沖縄の農業を衰退させているのは誰だ






 私の父は農業一筋の人間だった。出兵から帰った父は戦争で荒廃した畑を鍬と鎌だけで開墾した。さとうきび、米、芋などの野菜を作っていた。畑の規模は数千坪だったと思う。山羊と豚も飼っていて父は朝から夕方まで休みもなく働き続けた。しかし、家は貧しかった。
 なぜ農家は貧しいのかと子供の頃は悩んだものだ。高校生になると農家の貧しい原因がはっきりと分かった。農家の換金作物はさとうきびであるが、さとうきびの値段は安く、肥料代や綱など必要経費を売り上げから引くとさとうきび生産では生活が成り立たないということがはっきりとわかった。だからほとんどの農家は軍作業などをしながらの兼業農家だったが、私の家は専業農家だったから貧しかった。だから、私は農業はやらないと決心した。40年以上前のことである。
 さとうきびで儲けるのは農家に肥料や農機具を売る農協であり、製糖工場だ。私の父のように農業ひとすじの人間は貧乏生活をするしかなかった。

 中南部はさとうきびを生産し、北部はパイナップルを生産しているが、土地の性質が中南部と北部は違い、北部はパイナップル栽培に向いている土壌である。沖縄の農家の換金作物はさとうきびとパイナップルしかなかったから、中南部はさとうきび、北部はパイナップルを生産するようになった。
 換金作物はさとうきびとパイナップルであったが、航空貨物が発達したので、三十年前の頃にさとうきびに代わる換金作物として菊栽培がはじまった。空輸ができるようになって、ピーマンやスイカなどが移出できるようになり、農家の収入も増えた。

 パイナップルとさとうきびは農家を貧しくする。このふたつの作物は機械を使った大規模農業をしない限り満座区する収入を得ることはできない。このことははっきりしている。それなのに、国や県は農業振興でパイナップル生産を高めようとした。しかし、うまくいっていない。うまくいっていなのは偶然ではなく必然である。
 農業振興には農家の収入を増やさないふたつの理由がある。第一は農業振興は表向きの理由であり、農業振興の資金で設備をつくって建設業者が儲けるのが目的であることだ。農業振興の資金は農家ではなく、農業には関係のない建設業者や農業機械販売を販売する農協が儲けたのだ。第二は農家が満足する収入を設定していない振興策であったことだ。
 農家の年収を500万円に設定すると、パインの収穫量が何トンであればいいか計算できるからパイン畑の大きさが何ヘクタールであればいいかの設定もできる。豚だったら何頭飼育すればいいかが判明する。必要経費や労働力も計算できる。そのような計算は農家ではできない。国、県、JAがしかできない。
 しかし、計算をすれば小規模農業では満足のいく収入が出るという計算結果ばでないだろう。大規模農業にして季節労働者を雇用する農業でないと満足のいく収入は得られないはずだ。

 補助事業の「畜産担い手育成総合整備=畜産基地事業」では、100万円でできる畜舎を500万円かけて造ったが、維持費管理や受益者負担が農家を苦しめているという。豚のふん尿をベルトコンベアで運ぶ豚舎ではベルトコンベアーがすぐに故障してしまったという。機械の専門家であればベルトコンベアーが故障するのは知っている。知っていながら農家に売ったのだ。
 農業振興は農家のためにあったのではなく、業者、農協、自民党派閥の利権のためにあったのだ。

 国頭でパイナップル生産を成功するには大規模農業しかない。安波区の生産額は約4000万円である。もし、四人でやれば一人1000万円の収入になる。8人でやれば500万円だ。10人でやれば400万円になる。パイナップルを生産する農家を育成するなら、生活ができる程度の農地を割り当てて、大規模農業を進めたほうがいい。小規模農業では農業の発展はないし、あちら恣意参加者もいない。
 大規模農業をしたために人口が激減するかも知れないが、儲かる農業を始めないと農業は破綻する。黒字農家が増えれば新しい土地開発も進み、農業人口は増える。

 JAおきなわ国頭支店の中本氏は「10年後、沖縄の農業は大変なことになるよ」と危惧しているが、沖縄の農業を危機に追いやっている張本人はおまえたちJAじゃないかと言いたくなる。JAは直接農業をやらないで小規模の農家に肥料、農機具、融資をして儲けている。そのほうが農業のリスクは少なくして確実に儲けるのだ。例えば暴風などでビニールハウスなどの設備が壊れた時、ヒニールハウスはJAから買い、資金もJAから借りる。東大日本大震災の影響で菊の切り花が大量に売れなくなって、菊農家の収入が断たれた。そのときにも「低利」という名目でJAは菊農家に金を貸している。JAは農家が被害をうけても儲けるようになっている。

 JAは大規模農業に反対している。大規模農業は会社システムになり、肥料、農機具は自分で調達し、販売網も自分で開拓する。だからJAを必要としなくなる。
 大規模農業の会社なら業者にだまされてベルトコンベアが直ぐ駄目になるような機械を買わない。もし、故障したら損害賠償を請求するだろう。JAにとって大規模農業は困った存在なのだ。

 農業の高齢化をなくすには大規模農業をやり、若い人を労働者として雇用すればいい。労働者なら簡単にやめることができるから気楽に就職できる。若い農業従事者が増えるし、その中から独立して農業をやる若者もでてくるだろう。
 しかし、小規模農業の場合は土地を所有しなければ農業を始めることができないから最初に大金が必要だ。大金をかけてやったら農業をはじめたら簡単にやめるわけにもいかなくなる。小規模農業では農業人口を増やすのは難しい。

 JA主導の農業改革はJAの利益を前提にしているから、成功するはずがない。農業を救うためにはJAが株式会社方式の大規模農業を直接やるべきだ。
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