草莽隊日記

混濁の世を憂いて一言

饒舌な言説よりも小林秀雄の一言が肺腑を衝く

2023年07月19日 | 思想家
 いつになったら梅雨が明けるのだろうか。もうそろそろだと思うが、なぜか気持ちまで滅入ってしまう。そんなときは決まって、自分を元気づけるために、小林秀雄の本を読みたくなる。
 小林は核心を突くようなことをさらりと言ってのける。「女は俺の成熟する場所だった。書物に傍点をほどこしてはこの世を理解していこうとした俺の小癪な夢を一挙に破ってくれた」(「Xへの手紙」)という文章などは、誰もが思い当たる節があるのではないだろうか。
 そして、小林は「人と人との感受性の出会う場所が最も奇妙な場所に見える」(「同」)とも書いた。今の世の多くの識者は、その部分を整理して無理に理解しようとする。だからこそ、LGBT法案のようなものが通ってしまうのだろう。
 知ったかぶりや思わせぶりな言説には僕は食傷気味である。言葉を徹底的に削ぎ落して、生身の人間を語ろうとする小林の側に立ちたい。
 小林が言いたかったことは、人間同士が出会う不可解な場所があることを認め、そこでの抜き差しならないドラマを尊重することなのである。理屈よりも、生きることの大切さを説いているように思えてならない。
 わけもなく書きなぐる僕のような人間であっても、饒舌よりもはるかに優る沈黙があることを熟知しているからこそ、小林秀雄を何度も何度も読み返すのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする