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【転載記事】ついに実現した東電元幹部の「強制起訴」

2016-03-02 22:43:32 | 原発問題/一般
東京第5検察審査会による昨年7月の2度目の「起訴相当」議決を受け、2月29日、検察官役の指定弁護士が東京電力の旧経営陣3名を業務上過失致死傷罪で東京地裁に起訴した。

この起訴を受け、ウェブマガジン「マガジン9」のサイトで、小石勝朗さんが詳しい解説記事を執筆している。福島原発告訴団を丁寧に取材しているジャーナリストであり、長くなるが、全文を引用する。

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ついに実現した東電元幹部の「強制起訴」

 予定されていた節目には違いない。しかし、原発事故から5年、告訴・告発をしてから4年近く。責任追及の中心になってきた人たちには「ようやくたどり着いた」との感慨が強いことは容易に理解できる。「画期的」「歴史的」という言葉が何度も語られた。

 福島第一原子力発電所で起きた未曾有の事故をめぐり、東京電力の勝俣恒久・元会長(75歳)▽武藤栄・元副社長(65歳)▽武黒一郎・元副社長(69歳)の3人が2月29日、業務上過失致死傷罪で東京地裁に強制起訴された。それを受けた「福島原発告訴団」の記者会見の様子である。

 福島原発事故は「人災」と指摘されるにもかかわらず、5年経っても誰が事故の責任を負うかは曖昧にされ続けてきた。それだけに、刑事責任を初めて問うことになる今回の強制起訴には大きな意義がある。

 もちろん、刑事裁判が被告の人権に十分配慮したうえで公平・公正に行われなければならないのは言うまでもない。だとしても、事故発生以来、組織や、あるいは国家権力に守られて、検証や批判の矢面に立つことから逃れ続けていたように見える東電の元最高幹部に、公開の法廷で「国民」と向き合ってもらい、事故の状況や経緯を自らの口から語らせる糸口ができただけでも、重要な成果だろう。

 それにしても、ここに至るまでの紆余曲折は、告訴・告発した原発事故被災者らにはとても厳しいものだった。

 被災者らでつくる告訴団が東電幹部らを業務上過失致死傷罪などで検察に告訴・告発したのは、2012年6月のこと。検察による全員の不起訴処分(13年9月)を受けて、検察審査会へ審査の申し立て。検審は14年7月、今回の3人について「起訴相当」と議決したものの、再捜査した検察は翌15年1月、再び不起訴に。再度、検審に審査を申し立てた結果、昨年7月、3人を「起訴すべき」との2度目の議決が出され、ようやく強制起訴となることが決まったのだ。

 告訴団の弁護団長を務める河合弘之弁護士は会見で「検察の不起訴処分に負けていたら、事故の問題点はすべて闇に葬られていた。その寸前で、きわどいところだった」と強調した。武藤類子・告訴団長が語った「感無量」との言葉が、被災者全員の気持ちを言い表しているようだ。

 では、今回の起訴状の中身を、どう評価すべきなのだろうか。

 公訴事実によると、起訴された3人は、福島第一原発に海面高10メートルの敷地を超える津波が襲来して、炉心損傷やガス爆発といった事故が発生する可能性があることを予見できたにもかかわらず、適切な措置を講じることなく、同発電所の運転を停止しないまま、漫然と運転を継続した過失により、大震災の津波で炉心損傷などの事故を起こし、避難を強いられた近くの病院の入院患者44人の病状を悪化させて死亡させるなどした、とされた。

 河合弁護士が注目したのは2つの点だ。

 1つは、「漫然と運転を継続した過失」の前提として、「適切な措置を講じることなく」とともに「同発電所の運転を停止しないまま」との文言が入っていること。津波に対するさまざまな防護措置を取らなかったのはもちろん、最終的には原発の運転停止までを「業務上の注意義務」の内容として求めた。「原発を停めることが最大の安全対策だと、はっきり認めている」と河合弁護士。

 もう1つは、福島第一原発の敷地の海面高である「10メートルを超える津波」の可能性を予測できたかどうかを、3人の過失の有無を判断する基準だと示したこと。後述するように、これまでは東電自身が試算した「高さ15.7メートルの津波」が判断の基準になるとみられており、「そんな大津波は想定できなくても仕方がなかった」と逃げられるおそれがあった。河合弁護士は「ハードルのバーが下がった」と捉えている。

 裁判の大きな争点は、①東電の幹部が津波による原発事故の発生を予測できたか(予見可能性)、また、②対策を取っていれば被害を回避できたか(結果回避可能性)、になる。起訴された3人は無罪を主張する可能性が極めて高い。有罪を立証できるのだろうか。

 告訴団代理人の海渡雄一弁護士は会見で、ポイントになりそうな経緯を解説した。カギを握るのは、2002年に政府の地震調査研究推進本部(推本)が出した予測――福島第一原発の沖合海域を含む三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで、マグニチュード8級の津波地震が30年以内に20%程度の確率で起きる――への対応だという。

 東電は2007年12月に、この予測を採り入れて福島第一原発の津波対策を立てることをいったん決めている。そして08年3月に社内で導き出したのが、前述したように、高さ15.7メートルの津波が同原発を襲う可能性がある、という試算だった。

 同年6月にこの試算を武藤(栄)氏に報告した担当部署は、原子炉建屋を津波から守るには高さ10メートル(海面から20メートル)の防潮堤が必要と説明。武藤氏は対策の検討を指示したものの、翌月には「先送り」に方針転換した。検討状況はその後、武黒氏にも報告され、勝俣氏が出席していた会議でも説明された、という。

 海渡弁護士はこうした経緯から「東電の経営陣は途中まで対策を立てながら、費用がかかるという経済的な理由で実行しなかった。単純な業務上過失事件で、優に有罪認定は可能だ」との見方を示した。

 検察官役として起訴に当たり、今後は公判で有罪の立証をするのは、裁判所が選任した5人の「指定弁護士」だ。そのうちの1人、石田省三郎弁護士は起訴後、海渡弁護士に起訴状の要旨を渡した際に立ち話をして、「この事件はいけると思う」と漏らしたそうだ。海渡氏は「すごい証拠があって準備は整っている様子で、自信がある表情だった」と語った。

 今後、公判前整理手続きが行われ、指定弁護士、東電元幹部3人の弁護人と裁判所が証拠や争点、審理の進め方を協議する見通しだ。少なくとも半年、長ければ1年以上かかるとみられ、初公判は来年以降になることも予想される。判決が出てもどちらかが控訴し、さらに最高裁まで行くことが確実視されている。10年がかりの刑事裁判になりそうだ。

 この裁判を外部から応援しようと、福島原発告訴団や弁護士、文化人、市民運動家らが呼びかけて「福島原発事故刑事訴訟支援団」が1月末に発足した。「公正な裁判が行われ、真実が明らかになり、問われるべき罪がきちんと追及されるよう働きかけること」を目的に掲げている。

 公判が始まれば毎回傍聴して、その内容を記録・発信するとともに、賛同する法律家やジャーナリストのネットワークを生かして各地で集会を開くなど、継続して世論にアピールしていく。独自に証拠の収集・分析にも取り組む。すでに全国から1000人以上の会員が集まっているという。

 この裁判にも適用される「被害者参加制度」を使って、支援団の弁護士が公判に関与することも模索している。起訴状で認定された被害者から委託を受ければ、法廷で意見を述べたり被告に質問したりできるので、指定弁護士を側面支援しようという狙いだ。応じてくれる入院患者の遺族を探していくそうだ。

 この裁判には、ほかにもさまざまな効果が期待されている。

 河合弁護士と海渡弁護士は「政府や原発事故調査・検証委員会、検察がどんな事実や証拠を握り潰してきたのかが明らかになる」「原子力安全・保安院や福島県など、行政の関わりも表面化するのではないか」「有罪になれば、被災者への民事賠償も認められやすくなる」と見立てていた。

 それだけではない。

 原発の再稼働が進む中、今後、万が一にも同様の事故が起きたら誰が責任を取るのか。避けて通ることができない重い課題に対し、「脱原発」の枠を超えて多くの人が考えるきっかけにもなるはずだ。裁判の推移をしっかりと見守っていきたい。

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