河童「もうボロボロだ。」
静かな悪友S「そうだな。ベロベロだ。CASKでこんなにもたくさん、おいしいお酒を飲めるとは、場所的には青天のへきれきだ。」
「それは逆だろう。地獄で天使。」
河童&S「もう、ベロボロだ。」
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河童「お店には、におい、かおり、というものがある。初めてのところでも、それまでの数知れない体験から、ここらあたりにたぶんこんなお店があるかもしれない、とか、入口のにおいでどんなお店なのか、わかる。。こともある。」
S「はいはい、私はその経験の場数を踏まず、ただただお河童様についていくだけでいいのですから安上がりでございます。」
「君、それは謙遜しすぎだよ。僕と出会って、踏み入れたかった未知の世界にはいっていくことができたということだろう。便利な存在だったんだよ。僕は。」
「実はそういうことだったかもしれません。しかし私の世界も本当に広がりました。バーでこのような数多のバリエーションのウィスキー、カクテルに巡り合えるとは思ってもおりませんでした。」
「そうだね。たしかに。僕もそれなりに楽しんでるからいいのさ。」
「それでその、におい、というのは?」
「お店の周りの雰囲気、人の流れ、明るさ暗さ、門がまえ、街の風貌とそれにマッチしているかどうか、しっくり感、人を吸収する力のあるドア、といった外からただよう雰囲気かおり、そして、ドアを開けたときの本当のにおい、かおり、これが最初にクリアすべきものなのかもしれない。」
「アルコールが中枢神経を蝕んできたようだ。」
「最近は2軒目以降がバー、というハシゴは少なくなったね。いきなり気に入ったバーに行く。そこで濃いお酒を飲む。食べていないので味はよくわかる。量はあまり飲まないので胃への負担感も少ない。しらふではいるわけだから会話も楽しいというものだ。」
「変わったね。河童様も歳かね。」
「人も河童も変わらない方がおかしいのだよ。昔のイメージだけでしゃべってると進化しない霊長類になってしまう。だから長い付き合いの相手にも敬意は持つべきなのさ。」
「そうだね。酔っぱらった方がいいこと言うみたいだね。河童族は。」
「それというのもここのおいしいお酒のせいだ。」
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S「ところで、あすこに置いてある珍しいラベルはなんだ。」
河童「あぁ、あれかい。あれはこのお店の3周年記念オリジナル・ボトルらしい。」
「余市って書いてあるから、ニッカだな。ニッカはあまり飲むことがないね。」
「そうだな。かなり前に銀座の八官神社があったビルの上のバーで飲んで以来だね。」
「その八官神社いまでもあるよ。昔は電通通りの一階に面してあったけど、今はソニー通りのほうにひっそりとあるみたいだ。」
「苦しくなくても神頼みはかかせない。」
「それで、あすこに見える余市はどんなお酒なんだい。」
「1991年つまり平成3年の樽詰のシングルカスクらしい。まだバブルの余韻があったころだね。僕は当時あるお店にボトルを4種類4本キープしていたことがあるけど、いま思うと狂気の沙汰だね。当時既に脳に消毒が必要だったってわけさ。」
「今日はいつも以上のお酒のせいか、聞いてもいなことが次から次とよく出てくるね。口から出任せの白髪三千丈ではないのかね。」
「それはありえん。僕はリアリストだ。というよりも経験主義者だ。」
「それは河童電脳の世界のことかもしれんよ。河童の夢はどんな夢?」
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河童「ところでこのオリジナル・ボトル。かおりが僕の好み、味わい、フィニッシュもよさそうだ。度数も63%と花金にはうってつけだ。」
S「まるで飲んだことでもあるような口ぶりだね。」
「実は念力でちょっと飲んでみたのさ。隙間のない敷き詰められた味。君もどうかね。」
「僕には河童の念力はない。」
「実は2本さるルートから手にいれてある。一本あげるよ。」
「そうか悪いね。ただとは言うまい。ただほど高いものはない、というからね。」
「そうだね。支払いは君に任せるよ。」
おわり
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