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生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

レ・ミゼラブルを観て

2013-01-28 21:05:34 | その他
遅ればせながら映画「レ・ミゼラブル」を娘と観にいってきました。想像以上にすばらしかったです。

4年前、ネット読書会で原作を読んでいたので、原作に比べると物足りない感じはありましたが、158分の時間内にしっかりテーマを捉えてこれだけの作品にまとめられていることに驚きを覚えました。

ミュージカル映画だと聞いていたので、セリフのあとに曲が挿入されるのかと思っていたら、ほとんどのセリフが歌だったのでびっくりしました。歌に感情がこめられ、あまりにも臨場感があるので映画が終わってから、「歌は吹き替えなのかな?」「それともその場で歌っているの?」「録音してあとで入れたのかな……」と娘と論じ合いました。

それを確かめたくてパンフレットを買うと、その場で俳優さんが歌っていたのでした。そういえば、ジャン・バルジャンが氷点下のフランス南部の山岳地帯で歌う場面では、声が震え、白い息が出ていました。ファンテーヌの歌は涙声でした。

オーデションで俳優を選んだというだけあって、演技も歌もひいでた俳優さんが出演しているのでした。

主人公ジャン・バルジャンを扮するヒュー・ジャックマンは「Who am I?」の曲が一番のお気に入りだそうです。
アイデンティティーの問題を扱っている曲で、この作品のテーマだとパンフレットには書いていました。

たったひとつのパンを盗んだだけで19年間も牢獄に入れられ、仮出所してからは偏見の目で見られ、生きていくことさえ困難な状況でした。
それで本名を偽り、警察に追われながら別人として生きていかなくてはならなかったジャン・バルジャンが、「Who am I?」と訴える場面には胸が痛みました。

また、この作品の背景には、貧しい者はいくら働いても貧しいままであるという社会問題にも迫っています。
しかし、ユーゴ―が本当に書きたかったことは、もっと別のところにあると思います。

刑務所を出たジャン・バルジャンは、仕事にもつけず人としてまともに扱ってもらえないことで心が荒んでいました。ミリエル神父の教会で食事をいただき、宿を貸してもらったのに銀の食器を盗んでしまいます。

神父は、捕えられたジャン・バルジャンに「この食器はあなたにあげたものだ。燭台もあげようと思っていたんだ」と言います。
盗みを働いた自分をかばってくれ、人間として扱ってもらえ、さらに贈り物をくれた神父。その神父の行為に感動し、心を入れ替えて生きるようになります。

これは、キリストの愛に触れて、生き方が変えられた者を示しているのではないでしょうか。キリストの愛を知ると、その人の中で変革が起こるのです。

ジャン・バルジャンは、ミリエル神父にしていただいたことを一生忘れませんでした。その証拠に死ぬ前に銀の皿と燭台を持って教会を訪れています。

マドレーヌという名を変えて市長になったとき、ジャベール警部は疑いを抱きます。ジャベールが「ジャン・バルジャンと名乗る者がつかまって、死刑になるところだ。わたしは勘違いしていた」と言ったとき、ジャン・バルジャンは迷います。

このまま黙っていれば、自分は一生市長として安泰に暮らせます。でもひとりの男が代わりに殺されてしまいます。黙っていることはできないと、裁判所に駆け込み、自分の正体を明かしてしまうのです。
その誠実な生き方も、ミリエル神父の愛の行為に感動しているからできたことだと思います。

ジャベールが学生たちにつかまって、ジャン・バルジャンがその命を好きなようにできる立場にあったとき、ジャン・バルジャンのとった行為はすばらしいものでした。彼を逃がし、その命を助けたのです。

ジャベールは敵に命を助けられたのに結局は自殺してしまいます。ジャベールとジャン・バルジャンは、ユダとペテロのようにも思います。

同じように他者から愛を受けたのに、一方は愛を与える人になり、一方は破滅してしまうのです。その違いは何なのでしょう……。

ジャベールは法律を守っている人が正しい生き方をしている。法を破った人は裁きを受けなければならないという信条で生きていました。でも、法律さえ守っていれば正しい生き方といえるのだろうか……神に喜ばれる生き方といえるのだろうか……もしかして、ジャン・バルジャンの生き方の方が神の前に正しいのではないか……と煩悶しながら耐えがたくなって死を選んだのだろうと想像しました。
ジャベールも新しく生まれ変わることが可能だったのに……と残念です。

原作を読むと、映画では省略されていたところがたくさんあることに気づきます。原作では、ナポレオンのことについてかなり長く書いています。
また、修道院から脱出するとき棺桶に入ったことや、マリウスとコゼットの情感あふれる場面、迷路のようになっている下水道のことなど……ユーゴ―さんの筆力はすごいです。

映画に感動した方でまだ原作を読まれていない方にぜひ原作を読んでいただきたいなあと思いました。



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