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安全問題研究会(旧・人生チャレンジ20000km)~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

北海道知事選/JR北海道問題をめぐって明らかになった両候補の姿勢

2019-03-27 20:49:12 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当研究会代表が「レイバーネット日本」に投稿した内容をそのまま掲載しています。)

いよいよ統一地方選が始まりました。

知事選では、保守分裂型の選挙や、多党相乗り候補と共産党系候補が戦う図式の選挙が多い中、最も注目を集めているのが、全国で唯一、与党系候補と野党統一候補の一騎打ちとなった北海道知事選です。

4期16年務めた高橋はるみ知事が引退、いずれも新人の石川知裕候補(小沢一郎衆院議員の元秘書、立憲、国民、共産、社民、自由推薦)と鈴木直道候補(前夕張市長、自民・公明推薦)が立候補しています。

最大の争点はJR北海道問題への対応でしょう。その次が泊原発再稼働問題、そして苫小牧市などが名乗りを上げているカジノ誘致(IR)問題です。

原発は英語でNuclear Power Plantであり、頭文字はRではありませんが、原発から出る放射線は英語でRadiation。これにJRとIRを合わせた「3つのR」が争点だと私は思います。

さて、昨年春、JR北海道の路線維持を求めて、わずか1ヶ月半で8万以上の署名を集めた「北海道の鉄道の再生と地域の発展をめざす全道連絡会」の主要構成団体のひとつであるJR北海道研究会を始め、道内沿線住民団体は、今回の知事選に当たり、両候補に対し、公開質問状を送って回答を求めました。その結果、両陣営から回答が寄せられましたので、その内容をご紹介します。

北海道民の皆さまは、この内容を参考に投票先を決めていただくようお願いします。

●根室本線の災害復旧と存続を求める会の公開質問状とこれに対する回答(PDF)

●石北本線ふるさとネットワークの公開質問状とこれに対する回答(PDF)

●JR北海道研究会の公開質問状とこれに対する回答(PDF)

なお、この回答を受け、JR北海道研究会は以下のようにコメントしています。

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公開質問状への回答についてのコメント
 2019.3.20 JR北海道研究会


〇 鉄道の存続・再生の必要を主張する私たちの公開質問状に対して、両候補が正面から受け止め回答を寄せられたことに感謝する。両候補ともに鉄道の果たす役割の重要性を認め、地域の意見を尊重するという基本的な立場が表明されたと考える。

〇 質問1の原因と責任についての質問には、石川氏は国とJRの「責任」を指摘したのに対して、鈴木氏は人口減少とモータリゼーションが「原因」であると指摘し、JRの努力はうながしつつも国の責任についてはふれていない。責任と原因についてのこうした認識の違いは、将来、国に対して向き合うときの姿勢の違いに繋がる可能性があるのではないかと考えられる。

〇 質問2の地域発展と鉄道の関係について、鈴木氏はJRの重要性を認めつつも、必ずしも鉄道に限定せず地域交通のあり方等を幅広く検討するとしているのに対し、石川氏は少子高齢化・過疎化が進む地域社会を維持するための鉄道の役割を重視しており、鉄道を地域再生に生かすという視点が注目される。

〇 質問3の13線区と並行在来線については、設問が必ずしも明快でなかったため質問2と重なる部分が多かったが、石川氏が並行在来線について道がリーダーシップをとって議論を尽くすと回答したことが特に注目される。

〇 質問4の今後の鉄道存続の枠組みについて、鈴木氏は、経営安定基金の枠組みの問題点を指摘したうえで時代の変化に即した経営支援策の再構築を主張している。ただ、その支援策の内容が制度的枠組みに踏み込む考えがあるかは明示されておらず、もしなにがしかの一時的追加財政支援を国に要請するだけであれば、JR問題の解決は不可能であると危惧する。これに対して石川氏は、鉄道を公共インフラとして位置づけ、中長期的には国が「下」を持つ上下分離を展望するとしている。これはEU諸国の事例などもふまえた当研究会の基本的な提言と大枠で一致するものである。

〇 質問5の決意と展望について、鈴木氏は「検討・協議を早急に進める」とし、また鉄道とバスを同列において公共交通の利便性の向上を図るとしている。これは実質的に地域協議会に早急な決断を促し、バス転換を推進することに帰結するのではないかとの危惧を禁じ得ない。これに対して石川氏は「地域交通網形成計画」策定し、市町村と連携して鉄道の存続と活用をめざすと述べており、基本的な立場の違いが示されていると考える。

〇 全体を通じて
1.鈴木氏の立場は、必要な鉄道は残すとしながらも、公共交通は必ずしも鉄道でなくてもよいという立場であるのに対して、石川氏は北海道の地域の将来のためにも鉄道を生かしてゆくべきだと主張している。

2.すでに述べたように、部分的な追加財政支援だけでは北海道の鉄路の維持は困難であり、鉄道に関する持続的な制度的枠組を国に求めていくことが北海道知事のもっとも重要な役割であると考えるが、この点について具体的に述べたのは石川氏のみであった。
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<この他参考資料>

●「北海道の鉄道の再生と地域の発展をめざす全道連絡会」ホームページ

●「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」パンフレット(安全問題研究会)

●2月20日、北海道浦河町で開催された「今だから、ちゃんと話そう。日高線」集会で寄せられた日高線存続を求める発言「JR日高線を守る会」ブログ記事より)

●JR根室本線の早期災害復旧と路線維持を求める十勝集会~「廃線になると町は死ぬ」

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【管理人よりお知らせ】「今だから、ちゃんと話そう日高線」イベント(浦河町)にご参加ください

2019-02-18 23:53:33 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

2月20日(水)、浦河町で「今だから、ちゃんと話そう日高線」イベント(JR日高線を守る会」主催)が開催されます。開始は18時、場所は浦河町総合文化会館2階、第3会議室です(詳しくはチラシをご覧ください。なお、サムネイル画像表示となっている場合は、クリックで拡大します)。

このイベントは、日高線をどうすべきかについて、改めて住民同士が自由に話し合おうというものです。司会者はいますが、講師やゲストなどは招請せず、あくまで住民同士がゆるく話し合いながら日高線に関心を持ってもらうことを目的としています。

「自分は乗らないから関係ない」ではなく、「いつか公共交通が欲しくなったときのために、どのようなあり方がふさわしいか考えたい」というのがイベントの趣旨です。そのため、今回のイベントは立場を限定せず、「日高線のような輸送密度の少ない鉄道はバスに転換する方がいい」との考えをお持ちの方にも広く集まってもらうことが目的です。もちろん、当ブログ管理人も会員のひとりである「JR日高線を守る会」としては、鉄道を残したいという人がひとりでも多く集まることを期待していますが……

なお、当ブログ管理人は、明日から仕事(本業)で道外に出張のため、このイベントには賛同協力しているものの、当日参加はできません。ぜひ、会の趣旨をお酌み取りいただき、多くの方の参加を得て盛会となることを期待します。

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2027年の開業に早くも赤信号が灯ったリニア中央新幹線(2018年団結まつり報告)

2018-10-14 22:17:03 | 鉄道・公共交通/交通政策
本日、都内で開催された2018年「団結まつり」で、安全問題研究会はリニア問題に関する報告を行いました。その内容を以下、掲載します。

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1.談合発覚、大井川水量問題など相次ぐトラブルで建設大幅遅れへ、2027年開業に早くも赤信号

 国が3兆円の財政投融資資金を貸し付ける形で大阪延伸前倒しが決まったリニア新幹線は、昨年末の談合発覚に加え、大井川水量問題の深刻化によって、当初予定の2027年開業に早くも赤信号が灯った。大井川上流に位置する南アルプストンネル静岡工区(静岡市葵区、8.9km)において、「トンネル掘削に伴う大井川の減水分を川に戻す」とするJR東海の説明に対し、湧水をすべて川に戻すよう主張する静岡県側が納得せず、JR東海は着工の前提となる利水団体との協定が結べていない。リニアが通過するだけで駅ができるわけでもなく、大井川の水量減少という不利益だけを押し付けられる形の静岡県は8月、水など環境への影響を調べる有識者会議を設けた。川勝平太知事は「水問題は県の人口の6分の1に及ぶ。有識者会議の報告が出る年度末まで締結は難しい」としており、なお抗戦の構えだ。金子慎JR東海社長は「(開業までの時間的)余裕がどんどんなくなっている。思っていたより着手が遅れて困っている。このままの状態が続くと2027年の開業に影響が出てしまう」(今年4月の記者会見)とした上で「地域と協定を結ばなければいけないという法的ルールはない」(今年9月の記者会見)と、県や地元との同意を得ないままの工事強行もちらつかせ始めた。一方、田辺信宏静岡市長は、JR東海が静岡工区の本体工事着手を望んだ場合、県と合意に達していなくても市が林道の使用許可を出す方針を示すなど、関係者の動きは混とんとしている。

 南アルプストンネル工事自体も難易度の高さの面で「前人未到の領域」(ゼネコン幹部)とされ、難航が予想される。土被り(地表からトンネルまでの距離)が最大1400mという前例のない環境で、土中に何が眠っているかも「掘ってみなければ分からない」(別のゼネコン幹部)状況だ。リニア推進派の中には日本のゼネコンの技術力を妄信し工事に楽観的な見方も多いが、昨年12月には、長野県大鹿村と村外を結ぶ国道59号線でトンネル工事に伴う発破作業の失敗から崩落を引き起こしている。この崩落に対しては、大鹿村のリニア反対派住民グループ「大鹿村の10年先を変える会」が今年1月10日、原因究明と工事中止を求める声明を発表。事故を起こしたJR東海が原因究明に当たっている点も疑問視、原因究明のための第三者委員会を作るよう求めた。声明にはリニア沿線や山岳関係などの全国53団体が賛同している。この程度の基本的作業にも失敗しているゼネコンが、前人未到の難工事を予定通りに完了できるとはとても思えない。

 そもそもJR東海は、トンネルの開通だけで2026年11月までかかるとしている。この時点で開業まで1年も残されていないが、ガイドウェイ建設~完了はその後となる。1997年からの走行実験のため建設され、リニア本線への転用が決まった山梨リニア実験線の延伸区間(全長24.4km)でさえ建設に1年10か月かかっている(2011年3月~2013年1月)ことを考えると、総延長286kmのリニアのガイドウェイ建設が1年でできるわけがない。すでに予定通りの開業は絶望的であり、大阪延伸もこの影響で遅れることになる。大阪延伸の前倒し目的で投入した3兆円財投資金はムダ金に終わる可能性が高く、JR東海はこの事実を知っていながら隠していると断定せざるを得ない。

2.リニア訴訟、これまでに11回の公判 問題点明らかに

 リニア事業認可の取り消しを国に求め、738人が原告となった「STOP!リニア訴訟」は今年9月14日までに計11回の公判が開かれ、問題点が明らかにされた。岐阜県東濃地区には日本最大のウラン鉱床が存在し、リニアのルートはその真下を通過する。トンネル掘削で放射性物質を含む残土が排出された場合、その処分先と保管方法はどうするのか明瞭に示されていない(第3回口頭弁論・意見陳述)。「日本で最も美しい村」連合に加盟する長野県大鹿村では、片道走行しかできない村の狭い道路を最大1日1700台のトラックが通行し、それが工事完了までの長期にわたって続く。村民の生活破壊、観光客の減少が予想される(第5回)。すでに実験線が走行している山梨県では水涸(が)れ、異常出水が起き、騒音や日照権を巡る被害が現実化している(第4回)。都市部においては大深度法(地下40メートル以下の公共的使用に関しては地権者の承諾を必要としない。リニアのために作られた法律ともいわれる)が適用されるが、地盤沈下や地下水の枯渇等の懸念がある(第7~9回)。大井川の水量減少問題も第6回公判で明らかにされた。6月25日の第10回公判では環境アセスメントの内容や事業認可の根拠そのものが問われた。

 リニア事業認可に先立って行われた環境アセスメントに当たっては、そのあまりのずさんさに政府内部からさえ疑問の声が上がった。環境省は「その事業規模の大きさから本事業に伴う環境への影響を最大限、回避・低減」するため、自治体や住民の十全な関与、CO2削減や沿線地域における水量変化への十分な対策、南アルプス国定公園への影響回避など多項目に及ぶ対策を求めた。国策に対して政府内部(省庁)からこのような意見が出ることはもちろん異例中の異例である。

3.葛西敬之JR東海名誉会長のメンツのためだけに強行される理不尽なリニアは中止を

 JR東海は、老朽化した東海道新幹線のバイパス機能が必要であることをリニア建設の理由に挙げるが、既存のどの路線ともつながらず、貨物輸送もできないリニアが非常時の輸送ルートとして機能することは絶対にない。東日本大震災当時、太平洋側の路線がすべて寸断される中で、根岸製油所(横浜市)から東北への燃料輸送の大役を担ったのは新潟など日本海側の在来線だった。災害時に鉄道が輸送ルートとして機能するためには既存の路線とつながっていることが重要であり、東海道新幹線の代替路線なら、現在、金沢まで開通している北陸新幹線を関西まで延伸すればよい。

 国策のリニア事業に対する批判はメディアではタブーとされてきたが、経済誌など政府・財界寄りとみられてきた雑誌を中心に批判的論調が増えてきている。今年8月、大々的にリニア特集を組んだ「日経ビジネス」は、リニア事業を「旧国鉄を破綻に至らしめた我田引鉄の繰り返し」「安倍首相の右翼仲間、葛西JR東海名誉会長優遇の“第3の森加計問題”」として批判している。旧国鉄の線路を引き継いだJRグループ各社は助け合うのが当然だが、この記事では、経営危機に陥ったJR北海道救済のための資金拠出を求められることが葛西会長にとって「最も恐れるシナリオ」であり、リニアはそれを潰すための事業であるとまで指摘している。理不尽なリニア強行と北海道切り捨ては地下茎のようにつながっており、そのどちらも葛西会長を倒さない限り解決できない。それは裁判所も不当と認めた国労組合員ら分割民営化反対派労働者1047名に対するJR不採用(不当解雇)を旧国鉄職員局長として強行した葛西会長に対するけじめ、責任であると同時に、1人も職場復帰がかなわなかった1047名の無念を晴らす国鉄闘争の「本当の解決方法」としては現状、残された唯一のものである。


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フリーゲージトレイン試験とん挫で混迷深める長崎新幹線~規格も決まらない路線に1兆円もの資金投入目指す「世紀の愚策」~

2018-07-25 21:42:26 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2018年8月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。なお、本来、管理人の寄稿原稿は「原稿アーカイブ」カテゴリで掲載するのが通例ですが、この記事は、管理人の判断により「鉄道・公共交通/交通政策」カテゴリでの掲載とします。)

 呆れて物も言えない。これを世紀の愚策と言わずしていったい何と表現すればいいのだろう。一部区間で工事が始まった九州新幹線長崎ルート(以下「長崎新幹線」と称する)のことだ。北海道で住民が学校や病院に通うための生活路線の半分が廃線の危機に瀕し、年に200~400億円程度の資金があれば全路線を救済できるというのに、一方では線路規格すなわち線路の幅も正式に決定していない路線の建設に5000億円が投じられ、最終的にその額は1兆円を超えることになるかもしれないのである。

 旧国鉄の財政を破たんさせる原因となり、国鉄「改革」で二度と復活を許さないと決めたはずの「我田引鉄」「政治新幹線」のおぞましい復活、事業内容よりも「事業それ自体」が目的化、甘い見通しに基づき、行き当たりばったりで引き返しのきかない公共事業――ある意味では戦後日本のすべての問題が凝縮されているともいえるのがこの長崎新幹線だ。

 常識ではありえないような事態が進行している根本原因に何があるのか。そもそもそれ以前に日本は本当に言われているような「鉄道大国」なのか。司令塔不在の日本の鉄道政策に「正気」を取り戻させるために必要なものは何か。今日は、長崎新幹線の「愚」を告発するとともに、あるべき鉄道政策の姿を皆さんとともに考えたい。

 ●とん挫したフリーゲージトレイン

 本題に入る前に、地元・九州のメディア以外ではほとんど報じられていない長崎新幹線のここまでの迷走についてやや詳細に述べる必要があろう。

 長崎新幹線(博多~長崎間)は、1972年に制定された全国新幹線鉄道整備法に基づいて整備計画が定められた、いわゆる整備新幹線のひとつだ。同じ九州を走る博多~鹿児島間(鹿児島ルート)と区別する意味から長く九州新幹線(長崎ルート)と呼ばれてきた。国鉄末期には国鉄財政悪化によって整備新幹線計画は凍結されたが、その後凍結が解除になり、まず2008年に武雄温泉(佐賀)~諫早(長崎)間が先行着工された。この区間が先行したのは、在来線の長崎本線の中でも有明海に沿って線路が伸びる肥前山口~長崎間が単線の上、線形も特に悪く、距離の割には時間のかかるこの区間の隘路を打開する必要があったためである。

 長崎~武雄温泉間がフル規格新幹線(国際標準の線路幅である標準軌(1435mm軌間)の線路上を200km/h以上の高速で走行)で開通後は、武雄温泉~新鳥栖(佐賀)間は在来線の佐世保線・長崎本線を走行、新鳥栖からはすでに開通している九州新幹線に乗り入れ博多(福岡)を目指す。一部列車は新大阪まで直通運転する。全線をフル規格にするとあまりに経費がかかりすぎるため、当初はこんなプランが描かれた。

 この計画通りになった場合、長崎から武雄温泉までは標準軌(1435mm軌間)、武雄温泉から新鳥栖までは在来線を走るため狭軌(1067mm軌間)となり、新鳥栖で九州新幹線に乗り入れる際に再び標準軌に戻る。この問題を解決するために、フリーゲージトレイン(以下FGTと略)の研究開発が始まった。

長崎新幹線の概要(佐賀県武雄市ホームページから)

 FGTは軌間可変式電車と訳される。軌間が異なる路線間を直通運転する場合に、境界駅に軌間変更のための設備を設置、その設備を通過する間に車輪の幅を広げたり縮めたりするものである。海外ではスペインの国際列車「タルゴ」に例がある。スペインの鉄道は広軌(標準軌より線路幅が広い1668mm軌間)を採用しているため、隣国フランスなどとの間で直通列車を運行するにはこの問題を解決しなければならなかった。軌間の異なる国同士で直通列車を運転する場合、かつてのヨーロッパでは国境駅で車両を1両ずつ持ち上げ、台車ごと取り換えるという手間のかかることをしていた。乗客は国境駅で長時間待たされるのが常だった。この問題を解決したのがタルゴであり、車両を持ち上げることなく、軌間変更設備を通過しながら数十秒から数分で軌間変更を終える。ここ数年来の技術進歩により、今後は最高330km/hでの高速運転も可能になるという。

 日本では、タルゴを開発したスペイン・タルゴ社から1993年に技術協力を受けると、1997年からFGTの本格開発に着手した。ところが、あたかも情報統制でも受けているかのように商業メディアでの報道はなく、技術開発が進んでいるのかどうかを窺い知ることが困難な状況が続いた。九州ではなく北陸新幹線への導入を目指し、JR西日本がFGTの本格開発に乗り出すことが報じられたのは2013年7月。この時点で開発着手からすでに16年が経過しており、本稿筆者も本来であればこの時点で開発が難航していることに気付かなければならなかった。だが「新幹線から在来線へ 異なる線路間行き来 フリーゲージトレイン実現間近」(2014.1.1付け「北海道新聞」)などの報道に惑わされ、それに気づかなかったことに対しては不明を恥じるより他はない。

 とはいえ、2014年正月の段階でこの記事を掲載したメディアに対して、国土交通省の「大本営発表」に惑わされてのミスリードと断定するのはいささか酷かもしれない。というのも、この時点ではまだFGTの技術開発は「7~8割の確率で成功する」との見方で大方の識者が一致していたからだ。FGTに一気に暗雲が垂れ込め始めるのはこの年4月に始まった第3次耐久試験からである。

 この耐久試験では、九州新幹線~軌間変更設備~在来線の間で、試験車両が実際に60万kmの距離を走行する計画だった。順調と思われた走行試験に「異変」が起きたのは2014年11月だ。3万kmを走行した時点で、本来発生するはずのない部品の摩耗や高速走行時の横揺れが発生、走行試験は中止された。放置すれば摩耗が進み、車軸の折損につながりかねない重大な不具合だった。

 これらの不具合に対し、検証委員会を開催して原因を究明、再発防止対策を施したうえで2016年に走行試験を再開した。だが横揺れにこそ一定の改善が見られたものの、一部部品にメッキのはがれが見つかるなど摩耗は完全には解消されなかった。

 さらに、在来線区間でも信号システムの不具合が見つかった。軌間可変装置という複雑な仕組みを備えているFGTの構造は通常の車両と異なっており、信号システムがFGT車両の通過を検知できないという問題だ。列車同士が衝突しそうになっても、鉄のレールで固定されているため自動車のようにハンドルを切って回避できない鉄道では、代わりに列車同士に一定の間隔を確保するため「閉塞」(その列車の前後一定の距離内に他の列車を侵入させない仕組み)が導入されている。列車の走行位置が正確に検知できなければ踏切も正常に動作せず衝突事故につながりかねない。

 「これ以上開発しても無駄という悪い結果ではないが、満点でもない」(関係者)――第3次走行試験の評価は、大勢の乗客の命を預かりながら安定的な輸送実績を出さなければならない新幹線としては致命的といえよう。事実、この結果を見たJR西日本は、FGT車両を使用した列車の山陽新幹線(新大阪~博多)区間乗り入れを認めない意向を表明した。運行が不安定なFGT使用列車の乗り入れを認め、山陽新幹線区間を走行中に故障した場合、構造が複雑なため運行回復に時間がかかるというのがその理由である。

 もともとFGTによる長崎新幹線計画には無理があった。FGT開発が当初計画通りに進んだとしても、2022年の全線(新鳥栖~長崎)開業にぎりぎり間に合うという薄氷のスケジュールは、FGT開発の遅れで事実上破たんした。JR九州の青柳俊彦社長が、FGT車両に通常車両の3倍のコストがかかることを理由に、FGTによる長崎新幹線運行を拒否する意思を表明したのは2017年5月のことだ。そして、与党の整備新幹線推進プロジェクトチーム検討委員会は議論に1年以上を費やした挙句、ついにこの7月19日、FGTによる長崎新幹線の断念を正式決定。長崎新幹線について、全線フル規格格上げまたは在来線を標準軌に改軌して列車だけは直通できるようにする「ミニ新幹線方式」のいずれかで今後の整備計画を見直すよう提言した。ミニ新幹線は山形・秋田の両新幹線で導入された方式だ。

 ●軌間も決まらない線路に1兆円?

 2016年の第3次走行試験失敗以降、FGTのとん挫を見越して全線フル規格格上げを目指す長崎県・JR九州とミニ新幹線方式でよいとする佐賀県の間ですでに水面下の駆け引きが始まっていた。「どれだけ追加費用がかかろうと全線フル規格格上げ以外にない」と息巻くのは長崎県だ。新幹線の始発/終着駅となる長崎県にとっては、乗り換えなしの高速運転で新大阪までの直通を勝ち取ることは大きなメリットになる一方、フル規格格上げが実現しなかった場合の被害は計り知れないからだ。フル規格で着工した長崎~武雄温泉間は「離れ小島」となり、乗客は軌間が変わる武雄温泉で半永久的に乗り換えを余儀なくされる。そうでなくても、わずか66kmしかない長崎~武雄温泉ではフル規格化による時間短縮効果がわずか5分といわれているのに、武雄温泉での乗り換えで台無しになってしまう。現在、長崎本線経由で博多~長崎間を運行している在来線特急「かもめ」に乗り換えがないことを考えると、時間短縮されない上に乗り換えまで発生してしまう新幹線は有害ですらある。下手をすると「新幹線いらない、白紙に戻せ」の大合唱になる可能性もあるからだ。

 一方「全線フル規格格上げに断固反対」なのは佐賀県だ。県内を走る武雄温泉~新鳥栖間は現在の整備計画では在来線(佐世保線・長崎本線)をそのまま走行することになっている。この区間が仮に全線フル規格格上げとなり、別ルートを走行することになった場合、佐賀県内は通過ルートとなるだけで何のメリットもないのに、路線距離に応じて800億円もの追加費用を負担しなければならないからだ。「佐賀を素通りして長崎から博多に行く客のために、なぜわが県が800億円も負担させられなければならないのか」という佐賀県知事の怒りはもっともだ。

 佐賀県と長崎県の利害は真っ向から対立している。干拓農民と漁民が対立させられた諫早湾干拓事業をめぐる怨念ももともと両県の間にある。漁民の提訴を受け、干拓事業の舞台となった調整池の「潮受け堤防」開門を命ずる判決が出たにもかかわらず、干拓農民が起こした訴訟では開門を禁ずる判決が出て、潮受け堤防は今も閉じたまま干拓事業が続いている。こうした経緯もあるだけに佐賀県の抵抗を甘く見てはならない。訴訟合戦がこじれ、潮受け堤防の開門が当面、見通せなくなった干拓事業。さんざん煮え湯を飲まされてきた佐賀県だけに、長崎新幹線で政治的「報復」に出る可能性は十分に考えられる。この対立に容易に解決は見いだせないだろう。

 長崎~武雄温泉間の建設には5000億円の巨費が見込まれている。仮に全線フル規格となった場合、追加費用は6000億円といわれる。合計でざっと1兆1千億円だ。まだ線路の幅も確定していない路線にこれだけの巨費が投じられようとしている。日本の納税者はもっと怒るべきだろう。

 北海道では、2015年1月の高波災害で不通になったまま3年半を経過した日高本線の沿線自治体に対し、JR北海道が廃止~バス転換を提案している。地元町村会と住民は結束して路線維持を掲げている。この日高本線の営業キロは146.5km、一方で長崎~博多間は153.9kmに過ぎない。沿線住民が切実に路線維持を求めている日高本線とほぼ同じ距離の区間で、線路の幅も決まっていない路線のために1兆円もの血税が浪費されようとしている。長崎新幹線はいったん白紙に戻した上で、そんな金があるなら北海道の路線維持に使うべきだろう。

 とはいえ、国民からあれほど厳しい批判を受けた八ッ場ダム工事でさえ、民主党への政権交代を経てもなお中止できなかったことを考えると、すでに着工してしまった長崎~武雄温泉間の工事が「たかがこの程度のこと」で止まる可能性は現実的にはないように思われる。すでに始まった工事は止まらず、軌間の異なる武雄温泉でのFGTによる直通の夢も破れ、佐賀県の抵抗で全線フル規格への格上げもできないまま、始発駅・長崎を出発してわずか15分後には武雄温泉で全員が降りて乗り換えなければならないという悪夢が現実のものとなりつつある。このどうしようもなく迷走する事態に終止符を打つためにどのような方法があるだろうか?

 ここで筆者は「長崎~武雄温泉間の狭軌への変更」を提案したい。長崎~武雄温泉間に標準軌でなく、在来線と同じ狭軌の線路を敷設するのである。こうすれば、武雄温泉では狭軌同士となるので線路をつないで直通させることができる。新鳥栖で九州新幹線に乗り入れる予定だった当初計画も変更し、博多まで全区間在来線を走るようにすればいい。こうすれば現在と同じように長崎~博多の全区間を乗り換えなしで直通でき、佐世保線(肥前山口~武雄温泉間)の複線化とあいまって大幅なスピードアップが実現する。新線区間(長崎~武雄温泉)で160km~200km/h程度の高速運転ができれば、事実上のスーパー特急方式にでき、さらに数分程度の時間短縮が可能になる。ついでに言えば、事実上のスーパー特急方式といわれる路線にはかつての北越急行「ほくほく線」のほか、現在も運行が続けられている成田スカイアクセス(いずれも160km/h)があるが、これらがいずれも直流1500V方式であるのに対し、九州の在来線は新幹線と同じ交流電化方式(電圧は異なる)なので、スーパー特急にするための技術的障壁は直流区間ほど高くないといえる。博多で山陽新幹線への直通ができなくなることがこの方法唯一の欠点だが、FGTがとん挫し、全線フル規格格上げも実現しなければどのみち直通はないのだからそれが今さら問題になるとも思えない。

 ●なぜこのようなことが起きているのか?

 1964年、世界初の新幹線を開業させ世界を驚かせた日本は、その後長期間にわたって「鉄道大国」との評価を受けてきた。だが日本がその評価をほしいままにできたのは、ひいき目に見ても1980年代までだったといえよう。国鉄分割民営化を境として、日本を鉄道大国と形容する声は今やほとんど聞かれなくなった。韓国、中国、インド、インドネシアなど新興国で次々と新幹線が走り出している横で、日本はすでに安定した実績を誇るタルゴ社からの技術協力まで受けながら、いまだFGTに実用化のめどをつけられないでいる。高速バスでも間に合う程度の距離しかない長崎~博多間で新幹線のために1兆円が投じられようとしている一方、鉄道を残してほしいという日高本線沿線住民の声は聞き入れられずバス転換が提案されるなどその場しのぎでちぐはぐな策しか持ち合わせていない。日本の鉄道はいつからこんなに落ちぶれてしまったのか。

 FGTの失敗、そして長崎新幹線の迷走の要因はいくつも考えられるが、代表的なところをいくつか挙げるなら「FGT成功を過信したぎりぎりで余裕のないスケジュール」「台車に重りを乗せて車輪の回転試験を行うのみで、営業車両と同様の条件でのテストもせず試験走行を“順調”と評価した国土交通省の自分に甘い体質」「新幹線ではなく新幹線“工事”が欲しいだけのゼネコンや政治家、沿線自治体」「失敗を失敗として受け止められず、事後処理でも地域エゴむき出しの佐賀・長崎両県」などだ。そこでは典型的失敗公共事業につきものの、お決まりのドタバタ劇がまたも無反省に繰り広げられているようにしか筆者には見えない。

 日本の鉄道をめぐる、この目を覆わんばかりの惨状に対して、さすがに鉄道人としての忍耐も限界に達したのだろう。30年前、国鉄分割民営化で主導的役割を果たし、JRグループ発足後の数年間「国鉄改革は大成功、世界の鉄道改革の見本になる」などと喧伝していた改革推進派のOBたちからも、疑問やJRグループの再編を求める声が公然と上がり始めた。松田昌士・元JR東日本会長や黒野匡彦・元運輸事務次官が「改革に乗り出せばJRグループを作った先輩を否定することになる」などと恐れず、時代の変化に合わせて改革をしてほしい――と相次いで発言している。石井幸孝・JR九州初代社長も、いてもたってもいられなくなったのか「日本の鉄道政策全体を見渡す司令塔が必要」と最近、新聞紙上で発言した。JR1047名不採用問題にかかわってきた筆者としては、分割民営化推進派だった彼らに対していろいろと複雑な思いがある。一方で「鉄道事業の動かし方」「全体を俯瞰した鉄道政策の作り方」を知っていた事実上最後の世代である彼らが、命あるうちにと発言を始めている現状に「そこまで深刻な事態なのだ」と率直に危機感を覚えざるを得ないこともまた事実である。JRグループはやはり不可逆的崩壊過程に入っており、数年のうちに劇的な変化が待ち受けている――筆者は今、そんな予感を抱いている。

(黒鉄好・2018年7月21日)

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【管理人よりお知らせ】安全問題研究会サイトに浦河町での講演資料を掲載しました

2018-07-16 10:48:01 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

当ブログ管理人は、7月14日、浦河町で行われた「いま改めて考えよう!日高線の役割」と題したフォーラムでパネラーを務め、廃線危機の原因がJR北海道の経営のまずさにあること、「輸送密度」のまやかし、第三セクター鉄道を維持してきた地域が自立の先進例になりつつあること――等、鉄道維持の重要性を明らかにする発言を行いました。

この際、使用したスライド資料「JR日高本線から~鉄道と観光、そして 「地域力」」を安全問題研究会サイトにアップしましたので、ぜひご覧ください。

安全問題研究会が公表した他の資料「第三セクター鉄道の現状をどう見るか」「第三セクター鉄道の転換当時の状況と現状一覧表」(いずれもPDF版)と併せてご覧いただくことにより、改めて、廃線危機がJR北海道の経営のまずさに起因していること、他の第三セクター鉄道にできることがなぜJR北海道にできないのかの検証が廃線論議の前に必要であること――等が見えてくると思います。

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鉄道軌道整備法改正法案成立に関するコメント/安全問題研究会

2018-06-26 22:20:34 | 鉄道・公共交通/交通政策
<安全問題研究会コメント>
鉄道軌道整備法改正法案が可決・成立~被災路線放置を続ける国・JRに鉄道事業者の責任を求める~

1.第196通常国会に議員立法で提出され審議が続いていた鉄道軌道整備法の改正法案が、6月15日、参院本会議において全会一致で可決・成立した。過去2回国会提出されながら、解散・総選挙などを受け審議未了~廃案となった法案が3回目の提出でようやく成立の日を迎えたのである。安全問題研究会は、この法案成立を歓迎するとともに、2011年7月の新潟・福島豪雨で不通が続くJR只見線の復旧に道を開くため、この法案を作成した福島県選出自民党国会議員団、法案事前審査に関わった自民党国土交通部会、衆参両院の国土交通委員会とその関係者に対し、特に深い謝意を表明する。

2.この法案は、災害復旧費の国庫補助を赤字の鉄道事業者に限定していた従来の枠組みを改め、(1)激甚災害による被災であること、(2)当該路線が過去3年間赤字であること、(3)災害復旧費が当該路線の収入を上回っていること――等、所要の条件を満たす場合には、黒字の鉄道事業者に対しても、災害復旧費の4分の1(上下分離で「下」(線路の所有管理)を公的主体が担う場合には3分の1)を上限として国庫補助の対象とするものである。

3.1986年11月28日、参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会で国鉄改革関連8法案が可決・成立した際、行われた附帯決議が『各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと』を政府に対して求めたのに対し、当時の運輸相及び自治相が「決議の趣旨を尊重」すると表明し、努力・善処を約束したことをすべての市民が改めて想起すべきである。

4.当研究会が鉄道軌道整備法の問題に着目し、その改正を初めて国に対して求めたのは、2014年9月に行った国土交通省への要請行動であった。それ以降、道路など他の社会資本に比べて鉄道への国家予算の配分が著しく少ないこと、鉄道が社会資本としての正当な評価を受けないまま民間企業の経営努力に任され放置されていることなどを、あらゆる機会を捉えて問題点として訴え続けてきた。3年9ヶ月にわたる活動が、鉄道軌道整備法の一部改正として実ったことは当研究会にとって喜びであり感慨無量である。

5.しかし、鉄道が道路などと同様に社会資本として位置づけられることを最終目標としている当研究会にとって、今回の法改正は小さな第一歩でありスタートに過ぎない。とりわけ、国庫補助の上限が4分の1(上下分離の場合は3分の1)と低いこと、補助対象があくまで災害復旧費に限定されており、上下分離が導入された場合であっても線路の維持管理費は補助対象にならないことなど、なお改善すべき課題は山積している。当研究会は、これら課題の改善のために活動を続ける。

6.現在の最大の問題は、事実上の経営破たん状態にあるJR北海道が「資金難」を理由に被災した鉄道路線の復旧責任を放棄していることである。根室本線、日高本線などの重要路線が災害を理由に廃線提起されている。こうした鉄道事業者が存在することはひとえに法制度の不備であるとともに、国鉄分割民営化を通じて本来は社会資本であるべき鉄道を「私企業」にした国の責任であると考える。国鉄分割民営化を強行した国の責任を追及するとともに、「私」から「公」へ、利潤から社会的利益へ、企業経営から民主的共同社会の論理に基づく運営へ、鉄道政策の抜本的転換を求める。

7.同時に、当面取り組むべき課題として、JR北海道が経営状態の悪化を言い訳にせず、公共交通事業者としての責任を果たすよう求める。災害による不通と不採算による廃線提起は別の問題であり、この法案の成立を契機に、JR北海道が公共交通企業本来の姿に立ち返り、直ちに被災線区の復旧に取りかかることを強く求める。もしこの課題が果たされない場合、当研究会はJR北海道の会社清算及びJRグループ7社体制から別の体制への再編も辞さない強い覚悟で今後に臨むことになる。

8.これらの課題を解決するため、当研究会が果たすべき役割はますます拡大している。当研究会は、北海道と日本の鉄道網を守るため、強い決意をもって、今後も全力で取り組むこととする。

2018年6月26日
安全問題研究会

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JR根室本線の早期災害復旧と路線維持を求める十勝集会~「廃線になると町は死ぬ」

2018-06-25 22:14:11 | 鉄道・公共交通/交通政策
「JR根室本線の早期災害復旧と路線維持を求める十勝集会」が6月21日、新得町公民館で開催され、150人が集まった。JR根室本線は現在、東鹿越~新得間が2016年夏の台風で被災したまま、不通になって間もなく2年になる。

この間、JR北海道はこの区間を復旧させるどころか、「自社単独では維持困難」だとして廃線を提起。6月17日に行われた関係6者(国、道、市長会、町村会、JR北海道、JR貨物)協議でも、JR北海道は「国に支援を求めず廃線を目指す」5線区にこの区間を位置づけた。

根室本線は、1981年に新夕張~新得間が開業して石勝線となるまで、食堂車を連結した特急列車や貨物列車が札幌と釧路を結んで走った大動脈だ。今でも、石勝線が災害で不通になれば代替輸送の可能性のある線区である。そんな区間でさえ廃線を目指すJR北海道は、もはや公共交通事業者としての責任を完全に放棄したと言わざるを得ない。

午後6時30分から始まった集会では、まず主催者を代表して佐野周二さん(鉄道退職者の会新得支部)があいさつ。「鉄道の災害復旧は国の責任だ。現在、署名簿集めをしており、国土交通大臣に届ける予定にしている。(JR北海道が自社単独で維持困難とした10路線13線区のうち、根室本線を含む5線区には国の支援を求めないとする、6月17日の)6者協議の結果は認められない。激甚災害による被災なのだから激甚災害法によって復旧するのが当然だ。今では、採算が合わない鉄道は廃線になるのが当然のように報道されているが、昔は全部国有鉄道だった。分割民営化が国策なら、日本中に道路網を張り巡らせた道路優先政策も国策だ。国策によってこのような状況が生まれたのだから、解決も政治によるのが当然。政治決着に向け希望を持って取り組む」と、国による復旧を求める決意を示した。

続いて、新得町連合町内会の青柳茂行会長が、「署名簿を2163筆集めた。全町民に回覧板の形で回し、署名簿を集めたのは町の歴史上初めてのことではないか」と、この間の取り組みを報告。「根室本線は、道北と道東という、2つの巨大地域を結んで走る大動脈であり、北海道全体のものだ。そんな大動脈の存廃が沿線一自治体に委ねられていることが理解できない。私たちの町がいいと言えばなくしていいのか? その点を問わざるを得ない」との発言が、高橋秀樹・南富良野町副町長からあった。

この日の集会のメインは、十勝町村会会長であると同時に本別町長でもある高橋正夫さんの講演だ。

「国鉄が分割民営化されて以降、JR北海道は地元に対し、(経営状況などの)情報開示も一切せず、ある日突然「廃線」を切り出してきた。2006年、(旧国鉄池北線を転換した第三セクター)ふるさと銀河線が廃止されたときと同じ状況だ。あのときも銀河線の赤字補てんが「金利低下」でできなくなった、と突然言ってきた。

JR北海道は、災害で不通となった東鹿越~新得間の復旧に10億5千万円かかると言っているが、地元にはそんなに高いわけがない、もっと安く復旧できるという人が大勢いる。線路はJRだけのものでも南富良野町だけのものでもない。北海道全体の財産だ。廃線が既成事実のような報道が行われているが、「そうはさせるか」との思いだ。

北海道はもともと林業が盛んだった。その林業が国策のためにつぶされていった。次に石炭がつぶされたのも、エネルギー政策の転換という国策だった。林業も石炭も、全部国策でつぶしておいて、今ごろになって地方創生で頑張れと掛け声だけかけられる。その一方で、地元にとって頑張る基盤のはずの線路まで剥がそうというのか。線路は地方にとって頑張る基盤であり、赤字黒字で判断するものではない。

十勝には国鉄時代、白糠線があり、士幌線があり、広尾線があり、池北線があった。白糠線、士幌線、広尾線はすべて国鉄末期に廃線になり、池北線もふるさと銀河線に転換後廃止になった。これで根室本線まで廃止になったら、ついに十勝はすべての鉄道を失ってしまう。国は、根室本線のトンネルや鉄橋などの施設が古くて金がかかるから直せないというが、東鹿越~新得間が不通となった2016年の台風災害では昭和時代に造られた鉄橋が流されたのに明治、大正時代に造られた鉄橋は流されずに残った。先人たちが汗を流して造り、残してくれたのはそれくらい価値ある財産なのだ。

ふるさと銀河線がなくなった後、本別で何が起きているか。地元の中学生が帯広市の高校に合格する。鉄道があったころは、男子も女子もみんな鉄道で通った。鉄道がバス転換になって以降、通学時間が延びた。それでもまだ男子の場合はバスに長時間乗せて地元から通わせる親が多いが、女子の場合、通学時間があまりに長いと親が心配する。その結果、短時間で通学できる場所がいいと、家族が娘に合わせて帯広市の近くに引っ越し、父親だけが逆にそこから本別に通ってくるようになる。お年寄りも、病院が遠くなったからと帯広に引っ越す。鉄道がなくなった町は人の住めない町になる。だから今が頑張りどころだと思う」。

高橋会長の話は、地方各地を転々としてきた私にとって、納得できるものばかり。「鉄道がなくなると、女の子のいる世帯から順に町を出て行く」という話には衝撃を受けた。2040年には、日本の地方自治体の約半数が「消滅可能性都市」に該当するようになる――そんな衝撃的な予測を「日本創成会議」が公表し、騒ぎになったのは2014年のことだ。日本創成会議は、出産可能な年齢である20~39歳の女性の人口比が5割以下にまで減少することを「消滅可能性都市」選定の根拠としたが、今回、高橋会長の話を聴いたことで、バラバラの「点」として存在しているに過ぎなかった「鉄道廃止による地域衰退」と「出産可能年齢にある女性の減少による地域消滅」の話が「線」としてつながった。『鉄道がなくなった町では、女の子のいる世帯から順に町を出て行く。女の子に出て行かれた町は、子どもが生まれなくなり死んでゆく』――北海道がそんな死の町になる前に抵抗しなければならない。抵抗できるのは今しかない――高橋会長の魂の叫びだと私は受け止めた。

新自由主義に染まりきり、凝り固まった「御用経済学者」たちは、グローバリズムの流れは今さら止められないのだから、英国のEU離脱は誤りだと、なじることを繰り返す。果たして本当にそうだろうか? 今、世界で起きていることはグローバリズムと、それへの反逆としてのローカリズムのせめぎ合いである。英国のEU離脱は確かに劇薬だったが、グローバリズム一辺倒で進んできたここ四半世紀の人類社会にとって重要な示唆でもある。「反グローバリズムの拠点として地方を活かし、強化すること」は今後の重要な課題のように思われる。

2016年の台風で「昭和時代に造られた鉄橋が流されたのに明治、大正時代に造られた鉄橋は流されずに残った」というのも、人によっては耳を疑う話のように聞こえるかもしれないが、長年、鉄道の安全問題に関わってきた私にはいかにもありそうな内容で納得できる。高度成長期も終わりに近づいた1960年代~70年代に造られた山陽新幹線の高架橋が阪神・淡路大震災で落ち、その後、2000年前後には、山陽新幹線のトンネルで外壁剥離事故が相次いだ。だがこのときも、それ以前――明治・大正時代に造られた構造物はびくともせず、戦前に造られた関門鉄道トンネルでは山陽新幹線のトンネルでのような頻繁な外壁剥離は起きていないからだ。古いものより新しいもののほうがずさんに造られ粗末に扱われているという事実は、戦後の高度経済成長がもたらした歪み、そして国土交通行政の失敗を鮮やかに私たちに告げている。

「古いものだから金を出して直す価値がない」「赤字の鉄道はなくなって当然」「鉄道がなくなったから町が廃れるというのは存続派の勝手な幻想」--メディアを使って声高に繰り返されてきた主張は、高橋会長によって完全に論破された。これでもなお安倍政権が北海道の鉄道は安楽死でいいと考えているなら、私たちはやはり安倍政権を倒す以外にない。

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生命力尽きたJRグループ~新幹線殺人事件から見えたJRの「最終章」

2018-06-13 22:15:25 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 物心ついたときから鉄道ファンとして、人生と同じ年数だけ国鉄~JRをウォッチし続けてきた私の目から見ると、最近のJRはもう完全に生命力が尽きたと感じる。耐用年数が切れたという表現はふさわしくない。耐用年数が切れても元気に働き続ける家電製品などいくらでもあるからだ。最近のJRグループに関しては、とてもではないがそんな生やさしい表現では足りず、まさに「生命力が尽きた」という表現こそふさわしい。死臭が漂い始めた、という表現でもいいのではないだろうか。

 国労所属というだけで1047名もの労働者の首を切り、おびただしい自殺者を出した国鉄「改革」によって発足してから31年。多くの労働者の屍の上に社屋を建ててスタートした会社に輝かしい未来などあるはずがないことはわかりきっていた。支社長方針のトップに「稼ぐ」を掲げた挙げ句に107名が死亡する事故を起こし、流量計を改ざんしてまで信濃川から不正取水をするなどの悪や愚行をさんざん重ねてきた企業グループ。ただそれらはいずれも(表現としては不適切だが)日本企業なら程度の差はあれどこにでもあるような企業悪の一類型の中に、何とか押し込めようと思えば可能であるような、「頭で理解できる程度には普通の悪」だった。しかし、ここ5年ほどのJRグループは、そんな領域も私の理解もはるかに飛び超え、社会の荒廃を拡大再生産させる装置として文字通り「最終章」に入ったように見える。JRグループ唯一の稼げる路線にして、旧国鉄から引き継いだ中では最も輝かしい宝物だったはずの新幹線で立て続けに起きる不気味な事件は「死滅」への明らかな予兆である。

●「1時間20分の空白」が持つ意味

 2015年6月、下り新幹線「のぞみ」で高齢男性が車内にガソリンをまいて放火した事件の記憶もまだ醒めやらないというのに、大勢の乗客を無差別に巻き込み、犠牲者を出す事件がまた新幹線車内で起きてしまった。刃物を振り回し、止めに入った男性乗客を死亡させた男がこの凶行に及んだのは新横浜~小田原間の車中。またも下り「のぞみ」で、新横浜発車直後というのも2015年とまったく同じだ。だがこれは決して偶然などではない。無差別に乗客を巻き込んで凶行に及ぼうとする者たちが「のぞみ」のこの区間を選ぶのには、ちゃんと理由があるのだ。

 東京~名古屋間で頻繁に新幹線を利用する方はご承知と思うが、新横浜を発車した「のぞみ」が次に停車するのは約330kmも離れた名古屋だ。その間、約1時間20分にわたって停車駅がない。車内は極端に人の動きが少なくなり、密室状態に近くなる。他の乗客が走行中の車内から外に逃げることも、高速道路を使って警察がパトカーで追いつくことも不可能だ。凶行を計画している者にとって、これだけの条件が揃っている場所は他を見渡してもそうそうあるものではない。「のぞみ」のこの区間が選ばれるのは当たり前すぎるほど当たり前なのだ。

 「当列車は、ただいま、三河安城駅を定刻通り通過致しました。あと10分ほどで名古屋に到着致します」。下りの「のぞみ」車内では、三河安城駅通過時にこのような車内アナウンスが流される。1時間20分の時間を利用して車内で眠りこけている人が多いことがこのアナウンスからうかがえる。空いた時間でちょっとした仕事や勉強をしたり、不足気味の睡眠を補うには好都合だが、昨年の年末に起きた上り新幹線「のぞみ」の台車亀裂事故では、完全な破断まであと3センチというところまで大きな亀裂が台車枠に入っていたことが後になってから判明した。名古屋で車両の異常に気付いて列車の運行を打ち切っていなければ、新横浜まで1時間20分。走りっぱなしの区間のどこかで台車枠は完全破断し、前代未聞の大事故につながっていたかもしれないのだ。こうなると、1時間20分もの長期間の空白時間帯が、列車運行や乗客の安全を守る上で本当によいことなのか考えなければならない時期に来ているといえよう。

 そこで、当面、今すぐにできる対応策として、犯罪の温床となりやすく、また車両の異常が起きても対処を困難にさせる1時間20分もの長時間の走りっぱなしを解消するために、途中に停車駅を増やしてはどうだろうか。列車がいったん止まり、ドアが開いて乗り降りのために乗客に動きができるだけでも、凶行を計画している者にとって心理的ハードルはかなり高くなるからだ。車両に異常が起きた場合に対処が容易になるメリットもある。

 新たな停車駅としては、断然、静岡がふさわしい。名古屋~新横浜のほぼ中間地点にあり、また政令指定都市、県庁所在地でもあるからだ。現在、日本国内に政令指定都市は20あり、そのうち東海道・山陽新幹線の駅があるのは横浜、静岡、浜松、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、北九州(駅名は小倉)、福岡(駅名は博多)の11市。このうち「のぞみ」が停車しないのは、静岡県内の2駅(静岡、浜松)だけだ。この両市は、市町村合併によって後から政令指定都市に加わったという事情があるにせよ、福岡県内の2市(福岡、北九州)の両方に「のぞみ」全列車が停車しているのと比べると、明らかにバランスを欠く。もし今、政令指定都市の中で静岡、浜松にだけ「のぞみ」が停車しない理由は何か、と尋ねられても、JR東海はおそらく「開業当時からそうだったから」以外の回答を持ち合わせていないのではないだろうか(もっとも、福岡県内両市の「のぞみ」全列車停車駅としての地位は当分、安泰と思われる。博多駅は九州新幹線開業まで長く新幹線の終点駅だったという事情があり、また北九州市の政令指定都市指定は1963年で、地方自治法改正(1956年)によって政令指定都市制度ができた当初からの「指定5市」(横浜、名古屋、京都、大阪、神戸)を除けば最も古い政令指定都市として、停車駅から除外するのが容易でないというのがその理由である)。

 このような提案をすると、「1964年の開業当初から半世紀、新横浜~名古屋間を走りっぱなしで何の問題もなかったではないか」との反論が返ってきそうだ。だがこの間、まったく問題がなかったわけではなく、1964年10月1日の開業初日、早くも車内で急性盲腸炎の患者が発生し、「ひかり」が静岡に臨時停車、救急車で搬送されたというエピソードもある。当時は「車内からでも救急通報ができる新幹線のハイテクノロジー」として肯定的に報じられたが、急患本人にしてみればとんでもない話だ。開業初日からこのようなアクシデントが発生したこと自体、「1時間20分もの無停車走りっぱなし」に根本的な無理があったことを物語っている。「静岡が政令指定都市に昇格するなど、新幹線を取り巻く外部環境の変化」など適当な理由でかまわないので、このあたりで停車駅を増やしてはどうだろうか。

●死体遺棄場所としてのJR~進む先は80年代のNY地下鉄か

 私にとって、最大の衝撃を受けた事件がもうひとつある。これもつい最近だが、新潟県で7歳の女児が殺害され、遺体がJR越後線の線路に棄てられた事件である。7歳女児の命が残酷に奪われたことはもちろんだが、それよりも死体遺棄場所としてJRの線路が選ばれたという事実に対して私は大きな衝撃を受けた。これは、遺棄した者が、他の場所と比べてJRの線路上に遺体を棄てるほうが発見が遅れ、逃走しようとする自分自身にとって有利になる、と考えていたことを示すものだからである。軌道自転車などの手段で、保線担当の職員が日常的に線路上を巡回していた国鉄時代では考えられなかった話だ。国鉄時代なら、たとえ殺害という結果は変わらなかったとしても、警察より先に保線担当の国鉄職員によって発見され、遺体はもっと早く家族の元に帰ることができたであろう。

 鉄道駅は大勢の人が集まる場所だけに、その時代時代を象徴する事件事故の舞台になってきた。新宿駅が学生に占拠された新宿騒乱事件や、相次ぐ労働組合のストに怒った乗客による上尾駅での暴動、国鉄分割民営化反対運動の中で起きた通信ケーブル切断など、昔の事件は(もちろんそれ自体はあってはならない犯罪行為であり肯定はしないが)エネルギーにあふれており、誰が誰に何のメッセージを発したいのか明確なものが多かったように思う。ところが最近の事件からは昔のようなエネルギーも希望も、メッセージ性も感じない。代わりに感じるのは陰惨さと絶望だ。

 自暴自棄になった人が、社会に対する怨念を爆発させるための最後の場所としてJRを選ぶ――ここ数年でこうした傾向がはっきりと出てきた。1980年代、米ニューヨークの地下鉄では、落書きされ、破壊された列車が修繕もされず薄暗いまま走行し、ありとあらゆる犯罪が横行。世界一危険な公共空間といわれた。今でこそニューヨークの地下鉄はよみがえったが、女児殺害や焼身自殺、刃物殺人を意図する者たちが次々とJRに吸い寄せられていく現状を見ていると、いずれJRが当時のニューヨーク地下鉄のような状況になるのではないかという暗い予感が最近、私の脳裏から離れない。

●線路があるのに列車が来ない

 JRの荒廃ぶりを象徴する路線がもうひとつある。北海道のJR日高本線だ。2015年1月に発生した「高波災害」でこの路線の鵡川(むかわ)~様似までの区間がもう3年半近くも運休になっている。驚くことに、途中の日高門別までは線路がまったく被災しておらず、列車を走らせようと思えば明日といわず今日にでも運転を再開できる状況にある。ところがJR北海道は、復旧経費が出せないなどと言い訳を並べた挙げ句、運行再開にすら応じようとせず、地元に廃止~バス転換を提案している。

 事故にも災害にも遭っておらず完全な状態、しかも法的に廃止・休止いずれの手続も取られていない線路の上で、JRの「資金不足」のため勝手に列車が運行されなくなってしまう。戦時中、軍事的に重要でない地方路線が「不要不急路線」として一時的に列車の運行を中止させられた例はあった。しかしこのときですらほとんどの路線では鉄道省によって休止の手続がきちんと行われていた。今、JR北海道で起きていることは、戦時中でさえなかったような異常事態なのである。玉音放送を聞きながら、多くの国民がうちひしがれた敗戦の日にも、休むことなく列車を動かし、そのことを誇りに思っていたあの鉄道員魂はどこに消えてしまったのか。 

●弱体化で人もカネもない

 いつまで経っても解消しない首都圏の超満員列車と、何の手も打たれないまま「安楽死」に仕向けられているとしか思えない地方の在来線。極限までの人減らしで駅にも列車にも線路にも巡視の目が行き届かなくなった結果、JR最大の看板だったはずの新幹線までが犯罪の巣窟化し始めた。関西では、カーブ上にホームがある片町線・鴫野(しぎの)駅でホーム要員の配置がなくなり、ただでさえ多い転落事故がいっそう増えるとして、ホーム要員の復活を求める署名活動まで行われているが、JR西日本がホーム要員を復活させる気配は見られない。

 私たちはJR発足直後から、事あるごとに現場に人を増やせ、安全投資にこそ資金を回せと何度も繰り返し要求してきた。しかし最近はもう何を求めても「人がいない」「カネがない」で終わってしまう。空前の利益を上げている本州3社、株式上場で意気上がるJR九州こそ表向き大成功しているように見えるが、一皮むけばその実態はお寒い限りだ。合理化のやり過ぎで弱体化してしまったJRは新しい営業政策や安全対策を打ち出そうにもそのエネルギー自体まったく失われている。私がJRを「生命力が尽きた」と評するのにはこうした理由もある。例えは悪いが、ダイエットをやり過ぎて栄養失調で倒れた人が、担ぎ込まれた病院のベッドの上で、身長と体重の比率を示すBMI値だけを見て「痩せた! ダイエット成功!」と喜んでいるのに近い。JR北海道に至っては、人間に例えるならもう末期状態だろう。

●鉄道40年寿命説

 「汽笛一声新橋を はや我が汽車は離れたり」。鉄道唱歌の歌詞が示す通り、新橋~横浜間に日本初の鉄道が開業してから今年で146年。もうすぐ150年の節目がやってくる。この150年間の日本の鉄道を歴史面から見ていくと、面白いことに気付く。

 1872年、日本の鉄道は民間事業として始まった。その輸送力の大きさに目をつけた篤志家が私財をなげうち、あるいは投資を募って線路を敷き、列車を走らせた。東海道から始まった鉄道会社はあちこちで作られ、路線網は拡大していったが、各地で過当競争が起きる一方、鉄道会社同士の境界駅では荷物が何日も運ばれずに放置される事態となった。これに危機感を抱いた軍部、特に陸軍の主導で鉄道国有法が成立したのが1906年。これ以降、大部分の鉄道会社は国に買収されて官営鉄道に再編される。

 この体制のまま戦争に突入した日本で、次に大きな鉄道の組織改革がやってきたのは敗戦直後だ。鉄道が軍主導の体制で戦争に突入した反省から、GHQ(連合国軍総司令部)は民主化政策の一環として、国が鉄道の経営方針に介入できないよう、官営鉄道の経営を政府から切り離すよう指示する。だが日本政府が目指した民営化は頓挫し、やむなくGHQの提案によって米国式公共企業体制度を導入する。1949年、こうして日本国有鉄道は誕生した。そして、まだ記憶に新しい国鉄分割民営化が行われたのは1987年のことだ。

 民間事業としての鉄道開業から国有化までが34年、官営鉄道から公共企業体への改革までが43年、国鉄時代が38年。平均すると38.3年だ。日本の鉄道はほぼ決まった周期で大きな組織再編の波に洗われてきた。鉄道を取り巻く社会情勢の変化に、既存の鉄道会社組織が耐えられなくなるのがだいたいこれくらいなのだろう。私はこれを「鉄道40年周期説」または「鉄道40年寿命説」と名付けたいと思う。

 JRは何年経ったのだろう。1987年から数えてみると、……今年で31年、早いものだ。私の提唱した40年周期説が正しいとするなら、もうすぐ寿命も尽きる。JRを舞台とした最近のおかしな事件事故の続発が死滅の予兆かもしれないと冒頭で書いた私の感覚は正しかったのだ。

●寿命尽きたJR、そろそろ「次」へ

 「日本の鉄道の歴史を見ると、だいたい30~40年で大きく組織の姿は変わっている。一番長く保った官営鉄道でさえ43年。全国レベルの鉄道を運行する企業の組織でこれ以上長く維持できた例はこれまでにありません。JRだけがこれより長く、50年も60年も保つと考えるのは楽観的すぎます。鉄道行政の所管官庁として、そろそろJRの次を構想することもあなた方の新しい仕事に加えたらどうでしょうか」。

 年末の慌ただしさも増していた昨年12月中旬、私は国交省鉄道局の若手官僚と向き合っていた。JR北海道のローカル線維持のために国費を投入するよう、要請書を提出した際のことだ。「今ある制度を手直ししながら、維持していくのが私たちの仕事ですから」。将来を約束された若きエリート官僚は、将来、国会で答弁する立場になることを見越した予行演習のような、そつのない回答で私の質問をかわした。JRが弱体化する自分自身を上手くコントロールしながらどこかに軟着陸できるようには、私にはとても思えない。だが、官僚の役割は制度を維持することで改革や変革は自分の仕事ではないとする彼の回答は「官僚としては」正しい。これ以上この点を追及するなら相手は政治家にすべきであり、私は矛を収めた。

 2年後の東京五輪までは、青息吐息になりながらもJRはなんとか現状の7社体制を維持するだろう。だがその先は予断を許さないと私は見ている。線路に棄てられた幼い遺体を発見することもできず、被災していない普通の線路に列車を走らせることすら予告なく勝手にやめてしまう「弱体JR」が、押し寄せる内外の乗客を前に、果たして東京五輪を無事に乗り切れるだろうか。諸外国が日本の鉄道に対して漠然と抱いていた信頼を根底から壊すような出来事が、おそらく五輪期間中かその前後に起きると私は思う。そのことをきっかけに、一気にJRグループは再編に向かうだろう。

 JR再編が避けられないとして、それはどの方向になるのだろうか。今はまだはっきりと予測することはできない。だが歴史を丹念に検証すると、おぼろげな輪郭は見えてくる。

 民営事業として始まった鉄道が国有化に向かったきっかけは、儲かる区間での鉄道会社間の不毛な過当競争と、鉄道会社の境界駅における貨物の放置だった。当時の政治家の中にも、鉄道は経営規模が大きくなるほど有利になることを理解する者がいて、全国を1企業に再編する方向に議論が収斂していった。戦後、官営鉄道が公共企業体に変わった際には、鉄道が政治によって翻弄される事態に終止符を打ちたいというGHQサイドの強い意思があった。

 38年間続いた公共企業体の国鉄が命脈を失ったのは、企業会計原則の導入で独立採算制を要求されながら、一方では運賃を認可制から法定制に改める国有鉄道運賃法の制定によって、経営自主権を奪われたことが原因と見ていい。運賃を自分で決める権利を奪っておきながら「国費は出さない、赤字も許さない、黒字になれ」などという制度でまともな経営が成り立つほうがおかしい。このシステムの下でローカル線廃止問題が起きたのも当然で、黒字にするには他に方法がなかったからだ。この問題を解決するためだというのが分割民営化推進派の主張だった。少なくとも法定制でなくなれば運賃値上げのハードルは下がる。値上げとローカル線整理を上手く組み合わせ、これ以上納税者に迷惑はかけるな、というのが分割民営化の狙いだった。

 だが問題は何も解決しなかった。鉄道の車内や線路で焼身自殺や殺人、死体遺棄が行われても人員削減でなすすべもなく、ローカル線では理由もなく勝手に列車が来なくなる。国鉄時代、牛や馬、豚などの家畜を生きたまま輸送する「家畜運搬車」という種類の貨車があったが、首都圏で朝のラッシュ時間帯を走る列車はもう何十年も昔から「社畜運搬車」状態だ。国鉄が独立採算制の導入で作り出した問題はJRでさらに拡大し、そのまま私たちの前に放り出された。その歴史の上に今の惨劇がある。

 民間鉄道事業者の乱立による輸送効率の悪さを解決するために全国一律の国有化が行われ、政治に鉄道が翻弄される誤りを正すために公共企業体への再編が行われた。目の前の問題に無力な組織を、解決能力を持つ別の存在へ改めることを目的に、過去の鉄道の再編は行われてきた。だとすれば、JRの「次」に何が来るかのおおまかな予測はできる。弱体化した鉄道事業の再建、そして儲かりすぎの会社と瀕死の会社にくっきり二極化した地域分割の弊害を改めることこそ次の組織再編の最大目標になるに違いない。

 それがどのような形態に移行するかの予測は今は控えておこう。だがこれだけははっきり言っておきたいと思う。「10年後のJRが、今と同じ形をしていることだけは絶対にない」と。

(黒鉄好・2018年6月13日)

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【管理人よりお知らせ】ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.21集会にご参加ください!

2018-04-19 23:41:11 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

2005年4月25日に起きた尼崎事故(JR福知山線脱線事故)から間もなく13年を迎えます。事故現場に近い尼崎市では、今年も恒例の「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.21集会」が開催されます。日時、場所は以下の通りです。

日 時:2018年4月21日(土)午後2時~4時(午後1時30分開場)
場 所:尼崎市立小田地区会館地図、尼崎駅南口より徒歩5分)

なお、この集会では安全問題研究会がJR北海道ローカル線問題の報告を行います。このほか、JR西日本労働者による現場からの報告もあります。報告に使用するレジュメを安全問題研究会サイトに掲載しましたので、ご自由にお使いください。集会終了後は例年通り、事故現場までのデモと献花を行います。

ひとりでも多くの皆さまのご参加をお待ちしております。

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北海道交通政策総合指針(案)に対し、当研究会が提出した意見が盛り込まれました

2018-04-01 23:36:44 | 鉄道・公共交通/交通政策
2018年3月31日付「北海道新聞」は、「維持困難2線区に新役割 道が交通政策指針」と題する記事(サムネイル画像になっている場合はクリックで拡大します)を掲載。今年2月に取りまとめた「指針」の中で『JRが「単独では維持困難」とした路線のうち、根室本線の富良野-新得と室蘭線の沼ノ端-岩見沢の2線区は、災害時や貨物列車の代替路の役割があるとの内容を盛り込んだ』と、指針の一部修正が行われる見通しであることを伝えている。

この「指針」とは、2018年2月、北海道運輸交通審議会の答申を基に北海道が策定した「北海道交通政策総合指針(案)」のことだ。いったんこの指針の案が公表後、2月末にパブリック・コメント手続が行われた。JR北海道が「維持困難」とした10路線13線区の全路線維持を明確に打ち出さず、重要度別に5段階に区分するなど「指針」の内容がきわめて不十分であったことから、当研究会は道に対し、14項目の意見を提出していた。事実上、今回の修正で「指針」に反映されたと思われる2つの意見を、念のためここでも紹介しておこう。

『根室線(富良野~新得間)について、「他の交通機関との……代替、……」としていることは不適当である。石勝線が開通するまで、この区間は札幌~釧路間における貨物輸送に使われていた実績がある。現在、この区間での貨物輸送は行われていないが、石勝線が不通となった場合における貨物輸送の迂回ルートとして「維持」を明確にすべきである。』

『室蘭線(沼ノ端~岩見沢間)については、石炭輸送の名残で複線区間を有するなど恵まれた環境にある。「代替ルートとなりうる千歳線の厳しい線路容量等を考慮する」のであれば、これらの環境を活かした貨物輸送の迂回ルートとしての利用などを積極的に検討すべきである。』

各路線の実情を踏まえた当研究会の重要な意見が指針に盛り込まれる方向になったことは、この2路線の振興に向け大きな前進であるとともに、特に根室本線(富良野~新得間)については、「バス転換を含む地元協議」を求めていたJR北海道の方針を転換させる重要な転換点になることは間違いない。災害などの非常事態に備え、貨物輸送の代替ルートを確保することの重要性をたびたび訴えてきた当研究会の活動が実ったともいえよう。

なお、当研究会が提出した意見の全文を急遽、安全問題研究会サイトに掲載(PDFのみ)。『指針』に反映されたと思われる部分を赤字で示した。また、当研究会が訴えてきた、災害などの非常時に貨物輸送の代替ルートを確保することの重要性に関しては、当研究会が2017年11月24日に北海道日高町で行った講演資料「こうしたら日高門別まで運行再開できる~日高線復旧後に描く夢」の32~35ページで詳しく述べている。また、当研究会が作成し、山本太郎議員に提出を託した「鉄道事業法における鉄道事業の許可と列車運行義務及び被災した鉄道の復旧に関する質問主意書」でも、災害時の貨物代替輸送ルートの必要性を指摘しているので、ぜひ参考にしてほしい。

パブリック・コメントについて、当研究会はこれまで、行政が市民の意見を聴いたように装うためのアリバイ作りで、市民の不満の「ガス抜き」に過ぎないと考え、重視してこなかった。実際、原発問題などをめぐるパブコメで国の政策を変えることができた例はほとんどない。だが、地方自治体レベルでのパブリック・コメントは必ずしもそのように悲観的に考える必要はないことを実感した。北海道新聞の記事では、道議会自民党からも「全道的な見地や物流網の視点が不十分だ」との指摘があったと伝えられている。安保や原発政策のような与野党対決的な政策と異なり、公共交通の維持のような合意争点型の政策をめぐっては、地域経済の維持発展などの共通の利害関係を基に自民党とも歩調を合わせることができる場合がある。政権交代がめったに起きない日本で自分の望む政策を実現させるため、自民党にも理解してもらえるような政策の提案方法を考えていくことは今後に向け重要な課題である。今後も北海道の鉄道維持に向け、当研究会は積極的な提言をしていきたい。

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