恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

しょせん、勝てない

2006年05月10日 | 日記・エッセイ・コラム

Cimg0003_1          ご存知の方も多いでしょうが。恐山は、この写真のような、現在も硫黄ガスが噴出する火山地帯にあります。自動車で街道を走ってくると、恐山の境内が見えるあたりから、急に強い硫黄の臭いがしてきます。Cimg0007_1 この火山活動がつくりだした風景が、ある種異界の様相を呈し、特にこの岩場の一帯は地獄になぞらえられ、独特の信仰を生み出してきました。

しかし、この環境は、実際きびしい。5月1日が開山日ですが、開山してからが大変です。ここは鉄や銅の類があっという間に腐食してしまうのです。寺務所や宿坊は大変。あらゆる電気設備にコーティングしても、硫黄ガスのパワーは防ぎ切れません。

アスファルトもガスで持ち上がっています。宿坊建設のときに使用した釘も、鉄はダメで、特注品だそうです。

パソコンは半年で動かなくなります。去年、私のパソコンは、まさに半年で突然死してしまいました。今年は、宿坊事務所のパソコンをいざ使おうとしたら、液晶画面からいきなり煙が出てきて終わり。常にバックアップと予備のパソコンを準備しておかなければなりません。要するに使ってはいけないところで使ってるんですね。

あと、開山3日目くらいに、お風呂の蛇口がさび付き、閉まらなくなって水が止まらず、大騒動でした。エアコンにもかなりの不具合が(現在は宿泊者が少ないので、部屋の融通はきくので、ご不自由はおかけしません)。飲み物の自動販売機は、3日に一度くらい、何も反応しなくなり、業者が飛んできます。

恐山のスタッフは心得たもので、どんなときもあわてません。新米の私が右往左往しているだけで、皆はこれが普通だと思っているのです。とにかく参拝の方々にご迷惑にならないようにと、それだけは日々戦いという感じですね。

私はここで、つくづくと悟りました。自然には勝てません。「自然対文明」などという図式は、自然から遠く隔たった「文明」の中で言う寝言のようなものです。ハナから勝負になりません。いや、そもそも勝負が成り立たないでしょう。人間が増え、「文明」が拡大したら、自然は、それも自然の内として、それなりの対応をするだけです。我々が「自然破壊」や「環境破壊」と思っいることでも、自然にとっては破壊でも何でもありません。人間に都合のよい環境が、人間の都合で破壊されるだけのことです。私はここで生活して、自然に対する畏敬などではなく、時として恐怖を感じることがあります。そして、おそらくそれは、生物として健全な感覚だろうと思っているのです。