの春
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1977年6月3日
スメタナ・ホール
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ベートーヴェン作曲
交響曲第9番
(チェコ語による上演)
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S,マルタ・ボハーチョヴァー
A,マリー・ムラゾヴァー
T,オルドルジビ・スピサル
Bs,アントニーン・シュヴォルツ
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カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
チェコ・フィル
プラハ・フィル合唱
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例によってオープン・リール(たしかTEAC X10R)からカセット・テープに落として保存していたものをDATにコピー。
2回ダビングしたことになるが(NHKも合わせると3回か)、あらためて聴きなおしてみると、我ながら、何故か、かなり良好なサウンドで驚いた。
チェコ・フィルのややメタリックで繊細な音群の粒を割と克明に聴くことができる。
スメタナ・ホールのデッドな空間もその広さまで含めてわかるようなホール感が伝わってくる。ウィンド楽器の奥行感もある。
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スメタナの命日から始まるとはいえ祝祭的な2~3週間。
ジュリーニが〆た経緯は知らないが、晩年の枯れすぎて音が隙間だらけになり、ト書き風な様相を呈し、ものを言う行間、のような演奏とは似ても似つかぬ演奏である。
第一には、チェコ・フィルの音楽祭へのいれこみ、音楽への情熱、個々人のプレイヤーのやる気度が素晴らしかったのだろうと思う。
第4楽章の低弦の柔らかさは殊にすばらしい。
ジュリーニの静かな熱が少しずつ加熱していく。
歌のラインなら任せてよ、と昔カラスの伴奏をしたジュリーニは加熱とともにアップテンポを自然増幅し、音楽を生き生きしたものにしていく。
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チェコ語による第一声はかなりクリア。
.チェコ語を知らなくても、この歌詞の日本語訳はあるわけだからそれと同じだろう、と思えば違和感もなくなる。少し鼻に帯びた声質がチェコ・フィルのサウンドとよくマッチしている。
低弦同様、合唱の柔らかさも、どうやればあんなサウンドを作り出すことができるんだろうか。
ジュリーニは最後まであくまでも静かな加熱。
節度を守った、品性のある演奏で、音楽表現というものをひたすら追った姿が真摯。
忙しくなった世の中、このような格調高い演奏で、年に一回は自分を取り戻したい。
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