八重山教科書問題はなにが問題だったか


「沖縄に内なる民主主義はあるか」


五、八重山教科書問題はなにが問題だったか


教科用図書八重山採択地区協議会規約

第1章総則
(名称及び構成)
第1条 本会は、教科用図書八重山採択地区協議会(以下「協議会」という。)と称し、石垣市教育委員会、竹富町教育委員会及び与那国町教育委員会(以下「採択地区教育委員会」という。)をもって構成する。

(事務局)
第2条 協議会の関係事務を処理するため、事務局を置く。2事務局は、会長が所属する教育委員会事務局に置くものとする。

(目的)
第3条 協議会は、採択地区教育委員会の諮問に応じ、採択地区内の小中学校が使用する教科用図書について調査研究し、教科種目ごと一点にまとめ、採択地区教育委員会に対して答申する。

第2章組織
(委員)
第4条 協議会の委員(以下「委員」という。)は、採択地区内の次に掲げる者をもって充て、協議会が委嘱又は任命する。

1 採択地区教育委員会教育長
2 採択地区教育委員会教育委員1人
3 PTA連合会代表1人
4 学識経験者1人2教科用図書の採択に直接の利害関係を有する者は、委員となることができない。3委員の任期は、1年とし、再任を妨げない。

(役員会)
第5条 
1 協議会に、次の役員会を置く。
2 会長1人、副会長2人
3 監査員会2人
4 役員は、委員の互選により選任する。
5 役員の任期は1年とし、再任を妨げない。
6 会長は、協議会を代表し、会務を総理する。
7 副会長は、会長を補佐し、会長に事故があるとき又は会長が欠けたときは、その職務を代理する。
8 監査員は、協議会の会計を監査する。

(定期総会)
第6条 協議会は、原則として毎年6月に定期総会を開くものとする。
(会議)
第7条 
1 定期総会及び協議会の会議(以下「会議」という。)は、会長が招集し、その議長となる。
2 会議は、委員の過半数の出席がなければ開くことができない。
3 会議の議事は、出席委員の多数決で決するものとする。可否同数の場合は再投票し、なおかつ可否同数の場合は、役員会で決する。4会議に出席できない委員は、委任状を提出するものとする。

第3章教科用図書調査員
(調査員)
第8条 
1 協議会に教科用図書の調査研究を行うため、教科用図書調査員
(以下「調査員」という。)を置く。
2 調査員は、教科の専門知識を有する者の中から教科別に3人で構成する。
3 調査員は役員会が選任し、会長がこれを委嘱又は任命する。
4 調査員は、沖縄県教育委員会による指導・助言・援助の一環として作成された教科用図書選定資料をもとに、教科書の調査研究を行い、教育法規、学習指導要領、採択地区教育委員会の教育方針、沖縄県及び採択地域に関連する教材などの観点から、県の選定資料に付記する形で追加文書等を作成し、調査研究の結果を報告する。

第4章答申作成と教科用図書採択決定の手続き
(答申作成と教科用図書採択決定の手続き)
1 第9条協議会は採択地区教育委員会への答申を作成する会議を開く。
2 協議会は、必要に応じて調査員に教科用図書の特徴等についての説明を求めることができる。
3 協議会は、教科種目ごとに採択地区として採択すべき教科用図書の答申をまとめ、県の選定資料及び追加文書等を添えて、採択地区教育委員会に報告する。
4 採択地区教育委員会は、協議会の答申に基づき、採択すべき教科用図書を決定する。
5 採択地区教育委員会の決定が協議会の答申内容と異なる場合は、沖縄県教育委員会の指導・助言を受け、役員会で再協議することができる。

第5章雑則
(経費)
第10条 協議会の運営に係る必要経費は、採択地区教育委員会が負担する。
(会計年度)
第11条 協議会の会計年度は、毎年4月1日に始まり翌年の3月31日に終わる。
(その他)
第12条 この規約に定めるもののほか、協議会の運営に関し必要な事項は、会長が会議に諮って定める。

附則この規約は、議決のあった日から施行する。
附則この規約は、平成23年8月10日から施行する。

 「教科用図書八重山採択地区協議会規約」の全文を掲載した。2011年8月23日の教科用図書八重山採択地区協議会は左記の「教科用図書八重山採択地区協議会規約」に従って協議し、八重山地区の中学校に無償給付する教科書を採択した。
八重山地区採択協議会は中学三年生の公民は育鵬社の教科書を採択したが、それもちゃんと「教科用図書八重山採択地区協議会規約」に従って採択したのだ。民主主義はなにかを決める時には決めるための法律をつくり、その法律を遵守した上で決める。それが法治主義であり民主主義である。民主主義は法治主義でなければならない。
教科書に関する法律は二つある。「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地方教育行政法)」と「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(無償措置法)」である。教科書が市町村の学校で使用するまでにはこの二つの法律を遵守しなければならない。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律は市町村の教育行政全般についての法律である。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律

第一章 総則
(この法律の趣旨)
第一条 この法律は、教育委員会の設置、学校その他の教育機関の職員の身分取扱その他地方公共団体における教育行政の組織及び運営の基本を定めることを目的とする。

(基本理念)
第一条の二地方公共団体における教育行政は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)の趣旨にのつとり、教育の機会均等、教育水準の維持向上及び地域の実情に応じた教育の振興が図られるよう、国との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。

(教育委員会の職務権限)
第二十三条
教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。

一  教育委員会の所管に属する第三十条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、 
管理及び廃止に関すること。
二  学校その他の教育機関の用に供する財産(以下「教育財産」という。)の管理に関すること。
三  教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の
人事に関すること。
四  学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒、児童及び幼児の入
学、転学及び退学に関すること。
五  学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導に関すること。
六  教科書その他の教材の取扱いに関すること。
七  校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること。
八  校長、教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
九  校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
十  学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
十一 学校給食に関すること。
十二 青少年教育、女性教育及び公民館の事業その他社会教育に関すること。
十三 スポーツに関すること。
十四 文化財の保護に関すること。十五ユネスコ活動に関すること。
十六 教育に関する法人に関すること。
十七 教育に係る調査及び基幹統計その他の統計に関すること。
十八 所掌事務に係る広報及び所掌事務に係る教育行政に関する相談に関すること。
十九 前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。

 地方教育行政法で、教科書の採択に関する規定は教育委員会の職務権限を定めた第二十三条の六、「教科書その他の教材の取扱いに関すること」である。市町村の小中学校で使用する教科書は市町村の教育委員会が決めるということを規定している。
 
義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律
第1章 総 則
(この法律の目的)
第1条  この法律は、教科用図書の無償給付その他義務教育諸学校の教科用図書を無償とする措置について必要な事項を定めるとともに、当該措置の円滑な実施に資するため、義務教育諸学校の教科用図書の採択及び発行の制度を整備し、もつて義務教育の充実を図ることを目的とする。

第2章 無償給付及び給与(教科用図書の無償給付)

第3条 国は、毎年度、義務教育諸学校の児童及び生徒が各学年の課程において使用する教科用図書で第13条、第14条及び第16条の規定により採択されたものを購入し、義務教育諸学校の設置者に無償で給付するものとする。

(採択地区)
第12条 
1 都道府県の教育委員会は、当該都道府県の区域について、市若しくは郡の区域又はこれらの区域をあわせた地域に、教科用図書採択地区(以下この章において「採択地区」という。)を設定しなければならない。


(教科用図書の採択)
第13条 
1 都道府県内の義務教育諸学校(都道府県立の義務教育諸学校を除く。)において使用する教科用図書の採択は、第10条の規定によつて当該都道府県の教育委員会が行なう指導、助言又は援助により、種目(教科用図書の教科ごとに分類された単位をいう。以下同じ。)ごとに一種の教科用図書について行なうものとする。
4 第1項の場合において、採択地区が2以上の市町村の区域をあわせた地域であるときは、当該採択地区内の市町村立の小学校及び中学校において使用する教科用図書については、当該採択地区内の市町村の教育委員会は、協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない。

 「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」は第一条に明記しているように義務教育の諸学校の教科書を国が無償給付するための法律である。第13条4には採択地区内の教科書は種目ごとに同一の教科書を採択しなければならないと規定している。このことから八重山地区の学校に無償給付する教科書は一種類だけである。無償給付する教科書を二種類にすると無償措置法に違反することになる。

 「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」と「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」は国会でつくった法律であり、教科書を採択するときは二つの法律に違反してはならない。

八重山採択地区協議会は地方教育行政法によって設置したのか、それとも無償措置法によって設置したのか

地方教育行政法は「教育委員会の設置、学校その他の教育機関の職員の身分取扱や地方公共団体における教育行政の組織及び運営の基本を定めることを目的」としている。地方教育行政法は、それぞれの市町村内の教育行政を規定した法律であり、教科書を採択するにあたっては、各市町村の教育委員会は自ら所属する自治体の小中学校で使用する教科書だけを採択するものであり、他市町村と一緒になって共通の教科書を採択する規定は地方教育行政法にはない。
一方、無償措置法の第12条には複数の市町村が一緒になって採択地区を設定するように指示している。
1 都道府県の教育委員会は、当該都道府県の区域について、市若しくは郡の区域又はこれらの区域をあわせた地域に、教科用図書採択地区(以下この章において「採択地区」という。)を設定しなければならない。

このことから八重山採択地区協議会は無償措置法によって設置した機関であるといえる。注意しなければならないのは、八重山採択地区協議会は地方教育行政法と無償措置法二つの法律が適用されているのではなく、無償措置法だけが適用されていることである。地方教育行政法は八重山採択地区協議会には関係のない法律である。
なぜ、このように八重山採択地区協議会が無償措置法によって設置してあることを説明したかというと、八重山採択地区協議会の規約が無償措置法には合わない文言表現になっている箇所があるからである。
八重山採択地区協議会の規約の(目的)第3条に「採択地区内の小中学校が使用する」と述べている箇所がある。無償措置法は国が小中学校に「無償給付する教科書」を決める法律であって、小中学校が「使用する教科書」を決める法律ではない。それなのに八重山採択地区協議会の規約は「使用する」という文言になっている。無償措置法によって設置した協議会にはふさわしくない文言である。  
無償措置法によってつくられた協議会の規定なら「採択地区内の小中学校に無償給付する」がふさわしい文言である。八重山採択地区協議会の規約の「採択地区内の小中学校が使用する」という文言は、無償措置法の表現としては誤った表現である。
八重山採択地区協議会の規約第3条は「採択地区内の小中学校が使用する教科用図書」ではなく、「採択地区内の小中学校に無償給付する教科用図書」とするべきである。

 教科用図書八重山採択地区協議会は、八重山地区の小中学校に国が無償給付する教科書を決める機関である。8月23日に八重山採択地区協議会が公民を育鵬社版に決めたということは、国が八重山地区の中学三年生に育鵬社の教科書を無償給付することになったということである。
 国が育鵬社の教科書を無償給付することになったことに対して、石垣市と与那国町の教育委員会は育鵬社版に決めた。しかし、竹富町の教育委員会は東京書籍版に決めた。
 文部科学省が無償給付する教科書は育鵬社版と決まっているから、東京書籍版を採択した竹富町には育鵬社版を無償給付することができないということになる。竹富町が育鵬社の教科書を採択しなかったということは、国の無償給付を竹富町が断ったことになる。竹富町は東京書籍の教科書を選んだ。それは有償で東京書籍の教科書を購入することを自ら選んだということである。

地方教育行政法 市町村の小中学校で使用する教科書を決める。
無償措置法   国が無償給付する教科書を決める。

国が無償給付する教科書を採択するのを規定しているのが無償措置法であり、無償措置法の実行機関は採択地区協議会である。各市町村が使用する教科書を採択するのを規定しているのが地方教育行政法であり、実行機関は各市町村の教育委員会である。採択地区協議会は地区の小中学校に無償給付する教科書を決め、市町村の教育委員会は市町村の小中学校が使用する教科書を決める。ふたつの組織は違う仕事をやるのである。「無償給付する」教科書を決める仕事と「使用する」教科書を決める仕事である。

八重山採択地区協議会が育鵬社の教科書を採択したのに、竹富町が東京書籍版を採択したとしても違法行為にはならない。八重山採択地区協議会は竹富町に無償給付する教科書を決めたのであり、竹富町が使用する教科書を決めたわけではないからだ。
竹富町の教育委員会は竹富町の中学生三年生が使用する公民の教科書を東京書籍版に決めた。竹富町の中学生が使用する教科書を決めるのは竹富町の教育委員会の権限であり、他の市町村の教育委員会も、県教育庁も文科省も竹富町の教科書を決めることはできない。竹富町の教科書は竹富町の教育委員の自由意志で決めることができる。ただ、理解しなければならないのは、竹富町の教育委員会は竹富町の中学生が使用する教科書を決めることはできるが、無償給付する教科書を決めることはできないということである。だから、八重山地区採択協議会が無償給付する教科書を育鵬社版に決めたことを竹富町の教育委員会が否定したり変更したりすることはできない。

○ 八重山採択地区協議会は、石垣市、竹富町、竹富町の学校に無償給付する教科書を決めることはできるが、三市町の小中学校が使用する教科書を決めることはできない。
○ 石垣市、竹富町、与那国町の教育委員会は、それぞれの市町の小中学校が使用する教科書を決めることはできるが、国が無償給付する教科書を決めることはできない。

八重山採択地区協議会 無償措置法により、八重山地区の小中学校に無償給付する教科書を決める。
石垣市教育委員会   地方教育行政法により、石垣市の小中学校で使用する教科書を決める。
竹富町教育委員会   地方教育行政法により、竹富町の小中学校で使用する教科書を決める。
与那国町教育委員会  地方教育行政法により、与那国町の小中学校で使用する教科書を決める。

8月23日、無償措置法の実行

八重山採択地区協議会 八重山地区の中学校に無償給付する公民の教科書を育鵬社版に決めた。

8月26日、地方教育行政法の実行

石垣市教育委員会   石垣市で使用する公民の教科書を3対2で育鵬社版に決めた。
与那国町教育委員会  与那国町で使用する公民の教科書を全会一致で育鵬社版に決めた。

8月27日、地方教育行政法の実行

竹富町教育委員会   竹富町で使用する公民の教科書を全会一致で東京書籍版に決めた。

8月31日
3市町の教育長による協議会を開き、三市町で使用する公民教
科書の一本化について再協議したが協議は決裂。八重山採択地区協議会は閉会する。

石垣市と与那国町は育鵬社の教科書を使用することに決めたので、文部科学省は石垣市と与那国町には育鵬社の教科書を無償給付することになった。しかし、竹富町は文部科学省が無償給付することになっている育鵬社の教科書ではなく東京書籍の教科書を使用することに決めたので竹富町には無償給付することができなくなった。
八重山採択地区協議会で、国が無償給付する教科書を育鵬社版に決めたのに、竹富町は使用する教科書を育鵬社版に決めなかった。それは、文部科学省が育鵬社版の教科書を無償給付するのを竹富町が断ったことになる。無償措置法により、八重山地区に無償給付する教科書は育鵬社版一種だけと決まっているので、文部科学省は竹富町に教科書を無償給付することができなくなった。
文部科学省が無償給付しないことを決めたのではなく、竹富町が文部科学省の無償給付を断ったのだ。竹富町が矛盾しているのは、自分のほうで無償給付すると決まっている育鵬社の教科書に決めないで、無償給付をしないと決まっている東京書籍の教科書を使用すると決めたのに、文部科学省に東京書籍の教科書を無償給付するように要求したことである。

無償措置法では、無償給付する教科書は一種類に決めるように規定している。もし、文部科学省が石垣市と与那国町には育鵬社の教科書を無償給付して、竹富町には東京書籍の教科書を無償給付したら、行政機関である文部科学省が無償措置法を破ることになる。行政の最高機関である文部科学省が法律を破ることはできない。文武科学省は竹富町に東京書籍版の教科書を無償給付しないのではなくできないのだ。

竹富町が無償給付を受けるためには育鵬社の教科書を使用することに改める以外にはなかった。

使用する教科書を三市町が同一にするという法律はない

9月8日の全員協議で東京書籍の教科書が採択されたが、全委員協議が有効か無効かの問題は別にしても、無償措置法は文部科学省が八重山地区の三市町に無償給付する教科書を決めるだけであり、三市町に、三市町が使用する教科書を強制することはできない。だから、無償措置法で三市町の使用する教科書を同一にすることはできない。
地方教育行政法は、三市町それぞれの中学で使用する教科書を決める法律だから、地方教育行政法では八重山地区の教科書を同一にすることはできない。
三市町の使用する教科書を同一にする法律は無償措置法にも地方共育行政法にもないのだから、教科書を同一にする義務は採択地区協議会にも教育委員会にも全委員協議にもない。

県教育庁義務教育課が無償措置法第13条に「構成市町村の教育委員会は協議して…同一の教科書を採択しなければならない」を根拠にして、三市町が使用する教科書は同一にしなければならないと主張したのは無償措置法に対する勘違いの解釈をしたからである。
無償措置法第13条は、三市町が使用する教科書を同一にしなければならないのではなく、国が無償給付する教科書を同一にしなければならないと規定しているのだ。

憲法の精神を放棄した竹富町

竹富町は12月1日までに、来年度の教科書の購入費用を計上しない方針を固めた。文科省は竹富町に無償給付をしないと断言している。竹富町が購入しなければ教科書有償になる。そのことを知った上で竹富町は教科書購入の予算を計上しないことに決めた。憲法の精神を守らなければならないのは政府だけではない。地方の自治体も憲法の精神を守らなければならない。憲法26条の義務教育の無償を文科省に守らせようとしながら、教科書購入の予算を計上しないことに決めたということは竹富町は憲法26条の精神を放棄したことになる。
川満栄長竹富町長は、「竹富の教育委員は子どもたちのことを考えて東京書籍を選んだ。教育委員会の考えを尊重したい」と述べている。そうであるならば、文科省が無償給付しなかった場合は竹富町が購入するのが当然である。ところが、「教育委員会の考えを尊重したい」と言いながら竹富町の予算では教科書を購入しないということを決めたのである。
川満栄長竹富町長は憲法の「義務教育は無償」の精神を尊重し、教育委員会の考えを尊重したのに教科書は有償にするというのである。理解できないやり方である。憲法の「義務教育は無償」の精神を尊重し、教育委員会の考えを尊重するのなら教科書代金は竹富町が負担するのが当然である。ところが竹富町は負担しなかった。
市民が教科書代を負担することになり、教科書は無償給付されることになったが、だからといって竹富町の憲法の精神に反した行為の責任は消えない。

合法でも無償給付をしないケースがある

慶田盛竹富町教育長は、「文科省は竹富町だけ有償だというが、その理由を説明していない。法的な間違いがあれば対応するが、その機会さえ与えられていない状況だ」と述べているが、教育行政法と無償措置法の組み合わせはたとえ合法な行為をやったとしても無償給付されない場合がある。それが竹富町のケースである。

12月6日、大城県教育長は、八重山採択地区協議会の答申と異なる採択をした竹富町に対して、地方教育行政法を根拠に「採択権限は各市町村教育委員会にあり、竹富町のケースは合法」と述べた。ところが、文科省が同町に教科書の有償購入を促す方針を示していることには「竹富町が有償となる法的根拠を示されていない」と疑問を示している。
無償給付を決めるのは地方教育行政法ではなく、無償措置法である。無償措置法の実行機関である八重山採択地区協議会は育鵬社の教科書を採択した。それなのに竹富町は東京書籍版を採択した。文科省は育鵬社版なら無償給付できるが、東京書籍版なら無償給付はできない。文科省が竹富町に教科書の有償購入を促すのは当然である。

竹富町は12月14日に、「1、育鵬社版を選定した八重山採択地区協議会の答申に従わず、東京書す籍版を採択した場合は有償とする根拠。2、なぜ採択協議会の答申に従わなければならないのか」の説明を文科省に求めた。

1の問題は、八重山採択地区協議会は国が無償給付する教科書を決める機関であり、8月23日の八重山採択地区協議会が育鵬社の教科書を採択したということは、国が八重山地区に無償給付する教科書は育鵬社版だけであり、育鵬社版以外の教科書は無償給付をしないことになったということである。
2の問題は採択協議会の答申には従わなくてもいい。その証拠に竹富町は八重山採択地区協議会に従わないで東京書籍の教科書を採択したが、国から変更するように命令されていない。だから、竹富町は教育委員が採択した教科書を使用することができる。それは採択協議会の答申には従わなくてもいい証拠である。
八重山採択地区協議会と竹富町の教育委員会の関係は「従う従わない」の関係ではない。八重山採択地区協議会は国が無償給付する教科書を決める機関であり、竹富町の教育委員会は竹富町で使用する教科書を決める機関である。
八重山採択地区協議会と竹富町の教育委員会の関係は、八重山採択地区協議会が採択した教科書と同じ教科書を竹富町の教育委員会が採択すれば国は竹富町に教科書を無償給付するし、八重山採択地区協議会が採択した教科書とは違う教科書を採択すれば国は竹富町に教科書の無償給付はしないという関係である。

竹富町は無償措置法の呪縛を解いた

竹富町は地区採択協議会の呪縛を解いたことでは画期的である。1963年の教科書無償措置法の制定後50年間も地区採択協議会が採択した教科書を市町村の教育委員会は採択してきた。そこには地区採択協議会が採択した教科書を市町村の教育委員会は採択しなければならないという呪縛があったからだ。
しかし、地区採択協議会が採択した教科書を市町村の教育委員会は採択しなければならないという法律はない。市町村の教育委員会は、地区採択協議会が採択した教科書に呪縛されないで自由に使用する教科書を選ぶことができる。地区採択協議会が採択した教科書以外の教科書を採択すれば無償給付を受けることができないだけであって、法的なペナルティはない。教科書代金を自治体や有志の寄付などで負担すれば自由に教科書を採択することができる。

市町村で使用する教科書は無償であるということよりも教育委員の意思が反映されるべきである。ところが、1963年に教科書無償措置法が制定されてからは採択地区協議会が採択した教科書を市町村の教育委員会はずっと採択してきた。これでは市町村の教育委員会は採択地区協議会に従属していると思われても仕方がない。
法的には市町村の教育委員会は自立していて、採択地区協議会に従属はしていない。だから、竹富町のように八重山採択地区協議会とは違う教科書を採択することができるのである。国の無償給付を受けなければいいだけのことであり、竹富町は市町村の教育委員会が採択地区協議会に従属していないことを行動で示したのである。
採択地区協議会に束縛されないで教科書を採択したのは、1963年に教科書無償措置法が制定されてから初めてであり、竹富町は採択地区協議会の呪縛を断ち、市町村の選択の自由の道を切り開いた。

9月8日の全委員協議は成立しない

〇石垣市、竹富町、与那国町の三市町はそれぞれが自治体であり、お互いに独立した関係にある。全委員協議のように無償措置法による新しい「教科書採択機関」をつくるには三市町の同意がなければならない。しかし、石垣市と与那国町は、全委員協議を教科書を採択する機関にするのに反対した。反対する市町がある限り全委員協議は教科書採択機関としては成立しない。
〇全委員協議を正式な機関にするには、八重山採択地区協議会のように時間をかけ、協議を重ねて三市町が同意する規定をつくらなければならない。しかし、9月8日の全委員協議は規定をつくっていない。規定のない全委員協議を正式な機関として認めることはできない。
〇8月23日の八重山採択地区協議会に法的な落ち度はなかった。法的な落ち度がない八重山採択地区協議会の採択を、全委員協議が「否決」できる法律は無償措置法にも地方教育行政法にもない。八重山採択地区協議会が決定したことを全委員協議が「否決」する法律はないのだから、「否決」する法律をつくらない限り八重山採択地区協議会の採択を全委員協議が「否決」することはできない。それなのに八重山採択地区協議会の採択を全委員協議は「否決」した。三権分立の日本では、行政は法律に基づいて行動しなければならない。民主主義は法治主義を徹底してこそ成り立つ。9月8日の全委員協議が八重山採択地区協議会の採択を否決したことは法律を逸脱した行為であった。
〇教育委員は石垣市5人、竹富町5人、与那国町3人である。全員協議で多数決をやると3人しかいない与那国町は不利である。だから、与那国町は全委員協議を無償給付する機関にするか否かを多数決で決めることに反対した。与那国町が賛成しない限り、全委員協議を無償給付する機関にするか否かを多数決で決めることはできない。しかし、全委員協議は与那国町の反対を無視して多数決を強行した。全委員協議を無償給付する機関とするのは法律上は認められない。
〇石垣市の人口は4万7766人、竹富町の人口は3,968人、与那国町の人口は807人である。与那国町を3とした場合の人口比率は石垣市が177、竹富町が15である。
9月8日の全委員協議の教育委員数は石垣市5人、竹富町は5人、与那国町は3人である。9月8日の全委員協議は人口に合わせた教育委員の構成になっていないから、民主的な決定機関であるとはいえない。全委員協議を民主的な決定機関にするには、人口比にあわせた教育委員の構成にするべきである。すると全委員協議の教育委員は石垣市177人、竹富町15人、与那国町3人になる。
石垣市が3対2に意見が分かれた場合の比率は、106人対71人になる。竹富町と与那国町の全員が石垣市の少数派に加わった場合は、106人対89人になる。竹富町と与那国町の全員が少数派に加わっても石垣市の決定をひっくり返すことができない。人口比で全委員協議を構成すると、石垣市の決定が全委員協議の決定になってしまう。もし、9月8日の全委員協議が三市町の人口比で教育委員を構成していたら、育鵬社の教科書に決まっていた。
  9月8日の全員協議は三市町の人口を考えれば民主的な協議会とは言えない。しかし、人口比だけで協議会の委員を構成すれば石垣市にすべてを決定されてしまう。それでは少数の竹富町や与那国町の意見は封殺されてしまう。
このような現実のさまざまな問題に配慮し、諸問題をクリアしながらつくったのが八重山採択地区協議会である。全委員協議は安直な多数決主義であり、民主主義ではない。八重山採択地区協議会のほうが民主主義に沿っている。 
〇県教育庁から派遣された課長は全委員協議には拘束力があると発言した。しかし、無償措置法には拘束力はない。拘束力がないのに、全委員協議会の採択には拘束力があるとしたのは、無償措置法に新たな法律をつけ加えたことになる。
 11月29日に、県教育委員会は東京書籍の教科書を採択した9月8日の全員協議に基づき、三市町の教育委員会に東京書籍の教科書の必要冊数を報告するよう求める文書を送付した。この県教育委員会の行為は、9月8日の全委員協議で全員協議には拘束力がある発言したことに基づいた行為である。無償措置法には拘束力はないのに、東京書籍の教科書の必要冊数を報告するよう求めたということは無償措置法に県の行政が「拘束力」という新しい法律を加えたことになる。無償措置法は立法機関である国会がつくった。無償措置法に新しい法律を加えるのは国会であり県の行政がやってはいけない。それなのに行政機関である県の教育庁は無償措置法に拘束力があるという法律を新たにつくった。それは違法行為であり、拘束力があるとした全委員協議は無償措置法の機関としては成立しない。

県教育庁が報告を受けるのは、三市町の教育委員会が採択した教科書の冊数である。それはそれぞれの三市町が使用すると決めた教科書の冊数であり、国が無償給付する教科書の冊数ではない。
県教育庁は八重山地区の教科書を同一にするように指導する義務はあるが、同一にする義務はない。指導しても同一にすることができなければあきらめるしかない。

  以上のことから、9月8日の全委員協議は教科書を採択する正規の機関として成立しないのは明らかである。

 8月31日の三教育長の協議が決裂した時に、

〇八重山地区に無償給付する公民の教科書は育鵬社の教科書である。
〇石垣市、与那国町が使用する教科書は育鵬社版。竹富町が使用する教科書は東京書籍版である。
〇石垣市、与那国町には国が教科書を無償給付する。竹富町には無償給付しない。

ということが決まった。法律的には8月31日に八重山教科書問題は終わっていた。全地域に無償給付をやりたい文科省は、竹富町が育鵬社の教科書に変更するのを待ったが竹富町は変更しなかった。

〇9月8日の全委員協議は法的に成立しない。
〇無償給付できる教科書は無償措置法により一種と限定されているので、文部科学省は東京書籍の教科書を竹富町に無償給付はできない。

八重山教科書問題は無償措置法と地方教育行政法というふたつの法律の問題であり、大衆運動の圧力で変更することができるような問題ではなかった。
県教育庁をはじめ、多くの教育関係の市民団体や知識人は9月8日の全員協議が有効であると、県民集会や多くの集会を開いて主張し続けた。しかし、彼らの要求を受け入れるということは法律を破ることになるから、行政のトップ機関である文部科学省は彼らの要求を受け入れなかった。文部科学省の法治主義の壁は厚く、東京書籍の教科書を竹富町に無償給付させることはできなかった。

 新学期になり、8月31日に決定していたことが粛々と実行されていった。

無償措置法にも不適切な文言が使われている。

無償措置法は、国が市町村の小中学校に無償給付する教科書を採択するための法律である。市町村の小中学校で使用する教科書を採択するための法律ではない。それなのに無償措置法は「使用する」という文言を使っている。

(都道府県の教育委員会の任務)
第10条 
都道府県の教育委員会は、当該都道府県内の義務教育諸学校において使用する教科用図書の採択の適正な実施を図るため、義務教育諸学校において使用する教科用図書の研究に関し、計画し、及び実施するとともに、市(特別区を含む。以下同じ。)町村の教育委員会及び義務教育諸学校(公立の義務教育諸学校を除く。)の校長の行う採択に関する事務について、適切な指導、助言又は援助を行わなければならない。

第13条 
1 都道府県内の義務教育諸学校(都道府県立の義務教育諸学校を除く。)において使用する教科用図書の採択は、第10条の規定によつて当該都道府県の教育委員会が行なう指導、助言又は援助により、種目(教科用図書の教科ごとに分類された単位をいう。以下同じ。)ごとに一種の教科用図書について行なうものとする。
2 都道府県立の義務教育諸学校において使用する教科用図書の採択は、あらかじめ芸定審議会の意見をきいて、種目ごとに一種の教科用図書について行なうものとする。
3 公立の中学校で学校教育法第71条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの及び公立の中等教育学校の前期課程において使用する教科用図書については、市町村の教育委員会又は都道府県の教育委員会は、前2項の規定にかかわらず、学校ごとに、種目ごとに1種の教科用図書の採択を行うものとする。

4 第1項の場合において、採択地区が2以上の市町村の区域をあわせた地域であるときは、当該採択地区内の市町村立の小学校及び中学校において使用する教科用図書については、当該採択地区内の市町村の教育委員会は、協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない。

(同一教科用図書を採択する期間)
第14条 義務教育諸学校において使用する教科用図書については、政令で定めるところにより、政令で定める期間、毎年度、種目ごとに同一の教科用図書を採択するものとする。

無償措置法は、国が無償給付をする教科書を決める法律であるのに第10条、第13条第14条は「無償給付する」教科書ではなく「使用する」教科書を決める文言になっている。
無償措置法の第一条、第二条、第三条では、無償措置法は無償給付する目的の法律であると明言しているのにも拘わらず使用する教科書を採択するという文言を使っている。

太文字の「使用する」の文言通りであるならば、採択地区協議会が市町村の小中学校で使用する教科書を決めることになる。もし、採択地区協議会が市町村の小中学校で使用する教科書を決めるのであれば、採択地区協議会が教科書を採択した後に開かれる各市町村の教科書を採択するための教育委員会は開く必要がない。いや、開いてはならない。教育委員会を開いてしまうと今回の八重山教科書問題のように採択地区協議会が採択した教科書とは違う教科書を市町村の教育委員会が選ぶトラブルが発生する可能性があるからだ。
もし、「使用する」の文言通りに無償措置法を実施するのなら、無償措置法の第一条を訂正し、地方教育行政法から第二十三条6の条文を削除して、教科書を採択する市町村の教育委員会を開かないようにしなければならない。しかし、そうすると無償措置法が地方自治の権限を奪ってしまうことになり、賛否の論議が浮上するだろう。そうならないためには無償措置法は教科書を国が無償給付するという文言に徹することである。誤解を与えるような「使用する」の文言を「無償給付」の文言にすべて変更するべきである。

県が9月8日の全委員協議を開催する根拠にしたのが、無償措置法の第13条4項である。県は「使用する」の文言を根拠にして全委員協議の採択には拘束力があると主張した。第13条4項だけを読めば県の主張も間違っていない。
八重山教科書問題は、不適切な文言を使っている無償措置法をつくった国会にも責任がある。



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